デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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正式参戦じゃないけど頻繁にスポット参戦してくれるクソ強味方ユニットみたいなヒロインしてますね。そんな感じの原作じゃほぼ訪れない場所にいる狂三ちゃんの回




第五十二話『デート、再び』

 

 

「それじゃあ、あなた達には――――――」

 

 琴里が咥えていたチュッパチャプスを口から離し、〈フラクシナス〉の画面上に表示された一見(・・)、何も無いように見える空間を棒で指し示しながら言葉を続ける。

 

「この辺に大きな球体が見えている……って認識で間違いはないわね?」

 

「あ、ああ」

 

「ええ、ええ。相違ありませんわ」

 

 そう、と再び飴を口に含んだ琴里がポジションを直すように一度座り直しながら、コホンと咳払いを一つ。そうして、士道の隣に立つ少女へ向かって半目で疑問を投げかけた。

 

「…………ねえ、なんで狂三までここにいるのかしら」

 

「は、はは……」

 

 半笑いで誤魔化せるはずがないのは分かっているのだが、なんと答えて良いものかと士道は思わず頬を掻きながら目を逸らして笑う。

 士道に見せるものとは違う怪しい微笑みは、その思考を読ませないための物なのだと思う。それ以外はいつもと遜色ない狂三が艦橋の下にいた……〈フラクシナス〉の艦橋に、である。

 

「あら、あら。精霊保護を謳う〈ラタトスク〉も、わたくしは受け入れてくださらないと仰るのですね。悲しいですわぁ、泣いてしまいますわぁ」

 

「な……そ、そんなこと言ってないでしょ!!」

 

「では、お気になさらないでくださいな」

 

「…………」

 

 泣き真似をしたと思ったらケロッとした顔で言う狂三に、こいつ……と言いたげな目で琴里は彼女を睨めつける。言葉巧みな話術と百面相を思わせる演技力は、相変わらず兄妹揃って翻弄されているなぁと感心してしまう士道だった。言うまでもなく、翻弄される事には彼も関わっている自覚があった。

 

 

「うふふ、そんなにご心配なさらずとも、わたくしは何も致しませんわ。不確定要素を確定させる、そのために着いてきたに過ぎませんもの――――――そこの〝狂犬〟さん次第では、吝かではありませんけれど」

 

「……はっ、言ってくれるじゃねーですか」

 

 

 琴里とのどこか和やかな空気から一変、狂三が挑戦的な視線を向けた瞬間に殺気が二人の間に流れる……琴里の側に立つ、崇宮真那との間に。思わず鳥肌が立つような殺意のぶつけ合いに、士道は慌てて二人の間に入った。

 

「ちょ、二人ともよせって!! 狂三も真那を煽らないでくれ!!」

 

「真那、ステイ。くだらない挑発に乗るんじゃないの」

 

 真那がDEMから〈ラタトスク〉側に入ったと言っても、狂三と真那の関係性が変化したわけではない。このように、一歩間違えたら即座に殺し合いに移行しかねない……真那はともかく、狂三はなんだか反応を面白がってわざとやっているように思えるが。ここへ入った時も一悶着あったが、何とか真那を引き剥がして事なきを得たのだ。

 多分、真那が精密機械だらけの艦橋で暴れるような事はしないと分かっているのだろう。いつ飛びかかってもおかしくない真那に引き換え、狂三は士道の目から見ても非常に無防備だった。琴里もそれを分かっているからこそ、未封印の状態の精霊が暴れたらひとたまりもない艦の内部へ滞在を許している。

 狂三が肩を竦めて視線をモニターへ向け、真那も琴里の言葉に従いひとまずは殺気を納めた……まあ、相変わらず鋭い視線を向けてはいたので諌める琴里がため息を吐くのは変わりなかったが。

 

「……話を戻すわよ。狂三、あんたはその見えない球体の不確定要素、ていうくらいなんだから大体の見当はついてるんでしょうね?」

 

「あくまで推測の段階ですわ。わたくし一人の〝感知〟では不安がありましたので、琴里さん達のお力をお借りできれば……と思いましたの」

 

「――――――解析、出ました!!」

 

 狂三の声に続く形でクルーの声が響き渡る。メインモニターが切り替わり、士道と狂三が見た球体と同じものが映し出された。正確には、感知した霊力をその形に再現したものだろう。つまり、隅から隅まで霊力で構成された〝霊力球体〟という事になる。

 

「確かにその座標から、球形に放出される微弱な霊波が観測されています」

 

「本当にあるのね……でも、これが狂三の知りたかった事ってわけじゃないわよね」

 

「ええ。わたくしが確かめたいのは、これより先の事象。この球体の霊力が誰のもので構成されているか(・・・・・・・・・・・・・)、ですわ」

 

「……その口ぶりだと、心当たりがあるのかしら。まさか、私たちの知らない新しい精霊の物?」

 

「いいえ、いいえ。それこそまさか、ですわ。新しい精霊の物ならば、わたくしがここにいることはありえませんもの」

 

 仮にこの球体が、今までと同じように新しい精霊のものだったならば、狂三が〈フラクシナス〉まで足を運ぶ理由はない。新たな精霊の攻略、と言うならば出しゃばらず士道と別行動を選んだ事だろう。

 極めて〝イレギュラー〟と言える事態だからこそ、狂三も万全を期してこの場に来ることを選んだ。

 首を振り否定する狂三を見て、ますます訝しげな表情になった琴里が声を発する。

 

「勿体つけるわね。何よ、知らない精霊じゃないって言うなら、今いる誰かの霊力(・・・・・・・・)で出来てる……なんて言うんじゃないでしょうね」

 

「あら、流石は琴里さん。ご明察ですわ」

 

「は?」

 

 肯定されるとは夢にも思っていなかったのか、目を丸くした琴里を後目に狂三はとある人物へと視線を向ける。コンソールの前に座り、高速で機械を操作する女性へ。

 

「そうでしょう――――――令音先生」

 

「……ああ。恐らく、キミの感知とこちらの計測結果は一致している」

 

「ええ、ええ。わざわざ確かめに来た甲斐がありましたわ」

 

 華麗な作業効率とは裏腹に、相変わらず身体に悪そうな目の隈を抱えた令音が狂三の言葉に頷き、彼女もまた令音の言葉を聞き確信を得たという表情で笑う。

 何やら二人だけで分かり合ってしまった狂三と令音を見て、琴里が慌てたように声を上げる。

 

「ちょっと、二人だけで分かった風にならないでよ!! ご明察って……まさか、本当に……!?」

 

「……一見複雑な波長をしているが、球体の要素を分解してみると一つ一つはとある六人の霊波(・・・・・)と酷似している。つまり――――――」

 

「この霊力球体は、十香さん、四糸乃さん、耶倶矢さん、夕弦さん、美九さん、そして琴里さん……士道さんが封印なされた精霊の方々の霊波が、何らかの形であのように構成されている、というわけですわ」

 

「なんですって……!?」

 

 琴里が驚くのも無理はない。総勢六人もの精霊の霊力を兼ね備えた謎の球体。狂三ですら自らの感知を疑ってかかり、こうして確証を求めてしまったのだから。

 

「私たちの霊力……」

 

「なんだぁ、全部司令の悪戯だったんですかぁ。もうー人騒がせなんですからぁー。このこのー」

 

「……ふんっ!!」

 

 非常にウザい声色で琴里をツンツンと指で突っついた神無月に対して、チュッパチャプスの棒部分を華麗に回転させ彼のその指を勢いよく逆方向へ折った。痛い、地味にめちゃくちゃ痛いやつだ。士道はそう思ったのだが、神無月が歓喜の表情で悶えているのもいつもの事であった。

 

「ひぎぃ!! 地味なのありがとうございます!!」

 

「……いつも、ああですの?」

 

「まあ……恥ずかしながら」

 

「個性と能力は、やはり別物ですわね……」

 

 本人ではないのに聞かれた士道がなんだか恥ずかしくなり、別の意味で顔を赤くした。クルー全員、例外なく優秀な反動なのか、慣れた後にこうして改めて指摘されるとキャラの強烈さが露呈してしまう気がした。狂三の言うように、どこに出しても恥ずかしくない能力を持っていようと性格的な問題はまた別の話なのである。

 と、今度は令音の方から狂三へ言葉と視線を向けた。

 

「……しかし、これほど複雑に絡み合った霊波をよく個人で感知出来たものだね」

 

「そう難しいものではありませんわ。経験を積んだ精霊なら誰でも出来る技術ですもの」

 

「……培われた経験値、というわけか。それほど、精霊としての(・・・・・・)歳月を重ねているのかい――――――君と共にいる彼女(・・)も」

 

「さあ、令音先生のご想像にお任せしますわ」

 

 そこまで答える義務はない、というかのように狂三は見惚れるような微笑みを浮かべ言葉を濁す。探りを入れたのか、はたまた純粋な彼女の興味なのか、令音も表情を変えること無くそうか、とそれ以上の追求をする事はなかった。

 

「それで、そんなご大層な感知能力を持ってるあなたの〝推測〟とやらは聞かせてもらえるのかしら? この球体があなたと士道だけに見える理由――――――こんなものが現れた訳を」

 

 琴里が鋭い目付きで問う。ここまで余計な口を挟まなかった士道も、ここより先は知りえない領域という事もあり狂三へ促すような視線を向ける。あれが十香たちの霊力で出来ている可能性が高いというのならば、狂三の状況を推察する飛び抜けた観察能力は頼りにしたいところではあった。

 ここに至って勿体ぶるつもりはないのか、琴里の問いと士道の視線を受け、考えを纏めるように顎に手を当てながら狂三は言葉を紡ぎ出した。

 

「先ほども仰りましたが、あくまでわたくし個人の推測に過ぎませんわ。どちらの疑問に関しましても、わたくしでは証明のしようがありませんわ 。それでもよろしいでしょうか?」

 

「構わない。頼む」

 

「……わたくしと士道さんだけに霊力球体が見える事に関しましては、球体が何かしらの隠蔽能力を持っていると仮定致しましょう。それを、わたくしは自らの、士道さんは霊力の加護を用いて無力化していると推測出来ますわ」

 

 原理としては狂三の〈時喰みの城〉の影響を軽減し、つい先日には美九による〝声〟の洗脳を士道が拒絶したものと同じだ。霊力による影響を霊力によって弾く。霊力に対抗出来るものは、同じ霊力なのである。

 なるほど、と加護の恩恵を受けている本人の士道が納得したように頷く。とても理にかなった推論だ。

 

「ただし、確定ではありませんわ。証明が出来かねますもの」

 

「そうね……じゃあ、封印した霊力を逆流させて確かめましょう、ってわけにはいかないもの」

 

 理屈だけで言えば琴里なら今すぐ確かめられるのであるが、まさか何かしらの関係がある霊力球体が出現している中で不用意に霊力を逆流させる事など出来るわけがない。何が起こるか分かったものではなく、確証を得られるメリットと危険なデメリットがまるで見合わない。ナンセンスね、と戯けるように声を発する琴里に同意するような形で狂三は言葉を続ける。

 

「ええ。次はこの霊力球体が出現した原因につきましてですが……令音先生は、わたくしと同じ推論を持っていらっしゃるのではなくて?」

 

「……狂三と全く同じかは分からないが、私なりの推測は持ち合わせている」

 

「っ!! 令音、本当?」

 

「……ん。この球体は、精霊たちの無意識の現れなのではないかと私は考えている」

 

「ええ、ええ。やはり、令音先生も全く同じ推論でしたのね」

 

「……どういう事だ?」

 

 この手の話に関しては、てんで入っていくことが出来ない士道は素直に首を傾げる。琴里たちの霊力で構成されたあの球体は、彼女たちの無意識の何かによって出現した、という事だろうか。しかし、その無意識の現れとは一体……。

 

「つまり、封印した精霊の精神状態が何らかの形で不安定になった時、霊力の逆流が起こるように……あの球体が琴里さん達が抱く感情によって具現化したのだとしたら、面白いとは思いませんこと? そう、例えば――――――」

 

 一つ、学校の美人教師が例を上げるように人差し指を立て、言葉通り楽しそうな笑顔で狂三が驚くべき言葉を続けた。

 

 

「士道さんへの独占欲、なんて推測は如何でしょう?」

 

「――――――はぁ!?」

 

 

 突拍子のない狂三の発言を聞いて琴里がコンソールを叩きながら立ち上がる。無論、驚いたのは琴里だけでなく士道や他のクルー達や相変わらず狂三を警戒している真那も同じだった……唯一、彼女と同様の推察をしていた令音だけは依然として冷静な表情だったが。それ以外の面々は驚くな、という方が無理な話であろう。

 狂三の推測に顔を真っ赤にしながら琴里が声を荒らげる。

 

「い、いきなり何言ってるのよあんたは!! ど、独占欲なんて……」

 

「あら、あら。皆様が士道さんをお慕いしていらっしゃらないと、少しもそういう感情を持たないと仰るのですか? わたくしだけしか士道さんの魅力を分かっていないなんて、悲しいですわ、残酷ですわ」

 

「んな……!! か、勝手に決めつけないでよ!! 私だって士道の事が好きに決まって――――――はっ!!」

 

 やれやれ、と言わんばかりのわざとらしい仕草の狂三に綺麗に乗せられた琴里が、更に見事なまでの誘導尋問に引っかかり口を滑らせた。クルーの生暖かい視線と、士道のなんとも言えない視線……あと、死ぬほど腹が立つ狂三の楽しげな視線がそれぞれ琴里へ突き刺さった。

 

「と、このように精霊の皆様が内心で欲求を膨らませていたとしても、何ら不思議な事ではありませんわ。人の心という物は、自分でも予期せぬ方に揺れるもの――――――わたくしが言えたことでは、ありませんけれど」

 

「……ふんっ。最後だけは同意してあげるわ」

 

 最後の自嘲気味に呟かれた言葉を拾い上げ、琴里はふんぞり返るような勢いで司令席に再び座り込む。

 士道はその光景を見ながら、狂三の言葉を内心で繰り返した。己の心は、自分でも予期しない方向に揺れ動く……狂三だけでなく、士道がそうであったからこそ今の二人の関係性はある。思えば、普段は自信満々で大胆不敵を地で行く狂三が稀に自嘲するような発言をするようになったのも、戦争(デート)が始まった以降だった。

 本音で話すのは良い事なのだが、あまり自分を低く見るような発言は好ましくないと士道は思う。特に、彼女は普段の言動とは裏腹に本音では自らを低く見ているきらいがある――――――どんな狂三であろうと愛している士道にとって、好ましい思考とは言えない。

 とにかく、目の前の問題を解決する方が先かと士道は話を纏めるように声を発した。

 

「じゃあ、狂三と令音さんが言うように琴里たちの霊力があの球体に込められてるとして……何か解決策はあるのか?」

 

「……まだ断定が出来る段階ではないが、彼女たちの無意識が表面化していると仮定し、球体の調査と平行して精霊たちのストレス解消にかかろう」

 

「ど、どうやって?」

 

「――――――あら、あら。士道さんともあろうお方が鈍いのですね」

 

「……決まってるじゃないか」

 

 全く同時に狂三と令音の視線に晒され、思わずたじろぐ士道へ二人は声を完全にシンクロさせ、たった一つの聞き慣れた(・・・・・)言葉を具現化させた。

 

 

『――――――デート』

 

「え……えぇ!?」

 

 

 驚きの声を上げる士道だったが、ハモらせた答えをさも同然と言わんばかりに二人は手早く会話を進めていく。

 

「何を驚く事があるのでしょう。精霊をデートでデレさせ(・・・・)たのなら、彼女たちの欲求を満たすのもまた、デートという手段が効率的ですわ」

 

「……一人一人順番に、希望通りのデートをしてあげるんだ。その時間は……シン、君がその彼女だけのものになる」

 

「まあ、この方法が解決策に繋がるかまではわかりかねますが、やってみる価値はあると思いますわよ。平和な戦争(デート)――――――楽しんでみては如何です、琴里さん」

 

「……私としては、何もしないよりは良いかと思うのだが、どうだろうか?」

 

 最終決定権は司令である琴里にある。ので、二人の畳み掛けるような連撃にうぐっ、と顔を赤くした琴里が腕を組んで仕方ないという体裁(・・)を整えながら答えを返した。

 

「ほ、他に手がなさそうなら仕方ないでしょう!!」

 

「うふふ……決まり、ですわね」

 

「……頼んだよ、シン」

 

「は……はぁ」

 

 立ち上がった令音に肩を叩かれ、力なく困惑の表情で返事を返す。何やら急展、大変な事になってしまったらしい。

 

 デレさせた精霊と、もう一度デートする。狂三の言うように――――――今度は平和な戦争(デート)を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ……言わなくて良かったのか、あの子(・・・)のこと」

 

 〈フラクシナス〉の通路を二人で歩きながら、士道は狂三へ気になっていた事を問いかけた。

 必要な事は知り得たと言って、一人帰ろうとする狂三を送っていくと士道が着いていくことにした。当然、その時も真那と一悶着あったのだがそれは置いておくとしよう。とにかく、丁度いいと士道は疑問を口に出したのだ。

 〝あの子〟とは、霊力球体を発見する直前、二人の前に一瞬だけ姿を現した金髪の少女。不思議な雰囲気を持ち、あのタイミングで二人の前にいた事は無関係とは思えなかったのだが……その事を話そうとした士道を狂三は視線で制した。それが腑に落ちなかった。

 

「確証はないけど、関係ないとは思えないんだが……」

 

「そうですわね……単純に精霊の感情が具現化したというのなら、霊力による隠蔽が起こる可能性も低いでしょうし、第三者による何かしらの工作を疑ってかかるべきですわ。それがあの子かどうかまでは、やはり分かりかねますが」

 

「だったら……」

 

「でェも、それはあくまで〝可能性〟のお話ですわ――――――あなた様と十香さんたちのデートに、そのような疑念は不要でございましょう?」

 

「っ」

 

 振り向いて、士道の鼻先を指で突くように触れる。まるで彼を叱るような仕草に、狂三が意図している事が何となく分かった気がした。

 

「無粋な考えなど不要。士道さんは、皆様との平和なデートをお楽しみくださいませ」

 

「平和なデート……か」

 

「ええ、ええ――――――わたくしでは実現できないもの、ですわ」

 

「狂三……」

 

 その微笑みは、何を思っていたのだろう。士道と精霊のデートを喜ばしいと思う慈愛か、はたまた己では実現できない事柄に対する渇望か。

 平和な戦争(デート)は、彼に救われたものだけの特権。理由はどうあれ、霊力球体など関係なく皆は士道とのデートを心から楽しむ事だろう――――――それは、彼の救いを拒む時崎狂三には許されぬ事なのだ。

 その救いは美しいものだ。美しいが故に、罪人の狂三は手にしてはならない。己が罪を、愛しい人に背負わせるわけにはいかない。たとえそれを、五河士道が望んでいたとしてもだ。

 そんな諦めにも似た感情を抱く狂三を見て、黙っていられないのが士道という男だった。

 

 

「――――――俺は!!」

 

「……?」

 

「俺は……お前と何のしがらみもないデートをする!! してみせる!! いつか、絶対に……!!」

 

 

 彼女の背負う物を、彼女が為そうとしている目的を、士道は知らない。だが知らずとも、その重さ(・・)は分かっているつもりだ。その重さを目の当たりにしてなお、士道は救いの手を差し伸べることを止めない。それが命を対価として続く戦争(デート)

 

 

「何度だって言う。俺が、お前を救う」

 

「……わたくしを、愛しているから?」

 

「ああ。お前を――――――この世界の誰よりも愛してる」

 

「変わりませんのね、あの時(・・・)から。あなた様はいつも真っ直ぐで、眩しすぎますわ」

 

 

好きだから(・・・・・)、救いたい。原初の欲に塗れた、不純な動機。屋上のあの時、全てを振り切るつもりで望んだ狂三を打ちのめした彼の言葉。あれから数ヶ月、彼は何一つ変わらず、時崎狂三という少女を救う事を諦めていなかった。

 

「……わたくしの事を愛しているのなら、わたくしの願いも聞き入れてもらいたいものですわね」

 

「悪いな。我欲に塗れた俺には出来ない相談だ――――――それ以外なら何なりと、お嬢様?」

 

 気取った口調も、戦争(デート)を楽しむ処世術になりつつあった。きっと、彼らは幾度となく同じやり取りを繰り返すのであろう。

 好きだから、俺のものになって欲しい。好きだから、わたくしのものになって欲しい。他人から見れば焦れったく、意味の無いように思える。しかし、当人たちは最大限、この果ての見えない命懸けの戦争(デート)を楽しむための行動。ただひたすらに続く平行線――――――だからこそ、二人は共にいる事が(デート)出来るのだから。

 

 

「あら、あら。それでは、地上までエスコートをお願いいたしますわ。わたくしの、愛しい人(士道さん)

 

「喜んで。俺の愛する、お嬢様(狂三)

 

 

 礼をしながら差し出された手を、受け止める。

 

 この手のように、二人が本当の意味で交じり合う日が来るのかどうか――――――戦争(デート)の結末だけが、知るのだろう。

 

 

 







こういう形でしか分かり合えない悲しさか、こういう形だから今は共にいられる幸せか。歪な関係ですね。ややこしくしたの私ですけど。

常に参戦してると大体のことは解決してしまいそうな強キャラの雰囲気残したまま士道とイチャイチャさせなきゃならないのが困ったもので。主に重要なのは後者であるのは言うまでもry 甘々からロマンスまで変幻自在(になってるといいなぁ)

沢山のお気に入り、感想、評価ありがとうございます!どれも大変励みになっていて感謝感激です。これからも士道と狂三の関係を最後まで書いていくために頑張ります。

次回からはいよいよこの章のタイトルの子が登場。次とその次はかなりガッツリあの子に踏み込む話になる予定です。
感想、評価などなどお待ちしておりますー。次回をお楽しみに!!

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