デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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そろそろクライマックスへ向けて……この章、なげぇ!!


第四十七話『時の祈り』

 

 

 エレン・メイザースという女は最強の魔術師である。それは、顕現装置を手にした事があるものならば誰もが知っている純然たる事実だ。拮抗出来るものこそいれど、彼女を凌駕出来る魔術師など今この瞬間には存在し得ない。

 

「ぐ――――――けほっ、けほ……っ」

 

「……やってくれましたね」

 

 故に、このような結果は本来ありえないはずであった。エレンが一介の魔術師と戦い傷を負わされるなど(・・・・・・・・・)。腹部を切り裂かれた深い斬撃の跡。随意領域で止血こそ済ませているが、飛び散った血痕が白銀の鎧の一部を赤く染めていた。

 エレンに油断はなかった。だとすれば、この結果は折紙の実力と幸運に他ならない。彼女の奇策、謎の魔力砲による援護――――――それにより生じた僅かな隙を見逃さなかった、折紙自身の判断能力。そんな鳶一折紙を一介の魔術師、などと誰が言えよう。

 

「余計な茶々が入ったとはいえ、私の身体に傷を付けた人間は、生涯で二人目です。鳶一折紙、あなたは素晴らしい魔術師だ。自信を持って誇っていい――――――」

 

 最強の魔術師・エレンが手放しに褒め称えていた。魔術師としての力に誇りを持つ者なら、泣いて喜ぶ最大級の賛辞であろう。無論、折紙にそのようなプライドはないに等しく、壁に叩きつけられ傷口が開きかけた彼女が賞賛の声に答える余裕はない。

 

「ただし……あの世で、ですが」

 

「っ……」

 

 随意領域で応急処置を施しながら必死に身体を起こそうとする折紙に対し、エレンは剣を突き付けて冷たく終わりを宣告する。

 元より勝ち目の低い戦いが、更に絶望的になったのは折紙自身よく分かっていた。数秒後の生存さえ危うい状況で、痛みに歪んだ折紙の瞳が――――――その煌めきを見た。

 

 

「――――――ッ!?」

 

 

 刹那、エレンにとって二度目の予想外(・・・・・・・)が訪れた。彼女の強大な随意領域にはなんの感覚もなかった。にも関わらず、彼女は咄嗟に大きく身を翻した――――――次の瞬間、美しい金髪が投擲された〝何か〟によって、僅か数本ではあるが数多の光に照らされる空に舞った。

 

「何者です!?」

 

 折紙に警戒を向けながらも、投擲された方向へ視線を向ける。それに答えるのは、絶えず聞こえてくる戦場の音だけ。

 エレンの随意領域で感知出来ない謎の一刀。〈ナイトメア〉のように渾身の不意打ちで領域を犯したのではない。今のは間違いなく、随意領域を完全にすり抜けた一撃(・・・・・・・)。回避出来たのは、エレンに培われた長年の戦闘技術による直感に従ったに過ぎない。僅かばかりの殺気、気づくことが出来なければ彼女の頭部を投擲物は容赦なく貫いていた事だろう。

 次から次へと続く予想外。だが、エレンがそれに気を割いていられる時間は終わりを告げた。

 

「……アイク」

 

 やらねばならない事がある。口惜しさは残るが、以前受けた〈ナイトメア〉からの屈辱に比べれば大したことは無い……本当に、あれを思い出すとあらゆる意味で腹立たしさが込み上げて来る。任務という最重要な事柄がなければ、天宮スクエアの時に見た瞬間飛びかかって殺してやりたいくらいだった。

 しかし、今はそれも捨て置く。彼女のやるべき事は決まっているのだから。虚空を一瞥し、折紙をもう一度睨みつけてからエレンは第一社屋へと視線を向けた。

 

「あなたは本当に運が良い。誰とも知れぬ者に、感謝する事ですね」

 

 それだけを言い残し、エレンは迷いなく第一社屋の方角へ飛んだ。一瞬にして、その姿は粒さえ確認する事が困難な程に距離が離れて行く。

 

「させない――――――ぁ、っ!!」

 

 真那から聞いた話では第一社屋には士道がいる。みすみすエレンを見逃す訳にはいかない。だと言うのに、動かすだけで身体に激痛が走り、折紙の身体は叩きつけられた壁に背を乗せるだけで精一杯だった。

 

「自殺願望がないなら動かない方が身の為ですよ――――――鳶一折紙」

 

「!!」

 

 声が響いた方向へ視線を向ける。折紙が叩きつけられビルの上段に立つ、白い影。その声の主を彼女は即座に記憶領域から引き出していた。声だけではない。先程、一瞬だけ視認したあの煌めきを含めて、彼女は対象の〝精霊〟の正体を断定した。

 

「〈アンノウン〉……!!」

 

「……あの女を相手によく生き残れましたね、あなた」

 

 白い少女が呆れ気味に呟く。『狂三』の予測通り、鳶一折紙が纏っているのはASTの装備では無い。ワイヤリングスーツから武装に至るまで、全くもって別物どころか装備に統一感の欠片もない。質としては一段も二段も劣るであろうこの装備で、よくもエレン相手に立ち回った挙句、深い一撃を加えたものだと賞賛と同時に折紙の実力と運に呆れ返る他ない。

 

 まるで――――――世界が鳶一折紙を生かしている(・・・・・・)かのようだった。

 

「なぜ、私を助けた……ッ!!」

 

 一度ならず、二度までも。佇む白い少女を睨みつけながら、折紙は以前と同じ問いを投げかけた。〈ナイトメア〉といい少女といい、目的が分からないまま彼女の目の前に現れる不気味さ。しかも、この白い精霊に至っては明確に自身を助ける行動を取った――――――精霊を復讐の対象とする、自分を。

 

「……助けない理由が見つからなかったんですよ。命知らずな優しい復讐鬼さんをね」

 

「余計な手出しをしないで。あなたも、精霊だと言うなら尚更……!!」

 

「そうでしょうね。あの女に好き勝手されるのも癪でしたから、私に助けられたのが気に食わないなら、私の私情に巻き込まれたとでも思ってください」

 

 折紙に睨みつけられながらも、少女は気にするなと言わんばかりに平然と手を振る仕草をして声を発する。

 精霊に復讐を望む折紙が、その精霊である白い少女に助けられて感謝などするはずもないし、少女も感謝される筋合いはない。復讐を糧としながらも一人の少年に引かれる彼女を、他人事とは思えず衝動のままに動いてしまったに過ぎないのだから。

 彼女の事を命知らず(バカ)と言ったが、少女も大概に大馬鹿者だと自分で思わざるを得ない。将来、鳶一折紙が敵となる明確な予測を立てながら(・・・・・・・・・・・・・・・)、こうして彼女を助けてしまったのだ。これを大馬鹿者と言わずになんと言う。

 

「……まあ、五河士道の元へ行きたいならまずその身体を治してから――――――ッ!!」

 

 白が足を踏み込み、重力を無視しているとしか思えない動きでビルの側面を駆け抜ける。折紙が少女の行動にアクションを起こすよりも早く、折紙の身体を少女が抱き抱え勢い良く空へ跳躍した。

 数秒と間を置かず巨大な冷気(・・・・・)が二人のいた場所を覆い尽くした。

 

「く……離して!!」

 

「大して動けもしないくせに文句言わないでください!! 今のは〈ハーミット〉……という事は――――――」

 

 跳躍し今にも暴れそうな折紙を抱えながら視線を巡らせる。攻撃を放った〈ハーミット〉に加え〈ベルセルク〉の二人と、目的の人物を発見した少女が迷わず一直線に彼女の――――――折紙の上司、AST隊長・日下部燎子の元へ降下する。

 

「そこの隊長さん!!」

 

「な、〈アンノウン〉――――――折紙っ!?」

 

「はいパス!!」

 

「ちょ、はぁっ!?」

 

 突然の精霊に驚いたのも一瞬、その精霊に抱えられる病院にいるはずの自分の部下という意味不明な構図に驚きながらも、すれ違いざま投げられるように空へダイブした折紙の身体を燎子は随意領域を駆使して的確に受け止める。

 その身の自由を取り戻した少女は地面に滑るように着地する。

 

戻って(・・・)、〈――――〉!!」

 

 そして、その名を呼ぶ。誰の耳にも届く事はなかったかの名称は、しかし持ち主の呼び声に答え煌めきを少女の手に返す。虚空へと消えた色のない刀が、どこからともなく宙を駆け抜け白がそれを掴み取った。

 三度跳躍し、ビルの上段へ着地した少女は戦場へと姿を見せる。八舞姉妹が〝精霊〟という事に驚愕する折紙の姿、そして少女を見て睨め付けるような視線を送る姉妹が見えた。

 

「耶倶矢、夕弦……まさか、精霊……?」

 

「呵呵、誰かと思えばまんまと我らから逃げ仰せた精霊ではないか。しかし――――――」

 

「追従。二度目はありません。お姉様の邪魔をするものは、誰であろうと排除します」

 

「……まったく。あなた方に何かあると狂三に怒られるのは私なんですけど――――――ねっ!!」

 

 白の跳躍と八舞の暴風の発動はほぼ同時。

 

「お姉様のために、魔術師さんを……やっつけます……!!」

 

「く……っ!!」

 

 放たれた氷の礫を燎子の随意領域から離脱し、スラスターを吹かせ無理やり回避した折紙もASTと並んで彼女達と向かい合う。

 

 AST、〈ハーミット〉、〈ベルセルク〉、更に〈アンノウン〉。〈ナイトメア〉が引き起こした事象は魔術師と精霊が入り乱れ、真夜中の戦場は混乱を極めつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「え――――――?」

 

 ようやく辿り着いた部屋で、強化ガラス越しに十香と対面した士道は、意図が読めないアイザック・ウェストコットの言葉の後、胸に奇妙な感覚を覚えた。

 何かに貫かれたような(・・・・・・・)感触。それが気の所為ではなく、現実なのだと受け入れられたのは胸元から現れた光の剣と、それを扱う金髪の魔術師の姿を見たからだ。

 

「え、レ、ン……ッ」

 

「――――――アイクに向けられる剣は、全て私が折ります」

 

 光の刃が引き抜かれ、士道は夥しい血を吐き出しながら床に倒れ伏せた。

 

『シドー!! シドーぉぉぉぉぉぉぉッ!!』

 

 ガラスの叩く音と、自分の名を呼ぶ声が聞こえる。答えたい、答えてやりたい。しかし、何もかもが動かない。

 

「と……ぉ、か……」

 

 顔を上げることすら出来ない。僅かに唇を動かして、その動作でさえ激痛を伴い血を吐き出してしまう。意識が遠退いて、何も聞こえない。誰かが話をしている。十香が呼んでいる。美九の〝声〟が響く。どれも本物かもしれないし、士道が死の間際に聞いた幻聴なのかもしれない。

 

 そう――――――〝死〟だ。

 

 

 

 

 漠然と実感する。確実に近づくこの感覚。死神の足音がする。何かが近づき、士道に黄泉のへの道を渡らせようとしている。

 心臓の鼓動も、筋肉の動きも、その思考の何もかもが鈍い。全てが終わりへと繋がる、体験した事がない感覚だった。初めて実感する、死の感触。

 

 五河士道は〝死ぬ〟。変えようのない事実が現実となり襲い掛かる。琴里の加護すら意味をなさない。ここで死ぬ事が運命だと、そう彼の身体が告げていた。

 

 何も成し遂げられないまま、潰える。十香を救う事も出来ず、美九の心の壁を溶かす事も出来ず、約束一つ果たせず、士道は、死ぬ。

 

 力が抜けていく。光が消えていく。そのまま、僅かに残った彼の意識は闇へと――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――――士道さん』

 

 光を、見た。

 

 

「――――――――ぁ」

 

 

 誰よりも愛おしい、声を、聴いた。

 

 

『わたくし、必ず士道さんに言わせて見せますわ。家族、救うべき存在、ある筈の幸せな未来――――――その全てを投げ出して、この時崎狂三にその命を捧げさせて欲しい、と』

 

「……そ、う…………だった、な」

 

 

 その光を彼は知っている。それが、自らの命を懸けるに値するものだと、五河士道は信じている。

 

死ねない(・・・・)。命の使い方を、少年は決めている。この命捧げる先を、少年は誓っている。だから、こんなところで、こんな奴らに命を奪われるわけにはいかない。

 戻ろう、戻らねばならない。戻らなくては、誰も守れない。誰も救えない。どこからともなく、時を奏でる音(・・・・・・)が聴こえる。

 

 

「こんな、ところで……死ねるか……ッ!!」

 

 

 この命は、愛する少女の物になる。その可能性がある限り、少年が約束を違える事は許されない。命潰える事が許されるとすればそれは――――――負けを認めた(・・・・・・)時だけだ。

 

 そして――――――少年の時は巻き戻された(・・・・・・)

 

 

 

 

 

「ぁ――――――ああああああああああああああッ!!!!!!」

 

「な……っ!?」

 

 ありえない雄叫びに、光の剣を振り上げたエレンが驚愕の声を上げる。振り下ろされる刃と、振り上げられた刃が拮抗し、激しいスパークを散らす。

 拮抗は一瞬。エレンが随意領域の力を強め、士道を弾き飛ばす。ガラスに打ち付けられ呻き声を漏らしながら、それでも彼はエレンと相対するように〈鏖殺公(サンダルフォン)〉を構えた。

 その後ろで、涙で顔をぐちゃぐちゃに濡らした十香が、彼の後ろ姿を見て呆然と声を発する。

 

『シ、ドー……?』

 

「ああ……待ってろ十香。すぐに助ける」

 

「――――――ほぅ」

 

 興味深い、そんな風な声を漏らしたのはアイザック・ウェストコット。彼が気味の悪い笑みで士道を見遣り、言葉を放つ。

 

「驚くべき生命力だ。まさか、エレンの攻撃による傷をこんな僅かな間に再生させるとは。実に興味深い、驚嘆に値するよ」

 

「はっ、あんたに褒められても嬉しくねぇよ……!!」

 

 その傷は致命傷だった。普段なら〈灼爛殲鬼(カマエル)〉の再生能力が働き、致命傷だろうが回復させる士道の肉体も、先程の傷を極短期間で治すことは不可能だ。それがどうだ。今の士道はまるで、エレンが与えた傷そのものがなくなったかのように、傷を再生させようとした焔ごと(・・・・・・・・・・・・・・)刺された跡が綺麗に塞がっていた。

 士道の皮肉にもさして気分を害した様子はなく、笑みを崩さずウェストコットは言葉を続ける。

 

「おや、これは失敬。だが、その生命力がどれほどの物か、少し興味が出てきてしまった――――――首を刎ても、果たして生きていられるのかな?」

 

『ッ、逃げろシドー!!』

 

 ウェストコットが手を軽く上げ、エレンが再び刃を構える。十香が自ら顕現させた〈鏖殺公(サンダルフォン)〉でガラスを切り付けながら、必死に呼び掛けくる。

 ここで立つ事が何を意味するのか、分かっている。傷が癒えたところで、万に一つも士道に勝ち目などない。視界の端に映る美九の表情を見るに、彼女の〝声〟もエレンの随意領域には通用しなかったのだろう。戦力差はあまりに絶望的だった。だからといって、士道が逃げの選択肢を取るはずがない。取れるはずもない。無言で剣を構える士道を見て、十香が悲痛な声を上げる。

 

『やめろ、やめてくれシドー!! 私の事はいい!! 私の事は捨てていい……もう十分だ……だから頼む、逃げて……生きてくれ(・・・・・)!!!!』

 

「……生きるさ。お前と一緒にな(・・・・・・・)

 

『っ……!!』

 

「無駄ですよ」

 

 エレンが一瞬、睨みつけるような視線を向けると、士道の全身に強烈な拘束力が働き、どれだけ力を入れても足の一つさえ動かす事がままならなくなる。

 

「く……そ……っ」

 

「終わりです」

 

 刹那の間にエレンが距離を詰め、光の刃を振るう。その軌跡は寸分たがわず、士道の首元へ迫っていた。宣告通り、数秒と待たずして士道の命は潰えるだろう(・・・・・・・・・・・)

 

 消える。消える。消える消える消える消える消える。消えてしまう。士道が、自分を助けに来てくれた士道が、大切な人が、自分に世界をくれた人が、消える。

 十香の見る景色が、全て暗く、遅く映る。士道に迫る刃も、彼の背中も。

 

 

「い……や、だ……」

 

 

 消えるな。消えないで。奪わないで。それだけは、消させない。その為なら、なんだって構わない。力が欲しい。今の自分ではない、何かが。なんでもいい、誰でも構わない。この身がどうなろうと知ったことではない。だから――――――力を。

 

 

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!」

 

 

絶望(・・)が産声を上げ――――――闇が、爆ぜた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「DEM第二社屋、目的のお方はおられませんでしたわ」

 

「先端技術研究所、外れですわ」

 

「……やはり、想像通りですわね」

 

 『狂三』から次々と上がる実入りのない報告を聞きながら、さして落胆も見られない予想通りという口調で狂三が呟く。自らも研究施設の一室で手掛かりがないか軽く資料を漁っていたが、出てくるのは顕現装置の研究や、彼女でさえ顔を不快に染める趣味の悪い(・・・・・)研究結果ばかりで、これ以上は無駄だと見切りを付けるようにため息を吐いた。

 所詮、物のついで。大して期待はしていなかったが――――――そう思った、その時。

 

「っ――――――ぁ」

 

「『わたくし』!?」

 

 突然襲いかかった胸を刺すような痛み(・・・・・・・・・)に、狂三が身体のバランスを崩す。備え付けられたテーブルの上に手を置き、そこに散乱した物を地面に落としながらも何とか倒れ込む事だけは免れる。

 分身体に動揺が走る中、一人が狂三に寄り添うように駆け寄る。

 

「如何なさいましたの?」

 

「っ……い、いえ。なんでも、ありませんわ……」

 

 何もない、痛覚は残留している。にも関わらず、狂三の身体には傷一つ見られないのだ。鋭利な何かに身体を貫かれた、そんな感覚がまだ残っている。だが、痛む胸元に手を当てがっても彼女の白磁の肌は、普段と変わらずそのきめ細やかな輝きを持っている。切り裂かれても、ましてや貫かれてもいない。

 なら、この奇妙な痛みはなんなのだ。訝しげに表情を歪め――――――

 

 

「ッ――――――!?」

 

 

 視界が切り替わる。ノイズに塗れた映像を、狂三の左目(・・)が見せつけるように映し出す。右目は変わらず、呼びかける『狂三』を映し出している。黄金の時計を宿す左目だけが、このノイズだらけの〝何か〟を狂三の意志を無視して投影していた。

 引っ張られそうになる意識を引き戻し、グッと瞳に力を入れノイズを払い除ける。そうして、狂三は視た。

 

 ――――――光の刃が煌めき、あの方(・・・)の首を刎る、その瞬間を。

 

 

「ぐ……ぁ――――――!!」

 

 

 嫌な何かがせり上がってくる。咄嗟に口元に手をやりながら、なおも続く光景(ビジョン)――――――あの方の血が、ぶちまけられた、その絶望の未来(・・)拒絶した(・・・・)

 

「ち、が……う……」

 

 そうではない。これは違う。無作法にぶつけられた映像を、強靭な精神力を以て捩じ伏せる。狂三には分かる、狂三だからこそ分かる。これは現実ではない、ましてや過去でも現在でもない未来(・・)の一つ。〝誰か〟と共鳴(・・)して視覚情報を受け取り、算出された起こりうる可能性が高い光景(ビジョン)。狂三本人でさえ理解しきれない奔流を、彼女は本能的に処理していく……そうしなければ、彼女自身が裏返ってしまう(・・・・・・・)

 

 これだけではない。これだけであってなるものか。強く、色濃く映し出されたこの未来(・・)はそれでも確定したものではない(・・・・・・・・・・)。余計な物を受け流し、必要のないものを払い除ける。その動作の中、半ば無意識のうちに手にしていた銃を、狂三は自らに撃ち込んだ(・・・・・・・・)

 

「【五の弾(ヘー)】……!!」

 

 瞬間、狂三は〝それ〟を聴いた。彼女の――――――嘆きを。

 

 

 

『うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――――ッ!!!!』

 

「――――――――っ」

 

 

 

 絶望。憤怒。恐怖。全てのマイナスの感情を表にし、放出させるほどの絶叫。彼女の身が全く別の存在(・・・・・・)、裏側が取って代わる。

 

 溢れていた。彼女を害するもの全てを壊し尽くす、何かが溢れていた。これは先ではない(・・・・・)()未来(・・)に追いつき、既にこの事象は確定した現実となった(・・・・・・・・・・)

 

 

「っ……先が見える(・・・・・)というのも、良いことばかりではありませんわね――――――!!」

 

 

 行かねばならない。それだけを思って、狂三は吐き捨てるように言葉を紡ぎ、立ち上がった――――――愛しいあの方(士道)を救う、ただそれだけのために。

 

 







Q.なんてもの主に見せてるんだこの天使。A.天使的にはご主人このままだとやべぇよご主人!!くらいの善意です。

なんてものを見せてくれたのでしょう。未来とか見えりゃいいってもんでもないっていう良い例です。天使の力が強くなるのが良いことばかりだと誰が言った。

主人公がゾンビ顔負けの生命力になってますね。なんででしょうね(棒) 命の使い方を決めているから他のことで死ぬつもりはないけど無茶苦茶はする。妹の心労がデッドヒート。

着々とフラグを建築していく白組二人。いや白メインなのは偶然ですけど。ところでもうすぐ五十話なんですけど天使名すら判明しないオリキャラには参っちゃいますね(他人事)

そろそろエンディングも近づく中、メインヒロイン再び。このタイミングということは……? 次回をお楽しみに!! 感想、評価などなどお待ちしておりますー

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