デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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もう90話なんですねぇ……何だかんだで早いものです




第九十話『それぞれの始まり、それぞれの執念』

 

「てん――――し……」

 

 少女が天を見上げている。見上げた先には、文字通り『天使』がいた。光を放つ、純白の霊装を纏った折紙(・・・・・・・・・・・)が。

 

「お、まえ、が……」

 

 そう。何も知らぬ者ならば、その神々しさすら感じさせる光放つ造形を『天使』と見間違える(・・・・・)のは無理もない。ましてや、本当の真実に辿り着くことなど誰にも出来ない。不可能だ、そんなことは。この光景を見つめる士道でさえ、目を見開いて信じたくないと思うのだから。

 

 

「許、さない……!! 殺す……殺してやる……ッ!! 私が――――必ず……っ!!」

 

 

 渦巻く怨嗟が届いているとは思えない距離。だが、『天使』はまるでそれを聞き届けたように身を捩った(・・・・・)。何も知らないのなら、幼い折紙の憎悪を哄笑しているように見えてしまう――――――知っていたなら、それが想像を絶する苦しみによるものだと、わかる。

 聞こえていなくても、『天使』には一語一句違えることなく、幼い少女の怨嗟の声を知ってしまっている。何故ならば。何故、ならば。

 

「何……だよ、これ……何なんだよ、これは……ッ」

 

 僅か数秒の出来事。士道の目の前で、折紙の両親が光に呑まれた(・・・・・・)。凄惨で、残虐。だが、それを起こしたのは〈イフリート〉でも〈ファントム〉でもなかった。

 

 両親を殺した、真犯人。それは、五年後の未来より、その事実を〝なかったこと〟にするためにやってきた――――――鳶一折紙、その人だった。

 

 

『……これが、折紙さんが絶望するに足る、理由――――――これが、こんなものが、折紙さんの……、結末……』

 

 

 こんな、ものが。視覚を共有した狂三が、声を震わせて嘆きにも似た言葉をもらす。そこに、常に見せる余裕はない。あるのは、齎された悲劇に対する感情、ともすれば、何かを思い出してしまった(・・・・・・・・・・・・)のか……狂三の複雑な感情が、濁流のように押し寄せてきているような気がした。

 

 

 

 

 

 

『折紙……きっと……お前はいつか気づく。全てに、真実に……!! でも――――――忘れないでくれ!! お前は、一人じゃない……!!』

 

 閉じた瞼の先で、少年が絶望の淵に立たされた少女を抱きしめ、叫びを上げる。

 そうだ。いつか、鳶一折紙は気づいてしまう。狂三のように(・・・・・・)。己が犯した、過ちの全て。五年の歳月を糧とし生きた少女に告げられる、無慈悲な世界の〝真実〟に。

 

 

『お前の悲しみは、俺が引き受ける……!! お前の怒りは、俺が受け止める……!! 迷ったなら、俺を頼れ!! どうしようもない事態に直面したら、俺を使え!! 全部、全部俺にぶつけてくれて構わない!! だから、だから――――――』

 

 

 ああ、ああ。だけど、だけど、鳶一折紙は一人ではない。事の始まりから、彼はいたのだ。その全てを預けられる――――――

 

 

『絶望だけは――――――しないでくれ……ッ!!』

 

『――――ぁ、う、ぁ……、うぅ、うぁぁぁ……っ、あぁぁぁ……っ』

 

 

 彼の愛によって、生きる糧を手にしていたのだ。

 それは悲しく、それは哀れで、それは残酷で、それは、それは、それは――――――酷く、羨ましい(・・・・)

 

 

「なんて――――醜い女」

 

 

 羨ましい? 言うに事欠いて、そのような事を思っている自分自身を、狂三は今すぐ撃ち殺してやりたくなった。

 同じ絶望を味わって、同じ真実をいつか手にして負に堕ちる少女を、始まりに彼がいたという一点の事実だけで、時崎狂三は羨ましい(・・・・)と一瞬だけでも思ってしまった。

 あまりの醜さに、吐き気がする。反吐が出る。左の腕で押さえ込んでいなければ、今すぐ右の腕は銃を手に取り頭を撃ち抜こうとしてしまうだろう。ああ、本当に、度し難い愚かしい女だ。

 

「狂三」

 

「平気ですわ」

 

 短く、言葉を返し、狂三は瞼を開く。視界に、破壊の限りを尽くされた街並みと、破滅の中心に座る鳶一折紙だったもの(・・・・・)が映された。

 あれは、もはや折紙ではなく『魔王』そのもの。討滅の可能性はあっても、救いの可能性は残されていない。それが、可能性の結論。故に、狂三は変えられるはずの過去へ、士道を送り出した。

 だがもし、もしも、それすら世界という構造に組み込まれた予定調和(・・・・)だとしたら。狂三の歩みとは、なんだったのか。狂三の悲願とは、なんだったのか。

 

 予感はあった、しかし振り払っていた――――――その代償が、鳶一折紙の惨劇なのだとしたら。世界に抗う代償に、最果てに、その罰が必ず待ち受けているとするならば。いや罰が待ち受けているのは良い。だが、歩んだ全てが無駄だと言うのなら、狂三は――――――

 

「――――させませんよ」

 

「え……」

 

「私は私の〝計画〟のために……あなたはあなたの〝悲願〟のために。そのためにも、狂三には絶望してもらうわけにはいきません」

 

 白い少女が、狂三の考えを断ち切るように言葉を紡ぐ。真っ直ぐに、今まで見たこともないような、言霊のように強く念じる。

 

 

「こんなところであなたが折れては、全てが終わります――――――士道を、そういう人にしてしまった(・・・・・・)のなら」

 

「……っ!!」

 

「責務を果たしてください、我が女王よ。我が愛しい女王よ。彼に愛された女王よ――――――私は、そう願います」

 

 

 それが、〝悲願〟のために歩む者の務め。それが、踏み躙ってきた者たちへの礼節。それが――――――運命(さだめ)に抗う者。

 迷っても良い、悩めば良い。けれど、白い少女は決してその絶望から、時崎狂三が逃げることは許さない(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

「……相も変わらず、厳しいことを仰りますのね」

 

「私はまだ、あなたの〝悲願〟を見ていない。それがどのような形に終決するにしても、中途半端な事だけは避けたいんですよ。あなただって、そうでしょう」

 

「あなたの〝計画〟のためにも?」

 

「ええ。私の〝計画〟のためにも」

 

 

 だって、と少女は息を吐く。

 

 

「あなたは、『時崎狂三』でしょう?」

 

「そうですわ――――――わたくしは、わたくしこそが、『時崎狂三』ですわ」

 

 

 一にして全。全にして一。『時崎狂三』は全ての時崎狂三の〝悲願〟を背負う存在であり、呪いを背負う存在である。そんな彼女が立ち止まることを許される時は、ただ唯一五河士道の手の中だけ。ああ、なんて甘美な可能性――――――故に、狂三はその道を選べないのだ。

 

「強情で、諦めが悪い。それが『時崎狂三』ですから。一回くらい、世界に阻まれた程度で諦めはしないでしょう?」

 

「当然ですわ。ですが、誰も諦めてなどいませんわ。あなたが勝手にそう勘違いしているだけですもの」

 

「……意地っ張り」

 

「何とでも言いなさいな」

 

 無様でも、惨めでも、抗おう。抗い続けよう。

 

 過去を変えるために。今を変えるために。全てを変えるために。悲しみを変えるために。たとえその先に――――――残酷な罰(・・・・)が待っていたとしても。

 

 

 

 

 

 

 

「私の涙は、あなたに預けます。私の笑顔は、あなたにあげます。喜びも、楽しいことも、全部、あなたが持っていてください」

 

「え――――?」

 

「私が泣くのは、今が最後です。私が笑うのも、これが最後です」

 

 背を向けた折紙が、一瞬だけ士道に顔を向けた。その涙に濡れた笑顔が……鳶一折紙が最後に見せた笑顔なのだと、気づいてしまった。

 

「でも、この怒りだけは、私のもの。この醜い感情は、私だけのもの――――――私は、殺す。あの、天使を。どんなに時間がかかっても。どんな手段を使ってでも」

 

「――――――」

 

 言えなかった。言えるはずもなかった。それは真実であり、猛毒。幼い復讐鬼に告げるには、あまりに世界は無慈悲だった。

 

 

「だから、それまで、あなたが預かっていてください。私が――――――あの天使を、殺すまで」

 

「折――――紙……」

 

 

 そうして、幼い折紙は去っていく。その過程にあるものがどれだけ苦しいものか知りながらも、その果てにあるものが、どれほど無慈悲な結末かを知りながらも――――――幼い復讐鬼に、かけられる言葉など、なかった。

 

 

 

「…………」

 

 気づけば、〈贋造魔女(ハニエル)〉の能力が消え、士道の身体は高校生のものへと回帰していた。霊力が切れたのか、能力に限界時間があったのか……どちらにしろ、今の士道にそれを考えている余裕はない。

 

 幼い折紙は復讐鬼となり、五年後の折紙は【十二の弾(ユッド・ベート)】の効力が切れ、未来へと送還された――――――それはつまり、歴史を変えることに失敗してしまったという事だ。

 

「……すまない、狂三。俺が……」

 

『士道さん。一つお尋ねしますわ。折紙さんに初めてお会いしたのはいつのことですの?』

 

「……え?」

 

 士道の謝罪に対して何かを返答するでもなく、先程までの動揺した空気を全く見せない狂三が、唐突にそんな質問を投げかけてきた。急なことに訳がわからないという声を上げたが、折紙に関わることだと急いで記憶を掘り起こした。

 

「確か……高二の頭にクラス替えがあって、その時に……」

 

『もしやその時、士道さんは初対面のつもりでも、折紙さんは士道さんの事を存じ上げていたのでは?』

 

「あ――――――」

 

 思い起こされる。狂三と出逢って一月後の四月。十香と初めて出逢ったあの日は、ちょうど高校二年のクラス替えがあった。

 

『な、なんで俺の名前を知ってるんだ……?』

 

『覚えていないの?』

 

 その時に、折紙が不思議そうな顔で首を傾げたのをよく覚えている。

 頭のどこかで、ずっと疑問には感じていたのだ。如何に士道が狂三ばかりを見ているとはいえ、折紙ほど特徴のある人物と出逢って、折紙だけが覚えているなんてことがあるのか、と。しかし、覚えがないのも事実だし折紙が気にした様子もないので確認する術がなかった――――――知らなくて、当然だ。折紙にとっては〝過去〟でも士道にとっては〝今〟。そう会っていたのだ五年前の折紙と、五年後の士道が(・・・・・・・)

 事の真相にようやく気がついた士道だったが、その事実に関して慌てて声を上げた。

 

「ちょっ、ちょっと待て。折紙が今の俺と出会ってたのは、〝あったこと〟として今に伝わってる……けど、そんなのおかしいじゃないか!! だって、過去を変えるために【十二の弾(ユッド・ベート)】を使ったのに、これじゃあまるで……っ!!」

 

『そう。今の世界を構築する要素に二発の【十二の弾(ユッド・ベート)】が関わっていますわ。そのどちらもが、歴史に組み込まれた事象なのだと言うのであれば――――――世界は、わたくしたちが考えているより、遥かに強固ということですわ』

 

 狂三の言葉に、士道は愕然とし息を呑む。歴史を変えるために撃たれた二発の【十二の弾(ユッド・ベート)】。だがそれは、歴史を変えるには至らなかった。それどころか、歴史そのものに組み込まれているのだとすれば、〝世界〟という存在そのものに踊らされている気分だった。

 【十二の弾(ユッド・ベート)】の力があるから、歴史は変えられる可能性がある。だが、【十二の弾(ユッド・ベート)】の力があるから、未来の折紙は絶望に至り過去の折紙は士道と出逢う。卵が先か鶏が先か……全く持って、頭が痛くなるなんて次元ではない。

 

「……んだよ、それ……」

 

 無駄なのか。どれだけ足掻こうが、未来は変えられないのか。世界という絶対の構造の上で、士道たちは踊るしかないのか。

 

「ふざけんな……クソ喰らえだ、そんなもん!!」

 

『……き、ひひひひ』

 

「な、なんだよ」

 

 思わず声を荒らげてしまったが、頭から楽しげな笑い声が聞こえて少しだけ冷静さを取り戻す。

 

『いえ、いえ。諦めより先に、そのような言葉が出てしまうなんて、士道さんらしいですわ』

 

「……俺だって、諦める事を考えないわけじゃないさ」

 

『あら、ならば何故ですの?』

 

 何故、と訊かれれば一つしかない。士道の中に失望感や無力感はある。変えられなかった現実に、痛みもある。だが……そんなものより、士道の中には大切なものがあった。

 

 

「当たり前だろ――――――狂三が変えたいって思うなら、俺がそれを叶えてやりたいって考えて、何が悪いんだ」

 

 

 時崎狂三が持つ切なる願い。たとえそれが、士道の望みと相反するものだとしても……今この場で、狂三が何かの確証を掴めるなら、士道は必ず力になりたい。だから、諦めない。

 

 

「それに、みんなを――――折紙を救うために、俺が諦めたら全部が終わっちまう。そんなの、嫌だ」

 

『……うふふっ。その傲慢さ、その強欲さ――――――素晴らしいですわ、素晴らしいですわ。愛おしい、愛していますわ、士道さん』

 

「なっ!? なな、なんだよ、きゅ、急に!!」

 

 

 普段はここまでド直球なものは士道からなので、不意打ち気味に投げられた百八十キロストレートに赤面して吃ってしまう。赤面した表情は伝わらなくとも、動揺は伝わってしまったのだろう。くすくすと笑い声が聞こえた。

 

『きひひひ。どうしても、今言いたくなってしまったのですわ。こんな時崎狂三は、お嫌いでして?』

 

「き、嫌いじゃない。むしろ好き……って、それより、これからの事を考えないと!!」

 

『そうですわねぇ……兎にも角にも、折紙さんですわ。折紙さんを観測する事が叶ったのであれば、あとはその原因となる要素を取り除くだけ。そうでしょう?』

 

「そうでしょう、って。簡単に言うけどな……」

 

 それが一番の問題なのだ。狂三の言うように、目的の一つであった時間遡行した折紙を見つけることは出来た。だが、見つけただけでは意味がない。原因、つまるところ折紙の両親が殺される光景を折紙に見せてしまった。それを取り除くのが士道のやるべき事、なのだが。

 

「折紙は未来に戻った。なら、ここで俺が何をしても……なあ狂三。そっちに戻って、もう一度【十二の弾(ユッド・ベート)】を撃てるだけの霊力は、俺の中に残ってるのか?」

 

 恐らく、送られる前の脱力感から士道の霊力を拝借していたのはわかっている。それなら、複数の精霊たちの霊力を封印している士道であれば、もう一度くらいなら……そう望みをかけたのだが、ふむ、とたまに見せる唇を撫で考える仕草が目に浮かぶような声を発した狂三は、士道の考えをやんわりと否定する。

 

『難しいですわね。不可能、とはまで言いませんが推奨はしかねますわ』

 

「そうか……なら、どうすれば……」

 

 このまま諦める、などという選択肢は当然否定された。しかし現実的な問題として、【十二の弾(ユッド・ベート)】に込められた霊力がなくなれば、士道は絶望の未来へ帰らざるを得なくなる。それ以前に、変えるべき時は変わらずに過ぎてしまった。

 一体、どうすれば……思い浮かばない代案に唇を噛む士道に、狂三が憂鬱そうに息を吐いた。

 

『あまり使いたくはない手なのですが……あの子も、それしかないと仰っていますし、背に腹は変えられませんわね』

 

「っ、何か方法があるのか!?」

 

『ええ。士道さんのもう一度(・・・・)十二の弾(ユッド・ベート)】を撃つ、という発想の着眼点は正しいものですわ』

 

 ゆっくりと、着実に狂三は語り始める。

 

『あなた様は五年前に遡行する折紙さんを〝観測〟し、何が起こるかを知った。それは、先程までのあなた様にはない記憶であり、重要なファクター足り得る情報ですわ』

 

「ああ……確かにわかっていれば、もう少しやり方があったかもしれない」

 

 折紙が五年前の時間軸に干渉し〝何か〟があった。その〝何か〟を狂三の言葉を借りれば〝観測〟した士道は、最初の時間遡行にはない最重要の情報を握っていると言っていい。

 

「でも、もう一度やり直せないなら、それだって意味が……」

 

『話は最後まで聞いてくださいまし。諦めない情熱も必要ではありますが、時には冷静さも重要ですわ』

 

「わ、悪い……」

 

 思わず前のめりになって気持ちが先行してしまう。常々、狂三の冷静さとそれを学習しない熱くなりやすい自身の悪癖に汗を滲ませた。

 

『構いませんわ。士道さんは、そのくらい真っ直ぐな方がらしいですもの……話を戻して――――いえ、また一つお尋ねしたいことがありますわ』

 

「ん、なんだ?」

 

『わたくしたちが出逢った時を、覚えていまして?』

 

「今年の四月三日。忘れるわけないだろ」

 

 正確には、この時間軸から五年後の四月三日。その日、士道は運命と言える出逢いを果たした。

 即答した士道に満足気な返答を返し……しかし、どこか複雑そうに狂三は言葉を続けた。

 

『ええ、ええ。わたくしも忘れていませんわ。わたくしたちの大切な日。間違いなく、わたくしと士道さんが出逢った、わたくしたちだけの記憶。そこに間違いがあるはずがありませんわ』

 

「狂三……?」

 

『ええ、ですから。ええ、ええ。間違いなどは決してない。だからこそ、だからこそ、意味があるのですわ。本当に、大変に、不本意ですが、仕方のないことなのですわ』

 

「あ、あの……狂三、さん……?」

 

 一人で次から次へと言葉を紡ぐ狂三の圧力に、士道は圧倒されながらも声をかけた。その甲斐あったのか、はたまた狂三の気が済んだのか、物珍しく深いため息を吐いた。

 

『……まあ、強固な記憶だからこそ重要ということですわね。では士道さん、その記憶を更新(・・)いたしましょう』

 

「更新……?」

 

 なんのことを――――――狂三の言葉を整理しながら口を開いた士道は、その瞬間、火花のようなものが頭の中で散る感覚を覚えた。

 

「お、おい、まさか……っ!!」

 

『そのまさか、ですわ。わたくしと士道さんの記憶が強固であればあるほど、過去を挟み込む(・・・・・・・)事に意味がある』

 

 今彼女の顔を見ることが出来れば、大胆不敵な微笑みを見ることが出来るだろう。これ以上なく、最高に美しいそれを見られないことがとてつもなく罪な事だと思えてくる。それ程なまでに頼もしく、唇の端を上げたであろう狂三が、万人を魅了して止まない喉を震わせて、言った。

 

 

『会いに行ってくださいまし。五年前のわたくし(・・・・・・・・)に』

 

「五年前の――――『狂三』……ッ!?」

 

『五年前の〈ナイトメア〉と、そして――――――〈アンノウン〉と呼ばれる前のあの子と、出逢いの再演(・・・・・・)と参りましょう。お覚悟はよろしいですわね、士道さん』

 

 

 拒否権は撃ち抜かれ、存在しない。目を見開いた士道は、だが炎が灯ったその心のままに、示された希望に力強く頷き返した。

 

 

 

 






デート・ア・ライブ10巻『鳶一エンジェル』をよろしくお願いします(忙しさに入れ損ねた雑ダイマの名残り)

少女が何も言わなくても、時崎狂三はきっと諦めない。もう一度絶望を、鏡に映った自身のような罰を見たとしても、諦められるほど幸せな精霊ではない。狂三自身もそれを望み、〈アンノウン〉もそれを望む。時崎狂三が止まる時があるのなら、それは奇跡のような救いが存在する時だけ。その未来は、果たして観測されるのでしょうかね。

リビルドの士道くんは無意識のうちに冷静さという部分を狂三に託してるんですよね。その分、必要な無鉄砲さとかは彼が受け持っています。悪癖兼信頼みたいなもの……なのかなぁ。

さあ次回はいよいよあの子の登場です。書いててなかなか楽しかった回となりました。感想、評価、お気に入りなどなどお待ちしておりますー。次回をお楽しみに!

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