デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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一体少女の本当の姿はどれなのか。少年に少女は救う事が出来るのか。


第五十三話『無価値の証明』

 

 

「ただいま戻りましたわ」

 

「あら、お帰りなさいませ『わたくし』」

 

「……あら?」

 

 大変名残り惜しいとは思ったが、士道と別れて拠点であるマンションへ戻った狂三を出迎えたのは、何のお店だと言いたくなる特殊な格好の『狂三』。具体的に言うと、メイド服に身を包んだ分身体だった……狂三自身が着込んでいるわけではないのだが、外見は自分とそっくりな上に他の過去(・・・・)まで思い出してしまって毎回頬が引く付くのを止められない。ちなみに思い出すもなにも、その黒歴史は分身体として今も残っていることは言うまでもない。士道には絶対に会わせられない狂三の秘密の一つである。

 そんな事はどうでもいいとして、綺麗なお辞儀で狂三を出迎えたのは『狂三』だけ。一応、辺りを見渡しては見たがいつも狂三を出迎える少女の姿はなかった。特に用事は言いつけていなかったので、少女がいないことに目を丸くしてしまう。

 

「あの子の姿が見えませんけど……どうかなさいましたの?」

 

「あの子でしたら、あの霊力球体を見て何かを呟いと思えば、すぐにどこかへ行ってしまわれましたわ」

 

「……わたくしに何も言わずに、ですの?」

 

「ええ、ええ。一応、しばらく留守にするとは仰っていましたわ」

 

「それだけ?」

 

「それだけ、ですわ」

 

 ふむ、と手を口に当て少女の行動を再確認する。あの子が単独行動を取る際は明確に狂三の指示があった時か、以前のように狂三が行動する際手を出さないように言いつけた時だけだ。それ以外は、基本的に狂三の指示に従って動いてくれている。だから今回も、あの霊力球体を見て狂三の事を待っていると思ったのだが……。

 

「あの子が……珍しいですわね」

 

「この地に来てからは、あの子の発言や行動を見る度にその言葉を口にしていますわよ『わたくし』」

 

「……そうでしたかしら?」

 

 そう言われて見ればと思ったが、言われてしまうほど口にした覚えもなかった。とはいえ、天宮市に拠点を置くようになってから、以前までとは違った少女の一面を見る事が多くなったとは思う――――――どれが果たして少女の本当の一面なのか、狂三でさえ窺い知る事が出来ない。

 狂三が精霊としてそれなりの年月を渡り歩いて来た中、常に彼女の傍には白い少女の姿があった。だと言うのに、狂三は少女の事をろくに知らないのではないかと思う時がある。それがまさに今、彼女に一抹の不安をもたらしていた。

 

「あの子ったら……」

 

「あら、あら。あの子の意志を縛るつもりはないと仰っていたのに、勝手にどこかへ行かれた事がご不満ですのね」

 

「別に、不満というわけではありませんわ」

 

 ムッとした表情で言葉を返す狂三に対して、『狂三』は対照的にこれは失礼と優雅な仕草で謝罪をする――――――以前に比べて、表情が読みやすくなったものだと『狂三』は思う。

狂三(オリジナル)は誰もが知るように大胆不敵、言い換えれば〝余裕〟という鎧を纏っている。それが彼女の超然とした表情や行動に繋がる技術なのだ。が、そんなポーカーフェイスを武器とする彼女が今のようにふとした時、素の表情を見せる時が増えた。こちらは素直になっている、と言い換えて問題ないだろう。

 

 これが一体どんな殿方の影響か、などと言うだけ野暮だろうと『狂三』はクスリと微笑んだ。

 

「素直に心配なのでしょう? それとも、ご不安(・・・)なのかしら」

 

「……口が過ぎますわよ、『わたくし』」

 

「うふふ、申し訳ありませんわ」

 

 言葉とは裏腹に露ほどにも悪びれた様子のない『狂三』を半目で睨みながら、狂三は少女の不可解な行動について考えていた。

 あの霊力球体を見て少女が何かしらの目的のために動き出した、それはまず間違いないだろう。それが少女が口にする〝計画〟に関係があるのかどうか――――――いや、たとえ関係があったとして、狂三に何一つ告げないとは何事か。と怒りにも似た感情が込み上げて来る。こんな事は初めての経験だった。

 

 

「さて、さて――――――わたくしの(・・・・・)共犯者は、一体どこへ行ったのやら……ですわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「なんか、大変な事になったな……」

 

 慣れ親しんだベッドに寝転がり……思い返すと、狂三に一目惚れして、それを認められずに悶えてた時が懐かしく感じる。あの頃は若かった、などと言えるほど昔ではないが、彼を取り巻く状況は半年という歳月とは思えないほど移り変わっていた。

 デートして、狂三の正体を知って、デートして、そして再び明日からみんなとデート。字面だけを書き上げたとして、あまりのプレイボーイっぷりに半年前の士道が知ったら、絶対に現実を認めないだろうなと彼自身笑ってしまう思いだ。

 

 大変な事、と呟きはしたが士道の浮かべる表情は物事を悲観して捉えているものでは無い。むしろ、口調とは逆で少し嬉しそうにさえ感じられた。

 

「みんなとデートか……一体、どんなデートになるんだろうな」

 

 順番はクジ引き。デートの内容は自由。それぞれ自分がしてみたいデートをしてくれれば良い……それが令音の指示した内容だった。つまり、士道ではなく精霊の皆が内容を決めるという事だ。今までにない平和なデートへ、士道は内容を把握しないまま望むことになる。不安がないわけではないが、それよりも楽しさへの期待が勝るのは否定できない。もっと言えば、いつもの戦争(デート)に比べれば余程気楽というのは大きい。

 

 ……まあ、気楽すぎてもいけないわけだが。そう思いながら、ふと士道は風に靡くカーテンを開き外を見渡した。

 いつもの街並みに〝異物〟として紛れ込む巨大な霊力球体。果たして、デートをする事によって何かが変わるのだろうか。そして、狂三には気にするなと言ったが、士道は金髪の少女の事も気にかかっていた。皆にデートの事を伝え、ふと外を見た時……また、彼女は一瞬だけ現れたのだ。

 デートが始まればその事だけに集中するつもりだ。だからこそ、今彼女の事が気にかかる。一応窓から周りを見渡して見るが、その姿は見えなかった。

 

「……いるわけない、か」

 

「誰がですか?」

 

 ひょっこり。逆さの白いローブが目の前に現れた。

 

「おぉおうっ!?」

 

「おっと」

 

 あまりに突然の事に慌てた士道が声を上げて飛び退き、当然ながらベッドの上でそんな事をすれば体勢を崩して硬い地べたへ真っ逆さま……と、それより早く白い影が部屋の中へ侵入し片手で士道を支えて事なきを得た。

 

「……大丈夫ですか?」

 

「あ、ああ。サンキュ……って、急に驚かさないでくれよ――――――〈アンノウン〉」

 

 白いローブを全身に身に纏い、その表情は外装に隠れて一度たりとも窺う事は出来ていない。識別名〈アンノウン〉。神出鬼没の精霊は、いつも突然の来訪で驚かされるばかりであった。そりゃあ、外を眺めていたら重量をあっさり無視した精霊が目の前に現れました、とか驚かない方がおかしい。

 

「……ああ、申し訳ありません。つい」

 

「つい!?」

 

「あなたは反応が新鮮なんですよ。前にも言いましたけど、我が女王は適応力が高くて驚かし甲斐がありませんので」

 

「代わりに驚かされる俺を気遣ってくれよ……」

 

 完全に面白半分のおもちゃ扱いで驚かされるのは、如何に士道と言えど遠慮願いたいものだった。その適応する前の狂三のリアクションには大変興味があったが。

 

「……で、今日はなんの用だ? まさか、脅かすためだけに来たわけじゃないだろ」

 

 ベッドから降り、改めて白い少女に向き直ってそう問いかける。少女が士道の元へ単独で訪ねに来たのは、これで二度目だ。一度目は、四糸乃の一件が終わった直後……士道へ狂三をどう扱うか、有り体に言えばそのような質問をしに来た時以来となる。狂三を通すことなく少女が来たということは、あの時と同じくそれ相応の理由があると警戒して然るべきだった。士道一人で判断出来る程度の物だと、ありがたいのだがと思わざるを得ない。

 

「私は様子を見に来ただけですよ。六人もの精霊とのデートを控えた少年がどんな様子なのかを、ね」

 

「……お見通し、ってわけか」

 

「ええ……まあ、そろそろ(・・・・)だとは思っていましたから」

 

「っ、何か知ってるのか……!?」

 

 この件について、あの霊力球体について――――――あの金髪の少女について。少女の言い方は、この一件が起こることを知っていたと言っているような物だ。詰め寄りながら声を上げる士道に、少女は肩を竦めて言葉を返した。

 

「……知る知らないで答えるなら、私は知っています。ですが今あなたが知ったところで、あなたの邪魔になるだけの事ですよ」

 

「どういう事だ……?」

 

「言葉通りの意味です。あなたは何も気にせず、女王たちとデートを楽しんでください。それがあなたの責務でもあり、ご褒美でもあります」

 

「……意味がわからん。結局、教えてくれないって事だな」

 

「はい。有り体に言ってしまえばそういう事になりますね」

 

 それなら何をしに来たんだ……と、思ってしまうのは当然の事だろう。勿体ぶって真相を語らないのは物語においてもよくある話だが、士道は今まさに勿体つけられる読み手の気分を味わっている。

 あからさまに不満げな表情の士道を見て、少女は相変わらず胡散臭い〝演技〟を重ねた声を発した。

 

「ふふっ、そんな顔をしないでください。本当に、教える方が不利益になりかねないと思っているんですよ」

 

「お前、もったいぶった言い方しか出来ないのか……?」

 

「その方が雰囲気が出るでしょう? しかし、その様子だと心配は不要でしたね。明日から頼みますよ、王様(・・)

 

「王様……?」

 

 慣れない呼び名に自分がそう呼ばれたのか疑問を浮かべ首を傾げた士道だったが、この場には白い少女と彼の姿しかない。ならば、〝王様〟という何やら大層な呼び方は士道の事を指していることに間違いはないらしい。

 

「あれ、五河琴里から聞いてませんか? 私の〝計画〟について」

 

「それは琴里から聞いたけど……それと王様、なんて呼び方になんの関係があるんだよ。俺はそんなご立派な人間じゃないぞ」

 

 少女の言う〝計画〟に関しては琴里から聞いている。少女には、何よりも優先するべき目的があること……そのためには、琴里や自分の存在は欠かせないということ。だが、その話と一体なんの関係があるというのか。少なくとも、士道は偉い立場になったつもりも、これからなる予定もない。王様、などという分不相応な呼び名は非常にくすぐったい。

 

 

「――――――本当に、そう思います?」

 

「え?」

 

「……六人もの精霊を封印し、その全ての霊力を宿す者。それが五河士道、あなたなのです。そんなあなたに何かあったら……どうなるか、考えたことあります?」

 

「それは……」

 

 

 そんなこと、考えても見なかった。今までがむしゃらに精霊を救ってきた士道だったが、今自分の身に何かあった時どうなるのか……脳裏に過ぎるのは、〝反転〟した十香の姿。もしかすれば、あの時以上に恐ろしい事が起こってしまうのではないか。

 少女の言うように霊力を宿した士道の身が危機的状況に晒された時、果たしてどうなってしまうのか。平和な生活を送っている彼女たちを、そして狂三を置いて士道に何かあれば、想像を絶する何かが起こる、そんな予感を覚え彼は息を呑んだ。

 

「……そういう意味で、あなたは〝王様〟なんです。五河士道という存在が崩れれば、そこで全てが終わります。あなた自身に留まらず、精霊も、世界も――――――当然、私の〝計画〟も」

 

「…………」

 

「それは、あなたの傍に寄り添う六人の女王にも言えることですが、何よりの〝要〟はあなたです……だからこそ、あなたが〝五河士道〟で良かったと私は思っています」

 

「……は?」

 

 また突拍子のない言葉が聞こえた気がして士道は目を丸くする。あなたが五河士道(・・・・・・・・)も何も、士道という存在は彼個人以外に何物でもない。まるで、彼という存在に他の可能性がある(・・・・・・・・)かのような言い方だった。

 

「もし、あなたという存在が〝五河士道〟でなかったら、狂三の心は今も磨り減り続けることを選んでいたかもしれない。〝五河士道〟が、あなたという精霊の希望として存在しているのは、何よりの幸運なんですよ。それだけは誰にも(・・・)確定させることは出来なかった……ふふっ、そう考えると、なんとも不思議なものですね」

 

「……何を言ってるのか、俺にはさっぱりなんだが」

 

「ええ、そうでしょうとも。でもいつかきっと、わかる時が来るでしょう。今は私の感謝を受け取ってください……あなたが相手だと、どうにも口が滑ってしまいます。さすが、精霊たらし(・・・・・)なだけはありますね」

 

「そりゃ……どうも?」

 

 褒められているのか怪しいところではあったが、とにかく訳の分からない話に頭がパンパンになってしまいそうな状態だったので、取り敢えずは受け取っておく事にした。まあ、精霊を救うために動く事が大半の士道にとっては、たらしも立派な褒め言葉になるのかもしれない。

 

 クスクスと肩を揺らして笑う白い少女が、ふと姿勢を正して真っ直ぐに士道を見つめる。やはり、その視線は真っ暗なローブの中から覗かせないままで。

 

 

「五河士道。精霊を統べる王よ。どうか御身を大事に……そして、狂三を含めた女王たちを守ってあげてください。あなたと彼女達は(・・・・・・・・)、絶対に欠かす事が出来ない唯一無二の存在なのですから」

 

「お前はどうなんだ?」

 

「……?」

 

「お前は――――――お前自身を、その守るべき存在に入れてないんじゃないか?」

 

「――――――!!」

 

 

 虚をつかれたのだろう。白い少女が、僅かに身体を揺らして驚きを顕にする。常に飄々としている少女が、士道の言葉で初めて動揺を見せた気がした。

 やはりそうだ。白い少女の言動はその都度で移り変わり覆い隠されてこそいるが、一貫して人を、狂三(・・)を想う事を第一としている。しかし、今の一言で確信した。少女の言動には、〝自分自身〟が欠けている。士道がその事を感じ取れたのは、彼自身がそう言った感情に酷く敏感だから、理解出来る(わかる)――――――少女は、自らの存在を〝否定〟している。

 

「…………そう、ですね。あなたの言う通りです。私という存在は守る必要がありません。いえ、守る価値がないと言うべきですね。ええ、誰であっても同じです。私は私という存在を、そう決定づけています。あなたも、私の事など捨て置けば良い」

 

「っ……そんなわけにいくか。お前に何かあったら迷わず助ける。狂三だって、きっとそう思ってるはずだ」

 

 思っていない筈がない。時崎狂三とはそういう人だ。口では皮肉を言いながら、心の内に優しさを秘める少女、それが狂三だ。自らに付き従う少女を、自らを女王と呼ぶ少女を、困ったものだと笑顔で口にした事を士道は忘れていない。その微笑みに隠された少女を想う心を、分からない士道ではない。

 

「……あなたも狂三も優し過ぎるんですよ。私みたいな存在は、いい様に使って利用すれば良いものを。〝物〟に余計な感情を持ち込むとろくな事になりませんよ」

 

「お前……!! 自分が何言ってるか分かってんのか!?」

 

「ええ、自分の事ですから――――――私は誰かの〝代用品〟になれるかもしれません。けれど、私という存在は必要ない(・・・・)。代役を務めることは出来ましょう。しかし、それ以外にはなれない。それが私という価値のない欠陥品(精霊)なんです」

 

 あまりの物言いに士道の方が頭に血が上り、歯軋りを抑えられそうになかった。士道はこういう事が一番嫌いだ。ここ最近で、それはもう飛びっきりのものが目の前にある。ただ淡々と強烈な自己否定(・・・・)を聞かせられて、我慢ができる士道ではない。

 

「そんなの……そんなの誰が決めたんだよ!! そんなこと、誰が決めるもんでもないだろ!?」

 

「……決まっているんですよ、生まれた瞬間から私の〝価値〟は何もないのだと、私に限って言えばね」

 

「そんな考え――――――俺が絶対認めねぇ!!」

 

 認めない、認めてやるものか。生まれた時から〝価値〟が決まっている? 冗談じゃない。そんなことあるわけがない。必要ないだの、自分はいらないだの、もう聞き飽きた。何度でも言うが、士道はそういう言葉が大っ嫌いなのだ。

 啖呵を切った士道に、ローブの下で目を丸くしているであろう少女へ続けて言葉を放つ。

 

「お前は生きてここにいる!! それだけで、お前の言う〝価値〟はある……俺は、お前に〝価値〟があると肯定する!!」

 

「……めちゃくちゃです。一体、私になんの〝価値〟があると――――――」

 

「お前は、狂三を守っている(・・・・・・・・)。それだけで、お前を守る意味はある」

 

 自分の価値なんて物、士道自身はとっくに吹っ切れている。彼は家族に、みんなに望まれてここにいる。それは少女も同じだ。少なくとも、士道は狂三を守ってきた少女を肯定する。そして、それだけで士道が少女のために何かをする理由にはなるはずだ。

 

「お前が言う〝価値〟ってやつが何なのかは分からない。けど、お前を必要としてる人間がここにいるなら、それは〝価値〟にならないのか!?」

 

「……なるでしょうね。けど――――――そうじゃないんです」

 

 首を振り士道の言葉を少女は否定する。確かに、その言葉の意味は理解出来る。彼の優しさは、少女の心に届いている――――――しかし、根本的に彼は取り違えているのだ。

 

 

「……私は自分の〝価値〟を作りたいわけじゃないんです。だってそれは――――――いつか、無意味になると決まっているものだから」

 

「無意味になるって……!!」

 

「……うん。でも、ありがとう」

 

 

 少女のような存在を気にして、怒りという優しさを向けてくれる少年。そんな少年に、少女は純粋な感謝を覚えた。

 たとえそれが――――――初めから意味を持って生まれた、少女と真逆の少年から受け取った言葉だとしてもだ。

 

 

「君は、本当に優しいんだね――――『  (士道)』」

 

「……っ!?」

 

 

 少女に名の部分だけを呼ばれたのは、初めての事だった。だが、士道の動揺はそこではなかった。白い少女の声に、何故か脳を揺さぶられるような衝撃を覚えた。自身の根源(・・)を殴りつけられるような、そんな感覚。何より、少女は本当に自らの名前だけを呼んだのか? 何かが、あった。

 

 自分であって自分のものでは無い。しかし、己の中に眠る〝何か〟を呼ぶ名が、そこにあった気がしたのだ。そしてそれは、いつも(・・・)呼ばれている名前のようで――――――

 

 

「……では、今宵はこの辺りで失礼いたします。またお会いしましょう、五河士道」

 

「お、おい!!」

 

 

 突然の衝撃に襲われた士道が止める暇もなく、少女は平時の口調に戻り窓の向こうへあっさりと姿を消した。士道が慌てて外を覗く頃には、もう少女の後ろ姿さえ見失っていた。

 

 初めて、少女の心に触れた気がした。彼女の奥深くに眠る闇のように深く暗い感情を見て――――――士道は、無性に愛しい少女(狂三)と話がしたい。そう、思った。

 

 

 

 







お前は誰だ、俺の中の俺ー(違う)
少女と少年は共有する存在は同じだとしても、知っているものと考えまでは同じではない。
ここに来て白い少女の心に踏み込んだ士道。さて、これからどうなっていくのか。ある意味で次の章が控えたあの子とは違うタイプの究極のネガティブ娘です。果たして少女にはなにが見えているのか。

次回はもっと少女に踏み込んだお話になります。お相手は……次回をお楽しみに! 感想、評価などなどお待ちしておりますー

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