「インカムなしのデートなんて久しぶりだな……不安はあるけど、気楽と言えば気楽か」
そもそも、最近はデートと言うには少し過激な物が多かったので、本当にインカムなしのデートは具体的に言えば狂三との最初のデート以来、という事になる。ちなみに普通のデートにインカムなどというものは当然ながら必要ないので、そちらに慣れている士道が異色というのは否定できない事実である。
初日のデート。クジ引きで最初に選ばれたのは耶倶矢。最速の八舞が一番というのは、らしいと言えばらしい。今回は珍しく姉妹揃ってではなく、二人が別々に士道とデートすることになっている。士道も新鮮だが、耶倶矢側も普段とは違った感覚を味わえて良いだろう。無論、姉妹揃ってが似合う事も否定しないが。
少し早めにデートの待ち合わせ場所へたどり着き、携帯端末で時間を確認して遅れがないことを確認する。デートに男の側から遅刻など言語道断。司令官兼妹の琴里と『恋してマイ・リトル・シドー』という蘇る悪夢から散々学んだ事である。お陰様で、時間厳守が身に染み付いて離れないのだ……狂三が時間を気にしそうな子、というのが関係していることは否定しない。時間を操る精霊だけに。
「……しかし」
空を見上げれば、相も変わらず彼の視界一杯に広がる半透明の球体。こんなものがあれば、普通は騒ぎになって然るべきなのだが、これは士道と狂三にしか見えていないのだからいつ見ても不思議な光景だった。
「大分慣れてきたけど、やっぱ落ち着かないもんだよな……それに――――――」
それに、白い少女……〈アンノウン〉の事が、あの球体を見るとどうしても頭に浮かび上がる。少女は間違いなく、あの霊力球体の事を知っている。知っていて士道にその事を教えないのは、少女なりの考えがあるのだと納得は出来る。しかし、その後の出来事については彼に納得などできようはずもない。
〝女王〟とは今まで狂三一人を指すものと思っていたが、どうやら少女にとっては〝精霊〟という存在を〝女王〟と称しているらしい。そしてその中に、同じ〝精霊〟であるはずの白い少女は含まれていない。それどころか、自らを必要ないと言う
――――――自らを〝殺す〟。その意味は、人も精霊も理由は千差万別だった。少なくとも、士道が見てきた彼女たちはそうだ。
世界の、人の美しさを知り、自らが起こす災害を憂いて消えようとした十香。
目的のために非情になろうとし、優しさを抱いた自身を砕こうとした狂三。
精霊を殺すため、引き金を引く事で罪を背負い心を殺そうとした折紙。
お互いを慮るが故に、お互いを偽りお互いを生かすため、自らの消滅すら厭わなかった耶倶矢と夕弦。
白い少女は、そのどれでもないのかもしれない。少女から感じたのは強烈な自己否定……自らを価値がないと断言する歪な精神性。その価値を必要ないと切って捨てた少女はまるで――――――
「――――――士道ー!!」
「っ!!」
思考の海に潜っていた彼を引き戻したのは、彼の名前を呼びながら手を振り走ってくる耶倶矢の姿だった。すぐに思考を切り替え、笑顔で手を振り返し耶倶矢の元へ歩き出す。
気になる事は多い。だが、今何より優先すべきことはデート相手のことだ。みんな自分とのデートを楽しみにしているのだから、士道だってそれに報いる事が出来る心持ちでいなければならない。
そう、一人だけに拘らず大切な皆に視線を……
桜色の瞳が二人を見つめていた。万人が美しいと称するであろう顔立ちと、特徴的な金色の髪。彼女という存在は、間違いなく人の目を引くはずだった。だと言うのに、人間は誰一人として彼女を観測する事が出来ない。その存在感を考えればありえない少女が、遠巻きに士道と耶倶矢を見定めるように観察していた。
宝珠のように透き通るとんぼ玉のイヤリングが揺れて、小さく甲高い音を鳴らす。誰もが彼女を見遣る事すらしない中――――――
「こんにちは、で良いですかね」
「…………」
ただ一人だけ、〝白〟が彼女を観測した。いつの間にか彼女の後方に降り立った白い少女へ視線を向け、相対する。
観測されぬ者と、観測を殺す者が、向かい合う。
「あなた個人に対しては、初めましてと言わせてもらいます――――――システムケルブ」
「……!!」
〈システムケルブ〉。その単語を聞いた瞬間、表情を変えることがなかった彼女が僅かに目を見開いた。
「そう警戒しないでください。私はあなたの役割を邪魔するつもりはありませんよ。そんな必要、ありませんしね」
「なら、あんたは何をしに来たの」
今度は白い少女は僅かに目を見開く番だった。とはいえ、それは本人にしか分からない事ではあったが。彼女が……〈システムケルブ〉の
「……あなたが果たすべき使命。〝器〟に対する審判。それを、共に見届けてもよろしいでしょうか?」
「勝手にすれば」
「……えらく了承が早いですね」
聞いたのは私ですが、と若干の困惑を漂わせる白い少女に対して、尚も金髪の少女はサバサバとした声を発して言葉を返した。
「私がすべき事に不都合がないなら、それで良い。あんたは色々とはぐらかすけど、こういう時に嘘ついたりはしないでしょ」
「……? まあ、確かに嘘ではありませんけど……」
小首を傾げたのは、単純にそこまで自身の事を彼女が知っていることに対して。彼女の生まれを考えれば白い少女の事を知っているのは当然なのだが、
とはいえ、その疑問を解消する時間はないらしい。少女の返事にさっさと踵を返して士道たちの後を追う彼女を、白い少女はそれを追いかける形で続く。やはり、二人を観測出来るものは誰もいなかった。
共に見届ける。そうは言ったものの、実のところ普段とやる事は何も変わらなかった。五河士道と精霊のデートを見守る。違いといえば、狂三との通信がない事と、いつものような介入の心配なく安心して見届けられるというところか。
そしてそれは、〈システムケルブ〉の管理人格である彼女も同じこと。ただ二人が通った場所を、
――――――〈システムケルブ〉。
言うなれば
その目的はただ一つ。霊力が一箇所に一定以上集中した場合、その者が霊力を持つに相応しいか
まあ、その正体を知っている白い少女にとっては、何ら警戒するものでもない。そもそも、霊力を持つに相応しくないような人間ならば、彼は今頃狂三の〝餌〟になって存在すらしていない。いや、それ以前に精霊を封印することさえ出来なかっただろう。
「お、おかしい……ヤングでナウいプールバーじゃなくなってる……」
「俺たちにはバーなんて早すぎるよ。ここで遊んで行こう、な?」
「あっ……うん!!」
今だって、耶倶矢が立てた計画がなかなか上手くいっていないのを自然な形でフォローし、二人らしいデートを築いている。その様は、初めの頃に比べると頼もしくなり過ぎだと言いたくなってしまう。
それは――――――
「あら……」
「……一人目、合格ね」
宝珠が、色を変える。それは一人目のデートの終わりと共に起こった現象。どうやらトラブルらしいトラブルはなく、耶倶矢とのデートは彼女、ひいては世界のお眼鏡に叶ったようだ。
「……これが、本当のデートらしいデートなんでしょうねぇ」
「今まで見たことなかったような言い方ね」
「生憎、過激な物にしか縁がありませんでしたのでね。
少女が見てきたデートと言えば、最終的には過激なものになったり精霊の力が暴れ回ったりと、大体は
「変なやつ。知ってて当たり前の事を知らないのに、誰も知らないようなことは知ってるなんて」
「生まれ方があなた以上に
「ふぅん」
直球に変なやつと言った割には興味なさげな空返事。今までにないタイプだと少女は苦笑する。
実のところ少女は、平和なデートというのを知らないわけではなかった。ただ、それは自分のものではない
〝彼女〟が持っている――――――大切な
二人目は誘宵美九。よくよく考えれば、美九という精霊は少し特殊な――精霊相手は大体特殊だったが――流れで士道にデレたので、デートというデートは行っていない事を少女は思い出した。そういう訳で、士道と美九がどういったデートをするのか特に気になっていた。
――――――ので、目の前の光景に唖然とするのも無理はなかった。
「……なんで、そうなるんですか」
「知らないわよ」
素朴な疑問は一刀両断である。まあ、誰に聞いたところで似たような返答しか帰って来ないだろうが。
人集りが出来ている理由は分かる。美九は顔出しを解禁した事もあって、今や天宮市で知らぬ人などいないスター的なアイドルなのだ。だが、その隣を歩く
何故か、
「……いいんですか、あれで」
「良いんじゃないの。本人が楽しんでるんだし」
「判定が緩いですね……」
……まあ、本人を楽しませるというか、
その是非は分かりかねるが、少なくとも白い少女にとってまた一つ、誘宵美九という人物がよく分からなくなった瞬間であった。美九の中では士道は士道、士織は士織という判定でどちらであろうが嬉しいということ、なのかもしれない。
取り敢えず、着せ替え人形と化した士織の姿は写真に収めておくことにした。
「何してんの」
「後で渡したら色々と狂三が有利になるかな、と」
「……あんた、士道に勝って欲しいんじゃなかった?」
「それはそれ、これはこれです」
呆れた視線を寄越す彼女を他所に、気づかれないからとやりたい放題である。個人的に楽しいとか、そういった感情はないのだ。多分。
「知らないわよ。狂三が士道を女装させる趣味に目覚めても」
「……縁起でもない冗談言わないでくださいよ。彼、シャレにならないくらい女装が似合ってるんですから」
事が終わってから送りつけたら大変面白そうだと思ったが、彼女の言うことが妙にリアリティがあって恐ろしくなる。狂三を特殊な性的嗜好に目覚めさせる趣味は少女にはない。あってたまるかそんなもの。
「や――――やめてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「……似合ってますねぇ」
「うん、似合ってる」
美九が更衣室に飛び込み、強制的に着替えさせられる士織の悲鳴を聴きながら、しみじみと二人は呟くのであった。普通は逆だ、というツッコミは入れ飽きてしまったのかもしれない。
宝珠の色が、再び変わる。二人目――――――クリア。
三人目は四糸乃、及びいつも変わらず彼女の手に装着されているパペット、よしのん。場所は、白い少女にとってはあまり馴染みのない神社だった。このデートは士道ではなく精霊たちが何をするかを考えていたはず。つまり、ここは間違いなく四糸乃の選んだ場所、という事になる。
少女には皆目見当もつかない場所だったが、やはり管理人格の彼女には分かっている事らしく、首を傾げる少女へ向けて声を発した。
「四糸乃が士道……それに狂三と初めて会った場所。あんたは狂三から聞かずじまいだったから、知らないのも当然か」
「なるほど、あの時の……って、なんであなたが私と狂三の会話を知ってるんですか」
「さあ。何となく、そう思っただけ」
ぶっきらぼうに、それでいて不思議と不快感は感じない不思議な口調で淡々と彼女は語る。妙に噛み合っているような噛み合っていないような会話だったが、少女は確かに狂三から四糸乃と会った時の詳細は聞きそびれていた。狂三の単独行動の癖が出た時の事なので、会話はよく覚えていたがそれを彼女に指摘されるのは少しおかしいのだ。彼女は、
……ちなみに、単独行動に関しては現在進行形で白い少女が行っているので決して人の事は言える立場ではなかったりする。
「……なんか引っかかりますね」
「たまには良いんじゃない。隠される側の気分を味わうのも」
「……それは、たまに味わう貴重な体験ではありますね」
狂三ならここで良い皮肉の一つでも思いついて返すのだろうが、少女はそういったことは所詮見様見真似の演技でしかないので上手いこと返せそうにはなかった。一本取られたままこれで精一杯、というやつだ。
四糸乃のデートは、ただ神社で一日士道と様々な遊びをすること。幼い少女らしく可愛らしい、彼女自身の思い出を含めて大切にする四糸乃とよしのんらしいデート。思わずローブの下で微笑んでしまうほど、それは幸せで平和な光景だった。
このデートでも管理人格の彼女がしたことは、変わらない。二人の遊びをなぞるように歩み、二人が引いた〝おみくじ〟と同じものを引く、それだけ。
「…………」
だが、〝おみくじ〟の中身を見て僅かに表情を綻ばせた彼女を見て、少女は考えていた疑念を確信に近いものにした。
「……結んで行かないんですか、それ」
「必要性を感じない。私がどういう風に出来ているか、あんたは知ってるでしょ」
「……ええ、そうですね」
〈システムケルブ〉がどういうものなのか、少女は殆ど把握しているつもりだ。彼女が言うように、どういう風に出来ていて
だからこそ――――――あまりに報われない想いを感じてしまう。
「一つ、聞いても良いですか?」
「なに」
「……
少女の問いに眉を上げ、少し驚いたような表情を見せる。突然そんなことを聞かれれば、当然といえば当然の反応。しかし、少女はそれが最初から気にかかっていた。
〈システムケルブ〉の管理人格は精霊の情報、霊力を束ねて生み出される存在。つまりは生まれながらにして、精霊たちの
思うところがあったのか、脈略のない問いに困惑したのか、それは分からないが数秒間を空けた彼女は、それでも少女の言葉を無視することはせず声を発した。
「別に……私はそうして生まれたから、それも私だと受け入れるだけ。私を構成するものとして、彼女たちの〝想い〟は必要だもの」
「……そう。あなたは、強いですね」
「あんたは違ったの?」
「え?」
「その言い方。自分は違ったって言ってるようなものじゃない。答えたくないなら、何も言わなくて良いけど」
「……いえ、その通りです」
少し偉そうに聞こえるが、実態は少女を思いやりながらの言葉。その事に気づいて少女は彼女の優しさに笑みを浮かべる。ああ、確かに彼女は精霊から生まれた存在なのだと、感じられた。
ポツポツと、少女は誰にも話した事がない己の事を語る――――――どこかのお人好しの少年のお陰で、かなり口がゆるくなっているらしいと皮肉げに笑いながら。
「……私は、〝彼女〟の記憶を主観的に受け止められなかった。ああ、ただそういう事が
「…………」
「……だから、私が生まれた先には
それが果たして正しかったのか、間違いだったのか、白い少女は今でもその答えを見つけていない。答えが出ることを、望むことはない。
「……それからどうやって生きていたか、あまり覚えはありません。大して重要でもありませんしね。まあ、生まれたからには〝彼女〟の手伝いくらいはして、報いるのも悪くないと思った気はします。私個人は、〝彼女〟に謝恩を感じていますから」
「ああ――――――その時に、あんたは」
「ええ。その時に、私は――――――生まれながら目を背けていた、〝罪〟を見ました」
知っていた。知っていた筈なのに。知っていてなお、ああそういうものなのか。そうやって、勝手に目を逸らして生きていた、それが一つ目の〝罪〟。
そうして目を逸らした先で、あらゆる悲劇が起こされていた。それを止めようとすらしなかった、止めようとも思わなかったのが二つ目の〝罪〟。
三つ目――――――引き起こされた悲劇の果てに、少女はあの子を見つけた。
美しい、人を見た。理不尽な行いを、見た。
「……それから、私は〝私〟という存在になった。ぶっ壊れたのかもしれませんね、元から出来損ないだと言うのに」
「それは……」
「……ま、同情とかそういうのがなかったと言えば嘘になりますよ。でも、あの子に起こった理不尽を許せなかったのが大半なのと――――――」
美しい人を見た。それはつまるところ――――――
「有り体に言えば、あの子に
きっと、あの少年と大差がないのだろう。
「――――――く、ふふっ!!」
「……やっぱダメですかね、こういう理由」
「ふふふっ。みんな似たようなものだし、悪くないんじゃない?」
彼女が可笑しそうに笑うのを見るのは、多分少女が初めてて、少女が
ともかく、少女の行動理由はあの少年と大差がないのだ。それが親愛か愛情かの違いはあれど――――――両者ともに狂っていることには変わりない。
「……今の話、あの子には内緒にしてくださいね。きっと、あの子は私という存在を許す事が出来ないでしょうから。あの子に撃たれるなら、それもまた〝是〟ではありますが」
「許す許さないはあいつに任せるけど、心配しなくても誰にも言わない。言う機会もない、でしょう?」
「……そうかも、しれませんね」
結局、彼女と少女が行き着く先は
宝珠の映す色彩が移り変わる。三人目も、クリア。
四人目は夕弦。今回は耶倶矢と別々のデートという事もあり、デートプラン自体は全く別のものになっている。だが普段とは違う装いを気にする反応は、全くもって同じで姉妹らしいと微笑ましさを感じてしまう。
そういう訳で夕弦が選んだ一件目の店は――――――
「…………すっぽん?」
「まむし」
その他、〝強力〟やら〝精力〟が書かれた看板。はて、なんの事やらさっぱり……と言いたいところではあるが、少女にはとある一人の人物の顔がめちゃくちゃ頭に思い浮かんでいた。非常に嫌な予感がする。
幸いにも夕弦が即座に場所を変更し、良い雰囲気で事なきを得た……その更に後の、二軒目。
「…………スタミナ、にんにく」
「元気バクハツ」
もう正しい意味合いに聞こえるわけがない。間違いなく狙っている。何を、と言えば士道のナニを、である。
……確か、耶倶矢は雑誌を参考にデートプランを立てていた筈だ。それと似たような事を夕弦がしたとして、この狙ったような店のチョイス。自ずと答えは浮かび上がってくる。
「……鳶一折紙ですね」
誘宵美九の一件でまだ自衛隊の病院に収容、もといむちゃくちゃのツケとして周りに監視されている折紙。大方、夕弦の相談を利用して最終的には自らの元へ誘導する気なのだろう。こと手段を選ばないという意味では、狂三を遥かに上回るのが折紙という少女である。全く競り合う必要が無いのは言うまでもない。
「……ん」
そうして少し面倒な事になったと頭を抱えていた少女が、彼女の姿が近くにないことに気づいて辺りを見渡す。見失ったか、と少女は一瞬思ったがあっさりと彼女の姿は再発見出来た。場所を変更し士道と夕弦が訪れた百円ショップ中、そこに立てられた鏡の前に何故か彼女はいた。
「そんなところで何して――――――」
自ら言葉を遮り、少女は動きを止める。士道たちはとっくにいなくなっているし、追いかけなければならないのではないか――――――いや、精霊たちから生まれたというのなら、逐一観察しなくとも結果は分かってしまうのだろう。本来、近くで見る必要はないのかもしれない。
だから、今彼女が取っている行動に意味はない。けれど、今彼女が取っている行動に意味はある。使命とか、義務とか、そういったことでは無い意味が。
そのネックレスは、価値だけで見れば誰でも手に入るような安いものだった。しかし、夕弦が請願し
同時に、それと同じ物を鏡の前で自らに掲げる彼女の心は――――――少女がそうやって話しかけたところで認めないのは、目に見えていた。
「……強情な部分があるなら、果たして誰譲りなのやら」
肩を竦め、
五人目は五河琴里。士道が封印した精霊六人の中で、少女が最も重要視している人物。そんな彼女が選んだデートは――――――日常。
「普段と違うことをするのがデート、か……」
琴里が士道に言った言葉。その言葉とは裏腹に、琴里が選んだのは士道との買い物、夕食の調理、などのありふれた日常だった……いや、もう琴里の中で、士道と共に過ごす〝生活〟というのは
精霊攻略が始まってから、五河琴里という少女は自分自身の恋心を抑え、〈ラタトスク〉司令官としての立場で士道と向き合う事が大半なのだろう。不条理に押し付けられた精霊としての力、それに押し潰される事なく常に精霊を救うため戦ってきた。
そんな気高い精神を持つ琴里が選んだのが、士道と過ごす何気ない日常という名のデート。
「――――――やっぱり私も持つ!!」
「お、おい……」
「良いでしょ、おにーちゃん!!」
黒色のリボンは、彼女の強さの証。白色のリボンは、素直さを見せる彼女の優しさの証。どちらも琴里であり、士道はもうそれを知っているからこそ笑顔で彼女の提案を受け入れる。
買い物袋を仲良く二人で分け、手を繋いで帰路につく。そんな何気ない日常の中の五河琴里の笑顔を見て、少女は無意識のうちに安堵の息を零していた。
「……良かった」
こういうのを、心の底からホッとしたと言うのだろうか。そんな風に声を発してしまったものだから、チュッパチャプスを口に含んだ――ちゃっかりニューフレーバー――彼女にジッと見つめられる結果になったのだが。
「……何か?」
「あんたって、琴里には特別甘いのね」
「……そうですか? 五河琴里が色々と重要視すべき人物だから、そう見えるだけだと思いますけど」
「狂三とは違うタイプだし、ストライクゾーンが広いって事ね」
「人の話を聞いてくださいよ」
淡々とした表情で人を気が多い人みたいに扱うのはやめて欲しい。別に少女は琴里個人を贔屓しているわけではなく、彼女の置かれた境遇や立場を考えて他の精霊よりも重要視しているというだけだ。
「狂三から浮気するなら、それも内緒にしといてあげる」
「あなた意外とシャレを言うタイプなんですね……ご安心を、私の恋愛対象は男の方です」
「士道?」
「ノーコメント」
「隠さなくたっていいのに」
「……ノーコメント」
そんなたわいのないやり取りをしている間に、もう何度目かの煌めきを見る。五人目も無事に終了。最後は、奇しくも士道の手で最初に封印された精霊、十香。
「次で、終わりですね」
「そうね」
「……良いんですか」
「良いも悪いもない。それが、私という存在だから」
「はっ……最初から〝意味〟があるというのも、良い事ばかりじゃありませんね」
吐き捨てるように呟いた少女の言葉に、彼女は目を瞑るだけで声を返すことはない。
〈システムケルブ〉が為すべき事は一つ。〝器〟の監視、それが果たされた時――――――彼女は自らを構成する要素を消し去り、消滅する。
役割が終われば、
消える事を知っていて、ただ無感情に役目を果たすような人物であったのなら、少女はこの
この数日間、彼女と共にいて、話して、少女はやはりどうしても、何度でも――――――理不尽だと、感じてしまったから。
試練は残り一人――――――そう、白い少女でさえ思っていた。
一体いつから――――メインヒロインのデートを用意してないと錯覚していた。
今回かなり珍しく分身体すら出番がなかった反動含めて次回は丸ごと狂三のターン。ついでに言えば前編後編形式で前編は丸ごとって感じです。比較的短くなるって言ったな、あれは(想定のガバさ的な意味で)嘘だ。
即興な二人の不思議で面白おかしな二人旅。かなり深い部分まで踏み込んだお話をしました。でも〈アンノウン〉は初めから答えを常に提示してるんですよね。全ては我が女王のために、と。少女の出自、数えた己の罪。段々とみなさんも予想がついてきたかもしれませんね。今までは傍観者、補佐役の面が強かった少女は、管理人格の彼女に対し何を想い、どんな行動をするのか。
みんなのデートの詳細は万由里ジャッジメント本編をよろしくお願いします、めっちゃ面白いしめっちゃ面白いよ(筋肉バカ並の感想)。あとガバッて入れ損ねていたデート・ア・ライブ七巻『美九トゥルース』も是非に。
感想、評価などなどどしどしお待ちしておりますー。次回をお楽しみに!