ファイアーエムブレム 聖痕の覚醒   作:ヒアデス

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第18話 ワーレン 法律顧問と魔道軍司令

 封印の盾とは形状からしてファイアーエムブレムのことだろう。牙とはなぜそう呼ぶのかはわからないがファイアーエムブレムと共にあり、自分の手から離れたものはファルシオンしかない。

 そう考えたカイルは翌日仲間やアイク傭兵団とともに自分が落ちてきた辺りに出向き、ファルシオンとファイアーエムブレムを捜索したがその地点はギムレーに攻撃されたらしく、大きなクレーターが地をえぐっていた。

 狼や獅子の脚力でクレーターの中を調べ二つの国宝を発見したがそれらは見るも無残に粉々に砕け散っていた。

 だが偶然なのかそれとも人知を超えた力によるものか紋章にはめられたオーブは無事に球体の形を保っていた。

 それから夢の声に従ってオーブと破片を集めたのち(もちろんあのオーブは直接触れずあらかじめ用意した厚手の布にくるんで)アイク傭兵団とザンザはフェリア王国にカイルたちは傭兵団の一部の団員を借りてフェリアでもペレジアでもない現在のアカネイアに戻ることにした。

 

 

 

 

 

 荒廃したアカネイアは賊が支配する無法の地とかしていてもおかしくない。そう覚悟してカイルたちはパレスの人々の避難先であるワーレンに足を踏み入れたのだが……

「平和ですね」

 ギムレーの攻撃を受けてその言葉は不謹慎だろうが、暴動や略奪がはびこる光景を覚悟していたカーシャは表情は暗いものの平穏に生活している人々を見て思わずつぶやいた。

「さすがに活気はないけどな」

 そううそぶくルッツの言葉にも安堵が含まれていた。

「ひとまず領主館に行ってみよう」

 ワーレンを統治する領主を尋ねるべくカイルはそう提案した。

 

 

 

 

 

「おお、カイル王子! よくぞ戻ってきてくださいました」

 カイルたちが執務室に足を踏み入れたと同時にワーレン領主は立ち上がり、手を広げてカイルたちを歓迎した。

「子爵、お久しぶりです」

 カイルは領主に近づき握手を交わす。

「パレスの悲劇に続いて先日は大陸規模の災害が起こりましたが、町の様子はどうですか?」

 開口一番カイルはそう尋ねると領主はさすがに渋い顔をしたが、

「災害の方には参りました。ペラティも攻撃されて壊滅してしまいましたからな」

「ぺ、ペラティが?」

 ペラティの壊滅と聞いてルッツが領主に近づく。

「お、親父とおふくろは? 俺の両親は大丈夫なのかよ?」

 そうまくしたてるルッツに領主は慌てながら、

「い、生き残った者が何人かいたようだが、君の両親かどうかは」

「カイル、悪い。俺はペラティに行ってくる。ワーレンも探すかもしれないから今日は俺抜きでやっててくれ」

 そう言うや否やルッツはすぐさま踵を返し執務室を出て行った。ほどなく領主館を出るだろう。

「すみません、私の連れが」

「いえいえ、あの災害の後ですからな。彼の気持ちは痛いほどわかります」

 ルッツの非礼を詫び頭を下げるカイルを領主は手で制す。

「話を戻しますが、パレスの悲劇に続いてあんな災害が起こっても町の平穏が保たれているとは、子爵の手腕には感嘆を覚えます。国を再建するときにはぜひ王宮で働いていただきたいくらいです」

「いいえ、お恥ずかしい限りですがわたくしの力ではありません。レフカンディの西部テミスを治めるテミス伯爵の遺児マリアンヌ殿が法律顧問として私を補佐してくれているからです」

「テミス伯爵の? ご令嬢が生きていたのですか?」

 テミスはアカネイアとマケドニアを隔てる海のすぐ東に存在する地だ。その海はギムレーのブレスを受けて干上がってしまった。まさか生き残りがいたとは。驚くカイルに領主は更なる言葉を告げる。

「そして町で暴動が起きかけた時はイシュタルス候の長子エルス殿が臨時に創設された魔道軍を率いて鎮圧してくれてます。彼らがいなければこの町だけでなくアカネイア全体が無政府状態となっていたでしょう」

「彼らは今どこに?」

「領主館に滞在していますので希望があればすぐにでも会えますが」

 カイルはすぐにうなずく。

「ぜひ会わせてください!」

 

 

 

 

 

 

「カイル王子お初にお目にかかります。テミス伯爵の長女マリアンヌと申しますわ」

「初めましてエルスです。王子のお噂はかねがね、魔道をたしなむ家系のものとして私の両親は王妃様と懇意にさせていただいてました。私も妃様にはずいぶんかわいがってもらいました」

 領主に呼ばれて執務室に入ってきた金髪をロール状に結んだ貴族令嬢と一房前髪がはねた赤毛の賢者の二人が名乗り出る。

「王子カイルです。私が不在の間、子爵とお二方にはずいぶん骨を折って頂いて感謝の言葉もありません。それにこんな時に国を空けたこと、本当に申し訳なく思っています」 

 深く頭を下げるカイルをエルスは諭す。

「頭をあげてください王子、あの巨竜の正体を調べようと王子が動かなければあの竜は間違いなく王子が留まるだろうこの町を攻撃したでしょう。マケドニアの人たちには悪い言い方ですが王子がマケドニアで敵の目を引いたからワーレンは無傷でいられたのです」

 だがそこに水を差すものもいた。

「フッ、民が困窮している時に王族が勝手に逃げておいて頭を下げるだけで済めば法律はいりませんわ。法律では国事を放棄した王子は本来国外追放を宣告されて当然ですわよ」

「マ、マリアンヌ君」

 無礼を働くマリアンヌを領主は注意しようとする。

「いいんです。マリアンヌ殿の言うことはもっともです。申し訳なかった」

 カイルは再び頭を下げる。だがマリアンヌは許してはくれなかった。

「頭を下げるだけで済む話ではないと言ったでしょう。まあ唯一残っている王族を追放して新王朝だの革命だのが起きてはそれこそ国が乱れますから百歩譲って復興が終わるまで一日中領主館で政務作業に減刑してあげますわ」

「マリアンヌ様、カイル王子に対してあまりに無礼でしょう!」

「カーシャいいから、マリアンヌ殿ごめんそれはできない」

 とうとう頭に来たカーシャを抑えてカイルは改めてマリアンヌと対峙する。

「あら? やっぱり追放をお望み?」

 マリアンヌは不敵な笑みを浮かべるがカイルは動じない風を装った。

「あの巨竜……ギムレーがいったん姿を消したからってまたこの大陸に現れないとは限らない。ギムレーに対抗できるのはファルシオンを使える僕だけだ。法律には書かれていないだろうけどギムレーみたいな邪悪な竜を倒すことは英雄王マルスの子孫である現アカネイア王家の義務だ」

 きっぱり告げるカイルをマリアンヌとエルスはまじまじと見つめた。

「もういいだろうマリィ。王子の覚悟は本物だ。これ以上はこの方のお邪魔にしかならない」

「そうですわね。王子がいなくても町の施政に影響もありませんし、いじめるのはこのくらいにしておきましょう」

「え?」

 肩を抜く二人にカイルとカーシャは困惑する。そんな二人にエルスの方から説明した。

「申し訳ありません。王子の意思がどれだけのものか確かめるために試させてもらいました」

「町に留まるよう言われて首を縦に振るようなら王子の決意もそれまで、それを確かめるためにわたくしが王子を責めて、エルス様がそれを見守る。そういう段取りでしたの」

「誠に申し訳ございません。私も王子のお考えが知りたかったので二人を止められませんでした」

 二人が訳を話した後領主はカイルに深々と頭を下げた。

 その後、改めてあいさつを済ませ執務室にいるものは全員ソファに腰を下ろした。

「それで王子、今後はどうされるおつもりですかな?」

 領主の問いにカイルは重々しく返す。

「子爵、実はギムレーとの戦いでファイアーエムブレムとファルシオンを破損してしまって――」

 カイルはそう言って袋の中からファイアーエムブレムとファルシオンの破片を取り出した。

「ファルシオンはギムレー打倒に必要不可欠です。それにファイアーエムブレムも前王朝から伝わる大陸の至宝です。幸いエムブレムにはめられたオーブは奇跡的に無事でした。ただこれでは国宝としては台無しです。どうか剣とエムブレムを修理できる方を紹介して頂ければと」

 ファルシオンはともかくエムブレムの方も修理させるのは夢の声に命じられたからなのだが領主たちに正気を疑われるのを恐れて建前を口にする。

「わかりました。ワーレンは栄えた町。優れた鍛冶屋も多く出店しています。一週間もあれば直させて見せましょう。ただ……」

 領主は言いづらそうにはにかみながら、

「ファルシオンとファイアーエムブレムを直に見たものは滅多におりません。ましてパレスで多くの官吏が亡くなられた今では、おそらく剣の柄やエムブレムの模様などは元通りにはいかないでしょう」

「……それは構いません。ただエムブレムはオーブをはめ込む穴を再現して頂けませんか? オーブも含めて国宝となるのです」

 柄が変わったぐらいでファルシオンの効力は変わらないだろう。ただエムブレムの方は模様が変わっても問題ないのだろうか? カイルは不安を覚えたができないことは仕方がない。ここでごねて領主を怒らせて協力を得られなくなる方が危険だった。

「それぐらいなら後ほど使用人がオーブの直径を測りますのでお貸しいただければ」

「はい、わかりました――」

 そこでカイルはちらとカーシャに目配せした。

「あ! 私エムブレムから離れたオーブを見てみたいです」

「そうかい? ではそのあとで採寸を」

「いえ臣下のわがままで時間を取らせるわけにはいきません。オーブの採寸にこの者を立ち会わせてやってください。それで十分です。それでいいなカーシャ?」

「ちぇ、いやはい、ありがとうございますカイル様」

 カイルとカーシャ、領主はそんなやり取りをする。

 もちろん嘘だ。万が一領主や使用人がオーブを盗み出すことを恐れて監視するためだ。

 ただしニヤニヤ眺めているマリアンヌや不敵に微笑んでいるエルス、ひょっとしたら領主も気付いているらしかった。

 そして貸すのは無論あのオーブ以外だ。

「しばらく領主館にお世話になるつもりですから修理が終わったら知らせてください。剣とエムブレムを持って行かねばならないところがありますので」

 そう領主に頼み込むカイルをマリアンヌはつついた。

「ふむ、剣とエムブレムを持ってね……願掛けかもしれませんけど国宝を個人的な事情で紛失したらそれこそ追放、いえ公開処刑ものですわね」

「マリィ!」

 そんなマリアンヌをエルスはたしなめた。カーシャは食って掛かるだけ相手の思うつぼだと思って耐えた。

 

 

 

 

 

 

 一週間後。領主館。

 カイルとカーシャ、ルッツは領主や鍛冶屋の主人とともに客間にいた。ルッツの両親は本土に現れた暴徒を鎮圧するために本土に出ていたので助かり今はワーレンで暮らしている。

 今日はマリアンヌもエルスも館にいない。

「エムブレムは模様は変わりましたが修理いたしました。オーブもこの通りはまります。ですが……」

 そこまで言って鍛冶屋は土下座した。

「申し訳ございません! 剣の柄は作ったのですが肝心の刃は槌をふるっても加工できず槌の方が破損する有様でわたくしどもではどうしようもできません」

 手打ちを恐れているのだろう。鍛冶屋は土下座しながら歯を食いしばった。

 この町にはマリアンヌがいる。修理に失敗したぐらいで処刑など彼女が許さないだろうが相手は王侯貴族だ。手打ちは免れないだろう。

 そう思って鍛冶屋は頭を床につけ沙汰を待った。

「頭を上げてください。この剣の刃は竜を斬れるぐらい強力な上、千年以上も劣化しない不可思議な材質でできています。普通の工具では加工できないと言われたらわかる気がします。エムブレムは修理して頂きましたし、お代も約束した分用意してあります」

「あ、ありがとうございます」

 鍛冶屋はカイルの思わぬ寛大な処置に感謝し謝礼を受け取り部屋から出て行った。

 一方カイルの方はこうなるだろうと予想はしていた。さっき言ったようにファルシオンの材質に関しては父や歴史教師から教わっていたし、ファルシオンが砕けたのは落下の衝撃だけでなくおそらくギムレーのブレスによるものだろう。

 夢の声も牙は破片を集めておけとしか言ってなかった。夢のとおりファルシオンはこのままに、ファイアーエムブレムの修理を終えた今、エムブレムを持ってガルダに行く予定だ。

「子爵、ありがとうございます。ファイアーエムブレムは子爵が紹介した鍛冶屋の手によって復活した。そう王宮に記録させていただきます」

「いえいえ、剣の方は残念でしたがあれがお役に立てて何より……ですが神剣がなくて大丈夫ですか?」

 不安そうに領主は尋ねる。カイルは努めて気丈を装う。

「ご安心ください。ファルシオンは始祖が神から賜ったもの、神の手によって元の姿を取り戻すでしょう」

 その神かもしれない声の主にそれが出来るかガルダまで聞きに行くのだが、そんなこと領主に言えるわけなかった。

 

 

 

 

 

 マリアンヌ クラス:ヴァルキュリア

 「覚醒」のマリアベルの先祖。テミス伯爵令嬢。弟が爵位を継ぐためイシュタルス侯爵の長子エルスと婚約していたが、先に結婚した友達が職を持たない夫人で、夫に何一つ逆らえず暴力を振るわれることもあると泣きつかれたことがあるため、自分も夫に対する力をつけるため法律学を学び法務官の職につこうとしたがギムレーの攻撃で自分以外の家族が死に絶えたため、マリアンヌが夫を迎え爵位を継ぐことになりエルスとの婚約を破棄し、現在はワーレン町の法律顧問についている。余談だが先ほど言った友達の夫はマリアンヌの調停により離婚が認められた。

 

 エルス クラス:賢者

 「覚醒」のリヒトの先祖。イシュタルス侯爵の長男。マリアンヌと婚約していたが上述の理由で破棄となったが今でもマリアンヌを愛称のマリィと呼ぶ。現在はワーレン臨時魔道軍の司令官についている。侯爵家の財政もブレスの被害で困窮しているが面目維持のための出費がかさんで借金もし始めている

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