デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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話のストックがなんか七話先まで溜まってます。私は元気すぎますどうか褒めてください(承認欲求お化け)
そんなことはさておき、迷える復讐鬼たちのお話。どうぞ。


第六十八話『復讐鬼たちの行く末』

 

 

「わたくしも、お手伝いさせていただきますわ」

 

 士道が思いついた一つの策。他に有効な手段はなく、白い少女の考察から七罪に対して有効な可能性が十分にあるという賞賛から準備に入ろうとした時……狂三は躊躇い一つ見せずにそう言った。

 士道はそれに助かるよ、と元気な笑顔で答えたが、琴里は少し意外そうに目を丸くした。

 

「……てっきり七罪を話し合いの席につかせたら、見るだけ見て静観すると思ってたわ」

 

「あら、あら」

 

 琴里の推察はなんてことはない勘を含めたものではあったが、決して間違ってはいないものだという自信があった。時崎狂三はなりふり構わず姿を現す精霊ではない。彼女なりにボーダーを測り、士道をデレさせるため副産物(・・・)として精霊攻略に協力をしている。七罪攻略は、今士道がこの場を離れて他のみんなに協力を仰いで、みんなで行う作戦だ。今までの急を要するトラブルのように狂三の協力がどうしても必要というわけではないし、彼女もそれをわかっているからこそ余計な労力は割かないだろうと思っていた。

 建前としてはどうあれ、精霊攻略を手伝って士道の好感度を、という性格でもないだろう。だからこそ、良くて静観だという予想を立て見事裏切られた。

 

「わざわざあなたが協力するメリットはないんじゃない? 極力こっちの邪魔をしないよう気を使ってくれてるみたいだし」

 

「それは気のせいというものですわ。士道さんの精霊攻略は、将来的にわたくしのものとなる(・・・・・・・・・・)。事ここに至っては特段協力しない理由がないだけですわ」

 

「あらそう。可愛げの無い理由ね」

 

「別に琴里さんに可愛げを見せようとは思いませんもの」

 

 はいはい。と狂三の軽口を適当に受け流し、モニターの中で警戒心の強い猫のように蹲る七罪を見遣る。あんなに気を張っていて疲れないのだろうかとも思うが、まあ事実上の軟禁状態なのだから仕方がないのかもしれない。

 七罪の力が扱える状態に戻るまで、予測された刻限はあと二日。それまでに七罪の警戒心を解いて、あのネガティブ娘を攻略せねばならない。そう考えると、確実性を上げる狂三の協力は――同時に警戒心を上げるリスクはあれど――ありがたいものだ。ただ、それで終わらせるには狂三の積極性に不思議と違和感を覚えてならない。

 

「七罪があの子(・・・)に似てるって言われたから、そこに同情でもしたの?」

 

「わたくしが、そのような情に厚い女に見えまして?」

 

「見えるわね」

 

「……皆様、わたくしという人物を買いかぶり過ぎていますわ」

 

 あまりにもノータイムでの返答だったため、反論を起こす気力さえため息と共に吐き出された。

 ここで昔の狂三だったら、あらあら、その二つの眼は節穴ですのね。必要がないのならわたくしがいただいてもよろしくてよ。くらいは平然と言ってのけただろう。

 

「あの子と同一視するつもりはありませんわ。多少考えが似ているだけで、性格的に同一視出来る要素はありませんもの。ただ……」

 

「ただ?」

 

「…………」

 

 少しの、沈黙。口を噤む彼女は、果たして何を考えているのだろうか。士道なら推し量る事が可能かもしれないが、琴里はそうすることなくチュッパチャプスを口の中で転がし次の言葉を待った。

 

 

「――――――わたくしは、必要以上に自己を貶めることが好きではない……だけですわ」

 

「――――――――」

 

 

 それは、時崎狂三の飾り気ない本音。それが判るから、琴里は言葉を失った。幾人もの命を踏み躙ったと語る、最愛の兄の命を奪うのだと謳う――――――そんな彼女の気まぐれでこぼした本音が、まさに普通の少女の感性(・・・・・・・・)である異常。

 

 七罪は自己を否定する。自らを見窄らしいと、醜いと。琴里の目から見てその意見が正しいかと聞かれれば、どれだけ客観的に捉えたところでそんなわけがないと断言する。髪はボサボサで健康的とは言えない見た目だが、それは努力を怠っているだけ。磨けば光るダイヤの原石が七罪なのだ。

 自らを悪く貶める七罪を、狂三は怒って苛立ちを感じている。言い換えれば、正当に評価されるべきだ(・・・・・・・・・・・)と思っている。あまりにも、〝最悪の精霊〟に似合わない考え方だった――――――だが、判っていた事でもある。現状、唯一狂三とまともに撃ち合い、戦った記憶を所持したままの琴里は知っている。彼女のその、歪な精神性を。

 

「……あなたは、どうして銃を握るの(・・・・・)

 

「愚問ですわね。果たすべき目的のためですわ」

 

「――――――あなたに、それだけの決意をさせるだけの目的は、なんなの?」

 

 狂三は銃を離さない。決して、離すことはしない。こうして会話を交わしている時も、戦いの時も――――――紅蓮の焔に焼かれた、あの瞬間でさえも。時崎狂三は真の意味で銃を手放したことがない(・・・・・・・・・・・)

 

「価値観が先天的なものかどうか……あなた、美九の一件で士道にそう訊いたらしいわね」

 

「ええ」

 

「時崎狂三。あなたも私と同じなの?(・・・・・・・)

 

「…………」

 

人から精霊に変えられたもの(・・・・・・・・・・・・・)。五河琴里は〈ファントム〉という謎の存在に霊結晶を与えられ、〝精霊〟となった。ある意味で、その瞬間に生まれ落ちた(・・・・・・)精霊。

 

 

 ――――――わたくしという精霊が生まれたその時から(・・・・・・・・・)、数多の命を奪い、屍を築いた者。

 

 

 かつて、士道との相対で狂三はこう語った。命を奪い、奪われる環境に身を置き、だと言うのに狂三は普通の少女のような感性を見せる時がある。否、士道がそれを引きずり出した(・・・・・・・・・・・・・)のだ。引きずり出した、と表現するのであれば前提がなければ話にならない――――――時崎狂三が、普通の少女として過ごしたであろう〝経験〟が。

 考えすぎ、飛躍が過ぎるのかもしれない。しかし、あらゆる経験が他の精霊とは一線を画す彼女だからこそ、その性根が見え始めると違和感が浮き彫りとなるのだ。

 

 黙して語らない狂三は、その言葉を否定しなかった(・・・・・・・)

 

 

「狂三。あなたは士道に恋焦がれてる。誰かを思いやる心がある――――――そんなあなたに、引き金を引かせた(・・・・・・・・)理由を齎したのは、なに?」

 

「……っ」

 

 

 ――――――目的には相応の理由があり、過程がある。

 時崎狂三は士道と惹かれあっている。それは、彼に恋焦がれる者なら誰もが羨むものだ。それでいて、時崎狂三という少女は(・・・)誰かに恨まれる者ではない。〝精霊〟ではなく〝少女〟は、きっと誰かを恨み、恨まれるような者ではなかった筈だ。節々に見え隠れする彼女の育ちの良さ(・・・・・)は、どれだけ経験を積もうと隠し切れるものではなかった。

 ここまで過程と確信を得てしまえば、もう思考は止まらない――――――そんな〝普通の少女〟を〝最悪の精霊〟とした理由は、なんなのか。

 

 どれだけ惹かれて、どれだけ恋焦がれようと、時崎狂三は〝悲願〟を捨てていない。未だ、彼女の手には目的を果たすための銃が握り締められていて……それだけの決意と覚悟。士道が全てをかけて尚、崩す事が叶わない〝過程〟は何なのか――――――優しい彼女が、踏み躙った命とは誰のものなのか(・・・・・・・)

 

 深い、沈黙が降りた。先程よりずっと長い、長い無言の時。僅かに顔を逸らした狂三の表情を窺い知る事は出来ない。先に沈黙を破ったのは、琴里だった。

 

 

「……ごめんなさい。親しくもない私に、こんな風に踏み込まれるのは不快よね」

 

「その引き金を引いたのは――――――わたくしの意思ですわ」

 

 

 返答が返ってくるとは思っていなかった。躊躇いを含んだ彼女の言葉に目を見開きながら、琴里は黙って耳を傾ける。

 

「……許されるつもりはありませんわ。わたくしが犯した過ち。それは、わたくしだけのもの。誰かに、背負わせるつもりもありませんわ」

 

「…………士道でも、変わらないってこと?」

 

あの方だからこそ(・・・・・・・・)、変わりませんわ」

 

 罪過を背負って生きて行きたい。その償いを、生涯ともにと言ってくれた優しい人がいて――――――その優しさを優しさで突き返そうとする、歪な少女がいる。

 

 

「最低最悪の〈ナイトメア〉。そんな救えない精霊にもし、もし人の形があったとすれば――――――その女もまた、救いようのない者だったと……わたくしは思いますわ」

 

「どうして? その子は――――――」

 

「優しさと、幼稚な甘さ(・・・・・)は違いますわ。それを履き違え、愚かにも引き金を引いた者は……さて、どうなってしまったのでしょうか」

 

 

 ――――――精霊・時崎狂三。琴里の目の前にいる彼女こそ、引き金を引いてしまった(・・・・・・・)結果なのだと精霊は笑う。自嘲と弱さを見せる、悲しい微笑みで。

 

「……必要以上に自分を貶めるやつのこと、私もどうかと思うわ」

 

 やっと絞り出した言葉は、そんなものだった。フッと儚げに微笑んだ狂三が、スカートの裾を摘み育ちの良さが窺える(・・・・・・・・・)優美な礼をして、部屋を後にした。残されたのは琴里――――――

 

 

「――――――『わたくし』ともあろうものが、随分と心を許してしまいましたわね」

 

 

 そして、〝影〟が形となり、深淵を思わせる黒が紅と混ざり合う。霊装を纏った狂三の分身体、そのうちの一体が姿を現した。

 

「……『狂三』」

 

「ええ、ええ。『わたくし』のお喋りが過ぎましたのでご忠告を。あまりに『わたくし』に踏み込み過ぎると、取り返しがつかない事になりかねませんわよ」

 

「どうも。虎穴に入らずんば虎子を得ず、って言葉を知ってるかしら」

 

「きひひひひ!! あら、怖い怖い。流石は炎の精霊さんですわね」

 

 嘲笑にも似た狂気を感じさせる微笑みは、間違いなく精霊・時崎狂三のものである。だというのに、段々とあの(・・)時崎狂三と結びつかなくなっている。士道と語り合う彼女の姿を見る度に……一度は殺し合った仲だと言うのにくだらない話を琴里としている狂三が、この分身体と結びつかない。間違いなく、彼女は時崎狂三の分身体である筈なのに。

 そう、狂三という少女が戻ろうとしている――――――けど、だからこそ〝悲願〟を決して諦めない狂三という精霊が、酷く悲しく映る。

 

「あなたも、狂三の分身体なのよね」

 

「ええ、ええ。正確にはこの場所にたどり着く前の(・・・・・・・・・・・・)〝時間〟から切り離された存在。わたくしから言わせれば、『わたくし』が余計な感情(・・・・・)を持つ前のわたくし、ですわ」

 

「……あっそ」

 

 不機嫌そうに肘掛を利用して頬杖をつく琴里を見て、狂三はまた愉快そうに笑みをこぼす。なるほど、これは間違いなく昔の狂三なのだと感じさせられた。

 今でさえ、あれほどの決意と信念を持つ狂三だ。その事を考えると、昔の狂三である『狂三』がくだらないと切って捨てる気持ちも理解出来る。理解できるだけで、不愉快でないとは言っていないが。

 

「そんなこと言いながら、ちゃんと狂三の指示には従うのね。あなた〝達〟は」

 

「『わたくし』は目的を捨てたわけではありませんもの。ならば従うのは当然のことですわ」

 

「つまり――――――狂三が目的を捨てたら、見捨てるってこと?」

 

 睨むような目付きの問いかけにも動じず、『狂三』は肩を竦めて平然と声を出した。

 

「『わたくし』が目的を捨てる、という前提がありえませんが……そうなると話が成り立ちませんものね――――――『わたくし』もわたくしなれば、そのような事はありませんわ。逆であれば、ありえたでしょうが」

 

「狂三が、分身体を殺すってことね」

 

「ええ、ええ。仮初の命を消し去る事が、殺すという定義に当てはまるかは疑問ですけれど」

 

 狂三ではなく『狂三』が士道に惹かれていれば、狂三はその分体を不穏なものとして処理していた。分身体は、分体だからこそ狂三に従うものだ。自らの命に関わることを平然と語る『狂三』は、やはり価値観がかけ離れていると思わざるを得ない。

 

「――――――と、意地を張ったところで、わたくし〝達〟が『わたくし』である事には変わりませんけれど」

 

「……は?」

 

「言ったでしょう? 『わたくし』もわたくしなれば、と。『わたくし』がわたくしである限り、大半のわたくしが士道さんをどう思っているか……言うまでもありませんわ」

 

「…………あー」

 

 『狂三』の言いたい事が判った。判ってしまい、張り詰めた緊張の糸がプツンと途切れた。『狂三』とは、どこまで突き詰めても狂三の分体なのである。考え方の違い、育ち方の違い、役割の違い。様々にあるだろう……しかし、最終的には〝時崎狂三〟である事は確実であり真実。

 

「やれ士道さん士道さん、士道さんに会いたいですわ。一目で良いから会わせてくださいまし。あの片腕だけでよろしいので――――――と、狂ったように訴えるわたくしを諌めるのは誰だと……!!」

 

「一気に所帯染みた話になってない?」

 

「『わたくし』はわたくしに対する感謝が足りませんわ!!」

 

「聞いちゃいないわね……」

 

 愚痴大会か? と思えるような鬱憤を晴らす叫びを繰り返す『狂三』をため息混じりに見遣る。なんというか、余計な感情とは言ったがその感情そのものを否定はしていないのだろう。だって『狂三』は狂三なのだから、そう琴里は結論付けた。

 複雑だ。精霊を攻略という作戦を決めた時点である程度の想定はしていたが、兄の好きな少女が精霊の中でもここまで複雑怪奇な子だと、本当に色んな意味で複雑だと言わざるを得ない。まあ、そうであってもフォローしてやるのが琴里の役目ではあるのだが、一発解決できる奇跡のような手段(・・・・・・・・)はないものかと思ってしまうのも無理はない。

 

 ふと、琴里は士道と同じく狂三を慮る少女の事を思い出した。

 

 

「――――――あなたは、狂三に何を望むのかしら」

 

 

 問いに答える者は、当然この場には現れない。あの子は、時崎狂三に何を望んでいるのか。それは精霊としてなのか、少女としてなのか――――――何も、見えては来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

『単刀直入に申し上げます――――――鳶一一曹。私の下に付く気はありませんか?』

 

「――――――どういうこと?」

 

 特殊部隊の男たちに囲まれた中、折紙は手にした携帯から聞こえてきた予想外の言葉に訝しげに眉を顰めた。怪訝な彼女の声にも電話の主――――――エレン・メイザースは極めて事務的に声を返す。

 

『そのままの意味です。DEMインダストリー第二執行部に入るつもりはありませんか? あらゆる面で今以上の待遇をお約束しますが』

 

「……士道に危害を加えるような組織に手を貸すつもりはない」

 

『それならばご心配なく。五河士道については、当面積極的攻撃を行わない方針です』

 

「そんな言葉を信じろというの?」

 

『――――――そうですか。残念です。ですが、本当によろしいのですか? どうやら、窮地に立たされているようですが。今捕まれば、あなたは永久に精霊に対する力を失うことになる』

 

「…………!!」

 

 知っている。エレンは追い詰められた折紙の状況を。先月の一件で独断行動を行い、あらゆる権限が停止されていた折紙。だが、DEMのあまりに勝手が過ぎる作戦が根底にあったこともあり、彼女の処分は保留のまま、同情的な意見も多く特例として処理されるはずだった――――――何らかの力(・・・・・)が働く事がなければ。

 

「……あなたは、私に傷を付けられた恨みがあるのではないの?」

 

『絶無とは言いません。ですが今はそれよりも、使える部下が欲しいという欲求が勝っています――――――それこそ、私の身体に傷を付けられるくらいの』

 

「…………」

 

 鳶一折紙に下された懲戒処分。それに伴う、彼女を拘束するために派遣された特殊部隊。その全ては、恐らくDEM社による陰謀……折紙を引き抜くための工作だったわけだ。

 

『DEMインダストリーには、各国に配備されているそれとは比べ物にならない性能のCR-ユニットが多数存在します……ご両親の無念を(・・・・・・・)、晴らしたくはありませんか?』

 

「……ッ」

 

 当然、折紙の過去も調べられているという事か。親しくもない士道に仇なす相手に無遠慮に立ち入られるのは、思っている以上に不快感を示してしまう。しかし、次に飛び出した言葉は、そんな彼女の不快感を吹き飛ばしてしまうほど衝撃のあるものだった。

 

 

『――――――五年前、天宮市南甲町を襲った大火。そのとき、現場には複数の霊波反応が確認されていました。無論それはDEMの極秘資料ですが――――――あなたが第二執行部の魔術師となるのであれば、それを開示しても構いません』

 

「な――――――」

 

 

複数の霊波(・・・・・)。かつて士道が、そして〈アンノウン〉が指し示した可能性。五年前、忘れられない業火の中で両親の命を奪った〝精霊〟――――――その手掛かりが、思いがけず目の前に転がり込んできた。

 

「さっきから何を話している!! もういい、捕らえろ!!」

 

「く――――」

 

 痺れを切らした部隊の隊長と思われる男が指示を出し、折紙を追い詰めんと距離を詰めさせた。逃げ場はない。如何に折紙と言えど、ろくな武装もなく訓練を受けた特殊部隊の男たちを相手に真っ向から立ち向かうのは不可能だ。

 

『――――――さあ、いかがなさいますか? 鳶一折紙』

 

「…………っ」

 

 選択肢は、殆ど残されていない。このまま捕まり、強制的に復讐のための力を失うか。DEMの軍門に下り、戻れぬ道へ足を踏み入れるか――――――

 

 

「――――――――」

 

「……!!」

 

 

 ――――――白い精霊が、見ていた。折紙だけが見える、見上げられる場所から、少女は折紙をただ見ていた。

 

 少女が何を考えているか、わからない、わかるはずもない。精霊の考えることなどわかりたくもない。が……たった一つ、彼女にもわかる事があった。あの精霊は、折紙が頷くだけで助け出してくれる(・・・・・・・・・・・・・)。たった、それだけでいい。折紙がもういいと、道を歩む事を捨て去るだけで、少女は彼女をこの場から連れていく。そんな、馬鹿げた予感があった。

 

 その先に待つものはなんだろうか――――――言うまでもない、安寧。復讐を捨て去った鳶一折紙に、戦う理由など存在しない。士道の下に駆け込めば、どうにかなるかもしれない。それこそ、何を馬鹿なと思うが彼の裏には間違いなく〝何か〟がある。その力を借りれば……折紙は、安寧を得られるだろう。

 それを何故か、白い少女は示している。第三の選択肢。優しい、五河士道という少年を悲しませない選択肢。

 

 

「――――――わかった。私に、力をちょうだい」

 

 

 ――――――鳶一折紙は、それを選ばない。

 

 必要ないものだ。必要ないものと思わなければいけない(・・・・・・・・・・)。折紙はそのためだけに生きて、そのためだけに活動する。

 その瞳に宿す物は、憤怒。その身を動かすものは、激情。それだけで十分だ(・・・・・・・・)

 

 全ての精霊を――――――殺すために。

 

 

『――――――ようこそ、DEMインダストリーへ』

 

 

 目の前と電話口。二方向から彼女は折紙へ手を差し伸べた。それは決して、許されない外道へ堕ちる道標。だとしても、鳶一折紙という復讐鬼は復讐鬼足らんとするためにその手を取るしかない。

 

 

「…………」

 

 

 一度だけ、見上げた――――――そこにはもう、白い精霊はいなかった。

 

 次に会うときは――――――殺し合う。そんな未来視にも似た予感が、彼女の脳裏を掠めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「虎穴に入らずんば虎子を得ず、って事ですか」

 

 落胆はない。不満もない。ただ、当然のこと(・・・・・)だとビルの屋上に腰を掛けながら結論付けた。

 

 鳶一折紙は平穏を選ばない。選ぶはずがない。復讐者という者は得てしてそういうものだ。時崎狂三が、未だ闇から抜け出せていないように。鳶一折紙もまた、闇から抜け出すことはない。

 

 

「その道を選ばずに済む選択は常に示されているというのに……復讐を目的とした方は、どうしてこういう人ばかりなのか」

 

「――――――何を今更。内に秘めた憤怒と悲しみを捨てられない者が、復讐という道を選ぶのですわ」

 

 

 後ろに立つ絶対的な美貌を持ちながら、些か常識外れの奇抜な服装(メイド)を着込んだ精霊が、当然のことを当然と語る。それが常識なのだと、誰よりも知る彼女が。

 

「あらゆる犠牲を、あらゆる悲劇を。たとえ、復讐の対象と同じ外道に堕ちようと。始めたからには最後までやり遂げなければならない。それが――――――堕ちた者の末路ですわ」

 

「……強情なのも、当たり前か」

 

 時崎狂三は手放さない。手放せない。どれだけの幸福が目の前にあろうと、奪ってきた全てに報いるため、取り戻すために復讐を裏切れない。

 鳶一折紙は手放さない。手放すつもりがない。いつだって彼女は普通の幸福を手に取ることが出来るはずなのに。復讐に身を捧げた彼女は自らが滅び行くまで復讐を裏切らない。

 

 二人の復讐鬼が行き着く果ては地獄の底か。それとも――――――

 

 

「――――――結局、私は大馬鹿者だったわけですか」

 

 

 ほら、予想通りになった。時崎狂三と同じ道を歩む鳶一折紙は、いつの日か女王の〝敵〟となる。予想とは名ばかりの、確信。女王を脅かす力すら持たない折紙は、いつかその憤怒の導くままに強大な力を手に入れる(・・・・・・・・・・)

 今は〝敵〟ではなかった。折紙の生き方は、少女の心を揺れ動かすには十分なものだった――――――有り体な言い方をすれば、折紙に一種の好意(・・)を抱いていた。不器用すぎる彼女の生き方、復讐を望みながら己の大切なものを守ろうとする彼女の生き様――――――けれど、鳶一折紙は時崎狂三の〝敵〟だ。

 

 同情も、親愛の情も……その事実だけで無意味となる。誰であろうと、そうなったのなら喰らうだけ(・・・・・・・・・・・・・)

 

 だが、同時に(・・・)。少女は折紙の選んだ行く末(・・・)が――――――

 

 

「さて、折紙さんは迷う自分を消す(・・・・・・・)道をお選びになられましたが……『わたくし』はどうなのでしょうね」

 

「……それを選ぶための戦争(デート)でしょう」

 

「きひひひひひ!! 気の長い話ですわ、待ち焦がれてしまいますわ――――――あなたは、どちらの(・・・・)『わたくし』をお望みですの?」

 

 

 迷う子猫の選ぶ道。揺れる精霊の選択肢。優しい少女の恋心。少女が〝計画〟に望むのは、どちらなのかと彼女は微笑んで問い掛けた。そのような答え、少女はとうに出しているというのに(・・・・・・・・・・)

 

 

「分かりきったつまらない質問ですね――――――我が女王なら、どちらでも(・・・・・)

 

 

 幾度でも、何千何億でも答えよう――――――全ては、我が女王(時崎狂三)のために。

 

 

 







デレ度は原作より高いし十香たちへの憧れを持ってるし、その幸せの尊さも理解出来ている。だが、時崎狂三はその道を選ぶことは出来ない。その答えを、いつの日か士道たちは出すことが出来るのか。狂三リビルドのコンセプト、常に狂三がメインヒロインを変えず悩み悩ませで進んでいきます。

悪夢、女王、復讐鬼と狂三一人に様々な呼び名付けてますけどさすがに私の性癖がバレるな????いやそれはどうでもいいとして同じ復讐鬼であり降りる事が出来ない道を選ぶものであり……ご存知次章、折紙編は特大のターニングポイントです、お楽しみに。

白い少女は誰であれ真っ直ぐに生きる人が好きなのかもしれません。そこに美しさを感じて、友愛を覚えて……それでも全ては女王のために。

感想、評価、お気に入り登録ありがとうございます。最っ高に嬉しいです! いつでもお待ちしておりますー。次は七罪攻略回に戻ります、次回をお楽しみに!!

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