デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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もう何度目かのメインヒロインの時間だオラァ!!多分この小説が完結するまで進行しながら繰り返すんでしょうねこれ。メインヒロインだからね、正当な権利だね。




第五十五話『星降る夜の二人-前編-』

 

 

「……!!」

 

 ふと、目が覚めた。などという定番のセリフが浮かんでしまうほど、休眠していた士道の意識はハッキリと、スムーズに覚醒状態へと移行した。

 素早く時刻を確認する。ちょうど、日付が変わったばかりだった。本来なら、彼は六人のうち最後の十香とのデートに備え、この冴え切った頭を休ませるためにもう一度眠りにつく必要がある。

 しかし、士道はそれをせず素早くベッドから降りると、寝間着から軽く着替えを済ませ部屋から出ていく。もちろん、眠っているであろう琴里のことは起こさないよう足音を立てず静かに行くことは忘れない。確信に満ち溢れた士道は、この先に待つ人物が誰なのか考えなくてもわかる。彼がわからない筈がない。

 

 さあ。少し遅めだが――――――星降る夜の、素敵なデートをしよう。

 

 外へ出ると、辺りの電気という電気は軒並み消えており、照らすのは設置された街灯に相変わらず重力を完全に無視して浮かぶ霊力球体のみ。

 

「……よう。こんな夜中に女の子一人じゃ、危ないぜ」

 

 だが、士道は迷うことなくその暗がりの中で一点だけを見つめていた。街灯に照らされた一点の光――――――それを呑み込む、漆黒の影。

 

 

「――――――くるくるみ、っと」

 

 

 舞うように影から姿を現す、絶世の美少女。この世のものとは思えない紅と闇に彩られた煌びやかなドレス。何百回見ても美しいという言葉以外が浮かび上がらない、紅と文字盤を宿した金の瞳。

 狂三。時崎狂三。五河士道が愛してやまない〝精霊〟。今一度髪を軽く払う仕草をし、彼女は士道と相対した。

 

「夜分遅くにごきげんよう、士道さん……士道、さん?」

 

 そんな美しく超然とした狂三が、彼の名前を二度も呼び、二回目に至っては疑問符がついている発音で目をぱちくりと瞬かせて呆気に取られていた理由は、もちろん士道の〝奇行〟にある。

 何故か、折紙を思い出させる完璧なフォームでカメラを構えていた。流石に折紙ほど準備は出来ていないのか、携帯に搭載されたカメラではあったが、最近の端末は優秀なのでさぞ綺麗な画質で霊装姿の狂三のが収められていることであろう。ではなくて。

 

「……何をしていらっしゃいますの?」

 

「ワンモア」

 

「はい?」

 

「今の、もう一回、お願いします」

 

 何やら恐ろしく凄味がある言葉だった。表情は折紙を思わせる無味乾燥なものなのに、少し興奮しているようにも感じられる。ていうか折紙が乗り移ったと言っても信じられる圧力を感じた。少なくとも、狂三が顔をひくつかせながら一歩後退るくらいには。

 

「…………お、お断りしますわ」

 

「そこを何とか、一回で良いから」

 

「嫌ですわ。今のは出血大サービスという物ですの。また一年後にお見せいたしますわ」

 

 嘘である。二度と見せるつもりはなかった。テンションが上がった狂三の一夜限りの過ちというやつである。昔に比べて様になっているとはいえ、冷静に求められると意外とキツい時があったりするのは本人談である。

 

「そ、そんな殺生な……鬼!! 悪魔!! 狂三!!」

 

「そこまでですの!? 意味がわかりませんわ!!」

 

 意味がわからない主張に流石の狂三も冷静さを失って叫び返してしまう。いや、本当に意味がわからなすぎるが、狂三の安易な行動が士道の奇行を招いてしまったので巡り巡って自分が悪いということなのでは……? と、狂三が過去最高に混乱を極め始めたところで、士道がようやく落ち着きを取り戻して端末をポケットにしまい込んだ。

 

「……すまん。狂三が可愛すぎて取り乱した。もう大丈夫だ」

 

「それは幸いですわ……?」

 

 やっぱりちょっと様子がおかしい気がしたが、やぶ蛇を突っつく趣味がある訳では無いので多分大丈夫だろうと思うことにした。人は時にスルースキルを使う事が大切なのである。

 コホン、と不意打ちで可愛いと言われて赤らんだ顔と状況を誤魔化すように咳払いをして、狂三は声を発する。

 

「ごきげんよう、士道さん。こんなお時間ですが、わたくしに付き合っていただけませんこと?」

 

「いいぞ、デートだな。大歓迎だ」

 

「……わたくしが言葉にするのもおかしな話ですけれど、よろしいんですの?」

 

 日付が変わった今日、士道には十香とのデートが控えている。プランを立てるのは十香とはいえ、士道も相応に体力を残しておかねばならないはずだった。

 

「今日は元から早めに寝たからな、少しくらいなら平気さ。ていうか、そう思うならなんでこんな時間に――――――」

 

こんな時間に(・・・・・・)。それは、二度目(・・・)の疑問だった。一度目が思い浮かんだのは、状況に強い既視感を覚えたからだ。

あの時(・・・)に呼び出された時間は日付が変わる丁度の時間。今回、狂三が士道の元を訪れたのも日付が変わった瞬間。そしてもう一つ、両方とも――――――琴里とのデートがあった日だ。

 

「ああ……そういう事か」

 

 やっとわかった。まさか、数ヶ月越しにあの時間指定の謎が解けるとは夢にも思わなかった。偶然とはいえ、状況の一致に感謝するべきなのだろうと、士道は狂三の気遣い(・・・)を含めて微笑ましいものを見る笑みを浮かべた。

 

 簡単な話だ。日付が変わるまでは琴里のデート(・・・・・・)の時間。そして、日付が変わってから始まるまでが士道の空き時間(・・・・)。つまりは……健気で可愛らしい、時間を司る精霊のささやかな心遣い。誰に言うこともないであろう、少女らしい誘い方だった。

 

「……お前らしいな。お前のそういうとこ、俺は好きだよ」

 

「さて、なんの事を仰っているのか、わたくしにはさっぱりですわ」

 

 そうやって自分の優しさを認めようとしないところもまた、強情な狂三らしいと士道は苦笑する。士道が気づいたことくらい、狂三にはお見通しな筈だろうに。彼がそんな笑みを浮かべたのを見て、僅かに表情を変えた狂三が言葉を続ける。

 

「士道さんがお気づきになられないなら、諦めて帰るつもりでしたわ。でも士道さんったら、簡単に気づいてしまわれるんですもの」

 

「最近は第六感を鍛える事にしててな。狂三の場所くらいならすぐにわかるさ」

 

「あら、あら。素晴らしいですわ、素晴らしいですわ。流石は士道さん、頼りになりますわぁ」

 

「はは、懐かしいなそれ。最初の頃を思い出すよ」

 

 士道が何かするたびにおだててくれたのは、狂三と会って二回目の時だった。あの頃は狂三の雰囲気に圧倒されるばかりであったが、気づけばこんな風に話す仲になったのだから人生というのはわからないものだ。

 

「うふふ、覚えてらしたのですね」

 

「俺が狂三とのこと忘れるわけないだろ。いや、忘れさせてくれないの間違いか」

 

 忘れようと思って忘れられるほど軽い記憶ではない。士道が生きてきた人生の中で、この半年は今までを圧倒できるほど〝濃い〟出来事ばかりだった。

 さて、これからどうするか。どこかへ行こうにもこの時間だ。さして遠くには行けないし、何より遅くなりすぎると十香とのデートでトラブルが起きてしまうかもしれない。と、なると士道が取れる択はそう多くはなかった。

 

「あんまり時間は取れないけど……今日は、話をして行かないか?」

 

「構いませんわ。あなた様となら、どのような事でも幸せですもの」

 

 士道が電灯の近くの手すりに腰をかけ、狂三も彼に習うように隣へ。その見惚れる微笑みは、相も変わらず士道を魅了してやまないなと、彼は赤くなった頬を誤魔化すようにポリポリと掻いた。そういう言い方は少しズルいなと思うが、士道も同じ気持ちなのをわかって先に口に出したのだろう。また先手を取られる形になってしまったらしい。

 

「さて、さて……まずは皆様とのデート、楽しんでいられるようで何よりですわ」

 

「ぐ……み、見てたのか」

 

 いきなり積極的には触れたくない話題を引き出されて、思わず呻いてしまう。狂三公認とはいえ、士道が彼女に対する罪悪感を微塵も感じないかと言われるとそうではない。男とはまあ、そういう生き物なのである。

 士道の予想を否定するように首を左右に振り、狂三は声を発する。

 

「いいえ、わたくしとて遠慮というものはありますわ。他の方のデートを邪魔する趣味はありませんもの」

 

「じゃあ、どうやって……」

 

「士道さんのお顔を見ればわかりますわ……と、言いたいところですけど、本当の理由はあちらですわ」

 

「……霊力球体?」

 

 徐ろに狂三が指し示したのは空に浮かぶ霊力球体。果たしてそれで何がわかるのか……そう思った士道だったが、琴里から聞かされていた球体の〝変化〟を思い出し彼女の語る理由に当たりをつけた。

 

「もしかして、あの球体の霊波が変化したのを探知したのか?」

 

「ご明察。士道さんと十香さんのデートが終わったその時、あの球体にどのような変化が起きるのか……見ものですわね」

 

「何かが起きるのか……〈アンノウン〉は何か知ってるみたいだったけど……」

 

 霊力球体に関して何か知っていると言いながら、結局は何一つ教えず去っていった白い少女。少女なら、全ての霊波が弱まった時なにが起こるのかも知っているのだろうか。少女と繋がりのある狂三なら、その事も何か知っていると思ったのだが……。

 

「……士道さん、あの子とお会いになりましたの?」

 

「え? あ、ああ……みんなとのデートが始まる前日に、俺の部屋に来たけど……」

 

 目を丸くして意外なことを聞くものだから、士道も同じように驚きを見せて答える。てっきり、白い少女が来たことは織り込み済みだと思っていたのだ。

 

「――――――士道さん」

 

「うお……っ!?」

 

 士道の返答を聞いて少し考え込む仕草をしていた狂三が、顔をずいっと近づけてくる。目の前に迫る細部まで観察できる狂三の端正な顔と、仄かに香る彼女の芳香が鼻をくすぐり、士道の心臓は一気に加速度を増す。

 

 

「な、なんだよ」

 

「あの子は、わたくしの〝共犯者〟ですわ」

 

「は?」

 

「ですから、あの子を落とす(・・・)なら、必ずわたくしを手に入れてからにしてくださいませ」

 

 

 ……これは、なんだ。つまりこういう事か。白い少女が欲しければ、わたくしの屍を超えていけ?

 

「――――――いやいやいや!! なんでそういう話になるの!?」

 

「? 士道さんがあの子を〝攻略〟するというお話ではありませんの?」

 

「飛躍しすぎだろ!! 大体、俺はあいつの顔も見たことないのに……」

 

「あら、それならわたくしも同じですわ」

 

 え、と士道が面食らったのも無理はない。狂三なら、白い少女の素顔だって知っている。そんな先入観を持っているのは当たり前のことだった。それをサラリと覆されたのはなかなかの衝撃だ。

 

「……狂三も、知らないのか?」

 

「ええ、ええ。わたくしどころか、本人以外は誰も知らないそうですわ。わたくしも、無理に拝見しようとは思いませんでしたし」

 

「ずっと一緒にいるんだろ? 気になったりしないのか」

 

「気にならない、と言えば嘘になってしまいますわねぇ。けど、顔を隠しているのならあの子なりの理由があるということ。それを暴くのは悪趣味というものですわ」

 

「そっか……そうだな」

 

 あのローブの下が気になるのは士道だけではない。だが、それ以上に士道は少女の抱える闇を気にかけていた。狂三は果たして……その事を知っているのだろうか?

 

「でも……あの子は、自分の事をわたくしに話したがりませんの。長い付き合いですけれど、そこは少し寂しいと思う時がありますわ」

 

「……良かったらさ。聞かせてくれないか、あいつのこと」

 

「あの子のこと、ですか」

 

「ああ。あいつと少し話をして……知りたくなったんだ。ダメか?」

 

 なぜ、あんなにも自分を否定するような考えを持っているのか。なぜ、〝価値〟を重要視しているのに自らには必要ないと断言してしまうのか。少しでも、少女の確信に近づくには少女を知る必要がある。そんな、気がした。

 そして少女の事を一番知っているのは、間違いなく狂三だ。だから、彼女が士道の問いにほほ笑みを浮かべて頷いた事に士道も安堵の表情になる。

 

「あの子と一体何をお話になったのやら……大したことは語れないかもしれませんわよ」

 

「それで良いんだ。狂三が知ってるあいつを、俺は知りたいからさ」

 

「……先程も申し上げましたが、わたくしとあの子はそれなりに長い付き合いになりますわ。それこそ、わたくしが〈ナイトメア〉として世に知られるより前から」

 

「そんなに前から……」

 

「ええ。わたくしが〝悲願〟を果たすと誓ったその時から、あの子はわたくしに付き従うように行動を共にしていますの。まあ、昔は今ほど冗談を言う子ではありませんでしたけれど」

 

 少女が今のような道化師にも似た陽気な態度を取るようなったのは、そう昔の話ではない。あの時は何なのだと理由はわからず終いだったが……今なら、少女があのような言動をしだした理由が理解出来た。

 

「今に思えば、それが変わったのは……わたくしを気遣ってのことだったのでしょうね」

 

「…………」

 

 狂三が歩んで来た道は、きっと士道の想像を遥かに超えるほど険しいものだった筈だ。そんな中、精神的に追い込まれる事もあっただろう狂三を見た少女が取った方法が、あのような〝演技〟だったのだろうか。

 

「わたくしの事を考えて、わたくしを想ってくれているのはわかりますわ。でも……だからこそ、少し心配になる時がありますの」

 

「心配……?」

 

 ええ、と頷いて儚げな表情さえ士道を見惚れさせる美しき少女は、そのままぽつりぽつりと思いの丈を形にする。

 

「わたくしは、あの子に何を返せているのだろうか……そう考えた時、わたくしはあの子に何もしてあげられていないと思いましたわ。あんなにも、尽くしてくださるあの子に」

 

「狂三……」

 

「あの子が傍にいる事が当たり前になっていて、何も仰らずに出ていってしまった事が、不安になってしまったのかもしれませんわね」

 

 何日経っても戻って来ない少女に、怒りは段々と『狂三』の言うように不安に昇華していった。だが、それを素直に口に出せるほど狂三は〝自分〟に弱さをさらけ出す事は出来なかった。

 

「あの子は、わたくしに全てを捧げる(・・・・・・)と仰った。だから、わたくしにはあの子の命を預かる責任がありますわ。それがわたくしなりの信頼……と、思っていたのですが、言葉足らずで愛想を尽かされてしまったのかもしれませんわ」

 

「足りなかったなら、今からでも言えばいいんじゃないか?」

 

「え?」

 

 士道の言葉に小首を傾げる狂三に対して、彼は難しい事じゃないだろと彼女を見つめて言葉を続けた。

 

「足りない、って思ったならちゃんと言葉にすればいい。多分、あいつに限って狂三に愛想が尽きたなんてことありえないから、大丈夫だと思うけどな」

 

「……なぜそう思いますの?」

 

 物事に絶対はない。それを知っている狂三は、自分ほど少女の事を知らない士道が大丈夫だ、と太鼓判を捺す理由がわからなかった。

 〝それ〟を向けられる狂三がわからないのも無理はない。その理由は、単純でありある意味でその想いを共有する両者でしか分かり合えないものだから。

 

 

「簡単だよ。俺がお前のことを大好きなように――――――あいつだって、お前のことが大好きだからな」

 

「な……っ」

 

「違うのか?」

 

「ちが……わないですけれど」

 

 

 ほらな、と得意げな顔で笑う士道に何とも言えない表情で目を逸らす。確かに、直球の好意という点では士道と少女はタメを張れる存在だ。何せ、狂三自身がさっき言ったようにあなたに全てを捧げます(・・・・・・・・・・・)、と白い少女は常に宣言しているのだから。

 

「だから愛想を尽かされたー、なんて不安はするだけ無駄だと思うぜ。けど、あいつは狂三がこんなに心配してくれてるなんて思ってないだろうから、黙って出て行ったって言うなら戻ってきたら叱ってやればいいんじゃないか?」

 

 狂三を好き、という部分は一致しているのだが、あの強烈な〝自己否定〟を持つ少女を想像すると、狂三が少女の事をこんなに心配している、だなんて夢にも思っていない可能性があった。ていうか、だから狂三に黙って何日もいなくなっているのだろう。

 

「そう……ですわね。あの子が何も告げずにどこかへ行くのは初めての事でしたので、少し悪い方向に考えすぎていましたわ。士道さんの言う通り、わたくしなりに言葉にしてみようと思いますわ」

 

「おう、それがいいさ」

 

「……ふふっ、士道さんがわたくしの悩みを解決してくださるだなんて、少し新鮮な気持ちですわね」

 

「普段は俺が狂三に色々と助けられてる側だからなぁ。たまには良いんじゃないか?」

 

 冗談めかして微笑む士道に、狂三は笑顔を返しながらもそれは違う、と内心で思っていた。

 きっと、常に助けられているのは狂三の方なのだ。彼の笑顔に、彼の生き方に、彼の優しさに……事が終わるまでは訪れまいと思っていた筈なのに、気づけば足を向けて訪れてしまっていたのも、多分自分の不安を受け止めて欲しかったからなのだ。

 

 その〝弱さ〟が生まれたのは、彼と関わってからだった。

 

「わたくしは……弱くなってしまいましたわ」

 

「弱いって……狂三がか?」

 

「ええ、ええ。以前までのわたくしであれば、このような事で迷う事はなかった。いいえ、迷う余裕(・・・・)すらありませんでしたわ」

 

 張り詰めた弦のように、狂三の精神は迷いなど感じる余裕がないほど追い詰められ始めていた。でも、今は違う。彼が近くにいることに安らぎを感じて、その優しさに心を射抜かれて、狂三は弱くなった(・・・・・)

 

「これは、わたくしの〝弱さ〟ですわ。こんな些細なことで不安を感じてしまうなど、わたくしらしくもないのに……」

 

「そんなのいくらでも弱くなればいい」

 

 士道は力強く断言し、狂三の手を取る。驚いた表情で彼の顔を見遣る狂三を、士道は言葉と同じくらい強い視線で見つめ返した。

 狂三が言う〝弱さ〟とは、つまりは人に頼る事をだ。仮に人に頼らない事が〝強さ〟だと言うのなら――――――そんなもの、強さではなく強がり(・・・)だ。

 

「人は誰だって独りよがりじゃ生きていけない。だから、皆で助け合って生きていくんだろ?」

 

「けど、わたくしは……」

 

「お前がどんなに悪い事をしてきても、俺がお前を助けない理由にはならない」

 

「っ……!!」

 

「不安になったら、今日みたいに俺を頼ればいい。狂三が不安になった時、心の底から頼れる存在に俺はなりたい」

 

 狂三の全てを一緒に背負うと決めた。罪も罰も、彼女が不安を感じるならそれだって共有してやりたい。今日のように、強がりな狂三が胸の内を明かしてくれたのは、士道にとって本当に嬉しいことなのだ。

 ギュッと華奢な彼女の手を強く握り締め、士道は言葉を続ける。

 

 

「それでも、お前が自分の事を弱くなったって思うなら!! 俺が――――――弱くなったお前の分まで強くなる。少なくとも、お前を一生(・・)支えられるくらいにな」

 

「あら、あら。わたくしと一生(・・)、添い遂げてくださいますの?」

 

「何を今更。お前がデレてさえくれれば、俺はいつだって人生捧げる覚悟は出来てるぜ」

 

 

 みんなを、狂三を、誰一人見捨てず守り通せるくらいに強くなりたい。それが今の士道の迷いのない信念と想い。人生を捧げるのは、あの屋上で宣言した通りいつだって変わっていない。狂三がデレてくれれば(・・・・・・・・・・)、だが。

 

 握り締められた手を、握り返すようにしながら、狂三は赤面した顔を微笑みへと変える。

 

 

「困ったお方。わたくしが、それを選びたくても選べないとわかっていらっしゃるのに」

 

「それを強引にでも選ばせるのが俺たちの戦争(デート)、だろ?」

 

「ええ、ええ。その通りですわ、その通りですわ。全く、士道さんは本当に――――――油断ならない(魅力的な)人、ですわ」

 

 

 星だけが見守る、二人だけの恋愛ゲーム。一瞬の油断が命取りになるシーソーゲームのような関係。デレてしまえば楽なのに、決してデレることは出来ない。

 

 ああ、ああ。全く、全く――――――こんな素敵な人に出会えた不幸(幸運)を、狂三は笑顔で呪ってしまいそうだった。

 

 

 






対応の違い。

「狂三……ッ!!」 助けてもらったとはいえ命を狙われている相手なので相応の警戒はする。

「スッ……(無言でカメラを構える)」 あまりの可愛さに折紙が乗り移った五河士道の図。

これは酷い。万由里ジャッジメント編が決まった時点でこれだけは絶対にやろうと思ってました。狂三狂いここに極まれり。いやまだ極まってないですけどね?

自分で書いてるとやり取り甘く出来てるのかなーとかあんまわからないんですが、糖分多めでやれてるんでしょうかねとたまに不安になります。ちなみに後編の前半は自分でもあ、甘く出来た気がするってなりました。ていうかお互い支え合ってるし告白どころかプロポーズみたいなことしてるのになんでくっついてないのこの二人……。

では後編でお会い致しましょう。感想、評価などなどめちゃくちゃお待ちしおりますー。次回をお楽しみに!!

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