デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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ここからメインヒロインのターン。きょうぞうちゃん無双と参りましょう


第四十話『歌姫の過去へ』

 

「……思ったより元気そうですね」

 

 マンションの一室に入り、まず一言目に白い少女は思ったままの感想を述べた。渋面こそ作ってはいるが、比較的落ち着いた士道がテレビ中継を真剣に眺めていた。

 

「っ! ……お前か」

 

「……ああ、申し訳ありません。そういう反応は久しいですね」

 

 少女が入ってきた事に気づかなかったのか、士道が驚きの表情でびっくりさせるなと言いたげな声を発する。物音すら立てなかったこちらが悪いのだが、このパターンで驚かれるのは久しぶり(・・・・)なので少々と微笑ましく思えた。

 

「久しいって……」

 

「はい。昔はよく狂三も驚いたリアクションを――――――」

 

「余計な事は言わなくてよろしいですわ」

 

 少女の言葉を遮るように後ろから狂三が現れる。半目で少女を睨んでいるような、少し恥ずかしそうな表情のようだった。士道としては余計な事(・・・・)が割と気になって仕方がないのだが、それよりも戻ってきた狂三に聞かねばならない事が士道にはあった。

 

「狂三、十香は!?」

 

「落ち着いてくださいまし。焦りは禁物。思考を鈍らせ、間違った判断を促しますわ」

 

「うっ……」

 

 勢いよく立ち上がったところを狂三が指を士道の唇に当て、冷静な言葉で制する。狂三に通された部屋でとにかく気を落ち着けるように、とは言われたがやはり何も出来ない無力感と焦りはどうにもならない。

 状況はそれほどまでに切迫していた。士道を狙う美九と彼女の〝声〟に囚われた四糸乃、耶倶矢、夕弦。何度呼びかけても連絡が取れない琴里。DEMインダストリーに拐われた十香。

 四面楚歌。何をするにしても時間……そして、力が足りない。

 

「分かっちゃいるけど……!!」

 

「お気持ちは察しますわ。ですが士道さんが冷静にならねば、救える方も救えませんわよ」

 

「っ」

 

 力が足りない。あの場において、五河士道は何も出来なかった。無力であった。後悔はある。

 だが――――――そこで止まってしまっては終わりだ。皆を救う、たとえ希望が僅かしかなくても諦めるつもりはない。諦めないために、冷静さを捨てるな……そう、狂三は言っているのだ。

 

「悪い……」

 

「いいえ。大切な方の安否に冷静さを欠くのは当然のことですもの。士道さんなら尚更でしょう――――――少し、妬けてしまいますわね」

 

「え……?」

 

「何でもありませんわ。では士道さん、状況の整理と参りましょう」

 

 士道が聴き逃した言葉を誤魔化すように肩を竦め、士道の対面に座った狂三が状況の整理を始める。

 

「まずは十香さんの行方ですけれど、こちらは今『わたくし』たちが捜索中ですわ。十香さんはDEMインダストリーとしても貴重な存在。すぐに殺される、などという事はないと思われますわ。気休め程度ですが、ご安心くださいませ」

 

「そう、か……ありがとな、気を使ってくれて」

 

「士道さんが十香さんの事ばかり気にかけて、他の事に集中出来なくなっては困りますもの」

 

「……そんなこと言って、実は自分も友達の事が心配だったりするんじゃないんですか?」

 

「あなたは黙っていてくださいまし……っ!!」

 

 思わずといった様子で狂三の後ろに控える少女へ声を上げた彼女が、ハッとした表情になったと思えば、コホンとわざとらしく咳払いをして向き直る。少し頬も赤くなった狂三の姿に、士道はこんな状況でも微笑ましさを隠せず笑ってしまう。

 

「ははは……やっぱり、二人は仲良いんだな」

 

「……話を続けますわよ。次に美九さん。こちらは士道さんも知っての通り、支配領域を拡大しながらあなた様を血眼になって探しておられる様子ですわ」

 

「ああ……」

 

 今、天宮市で起こっているあらゆる人を巻き込んだ大暴動。狂三が席を外している間に、士道も狂三たちが所有しているらしい隠れ家の一つで、出来うる限り情報を集めていたが……テレビ越しで明らかに人の数が増えていく様子に顔を青くしたものだ。スピーカー越しですら効果があるのか、警官隊さえ列に呑み込まれた時は精霊ってやつはなんでもありだなと天を仰いでしまった。

 

 この大暴動の原因、及び目的が五河士織……もとい、五河士道を探すことなど誰が想像出来るというのだろう。

 

「この場合、騒動の大元である美九さんをどうにかする方が先ですわね。規模が膨らみ過ぎては、わたくしも強硬策(・・・)を取らざるを得ませんもの。それは士道さんも望むところではないでしょう?」

 

「当たり前だろ……! お前にそんな事させるわけにいくかよ!!」

 

 冗談めかして銃を撃つ仕草をする狂三に、慌てて士道が頷く。強硬策(・・・)というと嫌な考えしか浮かんでこない。美九の〝声〟は確かに強力だが、狂三ほどの精霊なら()れてしまうだろう。そんな事、狂三にさせる訳にはいかない。

 

「ふふっ、お優しい士道さん。しかし、強引な手段で約束を破られたと言うのに、まだ美九さんを慮っていますのね」

 

「……まあ、最悪レベルで嫌われてるだろうけどな」

 

 何せ、美九が〈破軍歌姫(ガブリエル)〉を使用したあの後、説明するのも恥ずかしくなるやり方で士道が男であると完全にバレてしまったのだ。ようやく士道の格好に戻れたのは良いが、間違いなく好感度は過去最低だ。

 騙していたことは事実だが、それならば尚更士道が美九を何とかしなければならない。

 

「そうですわねぇ……士織さんはもう通用しませんし、説得という手段を取るとなれば少々と骨ですわね。もう少し、最低限あの方の情報が欲しいところですわ。えぇ、えぇ、そうなると――――――士道さん、確かあなた様は美九さんのご自宅に招かれた経験がありますわね?」

 

「あ、ああ……この間の一回だけな。それがどうしたんだ?」

 

 士道を置いてけぼりにして思考する狂三に、唐突な問いを投げかけられたことに戸惑いながらも声を返す。

 狂三の言う通り士織モードの時に一度、士道は美九の自宅に招かれた事がある。その時に彼女の異常すぎる価値観を知り、勝負を行うことになったのだが……。流石に、この状況で美九をどうにか出来る手段と関係があるとは考えられなかった。

 

「では、美九さんのご自宅へ案内してくださいまし。わたくしに少し考えがありますわ」

 

「本当か……!?」

 

「えぇ、虚言を吐くつもりはありませんもの。時は有限、これより先は動きながら話すことにいたしましょう――――――わたくしを信じてくださるなら、ですが」

 

「んなもん当たり前だろ。今更だけど……頼む、十香を助けるために力を貸してくれ、狂三」

 

 一瞬の迷いもなかった。おどけるように問いかけた狂三に、士道は即座に信頼の言葉と、そして拳を強く握りしめ望みを言う。十香を助け、美九を止める。それを成す為には、士道の力だけでは届かない。

 狂三との勝負を考えれば、弱みを見せる事になるのかもしれない……今更だ、十香に比べれば自分のプライドなど塵一つの価値もありはしない。

 

 優しげに微笑を浮かべた狂三が、立ち上がり優雅な仕草でスカートを摘み上げ膝を屈める。

 

 

「ええ。士道さんのためなら、喜んで。さあ――――――わたくしたちの戦争(デート)を始めましょう」

 

「そうだな。それで、全部綺麗に終わらせて――――――明日、もう一度デートしよう」

 

 

戦争(デート)をして、デートする。結局、今の士道に出来るのはそれだけだ。それを成すために……美九を止め、DEM社から必ず十香を取り戻す。狂三と、共に。

 

「きひひひひ! では、一日早いデートと参りましょう……その前に、琴里さんとの連絡はまだ取れませんの?」

 

「……ああ。やっぱりダメだ」

 

 一応、今一度インカムを叩いては見たが、雑音しか聞こえて来ず、いつものような返事が返って来る気配はない。完全に音信不通だった。

 

「では、そのインカムはこの子に預けてくださいまし。美九さんの元へ向かうとなれば、万が一にも通信が繋がった時に面倒な事になりますわ。美九さんの〝声〟が通信越しにでも効果があるのなら、この子が持つのが一番安全ですわ」

 

「……分かった」

 

 白い少女が持つことによって〝声〟を遮る手段があるのかどうか、士道には判断が付かないが確かに狂三の言うことは最もだ。通信不能になったインカムを外し、白い少女の手に渡す。

 

「あなたは『わたくし』と共に十香さんの行方を探ってくださいまし。加えて、わたくしと士道さんのフォローもお任せしますわ。必要だと判断した時は、こちらに」

 

「かしこまりました、我が女王」

 

 物語に登場する従者ような仕草で頭を下げた少女が、士道にも一礼してから部屋を後にした……そう言えば、二人が共に行動しているのは知っていたが彼女たちのやり取りを直接見るのはこれが初めてで、変わった関係に不思議な気持ちになる。

 

「我が女王って……本当に、狂三に仕える騎士みたいだな」

 

「あの子が遊びでそう呼んでいるだけですわ。わたくしをからかいの種にして……困った子でしょう?」

 

「そうか……? 俺にはそうは思えないけど……」

 

 女王様、我が女王……狂三は遊びと言ったが、士道は何となくそうではない気がした。多分、ある一点において強いシンパシーを感じるが故の直感。それに――――――困った子と言いながら、優しく微笑む狂三がよっぽど〝それ〟を分かっている。そんな、気がした。

 

 

 

 

 

「ここで間違いありませんわね?」

 

「間違いない。ここが……美九の家だ」

 

 誘宵美九が通う竜胆寺女学院から徒歩五分とかからぬ場所に、その豪邸(・・)はあった。丁寧に手入れが施された庭園と、西洋館。巨大な門と塀の先は別世界と見間違えるような風景が広がっている。

 アイドルとして活動を行い、学園にまで通う美九は、恐らくこれまで現れたどの精霊よりもこの世界で生活していると見られる。その最たるものの証明が、この豪邸と言えるかもしれない。異常な価値観はともかく、力を持ったまま日常に溶け込んでいるという意味では狂三をも上回っている。

 

「……まあ、分かっちゃいたけど鍵はかかってるよな」

 

「問題ありませんわ。この程度のもの、精霊の膂力なら音も立てずに――――――」

 

「狂三……?」

 

 言いながら門の鍵へ手を伸ばした狂三が、ピタッと動きを止める。何かあったのか、と思い首を傾げる士道にチラッと視線を寄越したかと思えば……手品のように影から彼女の手に収まった短銃の引き金を躊躇いなく引いた。

 

「ちょっ……!」

 

「さあ、さあ、これで先へ進めますわ。あらー玄関にも鍵がありますわー仕方ありませんわー」

 

 けたたましい音を立てて玄関の鍵が影の弾によって撃ち抜かれる。ついでに、セリフが物凄い不自然で棒読みだった。

 

「おいおいおい凄い音出してるぞ!! 音も立てずにって言わなかったか!?」

 

「士道さんの空耳ではありませんの? わたくし、そのようなこと申し上げておりませんし、出来ませんわ。女の子ですもの」

 

「…………ソウダナ」

 

 白々しいにも程がある。最後にはハートマークが付きそうな程きゃるん、としたぶりっ子の様な仕草でのセリフだった。悔しいが、恐ろしく可愛いので誤魔化されてやる事にした。

 一体、数秒の間にどんな心変わりがあったのかと士道は頭をかきながら狂三の後に続いて屋敷の中に入る……乙女心は、まだまだ分かりそうになかった。

 

 

「――――――けど、美九の家に来てどうするんだ? 話すにしたって俺は嫌われすぎてるし……それに、狂三も知っての通り美九の価値観は異常だ」

 

 人を物のように扱い、仲間や絆といった概念を頑なに拒絶する精霊。決して、悪と呼べるような存在ではないと士道は思う。しかし、話をするにしても……。

 

「人を操る〝声〟を持って生まれた精霊だから――――――」

 

「その価値観は先天的なもので、変えるのは難しい。そう、士道さんは仰りたいのですね?」

 

「え……そ、そうだけど」

 

 先を歩く狂三が振り返る。思わず靡くスカートに目を奪われ、顔まで視線を上げた時、彼女は優雅に微笑んで問いかけを投げた。

 

 

「士道さんは……わたくしが、初めからこの価値観を持っていたと思いますか?」

 

「それは……」

 

「もう少し、分かりやすく質問を変えますわ。あなた様は〝最悪の精霊〟が、初めから最悪(・・)であったとお思いになられますか?」

 

「そんなの思ってるわけ――――――っ!!」

 

 

 いつものと変わらない笑みが、少し悲しげに曇っているように見えた士道は条件反射で声を上げて――――――狂三が言いたいことに気づく。

事の始まり(・・・・・)。以前、狂三がそう言っていた事を、士道は一語一句忘れずに覚えていた。彼女を、人を慮る優しい少女を〝悲願〟と呼ばれる道へ誘う〝何か〟があったのだ。

 

「……美九も、同じなのか……?」

 

「さあ? そこまではわたくしにも分かりかねますわ。原因は無く先天的なもの、と断言するには違和感があると思っただけですもの」

 

「それを探るために、ここに来たって事か」

 

「ご理解いただけたようでなによりですわ」

 

「……でも何か見つけられたとして、そんなに詳しい事が分かるか?」

 

「そこはわたくしにお任せ下さいませ。方法は――――――後のお楽しみ、ですわ」

 

 パチン、と華麗にウィンクを決めて再び廊下を進み始める狂三に士道は我に返って慌てて着いて行く……我に返って、というのはもちろん彼女の可憐な姿に見とれてしまったからである。こんな時だと言うのに、自分ばかり役得な気がしてちょっと複雑な気持ちになった士道であった。

 

 

 

 

「士道さん、見てくださいまし! 凄いサイズですわよ。わたくしの顔が入ってしまいそうですわ」

 

「なんでそうなるのかな!?」

 

 さっきまでの真面目な時間はなんだったのだと問いかけたくなる。

 狂三と共に美九の寝室まで辿り着いた士道、彼女の過去(・・)に繋がりそうなものを見つけたいという狂三の言葉に従い、部屋の中を探っていたのだが……声を上げた狂三が淡い色のブラジャーを一枚摘んで両手で広げていた。

 精霊を救う使命を持つ男子高校生、五河士道も男の子である。そういう〝アイテム〟に興味がない、とは言えないお年頃だった……狂三が持っているから、という点は否定出来ないところではあるが。しかし、今はそんな状況ではないと顔を赤くしながらも、狂三へ苦言を呈する。

 

「……今は遊んでる場合じゃないだろ」

 

「あら、出来る時に肩の力を抜いていかないと、これから大変ですわよ」

 

「他にやり方あるよな!? てか、こういう(・・・・)ネタは前にお互い痛い目みただろ……っ!?」

 

「うふふっ、なんの話ですの? わたくし照れてなどいませんし、淑女というものは日々成長するものですわ」

 

「なん…………だと」

 

 あんまり成長が嬉しいと思えない部分が成長していた。というか、未だにあの時の下着騒動での照れを認めていないことが、士道にとって何気に衝撃だった。強情というかここまで来ると負けず嫌いが筋金入りと言わざるを得ない。そんな所もまた、頭がおかしくなるくらい可愛いと思ったりするのだが。

 

「さあさあ、肩の力を抜いて士道さんも着けてみませんこと? いいえ、士織さん?」

 

「ぐ……まだ引っ張るつもりかよ……」

 

 出来れば、早急に頭の中から消して欲しいネタだった。消そうと思って消せるのであれば苦労はしないが。

 

「別に減るものではありませんし、良いではありませんの。それに士織さんなら、わたくしをデレさせる事が出来るかもしれませんわよ」

 

「減るわ!! 主に俺の時間と尊厳が!! あと男としてのプライドが!!!!」

 

 最後が特に重要だと叫ぶ。最終的に狂三をデレさせるのが自分の女装姿とか嫌すぎる。デレさせる事が出来たとしても、何か凄く大切なものを失ってしまいそうな気がしてならない。

 

「つれないですわねぇ……少しで良いんですのよ? 可愛い可愛い士織さんのお顔が恥辱に震え、わたくしの物になると思うと心が踊る、なんてこれっぽっちも考えていませんわ」

 

「考えてるよね!? それ考えてる表情してるよね!? 士織ちゃんになにするつもりっ!?」

 

 狂三に迫られているというのに、全く嬉しくなかった。ある意味、初めて彼女に対して恐怖の感情を抱いてしまっていた気がする。それほどまでに、恍惚な表情で距離を詰める狂三が怖い。凄く怖い。身の危険を感じる。具体的にいえば折紙の奇っ怪な行動に近いものを感じる。

 

「ああ、ああ。怯える士道さんも大変可愛らしいですわ。食べてしまいたいですわぁ」

 

「やめてええええええええっ!!」

 

 捕食者と獲物の関係性が成立していた。普通、悲鳴を上げる方が男であるのはおかしい筈なのだが、精霊と人間の関係を考えれば割と平常運転である。士道限定だが。

 

 と、冗談なのか本気なのか分からなくなってきたやり取りのさ中、床に敷かれていた絨毯に足を取られた狂三がバランスを崩した。

 

「きゃっ……」

 

「狂三!!」

 

 咄嗟に前に出て狂三を受け止めた士道だったが、勢いがついていて受け止めきれず彼女を抱きとめる形で転げてしまった。身体が物にあたって崩れる音を聞きながら、士道は痛みを堪えて顔を上げて狂三の無事を確かめる。

 

 

「大丈夫、か……」

 

「ええ、わたくしの不注意でした……わ……」

 

 

 ――――――近い。

 お互いの髪が触れ、瞳と瞳が見つめ合う。それほどまでに、近い。狂三のしなやかな身体と、士道の硬すぎず、しかし男として意識するには十分な身体が密着しかけていて、互いの鼓動が伝わって来るような感覚。

 

 

『…………』

 

 

 朱に染まった肌は、きっとお互い様だった。二人が共に思考を止める。距離が縮まり――――――狂三の唇が、0の距離に触れた。

 

 

「……っ」

 

「いけませんわ、いけませんわ。まだ、〝これ〟は差し上げられませんわ」

 

「それは……残念」

 

 

 落とされた口付けは、首筋に。艶かしい唇を指でなぞった狂三が妖艶に笑う。士道も、不敵な笑みでそれを受け入れた。

 多分、お互いが強がりだと分かっていた。繋がりたい、受け入れたい。それでも――――――それは、出来ないから。今はこれで、我慢しろということか。

 

 全く、封印の方法がキス(・・)だということに、改めて文句の一つも付けたくなった。神様の悪戯か知らないが、これでは生殺しだなと笑みを交わす二人は、理不尽な神様を呪いたくなってしまった。

 

 

 

「ん……?」

 

 改めて物探しを再開しようと士道と狂三が身体を起こすと、ふと視界に先程までは見つからなかった物が目に入る。豪華な部屋に対してミスマッチと思える、お菓子の入れ物。気になった彼はそれを手に取り蓋を開けて、映り込んだ物に目を丸くした。

 

「宵待月乃……?」

 

 入っていたのはCD。パッケージには美九の姿がある。しかし、記されていた名前が違うのだ。芸名という線も考えたが、彼女は根本的に姿を見せないアイドルだった筈なので、こういったCDが存在していること自体がおかしい事に気づく。

 

「どういう事だ……?」

 

「士道さん。そのCD、聴いてみてはいかがです?」

 

「ん、ああ。そうだな」

 

 狂三の言うことは最もだ。士道としてもこのCDの存在は無性に気になる物なので、手近にあったオーディオコンポで再生を試みた。

 すると、アップテンポの可愛らしい曲が流れ始める。間違いなく美九の声、なのだが……。

 

「これ……」

 

「あら、あら。可愛らしい曲ですわね。ステージで聴く美九さんとは印象が違いますが……わたくし、こちらの方が好みですわ」

 

「狂三もそう思うか?」

 

「士道さんもですの? ふふっ、嬉しいですわ。あなた様と好きな物が一緒だなんて」

 

「俺もだよ。けど、これは一体……」

 

 軽口を叩きながらの感想ではあったが、概ね言葉通りだった。ステージで聴いた美九より少し若い気がする歌声。今の美九が歌う怪しい魅力ではなく、前へと進むひたむきな元気さとも言える不思議な魅力が篭った歌、そう士道は率直に感じた。

 だが、謎は深まった。何が何だかよく分からない、と士道が残されたCDジャケットを一枚一枚見ていき……最奥に秘められていた〝写真〟に、強烈な違和感を覚えた。

 

 

「――――――え?」

 

 

 ありえないのだ。この写真の存在は。誘宵美九が〝精霊〟という存在であるのなら――――――普通に考えれば、そうだろう。

 〝精霊〟は隣界より現れる異界の存在。だが、士道はそれに当てはまらない〝精霊〟を知っている。他ならぬ自分の妹(・・・・)がそうであった。

 

「なるほど……見えて来ましたわね」

 

「これがあるって事は、もしかして美九は……でも、もしそうならなんで……」

 

「それをもう少し詳しく知るために、写真をお借りしますわ――――――〈刻々帝(ザフキエル)〉」

 

 覗き込むように写真を見ていた狂三が、士道の手からそれを摘み、突然自らの〝天使〟を召喚する。十二の数字が刻まれた巨大な文字盤。よく見ると、『IV』と『VI』の数字だけが少しばかり色が違っていた。その二つだけが色が違うことに士道は違和感を覚えたが、それよりも彼女がこれを召喚したということは、これが狂三の言っていた〝方法〟という事か。

 

「……もしかして、〈刻々帝(ザフキエル)〉の弾を使えば、何か分かるのか?」

 

「――――――ご明察。よく見ていますわね」

 

「そりゃあ、狂三が使う天使だし……カッコいい、しな」

 

 後半は小声で躊躇い気味だった。女の子に言う言葉ではないと思ったのと、普段と違う気恥しさがあった。〈刻々帝(ザフキエル)〉を見たのは数える程でしかなかったが、士道の頭には彼女が扱う〝天使〟が忘れられず残っていた。超常的な力と、それを扱う狂三。美しいと思うと同時に、少年心はカッコよさ、というものまで感じてしまっていた……狂三と戦った真那や琴里の事を思うと複雑だし不謹慎ではあるが。

 彼の言葉をどう受けったのかは分からないが、パチクリと目を丸くした狂三は次いで柔らかい微笑みを浮かべた。

 

「うふふ、お褒め頂き光栄ですわ。〈刻々帝(ザフキエル)〉も士道さんに褒められて喜んでいると思いますわ。ありがとうございます」

 

「お、おう……」

 

 まるで、我が子を可愛がるような手付きで〈刻々帝(ザフキエル)〉を撫でる。その仕草に彼女なりの想い、というものが込められているように見えて、士道はなんと返して良いか分からなくなり曖昧に返事をした。少なくとも狂三的には、悪くない褒め方であったようだ。

 

「……で、どうする気なんだ?」

 

「【一〇の弾(ユッド)】を使いますわ。その力は回顧。撃ち抜いた対象が有する過去の記憶を、わたくしに伝えてくれる弾。全て、とは言わずとも断片的には美九さんの事が分かるはずですわ」

 

「そういう事か……頼む、狂三」

 

「任せてくださいまし。では――――――」

 

 狂三の手に収まった短銃へ、彼女の宣言通り『Ⅹ』の数字から影が滲み銃口へ吸い込まれた。重ねた写真とCDを頭に触れさせ、挟むように銃口を向ける……何度見ても気分の良い光景ではないと思うのだが、口を挟んだところでどうにもならないので固唾を呑んで見守る。

 

 

「〈刻々帝(ザフキエル)〉――――【一〇の弾(ユッド)】」

 

 

 引き金が引かれた。次の瞬間――――――

 

 

「…………は?」

 

 

士道の見る風景が変わる(・・・・・・・・・・・)。奇妙な感覚だった。自分のものであるのに自分のものではない。そう、言うなれば〝夢〟に近い感覚。それでいて士道が疑問を持つ事が出来たのは、隣に見知った人物がいたからに他ならない。

 

 

「士道さん……っ!?」

 

「狂三!? これって……っ!!」

 

 

 視界が切り替わる。そして二人は――――――過去の扉を、開いた。

 

 

 






なんかちょっとだけ謎が判明したと思ったら謎が増えてたみたいな回。二人旅は原作より距離が近くて同じイベントでも距離感の違いが出てる……といいなぁ。鍵を壊すところとか何を気にしたんでしょうね(棒)

全体の物語的には現在中盤くらい。この章でちょっとは判明したりする事があるんじゃないかなぁと思います。感想、評価などなどお待ちしておりますー。次回をお楽しみに!
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