デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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捻ったタイトルを考えようとして結局何も思い浮かばなかったの図


第四話『捜索』

『――――なるほど。あの後ASTの襲撃を受けた時にパペットを落とした、と』

 

「ああ、そういう事らしい」

 

『分かったわ。こっちからあるだけカメラを送って捜索に当てるわ』

 

「頼む、琴里」

 

 狂三が狂乱状態だったよしのんを落ち着かせた事で、どうにかある程度の事情を聞き出すことが出来た士道は、万が一に備えて携帯しておくように言われたインカムを使い〈フラクシナス〉にいる琴里と連絡を取っていた。

 

 チラ、と少し離れた位置にいる狂三とよしのんに視線を向ける。取り敢えず雨の凌げる場所へと移動して士道はこうして琴里と連絡を取り、狂三はよしのんが落ち着くように手を握ってくれている。事情を知らないとはいえ、あまりにも無防備な姿でよしのんを宥めた事を思い返すと肝が冷えたが、狂三がいなかったらこう上手く行っていたかは分からなかったな、と感謝で頭が上がらない。

 

 そして、よしのんを抱き締めた時に見せたあの表情も――――

 

『――――にしても、その狂三って子凄いじゃないの。暴走寸前の精霊を抑えるなんて、士道より役に立つんじゃない?』

 

「……おい」

 

『冗談よ……でも驚いてるのは本当よ。士道、彼女とどういう関係なのかしら?』

 

「どういうって――――」

 

 最初の静粛現界の時、偶然一緒にいた繋がりで今よしのんの信頼を得られた、という事は説明したが、当然それ以前……つまり士道と狂三がいつ知り合っていたかなどは琴里も知らない。少しからかうような琴里の言葉に、士道は一瞬その答えを躊躇う。

 

 狂三は……なんだ? 1ヶ月前に出会ったばかりで、勝手にこっちから首を突っ込んで、頼ってくれと約束したのに今は自分が頼ることになっている男として不甲斐ない結果に少し落ち込んでいて……そして、何より士道の――――

 

 

「――――別に。普通の友達だ」

 

『……ふーん。ま、そういう事にしといてあげる』

 

「なんだよそれ」

 

 妙に含みのある言い方にツッコミを入れるが、琴里は答える気がないのかそのまま言葉を続け指示を飛ばしてきた。

 

『べっつにー。それより、出来るだけ精霊とコミュニケーションを取りながらそっちでも捜索をしてちょうだい。ただ待ってるだけだと、彼女も不安になるだけでしょうし』

 

「了解……狂三は――――」

 

『良い事とは言えないけど、精霊の信頼を得てる人間を引き剥がす訳にもいかないわね。こっちで観測してもごく普通の一般人(・・・)のようだし、どうにか捜索にも協力してもらってちょうだい』

 

 了解の意味を込めてインカムを小突き、士道は2人に目を向ける。何も知らない狂三を巻き込むのは士道としては反対したかったのだが、琴里の言う通りよしのんの精神を安定させてくれた狂三を引き離すのは、パペットを無くし不安定になっている彼女へ悪影響しか及ぼさないと士道でも分かってしまった。

 

「よし……待たせて悪い二人とも。パペットを探すの俺も手伝うぜ、よしのん」

 

「……!」

 

 狂三の手を握ったまま俯いていた少女が、士道の言葉を聞いてバッと顔を上げ首肯し――――

 

「私……は、よしのん、じゃなくて……四糸乃。よしのんは……私の、友だち……」

 

「四糸乃……?」

 

 小さな声だが、少女はそう声を発する。問い返すようにその名を呼ぶ士道に、四糸乃と名乗った少女はコクリ、と頷く。

 

「でしたら、必ず見つけなければなりませんわね。四糸乃さんのお友達を」

 

 その声に、四糸乃だけでなく士道もハッと顔をそちらへ向ける。狂三はそれに応えるように、笑顔で言葉を続けた。

 

「わたくしも微力ながら、お手伝いさせていただきますわ」

 

「……ああ、ありがとな狂三。行こうぜ、四糸乃」

 

「――――ぁ……り、が……ぅ……」

 

 士道がなにか言うまでもなく、狂三はパペット探しまで手伝ってくれるようだ。その優しさに感謝を述べると、四糸乃もそれに続く形で消えてしまいそうなほどか細い声で、しかし確かに2人に聞こえる声で士道と狂三にお辞儀をして礼を言った。

 

 狂三と顔を見合わせ、コクリと頷き合う。精霊という事情を抜きにしても、困っている子を放って置くことはお互い(・・・)出来ないようだ。

 

「ああそうだ、良かったらこれ。もう濡れてっかもしれねぇけど、ないよりはマシだろ?」

 

「……?」

 

 四糸乃が走っていこうとする前に士道が彼女に差し出したのは、自分が差していた透明なビニール傘。

 

 傘を見て首を傾げる四糸乃の手にそれを握らせてやると、急に触れなくなった雨粒に驚き頭上を見上げ、ビニール傘に当たって弾ける雨粒が光ながら落ちる光景に、傘を持っていない手をその興奮を現すように上下に動かした。

 

「……! ……!」

 

「おう、気に入って良かった――――?」

 

 ふと、自らの上に降り注ぐ雨粒まで遮られた事に疑問を抱き、先程の四糸乃と同じように上を見上げると……黒い傘が士道の頭上で差されているのが見え、当然それを差し出したのはその傘の持ち主である狂三だった。

 

「そのままでは士道さんが濡れてしまいますわ。これをお使いくださいまし」

 

「ああ、俺なら大丈夫だ。それに、俺が使ったら狂三が濡れちまうだろ?」

 

「そういうわけには参りませんわ。わたくしこそ大丈夫ですので、どうぞ士道さんがお使いくださいまし」

 

「いやだから、こっちこそそういうわけにはいかないって」

 

 濡れるくらいなんて事ないし、四糸乃のような小さな子が雨に濡れるのを見るのはどうしても忍びなかった。それは狂三に対しても同じで――男として、ちょっとしたプライドがあるのも否定はしない――自分の為に狂三が代わりに濡れるなど士道には許容できそうになかった。

 

「ですから士道さんが――――」

 

「だから狂三が――――」

 

 

「……ぁ……ぅ……」

 

 お互いが傘を押し付け合うというヘンテコな状況になってしまった所で、小さな声が2人の耳に届いて士道はハッとなる。その声の主を見てみれば、この状況を見かねたのかおずおずと傘を差し出そうとする健気な四糸乃の姿があった。

 

 これでは本末転倒もいいところだ。けれど、狂三が濡れる事を受け入れる事は断じて出来ない。そして切羽詰まった士道が取った選択は――――

 

 

「だ、大丈夫だ四糸乃。俺と狂三は2人で(・・・)使うから心配ない!!」

 

 

 ――――世間一般的に言うなら、相合い傘(・・・・)というものだった。

 

「!」

 

 士道の言葉と行動に少し驚いた表情をした四糸乃だったが、コクリと頷くと待ち焦がれた様子でパペット……よしのんを探して走り出して行った。

 

 ホッと息をつけたのも一瞬。士道は隣に少し視線を向け……あまりにも近い狂三との距離に心拍数が一気に跳ね上がるのを自覚した。

 

「わ、悪い狂三。これしか思いつかなくて……」

 

「……いえ、構いませんわ。四糸乃さんを見失ってしまわないよう、わたくし達も行きましょう、士道さん」

 

「お、おう」

 

 取り敢えず、宣言してしまった手前この相合い傘スタイルは継続したままよしのん探しに出ねばならないようだ。

 

 顔、絶対赤くなってるな、とこれ以上出来るだけ意識しないように……狂三に気づかれないようにと祈りながら士道は歩き出し狂三もそれに続く。

 

 

 それ故に、言葉の上では動揺を見せなかった彼女の頬が僅かに赤く染まった(・・・・・・)様子に士道が気づくことは、なかった。

 

 

『――――これで、普通の友達……ねぇ』

 

 ……言葉だけなのに、どこかニヤニヤした表情が想像出来る妹様(司令官)の事は敢えて無視を決め込みながら、士道はよしのん探しへとそのまま向かって行った。

 

 

 

 

 きゅううううう。と可愛らしい音が士道の耳に聞こえてきたのは、よしのん捜索を始めておよそ2時間が経過した時の事だ。

 

 思わず隣でよしのんを探していた狂三と顔を見合わせる。という事は、この音の主は当然ながら狂三ではない。ならば……

 

「四糸乃……? もしかして腹減ったのか?」

 

「…………っ!」

 

 士道の言葉に顔を真っ赤にして首を横に振った四糸乃だが、そのタイミングでまたさっきよりも強烈なお腹の音が鳴り響いてしまい、今度はその場に蹲って恥ずかしそうにフードを引っ張って隠れてしまった。そのあまりに可愛らしい仕草に、士道と狂三は微笑ましそうに小さな笑みをこぼす。

 

「士道さん、少し休憩いたしませんこと?」

 

「ああ、そうだな。四糸乃、少し休憩しよう」

 

 ちょうど同じ事を考えていたらしい狂三の意見に士道は頷き、顔を隠す四糸乃へ休憩を促す。一刻も早くよしのんを見つけたいのだろう、四糸乃は1度2人の言葉に首を大きく横に振るが……

 

「……!」

 

 二度あることは三度ある。またもやお腹から可愛らしい音が響き渡り真っ赤な顔を更に赤くして俯いてしまう。

 

「無理はいけませんわ四糸乃さん。四糸乃さんが倒れてしまっては、よしのんさんと再会した時に怒られてしまいますわよ?」

 

「そうだぞ。お前が倒れたらよしのんを探せなくなっちまう。無理しちゃダメだ」

 

 よしのんを絡めた2人の説得が聞いたのだろう。四糸乃は少し逡巡するようにうなってから、躊躇いがちに頷いてくれた。

 

「よし。じゃあ――――」

 

 と、言ってから士道は思い直してしばらく顎に手を当て考えを巡らせる。

 

 買い物に出たのだから財布は持っているし、3人分の飯代を払うくらいは特に支障はない。しかし、よしのんを探している場所は昨日の空間震が起きた付近なので、生憎まだ休業している店しか見当たりそうにないのだ。

 

「……なあ、琴里。休憩する場所、うちでも大丈夫か?」

 

 インカムを小突き、2人に悟られないよう小声で琴里に通信を飛ばす。大方の事は既に察しているだろうと思っていたが、やはり間を置かず声が士道の耳に返ってきた。

 

『わお。随分と大胆になったじゃない士道。他に選択肢もないでしょうし許可は出すけど――――狂三もいるのに、大丈夫なのかしら?』

 

「ッ!!」

 

 忘れていた、訳では無い。四糸乃を休ませる事に意識を向けていたため、それに意識を向けることをしなかった。そう、四糸乃を士道の家で休憩させるということは――――狂三も必然的にそうなるということで。

 

 先日、1度は断られた女の子に状況は違うとはいえ同じ事をする。高い、あまりにもハードルが高すぎる。しかし、躊躇っていられる時間はそう無い。急に押し黙った士道に狂三は黙って士道を見つめ、四糸乃は小首を傾げているし……何より、琴里に悟られては不味い。いじられる、精霊関係なく間違いなくいじられる。士道の尊厳という尊厳が弄ばれてしまう。

 

「あー……休憩場所なんだけどさ、うちでも……大丈夫か?」

 

 えぇい、ままよ。と何とか平静を装い2人に向き直り問いかける士道。四糸乃は特に迷う事はなく頷いてくれる。問題は狂三の方だと見てみると……目をぱちくりとさせてから、可笑しそうに笑い始めた。その笑顔の意図が掴めず、逆に士道の方が困惑してしまっていた。

 

「うふふ……士道さん、まだ先日の事を気にしてらしたのですね」

 

「う……」

 

「士道さんの事、信頼しておりますもの。喜んで、ご相伴に預からせていただきますわ――――特別、ですもの」

 

 狂三に見抜かれ、ばつの悪そうに視線を逸らす士道に片方の手でスカートを摘み小さくお辞儀をし……先日と同じように(・・・・・・・・)唇に指を当て士道に聞こえるようそう呟いた。

 

 男というのは本当に単純なもので、狂三の狙った仕草にも顔を赤くし誤魔化すように頬を掻く他になく、そろそろ狂三の前で照れている時間の方が長いのではないかと他人事のように自虐して――――

 

『――――ふーん。先日の事、ねぇ。是非聞かせてもらいたいわね、し・ど・う?』

 

「ッ! よ、よし、行くか二人とも!!」

 

 いけない。今妹に喋らせてはいけないと狂三の言葉を誤魔化した風を装い声を発する士道。

 

 ……結局あとで色々根掘り葉掘り聞かれるのは避けられないとは思うのだが、士道は考えるのをやめた。現実逃避というなかれ、生きるためには必要な事なのだ、多分。

 

 

 

「ほら、出来た。しっかり腹ごしらえして、早いとこよしのんを見つけてやろうな」

 

「わたくしの分まで……ありがとうございます」

 

「気にすんなって。2人も3人も作る手間は変わらないしな」

 

 両手にどんぶりを持ってリビングへ向かい、テーブルの上に狂三と四糸乃の前にそれぞれ置いてやる。

 

 家に着き、物珍しそうに辺りを見渡す四糸乃の事を狂三に任せた士道が慣れた手つきで作ったのは眩しく金に輝く……は言い過ぎな普通の親子丼。冷蔵庫の中にあった材料での有り合わせだが、家事スキルが人並み以上にある士道にかかればちょちょいのちょいである。

 

「さて、それじゃ、いただきます」

 

 2人の分と同じように自分のどんぶりも持ってきてテーブルに置き、士道が手を合わせてそういうと狂三もいただきます、と続きそれを見た四糸乃もその仕草を真似るように頭を下げてから、スプーンを手に取り親子丼を一口。

 

「…………!」

 

 その直後、カッと目を見開いた四糸乃はテーブルをぺしぺしと叩き、それに視線を向ける士道と狂三に何かを伝えようとし――――ぐっ、と心底輝かしい顔でサムズアップをした。どうやら、余程気に入ってくれたらしい。士道も同じようにサムズアップを返す。

 

 その光景の微笑ましさに口角を上げ、狂三も四糸乃に続いて親子丼を口に運び入れ――――

 

「……!!!!」

 

 ――――俺の美味さに、お前が泣いた。

 

 衝撃。その衝撃の強さに、訳の分からないフレーズが狂三の頭に浮かんでしまった。狂三は料理に自信があり、士道の料理もまぁ一般的な物だろうとどこか甘く見ていたが……違う。これは1日2日で習得できる代物ではない。この一口で分かるほどの熟練の技、それでいて10分足らずでこれを作り上げる士道の技量。美味さが口いっぱいに広がり、彼女の五感をくすぐるこの刺激……彼は、本物だ。

 

 しかし、しかしだ。狂三とて乙女。ここで引き下がるのは彼女のプライドが――――許さない。

 

「……士道さん」

 

「ど、どうした? 口に合わなかったか?」

 

 親子丼を一口食して急に黙り込み、名前を呼んだ狂三の様子に士道は焦る。士道なりに自分の料理には自信があるが、その様子と見るからに〝お嬢様〟という表現が似合う狂三の口に庶民の食事が合うのか、という不安感に駆られてしまう。

 

 だが、狂三は士道の言葉をゆっくりと首を振り否定した。なら何故……と士道の疑問に答えるように狂三が言葉を続けた。

 

「いいえ。とても、とても美味しいですわ。ですけど――――わたくし、負けませんわ」

 

「……お、おう? 頑張れ……?」

 

 ……何に? というさらなる疑問はあったが無言で、しかし美味しそうに、だが何処か悔しそうに士道特製親子丼を食べ進める狂三を見て押し黙るしかなかった。ちなみに、四糸乃はその間にも一心不乱に親子丼を小さな口を頬張っていた。

 




全くの余談なんですが実は4、5、6話は本来一つの話で纏めてる予定で四糸乃編は短めに終わりそうだなぁとか思ってました。なんで纏まると思ったのか不思議ですね、はい

ご意見感想などありましたら是非お待ちしておりますー

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