デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

46 / 223
祈りを胸に、少年は万象を切り裂く剣を取る。主役が突き進む中、少し謎が深まる回。


第四十五話『胸に祈りを。その手に剣を』

 

 

 第一社屋正面入口。真那の手によってひしゃげたシャッターが、士道の目の前で更に歪んだかと思うと――――――凄まじい光を放ち爆発を起こした。

 

「な……っ!? 真那!!」

 

「……はいはい、大丈夫でいやがりますよ」

 

 爆発が起こるより早く、真那の随意領域によって突き飛ばされる形で助けられた士道が慌てて顔を上げると、黒煙の中から無傷の真那が姿を現す。一瞬、ホッと安堵しそうになった士道だが、彼女の表情を見て気を引き締める。戦士の……そして、怒り(・・)を含んだ表情。

 十香へ続く道を塞ぐように現れたシルエットが煙を振り払い、二人の前に姿を見せた。士道は見覚えがあるその装備(・・)に目を見開いた。

 

「――――――〈ホワイト・リコリス〉!?」

 

「……よくご存じでいやがりますね。ですが少しちげーです。DW‐029R〈スカーレット・リコリス〉。実験用に作られた〈ホワイト・リコリス〉の姉妹機です」

 

 忘れられるはずも無い。数ヶ月前、士道はこの機体を目撃したことがあった。真那の言う通り、折紙が使っていた機体と違い白ではなくその名の通り赤一色に染められていた。

 使えもしない欠陥機を二機も用意していた贅沢な組織を恨むべきか、とにかく悪夢の機体が今一度彼の前に立ち塞がっていることは確か。

 

 

「イメチェンですか? 昼に見たときから随分と印象が変わったじゃねーですか。小憎たらしい顔が台無しですよ――――――ジェシカ」

 

「あはハ!! マナ。マナ。タカミヤ・マナァァァ? どウ? どォウ? 私の〈リコリス〉ハ!! これで私は負けないワ。あなたにハ。あなたなんかにハ……!!」

 

 

 ――――――もう、正気じゃない。人としての何かが、強制的にぶち壊された(・・・・・・・・・・)。士道は彼女を見てそのように感じ取った。

 全身を包帯に巻かれ、満身創痍の肉体を押して彼女は笑っていた。歪な〝最強〟の力を手にして、崇宮真那を目の前にしてジェシカは取り憑かれたように笑っていたのだ。

 

「ジェシカ!! 今すぐ〈リコリス〉を停止させやがりなさい!! わかっていやがるでしょう!? それはあなたに扱えるような代物じゃねーです!!」

 

「あはははははハ! 何を言っているノ? 今はとてもいい気分ヨ。だって――――――ようやく……あなたを、殺せるンですものォ」

 

「く……!!」

 

 瞬間、凄まじい爆音と衝撃波を撒き散らし、青と赤が激突する。その衝撃に士道が身体を起こせない間に、二人の戦いの舞台は空へと移り変わっていた。人の身では目で追うことさえ叶わない流星が如き高速戦闘。

 僅かな逡巡もなく、士道はビルの入口に向かって駆け出した。

 

『士道、危険よ!! 単独で動くんじゃないわ!! 真那を待ちなさい!!』

 

「真那を待ってちゃ警備を固められる!! 俺が真那の足を引っ張るわけには行かないし、このまま外にいるより突入する方がずっと良い!!」

 

『っ……待って!! 今こっちで宛を――――――』

 

 士道がめちゃくちゃになった入口に足を踏み入れた瞬間、インカムから聞こえていた声がノイズと共に途切れる。やはり、聞いていた通りビルの中での通信は不可能。

 つまりここからは士道一人で挑まねばならない――――――構うものかと、彼は足を止めずに階段を一気に駆け上がる。令音の言葉が正しいなら、この施設のどこかに精霊を隔離できる場所があるはず。それを見つけることが出来れば、そこに十香はいる。

 

 十香を救う。士道を庇い、捕まってしまった少女を。彼女の笑顔を、こんな組織に奪われてなるものか。その一心で彼は何十階と連なるビルの内部を走り抜けていく。

 

「――――――侵入者!?」

 

「おい貴様、何者だ!?」

 

「くそ……っ!!」

 

 登った階数をとっくに数えるのを止めた士道の視界の先に、見たことの無いワイヤリングスーツを着た二人組の男女がいた。装備こそ軽装だが、間違いなく魔術師。彼は迷いなく続く廊下を二人から逃れるように走った。同時に、銃声が響き渡り魔力の光を宿した弾丸が士道の身体を掠めるように幾つも壁や地面に突き刺さっていく。

 

「止まれ!! 止まらねば撃つ!!」

 

「撃ってから言うんじゃねぇよ……っ!!」

 

 捕まる。がむしゃらに駆け抜けながら、僅かに残された冷静な分析力が士道にそう語りかけていた。魔術師は間違いなく随意領域を展開している。その領域に入ってしまえば、普通の人間では逃れる事は出来ない。あと数秒、当然の未来が待ち受けている。そうなれば――――――十香は、救えない。

 

「んなこと……させ、るかっ!!」

 

 何か、何か手はないのか。息を絶え絶えにしながら思考を巡らせる。無力な五河士道では突き抜けることは不可能。無力では誰も守れない。力がなければ、誰も救えない。

 

 必要なのだ――――――壊すための力が。

 

 

『どうか――――――正しい心でお使いくださいまし』

 

「ああ――――――違うよな」

 

 

 違う。それ(・・)だけでは、ダメだ。壊すだけではない。それでは倒す事は出来ても、救う事は出来ない。呑まれるな(・・・・・)

 胸に手を当て、祈る。五河士道が歩んだ道の中に、〝力〟はある。壊すためだけじゃない、守るための力。大切な人を絶対に救う。誰一人だって取りこぼしたくない。だから、それを成し遂げられるだけの力が欲しい。

 

 自らが正しいと思うその祈りを胸に、願いを言葉に――――――彼は〝奇跡〟を謳う。

 

 

「俺に力を――――――貸してくれっ!!!!」

 

 

 瞬間――――――光が、駆けた。

 

「な、なな……っ!?」

 

「て、天、使……?」

 

 思わず足だけではなく攻撃の手さえ止めた魔術師二人の狼狽した声が聞こえる。対して、士道の心は一つとして揺らぐことなく燃え上がっていた。見なくとも分かる。その〝奇跡〟を知っている。その〝天使〟を識っている。

 彼は〝剣〟がどういうもので、どういう力を持つかを分かっていた。一縷の迷いさえ見せず、士道が振り向きざまに〝剣〟の柄を握り、高々にかの真名を謳う。

 

 

 

「――――――〈鏖殺公(サンダルフォン)〉!!!!」

 

 

 

 振りかぶる。この黄金の輝きを宿す巨大な剣は、本来ならば夜刀神十香が持つ究極の神器。彼女と比べれば士道は素人同然。いや、比べることすらおこがましい程の差がある。故に、ただ振るうだけでは意味が無い。

 

 

『その真っ直ぐな願いを〝天使〟に込めてくださいまし。必ず、〈鏖殺公(サンダルフォン)〉はあなた様の想いに答えてくれますわ』

 

 

 少女の教えを反復させる。〝天使〟とは心を映し出す水晶。なればこそ、今込めるものは一つだけで良い。それ以外のことなど不要。〈鏖殺公(サンダルフォン)〉が光り輝き、道を照らす。

 

 十香を助けたいという願い――――――祈りを、心に。

 

 

「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

 力強い咆哮と共に〈鏖殺公(サンダルフォン)〉が振り抜かれる。光がより一層の輝きを放ち、それは飛翔する斬撃となって魔術師の一人を随意領域ごと吹き飛ばした。

 

「ぐあ……っ!?」

 

 一人は苦悶の声を上げ壁をぶち抜いてそのままビルの外へ排除される。が、斬撃から逃れたもう一人の魔術師がレーザーエッジを抜いて士道へ肉薄する。

 咄嗟の判断で〈鏖殺公(サンダルフォン)〉を構えレーザーエッジを防ぐ……しかし、やはり技量は正規の訓練を積んだ魔術師の方が遥かに上だった。隙を見せた士道の脇腹に、魔力が篭った大振りのナイフが勢いよく突き刺さった。

 

「うが……ッ!?」

 

 刺されただけでも凄まじい痛みが走った上に、魔術師は更に抉るようにナイフを突き立て続ける。一瞬、その痛みで視界が白く染まり――――――それでもなお、士道は剣を振り上げその柄を魔術師の頭部に打ち付けた。

 

「邪魔――――――すんじゃねぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

「なっ!?」

 

 柄とはいえ霊力を纏った一撃には変わりない。随意領域とぶつかり合い激しいスパークを発した後、魔術師の意識を完全に刈り取った。

 

「はっ、ぁ――――――ああああああっ!!」

 

 奥まで刺さったナイフを脂汗を滲ませ息を荒く掴み、僅かに息を整え歯を噛み締めながら一息にそれを引き抜いた。夥しい血が辺りに撒き散らされ、いつ意識を失ってもおかしくない激痛が士道を襲う。

 

 だが――――――五河士道は倒れない。

 

「っ……」

 

 引き抜いたナイフを無造作に投げ出すとほぼ同時、刺傷を焔が這うように燃え上がる。〈灼爛殲鬼(カマエル)〉。琴里の焔による治癒の加護が荒々しく士道の傷を癒す。倒れない、倒れるわけにはいかない。士道が倒れれば、十香の笑顔は失われてしまうのだ。そんな事は、絶対に許さない。

 

「はっ――――あいつとの約束、いきなり破っちまったな……」

 

 自虐のように笑い、焔を灯したまま士道は歩き出す。約束を破られる事を嫌う少女は、自分のこんな姿を見てどう思うだろうか。

 

 

「悪いな、狂三――――――お前の事は想ってるけど、約束は守れそうにねぇや」

 

 

 きっと――――――仕方がないという顔で、少女は笑うのだろう。そんな笑顔を幻想しながら、少年は再び走り出した。

 

 

 

 

 

 一閃。その剣閃の煌めきに遅れること数秒。〈バンダースナッチ〉がようやく切られたことを思い出したかのように動きを止め、真ん中から分断され爆散――――――する刹那、上半身を足場にし白い影が跳躍した。

 

「な……っ!?」

 

「はい失礼」

 

斬り付けられた(・・・・・・・)魔術師は、何が起こったか理解できなかった事だろう。随意領域(テリトリー)という魔術師の絶対領域で何の反応もなく(・・・・・・・)装備だけが斬り裂かれ、ついでと言わんばかりに地上へ蹴り飛ばされたのだから。

 白い少女は蹴り飛ばした反動で二人、三人と同じ要領で魔術師や人形を無力化して行き、数度それを繰り返したところで、近くにいた『狂三』の手を取り、そのままぶら下がって辺りを見渡した。まあ見渡したところで、視界に映るのは魔力光やミサイルの嵐ばかり。せっかくの夜空が台無しだった。

 

「うーん、数ばかりいて面倒ですね。ここまでの規模は珍しいでしょうけど」

 

「きひひひひ!! 権力というのは厄介ですわねぇ。このような事をしても、握り潰すのは容易いのですから」

 

「中身がどんなに歪でも外面が良ければどうにかなりますからね。特に〝アレ〟なんてその極地でしょう」

 

 言いながら、白い少女は一層大きなビルに視線を向ける。今、夜刀神十香が囚われ、五河士道が救出を試みて――――――〝アレ〟が待ち構えているであろう場所を。

 さて、〝アレ〟は五河士道を見てどのような表情を見せるのか。亡霊(・・)を見たと驚愕するか……否、そんな殊勝な生き物ではない。恐らく〝アレ〟は笑う(・・)。道化だと自らをも嘲笑い、楽しむのだろう。そういう生き物なのだ――――――アイザック・ウェストコットは。

 

「ところで、わたくしに頼らずともあなた飛べる筈でしょう?」

 

「……飛べますけど、知っての通り私のは目立つんですよ。ここで飛んだら良い的です」

 

 せっかく目立つことの無い能力を持っているのに、それでは長所を殺すことになる。だから少女は飛ぶのではなく跳ぶ(・・)

 ボヤきにも似た少女の言葉に納得がいったという表情で『狂三』が頷いて言葉を返す。

 

 

「あら、あら。不便ですわねぇ。普通、精霊なら空を飛ぶなど造作もないことでしょうに」

 

「……ええ。だって私は普通から外れた(・・・・・・・)精霊ですから――――――歪で、価値のない物らしいでしょう?」

 

「っ――――――――」

 

 

 『狂三』は思わず手の先を見遣り、見上げる少女と視線を交差させる。そこにはいつものように真っ白な少女と正反対の、暗き深淵を思わせるローブの中しかない。

 道化のように演じ(・・)常に狂三(オリジナル)に付き従う少女は、ごく稀に『狂三』に対してこれ(・・)を見せる。いつものような謙遜? いいや、そうではない。この少女は本当にそう思っている(・・・・・・・)。そしてそれに疑問を抱く事すらしていない。それが、少女の中での自らの真実だとでも言うかのように。

 歪だと、価値がないと、自らを否定(・・)する言葉を躊躇いもなく吐く少女。『狂三』は酷く悲しく、今は怒り(・・)が込み上げた。きっと――――――どこかの少年の影響なのだろう。

 

「あなたは――――――」

 

「……ん。あれ、ASTの方たちじゃないですか?」

 

 何を言うべきだったのか、何を言いたかったのか。狂三より若い『狂三』にはそれさえ分からなかったのかもしれない。結果的に、少女に言葉を告げる未来は訪れず少女が指し示した方向へ彼女は視線を向けた。

 

「あら、本当ですわ。たった今、ようやく出動命令が下されてやる気に満ち溢れてる顔……ではありませんわねぇ」

 

「……素直に不満がある顔と言えないんですか」

 

 隊長と見られる人物……日下部燎子と言ったか。彼女が団員達に指示を飛ばし戦列に参加したのが見えた。その中に、鳶一折紙の姿は見られない。

 

「……残念と思うべきなのか、自分でも分かりませんね」

 

 ポツリ、と自分だけに聞こえるよう呟く少女。冷静に状況を判断し、部下を思いやれる良い上司の下に付けたのは鳶一折紙の幸運と言うべきだろう。彼女は今頃、再び謹慎処分となりベッドの上だろうか。ある意味で安全と言えるが……彼女の場合、そんな上司の気遣いもなんのそので飛び出して来そうではあった。

 

「……いやいや、流石にそれは――――――ん?」

 

 少女の耳元にザザッ、というノイズが入る。正確には、結局返し損ねていた〈フラクシナス〉側と通信できるインカムだ。これが起動した、という事は。

 

「……五河琴里?」

 

『良かった、まだインカム付けてたわね。早速で悪いけど頼みがあるわ!!』

 

 予想通りの人物。〈ラタトスク〉司令官、五河琴里の声がインカムから響く。何やら切羽詰まって焦っているらしく、少女が返事をする合間にもクルーへの指示を飛ばしていた。

 

「……お忙しそうですね。私に何か御用で?」

 

『色々あって士道が一人で突っ込んで行ったわ!! 無茶を承知でお願いするんだけど、あのバカ兄を助けてもらえる!?』

 

「……なるほど、一大事ですね」

 

 色々あっての部分が気になるところではあるが、怒声の後に続けて艦の指示を飛ばす彼女に詳しく事情を聞くというのは憚られる。

 向こうの戦力を考えると、宛はこちらにしかなかったのだろう。大方、こちらに連絡するより先に士道が突っ込んで行ったのだろうが……彼が捕まるとこちらにも不利益しか生まれない事を考えれば、保護すべき〝精霊〟に無理を言っているのを承知の上で彼女がコンタクトを取ったのは実に素早い判断と言えた。

 とはいえ、少女も少女なりに事情がある。〝アレ〟と顔を合わせる、会話をするというのはまだ早い(・・・・)。万が一にでも避けたかった。少し時間は取られてしまうが、やはり狂三を呼び戻すしか手はなさそうだ。

 

「……分かりました。私から狂三に――――――」

 

 瞬間、その声を遮ったのは暴風(・・)による轟音。僅か一瞬、『狂三』が風に煽られ体勢を崩す中で、少女は彼女(・・)を見て目を見開いた。

 

「……今のは」

 

『この反応って……!?』

 

 〈フラクシナス〉のレーダーも今の暴風を捉えたのか、琴里の驚愕が伝わってくる。少女としても、わざわざ彼女がこの危険な戦場に現れるという不可解な出来事に首を傾げ――――――彼女が向かった先を見て、不思議と納得がいった。どうやら、自分が向かう必要も狂三に連絡を取る必要はなくなりそうだ。

 

 

「――――――相変わらず、精霊を引き寄せるのが得意みたいですね、五河士道」

 

 

 お得意の精霊〝攻略〟をわざわざ邪魔する必要は、ないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 横薙ぎに〈鏖殺公(サンダルフォン)〉を振り抜く。立ち塞がる魔術師を光の斬撃を以て排除する。

 

「っ……」

 

 また一つ、身体の何処かが異常を起こしたように軋みを上げ、士道は思わず足を止めて顔を顰めた。人の身で〝天使〟を扱う代償。それは確実に士道の身体を蝕んでいた。今の彼は、人知を超えた奇跡を受け止めきれるだけの力はない。

 そのツケを支払うのもまた、人知を超えた奇跡。焔の加護が傷ついた身体をその都度癒す事で、彼は魔術師と渡り合うことが出来ていた。しかし、身の丈に合わぬ力を同じ質の力で捩じ伏せる。そんなことをしていれば、今頃士道の身体はこの無理の繰り返しに耐えられず、数で勝る魔術師に圧されていたであろう――――――本来であれば(・・・・・・)

 

 傷を癒す焔の加護。それさえも追い付かず増える筈の傷は、士道本人すら気づかないうちに無くなっていた。まるで、時間が巻き戻ったかのように(・・・・・・・・・・・・・)。当然、彼はその事に気づくはずもない……いや、気にする余裕が無いだけで、その原理は理解(・・)しているのかもしれなかった。知識ではなく、彼自身も覚えていない本能(・・)が。

 

「いたぞ!!」

 

「くそ……っ!! ど――――――けぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

 一瞬でも足を止めれば、その度に魔術師が複数人増える。キリがない繰り返しに、彼は何度目かの叫び声を上げ〈鏖殺公(サンダルフォン)〉を薙ぎ払った。斬撃が随意領域ごと魔術師達を軽く吹き飛ばす。が、まだ魔術師は何人か残っている。士道は再び剣を振り被り――――――

 

「ぁ、が……っ!!」

 

 腕を維持する細胞が切り裂かれたような激痛に、力なく剣を下ろす事となった。

 

「おおおおおおおおおッ!!」

 

「しま――――――っ!?」

 

 士道の身体が回復するまでの隙。目を閉じて激痛に耐える僅か数秒、しかしそれは敵を前にして致命的すぎる隙だった。魔術師が武器を振り被り肉薄する。最初とは違い、剣を構える余裕すらない。今の彼は迫り来る刃に為す術はなく、防衛本能で目を瞑り一瞬後に来る痛みに備える。

 

 だが、その刃が彼を切り裂く事はなかった。廊下に並んだガラスが一斉に砕け散り、魔術師たちの意識を逸らした。

 

「な……っ!?」

 

「まったく、情けないですねー」

 

「――――――え?」

 

 慌てふためく魔術師を置き去りにして、彼女は美しい声と共に姿を現した。呆気に取られたのは他でもない、彼女に救われる形となった士道だった。

 

 

「〈破軍歌姫(ガブリエル)〉――――【独奏(ソロ)】!!」

 

 

 以前見た巨大なパイプオルガンの一部と思われる銀色の円筒。その先端がまるでスタンドマイクのような形で折れ曲がり、彼女の――――――誘宵美九の声を通す力となる。

 

 

「――――――――――――っ!!」

 

 

 独奏歌。万人が聞き惚れるであろう歌姫の声が廊下に響き渡り、一瞬にして魔術師たちの意志を奪い去る。

 惚けていた士道がハッと我に返り、降り立った歌姫を見遣り、その名を呼んだ。

 

「美……九?」

 

「……ふんっ」

 

 舞台に立つ者が身に纏うような、ドレスの霊装。美しい顔立ちを不機嫌そうに歪めて、歌姫は今一度士道の前に舞い降りた。

 

 

 







士道が常に彼女の背を、隣を見てきたからこそのちょっとした違い。天使召喚時の名称は今作では誰に影響されたのかな?というのはわかりやすい気がします。まあ毎回高らかに呼んでましたからね女王様…

なぜ狂三ではなく『狂三』だったのか。それが少女にとって何を意味するのか。白い少女もここから少しづつお話に絡まって来そうです。

感想、評価などなどお待ちしておりますー。次回をお楽しみに!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。