ファイアーエムブレム 聖痕の覚醒   作:ヒアデス

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第13話 皇帝ユベン

 カイルたちは帝都ペレジアの南にあるマケドニア市街に到着し、2週間の間アイクたちを待つ間にカーシャの家族との再会、アンナが仕入れていた天馬の購入などの用事を済ませ、新聞を購入したり、ザンザが酒場に通ったりして極力怪しまれないように情報を収集した。

 

 

 

 

 

 そしてマケドニアに入って1週間になろうとしたころ。

「待たせたな」「山と森に囲まれた国か。ベオクにしてはいいところに都を建てたもんだ」

 アイク傭兵団の部隊、狼部隊と獅子部隊の隊長であるオルンとウーゼルが待ち合わせの店に入ってきた。

「オルン、ウーゼル久しぶり。来てくれてうれしいよ」

「ベオク? テリウス大陸では人間のことをそう呼ぶんですか?」

 再開を喜ぶカイルとベオクという言葉に疑問を持ったカーシャがそれぞれ言葉を発した。

 それから間もなくアイクとセネリオもやってくる。他の団員は森の環境が気に入って市外待機を買って出たらしい。

「すまない。遅くなったか? 近道したつもりだがラグズたちはともかくセネリオとララベルに無茶な移動はさせられないからな」

「いや早すぎるくらいだ。ララベルさんも一緒だったのか。あの人はどうしてる?」

「今の大陸で一番栄えているこの街で早速商売をしていますよ」

 アイクたちの行動力に驚きを通り越して呆れながらララベルのことを尋ねるカイルの問いにセネリオが答えた。

「アンナさんもいつの間にかマケドニアについてるし、二人ともたくましいわね」

 そして商売人の行動の速さにあっけに取られているのはカーシャ。

「では団長に代わって帝都を偵察してきた僕から説明しましょう。帝都ペレジアは帝都とは名ばかりで砦を改修した皇宮と少し離れた地点に小さな町があるくらいです。遷都による経済効果で発展しているこのマケドニア市が今のアカネイア大陸の最大都市でしょう。まあ帝国内ではこの大陸の名前もペレジア大陸に改称しているようですが」

「……」

 カイルとカーシャの表情は引きつっていた。

 カイルにとってはペレジア帝国の発展に伴いアカネイア王国の滅びを痛感され、カーシャにとっては火事場泥棒のようなことをやってのける国にマケドニアが都扱いされていることへの複雑な思いが巡り、そんな二人に気付いていないフリをしてセネリオは続けた。

「皇宮には多くの兵が出入りしているようです。ただ砦だったころから増築はせずマケドニア市や各町村への警備に力を入れているため宮殿に入れる兵士には限りがあるようですね。多くの兵が外に出ている日もある。潜入するならその日を狙うべきでしょう。特にユルゲン皇子が巡回に出ている日に」

「ユルゲン皇子か……」

「知り合いかカイル?」

 ユルゲンの名前が出て考え込むカイルにルッツが声をかけた。

「皇子っていうからわかると思うけどユベン王いや今は皇帝か。彼のご子息だ。アカネイア貴族として僕の父に拝謁しに来た時に会っただけだが騎士としての力量は父と互角いやそれ以上だって聞いたことがある」

「じゃあ俺の親父と互角ぐらいか。恐ろしいような闘ってみたいような」

 ルッツの軽口をセネリオが制した。

「やめておくべきです。僕たちの目的は皇帝と巨竜のつながりを確かめること。ユルゲンを倒せたとしても帝国を全面的に敵に回すべきではない。そして僕の考えでは皇帝は教団に乗せられたか脅迫されているだけです。世継ぎを殺害して帝国と和解する道を閉ざすのは下策の中の下策です」

 セネリオの言葉にルッツは文句を言っているようだがカイルは顔を落とすのみだった。

 もう覚悟は決めている。ペレジア帝国を新たな国と認め必要とあれば彼らと手を組む。だがそのためにカイルはユベン皇帝に言っておかなくてはならないことがあった。

「了解した。僕もユルゲン皇子やユミス皇女と事を荒立てたくはない。ただ帝国と教団が繋がっているか探るためにも皇帝と言葉を交わす方法を考えてくれないか? 頼む」

 そう言って頭を下げるカイルをアイクが制した。

「頭をあげてくれカイル。皇帝との話は俺たちの方から頼みたいくらいなんだ。セネリオの考えに反して黒幕が皇帝の方で教団を潰しても巨竜も屍も問題なく動き回っていたでは困る。皇帝がクロかシロかはっきりさせておかねばならない」

 アイクがカイルの頭をあげてからセネリオは本題に入る。

「いいでしょう。まず……」

 

 

 

 

 

「む? お前、ここはペレジア皇宮だ。一般人は入れないぞ」

「申し訳ありません。ただグルニアで気になる話を聞いてしまって。皇帝陛下に報告したいと思います。どうか謁見のお許しをいただけないでしょうか?」

 見張りが皇宮のあたりをうろついている妙な男2人を見つけた。

 片方は髪は青く、右目を眼帯で隠している。

 もう片方はフードで顔を隠しているが体格で男だとわかる。フードの男は黙ったままだった。

「そうか。我々が陛下に伝えよう。言ってみろ」

「そ、それが相棒がアカネイア兵の生き残りに聞かれたらまずいから皇帝に直接申した方がいいって」

「相棒?」

「俺だよ」

 今まで沈黙してフードの男が名乗り出る。

「何だ。我々がアカネイア兵に情報を売るっていうのか? 貴様こそフードで顔を隠して怪しいな。お前がアカネイアの残党じゃないのか?」

 兵士の一人が激高しフード男に詰め寄る。

「情報を売るなんて大層なことじゃない。でもどんな情報も人が持っている限り流出する可能性はあるんだ。皇帝に伝えると言ったが今日の間に皇帝に情報が届くのか? 報告できなかったらそのまま上がって情報を持ったまま酒場に繰り出すんじゃないのか? そして酒場で美人に酌をされたら仕事の話を漏らしてしまうことだってあるんじゃないか? あんたマケドニアの高級酒場に出入りしてる常連とそっくりなんだが」

「た、確かに何度か行ったことはあるが機密を漏らしたことは無い。ましてや陛下に仇成すような情報なんて口が裂けても」

「ああ、あんたは忠義に満ちた軍人だ。酒と色気に惑わされて口が緩くなる奴じゃないだろう。だが酒に眠り薬を入れられて起きたら見知らぬボロ家で、怪しい男たちからあらゆる拷問を受けたら絶対に喋らないと言い切れるのか?」

 拷問の光景を想像したのか兵士の顔が引きつる。

「し、しかし伝えたいことがあるからって誰でも陛下の御前に招くわけには」

「待て」

 今まで沈黙していたもう一人の兵士が前に出る。

「そこの青髪の君、その眼帯は何だ?」

 話をむけられた青髪が慌てて答える。

「う、生まれつき目に病気があって、見た目も酷いんです。人様の目を汚すわけには」

「我々は傷や跡で差別したりはしない。兵士たるもの名誉の負傷はつきものだからな。それでもどうしても外せないのか?」

「はい、外せません」

「ふむ」

 兵士は考え込んで言った。

「上に伝えてくる。少し待ってくれ」

 そう言って兵士は宮殿の中に入る。

 そして青髪とフードと兵士の片方が残されもう片方の兵士を待った。

 半刻ほど待って兵士が戻ってきた。

「陛下がお会いになるそうだ。粗相のないようにな」

「え……!」

 待たされた方の兵士は信じられないものを見る目で青髪とフードを見た。

 青髪とフードは城内からやってきた別の兵士に案内され謁見の間へ通される。

 その道中一人の淑女とすれ違った。

「これは皇女殿下、ご機嫌麗しゅう」

 ペレジア皇女ユミス。壮年に入ってもその美貌とクセのある金髪は若いころから変わらなかった。

「お役目お疲れ様です。そちらの方々は宮殿に参られたお客様かしら?」

「ええ、皇帝陛下にお伝えしたいことがあるとの事で。」

 青髪とフードは声を発さず頭を下げる。

「まあ、ここに来てから初めてのお客様ではないかしら。謁見が終わったら私のもとに来ませんか? ご家族へのお土産を包んで差し上げましょう。あまり多くを差し上げるわけにはいきませんが」

 ユミスの申し出に青髪は首を何度も振って辞退する。

「い、いいえ僕なんかにもったいないです。どうか他に困っている方のために使ってください」

「そうですか。残念です」

 本当に残念そうな様子で表情を曇らせるユミス。彼女は思わずこう漏らした。

「私には今の夫とは違う婚約者がいたのですけど、もしその婚約者と結婚していたらあなたぐらいの子供がいたかもしれないと思ってつい、ごめんなさい困らせてしまって」

「い、いえ僕の方こそごめんなさい」

 たがいに謝る青髪とユミスに微妙に話しかけづらそうにしていた兵士は意を決して、

「皇女、そろそろよろしいですかな? お父君が来客を待っています」

「ああ、そうでした。父に叱られたらユミスに付き合わされたと言ってください」

「はっ、その時はお言葉に甘えて」

「それではお客様方もどうかゆっくりしていってくださいね」

 そう言ってユミスは兵士と客人に一礼して去っていった。

「さ、さて行くぞ君たち」

「は、はい」

 兵士に促され青髪たちは兵士に続いた。歩きながら青髪はあることを思い出していた。

(父上が母上と婚約する前の相手はグルニアの王女って聞いたことがあるな。じゃああの人が)

 一方、ユミスも先ほどあった客人の片割れが目にかけていた眼帯のことを考えていた。

(あの青髪、あの方と全く同じ色でしたわね。それにあの方には目に聖痕という文様が浮かんでいるご子息がいましたし、まさか――)

 

 

 

 

 

 

「おもてをあげよ」

「はっ!」

 老年に入ってなお覇気があふれた貫録で皇帝ユベンは男たちに命じた。

 若いころは金髪だった髪は20年前から白く染まっていた。それが老いによるものか騎士の国の王としての矜持を持ちながらアカネイアに頭を垂れた重圧によるものかは定かではない。

 そんな老帝に青髪は頭をあげ眼帯をかけた顔を見せた。フードも頭をあげたが顔が見えないぐらいの位置は保っていた。

「それで余に話したいこととは何かな?」

 青髪は意を決して話す。

「その前にひとつよろしいですか?」

「うむ?」

「アカネイア王国そしてアカネイア連合王国という国家群を無視して周辺国を併合しペレジア帝国なる国家を建国したことについてどうお考えですか?」

 重臣は取り乱したがユベンは顔色一つ変えず返事を返した。

「アカネイアは不幸な災害があり滅びてしまった過去の大国だ。かの国が滅びて各地は混乱にあえいでいる。北部は蛮族に乗っ取られてしまった。だからこそクロス王以外に王の立場を持つ余が各地を取りまとめなければならんと決意したのだ。アカネイアで生き残った者から逆賊の汚名をかぶせられてもな」

「……!」

 ユベンの覇気に青髪はひるむ。汚名をかぶっても大陸中の国をまとめる。声色からその覚悟は本物に聞こえた。

「失礼しました。ではパレスを襲った巨竜と屍のことはご存知ですか?」

「ああ、知っている。我が国もあれらがいつ現れてもいいように対策を練っているところだ。ユルゲンも皇宮にいる時より見回りに出ている時が多いくらいにな」

 竜と屍を知っていることはあっさり認めるユベン。だがあくまで自分たちはそれに対抗しているという主張は崩さなかった。

 教団に踊らされている立場からすれば対抗策を探しているのは本当だろうが。

「では陛下が布教活動を許している教団のことは?」

「うむ、この大陸で布教は難しいと忠告したのだが無理なことはしないとまで言って粘ってきたのでな。異教だからと言って無碍に追い返すわけにもいくまい」

「その教団が陛下の留守を狙ってグルニア近郊の村を襲い虐殺を行ったことは?」

「む、村を? どういうことだ」

 ユベンが初めて表情を憤怒に変える。

「奴らは村人のほとんどを殺し生き残った者は監禁し、一人の女性を生贄と称して火あぶりにしようとしたのです」

「し、知らんぞ。それでそいつらはどうなったのだ?」

「死にました。捕らえたものも我々の隙をついて自決を。市長と総督が陛下に直訴すると言っていたのですが報告がまだ来ていませんか?」

「き、来ていない。グルニアからは誰も」

 蒼白の顔色でユベンは答える。使者は口封じに教団に暗殺されていたのだ。

「教団の司祭は屍を使役していました。瓶に入っていた蟲を地に放り捨てるような前ふりの後で」

「……」

「我々はそいつらがアカネイアを襲った黒幕だと睨んでいます。陛下、あなたは彼らとは本当に無関係なのですか?」

 青髪が問い詰めた途端、重臣がどよめいた。

「無礼者!」「陛下を何だと心得ている」「衛兵、早くこやつを投獄しないか」

「静まれぃ!」

 ユベンの一喝で重臣は黙り込んだ。

「そなた、余からも一つ良いかな?」

「何でしょう?」

「そなたの眼帯、本当に病気のせいか?」

「とおっしゃられますと?」

「余は十数年前瞳に文様が刻まれている子に会ったことがあるのだよ。異大陸から受け継いだ聖痕とクロス王はおっしゃられていた」

「……」

「外してみてくれんか? 悪いことを言っているのは承知している。だがそなたにとっても疑われたままでいるのは居心地が悪いだろう? さあ!」

 グッ。

 青髪、カイルは眼帯を外した。

 ユベンは驚きもせず笑みを浮かべる。

「やはりカイル王子だったか」

 ユベンは立ち上がり右手を胸に当て一礼する。

「失礼いたしましたカイル王子。国が滅びてもあきらめずにここまで来るとは。先の教団の件、実に有益な情報でした。そちらはわたくし共で対処いたしましょう。王子はここで賓客として過ごされるがよろしい」

 カイルは身分を隠さずに返す。

「アカネイアの民への人質としてですか?」

 ユベンは否定せずにうなずく。

「今ペレジア帝国を滅ぼされるわけにはいかんのです」

「教団はどうするつもりです?」

「然るべき罰を与えよう」

「然るべき罰とは?」

「村を襲ったものの背後に命令を下したものがいないか調べ判明次第処刑。教団には活動を自粛してもらおう」

「教団自体が虐殺を仕組んでいた場合は?」

「そ…それは」

 教団を潰す。それがこの問いに返すべき答えなのだろうが教団が巨竜を操っていることを知っているユベンは咄嗟にその答えを返せなかった。

「やはりあなた方の意に沿うわけにはいかないようですね。ですがユベン王が虐殺を命じたわけではないことを知ったのは幸いでした。私はこれにて失礼させていただきます」

「捕らえよ!」

 衛兵が一斉にカイルにかかる。

 だがフードの男が四足の体制になりカイルを乗せた。

「グォォン!」

 男は獅子の姿になりカイルを乗せて駆けて行った。すれ違いざまに兵士を突き飛ばしていって。

「……あ、あれが噂の半獣」

 ユベンは呆然とつぶやいていた。

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