デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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二人の戦争の裏で進行するもの。どこまでが建前で、どこまでが本当なのでしょうね?


第四十三話『白と焔の語らい』

 

 

「なら……はい。士道さんなら、そうすると思います。……一瞬の躊躇いもなく、十香さんを助けると思います。たとえ……それで、自分が……死んでしまうとしても」

 

「かか、まあ、士道であればそうするであろうな。賭けてもよいぞ。あの馬鹿は、己が身を顧みず死地に足を踏み入れる。それは我や夕弦のためであってもだ」

 

「肯定。悪い言い方をすれば、彼はどうかしています。きっと十香さんのためとあらば、何を捨ててでもそれを成そうとするでしょう」

 

 

 十香を助けるために士道が命をかけるかどうかの問いかけ、その答え。

 三者共に全く同じ意見だった。信じ難い、信じられないが……あの男は本気で、囚われた精霊一人のために命をかけようとしている。〈破軍歌姫(ガブリエル)〉によって美九に忠実になった少女たちは、彼女が命じた事に嘘はつけない。

 

 

『十香が大切だからだ。それ以外に、理由なんていらない』

 

「……なんですか、それ……!!」

 

 

 士道の言葉が頭にこびり付いて、離れない。大切だから? そんなもの、人間が並べる綺麗事でしかない。人は勝手な生き物だ、自分の事しか考えない愚かな生き物なのだ。そうでなくてはいけないのだ(・・・・・・・・・・・・・)

 

 

『わたくし、心を捧げるならこの世界でただ一人、愛しい殿方と決めておりますの。しかし既に――――――その席の主は決まっていますわ』

 

 

 愛など、無価値なものの筈なのに。代わりを用意してやればあっさり鞍替えしてしまう。その程度のくだらない(・・・・・)物でしかない。

 

「あの精霊さん……狂三さんと士道さんの関係は、知ってる人はいますかぁ?」

 

 興味本位だ。最初は遠目から、次に見た時は正面から堂々と現れた謎の精霊。恐ろしい力と重圧を持ちながら、士道とただならぬ関係を見せた彼女は警戒しなければならない。少しでも情報が欲しい、それだけだ。あまり期待はしていなかったが、同じ精霊の繋がりからか四糸乃、耶倶矢、夕弦が再び答えてくれた。

 

「あ、の……士道さんは、狂三さんの事をとっても大好きで……狂三さんも、きっと……同じだと、思います」

 

「うむ。我もあまり深くは知らぬが、盟約を交わした仲だと聞いたことがある。それほど強い繋がりを持つ者たちよ。我ら颶風の御子ほどではないがな!!」

 

「首肯。離れていたかと思えば、気づけば共にいる。そのように感じます」

 

「…………」

 

 唇を噛み締め、渋面を浮かべる。わけがわからない。あれだけの力を持つ精霊が、人間と、それも男なんて劣等生物と通じあっている? 好きあっている? 理解不能だ、不条理だ、信頼し合う自分たちに酔っているだけだ。

 苛立ちを抑えきれない。どれだけ綺麗な子達を見ても、どんなに美味しい料理を口にしても変わらない。無価値だと分かっているはずの事が、何故か苛立ちを加速させる。

 

 信じることを止めた歌姫に、人と精霊の信頼など信じられるはずがない。だからこそ――――――美九は、酷く彼らが気にかかってしまったのだろう。それを自覚していない彼女を救えるものは、この孤独な城の傍にいるはずもなかった。

 

 

 

 

「……ふむ」

 

 白い少女は待っていた。巨大なビル群を越え、広大な星空の下にいるであろう者からの連絡を。想像よりかかっているようだが、〝アレ〟が彼女の身を〝声〟から守ったのならもう連絡が入ってもおかしくない筈だ。

 ノイズ音が響き、少女は眉を上げる。五河士道のインカム(・・・・・・・・・)から待ち望んでいた声が届いた。

 

『――――――士道。聞こえる? 聞こえたなら返事をしてちょうだい』

 

「申し訳ありません。五河士道は夜のデート中です。代わりに、私と世間話でもどうです?」

 

『っ……あなた』

 

 通信先で息を呑んだ彼女が、応答した声の主が誰なのかを一瞬で察した。

 

 

「こうして話すのは初めてですね。名前などない身ですので、あなたの好きに呼んでください」

 

『そうね……何度も世話になったのに不思議な気分よ。知ってるとは思うけど、私は五河琴里。初めまして、になるのかしら――――――通りすがりの精霊さん?』

 

「はい。よろしくお願いします、五河琴里。ああ……凄く、綺麗な名前ですね」

 

 お互いがお互いを知り、同じ精霊であり、しかし相見えることはなかった。その二人が今、通信越しで会話をしている。冗談か本気か、その賛辞の言葉を受け止めた琴里が声を返す。

 

『あら、ありがと。煽ててもこっからじゃ何も返せないわよ』

 

「ふふっ、そんなんじゃありませんよ。純粋な私の気持ちです」

 

『そ。うちの士道は強情なお嬢様と一緒、ということかしら?』

 

「ええ。ですから、少し私に付き合って欲しいんですよ」

 

『ふぅん……まあいいわ。あなたのお陰で(・・・・・・・)、私は命拾い出来たんだから、それくらいは付き合うわ』

 

「……一度で気づいたんですか」

 

 渡した目的の一つであったとはいえ、こんなにも早く効果を発揮するのは少女とて想定外だった。琴里が気づくのは時間の問題と思っていたが……と、通信先から含みを持った笑い声が聞こえてきたところで少女は自らの失言に気づいた。

 

「……ん。鎌をかけられてしまいましたか」

 

『ええ。けど、私が助けられたのは鳶一折紙の時もあったから、簡単に引っかかってくれると思ってなかったのだけれど……』

 

「……こういうのは苦手なんですよ。取り繕ったところで、狂三みたいに上手くいきませんね」

 

 複数の意味を持たせた言葉を素直に答えてしまった時点で、少女が何かをしたと自白したようなものだ。知識があろうとそれを活かすだけの技量がなければ意味が無い。そういう意味では、少女は狂三のような立ち振る舞いは出来ない。腹の探り合いは苦手だ。

 

『意外ね。あなた、そういうの得意なタイプだと思ってたわ』

 

「……そう見せてるだけですよ。人より少し、知っている(・・・・・)事が多いだけです」

 

『その口振りだと、私たちの事も大体把握してるんでしょう』

 

「〈ラタトスク〉機関。精霊の討滅ではなく精霊の保護を目的とする唯一の組織。上の方は知りませんけど、現場のあなた方は本気でそれを目指しているのも知っています。何せ、我が女王を前にしても事を成そうとするんですから」

 

『お褒めいただき光栄だわ。そこまで知ってるなら、私の言いたいことも分かるわよね?』

 

「……ええ。是が非でも私の霊力を封印したい……その想いは理解しています、納得もしています。でも、ごめんなさい。私にも私の〝計画〟があるんです。それを成すまでは、この力は無くせない」

 

 五河琴里は本気だ。彼女は本気で、精霊の保護という夢物語に等しい目的を果たそうとしている。その想いと、そのために危険が飛び交う戦争の矢面に立たせてしまっている五河士道への想い、少女にだって理解はできる。理解は出来ても、自らがその救いを受け入れられるかは別の話。少女は、彼らの善意を一方的に拒絶する事しか出来ない。

 

『計画……ね。聞けば、内容を答えてくれるのかしら?』

 

「……どうでしょう。答えられる範囲でなら」

 

『そう。なら単刀直入に聞くわ。あなたの目的はなに?』

 

 答えられる範囲で、と言ったのだが想像以上に直球な質問に少女は苦笑する。炎のように苛烈で真っ直ぐな人……ああ、思わず口が滑ってしまう(・・・・・・・・)ほどに真っ直ぐだ。

 

 

「……さて、あなた達にとっては小さく、くだらない事かもしれません。けど、私にとっては――――――何を犠牲にしても、成し遂げるべき目的です」

 

 

 ただ、その為に少女は事を成そう。誰に理解されようとも思わない。誰に否定されようと構わない。何を支払おうと、何を踏みにじろうと、何を見捨てようとも、少女はその手に刃を握る。五河士道に狂三を救うという目的があるように、時崎狂三に成すべき〝悲願〟があるように――――――少女にも、果たすべき〝計画〟がある。

 

「……私から言えるのは、これだけです」

 

『……あなたに相応の覚悟があるのは理解したわ。狂三についてるのも、その計画のためってことかしら?』

 

「……ん。そう取ってもらって構いません。でも私とあの子の目的は違いますから、狂三の事が知りたかったら五河士道に頼ってください。ある意味、一番狂三に近いのは彼ですから」

 

『そうね――――――あーあ、ほんと悪い女に引っかかってくれちゃったわ』

 

「ふふ、その悪い女が将来の義姉(・・)かもしれませんよ?」

 

 可能性としては高い、というより強すぎるほど両思いなのに、そうならない可能性がまだ残っているややこしい状況の方が改めて驚きではあった。

 冗談めかした少女の言葉を聞いた琴里がゲッ、と心底嫌そうな声を発した。

 

『勘弁してちょうだい……って、あなた狂三側でしょう? 士道が勝つ前提で話していいのかしら』

 

「おや、これは失言でした。どうか、あなたの胸に留めていただけるとありがたい」

 

『否定はしないのね。まるで、士道が勝つ事を望んでる(・・・・・・・・・・・)みたいよ』

 

「……さぁて、ね。私は私の〝計画〟のために、最良の可能性を探りたいだけですよ。全ては――――――我が女王のためにね」

 

 女王が勝つか、少年が勝つか。どちらにせよ……いいや、どちらが勝とうが〝計画〟の到達を目指す事には変わりない。過程がどう変わろうと、どれだけ予想外の事が起ころうが、少女は必ずその結末を手繰り寄せてみせる。それが……白い少女の全てだった。

 

「……思った以上に口が滑ってしまったみたいです。興味本位でしたが、今宵はあなたと話せて光栄でした、五河琴里」

 

『私もよ……まさかと思うけど、本気で私と話がしたかっただけなの?』

 

「はい。それ以外に理由はありませんよ。〝アレ〟があなたの手にあるなら、もう少し早く連絡が来ると思ってたんですけど……」

 

『お陰様で私は無事だったのだけど、生憎と部下が優秀すぎたのよ。通信の復旧に想像以上の時間がかかったわ』

 

「……それは、ご愁傷さまです」

 

 壊すのは直すことより簡単、という事だろう。操られたクルー達にプログラム系統をめちゃくちゃにされて、その復旧をこれまたクルー達が行った事で通信を送るまでに時間がかかったという事らしい。

 ……ちなみに、少女は知る由もないが琴里が暴れ回った事による物理的損害もあったことは、ここに留意しておく。

 

『本当よ。それと――――――礼を言わせてちょうだい。この事だけじゃない。私の力を封印した時の事、士道を助けてくれた事も含めて……感謝してるわ。ありがとう』

 

「……私の目的の為に必要だっただけです。あーもう、そういう律儀なところはそっくりなんですね、あなた達ご兄妹は」

 

 ただ必要だからやっただけ、借りを返しただけ――――――理不尽が、見過ごせなかっだけだ。そんな風に感謝されてはくすぐったくて仕方がない。

 

『最高の賛辞ね。素直に受け取っておくわ……わざわざ士道を介して私に送ってくれた〝これ〟も、あなたの計画の内ってわけ?』

 

「……ん。あなたには盤上から降りてもらっては困りますからね。そうならないための余計な気回しと思ってください」

 

 今頃、見た目はなんの変哲もない〝お守り〟を眺めているのだろうか。その名の通り、本当にお守り程度の力しか持たぬ物ではあるが、それが少しでも彼女の助けになると言うならリスクを冒す価値はある。彼女の存在も既に、自分の〝計画〟に欠かすことの出来ない重要な人物(クイーン)であるのだから。

 

『そう……これは、あなたの〝天使〟の力、と見ていいのかしら。ほんと、とんでもない事できるのね』

 

「ご想像にお任せしますよ。〝それ〟は好きなように扱ってくれて結構です。余計だと思ったら捨てるなりしてください」

 

『ありがたく貰っておくわ。あなたを落とす(・・・)のに好意を突っぱねる必要はないもの』

 

「……あ、やっぱり諦めてくれませんか?」

 

 初めて明確な意思表示を行い、向こうの好意を拒否したつもりだったのだが、この口振りは諦めるつもりは毛頭ないらしい。苦笑気味に問いかける少女に、琴里は不遜なまでの自信で言葉を返す。

 

『当然でしょ。こっちは諦めが悪いのが取り柄なのよ――――――特に士道はね』

 

「……そうでしたね。彼のそういうところは、私も嫌いではありません」

 

 五河士道という男の筋金入りのお人好し(・・・・)が、少女は実のところ嫌いではない。自らが傷つくことさえ厭わない彼の姿勢は、他者を引き寄せ、救う事が出来る言葉を作り出す。

 並大抵の精神では成し得ない士道の姿を見たからこそ、少女は士道に可能性を賭けてみたいと思った。記憶にある〝彼〟ではなく、誰でもない自分が見た五河士道(・・・・)を――――――女王に見定められ、魅入られた少年に。

 

「……さあ、名残惜しさはありますが、そろそろこの通信を持ち主に返そうと思います。そちらとしても無事を確かめたいでしょう?」

 

『ああ、その事なら真那が新しいインカム、を…………』

 

 言葉の途中でその意味に気づいたのだろう。琴里の言葉が不自然に止まり、二人の間に数秒の沈黙が流れた。

 

「…………彼女が、ですか」

 

『……ええ。真那が、ね』

 

「……彼と狂三の事情、知りませんよね?」

 

『……そうね。どう言うべきかこっちも迷ってたから。あと、さっきは狂三の分身体と揉めてたわね』

 

 DEM社の非人道的なやり方を知り、〈ラタトスク〉が保護していた真那が、屋上の一件以降の事情を詳しく知っている筈もなく、そもそも説明が出来るとは思えない。狂三の分身体というのは、間違いなく天宮スクエア上空にいた彼女達のことで、それは殺し合いになる前に分身体が引いたはずだが……さて、詳しく事情を知らない彼女が狂三と士道が共に居た時、どう思うかと言えば――――――兄をまた誑かした最悪の精霊、だろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「ここに……十香が」

 

「ここから先一帯は、DEMの関連施設ばかり……見えるビル群は、全て系列会社の社屋や事務所、研究施設などですわ。あの子が言っていた第一社屋は、この中央にある大きな建物ですわね」

 

「あそこか……っ!!」

 

 夜も更け、人通りの少ないビルのオフィス街の一角。いくつも聳え立つ高層ビルに、狂三の言うより一層大きなビルを士道は睨み付けた。あの中に十香が囚われている。狂三の助力を得る事で、ようやく救出の入口まで来る事が出来た。ここからが本番だが……〝敵〟の本拠地、一筋縄ではいかないだろう。そう、目的すら不明瞭な〝敵〟の存在というのは驚異的だ。恐れはないが、気になる事ではあった。

 

「あいつら、十香をどうするつもりなんだ……狂三は知ってるのか? DEMの奴らが何をやろうとしているのかを」

 

「さァて、わたくしも士道さんと知っている事に差はありませんわ。精霊を狙う理由が知りたければ、発案者に聞く他ありませんわね。私利私欲……自らの贅のため、DEM社の繁栄のため、様々な理由は予想出来ますけれど――――――それなら、もう少しスマートなやり方をなさると思いますわ」

 

 精霊を捕らえようとする理由は、狙うものによって様々だろう。その力を直接利用しようとするものや、その力で権力の繁栄を願うもの。多々ある中で、DEMインダストリーはそういった目的からかけ離れているように思えてならない。世界有数の大企業が取るにしては、やり方が強引すぎる。前回にしても、今回にしても現地の組織に正面から喧嘩を売るやり方を取っているのだから、当然反発はそれ相応に湧き出てくる筈である。

 反発を全て抑え込める不遜な考えがあるのか、それすらも楽しむ狂人か――――――或いは、後先など考える必要がない(・・・・・・・・・・・・)目的なのか、だ。

 

 

「もしかすると、必要なのは精霊そのものではなく――――――その〝中身〟なのかもしれませんわね」

 

「〝中身〟……? それって一体――――――」

 

 

 思案する狂三の不穏な一言を耳にして、訝しげな表情で聞き返そうと足を止めた士道が奇妙な感覚に襲われる。ちょうど、道路を抜けDEMの敷地内に入ったその瞬間、微かにだが覚えのある感覚を肌に感じた。全身を見えない何かで撫でられたような感じ、これは以前にも確かに――――――数瞬後、そんな士道の思考を遮るように甲高い爆音が鳴り響いた。

 

「空間震警報……っ!? まさか……!!」

 

「いえ、精霊がこちら側(・・・・)に来る感覚はありませんわ。かと言って、誤作動というわけでもありませんわね。わたくしたちを感知したタイミングですもの」

 

 避難を始める人々、地下シェルターへの入口も即座に開いていた。流石は空間震対策に関しては最先端を行く街……鮮やかな流れだ。これならさぞ、目撃者は少なくて済む(・・・・・・・・・・)だろう

 

「やっぱりさっきの……じゃあ、これは……」

 

「そうですわねぇ。考えられる可能性はそう多くありませんわ。例えば――――――」

 

 ぐるり、士道の視界が反転する。何度も経験したそれは、白い少女のものと違い狂三に抱き抱えられた状態のもので――――――気づけば、二人は空を舞っていた。

 

「――――――目撃者を極力減らして邪魔者を排除するつもり、かもしれませんわね」

 

「っ……やる事が過激すぎるだろ……!!」

 

 少なくとも一企業のやる事ではないと、二人が立っていた場所に出来た光弾による大穴(・・・・・・・)を見下ろし、狂三に抱えられた士道が驚愕の声を上げた。

 

「〈バンダースナッチ〉……っ!?」

 

「『わたくし』たち!!」

 

 士道が以前目撃した人形兵が、その以前目撃した数を何十倍にも増やして今目の前に現れた。避難中の人間がいるにも関わらず、問答無用でCR-ユニットの武装を使い攻撃を仕掛けてくる。それを士道を抱き上げたまま華麗に避けた狂三が、中に影を作り出し己の分身を解き放つ。その数は〈バンダースナッチ〉に負けず百は下らない。

 

 意思を持たない人形兵と『狂三』では勝負にならない。抵抗はしているが、あっという間に人形に取り付いて四肢を、武装を砕いていく。つい数分前までの穏やかな夜は、金属と影が飛び散る戦場を化した。

 先行した〈バンダースナッチ〉は撃墜――――――しかし、続く光景に士道は目を見開いた。

 

「狂三、あれは!!」

 

「分かっていますわ。後続隊ですわね」

 

 士道の声に答えながらも、狂三は油断なく前方に広がる光景を睨み付ける。建物の入口だけではない、可変した壁面から大量の〈バンダースナッチ〉と魔術師がズラリと並んでいる。数は彼の素人目で見ても五百以上と、一企業が成す軍勢としては想像を遥かに上回る戦力であった。

 常人なら恐れ戦くこの圧巻の光景。だが、生憎と時崎狂三という精霊は常人ではなく狂人(・・)だった。圧倒的な戦力を前に、彼女は唇の端を吊り上げ笑う。狂気的だ、正気ではない――――――故に、それさえも美しいと少年は思ってしまった。

 

 

「数で『わたくし』に挑む。ええ、ええ。いいですわ、いいですわァ。そのような不遜な考えを――――――叩き潰して差し上げましょう」

 

 

 敵の陣地であろうと、侵略し、略奪し、染め上げる。どのような場所であれ、〝影〟があるのならそれは時崎狂三の領域(・・)。歌のように激しく、歌とは真逆の暴虐なる美しさ――――――――

 

 

 

「さあ、ここは――――――わたくしたちの戦場(ステージ)ですわ」

 

 

 

 悪夢が生み出す、狂気に満ちた演奏会(ライブ)が幕を開けた。

 







少女の目的、少女の計画。それは案外、とても小さく、とてもくだらないことかもしれない。けど、少女とっては何よりも大切なものかもしれませんね。白い少女がどういう存在なのか、みなさんは予想出来ますかね?伝わり始めていれば嬉しいです。
他の精霊と違って最初から精霊保護という目的を知って理解を示しているんですよ少女は。しかし攻略難易度で言えば狂三と同じくらい高いです……と、言うより狂三次第になると言えます。メインヒロイン前提のサブヒロイン、さて少女のどこまでが本当なのかな?

積み重なった狂三の中にある狂気。そんな狂人的な部分すら士道を魅了してしまう。覚悟決まって肝が座りすぎですねこの士道くん。きょうぞうちゃんも前回分身体コントしたとは思えない凛々しさでry 前回は割と自分でも気に入った回で反応も良くて嬉しいです。皆様ありがとうございます!

それではまた次回。色々と展開していきながら進んでいくこの章。感想、評価などなどお待ちしておりますー。次回をお楽しみに!

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