デート・ア・ライブ 狂三リビルド   作:いかじゅん

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Gジェ〇が止まらねぇからよ…いや更新も止めるつもりはありませんけれど。




第九十五話『再誕せし絶望』

「――――では、他の『わたくし』に対してもそのように」

 

「ええ。承りましたわ、『わたくし』。ご苦労さまですわ」

 

 一礼をして、分身の一人が〝影〟に消える。それを見送って、狂三は……正確には、狂三の分身体の一人であるメイド(・・・)の狂三は広い街中を見下ろして小さく息を吐いた。仄かに、季節を感じさせる息が白く映る。

 

「…………」

 

 ご苦労さま、とは『わたくし』にしては珍しい労いである。とはいえ、本来それをかけるべきは連絡役の自分ではなく、今消えた分身を含めた自分たちにであろうが。

 

「……あれ。あなたですか」

 

「あら、わたくしでは何か不都合がありまして?」

 

「皮肉で捉えすぎですよ」

 

 答えながら、振り向く。狂三の背後に降り立った少女は、世界が変わっても変わらない(・・・・・・・・・・・・・)口調で声を発した。

 

「狂三はどうしたんです?」

 

「さぁ? どうしてしまったのでしょうね。戻ってくるなり、隠れ家に引きこもってしまいましたわ」

 

「……?」

 

 首を傾げる少女に、狂三は曖昧な笑みを浮かべる。

 大方の察しはつく。差異はあるが『狂三』は狂三。その思考は容易く読める。あれは……どうにもならない失態を犯して身悶えている時の狂三だ。そんなことになる相手は、少なくとも一人しか思い浮かばない。

 なので、放っておいて元に戻るのを待つのが一番だろう。まあ、その分の埋め合わせを『狂三』がしなければならないのは、何とも傍迷惑な話だったが。

 少女も疑問は感じているが、詳しく話題にするつもりはなかったのか、すぐ話を別のものへと変えた。

 

「それで、こちら(・・・)の世界のことはどうです?」

 

「順調、とは好意的に見ても言えませんわね。幸いと言うべきか、残念と言うべきか……世界にさしたる差は見られませんけれど」

 

 世界を変えられたことは喜ばしいが、変わった後の世界の記憶がない(・・)というのは、情報を武器とする者たちにとっては致命的と言えた。 こちらで活動していた〝過程〟は残っているので、ゼロからというわけではないがもちろんそれを頭に入れる時間も必要となる。

 とはいえ、なかなか興味深い結果だ。たった一つの事象の違いでの変更点は多くなかったと見える。まあ、そんな中で異例な例外の『狂三』がいたのは、更に意外と言うべきか……時崎狂三(オリジナル)は、本音で間違いなく嫌がる個体であろうが。

 

「しかし……あなたの〝天使〟には呆れ返りますわね。【一二の弾(ユッド・ベート)】の力もなしに、歴史改変の影響を防ぐだなんて」

 

「はは、そう驚くほどのものでもないでしょう。それに……より完璧なものなら(・・・・・・・・・)、こちら側の記憶も所持できたと推測しますよ」

 

「笑い話ではありませんわね」

 

 今のところ、こちら側の記憶を保持していない、つまり〝前〟の世界の記憶を保持しているのは、【一二の弾(ユッド・ベート)】の所有者である狂三と連なる『狂三』。銃弾を撃たれた(・・・・)士道。そして……そのどちらでもないというのに、狂三の眼前で佇む〈アンノウン〉だけだった。

 それが何を意味するのか。狂三も視線を険しく細め懸念を吐き出した。

 

 

「……まさかとは思いますけれど――――――」

 

ご安心を(・・・・)。私も、全く影響がないとは言いません。そうですね――――――存在の根本を揺るがす(・・・・・・・・・・)ような改変事項が起きれば、無事では済まないでしょうね」

 

「――――――ッ」

 

 

ご安心を(・・・・)、とは。言ってくれる。それが何を意味するのか、〝悲願〟を目指す上で嫌でも思い浮かぶというのに、少女は『狂三』には隠す気すら感じられない。

 恐らく、時崎狂三は気づいていない……いや、気付こうとしていない(・・・・・・・・・・)。今の狂三に、推論をぶつけてしまえば心が壊れかねない――――――それは弱さであり、狂三が人に戻りつつある証だった。

 

 では、もはや人と呼べないほどの狂気に身を浸した『狂三』は、どうなのか。

 

「わたくしの推論が正しいのであれば、あなたの行為は矛盾そのものですわね」

 

「あなたの推論が正しいのであれば、そうなのでしょうね。でもあなたは、止めないでしょう?」

 

「ええ。わたくし、人でなしですもの」

 

 止めることはない。止まることもない。時崎狂三は、〝悲願〟のために全てを捧げた狂信者だ。故に、他の全ては瑣末なこと(・・・・・)

 『狂三』と狂三の違いは、真実に手をかけながらも狂人として進み続けるか、真実を無意識(・・・)に否定することで人として進み続けるか、それしかない。

 

 どちらが正しいかなど、言うまでもない。このような道に進んだ時点で、どちらも正しさなどない(・・・・・・・・・・・)。たとえ、あらゆることが〝なかったこと〟になったとしても、時崎狂三は地獄の底へ堕ちる。なかったことになっても、己の中に残る罪は決してなかったことにはならない。

 

 笑い声が、聞こえた。生き死に(・・・・)の話だというのに、まるで他人事のような声音だった。

 

 

「それでいいんですよ。だからこそ、あなたは私の〝協力者〟。あの子たちがどのような選択をしようと、私という個体の運命は決まっているのですから。そこに、情があってはいけない。いけなかった(・・・・・・)

 

「…………」

 

「変わったのは狂三か、変えたのは五河士道か。どちらにせよ、ままならないものですね」

 

「変わることを期待していたのではなくて?」

 

「より良い〝計画〟完遂のために、ね。いっそ、物語の悪役にでもなれば良かったかもしれませんね」

 

 

 道化師は笑う。『狂三』の前で、狂三の前では決して見せない隠された真実を手に。

 

「それは困りますわ。あなたは、こちらに引き込んでおきませんと厄介(・・)ですもの」

 

「お褒めの言葉として、受け取っておきますよ。ところで、〝彼女〟はどうでした?」

 

「情報が足りませんわね。ですが、不自然と思える点はありますわ」

 

 〝彼女〟に関しては、こちら(・・・)の世界で大きく運命が捻じ曲がった存在。真っ先に確かめる事象とも言え、『狂三』は最重要な情報として分身体を動かしていた。

 何も関係がなくなったなら、いっそのこと楽だったのだろうが。生憎、関係がある(・・・・・)としか思えないことばかりが明らかにされていた。

 

「私の方も似たようなものです。ただ、推測としては迂闊に近づくわけにはいかない、とだけは付け加えておきますよ」

 

「あら、あら。物騒な話ですわね。〝彼女〟を、どうなさるつもりですの?」

 

「大差はありません。どうにもならないと判断したなら、同じ(・・)。そうでないなら……出来るだけ、最善の結果(・・・・・)を望みます」

 

 少女が刃を振るう理由は、時崎狂三のため。だが、少女とて狂三の建前はどうであれ、本心で悲しむような選択は極力避けるだろう――――――幾らか、〝彼女〟に対して甘い感情が乗っているとは思えたが。

 

 少女が街を見下ろし、何かを見ている。その何かに、少女は語りかけるように声を発した。

 

 

「……私がこう(・・)なのですから、そうなっているとは思っていましたが、世界が変わっても因果な話ですね――――――鳶一折紙」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「…………」

 

 五河琴里は不機嫌だった。誰がどう見ても、不機嫌だった。

 夕刻、兄がエプロン姿でキッチンに立っている。それは良い、いつもの事だし琴里はその姿が嫌いではなかった。むしろ、嫌味なほど似合っているそれが好ましいとさえ思っている。

 なので、問題の本質は兄が……士道が行っている作業ではない。その様子が、琴里の目から見ておかしいと思ったのだ。

 

 今朝。狂三と不純異性交友をぶちかましていた兄に制裁を加えたあと――〈ラタトスク〉としてというより琴里個人としての制裁だったが――妙にこちらの体調を気にして学校へ登校したと思いきや、帰ってきたら驚くほどに暗い表情になっていたのだ。朝の出来事を考えれば、普通そんなことは起こりえないというくらいに。

 

「……ふん」

 

 気分が悪い。恐らく、何かが起こっている。いつもの騒ぎかとも思ったが、思い起こせば狂三の様子も少しおかしかったように思えてならない。

 琴里の知らないところで、士道と狂三に何かがあった……それが、酷く気に入らないと感じていた。別に、〈ラタトスク〉の司令官は保護者役じゃないんだけどね、と内心愚痴りながらチュッパチャプスの棒を右へ左へと転がす。

 士道の様子がおかしい事に気づいているのは琴里だけではない。いつものように遊びに来ている四糸乃も、その優しさ故に視野は広い。四糸乃が慈愛に満ち満ちた顔を曇らせ声を発した。

 

「士道さん……どうしたんでしょう」

 

『ねー。なんだか元気ないよねー』

 

 当然と言えば当然だが、よしのんも同意見らしい。ここでもう一人が動く。顎に手を当て、不機嫌そうな表情――本人はそういうつもりはないらしい――の七罪が、鋭く切り込んだ。

 

「……あのアンニュイな感じ――――女ね」

 

 その時、閃光が琴里と四糸乃の間に流れた――――――気がしただけだが。

 

「女――――狂三?」

 

「女の人……狂三さん……?」

 

『んー、狂三ちゃんかなー?』

 

「……わかっちゃいたけど、一択なのね」

 

 もはや一択。完全に一択である。他にいないのかとも思うのだが、精霊たち相手なら〈ラタトスク〉側がわからないわけがないので、必然的に封印されていない精霊かつ、士道と関わりがある(・・・・・・・・・)狂三しか候補に上げられないのだ。

 若干呆れながらも同意見らしい七罪も含めて、正直なところ全員が狂三しか思い浮かばない。のだが……。

 

「けど、今朝会った時はそんな様子なかったわよ」

 

「わからないわよ。あの年頃の男子なんて、行動のベクトルが基本女の子にどう意識されているかに向いてるもんじゃない。学校に行ってる間に何かあったのは間違いないと思うわよ……あいつ、神出鬼没だし」

 

 最後は小さい呟きではあったものの、その意見には概ね同意であると首肯する。あれほど神出鬼没という四字熟語が似合う女もいないだろう。 しかし、狂三が現れてからあのような様子を見せるのは相当珍しいので、仮に何かあったとして何があったのか、までは皆目見当もつかない。

 

「けど、それならほっといても大丈夫だとは思うわ。喧嘩した、とかだと下手に口出しもできないし……」

 

「でも、士道さんに元気がないのは……辛いです。なんとかできないでしょうか……?」

 

「……そりゃあ、なんとか出来るのが一番だけど、元気づけるって言っても……」

 

 頬をかいて頭を回転させるが、やはり原因だけでなく手段も含めて皆目見当もつかないと言う他ない。

 と、二人が悩む中で七罪が目を細めた。何やら妙案が思い浮かんだのか、相変わらず自信とは縁がない顔で彼女は口を開いた。

 

 

「――――――男子高校生に悲哀を与えるのが女なら、それを癒すのもまた、女でしょ」

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「…………はあ」

 

 才女・時崎狂三。目の前の光景に、考えることを止めてしまいたくなっていた。

 チャイムに反応しなかったので、何かあるとは思っていた。思っていたが、人の想像の遥か上を行く状況を軽々と作り出すのはやめて欲しいものである。

 

 テーブルやソファが倒れ幾らか埃が舞っている中、士道の全身に大体高校生くらいの少女たちが、三人(・・)沈んでいる。それだけ見ると、狂三も知らぬ人間と言いたいところなのだが、髪色と状況的にそうもいかない。

 どう考えても、琴里、四糸乃、七罪の三人だった。琴里と四糸乃は水着の上にフリルのついたエプロン、ヘッドドレスとどこかで見たメイド服を3倍は過激にしたような装いだ。一瞬、これなら士道を落とせるのではないかと思考するが……。

 

「……ない、ですわね」

 

 今朝の出来事を考えるに、士道の思考にエラーを起こして自滅が目に見えていた。肌の露出で、危うく雰囲気に呑まれかけた時の記憶も古くはない。少し残念だが、この案はなかったことになった。

 七罪に関しては何故か――大方、姿を変える時に正気に返ったのだろうが――普通のメイド服であった。ただし、組んず解れつしている中で士道の臀部を思いっきり押し付けていた。何とも反応に困る倒れ方をしてくれているものだ。

 それと、四糸乃と琴里の胸の大きさに差があるのは、果たして術者の意思なのか身体的な将来性なのか、ほんの少しだけ興味が沸いた。どちらが大きいかは、まあ言うまでもないだろう。

 

「まったく……」

 

 こんな生活を毎日送っているのかと思うと、狂三とて何とも表現し難い気持ちになるというものだ。ジェラシー……なの、だろうか? 自身の気持ちだというのに、なかなか自信が持てない。

 取り敢えず、助け起こす前に持ち込んだケーキだけは置いておこうとキッチンに足を踏み入れ、床に綺麗に突き刺さった包丁に眉を顰めた。なんというか、あの方の動揺が目に浮かぶとため息をこぼして包丁を引き抜く。【四の弾(ダレット)】が使用できない以上、床の傷は直せないが包丁は洗ってしまった方が良いだろうと立ち上がり――――――

 

 

「よ、よぉ。来てたのか、くる――――――」

 

 

 鼻の頭を赤くして、目を回した三人を抱えた士道と目と目が合う。包丁を手に持った狂三と、美少女三人と仲良く組んず解れつする士道――――――ジャパニーズ修羅場の完成だ。

 

 悟りを開いた神妙な顔で、士道が震えた声を発した。

 

 

「……出来れば腕一本くらいで済ませて欲しい」

 

「しませんわよ」

 

 

 指ではなく腕な辺り、人をなんだと思っているのかこの人は。ただ、そう思われても仕方がないことに身に覚えがありすぎて、内心ちょっとへこんだ狂三であった。

 

 

 

 

 

「悪かったな狂三。出迎えできなくて」

 

「いいえ。この状況では、仕方ありませんわ」

 

 狂三が苦笑しながら琴里たちを見遣り、士道も濡れタオルで鼻の頭を冷やしながら、七罪のネガティブ思考による霊力逆流が終わり、元通りになって肩を落として反省する三人に目を向けた。

 

「ふん……悪かったわよ」

 

「すいません……士道さん」

 

「………………ごめん」

 

 三者三様ではあったが、三人とも深く反省は見て取れた。もっとも、士道に怒りの感情など毛頭存在しないのだが。狂三にもそれが伝わっているのか、優雅な微笑みで声を発した。

 

「琴里さんだけならともかく、四糸乃さんが関わっているのですから、皆様純粋な善意だったのでしょう? 士道さんも、怒ってなどいらっしゃいませんわ」

 

「私だけならともかくってどういう意味よ」

 

「好きな方を虐めて楽しむ趣味があるのではなくて?」

 

「あるかッ!!」

 

 うがー、と唸りながら怒り狂う琴里が四糸乃と七罪に抑えられるのを見て、士道もおかしそうに笑う。

 色々と考え込み過ぎたというか、折紙の事で余程わかりやすく落ち込んでしまっていたらしい。彼女たちなりに、士道を元気づけようとしてくれていたのだろう。

 

「まあ、そういう事だ。気を遣わせちまって悪かったな。ありがとよ、三人とも。おかげで気が引き締まった」

 

 士道がわかりやすく不安を表に出すということは、それだけ不安を精霊たちに伝えてしまうということに他ならない。何をやっているんだ、と叱責されても仕方がない行動だった。

 狂三だけでなく士道の言葉を聞いて安心したのだろう。三人が僅かだが頬を緩めた。琴里だけは、黒リボン特有の性格からか強がるように腕を組んでいたが。

 

「ふ、ふん……それでいいのよ。別に何があったかなんて詮索するつもりはないし、狂三が原因じゃないならそれでいいわ。けど、いつまでもそんな調子じゃ精霊たちが不安がっちゃうでしょ」

 

「ああ、悪かったって」

 

 実のところ、狂三が全く関係していないわけではないのだが……もちろん、話が拗れてしまうので口に出すことはしない。

 

 

「そうですわね。新たな精霊がいつ現れるとも限りませんし――――――〈デビル〉の事もありますもの」

 

「え?」

 

 

 だが、そんな思考も狂三が発した一つの単語によって、一瞬にして吹き飛んでしまった。

 〈デビル〉。狂三がさも当然のように口に出した名を、士道は知らない。それを聞いた琴里が、さも当然という反応(・・・・・・・・・)で頷いたことにも眉を顰めた。

 

「そうね。最重要警戒対象、精霊狩りの〈デビル〉。厄介なものよ。まあ、本当ならあなたも同じくらいの警戒対象なんだけど」

 

「お褒めの言葉、光栄ですわ」

 

「誰も褒めてないっつーの……」

 

 スカートの裾を摘み、おどけるように礼をする狂三に呆れ気味な声の琴里。しかし、そんなやり取りも士道の頭には半分も入ってきてはいなかった。

 時崎狂三と並ぶ、精霊。新たな精霊の出現は、ありえない話ではなかった。この世界は士道が知らない差異が多々存在する。異なる時の流れを歩んだ世界で、士道の知る常識的な知識は通用しない。が、わかっていても狂三と並ぶ精霊がいるというのは衝撃的だった。

 

 今のところ、この中で元の世界の記憶を保持しているのは士道、そして狂三だ。その狂三が、士道の知らない知識を当然のように(・・・・・・)披露した。琴里たちに気づかれないくらい、僅かな時間だが狂三と視線を交わらせる。目を細めた狂三は、微笑みのまま言葉を発した。

 

「そういうわけですので、〈デビル〉に関しての情報の整理と共有と参りませんこと?」

 

「私たちと情報交換? どういう風の吹き回しよ」

 

「うふふ。それだけ、わたくしも警戒するべき相手というだけですわ。お持ちしたケーキは、情報の前金とでも思っておいてくださいまし」

 

「……ふぅん」

 

 加えたチュッパチャプスの棒と共に、視線が士道へと移る。どこか疑り深く探るような視線に士道の心臓が音を鳴らすが、狂三が仕込んだ(・・・・・・・)チャンスを逃す手はない。出来るだけ自然な形で会話に溶け込む。

 

「俺からも頼むよ。何かわかることがあるかもしれないしな――――――〈デビル〉って精霊について」

 

「……いいわ。何考えてるのかは知らないけど、乗ってあげようじゃない」

 

「感謝いたしますわ」

 

 これで、士道は〈デビル〉に関しての情報を極力自然な流れで手に入れられる。それは狂三も望むところであるのだろうが、士道に配慮してくれた彼女に内心で感謝の意を示す。

 

「とはいえ、〈デビル〉に関してって言ってもね……わかってることは多くないわ。顕現は確認されてるけど、こっちだって一度も接触に成功してないもの。そういう意味では、〈アンノウン〉以上に正体不明の精霊よ」

 

「そして恐らく――――――反転精霊ですわ」

 

「な……っ!?」

 

 その新たな情報に、士道は目を見開く。

 

「反転した精霊が、普通に出現してるってことか……?」

 

「詳しいことは不明よ。けど、その可能性は高いって話――――――っていうか、なんであなたが今更疑問を持ってるのよ」

 

「あ……あ、ああすまん。確かに今更だけど、そんなことありえるのかなって思ってさ」

 

 思わず出てしまった疑問に、額に汗を浮かべて苦しい言い訳を挟む。これらはこちら側の士道なら、当たり前のように知っていなければならない情報だったのだろう。わかってはいるつもりだったが、やはり記憶している事柄の違いには混乱してしまう。

 幸いにも、狂三が士道の発言をフォローするように口を開いた。

 

「ありえるありえない、という話ともなれば、可能性は高い……としか言えませんわね。現に、〝精霊狩り〟の名の通り、〈デビル〉は必ず他の精霊が顕現している時にだけ姿を見せる存在なのですわ」

 

「ええ。厄介な精霊よ。七罪も、十香たちが助けに入らなかったらヤバかったもの」

 

 琴里の言葉で、その時の事を思い出したのか七罪が微かに肩を震わせた。

 精霊狩り。同じであるはずなのに、精霊を見つけて攻撃を加える〈デビル〉という反転精霊。それではまるで……士道がそう思い浮かんだことを、偶然にも琴里が言葉として引き継いだ。

 

「行動はASTやDEMを思わせる。関与を疑った時期もあったけど、AST、DEM共に〈デビル〉に攻撃を仕掛けていた。少なくとも、協力関係ではないわね」

 

「じゃあ、なんで〈デビル〉は精霊を狙う……んだろうな」

 

「さあね。何か理由があるんでしょうけど、そればっかりは本人に聞いてみないことにはね。出現しても、すぐにどこかに姿を眩ませちゃうものだから、〈ラタトスク〉だってまだ一度も接触できてないしね」

 

「せっかくですから、わたくしたちで〈デビル〉の貴重な映像を拝見いたしませんこと?」

 

「……見てもあんまり意味ないと思うけど」

 

 ま、いいわ。とリビングから出ていった琴里が自分の部屋から専用の端末を持ち込んだ。見ても意味がないと言う琴里の言葉に首を傾げるが、端末を置き再生させた映像を見て士道も合点がいく。

 

 今まさに、映像の中で戦闘が行われているという爆音、噴煙。その中に、いた。

 

 昏い深淵の闇を纏ったかのような、人型のシルエット。判断できるのはそれだけで、後は〈デビル〉の名の如く浮遊した幾つもの羽が見て取れるだけだった。

 

 

「うそ……だろ……」

 

 

 しかし、それだけで十分なのだ。士道と、狂三にとっては。士道ほど愕然とした動揺ではないにしろ、狂三も表情を険しく歪めているのがわかる。

 歪めないわけが、動揺を見せないわけがない。確かに〈デビル〉の顔はわからない。けれどその風貌は、シルエットは、輪郭は、この世界にあってはいけないものだったのだから。

 

 それは――――――

 

 

「……折、紙……」

 

 

 士道と狂三が命をかけて〝なかったこと〟にしたはずの、絶望した(・・・・)鳶一折紙の姿だった。

 

 

 





裏で死ぬほど不穏な会話がなされている中で表は癒しになってるといいなと思うけど、世界の答えは残酷ですね。

結局のところ、士道と関わり続けているうちに甘くなる狂三と、それがないが故に原作初期の狂三に近いメイド個体というだけの話。では甘くなったからと言って諦めるかと言えば、無理でしょうね。なぜなら、彼女こそ『時崎狂三』であるのだから。その辺りのお話は……おっと、先まで読みすぎてしまいました(ウォズ感)

段々と書けそうだなーという気にはなっているのでのんびり頑張っています。変わらず感想や評価をいただけると咽び泣いて大喜びしてモチベがウェイクアップフィーバーするので、気が向いたらよろしくお願いします(媚び売るんダム)

感想、評価、お気に入りなどなどお待ちしておりますー。次回をお楽しみに!!

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