デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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元ネタはハツコイ、ファイナリー!からです(直球) アンケート置いておきましたけどもう気分次第ランダムで良いんじゃないかなとか思えてきました(ストックあるのに減るのが嫌だ精神)




第七十八話『ハツコイ・リフレイン』

 

 成績優秀。スポーツ万能。苦手な物は、なし。誰もが羨むであろう学園の秀才、鳶一折紙。

 彼女ほどの才を持つとなれば他者の嫉妬を買う事もあったはずだが、折紙にとってはどうでも良い事だ。故に、そのような記憶は存在しない。最も、折紙が行う人の領域ギリギリの努力(・・)を見てしまえば、そのような嫉妬は彼女への恐怖へと変わってしまうだろうが。

 

 学業成績、運動能力、共に優秀。得意な教科は算数。苦手な教科は国語。好きな食べ物はグラタン。嫌いな食べ物はセロリ。将来の夢は――――――可愛いお嫁さん。

 全てが変わってしまった、あの瞬間までの折紙。今となっては誰も信じないであろうが、鳶一折紙は普通(・・)の域を超えない、ごく平凡で幸せな生活を送る一人の少女だった(・・・)

 五年前、夏の日。たとえ、地獄へ堕ちようと忘れられない光景があった。たとえ、どんな咎めを受けようと果たすべき業があった。

 

 燃え盛る業火。その中を走る少年(士道)がいて、全く別の場所で同じように走る少女(折紙)がいた。

 折紙には父と母がいた。両親の無事を確かめる、ただそれだけを考えて折紙は走った。走って、走って、走って、そうして見つけた両親の姿を折紙は一生忘れる事はない。

 安堵が身体を満たし歓喜の感情が沸き起こり――――――両親は、目の前で消え失せた。

 

 光。天から降りた一条の光は、『天使』が放つ裁きの柱のように思えた。それは幼い折紙を軽々と吹き飛ばし、光の直下にいた両親はもう人の形をしていなかった(・・・・・・・・・・・・・)

 それからだ。あの時、あの瞬間から折紙は変わった。変わらざるを得なかった。全身を焼き尽さんと暴れ狂う怨嗟を研ぎ澄まし、復讐を誓った。この感情は、誰に理解されるものでも、誰に肯定されるものでもない。復讐というのは、そういったものなのだ。

 優しければ優しいほど、情が深ければ深いほど、愛情は憎しみへと変わる。愛情がなければ、優しくなければ、人は復讐という己しか価値を見い出せないものを選べない。深い愛情があるからこそ、他者の存在を考えた時に葛藤をしてしまう。

 日常の価値を知っているからこそ、復讐鬼は葛藤しながらも決して止まらない。その価値を知っているからこそ、それを奪い去った者を決して許さない。そして――――――誰よりも、絆されてしまう自分自身を許さない。

 

 そんな折紙を完璧に理解し得る者は、同じだけの憤怒を持つ者だけだ。少なくとも、折紙はただ一人だけ知っている。知っていたところで、それはよりにもよって殺すべき精霊(時崎狂三)なのだから、意味がないのと同じだが。

 分かる事と、分かり合う事は決定的に違う。相互理解とは程遠い感情の共有を、折紙は狂三は一度だけ行った。結局は、同じ考えを持つ者であっても折紙の心を休ませる物ではない。

 折紙の心を安らかに出来るのは、あの時(・・・)の少年だけだった。恋焦がれる、というより依存にも似た感情なのかもしれないが、彼がいなければ存在を保てないのだから間違ったものではない。

 

 彼がいるから折紙は折紙でいられて、しかし彼と彼の周りの精霊たちがいるから、折紙の心には迷いが生じる。そして、彼の日常に飛び込んでいけないのは、復讐を選んだものとして当然のことで――――――白と黒の復讐鬼が想い人を同じとして、復讐の対象でさえ同じ(・・)でありながら敵同士なのは、なんという皮肉か。復讐鬼が分かり合う事があるとすれば……復讐を終えるか、歩みを止めた瞬間だけであろう。

 

 果たして、その瞬間が訪れるかどうかは――――――一人の少年だけが、鍵を握っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「――――――士道の行方がわからなくなってる?」

 

 昼休みのチャイムが鳴るなり入れられた連絡。琴里は嫌に不穏な気配を感じ取り、瞬時に黒いリボンへ付け替えた。令音からもたらされた報告の内容を聞いて、その気配は間違っていなかったと確信した。

 

「どういうことよ、今は学校でしょ? 狂三と仲良くランデブー、なんてオチがあったら士道を殴るくらいで許してあげるんだけど」

 

『……いや、それはないだろう。どうやら、鳶一折紙が転校したと聞いて早退したようだ』

 

「なんですって……?」

 

 鳶一折紙の転校。それを探しに行ったであろう士道の失踪。とても無関係とは思えない。士道への異常なまでの感情を顧みれば、折紙が士道に一言も告げず転校などまず有り得ない。それこそ、第三者による〝何か〟があったと見るべきだ――――――例えば、先日DEMのCR-ユニットを纏っていた事を考えるに、DEMと何かしらの交渉があった……或いは、あの非人道的な組織に洗脳(・・)された危険性まである。

 

 

「あのバカ……私たちに一言も言わないで……せめてくる――――――」

 

 

 狂三に。そう、自然と口にしようとした琴里は、行き着いた思考によって身体ごと硬直させた。せめて、なんて言ってしまえるほど狂三を信頼してしまっている自分と、狂三が今朝姿を見せたにも関わらず(・・・・)、士道の行方がわからないという異常性が酷く焦りを感じさせた。

 

「令音。十香たちは?」

 

『……十香と八舞姉妹、美九はそれぞれ学校で昼食中――――――狂三は(・・・)、七罪と四糸乃と共に街に遊びに出ているようだ』

 

「っ……!!」

 

 嫌な予感というのは、尽く当たってしまう。狂三が本体か分身か、それは重要ではない。問題なのは、士道にトラブルが起きたというのに〈ラタトスク〉が察知出来る範囲、それも精霊たちの傍に狂三がいるということだ。

 こちらが驚くほど士道を守ろうとする狂三が、DEMが関わっているはずのこの一件で、琴里たちの目が届く範囲にいる。令音も同じような疑問を持ったのだろう、彼女の名は特に強く声に出していた気がした。

 気づいていない、などという可能性は最初に切って捨てた。今の今まで封印された精霊に対して、士道を介さない干渉を控えていた狂三が、このタイミングで七罪たちと行動しているなど偶然であってたまるものか。

 

 〝何か〟が起こっている。いや、起ころうとしている(・・・・・・・・・)。折紙が、狂三が、何を考えているかはわからない。本当に折紙が洗脳されてしまっていたとして、狂三はなぜ動こうとしないのか。動いてないように見せかけて、分身体を、はたまた〈アンノウン〉を動かしているのか――――――そこまで考えて、琴里は頭を振る。

 何を考えているかなど、片隅に追いやる。今はとにかく、士道を探し出し安全を確保する事が先決だ。精霊を保護する組織の司令が、肝心の精霊を頼りに動くなど笑い話にもならない。

 

 

「……そう。不安がらせてもいけないけど、いつまでも誤魔化しきれないわ。私も〈フラクシナス〉に戻るわ――――――何としても、十香たちが家に帰るまでに士道を見つけ出すわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うふふ……」

 

「……な、何よ、突然笑ったりして」

 

 たどたどしさを残しながらも、しっかりとした街の説明を四糸乃から受けていた七罪は、彼女達を見守るように歩いていた狂三が急に小さく笑い声を漏らした事に首を傾げた。

 ……そうか、こんな可愛く美しく優しい女神のような四糸乃に、こんなみすぼらしい七罪の為に街を案内させていることを嘲笑ったのだ。分不相応もそこまでにしておけ、と。そんな七罪の被害妄想はともかくとして、あぁいえ、と辺りの景色を見渡し声を発した。

 

「少し懐かしい……そう、思ってしまったもので。思い出し笑いのようなものですわ、気になさらないでくださいまし」

 

「へぇ……狂三でも、そういうことあるのね……」

 

 狂三から思い出し笑い、という言葉が飛び出てくるのは少し意外だった。同じように立ち止まった四糸乃も、七罪ほどではないが目を丸くしている。二人の様子を見て、狂三は困った風な微笑みを浮かべて言葉を続けた。

 

「もちろんですわ。わたくしとて、自らの記憶を思い起こして笑みをこぼすことの一つや二つありますわ」

 

「な……何を、思い出したんですか……?」

 

「ふふっ、この街に初めて訪れた時のことですわ。ふと、今日のように街を見て回ったことを思い出してしまいましたの」

 

『――――――それってさー、もしかして士道くんと初めて会った時の事だったりするのかなぁん?』

 

 四糸乃の左手に装着されたパペット、よしのんが口をパクパクと開閉させて告げた言葉に、今度は狂三が目を丸くした。何故ならよしのんの指摘は、一部の隙もなく事実(・・)そのものだったのだ。

 

「あら、あら。どうしてそう思われますの?」

 

『いやねー、よしのんも色々考えたのよー。四糸乃は結構早く士道くんと会ったけど、その時にはもう狂三ちゃんは士道くんと知り合いだったじゃなーい』

 

「……そ、そうなの?」

 

「はい……」

 

 まだ日が浅く、その辺の事情を詳しく知らない七罪が四糸乃にコソッと聞くと、軽い相槌と一緒に肯定が返ってきた。封印された順序はわからないが、四糸乃は七罪のような新参と違い古参のようだった。まあ、封印された精霊に古参と新参で優劣も何もないだろうが。

 

『けどさー、琴里ちゃんにそれとなーく訊いて見ても、上手くはぐらかされちゃってねー。それでよしのんはこう考えた!! もしかして、琴里ちゃんも知らないんじゃないのかなー、って』

 

「……なるほど」

 

 琴里が知っていて教えないのではなく、知らないから教えようがないと考えた。肯定するでもなくあごを撫でて見守る狂三に、よしのんはそう語りながら饒舌に言葉を続ける。

 

『〈ラタトスク〉の司令官の琴里ちゃんが知らないって考えたら、四糸乃と似たような会い方とした可能性があるじゃなーい?』

 

 精霊は隣界より空間震を伴って現れるのが基本。士道は基本的に、故意であるかないかは別として精霊たちとは空間震での出現を頼りに接触している。その例外が静粛現界時に接触した四糸乃であり、よしのんは狂三もそうなのではないかと言う。それならば、琴里が知らない理由にも説明がつく。何せ、〈ラタトスク〉が関与しない出会い方をしたならば当人たちが詳しく話さない限り、絶対に知りようがないのだから。

 

『まあ、士道くんも全然教えてくれないし確証は全然なかったんだけどー、今の狂三ちゃんの言葉で繋がった!! 脳細胞がトップギアってかんじのよしのんの推理。どうどう!?』

 

 果たして、パペットに脳細胞は存在するのだろうか? いや、四糸乃と繋がったよしのんには存在すると言えるのかもしれないが、などと七罪が頭をなやませていると拍手の音が鳴り響いた。見れば、狂三が軽く手を叩いている。

 

「大正解ですわ。よしのんさんは将来は探偵業も出来そうですわね」

 

『いやいやー、こういう場合はやっぱり警察官でしょー。せっかく正解したんだし、なんかご褒美ください!! 狂三ちゃんとの一日デート権!!』

 

「っ、よしのん……!!」

 

 わーいわーいと器用に喜びながらそう褒美を所望するよしのんに、四糸乃が恥ずかしそうに咎めるのような声を上げた。狂三はそれを見て微笑ましさを感じたのか、相変わらず優雅な笑みで言葉を返した。

 

「ふふっ、それなら今していますので、報酬は無効ですわね」

 

『あぁん、狂三ちゃんのいけずぅ――――――まあ一番は、狂三ちゃんが嬉しそうに話すのは士道くんとのことかなーって直感なんだけどねー』

 

「っ!?」

 

 油断させたところで、不意打ちのストレート。流石の狂三もこれは効いたのか、明らかな動揺と赤面を見せる。

 今朝の時も思ったが、羞恥の基準が士道なんだなーと七罪も気がつく。普段は余裕たっぷりの彼女は、こと士道に関してだけは生の感情を見せるのだ。

 

『ふふーん、やっぱりねー。せっかくだし聞かせてよぉん。狂三ちゃんと士道くんのな・れ・そ・め』

 

「よ、よしのん、だめ……!!」

 

「構いませんわ。特別、隠し立てすることでもありませんし」

 

 もはや怖いものはないのかというよしのんの口を抑えて諌める四糸乃に、狂三は仕方なさげにため息をついた。

 

 

「とはいえ、そう面白い話ではありませんわ。士道さんは精霊の事を、わたくしは士道さんの力の事を互いに知らずして偶然出逢ったのですから」

 

 

 あの時、士道はまだ何も知らない普通の高校生だった。同時に、狂三も彼の前では精霊という存在ではなく、ただの狂三として出逢ってしまった。今にして思えば、それが命運は分けたとでも言うべきなのかもしれない。知っていれば、〝恋心〟など抱かずにいられたかもしれないし――――――それを後悔しているかと聞かれれば、答えに詰まってしまうのも真実だった。

 

『えぇー、もっと衝撃的な出逢いじゃないのー? あの士道くんがメロメロになっちゃうくらいなんだしさー』

 

「残念ながら、衝撃という意味であれば皆様の方がよほど刺激的ですわね。よしのんさんの期待に応えられるようなものではありませんわ」

 

 まあ、普通だったかと聞かれれば面白おかしいことは言っていた、と狂三は思うがそれは二人だけの秘密だ。そのくらいの特別は、共有してもいいだろう。狂三とて、士道と初めて出逢った時のことは大切な(・・・)記憶なのだから。

 

『うーん、でもあの士道くんが一目惚れ(・・・・)するくらいだしぃ、何かすっごい事があったと思ったんだけどなー』

 

「え、士道って狂三に一目惚れだったの?」

 

『うんにゃ、乙女の勘』

 

「えぇ……」

 

 先程の決め手と言い、刑事や探偵より占い師の方があっているのではないかと七罪は困惑した。そして、あの時化けたのがよしのんで良かったと改めて思う。直感で化けた相手を当てられたらたまったものではない。

 

『ねーねー、そこのところはどうなのさー狂三ちゃーん』

 

「さて、さて。それは士道さんに訊いて見るべきことですわね。最も、答えてくださるかは別ですけれど」

 

 常識的に考えて、顔を真っ赤にして答えられるわけないだろ! と叫ばれるのがオチであるだろう。人に最大の弱点をさらけ出すメリットはないのだから。もしくは……狂三が相手であれば、自信満々にそうだ、と答えてしまいそうな気もしたが。

 

『うーん残念……じゃあ狂三ちゃんはどうなのさー』

 

「わたくしですの?」

 

『うんうん。狂三ちゃんは、一体いつから士道くんのこと好きだったのかなーって』

 

「わたくしは――――――」

 

 思わず答えようとして、答えあぐねた狂三は無意識に唇を指で撫でる。別に、適当にはぐらかしてしまえば良いものを士道に関することだからか、頭の中で真面目に考えてしまった。

 

 いつから。はて、さて、一体いつからだったか(・・・・・・・・)。戒めようとした想い、悲願のために閉じ込めようとした想い。果たしてそれは、いつ頃から持ち合わせていたものだったか。

 

 ――――――告白を受けた時? 恐らく、違う。

 

 ――――――デートを楽しいと自覚した時? これも、違う。自覚というのなら、元々持っていた(・・・・・・・)ということになる。

 

 あの時ではない。この時でもない。狂三は次から次へと記憶を掘り起こしながら、段々と始まりへと回帰する。

 

 〝恋〟。それが〝恋〟なのだと理解したのは、士道へと告白した、まさにあの瞬間。

 狂三はそういったものを経験する前に(・・・・・・)精霊となった。故に、己の容姿が注目や渇望を集めて、尚且つ自身がその価値を理解しているタイプではあるが……〝恋〟という感情表現はあまり得意としていない。知っていたとして、なまじプライドの塊みたいな強情さが取り柄なのもあり、認めようとはしなかっただろう。

 

 戻って、戻って、始まりへ。どうして、時崎狂三は五河士道と話をしたのであったか。決まっている。ほんの刹那の、気まぐれ(・・・・)。ならどうして、そんな気まぐれが起こってしまったのか。

 優しさ、甘さ、愛情、どれも狂三が士道を好むファクターだ。そこに変わりはない。士道が士道だから、狂三はおかしくなっていくのを自覚しながら士道に惹かれてしまった。じゃあ、その始まりの気まぐれは、どうして形になってしまったのか。

 

 

「――――――ああ、ああ」

 

 

 ストンと心に落ちるもの。その恋心は、士道に触れながら成長していったものだった。様々な彼に与えられて、急速に育っていったものだった。では、小さかった頃の〝恋〟はいつ生まれていたのか――――――

 

 

「わたくし……あの時から、士道さんのことが――――――」

 

 

 あの一瞬。気まぐれで立ち寄った桜並木の下。けど、あの一瞬で見つけてしまった情熱の名前は、きっと――――――――――

 

「…………あ」

 

 らしくもない声を出してしまったのは、少し我に返った視界で四糸乃と七罪までもがキラキラと何かを期待した目で狂三を見つめていたせいだ。ついでに、よしのんもよっしゃ言質取ったーみたいな表現のしようがない荒ぶった動きをしていた。

 失態だ。もう何度目かの失態だった。士道が関わると、いつもこうしてろくな目に遭わないと八つ当たりしたくなる。

 

「…………さぁ、いつのことだったのか。わたくし、忘れてしまいましたわ」

 

『おぉっとー、ここで狂三ちゃんのお家芸とはやるねぇ!! そんなこと言ってぇ、狂三ちゃんも士道くんに一目惚れしてたんじゃないのぉ?』

 

「ち・が・い・ま・す・わ。断じて、そのような事はございませんわ」

 

 大体、一目惚れだと認めてしまっては『わたくしは精霊の中で一番チョロい女ですわ』と言っているようなものだ。断じて、断じてそのような事はあってはならない。時崎狂三はそんな軽い女ではない。

 

『えぇー、本当ですのぉ?』

 

『疑わしいですわぁ。ちょっとどころではなく疑わしいですわぁ』

 

『こんなことを言って、いざ士道さんを前にすると雌の顔をなさるのですわぁ。卑しい女ですわぁ』

 

 どこからか聞こえてくる声――まあ一択しかないのだが――にピキっと来て、三人に気づかれないよう狂三は念入りに足元を踏みにじっておいた。そろそろ、この過去の自分自身を黙らせる手段を用意しておいた方が良いかもしれない。と、未だ迫るよしのんの追求を躱しながら――――――次の瞬間、けたたましいサイレンの音が鳴り響いた。

 

「っ、ちょっとこれって……」

 

「空間震、警報……です」

 

『おんやぁ? 新しい精霊さんが来るのかなぁん』

 

 空間震、文字通り空間の地震。今チラホラと見て取れる一般人たちにとっては突発的に起こる災害――――――七罪たちにとっては、彼女らと同じ精霊が出現する合図。

 どんな精霊が現れるのか、気にならないわけではないが……。

 

「と、とにかく逃げないと……!!」

 

「は、はい……」

 

「――――――お二人はそのままシェルターへ。わたくしは、行くところが出来ましたわ」

 

 そう言って、狂三は近場のシェルターとは全く逆の方向を向いて走っていこうとする。七罪は慌てて彼女の服の袖を掴んで、咎めるように叫んだ。

 

「ちょ、ちょっと……!! こんな時にどこに……」

 

「……こうなってしまった以上、行かなくてはなりませんわ」

 

 いいや、こうなってしまったから、というのが正しいか。万一に備えてこちらについていたが、やはり最初は十香たち(・・・・)だった――――――同時に、士道は止められなかったのだと気づいてしまい、狂三は瞳を揺らした。

 

 止められなかった。なら、あの子(・・・)は動く。もう賽は投げられた。

 

 

「選んでしまったのですね――――――折紙さん」

 

 

 かつて、時崎狂三も選んだ――――――己を殺す道を。

 

 

 






名刑事よしのん。Start Your Engine!

その僅かな気まぐれ。ほんの一瞬の気まぐれに理屈を付けるとしたら。吹けば消えてしまうようなハツコイは、いつから持ち合わせていたのか。。大きさは同じではなかったとしても、起点となった瞬間は、もしかすればお互いに同じだったのかもしれない……まあ狂三がそれを認めるかは別としてね!あくまで本人の予測なのでご想像にお任せします、本人の予測なのにご想像なのかっていう。

さてさていよいよ次回から本番。感想、評価、お気に入りなどなどお待ちしておりますー。次回をお楽しみに!

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