デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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祝・50話+美九編エピローグ。長かった章もこれにて一区切り。どうかお付き合い頂けると幸いです。


第五十話『焔の考察』

 

「……ふぅ」

 

 ギシ、と身体を預けた執務室の椅子を軋ませて一息つく。ついでに、資料を読み続けて負担をかけた目を休ませるように手で揉む……とても中学生の少女とは思えない仕草ではあったが、多大極まる組織の司令官ともなれば不思議ではない。年齢を考えると、悲しい事に、と言うべきだったが。

 一日をかけて街一つを巻き込んだ大規模な暴動――ということになっている――から更に一夜明け、琴里に休む時間など全くと言っていいほどなかった。事件の後処理、その他諸々のために〈ラタトスク〉の工作員への指示。美九の〝歌〟の影響が残った〈フラクシナス〉の細かいシステム調整。事件の資料、報告書の作成及び確認。精霊たちの検査、主に〝反転〟した十香は特に入念に……後は、説教混じりの喧嘩を繰り広げた愚兄の事だったりもあったが、それは置いておこう。

 全くもって終わりが見えないが、こういう裏方の仕事が琴里たち〈ラタトスク〉の役割だ。文句も弱音もなかった。精霊を救うため、琴里たちは日々が戦いなのだ。

 

「…………」

 

 〝精霊〟の事を頭に思い浮かべた琴里は、その中から更に一人の精霊が脳裏を過ぎる。白い〝お守り〟。胸ポケットから徐ろにそれを取り出した彼女は、ジッと眺めながら少女との会話を思い出す。

 

 

『……さて、あなた達にとっては小さく、くだらない事かもしれません。けど、私にとっては――――――何を犠牲にしても、成し遂げるべき目的です』

 

「〝計画〟……一体、何をしようとしてるんだか」

 

 

 〈ラタトスク〉の目的を知り、士道の力に関しても把握していながら琴里たちと付かず離れずの距離を保つ二人の精霊。

 時崎狂三はまだわかりやすい方だ。謎は多いが、今の彼女の目的は士道そのもの。好意を示しながらも回りくどい方法で何かを成そうとしている事は分かる。もう一度言うが、非常に回りくどい上にデレてるならさっさと落ちる所まで落ちてしまえと琴里的には思ったりしていて。しかし、将来〝アレ〟が義姉(・・)になる可能性を考えるだけで少し寒気がしてくるような――――閑話休題。とにかく、今回の一件でも明確に士道を守ろうとする意志は感じられたし、士道が負けを認めない限り当面は問題ないだろう。

 

 もう一人の精霊、〈アンノウン〉。四糸乃の一件で士道を救い、その後は続けて十香とも接触を図り、狂三との繋がりまで判明した少女。その目的、能力共に不明。何を知り、何を成そうとしているのか……琴里自身も救われた恩があり、このような特殊な能力を持つと見られる〝お守り〟まで渡されたのだ。少なくとも敵対意志はない――――――だが、無事に戻ってきた真那――それはそれとして全力で検査行き――と琴里が会話した時のことがどうにも引っかかっていた。

 

『琴里さん、老婆心で忠告しておきます。〈アンノウン〉には気をつけてやがりください』

 

『え……?』

 

『……以前の〈ナイトメア〉以上に、ゾッとする殺気をしてやがりました。嘘でもなんでもなく、アレは私を殺す気で(・・・・)刀を握っていた。それなのに、同情(・・)と言ってたのも本気。気味が悪いことこの上ねーです……油断しねーでください』

 

 真那と〈アンノウン〉の会話は、琴里たちも〈フラクシナス〉から聞いていた。そして、真那による生の意見も含めてあの時の少女が殺意(・・)を持っていた事も、分かる。狂三が止めなければ、間違いなく泥沼の戦闘に発展していただろう。

 真那の境遇に同情、理不尽だと思う。そう少女は言っていた。白い少女は知っている……崇宮真那がDEMインダストリーの手で魔術処理を施された結果、その寿命は〝十年〟しか残されていないという深刻な代償が刻まれている事を。

 

 知っていて、真那に同情の気持ちを持ちながら――――――少女は、躊躇いなく真那を〝敵〟と切って捨てた。

 

「……わけがわからないわねぇ」

 

 掴みどころがないような言動をしたかと思えば、あっさり琴里の誘導に乗り口を滑らす迂闊な一面……天然、とでも言うべか。更に琴里に〝お守り〟を渡して、ただ話したかったという理由だけでこちらと接触を図る。かと思えば、〈ラタトスク〉の庇護下にいる真那と敵対する。

 やはり一番わからないのは、最後の真那に対する敵意だ。真那の境遇に同情を示し、理不尽だと心から思っている。そこに嘘偽りはない、と琴里は考える――――――その上で、真那を容赦なく排除しようとした歪な精神。今までの少女の行いと、行動が合致しないように思えて……。

 

 

『多分あいつ――――――俺と一緒だから、かな』

 

『全ては――――――我が女王のためにね』

 

「――――――狂三、か」

 

 

 パズルのピースが一つ、埋まったような感覚。顎に手を当て、琴里は深く思考を巡らせる。

 士道と〈アンノウン〉の共通点。それはあらゆる面で狂三を優先する(・・・・・・・)考えを持つこと。半ば確信に近い考察だったが、これまでの少女の言動を考えればまず間違いない。妙に士道が白い少女に肩を持っていたのも、恐らくは無意識にシンパシー(・・・・・)のようなものを感じていたからだろう。

 

 こう考えてしまえば、真那に対する敵意にも納得がいく。真那は狂三に対して幾度となく命を取り合う戦いをしていたはず。少女の思考回路は恐らくこう――――――同情もある、理不尽だとも思う。だが狂三に敵対するなら容赦はしない(・・・・・・・・・・・・・・・)。ともすれば、それが誰であったとしても……そんな、恐ろしい考えまで至りそうになる。

 

「――――――り」

 

 だが、この説には矛盾が生じる。それは、他ならぬ琴里の存在だ。琴里は、屋上での一件で狂三と敵対行動を取った上に、暴走して危うく狂三を殺しかけた。しかし、白い少女は琴里を助けるという好意的な行動を取り、話がしたいとまで言った。

 琴里の行動は、〈アンノウン〉のボーダーを越えなかった? 殺しかけたのは彼女の精霊としての力が暴走した、から……? そうだとしても、それ相応に恨みつらみをぶつけてもおかしくはないはずだった。仮に琴里の状態を知っていたとして、少女は霊結晶を渡す謎の存在〈ファントム〉について、どこまで知っているのか。

 

 〝計画〟そうだ、計画だ。少女は琴里にこうも言っていた。盤上から降りてもらっては困る(・・・・・・・・・・・・・・)、と。謎の計画とやらのために、士道や琴里の存在は欠かす事が出来ないというニュアンス。加えて、少女が重視する狂三の目的とは違う、少女自身の目的。

 

「こ――――り」

 

 あれほど狂三の事を重要視する精霊が望む、目的。〝計画〟とは狂三に関係すること、なのだろうか? だが少女は、まるで士道がこの戦争(デート)勝利することを願っている(・・・・・・・・・・・・)風な言動をしていた。あれが嘘か真か、そこまでは琴里も判断が出来ないことだが……狂三に対する異常な執着と、計画はかけ離れている? まだわからない。人を想う心を持ちながら、他者を排除してまで成そうとしている〝計画〟。

 

 〈アンノウン〉。その名の通り、正体不明。少女の目的とは、一体――――――

 

「……琴里」

 

「っ!? れ、令音……」

 

 自分の名前で呼びかけられ、ハッとなって顔を上げると見慣れた人物がいつの間にか立っている事に気がついた。立派な隈と今にも倒れてしまいそうな不健康な見た目。〈ラタトスク〉解析官にして琴里の親友、村雨令音だ。彼女が部屋に入って来たことすら気づかないくらい、物思いにふけってしまっていたらしい。

 

「ごめんなさい、気づかなくて。ちょっと考え事が過ぎたみたい」

 

「……いや、構わないよ。考え事は、〈アンノウン〉の事かな?」

 

「ええ。よくわかった……って、これ(・・)を持ってるんだから分かるわよね」

 

 手に持った白い〝お守り〟を遊ばせながら琴里が言う。察しの良い令音なら、考え事と聞いてこの程度の予測はお手の物だろう。もし令音でなければ、疲れでボーッとしてると思われていい加減休んだ方が良いとお小言を言われかねなかったので、ラッキーだったなと苦笑する。

 

「どうにも、色々考えちゃってね……参考までに聞かせて欲しいんだけど、令音はあの子のこと、どう思う?」

 

「……ふむ」

 

 流石に漠然としすぎていたか、とも思ったが令音は真面目な顔で、と言っても琴里にしかわからないくらいの表情の機微で少し考え込む仕草をする。それから少しして、令音がゆっくり口を開いた。

 

「……少なくとも、私はあまり好かれてはいないだろうね」

 

「…………そう?」

 

 斜め上からの回答に、拍子抜けした風な表情で琴里が首を傾げる。令音は一度、直接〈アンノウン〉と接触しているとは聞いたが、いきなりそんな発想に結びつくのは意外や意外だった。琴里としては、真逆の感想だったからだ。

 

「私は、令音とあの子なら仲良くやれると思うわよ」

 

「……根拠はあるのかい?」

 

「話し方とか雰囲気がなんか似てるから」

 

「…………そうか」

 

「ちょっと、その顔は全然信じてないでしょ」

 

 これこそ漠然とし過ぎていたのか、ちょっと令音が呆れ顔になっている気がした。考えすぎかもしれないが、ひょっとしてそれはギャグで言ってるのか、みたいな表情だ。

 心外な。琴里は琴里なりに考えがあって言ったことなのだ……まあ、恐らく素なのであろう白い少女の喋り方と、思った事をズバッと言うところが似ているから仲良く出来そう、と言われても本人的にはリアクションに困るのだろうが。

 

「――――っと。そろそろ行かないとマズいわね」

 

「……ん。準備は出来ているよ」

 

「流石ね。それじゃ行きましょ」

 

 そうこう世間話をしている間に、時間の方が迫っていた。頷く令音を連れ、琴里は執務室から移動を始める。どこに行くのか――――――言うまでもない。

 

 天宮市上空一万五〇〇〇メートルを浮遊する空中艦〈フラクシナス〉。超高性能の戦艦を使い、琴里たちがするべきことはたった一つ。

 

 

「さあ、今日も素敵な――――――戦争(デート)日和ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「あら、もうよろしいんですの?」

 

 ちょうどステージを正面から見る事が出来る場所に戻った士道を、狂三が出迎える。会場には相も変わらずアンコール(・・・・・)が響き渡り、大盛況と言ったところだ。

 

「ああ、せっかくのデート(・・・)なのにお前を待たせるわけにはいかないからな」

 

「うふふ。逢瀬の最中に他の女性とお会いなった方の台詞とは思えませんわね……ステージへお立ちになられませんの、士織さん?」

 

「ぐっ……か、勘弁してくれ……」

 

 痛いところを突かれたと呻き目を伏せる士道を見て、狂三はくすくすと楽しそうに笑って言葉を続けた。

 

「冗談ですわ。そのご様子だと、無事に美九さんのお力を封印できましたのね」

 

「……たとえ〝声〟を無くしても、俺が聴いてくれるなら……それでいいって、俺を信じてくれたよ」

 

「あら、あら。お熱いこと。妬けてしまいますわ」

 

「からかうなよ……お前にも会いたがってたぜ。これが終わったら、会いに行かないか?」

 

「ええ、ええ……入った途端、飛びかかられなければ良いですけれど」

 

「ははは……」

 

 確かに、美九ならやりかねない。片手を頬に当て少し困った表情の狂三に、素直に口には出さないながらも士道は半笑いで肯定した。

 

 ――――――あれだけ〝声〟を捨てる事を否定していた美九が、自ら士道の力による封印を望んだ。驚くべき事だったが、自分を信じてくれたのだと思うと素直に嬉しさが込み上げてくる……まあ、些か好感度が極端に振り切れ過ぎではないか? と狂三の前で冷や汗をかきそうになっていたりするのだが。

 

「でも……良かったよ。こうやってお前と無事にデート出来て。一日ズレちまったけどな」

 

「あれだけの事がありましたものね。皆様の熱意に感謝いたしませんと」

 

 天宮市全体を巻き込んだ大規模騒動。当然だが、二日目の天央祭は急遽中止になった――そもそも士道はぶっ倒れていたのでこの日はどの道無理だった――が、生徒達の熱意に加えて〈ラタトスク〉の暗躍もあり、こうして無事に三日目は開催されることとなった。ちなみに、二日目の分はなんと明日執り行うという。本当に、大した熱意だと感謝と呆れを感じざるを得ない。

 というわけで、これが日程こそ違うが狂三とデート出来ているカラクリの正体だ……そのために、琴里と一悶着あったが、それは語るまでも――――――

 

 

「それにしても――――――お身体は大丈夫なんですの?」

 

 

 語るまでもないと思っていたが、ついに触れられてしまった。とはいえ、これは想定内の質問だ。士道は狂三の問いかけに、内心の焦りを露ほども感じさせない笑顔で答えた。

 

「ん? おう、一日休んだらすっかり元気になったぜ」

 

「ふーん…………えいっ」

 

 誤魔化しきれたか、そう油断した士道の隙をつき狂三が指を一本的確な判断で彼の脇腹へ刺すように突く。

 

「い――――っ!?」

 

「……嘘をつくのが下手な方ですわねぇ」

 

「ぐ……おお……」

 

 突かれた部分を起点として響く激痛に、呆れ顔の狂三を見ながら士道は手すりに掴まり身悶えする。

 ……まあ、一つ顕現させるだけでも士道に相当な負荷を強いる天使を、二つ同時に使いながら肉体の修復を行う。そんなめちゃくちゃなやり方をした結果は、言うまでもなかった。

 はあ、と呆れたため息をついた狂三は士道が隠していた事をズバズバと暴いていった。

 

「まったく……そのお身体では、ここに来る前に琴里さんと言い争いになったのではなくて?」

 

「……ソ、ソンナコトナイゾ」

 

『そんなことあるわよねぇ? 色ボケおにーちゃん?』

 

 正面からだけではなくインカムからも、嫌味ったらしい追撃が襲いかかってくる。残念、士道に逃げ場などなかった。

 

 十香を助け出したその後、〈フラクシナス〉での入念な検査の末に待っていたのは、大事をとって丸一日は絶対安静にしていろというお達しだった。それを聞いた士道は当然のように反論した。狂三との約束をこれ以上、引き伸ばしにするわけにはいかない。明日一日は動くことを許してくれ、と。が、琴里が『あんな女との約束、いくらでも待たせとけばいいでしょ』なんて精霊攻略を支援する司令官らしくない発言をしたものだから……そこからは、売り言葉に買い言葉。行く行かないの大喧嘩が始まってしまった。

 途中、溜まりに溜まった説教に苦戦しながらも、言い出したら聞かない彼の頑固な性格で何とか許可を得てデートを強行した。が、痩せ我慢に限界が来ていることは狂三に見抜かれていたらしい。

 

「士道さん、わたくしは逃げも隠れもしないのですから、少しは琴里さんの気遣いも受け入れてあげてくださいまし。十香さんを助けるために無茶をした件も含めて、お叱りをいただいたのではなくて?」

 

「わ、わかってるよ…………けど、狂三だって〈アンノウン〉に怒られてたじゃないか」

 

「なっ……」

 

 このままでは狂三からもお説教が続きそうだったので、士道は苦し紛れに反論してみる事にした。すると、狂三がいつになく動揺した表情を見せた。やはり、彼女としては触れられたくない一件のようだ。

 

「……あ、あれは、わたくしの中では無茶をしていませんわ。だから士道さんのお説教とは違いますの。ええ、ええ、お門違いですわ」

 

「いやいやいや!! その理屈が通るなら俺だって無茶なんかしてないからな!! あれくらい俺の中じゃ無茶には入らないし、絶対狂三は無茶してたって!!」

 

「そんなわけありませんわ。絶対、ぜぇったい士道さんの方が無理をなさってましたわ。わたくしが助けに入らなければどうなっていたことか……」

 

「それは感謝してるけど、それと狂三が無理するのは別の話だろ!? 前にも言ったけど自分の事も考えてだな……」

 

「士道さんにだけは言われたくありませんわ!!」

 

「いや狂三の方が――――――」

 

「いいえ、士道さんの方が――――――」

 

『どっちもどっちに決まってるでしょ、この似たもの同士のバカどもが!!!!!!』

 

「ぐお……っ!?」

 

「きゃっ……」

 

 論点が段々とずれながら二人が顔を付き合わせ言い争いをしていると、インカムから狂三にも聞こえるくらいの凄まじい声量で炎の一喝が炸裂した。士道の鼓膜にクリティカルフィニッシュ!

 

『あんたらが無茶する度に私がどんだけ苦労してるか分かってるんでしょうね!? 分かってるわけないわよね喧嘩に見せかけてイチャコライチャコラしてるあんた達には!! 大体ねぇ――――――』

 

「こ、琴里。耳が……耳がぁ!!」

 

 後者に至っては言いがかりにも程がある。という反論さえ口に出来そうにない声量が士道の右耳に襲いかかる。このままだと鼓膜へのダメージがとんでもない事になりそうになった時、狂三がポンと手を合わせて声を発した。

 

「あらー、美九さんが登壇なされましたわー」

 

「お、おう!! ちゃんと美九の歌を聴かないとな!!」

 

『ちっ……』

 

 狂三の棒読み感が溢れ出た行動に便乗する形で士道は危機を脱する。凄く嫌な舌打ちが聞こえてきた気がするが、耳がおかしくなって聞こえないという事にしておいた。

 美九を言い訳に使う形になり申し訳ない気はしたが、元々は彼女の歌を聴くためにここに来たので聞き逃すわけにはいかなかった。琴里もそれを分かっていて仕方なく引いてくれたのだろう。

 

 ステージの中心にスポットライトが照射される。

 

 

『皆さん、ありがとうございます。今日は特別に――――――私の大事な歌を、歌おうと思います』

 

 

 そうして、流れ始めた曲と共に、誘宵美九は歌い上げる。その曲は――――――

 

「これは……」

 

「宵待月乃の、曲だ」

 

 奏でられる優しく、強い旋律。士道と狂三が気づかないはずがない。間違いなく、あの時に聴いた宵待月乃の曲。失声症を患ってしまった彼女が、本当ならステージで歌うはずだった曲を、彼女は誘宵美九として高らかに歌っていた。

 〝声〟の力は込められていない。人を惑わし、虜にする霊力は備わっていない。でも、そんなもの必要ないと、もう誰もが知っている。前に士道が彼女のステージを見て、感じたこと……それが最初から真実だったのだ。

 

 誘宵美九は〝アイドル〟なのだ。霊力だとか精霊だとか、そんなものは関係ない。この姿を、この曲を聴いて誰が文句を言えよう。皆に笑顔を、幸福をもたらす〝アイドル〟――――――それこそが、誘宵美九(歌姫)の真実。

 

 曲が、終わる。

 

『……っ』

 

 美九が目を見開いて、そうして涙を流した――――――会場が壊れんばかりの大歓声。ここにいる誰もが、美九の歌を受け入れていた。彼女の、美しき歌姫の声は、万人を魅了して見せたのだ。

 

『あり、がとう……ございます。本当に――――――』

 

 涙に濡れる彼女を励ます声が響き渡る中、美九が言葉を紡ぐ。そして――――――

 

 

『だーりん……大好き……っ!!』

 

「…………!?」

 

 

 とんでもない超ド級爆弾が投下され、会場はどよめきに包まれた。

 何より直撃したのは他ならぬ士道。顔面に脂汗を浮かべ、心臓が爆音を鳴らしている。

 

 何故だろうか、怖すぎて、隣が、見れない。

 

「だーりん……ねぇ」

 

「っ!!」

 

 爆音だと思っていたが、甘かった。その冷た過ぎる声を聞いて、鼓動は更に速度を増していく。未知の領域、ネクストレベルも驚きだった。

 

「現を抜かした記憶はないと、確かどなたか仰っていましたわねぇ。さて――――――どこのプレイボーイなお方なのでしょう」

 

「……その、ですね。これは色々と誤解と言うか……」

 

「ああ、ああ。別に構いませんのよ、構いませんのよ。わたくしはその方の恋人でもなんでもありませんもの。でェも、複数の女性との関係には、わたくしは理解があるつもりですわよ、だーりん?」

 

「…………は、はは……」

 

 人間、本気でどうにもならないと笑うしかなくなるらしい。果たして隣の少女がどのような顔をしているのか、脳内狂三フォルダを所持している士道としては最高に気になる気持ちと、見たら物理的に喰われるのではないかという気持ちがひたすらにせめぎ合っていた。

 

 ヤバいヤバいヤバい。そうだ、こういう時こそ頼れる妹様がいるではないか。さり気なくインカムを叩いて助けを求める。

 

『ぷっ……くくっ……モテる男は辛いわねぇ、だーりん?』

 

 前言撤回。全く頼れないし何だったら敵だ。

 

 

「あら、あら。そんなに汗をかかれて如何なさいましたの? ねえ、し・ど・う・さ・ん」

 

 

 おかしいなぁ。彼女に名前を呼ばれる事はとっても幸せな事のはずなのに、今は凄く冷や汗しか出てこない。

 

 この戦争(デート)、勝ち目は果たしてあるのだろうか。取り敢えず今は――――――凄絶な微笑みを浮かべているであろう愛しい少女を鎮める言葉と行動を、士道は必死になって思考するのであった。

 

 

 






このあとめちゃくちゃデートした。

Q.最後のオチがやりたかっただけだろ!! A.そうです!! きょうぞうちゃんジョークだし次章でチラッと触れる予定なのでゆるして。

はい、という事で長かった美九編エピローグでした…長かった、本当に長かった。どこまで変えて良いのかとか考えながら書いていき、なんか凄いライブ感しかない章になってしまった気がします。いつもの事と言われると反論のしようがないのですが、これからも精進していこうと思います。こんな小説でもこれからもお付き合いくださると嬉しいです。目指せ完結。

琴里ちゃんによるとある精霊考察。皆さんはどこまでが本当か、推理できるでしょうか。少女は何を知り、何から生まれたのか。

次章は七罪編……ではないんですよね残念ながら。短めの章になるとは思いますが、一つ間に別のお話が挟まります。ごめんねナツーミ。
ちなみにオリジナルの章ではないとだけ言っておきます。皆さん是非予想してみてください。感想欄で待ってます(媚び売り)

それでは新章でお会い致しましょう。感想、評価などなどお待ちしておりますー。次回をお楽しみに!!
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