ファイアーエムブレム 聖痕の覚醒   作:ヒアデス

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第10話 建国

 カダインは砂の部族が侵入し、蛮族が略奪の限りを尽くし男はすぐに殺され女は犯されさらわれるか事後に殺されるか20年前の侵略より凄惨な光景が町中で広がっていた。

 カダイン市長官邸。

 20年前同様酒をかっくらう砂の王ポールの前に一人の男が面会をしていた。

「王、ここはもう俺たちの町です。だから俺たちのしもべになった住民を殺す必要はもうないんじゃ――」

 ブォン!

 言い終わらないうちに男の頬を斧がかすめる。

「ふざけたこと言うんじゃねえ! 俺に意見していいのはジャスミンだけだ。だがあいつは死んじまった。だから俺はもう誰の話も聞かねえ」

 そう言って酒を飲むポール。部屋の外の廊下には腐敗し始めた死体が捨て置かれていた。20年前とは違い一度犯した後は美しい女でもすぐに殺した。それ以来ポールは官邸にこもって酒浸りだ。

「ぐぅ……」

 男はもうポールに対して声を出すのも恐ろしくなってその場を離れた。

 

 

 

 

 

 アイク傭兵団と氷の部族はオレルアンでの交渉成立後ただちにカダインへ向かった。オレルアンを留守にし別の蛮族と戦うわけにいかない草原の民はオレルアンにとどまった。

 カダインに到着した傭兵団は町の光景に目を覆った。特に略奪の場面に初めて遭遇するカイルたちは。自らも略奪を行ったこともある氷の部族は冷淡に眺めていたが。

 セネリオはカイルたちが落ち着くのを待ってカーシャに声をかけた。

「カーシャ、馬には乗れますか?」

「は、はい。でも天馬はパレスで死んじゃって、オレルアンも見て回ったんですが天馬はマケドニアでしか飼育されてなくて――」

「知っています。とにかく馬に乗れますか? 天馬でなくとも」

 カーシャはこくこくうなずいた。

「ではオレルアンで買った馬に乗ってください。ただし戦闘はしないように。カイルとルッツは二人で行動し共に戦ってください。決してお互いから離れないように。狼部隊と獅子部隊は新人たちを狙ってきた敵を優先的に倒してください。氷の部族の皆さんは僕の指示を聞く気がありませんよね? では各自の判断で戦ってください。敵は斧兵ばかりですしむしろ剣を使うアイネさんは有利でしょう」

「ああ、屍が現れ始めてから剣は斧を持つ奴に当たりやすくなったんだっけ?」

 セネリオの説明にアイネは応じる。

 三すくみ。特定の武器や属性魔法は特定の武器・魔法に当たりやすく当たりにくかったりするユグドラル・テリウス大陸の現象だ。しかし巨竜や屍が現れてからアカネイアでもこの2大陸同様三すくみの現象が起こっていた。

 セネリオが指示を出し終えるとラグズは順次化身を始める。さすがに氷の部族もひるむがアイネの一喝で取り直した。カイルたちもあわてて準備をはじめてアイクは剣を掲げ、

「アイク傭兵団、突撃!」

 

 

 

 

 

「なんだあいつらは? げっ! 獣の大群がこっちに向かってきやがる」

 蛮族たちは突然現れた狼や獅子に腰が引き逃げ出すものまでいた。

「はぁ!」

「せい!」

 キィン! ガッ!

 カイルとルッツは二人連れで蛮族と交戦するが蛮族にとっては戦場に紛れたただの子供だ。

「邪魔なガキどもだ。踏み潰しちまえ」

 蛮族たちはカイルたちに群がってくる。そこへ、

「ガァァ!」

 ガリ!

「ギャッ!」

 獅子は蛮族の一人を抑え、牙を立てた。

「く、食わないでくれ」

「ニンゲンを食う趣味はない」

 そして獅子が言葉を発した瞬間、蛮族は失禁し気を失った。

 

 

 

 

 

 

「ぬぅんっ!」

 ドォォン!

「ぐぁぁぁ!」

 カーシャを狙って10人以上の蛮族が押し寄せてきたがアイクの一振りで衝撃波が生じ斬られた相手だけでなく周囲にいた5・6人が吹っ飛んでいく。

(あの噂本当だったんだ)

 アイクに守られながらカーシャはそんなことを考える。

「アイクさん、これが傷薬です。決して無茶はしないで」

「ああ、カーシャも運搬だけに専念しろ。決して戦おうとするな」

「はい。アイクさんもご無事で」

 戦いに参加せず本陣と戦闘要員の物資運搬に専念するようにカーシャに厳命されていたのはカーシャが無力だと言ってるわけでもないし、経験が浅いからと言って戦いから外すほどセネリオは甘くない。

 天馬と地上の馬では視点が違ってくるため、天馬騎士を普通の馬に乗せる時は戦わせず運搬をさせた方がよかった。

 

 

 

 

 

 

「はっ!」

「ぐっ……こんなガキに」

 カイルの一太刀で蛮族が倒れる。

 そこへ獅子の目をかいくぐった別の蛮族が迫ってきた。

「おらぁ!」

 カキィン!

 対応しきれずカイルは剣を取り落とす。

「せぇ!」

「ぐぁ……」

 そこへルッツが蛮族を切り捨てる。

「ありがとうルッツ、助かった」

「戦場でいちいち礼を言うな」

 そう言ってカイルとルッツは戦いに意識を戻し獅子と狼が彼らを囲むほとんどの敵を倒していく。

 そんな彼らを酔った男が発見した。

 

 

 

 

 

 

「あの剣さばき……ジャスミンを殺した奴の……奴のガキってところか」

 町中の騒ぎを聞きつけて手下の喧嘩だと思って手打ちにしてやろうと官邸から出てきたポールはカイルの戦いぶりを見て一気に酔いがさめた。

「ぶっ殺してやる!」

 敵の中にはポールがいつかねじ伏せてやろうと決めていた氷の部族がセネリオの指示外で遊撃していたが彼らのことは逆上したポールの頭の隅に入っていなかった。

 

 

 

 

 

 

「キャッ!」

 運搬をしていたカーシャの前に現れたのはスキンヘッドの一人の蛮族だった。

「……」

「くっ!」

 戦うなと命令されたがそうも言ってられない。カーシャは槍を構えた。

 だが男はカーシャに斧をむけずうつむいたままだ。

「殺してくれ、もうこんなことには耐えられない」

「え?」

 カーシャは思わず槍を落としそうになった。カーシャもカイル同様蛮族は略奪のことしか頭にないひとでなしだと言い聞かされてきた。

「俺たちは痛い日光を遮られる屋根と水を求めて町に来ただけだ。なのにこんなむごい真似を。もう死ぬことでしか償えない」

 男の言葉と周りに他の蛮族がいないことからカーシャは戦意を亡くし男に尋ねた。

「あなた自身は略奪は? 町の人から奪ったり、殺したりは?」

 男は黙って首を振った。

「あなたには愛する人がいるの?」

「え……」

 男は突然の言葉に思わず顔を見上げる。

「蛮族にしては優しそうな人だから……どう?」

「カミさんとかはいない。でもおふくろのことは好きだよ。親父が誰なのかもわからない俺を苦労して育ててくれた」

「そう、いいお母さまね。ねえ私たちと一緒に戦わない? 戦争で泣くのはお母さまの様な女や子供ばかり、私たちはこんな戦いを終わらせるために戦っているの」

「戦いを?」

 カーシャはうなずいて男の答えを待った。

「……ああ、ひょっとしたらここで勝っても俺はこの町で処刑されてしまうかもしれないが、許してもらえたら俺はあんたたちのもとで働き続けるよ」

「あなた名前は?」

「ザンザ…ザンザだ」

 そう言ってからザンザは斧を担ぎ上げ蛮族を倒しに行く。平時で喧嘩を売り買いしていた時はともかくこの非常時に裏切られた他の蛮族は大いに慌てふためいた。

 

 

 

 

「グォォ!」

 ザンッ!

「邪魔だ!」

 獅子の頭を勝ち割りカイルへ迫ってきたのはポールだ。

「? ……!」

 別の蛮族を倒したばかりのカイルがポールの接近に気付いたのはポールが獅子を振り切りカイルに斧を構えた時だ。

「カイル!」

 ルッツはカイルをかばおうと前に出ようとした。20年前にジェイクスがクロスをかばった時のように。

 だが――

 シュッ!

「ぐ……」

 カイルが蹴り上げた砂がポールの目に入る。思わずポールは目をつむり標的を見失った。

「やぁ!」

 ザシュ!

「ぐえ……」

 カイルの一閃がポールの胸元を切り付ける。だが、

「今だ。死ねおら!」

 激痛もいとわずポールはカイルに斧を振り上げる。

『ふきあれよ! ふぶきのごとく! トルネード』

「がっ……」

 ポールは突然吹き荒れた竜巻に切り刻まれ息絶えた。

「世話の焼ける新米ですね。一撃入れたからって仕留めたと早合点しないでください」

 後輩を叱ったのはトルネードの詠唱を唱えたセネリオだった。

 

 

 

 

 

 

 戦いが終わりアイク傭兵団と氷の部族が合流した。

 彼らに捕らえられた捕虜の中にはカーシャに説得されたザンザもいる。戦闘後ザンザ自らの意思でカーシャに両手に縄をかけさせ捕虜の待遇を望んだのだ。

「あんたたちは町の人間に引き渡す……と言いたいが」

 捕虜に声をかけたアイクはそこで言葉を切る。

 町は砂の部族に荒らされ捕虜を収容する場所も裁く人間もいなかった。オレルアンに連行したいが傭兵団としてはそろそろ他の町を見て回りたかった。

「アイネ、彼らの連行を頼めるか? 俺たちは南の町へ屍が現れてないか見回りたい」

「待ってくれ、その前にこいつらとはやることがある」

 アイクの頼みをアイネはすげなく置いておいた。

「この中で一番強い奴は誰だ?」

 アイネの問いに捕虜たちは顔を見合わせる。誰も名乗り出る者はいなかった。そんな中、

「俺だ! 俺はポールの次に強かった。そのポールは死んだ。俺がこの中で最強だ」

 捕らわれの身にも関わらず最強を名乗るザンザ。そう言うことでアイネの気を引き自分に最も大きな裁きを下させようとしていた。そんなザンザにアイネは剣をむける。

「やめてアイネさん! ザンザはいい人よ。自分の仲間がやったことを自分が犯したかのように悔いていた」

 カーシャはアイネに激しく言いつのるがアイネは意に介さず。

 シュッ!

 シュル

「えっ!」

 アイネは瞬時にザンザの後ろに回り彼の後ろ手を縛っていた縄を切った。

「どうして?」

 思わず尋ねるザンザにアイネは氷の部族の仲間に顎をむける。

 ザン!

 氷の戦士はザンザの前の地に斧を放って投げた。

「お前の獲物は斧だったな。取れ。氷の王の私と砂の王のお前。どちらが双方の部族を治めるのにふさわしいか決着をつけよう」

「……」

 ザンザはしばらく斧を見つめる。拒否して殺されてもかまわない。そう考えていた。だがアイネはそんな非暴力も認めてくれなかった。

「戦うのが怖いか? だったらお前が「砂」で最強というのは大ボラだ。本当に強い奴を探そう。お前か? それともお前か?」

 アイネはそう言って他の捕虜に剣を突き付け始める。

「ひぃ」「俺は違う」「お、俺じゃねえよ。武器を持った相手を殺ったこともない」

 他の捕虜はザンザの様な覚悟を持ち合わせておらず、中には自己弁護というには逆効果なことを口走るものさえいた。

「わ、わかった。あんたと勝負するよ。だが手加減はするな。一思いに決めてくれ」

 見ていられずザンザは斧を取りアイネに向かって構えた。

「わざとやられたとみなせば他の奴も殺すからな」

 アイネはザンザにわざと負けることも許してくれなかった。

「はぁ!」

 ザンザはアイネに向かって斧を振り下ろす。

 シュ!

 アイネは瞬時にザンザの後ろに回る。

「そこだ!」

 ザンザはそれを予想して真横に斧を振るう。斧はちょうどザンザの後ろで止まった。

「!」

 だがアイネはそこにいなかった。

 そして横からザンザの首元に刃が突かれる。

「勝負あったな」

 アイネは息切れも見せずザンザに完勝した。

「ふぅ、あんたには弱すぎると思っただろうが俺は本気で戦った。あんたは速すぎるし強すぎる。元から勝負にならなかったよ」

 アイネは剣を肩に置き、

「あれで本気か? ……まあいい。今は剣と斧では剣の方が有利らしいしな。それで勝ったからには「砂」は「氷」に従うということでいいな」

「ああっ……」

「ザンザとやらに異存はないようだ。で? 他の「砂」は?」

「氷万歳」「アイネ様バンザーイ」

 ザンザだけでなくアイネに目をむけられた捕虜たちも服従に同意する。

「これで「氷」も「砂」もそしてオレルアンにいる「草」も一つの部族だ。王子、約束を覚えているな?」

 急に話をむけられたカイルは慌てて返事を返す。

「あ、はい。新国家の承認とカダインの割譲ですね。覚えています」

 そして表情を引き締めてアイネに告げる。

「ですがカダインに害を加えないこと。これは譲れない条件です。オレルアンを裏切ることも許さない。あなた方の決まりで王を決める際の決闘があるなら百歩譲って刃傷沙汰もやむをえませんが相手を死なせないことように気をはらうこと。もし破ればあなたたちと戦うことも辞さない」

 そんなカイルの宣告にアイネは手を振りながら、

「わかってる。言っただろう。私は略奪には反対だったって。苦労して住みよい場所を手に入れたのに「草」とぶつかる気もないし交易のためにカダインの港を直す必要がある。飯の種を壊してどうすんのさ」

「だったら言うことは無い。オレルアンとカダインをお願いします」

 カイルとアイネは握手を交わす。

 それからアイネは一同から離れ皆に宣言する。

「これからはここは「フェリア王国」だ! 私は現行統一王として屍から民を守ることを誓う」

 

 

 

 

 

 旧マケドニア王国ドルーア地方。

 かつてメディウスが城を築いていた場所にはドルーア駐屯部隊のための砦が建設されていた。

 そこの宴会などに使われる広間はグルニア王宮から玉座が運ばれ即席の謁見の間となっていた。

 グルニア重臣からは王宮としての増築が終わるまで待ってはと言われたがユベンは屍の恐怖が蔓延している中で贅をむさぼるわけにはいかないと断った。

 今この場にはグルニアを中核とした新国家の上級騎士、貴族そして元グルニア王族が集められていた。そこでマケドニア総督がグルニア王ユベンにひざまずいていた。

「立て、わが友よ」

 ユベンは玉座から立ち上がり総督に手を貸す。

「私などにもったいない。新しきわが主君よ」

 そう言いながらも自ら王と認めた主の手を拒むわけにもいかず手を引かれ立ち上がる総督。

「王を失った我らが地を受け入れてくださったこの御恩、命にかけてお返しいたします」

「借りがあるのはこちらの方さ侯爵。無血でマケドニアを開城してくれたおかげで我らは新しい国を作ることができた」

 そう言い総督の肩をたたき笑いかけるユベン。そこへ一人の壮年騎士が王に報告する。

「父上、アリティア地方の総督も我が国に参加するとのことです」

 金髪の騎士は元グルニア王子、そして新国家の皇子ユルゲン。

 ユルゲンの報告にユベンは気分を良くし、高笑いをあげそうになるがこらえる。

(私…いや余は大陸の新たな指導者なのだ。竜が逃げ出すほどの威光を見せねば)

「ご苦労。ユルゲン、そなたも列席に加わるがよい」

 ユルゲンと元総督はユベンに一礼して式典に招待された客の中に加わる。その中には皇女ユミスそして異界教皇クラウディウスも参席していた。

 ユベンは後の戴冠のための司祭を横に控えさせて軍馬の紋章を彩った旗をたなびかせた玉座の前に立ち、

「今この時よりグルニア・マケドニア・アリティアの地は一つの国となった! この軍馬の前にはあの巨竜もひれ伏す。竜も屍も制しアカネイアに代わり我々「ペレジア帝国」が大陸に新たな秩序を作る。ペレジアばんざーい!」

「ペレジア帝国万歳!」「ユベン1世皇帝陛下ばんざーい!」

 怒号ともいえる歓声の中、ユルゲン・ユミスは怖れを抱いて式を見守り、クラウディウスはただ慇懃な笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 ザンザ クラス︰蛮族

 砂の部族の戦士。心優しく部族の行いに罪悪感を感じていた。

 

 ユルゲン クラス︰パラディン

 元グルニア王子。正義感が強いが父への忠誠心も強く怪しげな教団への不信を訴えるも自ら行動をおこしてまで追放できずにいる。

 

 ユミス クラス︰司祭

 元グルニア王女。心優しく父の苦渋も理解し教団を訝りながら表立って邪険に出来ずにいる。20年前までクロスの婚約者だった。

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