デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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新章。〈アンノウン〉が単独では初の章タイトルと相成りました。物語も中盤戦、そろそろ色々な事が分かったり分からなかったり…それでは新章、なんのお話なのか予想しながらお楽しみください

サブタイトルで大体予想がつく?デスヨネー





〈アンノウン〉ワースレス
第五十一話『審判の刻』


 

 

 〝精霊〟。隣界より顕現せし、強大な存在。人類の脅威とされる彼女たちは、目的、行動ともに不明。ただ理由もなく顕現していた者、他者を思いやりながらその力に振り回されていた者、人間社会に適合しながら生きていた者……精霊の生き方に決まった法則はない。

 共通点は二つ。存在しているだけで世界の天災となる力を持つということ。もう一つは、どの精霊も〝意味〟を持って生まれたこと。いや、生まれ変わった(・・・・・・・)と言うべきか。

 

 その存在には〝意味〟がある。その存在には生まれ持った〝価値〟がある。それが、根源より生み出されし精霊という概念。だが、もしも……そうでないものが、生まれ落ちていたとすれば。誰に望まれた存在でもない天災(精霊)が、この世に許されているとしたら。果たして、その存在に〝意味〟と〝価値〟はあるのだろうか――――――ない。ないのだ、何も。

 

 少女の存在に〝意味〟などない。少女の存在に生まれ持った〝価値〟などない。生み出された意味がなければ、〝精霊〟に先天的な理由はない。少女にあるのは、後天的な理由(後付け)だけだ。

 

 なぜ自らは生まれ落ちたのか、それを根源に問いかけることを少女はしない。きっと、根源ですら答えようがない。だって〝意味〟はないのだから。そうして、自らに〝価値〟を見出すことを求めない歪な少女。理解されない行動を繰り返し続ける。まるで、初めから壊れている機械のようだった。

 

 

 ――――――美しい、人を見た。

 

 ――――――理不尽な行いを、見た。

 

 

 多分、その瞬間、少女は少女として己の世界を確立した。究極的な後付け。〝意味〟を持たない者が、ただの偶然でボタンを掛け違えた、それだけの事で持ち合わせてしまった存在理由。

 

 もし生まれ持った記憶が主観的なものだったなら、決して起こりえなかったエラー。それでも構わない。歪でも、壊れていても、存在に意味がなかったとしても、少女の全ては――――――美しき、女王のために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぷっ……はぁ!!」

 

 冷たい水分を一気に取り込むと、熱が篭った身体を一心に冷やしてくれる。荒れた呼吸のまま息をついた士道は、力尽きるように広大な芝生に倒れ込んだ。と、言っても公園の芝生なので広大と言ってもたかが知れていたが、士道にとってはどうでもいい事だ。

 運動をした後に起こる特有の疲労感に身を委ね、彼は高鳴る心音を押さえようと休息する――――――が、心音は鳴り止むどころか激しさを増した。その理由を少年は簡単に察する事が出来た。

 

 分からないはずがない。もう何度目かの心地よい感覚を士道は受け入れていた。いや、拒絶する理由など最初からないのだ。

 

 

「おはよう――――――狂三。良い天気だな……お前がもっと輝いて見えて、最高だ」

 

 

 目を開ける。彼の目の前に、女神がいた。太陽の光さえ霞む、神々しい美しさの少女がいた。光栄にも顔を覗き込まれながら、彼女は少年の口説き文句に慣れた笑顔で答えた。

 

「おはようございます、士道さん。ええ、ええ……そういう士道さんも、いつにも増して凛々しいお顔ですわ。素敵ですわ、最高ですわ」

 

「……褒めすぎじゃないか?」

 

「うふふ、士道さんこそ」

 

「俺はいいんだよ。狂三が美人なのは事実なんだから」

 

 士道は自分の顔を平々凡々だと思っているし、悪くはないが褒めるほどでもないと考える。対して狂三は誰がどう見ても超ド級の美少女なのだ。というか、精霊は美少女でなければならない理由でもあるのだろうか? 士道が知る精霊は、顔を見せない〈アンノウン〉を除いて誰一人例外なく超が複数個余裕で付く美少女しかいないのだから、下世話といえど士道の疑問は不思議なものでは無い。

 と、士道がそんな事を思っているとは露知らず、彼のお世辞抜きの言葉を少し困ったような、それでいて照れたような表情で狂三が言葉を返す。

 

「あなた様こそ褒めすぎですわ……それにしても、如何なさいましたの? 突然、身体を動かす素晴らしさに目覚める士道さんではありませんでしょう?」

 

「ん、まあ……そうだな……」

 

 狂三の言う通り、ジャージ姿で朝からランニングをしているのは身体を動かしたかったからでもないし、増してやプロテインの貴公子になりたい訳でもない。流石の士道も筋肉バカになって狂三をデレさせられるとは思っていない。

 理由を話すのは簡単なのだが、少し恥ずかしい上に笑われてしまうかもしれない。ただ、狂三にならそれも良いかと開き直り彼は理由を語り始めた。

 

「……この前の事があったからさ、少しでも鍛えられたらって思っただけだ。みんなを……お前を守れるくらい、俺は力が欲しいと思った」

 

「わたくしを……?」

 

 あの時、天央祭の事件で、士道は己の無力さを痛感した。DEMに対抗出来たのは、偏に狂三の協力があったからに他ならない。彼女がいなければ、十香や美九を救う事が出来ず士道の命は今頃現世にはなかったかもしれない。

 ……精霊という異質な力を扱う事が、このような普通の運動で負担が軽減されるかどうかは分からなかった。しかし、何もしないよりはマシだと思ったのだ。

 

「ああ。笑ってくれていいぜ。狂三くらい強いなら余計なお世話だって……」

 

「笑ったりなんか、いたしませんわ」

 

 ふわり、甘い香りが鼻をくすぐる。それが、彼の隣に腰をかけた狂三の芳香だと気づいて、士道はドキリと胸の鼓動が早まるのを感じた。

 

 

「ああ、ああ。お優しい士道さん。その優しさを、甘さを、一体誰が笑えると言うのでしょう。たとえ、あなた様の想いが無謀なものであろうとも――――――わたくしだけは、受け入れて差し上げますわ」

 

 

 愚かしいと嘲笑う者もいるだろう。ただの人間が何を言うのだと、見下す者がいるだろう。けれど、時崎狂三は彼の想いを否定しない。出来るわけがない。その純粋さに、危うさに、全てを救われた者たちがいるのを知っている――――――救われるわけにはいかない、愚かな女を識っている。そんな彼女だから、士道の無謀とも言える想いを受け入れたいと思うのだ。

 

「そっか……ありがとう、って言うべきか?」

 

「士道さんが仰るのも、おかしな話ですわね。しかし……このような場所よりも、琴里さんにお話して〈フラクシナス〉の設備をお使いになればよろしいのでは?」

 

「それじゃお前に会えないだろ」

 

 迷いなく返答する。確かに〈フラクシナス〉にはそういった設備が存在することは、士道も知っていた。以前、別件で耶倶矢と夕弦の特訓に顕現装置と艦内設備を併用し、様々な環境を再現する事が可能な仮想訓練室を使用した事がある。琴里に相談すれば、それを使わせてもらうことも可能かもしれない……ちなみに士道の予想としては、徹底的にしごかれるか、そんな事してる余裕ないでしょと切り捨てられるかの二択である。

 五河士道。学業主夫業加えて精霊たちのメンタルケア。忘れられがちであるが、学生とは思えぬ恐ろしいまでの多忙さなのだ。今日だって、朝早くから出たからこそランニング出来ているに過ぎない。

 まあその辺は建前で、今言った理由が九割ではあったのだが。〈フラクシナス〉の中では、こうして外で狂三と会うことが出来ない。戦争(デート)を果たせないのだ。それは、何よりも問題にすべき事だった。

 

「……あら、あら。正直者ですわね」

 

「当たり前だろ。俺はいつも私情で動いてるからな」

 

 得意げに笑いかけながら士道は言葉を返す。元より、損得抜きにして士道は狂三のために、精霊を救うために動いているのだ。みんなは、自分の事を優しいと言うが、そんな大層なものではないと士道自身は考えていた。狂三に惚れて、惚れた女という理由で彼女を救おうとするなど、不純極まりない人間なのだ。

 そんな士道の顔を見て、狂三がクスリと微笑んだ。

 

「仕方のない人……まあ、わたくしも――――――」

 

「うお……っ!?」

 

 士道の身体が僅かに浮き上がった。驚きの声を上げる一瞬の間に、彼の身体は再び着地をしていた。

 

 

「――――――そんな士道さんが、大好きですわ」

 

 

ただし、頭の下に狂三の柔らかい膝(・・・・・・・・)があり、真上には最初より近く彼女の端整な顔立ちが見て取れる状態になっていた。俗に言う〝膝枕〟である。

 

「……やられたよ」

 

「ふふっ、油断大敵ですわ」

 

 人差し指を唇に当て、悪戯っぽく笑う狂三。いつだってどこだって、士道と狂三の関係は〝攻略〟しあう仲なのだ。この場合、一瞬で攻めの姿勢を取った狂三の早技の勝利だった。

 だが、そういう事情を抜きにすれば大変役得だと思わざるを得ない。柔らかく、どんな高級枕より心地の良い狂三の膝枕。彼女から感じる芳香が、士道の心を落ち着かせてくれる。

 

 たまには、こういうのも悪くない。好きな少女の膝元で、士道は目を閉じる。優しく吹く風までもが、気持ちを更に落ち着けてくれる。

 

「…………平和だな」

 

「ええ、ええ。つい先日の騒乱が嘘のようですわね」

 

「こんな平和な時間が、いつまでも続けば良いのにな……」

 

 精霊とAST争うことなく、DEMの陰謀もなく、酷く穏やかな時間。誰もが幸せに暮らせる時間が、いつまでも続いて欲しいと士道は願う。

 

 

「それは――――――叶いませんわ」

 

「…………」

 

 

 ――――――例えそれが、今は叶わぬ夢物語だったとしても。

 

 今は平和な時間を共有していても、士道と狂三は相容れない。士道の望む平穏を、狂三は受け入れる事が出来ない。交わらぬ平行線は、彼女の寂しげな微笑みが存在を証明していた。

 分かっている。それが並大抵の決意ではないことくらい。分かっていて、士道はこの道を受け入れ、選んだ。

 

「狂三――――――」

 

 手を伸ばし、狂三の顔に触れる。彼女がそれを拒む事はなかった。精霊の頬は、人と変わらぬ温かさを手のひらに感じさせる。誓ったのだ、その温もりを、士道は絶対に……。

 

 

「俺が、お前を――――――」

 

 

 見つめ合い、士道が言葉を紡ぐ――――――

 

「……っ」

 

「狂三……?」

 

 瞬間、狂三が士道から目を逸らした。恥ずかしいとか、そういったものでは無い事は彼女の一挙動に至るまで見逃さない士道には分かる。言うなれば、何かに驚いたように顔を上げたのだ。

 疑問を感じた士道もまた、その視線を彼女と同じ方向に向け――――――少女が、いた。

 

 

「……あの、子は……」

 

 

 見覚えはなかった。あるはずがない。精霊を見た時のように(・・・・・・・・・・)、強烈な印象を叩きつけられて、見覚えがあるなどと言えるはずがない。だと言うのに、彼女を知っている気がする、そんな不思議な感覚が士道を襲う。

 

 腰まで靡く金色の髪。それを小さくサイドテールに括り、来禅高校の物とは違う純白の制服を見に纏った美少女。桜色の瞳と似た色をした鞄には、いくつかのストラップが付いていた。可愛らしい顔立ちとは裏腹に、感情の起伏が薄いと思わせる凛とした表情。

 

 一瞬で特徴を拾い上げた事に自分で驚きながらも、それほどまでに少女から目が離せなかった。そして、一つ瞬きをして――――――その少女は、消え失せていた。

 

「は……っ!?」

 

 思わず大急ぎで飛び起き、辺りを見渡すが少女の姿はどこにもなかった。見間違えか? いや、そんなわけはない。なぜなら、自分だけではなく狂三も少女を見つけていた筈なのである。だからこそ、士道も少女を見ることになったのだから。

 しかし、士道だけが見た幻覚でないのなら、一瞬にして消失した理由に説明がつかない。

 

「……士道さん、上を」

 

「上――――――!?」

 

 同じように士道の隣に立った狂三が指し示した方向に従い、彼は空を見上げて……再び驚愕を顕にした。

 

「な……んだ、〝アレ〟……!?」

 

 戦くように片足を一歩下げて、士道は目を見開いた。〝アレ〟と称された物は、青空の下で悠然と浮かび上がっていた。直径で言えば〈フラクシナス〉を優に上回る超巨大な〝球体〟。それが今、士道の真上に浮かんでいたのだ。振り落ちるわけでもなく、ただ球体が重力を無視してそこに存在していた。

 

「――――――これは」

 

「あれが何か分かるのか、狂三!?」

 

「……まだ断定は出来ませんわ。少々、お待ちくださいまし」

 

 焦る士道とは裏腹に、狂三はあくまで冷静な表情で……しかし、いつもの彼女よりは困惑を交えた顔で彼の言葉に答える。深く息を吸い込み、神経を集中させるようにゆっくりと狂三が目を閉じた。何かを探っているかのような彼女の動きを、士道は邪魔をしないように固唾を呑んで見守る。

 数十秒の間、ジッと目を閉じていた狂三が瞼を上げる。そして、細目で球体を見上げ口を開いた。

 

「やはり、この霊力は……」

 

「霊力……じゃあ、あれは新しい精霊、なのか……?」

 

「いえ、そうとは言えませんわ。この霊力は――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――十香さん達のもの(・・・・・・・・)、ですわねぇ」

 

 複雑に絡み合う複数の霊力。他の者より探知に長けるとはいえ、所詮は精霊単独の感知能力であるため、まだ完全に断言することは出来ないが……ほぼ間違いなく、あの球体は十香たち封印された精霊の霊力を保有していると『狂三』――――――メイド服を着た狂三は判断する。

 建物の屋上より遥か上に浮かぶ霊力球体。あれが、仮に精霊の〝天使〟だとしたら狂三ですら見た事がない超巨大規模の物、という事になる。

 

「……あなたは、あの球体についてご存知ありませんの?」

 

 狂三をして知識に存在しない規格外な霊力球体。あの球体の出現から口を開いていない白い少女へ向かって、彼女は問いを投げかける。

 

 佇む白い少女の視界に映る、水晶を思わせる球体――――――

 

 

「――――――システムケルブ、か」

 

 

 審判の時は来た――――――裁定を、始めよう。

 

 








というわけで〈アンノウン〉編という名の万由里ジャッジメント編、開幕です。ちなみに章のタイトルは結構ギリギリまで悩みました。つまり深く考えてません(?)
短くなると言ったな、あれは美九編と比較しての私の体感だ(散々文字が嵩んで話数が増えまくった前科ありあり)

士道と狂三がイチャつくのはもうデフォなのでいつも通りなのですが、今回はキーパーソンの万由里、白い少女こと〈アンノウン〉の二人もメインとなる予定です。お楽しみいただけるかは分かりませんが頑張りたいと思います。なんでシステムケルブという作中でもとある一人しか知らなかった単語を知ってるんでしょうね(棒)

それではまた次回をお楽しみに!感想、評価などなどいつもありがとうございます!! と同時に変わらずお待ちしておりますー

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