デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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フォールダウン。

最近は話をまとめた方が感想を貰いやすかったりするのかなぁと思いながらも、でも平均8000くらいのが読みやすいのでは……?という完全に感覚でやってきたことを悩んでいます。どうなのでしょうね実際。ストックが6話先くらいまであるのも悩みポイントなのですが。そんな事情はともかく72話、どうぞ





第七十二話『絶望が落ちてくる』

 

 

「七罪!! 聞こえていたら返事をしてくれ!! 七罪!!」

 

 声が聞こえる。人っ子一人いない街を駆けずり回り、息を絶え絶えにしながら必死に呼びかける声が。聞こえないはずがない――――――士道が予想した通り、七罪は近くにいる(・・・・・)のだから。

 

 ――――――なんで。

 

「士道さん!!」

 

「狂三、七罪は見つかったか!?」

 

「いえ、『わたくしたち』に指示を出して街全体を捜索はしていますが……わたくしの呼びかけでは、難しいと思いますわ」

 

「そうか――――――七罪!! いないのか!? 七罪!!」

 

 士道だけではなく、狂三も同じように駆け回っている。精霊だけあって士道よりかは疲労は見えていないが、逆にそれを活かして走り続けているのだろう。僅かながら見える汗がその証明だ。

 

 ――――――なんで。

 

 

「七罪さん!! いらっしゃいましたら返事をしてくださいまし!!」

 

「七罪!! 頼む!! 返事を――――――」

 

 

 なんで――――――そんなの、七罪を助けるために決まってる。

 会話を聞いていて、それがわからない七罪ではない……認められない七罪ではなくなっていた。降ってくるであろう人工衛星の破片。精霊の狂三がいると言っても、留まるのは自殺行為以外の何物でもない。ないのに、士道は七罪を助けるだけのために(・・・・・・・・・・・・)、いるかもしれないという不確定の可能性を考えて狂三と街に残ることを選択した。

 

 あまりにも無謀で、あまりにも優しくて――――――胸の妙な感覚が止まらない。

 

「ぅ……」

 

 わかっていた、わかっていたんだ。認めようとしなかったのは、認めるのが怖かったのは七罪だ。見て欲しかったのに、見つけて欲しかったのに――――――いつしか、認められない自分を見つけられるのが怖くなっていた。

 

 七罪を見つけられなかったのは、誰でもない七罪自身で――――――それを士道が、みんなは見つけてくれた。〈贋造魔女(ハニエル)〉で変身した七罪ではなく、〝本当の七罪〟を彼らは探してくれている。誰もが愛する、愛されるために作られた(・・・・)七罪ではなく……誰からも無視されていた七罪を、こんなに必死に見つけ出そうとしてくれていた。

 

「……っ」

 

 思い返すのは、たった数日の記憶。エレンに襲われた七罪を士道たちが助けてくれて。みんなで七罪を『変身』させてくれて。こんな自分を、可愛いと思わせてくれて――――――誰でもない〝七罪〟を認めてくれた。

 

「……私、は」

 

 理解してしまった。誰に押し付けられたわけでもなく――――――七罪は、士道に死んで欲しくないと思ってしまった。

 

 

『わたくし、士道さんを殺しますわ(・・・・・)

 

「っ……ぁ」

 

 

 そして――――――狂三に、士道を殺して欲しくない。

 なんで、二人であんなにも幸せそうなのに。狂三は士道を助けようとしているのに……どうして、そんな未来が待っているだなんて言うのか。酷く、痛い。考えるだけで、痛くなる。ちゃんと自分を見てくれる人たちが、消えてしまうと思うだけでこんなにも苦しい。

 

 ああ。もうとっくに、秘密を見られたことなんてどうでも良くなっていたのだ。

 

「――――――七罪!!」

 

「…………っ、…………」

 

 ――――――して欲しくないから、どうだと言うのか。彼らの今までを知らない七罪に、それをどうにか出来るはずがない。そんな勇気はない(・・・・・)

 今だって、どうしたらいいのかわからなくなっている。初めての感情、初めて向けられた想い。それらがごちゃごちゃに混ざり合って、七罪が動く事を封じ込めてしまっていた。

 

「だ、大丈夫……大丈夫」

 

 今は大丈夫だ。七罪が何かをしなくても、時間が来れば士道と言えど諦めて安全な場所へ避難するはずだ。そうでなくても、彼の背後にいる組織や狂三が何とかしてくれるはず。そうとも、七罪なんかより余程強く頼りになる狂三が一緒にいるのだから、七罪の出る幕なんて最初からありはしない。

 

 ――――――だから、早く、逃げて。そうやって、ただ彼らの安全を心の中で祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「七罪!! 七罪!!」

 

 喉が痛い。全身が休息を求めて悲鳴をあげている。膝が笑って、走る足がもつれて倒れそうになるのを何度も狂三に助けられた。それでも、七罪を探すことを士道は止めなかった。

 止めるわけにはいかない。近くに七罪がいるかもしれない。こんな危険な場所にまだ取り残されているかもしれない。

 

『――――――士道、聞こえる?』

 

 そんな士道の足を止めたのは、インカムから響いた一本の通信。この通信が意味するもの、それは……。

 

「……あ、ああ……聞こえ、る……!?」

 

 絶え絶えの息を整えながら返事を返した士道の顔が、服を引っ掴んで強引に引っ張られた。誰に、など一人しかない。この街に残っているのは七罪を除けば士道と狂三しかいないのだから。士道本人の自作自演でなければ狂三の仕業でしかない。

 で、何をしたかというと、インカムを付けた士道の耳にピッタリと耳をくっ付けていた。あまりの密着具合に疲労も忘れて顔を真っ赤にする。

 

「ちょ、狂三……!!」

 

「こうしないとわたくしも聞き取りにくいのですわ。我慢してくださいまし」

 

「いやだからってな……」

 

『何してるのよあなたたち――――――タイムリミットよ』

 

 その言葉に士道は目を見開く。この通信が意味するもの……それがわかっていても、彼はそれを抑える事が出来なかった。

 

『残念だけど、もう限界よ。これから回収しに行くから、その場を動かないで』

 

「……もう、なのか!? 頼む、あと少しだけ……!!」

 

「士道さん。いけませんわ」

 

 狂三が咎めるように言う。声だけは、そうだった。しかし、誰より士道を案じているのは、揺れる彼女の瞳を見れば火を見るより明らかだった。その瞳に一瞬言葉を詰まらせるが、それでも縋るように士道は声を発する。

 

「頼む!! もう少しだけで――――――」

 

『駄目よ。約束でしょ』

 

「で、でも……」

 

 ガリ、と何かを噛み砕くような音が響いたのはその時だ。それが琴里が苛立ちと心配(・・)でチュッパチャプスを噛み砕いたものだと、わからないはずかない。

 

 

『何度も言わせないで――――――お願いよ、士道。守ろうとする命の中に、ちゃんと自分を入れてちょうだい』

 

「――――――っ」

 

 

 微かに震えを含んだ声を聞いて、押し黙るしか、なかった。その言葉は、家族として身を案じる妹の言葉だった。効かないわけがない――――――隣で見つめる狂三も、言いたいことは同じだと無言で語っていた。

 士道の命は、もう既に士道だけのものではない。これ以上の勝手は、出来なかった。

 

「………………わかった。ごめん、我が儘言って」

 

『別に。慣れっ子よ』

 

 ほんの数十分前に真隣の女の子に全く同じことを言われたことを思い出し、士道が思っている以上に苦労をかけているなと苦笑する。自覚はあるが、どうにも直せそうにはなかった。

 

 ――――――嫌に耳に響くブザーが鳴り響いたのは、その瞬間のことだった。

 

「っ、琴里!? 何かあったのか!?」

 

 慌てて問いかけるが返事はない。代わりに慌ただしく物音や怒声が聞こえてきて……苦渋に満ちた琴里の声が鼓膜を震わせた。

 

『……士道、悪いけど予定が狂ったわ』

 

「え?」

 

『あなたを回収しに行けなくなった。狂三――――――』

 

「了解いたしましたわ。わたくしがそちらに連れていきますわ……琴里さん、お気をつけて」

 

「――――――わかった。俺のことは心配するな。頼んだぞ」

 

 尋常ではない事態が起こったのだろう。余計な問答をしている時間が惜しいと見たのか、狂三が簡潔的に言葉を紡ぎ、士道も必要最低限の言葉を残した。

 

『ええ……ありがとう』

 

 声が震えそうになるのを、必死に押さえ込んでいる。そんな様子が見て取れる言葉を最後に、琴里からの通信は終わった。

 

「――――――士道さん」

 

「…………わかってるよ」

 

 ――――――〈灼爛殲鬼(カマエル)〉の加護を持つ士道なら、人工衛星の爆風と破片があったとしても無理が出来るのではないか。

 彼なら、そう考えても不思議はない。が、狂三がそんなことを許すはずがない。琴里が最後に残した感謝の言葉は彼女に向けたもの。それを受け取った狂三には、士道を〈フラクシナス〉へ連れていく責任がある――――――それが、妹と司令官の立場。大切な兄を置き去りにする司令官としての判断……その苦渋極まる選択をしてのけた琴里への礼儀だった。

 

 

『――――――守ろうとする命の中に、ちゃんと自分を入れてちょうだい』

 

「……わか、ってる。ごめん……」

 

 

 士道が七罪の身を案じているように、狂三や琴里が自身の身を案じている。たとえ言葉に詰まろうと、彼女たちの想いと言葉は士道を思い留まらせるに至った。

 

「……でもせめて、七罪がわかるようにシェルターまで行きたい。良いか?」

 

 最後の悪足掻きだ。どれだけの猶予があるかわからないが、それでも士道は我が儘を押し通したかった。一瞬、顔を険しくした狂三にダメかと眉を落とすが……彼女は、逡巡こそ挾みはしたものの彼に答えてくれた。

 

「……わかりましたわ。急ぎましょう」

 

「ありがとう狂三!! ――――――七罪!! 今から地下シェルターに行く!! もしシェルターの位置がわからなかったら俺に付いてきてくれ!!」

 

 張り上げる声に、やはり返事はない。それでも士道は声が届いていることを願いながらシェルターへ向かって狂三と共に走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 琴里を、〈ラタトスク〉を取り巻く状況は芳しくなかった。魔力収束砲〈ミストルティン〉による砲撃で、落下してくる人工衛星を撃ち落とす当初の計画は失敗した(・・・・)。物理的な衝撃が艦内を激しく揺らす中、琴里は声を上げた。

 

「一体何!?」

 

「ほ、砲撃です!! 随意領域、十五パーセント縮小!!」

 

「砲撃ですって……?」

 

 モニターに映し出された〈フラクシナス〉を上回る巨大なフォルムの空中艦。今の攻撃……そして、魔力砲を随意領域で逸らしたのもあのDEMの戦艦の仕業だろう。

 人工衛星とドッキングした〈バンダースナッチ〉。あの人形に搭載された顕現装置を使い、DEMの一派は衛星を捕捉し、その上大気圏突入の影響を受けさせないために随意領域を使用した。加えて、魔力砲を防ぐためピンポイントで随意領域を生成できる空中艦を用意。

 〈ラタトスク〉の介入も予想した計画的な犯行だった。そうまでして何が目的か――――――だが狂三の言う通り、そんな事を考えている時間が惜しい。

 

「司令……!!」

 

 クルーたちに動揺と戦慄が走る。あの艦がいては人工衛星を破壊できない。が、空中艦に構っていてはそれこそタイムオーバー。衛星は地上へ落下し、令音の予測数値が正しければ――――――天宮市は完全な焦土と化す。

 シェルター云々どころではない。事は琴里や狂三の予測規模と想定を遥かに超えていた。それ故に――――――五河琴里は冷静だ(・・・)

 

 

「神無月、ここは任せるわよ――――――〈グングニル〉を使うわ」

 

 

 落ち着いて、平坦に。琴里は〈フラクシナス〉に備えられた最後の切り札(・・・・・・)の名を告げた。その正体とリスク(・・・)を知っているクルーたちは、皆一様に眉を揺らした。

 

「……大丈夫かい、琴里」

 

「ええ。フルパワーで撃つわけにはいかないけど、それでも十分よ――――――あいつ(・・・)に、任されたのよ」

 

 司令官としての選択を取り、妹として動けなかった自身の代わりに、あのバカ兄を受け持った彼女に琴里は託されている。

 烈火の如く燃える瞳が、信頼する部下へと向けられた。

 

「外すんじゃないわよ、神無月」

 

「お任せください」

 

 迷いなく答える神無月に満足気に頷いて、コンソール脇に付いていた認証装置に手を当てる。すると、琴里の座る艦長席が床に吸い込まれるように導かれて行く。数秒とかからず、艦橋とは異なる開けた場所へたどり着く。

 半径三メートルほどの円の形をした空間。壁面には外の映像がリアルタイムで投影されていて、まるでそれは空中を渡り歩いているような錯覚を覚えさせる。無論、そのようなロマンチストな感傷に浸る琴里ではない。

 

 

「さあ、始めましょうか――――――私の戦争を」

 

 

 炎の渦が、琴里を包み込んだ。天女を思わせる羽衣。後頭部に現れる鬼のような角――――――〝霊装〟。精霊を守護し難を喰らう鎧という名の領域。己の感情をコントロールし、イメージすることで意図的に引き出した限定霊装(・・・・)

 

「〈灼爛殲鬼(カマエル)〉」

 

 焔が収束し、巨大な戦斧を手の上に生み出す。久方振りに手に取るが、嫌になるほど手に馴染んでしまうのは複雑な気分だ。しかし、爆発音と共に揺れる艦体にそんな気持ちも吹き飛んだ。モタモタしている時間はない。〈フラクシナス〉がダメージを喰らって砲撃の出力に耐えられなくなってしまっては元も子もない。

 

 

「――――【(メギド)】!!」

 

 

 〈灼爛殲鬼(カマエル)〉が形を変え、琴里の腕に装着されるよう大砲(・・)を思わせる武器へと変貌する。かつて、狂三の〈刻々帝(ザフキエル)〉すら半壊へ追い込んだ究極にして最強の一撃。全てを焼き尽くす魔神の業火。

 それだけでは終わらない。展開と同時に降りて来た大きなコネクタに〈灼爛殲鬼(カマエル)〉の先端を触れさせる。すると、小さな電子音と共にドッキングが完了した。

 

「いくわよ、神無月」

 

『はっ、いつでもどうぞ』

 

 収束魔力砲〈ミストルティン〉。〈フラクシナス〉が誇る通常の攻撃手段が弾かれた――――――ならば、残された答えは一つしかない。それを遥かに上回る(・・・・・・)攻撃を以て、対象を跡形もなく消し飛ばす。

 

 それが――――――

 

 

 

「今よ!! 精霊霊力砲――――――〈グングニル〉!!」

 

撃て(ファイア)!!』

 

 

 

 ――――――五河琴里と〈フラクシナス〉が合わさった、必滅兵器の名だ。

 

 流星が如き光の槍は、濃密な霊力を纏い〈フラクシナス〉と衛星を一瞬にして繋いだ。文字通り艦の全てと精霊が一体となって放つ一撃を避けることは叶わず――――――防ぐことなど、なお叶わない。

 展開された随意領域。衛星の本体。仕込まれていた爆破術式。予想された破片による被害。全て(・・)業火の炎……いいや、業火すら焼き尽くす炎(・・・・・・・・・・)によって跡形も残さず消失した。

 

『――――――目標、消滅!! 成功です!!』

 

「はぁ……っ」

 

 〈灼爛殲鬼(カマエル)〉を切り離し、集中によって耐えていた荒い息を解き放つ。やはり、琴里の中に燻る破壊衝動は健在だった。先日の事件の際はイレギュラーな霊力解放というのもあって影響がなかったが、今は限定解放だと言うのに突き動かされそうになる――――――耐え難い、破滅的な欲求。

 【(メギド)】は否が応でもこの衝動を強めてしまう。琴里が呑まれて〈フラクシナス〉の驚異となった時、それは艦の終わりを意味する。だからこその切り札(ジョーカー)

 

「ご苦労様。でもまだ休んでいられないわよ」

 

 息を整え、艦橋にいるクルーに通信越しで声をかける。隠していたカードを切らされただけあって、結果は完璧なものだ。

 

「残った敵艦を――――――」

 

 感じた安堵を殺し、声を張り上げて残った後始末の指示を出した瞬間――――――それを遮る、けたたましいエマージェンシーコールが響いた。

 

「……っ、何事よ!! 敵艦が仕掛けて来たの!?」

 

『い、いえ!! 違います!! こ、これは――――――』

 

 艦橋で観測したレーダー画像が表示され、それを見た瞬間に琴里は目を見開いた。そこには、たった今消滅させた衛星と(・・・・・・・・・・・・)同一の反応(・・・・・)が示されていたのである。

 確実に、一部の隙もなく衛星は蒸発した。間違いない。ならば、この反応の答えは一つ。

 

 

「まさか――――――人工衛星を丸ごと一個、囮にしたって言うの……!?」

 

 

 こちらが空中艦を持っていることを予期しての随意領域と空中艦による妨害。それを超えてこちらが衛星を破壊する手段を持っていた場合に備えての、複数基の人工衛星。

 艦内に絶望的な空気が漂うのが手に取るようにわかる。だが、琴里は力を入れて立ち上がる。アレを、通すわけにはいかない。通してしまえば、その時に士道がどんな行動を取るか手に取るようにわかるからだ。

 

「上等じゃない……!! もう一発よ!!」

 

『……駄目だ、許可出来ない。琴里、それ以上は君が――――――』

 

「それでも!! やるしかないでしょ――――――ぁ」

 

 焔が燃え上がる。感情の激しさに呼応して火の粉を撒き散らし――――――来た(・・)

 

「ぁ……ガ――――ぁぁぁああああああッ!!」

 

『……琴里!!』

 

 さっきまでとは比較にならない、絶対的な衝動。恐らく、今すぐ霊装を消し去らなければ呑み込まれてしまう。そんな事は琴里が一番よく知っている。この破壊衝動は、意志の強さだけで何とかなるものではないと理解出来ている。

 

「……っ!! 引っ込んで……なさい、よ……ッ!!」

 

 ――――――壊せ。

 

 壊せ、壊せ、壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ――――――殺せ、全てを。

 

 

「――――――黙りなさいッ!!!!」

 

 

 頑丈に作られた外装がひび割れんばかりの衝撃。琴里が全力で拳を叩きつけた事によるものだ。そうでもして衝動を逃がしてやらねば、今すぐにでも呑まれる。

 

 その時、琴里の胸元で〝何か〟が光輝いた。咄嗟にそれを掴んで、握りしめる。

 

 

「おね、がい……一度だけで、良いの……!!」

 

 

 縋るように、祈るように、光が灯るそれを抱きしめる。ただの一度でいい。この衝動を押さえ込んで、あの衛星を破壊しなければダメなのだ(・・・・・)

 その願いが届いたのか、はたまた白い光――――〝お守り〟の力が作用する条件が整ったのか。輝きがより一層力を増し――――――

 

 

「――――――そこまでですわ」

 

「……っ!?」

 

 

誰か(・・)に奪い取られるような形で、琴里の手から光が消失する。驚きと戸惑いによる無意識の本能によるものか、その瞬間琴里の霊装は彼女の意思に反して解除されてしまう。

 ギリッと歯をかみ締め、膝をついて乱入者を見上げた。

 

「……それを返しなさい!! 『狂三』!!」

 

「それは出来ない相談ですわね」

 

 一目で彼女が分体(・・)だとわかったのは、特徴的すぎる白黒のメイド服を着込んでいたからだ。彼女は、憎たらしい微笑みで琴里から奪った〝お守り〟を手にとって見せびらかしていた。

 ここまで侵入されている事の問題すら忘れ、琴里は必死に叫びを上げる。

 

「何言ってるのよ!! それがないと……あの衛星を、破壊できない!! それじゃあ、あいつらが……っ」

 

「申し訳ありませんわ。けれど、今ここでこれ(・・)を使い切られるのは困るのですわ。あの子も、自殺紛い(・・・・)をさせるために琴里さんに託したのではありませんし」

 

「何勝手言ってんのよ……!!」

 

 落下を続ける二機目の衛星。それを止めるために琴里の力は必要不可欠――――――それをしたら戻れない(・・・・・・・・・・)。勝手を言っているのは、どちらか。残った理性がそう囁くのを、琴里は否定する事が出来なかった。

 

「……っ、じゃあどうすれば――――――」

 

『む……ど、どうしたのだ、これは』

 

 判断に迷って……いや、打てる手が思い浮かばない琴里の耳に、艦橋の扉が開く音とその声が届いた。保護を確認した十香の声だ。

 

『あ、あの……これは、一体……』

 

『うっはー。なんかピンチな感じ?』

 

『くく……情けなきことよ。この程度で慌てふためくとは』

 

『同調。もっと冷静になるべきです』

 

『あれ? あの画面のって、さっき言ってた人工衛星ですよね? なんか……まだ落ちてる気がするんですけどぉ……』

 

 十香だけでなく、四糸乃、よしのん、耶倶矢、夕弦、美九。口々に、艦橋内の騒ぎを把握した声が聞こえてくる。だが……その声の中に、士道と狂三の物がない(・・・・・・・・・・)。ハッとなって『狂三』を見上げると、こんな状況ですら冷徹とも思える視線が返ってきた。

 

「『狂三』!! 士道は……狂三と士道は!?」

 

「――――――こちらに来ていらっしゃらない。それが何よりの答えですわ」

 

「……ぁ」

 

 衛星が、破壊出来なかった。その結果がどうなるか――――街が破壊される。

 それを知った士道が、あの優しいお人好しの兄がどうするか――――迷わず立ち向かうに決まっている。

 止められないし、止まらない。狂三の静止を振り切って、彼は人工衛星を止めようと絶望的な戦いに身を投じてしまう……だから(・・・)、琴里が全てを止めなければならなかったのに、出来なかった。

 心が折れかかって、目に見えるものが歪む。それが悔しさと絶望が織り交ざった涙だと、わからないはずがない。

 

『……琴里? どこにいるのだ? シドーと狂三がどうかしたのか……?』

 

 今の『狂三』との会話が聞こえていたのだろう。不思議そうにしながらも緊張をはらんだ声の問いかけに、自然と息が詰まって答えあぐねる。その異様な雰囲気を感じ取ったのだろうか、十香の声色が変わる。

 

 

『――――――琴里。どうしたのだ。話してくれ。私たちに手伝えることはないか?』

 

「……っ」

 

 

 ――――――ある。そう、無責任に言ってしまいたかった。だが、司令官としての立場が何とかそれを押し留めるように唇を噛んだ。

 精霊たちを保護し、守るのが〈ラタトスク〉の使命。間違っても危険だとわかっている地上に送るべきではない――――――同時に、彼女たちや琴里が守りたいと思っている士道は地上にいる。守らなくてはいけない精霊(・・・・・・・・・・・・)である狂三と共に、無謀な戦いに挑もうとしている。

 

 天秤を揺らし、感情がせめぎ合う。五河琴里は誰もが認める〈ラタトスク〉の司令官だ――――――しかし、兄を愛する妹であるのも、また否定できない事実。

 

 

「お願い……みんな。あのバカを……あのバカを守ろうとする頑固者を――――――わたしのたった一人のおにーちゃんを、助けて……っ!!」

 

 

妹として(・・・・)、涙に濡れた言葉が、艦橋に響いた。

 

 






司令官として、妹として。悩みながらも琴里は叶うことなら妹としての涙を流す。士道と狂三の運命は。そして、七罪は『変身』することが出来るのか。というところで次回へ続く。

ちょくちょく原作と変わりながらの進行。これ面白いんか?と心の中で思いながらも自分を鼓舞する日々です。まあそんなもんです、多分。七罪編、クライマックスが近づいて参りました。どうか最後までお付き合いいただければ幸いです。

感想、評価、お気に入りなどなどお待ちしておりますー。次回をお楽しみに!
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