ファイアーエムブレム 聖痕の覚醒   作:ヒアデス

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第2話 グランベルの目的

 クロス率いるタリス視察部隊そしてユグドラルなる大陸から来た公女ユリナ擁する使節団はタリスで食料等の補給を行い一泊した後、海沿いにワーレン経由でパレスまで来た。

 ユリナらはパレス城に到着してから客室を借りて正装に着替え、副官のヨーゼフ伯爵と通訳の男とともに王の前で膝をついていた。

 現アカネイア王グスタフ、初老に差し掛かり青髪に白髪を混ぜながらも威厳のあるたたずまいで来客と対面している。

「ユリナ殿、貴公らは誠に東の大陸から来たと申すか。我が大陸は西のヴァルム大陸と交易をおこなっているため海の向こうに興味がないわけではない。だが東にそのような大陸があるなど聞いたことがない」

 ユグドラルは東ではなく南東に位置するのだがユリナは王の間違いを訂正せず、自国の主張を述べることにした。細かいところは交流を深めていくうちに理解してもらえればいい。

『疑念はごもっともです。ユグドラル大陸の国々も西のリーベリア大陸に足を踏み入れるまでは生まれ育った地を離れるという考えに至りませんでした。そこではグランベルいえ大陸にはない様々な資源・生産物があり、リーベリアとの交易は我が国に多大な恩恵をもたらしてくださいました。貴国にも我が国にはないものがあるでしょう。競合する他国との戦に明け暮れ消耗を繰り返す我が国を助けると思い貴国との交易をご検討して頂きたい。それが我が国の王の望みです』

 ユリナはグランベル王からの親書と親書の内容を通訳がアカネイア語に直した写しを差し出し宰相が受け取り安全を確認した後グスタフに手渡した。

「確かに受け取った。しかしそなたの話がまだ信じられないというのが正直なところだ」

『無理もありません。そこでわたくしから提案があります。我が使節団の一部が帰国する際、貴国から何名様かグランベルに案内したいと思います』

 使節の交換、これは大陸間という途方もないことに限らず隣国間との交流でも行われていることだ。

「ふむ、では交易の監督はどうするつもりだ? ユグドラルという大陸は我が大陸からはるかに離れていると聞く。問題が起こってもすぐ駆けつけることが出来まい」

『そこで陛下にお願いがございます。交易を見届けるために我々が貴国に留まるための大使館を設置して頂けないでしょうか?』

 ユリナの二つ目の提案にグスタフだけでなくアカネイア側の重臣が戸惑った。

「たいしかん? 誰か知っている者はいるか?」

 グスタフの問いに重臣の誰もが首を横に振る。アカネイアとヴァルムにおいて使節とは他国へ赴くものであり、長期間駐在するものではなかった。ユリナは慌てて、

『申し訳ありません。説明を忘れていました。大使とは他国に駐在しその国に滞在する自国民の保護、監督をするユグドラルとリーベリアで採用されている制度でございます』

「アカネイアに常駐か。確かにその手もあるが…」

 グスタフは説明された大使の制度に感嘆しつつも頭を抱える。見知らぬ相手のために施設を譲渡ましてや建設などできない。

「臣下と相談するためしばし時間をいただきたい。海を越えてきた客人を王宮でもてなしたいのは山々だがそなたらは信用されていない。不便を強いることになるだろう」

『かしこまりました。パレスやワーレンで宿を探します。無論住民の方々に迷惑をかけぬよう兵士たちには交代で街を出入りしてもらい、残りは町の付近に天幕を張って過ごしてもらいます。それでおそれながら陛下にお尋ねしてもよろしいでしょうか?』

「なにかね?」

 グスタフの許しを得てユリナは気になっていたことを尋ねる。

『クロス王子からお聞きしたのですが、この大陸には貴国以外の国は本当にないのでしょうか? ユグドラルも二千年も前は帝政となったグランベルに統一されていましたが20年もたたずに分裂し王政に戻しました。大陸を統一し千年間も維持しているなど驚きを禁じえません』

 グスタフはこのときようやく自国がユグドラルより進んでいるところを見つけて安堵した。

 ユリナらは謁見の前にグランベルからの贈り物として莫大な財貨や高級品を納めた。その中にはアカネイアとは製法や材質が異なる品も多い。何よりこれらの品に加えて大軍や軍を維持するための水・食料を収納できる造船技術はアカネイアより優れていてグスタフや重臣たちは驚かされてばかりいたのだ。

 突然異なる地からやって来て交易を始めたい。言葉だけだったら王への謁見もかなわずつまみ出されるところだろう。

 そんな内心を隠しながらグスタフはアカネイア連合王国の実情を語る。

「いいや、正確にはアカネイア一国ではない。この大陸にはアカネイアの他にアリティア・グルニア・マケドニア・オレルアンの4つの国があるが、そのすべてがアカネイア連合王国に参画しそのうちのアカネイアを含めて4国の王を余が兼務している。西方のグルニアだけは別の王がいるがアカネイアの公爵位を与え余の臣下ということになっている。だが余はグルニア王に無理な強要をするつもりはない。かの国と国交が結べるかはそなたら次第だ」

『はい。アカネイアのすべての国と良き関係が築けるよう努力いたします』

 

 ユリナらが父王と謁見している間、クロスは訓練場でジェイクスにしごかれていた。正体不明の集団の前に決して出ないという約束を破られた腹いせもあったのかジェイクスは容赦してくれなかった。

 そうでなくともクロスは日々激しい剣術の訓練に明け暮れていた。護身や王族のたしなみという理由だけではない。今のアカネイアにおいて王と認められるには神剣ファルシオンを振るうことができるという条件があるからだ。ファルシオンは選ばれたものしか扱うことができないらしく、王族であっても相当の鍛錬を積んだものしか振るうこともできず歴代王はいずれも成人の儀で神剣を振るって見せた。今のアカネイアの王子はクロスただ一人だけだが、他に継承者がいないからと言ってファルシオンを振るえない王を出してしまっては現王朝の正当性をめぐって争いの火種となるだろう。マルスのアカネイア王即位まもなく起きた前王朝復権派による反乱の時のように。

 クロスはボコボコにのされようやく本日の訓練終了を言い渡された。湯浴みにでも行こうと城中に戻る途中で大量の本を拾っている男を見つけ手伝った。

「ありがとうございマス。おや、あなたはユリナ様と一緒にイタ?」

「クロスです。グランベルからの使節団の方ですか?」

 なまりがあるが流暢なアカネイア語を話す黒髪の男は目につなぎあわせたような両目用のモノクルをかけている。

「ええ、学者として同行を許されマシタ。アルバと申しマス」

 クロスにとって学者とはクロスに国の歴史を教えている家庭教師の類だ。若干苦手だと思いつつ使節団に対してユリナにだけいい顔をするわけにもいかない。

「何を調べていらっしゃるんですか? やはりこの国や大陸の生産物でしょうか」

「ええ、それも調べている最中ですガ。クロス王子は竜を知っていますカ?」

 クロスは打って変わって目を輝かせ、

「もちろんです! このアカネイア大陸では千年前に暗黒竜は封印され、他の竜も人と友好を持つようになった。その偉業を成し遂げたのが我が王家の始祖マルスだと聞いています」

 自分の一族が王でいられるのもマルスの伝説によるもの。その祖先に恥じぬよう王にふさわしい跡継ぎになりこの大陸を発展させていかねば。それがクロスが剣術に励み、進んだ技術を持つ異国人と接触しようとする理由だった。

「それはすごいご先祖様をお持ちデスネ。ユグドラルではほとんどの国の王は神の血を与えられた戦士の末裔だと言われているのデス。最近の歴史研究では戦士に血を与えた神の正体がアカネイアから来た竜ではないかと言われているのデス」

「そうでしたか。アカネイアの神話にも守護神ナーガという神様が出てくるのですが、その神は千年前までは巨人の神だと言われていました。ですが竜と交流を持ったマルスによって神竜という一番強い竜の王様だということがわかりました」

「なんと、偶然とは思えませんネ。グランベルの始祖ヘイムに血を与えた神もナーガというのだそうデス。ますます先ほどの説に信憑性が増してきましたネ。私はその竜に興味があって使節団が派遣される前にアカネイアに渡ってこの大陸の風土・伝説を調べていマシタ。言葉はまだまだ勉強中ですケド」

 苦笑するアルバに合わせてクロスも笑みを返し、

「グランベルとアカネイアの交流がうまくいくことを心から願っています。我が家と竜は浅からぬ縁。何か聞きたいことがあればぜひ訪ねに来てください」

「ええ、その時はぜひご協力をお願いしマス。王子にとっても両国が親しくなればユリナ様とも仲良くなれるでしょうシ」

 アルバにからかわれ、クロスが赤面している間にアルバは拾い終わった本を抱えて庭を出て行った。

 

 

 

 

 

 ユリナとの謁見が終わった日の翌日、グスタフ王は重臣を集めて会議を行っていた。

「ユグドラルとやらから来たかの者たちと国交を結ぶべきか、諸君らの意見を聞きたい」

 グスタフの問いに重臣はそろって反対の意を表明した。

「どこぞの賊がさらってきた娘にでたらめを言わせているに決まっています」

「いえ、本当だった方が恐ろしい。我が国より進んだ技術を持つ異国がこの大陸を侵略しようとしているかもしれないと考えると」

「遠い海を渡って侵略する益があるのか? 現に我々も東の方に大陸があるなど知らなかったのだぞ。あったとしてもかなり遠く、行き来に危険が伴う。……いや…あのような者たちと親しくなるべきとは言いませんが」

 重臣の意見にグスタフはやはりという気持ちで息を吐く。

 ユリナたちの持ってきた品に使われている技術に驚かされたグスタフとしては異大陸の存在を信じてはいないがユリナたちを適当にもてなしたうえで彼女らの出身地を聞き出し、利益になりそうなら交流を持とうと考えていたのだ。だがそれもあきらめざるを得ないようだ。その時

「父上、皆様、私からよろしいでしょうか?」

 クロスが声をあげた。

 クロスの側で控えていたジェイクスが止めようとするがグスタフから許しが得た。

「クロス王子、うむ、申してみよ」

「ユリナ殿たちの持っている技術は優れたものです。彼女たちから納められた品を私も拝見しましたが物を見る目をまだ備えていない私にも優れたものだとわかります。特に眼鏡などは皆様の中にも愛用され始めている方がいると耳にしたのですが」

 眼鏡、アルバの掛けていた両眼用のモノクルだった。

 諸侯の何人かは目をそらしたり、咳ばらいを始める。老年に差し掛かりものを見るのがつらくなった彼らにとって眼鏡は思いがけない拾いものだった。

 クロスは続けて

「彼女たちから受け取ってばかりで帰ってくれというのは大陸を治めているアカネイアとしてはあさましいと思いますが」

 クロスの言葉に重臣の一人がいきり立つ。

「王子お言葉が過ぎますぞ!」

「申し訳ありません。感情的になって言いすぎてしまいました」

 重臣の叱責にクロスは失言に気付き素直に頭を下げる。重臣は謝意を受け取りながらも続けて言った。

「彼らには十分な返礼を与える。ですが彼らは王子のおっしゃるように優れた技術を持っている。それが我が国や大陸に害を与えるために使われない保証がありますか?」

「先ほどアンセム侯爵がおっしゃられていたように彼女たちにはアカネイア大陸を侵略し、統治していくには長い航海を繰り返す必要がある。ユグドラルの航海技術でも安全な船旅を確立できる水準に達していません。戦争を起こさず、交易で利益を蓄えていく。そのための監督として我が国に留まりたい。ユリナ殿の言い分は納得できる部分があります。我が国にとっても他国の技術を盗む機会です。どうかユグドラルとの交流の件、よい検討をしていただけるようにお願いします」

 クロスは父と重臣たちに先ほどより深く頭を下げた。

 

 ワーレン某所

 密会に使われる店で顔を隠したヨーゼフ伯爵とアルバが会っていた。

「この大陸への駐留、うまく事が運びそうだ。公女様とあの色ボケ王子には感謝せんとな」

「それはよかった。あの青年とおしゃべりしただけで帰国ではわびしすぎますからね」

 ヨーゼフはアルバに杯を傾けながら問う。

「それでどうだ。竜の居所の見当はついているのか?」

「ドルーアかマケドニアという国に隠れ里があるようですね。王家ともめていた一派も竜を根絶やしにせんと探し回って見つけ出せなかったくらいですから簡単にはいかないでしょう。クロス王子の信用を得るためにも数年は時間をいただきたいものですね」

 遠大な割にのんきな返事を返すアルバにヨーゼフは苛立ち、

「このために宰相殿と私がどれだけ根回しをしたと思っている。3年だ。3年以内に結果を出せなければ貴様の首を切り落とし、我々は貴様に騙されたということにさせてもらう」

「怖い怖い。では公女様とも仲良くさせていただきますよ。それなら王子にも近づきやすい」

「好きにしろ。お前がどんな性癖を持っていようと結果を出してくれればいい。公女がどんな醜聞にまみれようと知ったことか」

 互いに杯が空になったのを見計らいヨーゼフが命じる。

「宰相閣下の命令だ。ユグドラルを混乱に陥れた偽神たる竜を見つけ出せ」

 偽神の抹殺。それこそがユリナの知らないグランベルの本当の目的だった。

 

 

 

 

 

 ヨーゼフ クラス:バロン

 グランベルの伯爵。ユリナのお目付け役で使節団の実権を握っている。宰相からの密命を受けて竜を探し出すために使節団に潜り込む。あわよくば竜の血を飲みゲッシュの一部解除で弱体化した王家に成り代わる野望を持っている。

 

 アルバ クラス:マージファイター

 グランベルの学者。普段は経済・文化の学者として貴族や市井と交流しているが本来は生物学に傾倒しており、ユグドラルで神と呼ばれていた竜に興味を持ちアカネイア大陸を探っていた。

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