デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

6 / 223
第五話『誓い』

 

 

『まだ少し休憩するでしょう? できるだけ精霊の情報が欲しいわ。ちょうどいい機会だし、幾つか四糸乃に質問をしてみてくれない?』

 

 そう琴里がインカム越しに喋りかけてきたのは、ちょうど食事が終わり一息入れたのを見計らった時だった。

 

 質問? と小声で返すも、まさか狂三がいる前で精霊に関しての質問をする訳にはいかないし……

 

「ご馳走になってしまってばかりでは申し訳ありませんわ。お片付けは、わたくしに任せてくださいませんこと?」

 

 そう考えていた矢先、狂三が唐突に立ち上がり両指を合わせてそんな事を言い出した。まるで、こちらのしたい事を読み取ったかのように。

 

「あ、いやお客さんにそんな事させるわけには……」

 

『待ちなさい士道。こっちにとっても好都合よ』

 

「気にしないでくださいまし。それと――――」

 

 士道に届く琴里の指示より早く、狂三はどんぶりを重ね台所へ向かう、そのすれ違いざまに――――

 

 

「――――今のうちに、存分に四糸乃さんとお話(・・)をお楽しみくださいな」

 

 

 そんな言葉を、士道の耳元で囁いていった。ゾクッ、と色々な意味で(・・・・・・)背筋が凍りそうなほど驚かされる。……耳元で狂三の蕩けるような声を聞いたせいか、妙に赤くなった耳は知らんぷりすることにした。

 

『……驚いたわね。どれだけ察しが良いのよ、あの子。本当に何者なのかしら』

 

「さあ、な……」

 

 ……今に思えば、四糸乃から最初に話を聞いた時も不自然なワードがあっただろうに狂三は何も言わなかった。小さな声だったし、正面から聞いた士道と違って横で手を握っていた狂三は単純に聴き逃したものと思っていたが……もしや、聞いた上で敢えて何も知らないふりをしてくれていたのだろうか? だとするなら、狂三の察しの良さと何も聞かないでくれる気遣いに感謝するしかない。

 

 何処か末恐ろしさすら感じながらも、狂三の気配りを無駄にしないよう、親子丼を平らげ満足そうに息を吐く四糸乃に目を向けた。

 

「なあ、四糸乃。ちょっと訊きたいことがあるんだが……いくつか質問してもいいか?」

 

「……?」

 

 既に質問の内容は琴里から指示されている。不思議そうに小首を傾げる四糸乃に、士道は問いかけた。

 

「その……随分大事にしてるみたいだけど――――よしのんって、おまえにとってどんな存在なんだ……?」

 

 これは士道も気になっていた事だった。友達、そう呼んでいたが詳しい事は何も聞いていない。あのパペットを通した状態だととても愉快な性格になっているということは分かるのだが……。

 

 士道の問いかけに四糸乃はたどたどしく、しかし確実に言葉を紡いだ。

 

「よしのん、は……友だち……です。そして……ヒーロー、です」

 

「ヒーロー?」

 

「よしのんは……私の、理想……憧れの、自分……です。私、みたいに……弱くなくて、私……みたいに、うじうじしない……強くて、格好いい……」

 

「理想の自分……ねえ」

 

 思い返すのは、先日デパートの中で四糸乃と出会った時の事。パペットを付けた四糸乃……よしのんは確かに四糸乃と比べてハキハキと物を言う上にノリもよく元気ハツラツだが――――

 

 

「俺は、今の四糸乃の方が好きだけどなぁ……」

 

 

 カチャン、と何か物音がしたのは士道がそう声を発した直後だった。ん? と音の方向へ振り向くと台所で洗い物をしている狂三の姿が見え、単純に食器同士がぶつかった音だろうと直ぐに四糸乃の方へ向き直ると……何故か背を丸めてフードを手繰り顔を覆い隠している姿になっていた。

 

「よ、四糸乃……? どうかしたのか?」

 

「……そ、んなこと、言われた……初め……った、から……」

 

「そ、そうなのか……?」

 

 コクン、と頷く四糸乃に士道もそういうものなのかと納得する。確かに人と話す機会が薄い精霊ならそうなるのか、と一人考えていると唐突にインカムから琴里の声が届いた。

 

『士道、今の……計算?』

 

「は? け、計算って何だ……?」

 

『……いえ。違うならいいわ』

 

「は、はぁ……?」

 

 なんだ計算って。と意味が分からないことを言う妹に眉をひそめるが、今は四糸乃への質問が優先だと気を取り直し問いかけを続けた。

 

「それから……四糸乃、おまえはASTに襲われても、ほとんど反撃をしないらしいじゃないか。何か理由があるのか?」

 

 四糸乃は十香と同じ〝精霊〟だ。なら力を封じられていない時の十香と同じく、その気になれば彼女はASTなど文字通り赤子の手を捻るより容易く一蹴してしまえるはず。だが四糸乃はそれをしない……どころか、十香がしていたあしらう(・・・・)という事さえも控えているらしい。

 

 一体どういう理由があっての事なのか……士道の問いに四糸乃は服の裾を握りしめ、先程よりも小さな声で言葉を返し始めた。

 

「わ、たしは……いたいのが、きらいです。こわいのも……きらいです。きっと、あの人たちも……いたいのや、こわいのは、いやだと、思います。だから、私、は――――」

 

「な――――」

 

 聴き逃してしまいそうな程か細い声。だが士道の耳は確かにその声を聞き取り、そして絶句してしまう。 

 

 なんだそれは、なんだそれは……!! 彼女のその想いはあまりにも――――

 

 

「でも……私、は……弱くて、こわがり……だから。一人だと……だめ、です。いたくて……こわくて、どうしようも、なくなると……頭の中が、ぐちゃぐちゃに、なって……きっと、みんなに……ひどい、ことを、しちゃい……ます」

 

 

 ――――あまりにも、優しすぎる。

 

 

「だ、から……よしのんは……私の、ヒーロー……なんです。よしのんは……私が、こわく、なっても、大丈夫って、言って……くれます。そしたら……本当に、大丈夫に……なるんです。だから……だから……」

 

 唇を噛み締め、己の拳を血が出る程に強く握る。そうでもしないと、士道はとても優しすぎる少女の言葉に耐えられそうになかった。

 

 少女は自身のことを弱い(臆病)だと言った。違う、それは絶対に違うと士道は否定する。無慈悲に迫り来る殺意の束、それをぶつけて来る存在。そんなものを突きつけられてそれでも尚、四糸乃は相手を慮っている(・・・・・・・・)

 

 それは強さ(・・)だ。少女は誰よりも強く、誰よりも優しく人を慈しむ心を持っている。そしてそれは、何よりも尊く――酷く、歪だと思えた。

 

「……っ、あ……っ、あの……」

 

 彼は考える前に席を立ち、四糸乃の隣に座って頭を撫でていた。もう止まらなかった。この歪な優しさを持つ悲しい少女を士道は――――

 

「俺が――――お前を救ってやる」

 

 ――――絶対に、救ってみせる。

 

「絶対に、よしのんは見つけだす。そして……お前に渡してやる。それだけじゃない。もうよしのんに守ってもらう必要だってなくしてやる。もう、おまえに〝いたいの〟や〝こわいの〟なんて近づけたりしない。俺が――――お前のヒーローになる」

 

 柄にもなく熱くなっている自覚はある。けれど、言葉は止まることは無かった。優しすぎる少女の慈悲は、肝心の自分には全く向けられていない。なら誰が少女に優しさを与えられるというのか……簡単でもあり、難しくもある。

 

 人から与えてやるしかない。それが精霊にとってどれだけ難しい事か、士道はよく分かっていた。それでも、それでも……優しすぎる少女への救いがないなんて――――絶対に、認める訳にはいかない。

 

「……あ、りがとう、ございま……す」

 

「おう」

 

 四糸乃が士道の想いを受け入れてくれた事に表情を綻ばせ頷き……その拍子に、正面から見た少女のその〝唇〟に思わず目がいってしまい咄嗟に目を逸らした。

 

「あー……その、この前は悪かったな。キス、しちまって」

 

「……?」

 

 これは言っておかなければならない事だと、一思いに懺悔する。男の方はともかく、奪われた女の子の方はとても傷ついてしまっただろう。が、四糸乃は士道の懺悔に一転して目を丸くし、首を傾げた。それは気にするとかしないとか以前に、何を言っているのか分からない……そんな表情だった。

 

「……キスって、なんですか?」

 

「え? ああ、それは……こう、唇を触れさせることで――――」

 

「こう、いうの……ですか?」

 

「……ッ!!」

 

 士道の言葉を聞いても分からなかったのか、彼の前に顔を突き出し今にも唇が触れてしまいそうな距離に詰め寄る四糸乃。心臓が飛び跳ねるほど驚いたが、〝訓練〟を思い出しどうにか表面上だけは平静を装う事に成功した。

 

 ……ガチャッ、とさっきより強く響く物音がした気がしたが、今そちらに意識を向ける余裕はなく狂三もこちらを向いていない。何より人の(・・)聴力でこの距離の会話は聞こえていないだろうと四糸乃との会話に集中する。

 

「っ……あ、ああ。そう、そんな感じだ」

 

「――――よく、覚えて、いません……」

 

「……え?」

 

 四糸乃の返答に、思わず素っ頓狂な声を上げる。その返答は士道にとって何か違和感を感じるものだったが――――次の瞬間、その違和感は一時的に吹っ飛んでしまうこととなる。

 

「シドー!! すまなかった、私は――――」

 

「え……?」

 

 突如ドアが開き、令音と外出していた筈の十香が大急ぎでリビングに入ってきたかと思えば、言葉の途中で固まる。

 

 それはそうだろう。何故なら……士道と四糸乃は今すぐキスをしてしまえる距離で向かい合っているのだから。

 

「とっ、ととととととととととと十香ッ!?」

 

 プレッシャー。先日の時に負けず劣らずな強烈な殺気に士道は全身から汗を吹き出し、パペットを取り上げられた怖い相手、という認識の四糸乃も小さな悲鳴を上げた。……単純にそのプレッシャーに押されたのもあるのだろうが。

 

 ちなみに、精霊の状態が不機嫌になった時に鳴る〈フラクシナス〉からのアラートは、とっくの昔に鳴り響き天元突破している。

 

「…………ふっ」

 

 実に、いっそ不気味な程に、とても穏やかな笑みを作った十香はそのままリビングへと入出。士道と四糸乃の元へ――――ではなく、真っ先にキッチンへと向かう。

 

「っ、十香ちょっとま――――」

 

 て、と言う前に士道の言葉が途切れる。遮られた、という訳ではなくキッチンの方を向いた時呆気に取られてしまったのだ。何故なら、狂三がいるからと止めようとしたのにその狂三の姿が影も形も(・・・・)無くなっていたのだから。

 

 そうしている間にも、十香は冷蔵庫や棚からありとあらゆる食料を持ち士道たちを無視してあっという間にリビングから出ていってしまった。その後、一気に階段を駆け上がる音がしてからズガァン!!と家が揺れるほど凄まじい音を鳴らして扉を閉じたようだ。

 

 ……どうやら、また振り出しに戻ってしまったらしい。

 

「――――愉快な生き方をしていらっしゃいますわね、士道さんは」

 

「うひぃ!?」

 

 背中から肩に手をかけられ、突然耳元で囁かれて思わず自分でも何を言ったのか分からないほど驚き飛び上がるように後ずさる。うふふ、とそんな士道の様子に笑みを浮かべるのは……さっきまでキッチンにいたはずの、狂三。

 

「く、狂三? お前、一体どうやって……」

 

「ふふ……わたくし、かくれんぼには少し自信がありますの」

 

「……そ、そうなのか……?」

 

 いや、かくれんぼとかいうレベルではない早業だった気がするが……今もいつの間にか自分の背後に回り込んでいたし。

 

「それよりも、四糸乃さんはどうされたのでしょう?」

 

「え……あれ? 四糸乃……?」

 

 狂三に言われ、ソファに腰掛けていた筈の四糸乃がいつの間にか消えてしまっていることに気づいた。まるで神隠しにでもあったかのように、全く気付かれずにいなくなっている。

 

『十香が近づいてきたところで臨界に消失(ロスト)しちゃったみたいね。取り敢えず、どうにか誤魔化してちょうだい』

 

「どうにかって……」

 

 この察しの良い時崎狂三を、どうにかというざっくばらんな指示でどうしろと……と思った士道だが訝しげにこちらを見る狂三の視線に耐えかね、たじろぎながら……。

 

「と、十香に驚いて帰っちまったのかなー。はは、ははははは……」

 

 苦し紛れに、頭に手を当て大仰にそう言った。

 0点。インカムからはバカ……と呆れ返った妹の声が聞こえてる。ない、流石にこれはない。あまりにも不自然な言い訳に、何を言われるかと恐る恐る狂三を見る士道。彼女は士道の言葉に目を細め、しばらく彼を見つめた後……はあ、とため息を吐いた。

 

「……士道さんがそう仰るなら、そういう事にしておきますわ。士道さんも四糸乃さんも、事情がおありなのでございましょう?」

 

「……ごめん」

 

 狂三が苦笑しながら言ってくれたそれに、士道は頭を下げて謝る。まさか、馬鹿正直に精霊の事を説明する訳にもいかない。何も知らない狂三を巻き込むことは絶対にしたくないし、出来ない。だから、こうして彼女の配慮に甘える事に感謝を込めて頭を下げる。

 

「謝らないでくださいまし。その代わり、わたくしが困った時は――――約束、果たしてくださりますこと?」

 

「っ! ああ……そん時は絶対、狂三の力になる。約束だからな」

 

 微笑む狂三に、士道は力強く頷き言葉を返す。あの時の〝約束〟を、まだ彼女は覚えてくれていた。

 

 今だって、何も分かってはいない。彼女が抱える物がなんなのか……この、自分自身の想いですらも。それでも、彼女の力になってやりたいとあの日に思った事、その事実に嘘偽りはない。

 

 だったら迷いなく、少年は少女に手を差し伸べるだろう。たとえそれがどんなことであっても(・・・・・・・・・・)

 

「――――四糸乃さんへの誓いが本物なら、わたくしは……」

 

「ん……?」

 

 小さく、下手をすれば四糸乃の声より小さく狂三が何かを呟いた気がして、士道は思わずそれを聞き返す。しかし、狂三はハッと顔を上げ笑みを作り直ぐに誤魔化した。

 

「なんでもございませんわ。ただ……士道さんは、とてもとても女泣かせな方ですのね、と思っただけですわ」

 

「な……っ! ご、誤解だ狂三!! 十香はだな……」

 

 流石にその誤解は見過ごせない。と、まるで浮気がバレた男のような仕草で言い訳を始める士道。当然、精霊やそれに近しい事は何も言えないので相当苦労を強いられることになりそうだ。

 

 

 ……その想いが本物だった時、わたくしは士道さんを――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「見つかったみたいですよ。〈ハーミット〉が持っていたパペット」

 

 とある作業中の狂三を頬杖をついて見守っていたローブの少女が、まるで世間話のような軽さでそう言った。

 

「……そうですの。それで? 『わたくし』たちが町中を探し回っても見つからなかった物が、一体どこに存在いたしましたの?」

 

「さり気なく自分達(・・・)の人使いが荒いですよね狂三って……」

 

 〝自分達〟の人使いが荒いというのは、なんだか妙な表現だと思うが狂三〝達〟の事を考えたら不思議な事ではない。まぁいいですけど、と気を取り直し彼女達(・・・)と調べた情報を狂三と共有し始めた。

 

「――――鳶一折紙。陸上自衛隊、対精霊部隊AST所属の階級は一曹。ちなみに、五河士道と同級生で同じクラスの美少女だそうですよ?」

 

「後者の報告は不要ですわね。その鳶一折紙さんという方がよしのんさん……あの日パペットを拾っていた、というところでして?」

 

Exactly(その通りでございます)。今ちょうど、五河士道が鳶一折紙の家を尋ねて〝奪還〟を試みているらしいですよ」

 

 少女の余計(・・)な情報と気取った返答は軽く受け流した狂三だったが、その後の士道が〝奪還〟を試みている、という情報に作業を中断し顔を上げ首を傾げた。

 

「何故わざわざ士道さんが? 物の一つや二つ、士道さんの後ろにいらっしゃる方々が――――」

 

 スっ、と狂三の言葉を止めたのは無言で手のひらを彼女の顔の前に出した少女。そして、もう片方の手も使いとある数字を表現する。

 

 狂三の疑問は当然のものだと思うし、一介のAST団員相手ならそう思うのも無理はない。ただの団員なら(・・・・・・・)と注釈を付けるなら、だが。

 

「6人。その奪還を試みた方々が病院送りにされた人数、だそうです」

 

「…………機械生命体?」

 

「そんな時間遅延できそうな人ではないですね。――――部屋中に設置された赤外線センサー、催涙ガス、しまいには自動追尾歩哨銃(セントリー・ガン)。一体何と戦ってるんです彼女?」

 

 表情は相変わらずローブに隠れて見えないが心底呆れ返った、という声色で締めくくる少女。その報告を聞いた狂三も、どこか困惑の表情を隠せていない。

 

 如何に自分たちでもここまではしていない。戦争でも始める準備をしているのだろうか、と思わざるを得ない武装された部屋を紹介されて困惑するなという方が難しい。しかも、実際に病院送りにされた人達がいるのだからハッタリではなく本気(マジ)だ。

 

「そんな危ないお方の元に、士道さんは向かわれましたの?」

 

「――――心配です?」

 

 少し楽しげな声で問いかける少女に、一瞬ムッとした表情を見せた狂三だったが、直ぐに素面に戻り止めていた作業を続行しながら凛とした声で言葉を返す。

 

「何度も言わせないでくださいまし。わたくしは〝今〟士道さんに死なれては困る。それだけの話ですわ」

 

「そうですか。まあ、そんなに心配いらないと思いますよ。鳶一折紙はどうやら五河士道に特別、執着がある様子ですから」

 

 ――――彼の貞操が無事かまでは責任持ちませんけど。と内心で思っていた事は言わない。執着、と一言でまとめたが〝アレ〟は色々と度が過ぎてると思える。しかし、五河士道がその誘惑(・・)に耐えきれないというのなら、所詮それまでだと少女は割り切っている。同情はするが、今はそこまでだ。

 

 それはそれとして、だ。

 

「……ところで、なんで狂三は親子丼を作ってるんです?」

 

「――――負けられませんわ」

 

 ……何に? と誰かと同じ疑問を浮かべ大きく首を傾げたが、いつになく真剣に親子丼を作る狂三の姿にそれ以上の追求は止めることにした。熱気すら覚える集中力を見せる狂三に圧倒された、とも言う。

 

 どの道、五河士道がパペットを手に入れるまで暇なのだから、狂三が何をしようと構わない少女は再び頬杖をつき作業を進める狂三を見守り――――ピリ、とひりつく様な奇妙な空気を感じ取り、お互いの顔を見合わせた。

 

 程なく、町中に響き渡る空間震警報(・・・・・)

 

「五河士道は間に合うかどうか……取り敢えず――――」

 

「わたくしも参りますわ」

 

 少女の言葉を遮るように、作業を止めエプロンを外しながら歩みを進める狂三。

 

「どの道、『わたくし』達を動かしていれば、いずれわたくしの存在も察知されてしまいますわ。なら、わたくし自ら出向いても同じ事。……異論はありませんわね?」

 

 ――――影が這い上がる。狂三の足元からなるそれは、狂三の身体に絡み付くように形を成し、赤い光の膜で彩られた一着のドレスとなる。

 

神威霊装・三番(エロヒム)時崎狂三(精霊)を守るための鎧、霊装。

 

 血のように赤いドレスを身に纏い、狂三は不敵に笑う。紅の瞳と、金色の〝時計〟を宿した瞳が少女を射抜く。

 

 是。その答えしか求めていない、そう狂三の瞳は告げている。

 

「ああ、もう……」

 

 少女は思わずボヤく。が、そう狂三が決めたなら最初から少女の答えは決まっていた。そうでなくとも〈ハーミット〉の戦力は〝前回〟で大まかに把握する事が出来た。なら止める材料も意味も少女は持ち合わせていない。

 

 そもそも――――

 

 

「何かあったら私だけで動きます。見てるだけにしてくださいね?」

 

「きひひ、お任せ致しますわぁ」

 

 

 ――――時崎狂三が是と言うのなら、それは少女にとって是となるのだ。

 

 






さすが狂三ちゃんこの程度のことでは動揺しないなんてやっぱ一流だなぁ(棒)

感想ご意見評価など是非お待ちしておりますー

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。