デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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神に挑む愚か者(勇者)に女王の祝福を。折紙エンジェル完結編。





第八十八話『神に抗う戦争(デート)

 

「が、……は……ッ」

 

 身体の中の臓器が潰れたのか、酷い圧迫感と激痛が士道を襲う。遥か上空から叩きつけられれば、普通の人間なら即死か、良くて致命傷だ。精霊の力を持つ士道とて、それは変わらない。

 幸運だったのは、即死を辛うじて逃れられたことと、瓦礫だらけの街の中でまた幸運にも(・・・・)、彼を刺し殺せるようなものがある位置に落ちなかった事か。二つの幸運のうち、少なくとも後者は意図して行われたのかもしれない。

 

 カラン、と。何かが落ちる音に士道は目を向けた。込み上げる鉄の味と、それとは別の凄まじい灼熱感を伴う身体の熱。それに耐えながら、音の方向へ顔を向け、大きく目を見開いた。

 

「っ……」

 

 落ちてきたものは、古式銃――――――士道を庇って死んだ(・・・)。『狂三』の持っていた銃だった。

 治癒の焔で身を焼かれる痛みに顔を顰めながら、よろける足で駆け寄ってその銃を拾い上げる。

「ぁ……ああ……ッ!!」

 

 つい数分前まで、会話をしていた。彼女だって、時崎狂三だ。分身だからとか、そんな事じゃない。彼女は、生きていた。それを殺してしまったのは、殺させてしまったのは(・・・・・・・・・・)、士道だ。

 顔を上げれば、まだ何もかもが続いている。精霊たちが、魔術師が、漆黒の羽が……この、破壊し尽くされた街(・・・・・・・・・)で、戦っている。それをしたのが、誰でもない鳶一折紙だと。同じ境遇の人間を生み出さないために、必死になって戦った折紙だと。

 

「なんで、だよッ!!」

 

 拳を地面へ怒りのままに叩きつければ、血が流れ出し、痛む。だが、そんなものより、折紙がこの地獄を生み出してしまった事実の方が、もっと辛い。

 冷静で、そのくせ突拍子がなくて、感情表現が特徴的で、でも優しかった折紙の手で……全てが、消えようとしている。

 

「なんで……こうなっちまったんだ……」

 

 言って、誰が答えてくれるものか。そう自嘲気味に笑い、『狂三』の言葉を思い起こす。

 ああ、愚かだろう。先行きが見えない不安を感じ、こうして絶望的な事態に陥ってから、嘆く。度し難く、悲しい生き物だ。

 

「くそ……ッ!!」

 

それでも(・・・・)、ただ愚直に少年は立ち上がった。愚かだと笑われても、もう無理だと誰がなんと言おうと、士道だけは諦めていられない。何度でも、何度でも、何度でも――――――それでもと、士道は足掻く。

 士道が諦めたら……誰が、あの心を閉ざした少女を迎え入れてやれるのか。

 

 

『どうか、最後まで、その意志を――――――』

 

「諦めて、たまるかよ……ッ!!」

 

 

 諦めたら、彼女の死すら無駄になってしまう。そんな事、誰よりも士道が許せない。何をすればいいか、その答えすら持たぬ身で。けれども士道は、もう一度折紙と対話を試みる――――たとえ、可能性が僅か一パーセントに満たなくとも。

 

「く……!!」

 

 だが、そんな士道の意志を阻むかのように、漆黒の羽が彼に狙いを定めて光を灯す。人間の身体で受ければ、腕が千切れ飛ぶ程度では済まない。天使を、そう考えながらも治療を終えたばかりの身体でどこまで――――――予想した衝撃は、訪れない。

 

「な――――!!」

 

白い閃光(・・・・)にも似た何者かが、羽を吹き飛ばしていく。士道を狙っていた羽を、残らず全て。

 そして、士道に背を向けて少女(・・)は降り立った。今はもう、対極になる白い翼を羽ばたかせて。

 

「〈アンノウン〉!! それに……」

 

 士道が空に目をやると、駆けつけたのは少女だけではなかった。

 

「琴里!!」

 

『やっぱり、無茶してたわね』

 

 〈フラクシナス〉の外部スピーカーから、琴里の声が響き渡る。しかし、いつもは美しいフォルムを持つ〈フラクシナス〉の船体は損傷が激しく、随意領域(テリトリー)でどうにかそれを補っている状態だった。

 琴里の話では、DEMの最新型とあのエレンによって敗北を喫し、〈世界樹の葉(ユグド・フォリウム)〉を失いながら逃げるのがやっとだったと聞く。無茶はどっちだ、と思いながらもこれならばと士道は顔を上げた。

 

「よし……もう一度、折紙のところへ……」

 

「……まだ、諦めてないんですね」

 

 振り向いた〈アンノウン〉が、淡々とそう口にした。士道は驚きながら目を剥いて声を張り上げる。

 

 

「な……当たり前だろ!! 折紙は……」

 

「……もう、いませんよ(・・・・・)

 

「それは……っ」

 

「――――私より、近くで見たあなたが、一番よくわかっているでしょう」

 

 

 その言葉に、息を詰まらせられる。答えられなかったのは、少女の言う通りだったからだ。

 折紙は、いない。強さも、迷いも、悲しさも、蓄えた憤怒も。折紙を折紙たらしめるものが、あの瞳にはなかった。そこにはもう、何もない。彼女は、そこにいない。

「……ああ。わかってるんだよ、そんなこと!!」

 

「…………」

 

 わかっている。だから、士道はあの瞬間に言葉を失い――――――折れてしまった心に罰を与えるかのように、『狂三』を失った。

 

「けど、いないんだったら、帰ってくるまで呼び起こしてやるだけだっ!!」

 

「……このまま、眠らせてあげるのが、彼女にとって救いだとしても?」

 

「絶望した終わりなんて――――――救いじゃない」

 

 必死に抗ってきた少女の終わりが、絶望に満ちて護ろうとしたものを破壊し尽くすことだと言うのなら、士道はそんな終焉を認めるわけにはいかない。

 真っ直ぐに、もはや睨むように白い少女を見やる。

 

 

「――――――私だって、同じだよ」

 

「え……」

 

「……私はね。頑張ったなら、その人に相応の喜びがあるのが権利だと思う。それは、私が〝敵〟だと決めたあの子が相手でも、同じ。〝悲願〟の果てに待つのが、こんな終わりだなんて――――――認められない」

 

 

 だって、理不尽じゃないか。ずっと、ずっと、意地を張って、何もかもを呑み込んで、ひたむきに走り抜けた先にあったのが――――――こんな、終わり。

 歪な世界だからこそ、不条理な苦しみが多い世界だからこそ、少女は小さくても救いのある結末が欲しい。そんな結末を、〝彼女〟に望む。

 

 

「だから……行って、士道(・・)

 

「っ!!」

 

「結末は決まってしまった。誰も(・・)救われない、誰も(・・)喜ばない終わりを変えられるのは――――――きっと、君とあの子だけだから」

 

 

 君のいるべき場所は、ここじゃない。

 

『――――ちょっと、何呑気に話して……くっ!!』

 

「ッ!! 琴里!!」

 

 妹の声が聞こえてハッと〈フラクシナス〉を見ると、復帰した黒羽がボロボロの船体に攻撃をしかけている――――――一瞬あと、幾条もの黒い光を何者かが弾いた。

 誰か、というのはすぐにわかった。目の前に視線を戻せば、舞い散る白い羽だけが残されていたから。

 

「――――――!!」

 

 駆け出す。戦場に背を向けて(・・・・・)。凄惨で、絶望的な戦場から逃げるためではない。

 

 

「狂三!!」

 

「――――――士道さん」

 

 

 彼女に――――――時崎狂三に、会うために。

 戦場から少し離れた場所で、多くの屍が積み重なり、悲惨に崩れ落ち積み上がった瓦礫の中、奇跡的に残された街灯が明滅するその場所に、狂三はいた。

 輝かしい美貌が、蠱惑的なその顔が……遠くの空に浮かぶ折紙を見上げ、いつになく、怒りさえ感じさせる怫然としたものを見せている。士道が来て、それが幾分か和らいだ様子を見せ、ふと視線を落とす。何を見ているのか、と同じように視線を落として……狂三が、士道が握りしめた古銃を見ているのだと気づいた。

 

「ごめん……『狂三』は……」

 

「謝らないでくださいまし。わたくしは……『わたくし』ですわ」

 

 『狂三』は、狂三だ。誰より、時崎狂三はそれを知っているのだろう。己だから、知っている。己だから、理解出来る。士道などより、ずっと、『狂三』がどのような想いでこの選択を成したのかも。

 そうして、悲痛に顔を歪ませる士道を見て、微笑んだ(・・・・)狂三が右手で銃を構える。狂三自身へ向かって(・・・・・・・・・)

 

「狂三……?」

 

「〈刻々帝(ザフキエル)〉――――【一〇の弾(ユッド)】」

 

 引き金が、落ちる。その瞬間――――――過去(未来)を視た。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「……無事ですね、狂三」

 

「誰にものを言っていますの。とは、いえ……」

 

 踏みしめれば、瓦礫の山。見渡せば、建物だったものの残骸。空間震でさえ、ここまでの被害は起こせないだろう。

 この破壊……否、殺戮(・・)の中心地点に、それ(・・)はいた。狂三と希望を見出し、狂三と同じ答えを手にし――――――かつての狂三の超え、絶望してしまった者。

 

「……折紙さん」

 

「反転……彼女、が……?」

 

 信じられないという声色で、白い少女が折紙を見た。しかし、少女が口にした事実は覆らない。

 漆黒。暗い、暗い、闇夜を纏ったような霊装。目の前で、彼女を護るように廻り、黒き光を刃と化し虐殺(・・)を繰り広げる無数の羽。有機物、無機物、何一つ見境などない。神か悪魔か。人々が問えば、間違いなく悪魔と称されるだろう彼女が齎すものは……。

 

「ああなったら、もう……」

 

「ええ。あれでは、幾ら呼びかけたところで効果は見込めませんわね」

 

「一体、何が……」

 

 【一二の弾(ユッド・ベート)】の力で過去へ飛んだ折紙は、弾の効力が切れたことでこの時代に帰って来た――――――帰ってくる間に、何かがあった。そして、理由はどうあれ彼女は世界を変えられなかった(・・・・・・・・)

 それがわかった時、狂三に浮かんだ感情がどんなものか。少なくとも……同情などという、生易しい感情などではない。

 

 その、瞬間。

 

「……ッ!!」

 

ノイズが走った(・・・・・・・)。左目。〈刻々帝(ザフキエル)〉の力を宿す、金色の瞳が、〝何か〟を映した。

 右と左。一瞬、映し出したものに大層な違いはないと誤認し――――――それが、間違いであると気づくには、時間はかからなかった。

 

 違いは、あった。見渡す限りの焦土。地獄というものがあるのなら、それでもここまで凄惨な光景は作り出せないだろう。

 

 右は現在。左は、未来(・・)

 

「……〈刻々帝(ザフキエル)〉」

 

「狂三?」

 

 その意味を、投影された光景(ビジョン)を誰よりも理解する狂三は、迷いなく銃を手に取った。

 一つの数字から影を生み出し、銃口に埋め込む。それを己のこめかみに当てがい、引き金に指をかけた。

 

「……っ」

 

 僅かな、躊躇い。それを決意へと変えて――――――

 

 

「――――【五の弾(ヘー)】」

 

 

 引き金を、引いた。

 

 

「――――――――――――」

 

 

 未来が、視えた。

 

 そうして、この世界が、この先が、どうしようもなく詰んでいる(・・・・・・・・・・・・・)ことを、知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

「……ぁ」

 

帰って来た(・・・・・)。以前と同じ。それでいて、以前より――――美九の過去を見た時よりも明確に、それを感じる。同時に、あの時よりも強くその記憶はこびりついていた。

 

「今、のは……未来(・・)?」

 

「ご明察、ですわ」

 

 現実の時間で言えば、僅か一秒にも満たない出来事だったのだろう。意識が狂三と共に飛んだ時と変わらず、自らに突きつけていた銃口を狂三は下ろした。

 

「わたくしが視た未来。それを、わたくしの記憶(・・)という形でお見せいたしましたわ。まあ、今の〈刻々帝(ザフキエル)〉だからこその業、ですけれど」

 

「待ってくれ……っ!!」

 

 未来。士道は視たものをそう認識し、狂三もそれを認めている。なら、それはおかしい、おかしいのだ。

 

 〈刻々帝(ザフキエル)〉・【五の弾(ヘー)】。所有者が観測した情報、映像。それらを分析、演算、増幅させ通常ではありえない未来予測を実現させる力。つまりは、あらゆる(・・・・)未来を視る事が出来る弾丸。

 

「けど、今の未来は――――――」

 

「たったの二つ(・・)、でしたわね」

 

「ッ……それ、じゃあ……」

 

「ええ、ええ。それが、〈刻々帝(ザフキエル)〉が導き出した結論ですわ」

 

二つ(・・)。僅か、二つ(・・)。あらゆる未来を測定、演算、算出する【五の弾(ヘー)】が見せた未来。その事実に士道は愕然と目を見開く他ない。なぜなら、それは。その、意味は。

 

 

「このまま手をこまねいて、折紙さんが殺戮の限りを尽くし、世界を終わらせるか。わたくしたちの力で、折紙さんを討滅(・・)するか。それが、この子が見せた未来に相違ありませんわ」

 

「そん、な……」

 

「【五の弾(へー)】の特性は、あくまでも未来の予測(・・)。未知の可能性が生まれれば、覆る可能性はありますわ――――――けれど、この力で僅か二つ(・・・・)の未来しか演算できなかったという事実は、変わりませんわ」

 

 

 それ以外は、可能性に値しない(・・・・・・・・)。そう、〈刻々帝(ザフキエル)〉は残酷に告げた。

 あらゆる可能性を探り、映し出し、それを視た資格者が取るべき未来を選択する。何もおかしくはなかった――――――ただ、選び取れる未来があまりにも絶望的(・・・・・・・・)、だというだけで。

 膝が笑い、足が挫けてしまいそうになる。未来予測など、所詮は予測でしかないと叫びたかった。できなかった。それはもう、現実逃避(・・・・)でしかない。

 

 世界を動かす時計。その針は動きを止めようとしている。この世界の行き着く先は、終末。それを、時崎狂三は慈悲だと言うように淡々と突きつけた。

 

「もう一度、言いましょう。このまま行けば、折紙さんが世界を滅ぼすか。わたくしたちが折紙さんに引導を渡すか――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――それとも、原初の神様(デウス・エクス・マキナ)が全てを終わらせるか」

 

 物語を終わりへと導く、絶対の神。だが、その神如き存在は、この結末を望まないだろう。ともすれば、狂三や士道と同じくらいに、この果ての未来を望んでいない。白い少女にはわかる。それは少女も同じであるから(・・・・・・・・・・・・・)

 

 世界の終わりを見下ろして、中心に佇む折紙を見やり、白き翼の少女は絶望へと堕ちた天使(魔王)に、悲しく問いかけた。

 

 

「一体、何を見てしまったんですか――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――折紙さんは、一体あの先で何を知ってしまったのやら」

 

「狂三……? ――――ぐ……っ!?」

 

 どことなく感情を出した、不機嫌そうな瞳が遠くの折紙を見ていた。呟かれた言葉の意味がわからず、怪訝な表情になる士道だったが、突然訪れた倦怠感(・・・)に膝をついた。

 いいや、倦怠感なんてものでは済まされない。自分の中にあるものが、凄まじい勢いで吸い取られていく感覚。地面に蟠った〝影〟。見慣れて、よく知っていた。

 

「〈時喰みの城〉!? 狂三、お前何を……っ」

 

「――――――士道さんが選べる選択肢は、三つ(・・)

 

 士道の焦りと疑問に答えず、狂三はそう言いながら指を立てる。

 

「一つ目は、このまま全てを諦め、わたくしに霊力を捧げること。二つ目は、この行き詰まった世界で、折紙さんに別れを告げること」

 

 一つ、二つと立てられる指。だが、どちらも士道には願い下げの選択肢だ。どちらがマシかと言われれば、せいぜい未知の可能性に行き着くことを考えて前者と答えるくらいか。

 

 

「そして、三つ目は――――――」

 

 

 ごくりと唾を飲み込んで、乾いた喉を湿らせる。そんな士道を凄絶な笑みを浮かべ、艶やかな唇をゆっくりと開いた。

 

 

「わたくしと、愛の逃避行(・・・・・)なんて、如何でして?」

 

「――――――へ?」

 

 

 ここ一番、大きく口を開けて間抜けな顔をしているだろうと、士道は自ら思う。思って、優雅な仕草で微笑む狂三を見て、また思って……力が抜けていく身体に構わず、大声で笑った(・・・・・・)

 

「く……っ、ははははははははははッ!! そりゃ、いいな!! けど止めてくれよ。お互いに(・・・・)、出来ない案を出して迷わせるのは」

 

「……ふふっ。そうですわね。残念ですけれど(・・・・・・・)

 

 ああそうさ、本当に残念だ。残念だと思っても、多分、お互いにそうすることはない。士道には背負うものがあって、狂三にも背負っているものがある。それを全て投げ出して、やーめたと匙を投げる……まあ、それはそれで幸せだという人間はいるかもしれない。けど、士道と狂三は互いが互いに、出来ないことを知っている。

 

「なら……本当の三つ目ですわ」

 

 歩み寄った狂三が、士道のあごを艶かしい手付きで持ち上げ、目を目を合わせる。まるで、覚悟を問う(・・・・・)かのように。

 

 

「ねぇ、士道さん。歴史は、変えられると(・・・・・・)、あなた様は信じられますか?」

 

 

 それは、選択肢というより問いであり、『狂三』が起こした問題提起を、飾り気なく、狂三の本音(・・・・・)として再演しているようにも思えた。

 そうであれば、もう士道の答えは決まっていた。決まっていない、わけがない。

 

 

「信じるよ――――――お前が変えたい(・・・・)って思ってるなら、俺が信じないわけないだろ」

 

「っ……」

 

「本当に出来るか、出来ないかは、やってみてから決めようぜ(・・・・・・・・・・・・)

 

 

 狂三は士道を信じていて、士道は狂三を信じている。結論としては、そんな呆気ないものなのだ。だがきっと、狂三が求めているものだと信じていた。

 

 手にしていた、古銃を差し出す。言葉だけではない、士道の返答を――――――狂三はその手に取った。

 

 

「ああ、ああ。嬉しいですわ、嬉しいですわ。それほどの覚悟がおありなら、それほどの意志をお持ちなら、始めましょう――――――わたくしたちの戦争(デート)を」

 

 大きく腕を天に掲げ、女王は高々にその名を刻む。時を刻む。己が世界を、刻む。

 

 

「さあ、さあ、さあ。士道さんを導きなさい――――〈刻々帝(ザアアアアアアアアフキエエエエエエエエル)〉ッ!!」

 

 

 雷鳴の如くい出る。時を奏でる羅針盤は、女王の絶唱を必ず聞き届け顕現する。何をするのか、決まっている――――――戦争(デート)だ。いつもと変わらない、彼女との世界一過激なデートを、始めるのだ。

 

 くるり、くるり。舞台役者は廻る。大仰に、されど美しく。

 

「ねぇ士道さん。わたくし、常々思っていますの」

 

「何をだ?」

 

「未来のこと、ですわ。未来というのは、先が見えないから(・・・・・・・・)、崩す事が叶わない。そうは思いませんこと?」

 

 楽しげに、しかしどこか悲しげに。世界に語りかけるように踊る狂三を、士道はひたすら見ていた。ひたすら、見惚れていた。

 

「決まっていないから、崩せない。だからこそ、有り体な言葉で表現するのであれば〝無敵〟と呼べるのでしょう」

 

 様々な形を成す未来。定まってしまえば、それまで。だが、定まるまでは、変幻自在の存在。誰にも確定させる事が出来ない、未知数で不確定で不条理な事象。しかし。

 

 

「ですが、逆に言えばわたくしと〈刻々帝(ザフキエル)〉の予知で袋小路に入ってしまった、言わば確定した未来(・・・・・・)であれば――――――過去で原因を取り除き、変える事も容易い(・・・)……そうは思いませんこと?」

 

「……過去で折紙が絶望する原因を、〝なかったこと〟にする」

 

「素晴らしい、最高の答えですわ。もっと踏み込むのであれば――――――五年前の八月三日。そこへ飛び、五年後の折紙さん(・・・・・・・・)の行動を観測してくださいまし」

 

「っ、どういう事だ……!?」

 

 

 五年前の世界へ飛び、五年後の(・・・・)折紙を見つける。過去へ送られようとしているのは、何となく察していたがいきなり飛躍した話に士道は目を丸くして問いかける。

 

「簡単な話ですわ。士道さんは【一二の弾(ユッド・ベート)】の力で、同じく【一二の弾(ユッド・ベート)】で過去へ飛んだ折紙さんを探し出し、ああ(・・)なってしまった原因を取り除いてくださいまし」

 

「は……!? なんで折紙が過去に飛んでるんだよ!?」

 

「言っていませんでしたかしら?」

 

「聞いてねぇよ!!」

 

「あら、あら。雰囲気が台無しですわねぇ、士道さん」

 

「俺のせいじゃないよな!?」

 

 五秒前の神妙な雰囲気はどこへやら――まあ、それが狂三の狙いだったのかもしれないが――くすくすと笑う狂三を半目で睨む。

 兎にも角にも、狂三の言いたいことはわかった。士道は、五年前の過去へ跳躍し、同じくその世界へ辿り着く折紙を見つけ、この世界を詰まらせる〝何か〟を〝なかったこと〟にする。

 

「まったく……」

 

 状況も顧みず、大きなため息を吐きたくなる。

 いきなりだ。いきなりすぎるし、文句の程も今までの比ではない――――――けれど、十香たちを、あの絶望した折紙を、救うだけの手段を狂三が用意しているというのなら、それを掴み取らないなど五河士道ではない。

 

「――――【九の弾(テット)】」

 

「っ」

 

 狂三が元々手にしていた短銃から、士道へ弾丸が突き刺さる。防衛本能で身を固くしたが、銃弾が直撃したというのに変化はない。〝時間〟が戻ったり、進んだり、止まったり、ましてやどこかへ飛ぶ。ということもない。

 

「今のは……?」

 

「うふふ。効果の程は秘密ですわ。楽しみにしていてくださいまし――――――さて」

 

 目を細めた狂三の纏う雰囲気が、強く力を放ったように見えた。

 それだけではない。〈刻々帝(ザフキエル)〉が震えている。霊力が、見たことがないほど密度の濃い影となって滲み出ている。それは、狂三が掲げた古銃へ収まった。

 精緻な細工が施された古銃が、暴れ狂うように震えている。狂三に逆らい、拒絶するように。神に背きし者たちを、罰するかのように。

 

 

「覚悟の問いかけは、愚問ですわね?」

 

 

 立ち上がった士道に向けて構えられた銃は、それでもなお警告を止めない。

 

 まるで――――――神に抗いし者への、最後通告。

 

 だからこそ、二人は、笑う。

 

 

 

「ああ――――――好きな女との戦争(デート)はいつだって、覚悟を決めておくもんだろ」

 

「ええ、ええ。今度も、楽しい戦争(デート)になりそうですわ」

 

 

 

 神からの最後通告――――――それを、力の限り殴りつける者たちの。

 

 

 

「〈刻々帝(ザフキエル)〉――――【一二の弾(ユッド・ベート)】ッ!!」

 

 

 

 ――――――愚かにも、無謀にも、神に抗いし者たちの戦争(デート)の幕は、その重々しい撃鉄によって、開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞼を開ければ、眩しい日差し(・・・・・・)

 陽光は夏を呼び、夏は懐かしさすら感じさせる蝉の鳴き声を呼び。

 見慣れた光景は、だからこそ差異を呼び。それの極致たる破壊されていない街(・・・・・・・・・)を見て――――――異界に導かれた少年は、乾き切った喉を鳴らした。

 

 

「――――――五年前の、天宮市」

 

 

 

 






to be continued


鳶一エンジェル編、事実上折紙編前編の完結です。どんどんぱちぱちひゅーひゅー。前編があるなら当然後編もあるということで、次回へ続く。

刻々帝が視せる未来は可能性。この時点で狂三が取れる可能性の中で〝最良〟の結果を掴み取る力。つまるところこの二つは狂三と刻々帝が『この中でならこれがマシ』と視た可能性というわけです。その他は、士道が考えている通り可能性に値しないと切り捨てられてます。だってDEMに霊結晶渡る可能性とかあっても阻止される前提なので、この時点だと取らないよねその未来。反転折紙にDEMが返り討ちにされる可能性しか視せてないので確率でも論外です。

それこそ、狂三が言うように刻々帝の予測を上回る、或いは測定していない力や存在の示唆ですが、こちらも頼れないし確定させられないので『まああるかもしれないけどめちゃくちゃ低い可能性だよね、試すに値しない』という扱いになります。

長々と解説しましたが、要は使用者の精神力次第で低い可能性でも観測可能だけど、今回は可能性すら存在しないパターンでしたという話です。はは、無慈悲。
ここまで未来が詰んでたら普通は絶望して終わるのですが、それを解決するのもまた狂三と刻々帝、そして過去へダイブするだけの霊力を持つ士道。原作との距離感の違いが表現できていたら嬉しいなと思います。

次回、鳶一デビル編開幕。感想、評価、お気に入りなどなどお待ちしておりますー。次回をお楽しみに!!
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