ファイアーエムブレム 聖痕の覚醒   作:ヒアデス

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第21話 同じ

 フェリアでの会談から1週間もたたず使者のイストリア往訪の準備は整い、アイク傭兵団も護衛部隊に加わりかの国へ赴くこととなった。カイルたちはアイクたちを見送りカシミア港を後にし、ワーレンに足りてない物資を注文しにグルニア市へ立ち寄る。

「ちっ、まだこんなに残ってるじゃねえか! なにをちんたらしてやがる!」

「ご、ごめんなさい!」

 ガス! ゴス!

 積み荷を運んでいる下男に雇い主が暴力を振るっているところにカイルたちは遭遇した。

「おい! あんた何してるんだ?」

 薄い鎧と最低限の毛皮しか着ておらずすでにいくつも生傷を作っている下男を容赦なく殴り続ける雇い主の姿にたまらなくなったルッツが怒鳴り込む。

「なんだ? 仕事の途中だ。邪魔すんじゃねえ!」

「うっ!」

 雇い主は構わずルッツを突き飛ばす。

「この!」

「そこまでにしてくださいご主人。労働者や使用人への暴力は禁止されています。それはペレジアでも同様のはずです」

 ルッツに遅れてカーシャとともに駆けつけてきたカイルはそう雇い主に注意する。

「ペレジアでも? あんた他国の人間か?」

「はい。アカネイアから来ました」

 カイルがそう言うと雇い主はにんまりと笑う。

「アカネイア? あそこからの難民か。立派そうな甲冑を着てるのにそいつはかわいそうなことだな」

 ワーレンの統治体制を知らない人々はアカネイア王国は滅びて無政府状態になっていると思っている。この雇い主もそうらしい。

 雇い主は眉をひそめるカイルたちに続けて言う。

「それで衣食住を求めてペレジアに流れて来たってか。だったら教えてやるよ。この国じゃあ半獣を買ってこき使うことが許されている。金持ちは見目のいい半獣を愛玩して養っているそうだが俺のような商売人にそんな余裕はねえ。働きが悪い奴はこうやって教育してやるのさ」

 言われてみれば下男には兎のように長い耳があり自分たちの様な人間ではなかった。そして周りを見ると町の人々は雇い主を注意するどころか眉をひそめる様子もなく歩き続けている。むしろ突然雇い主を注意してきたカイルたちの方を白い目で見ている。

「なぁに高い金出して買ったんだ。殺しやしねえよ、この前殴り続けて元手を取る前に殺しちまって俺も懲りたんだ。まっ、おかげでこいつらは前より従順になったんだがな」

「あ…あなたは!」

 カーシャは口を手で覆い衝撃を受けている。

「いいえ、ジェルド殿がこのようなこと許すはずがありません。彼の知らないところでこのような悪習がはびこっているなんて、すぐにペレジア王宮に抗議させてもらいます」

 亡国から流れてきた難民にしては雄々しいカイルの態度に雇い主はさすがにおかしいと思い始めた。

「難民が王宮に言っても聞き入れられるわけないだろ。いや……それより次の王様と知り合いなのか? あんた一体?」

「申し遅れました。僕はカイル。アカネイア王国の王子です」

 カイルの自己紹介に雇い主だけでなく周りの野次馬も仰天した。

「馬鹿な……アカネイアは滅びたって皇帝が……」

「このことは後日王宮に、さあ早く彼に謝罪して不当な暴力はしないと誓ってください」

「フ……フフ……」

 だが雇い主は低く笑い声をあげた。

「何がアカネイアの王子だ。アカネイアは屍に襲われ巨竜に潰されボロボロだ。あんたはただの無頼なんだよ。ああ気分が悪い。まだ半獣を買う金はあるしこいつはもう殺しちまおう。おい、ちょっとむごい死に方するが恨むならそこの王子様を恨むんだな」

「ひっ、た、助けて」

 兎耳の下男は人々に助けを求めるがみな止める様子はない。

 雇い主は下男の腕をわしづかみにしカイルに勝ち誇る。

「元王子ならわかるだろうがあんただって馬が走れなくなったら処分するだろう? それと同じさ、獣の耳が生えたこいつらは人間じゃねえ。半獣だ。俺たち人間の役に立つことしか価値がない家畜だ」

「てめぇ!」

「違う! 彼らは人だ。彼らは僕たちで違うのは耳の形だけだ。僕たちと同じように考え、痛み、行動する。彼らは僕たちと同じ人間なんだ」

 それはかつて始めてラグズを見たカイルにアイクが言ったのと同じ、そして幼いころユリナが彼に言い聞かせたことと同じ言葉だった。

「こいつらが人だぁ? あんた王宮より医療施設に向かった方がいいんじゃねぇか」

 これだけ言ってもまだ凄む雇い主だったが、

「レイ!」

 ガッ!

 バタ!

 突然現れた女に蹴り飛ばされて雇い主は樽に衝突し気を失った。

 その女も下男同様薄い鎧と最低限の毛皮しか着ておらず兎耳が生えている。

「レイ! もう大丈夫だ。あんたは速くこの街から逃げろ」

「ベルモット! あ、ありがとう、でも」

 何か言おうとするレイに気付かずベルモットはカイルを睨み続ける。

「ニンゲンどもが! 同胞の仇だ。一人でも多く仇を取ってからずらかってやる」

 そう言ってベルモットは兎に化身した。

「!」

「ガァァァ!」

 ズドン!

「カイル!」「カイル様!」

 カイルは吹き飛びルッツとカーシャが駆け寄る。

「まだ生きているか。ならこいつらごと」

 ここでレイがカイルたちとベルモットの間に割って入ってきた。

「待ってくれベルモット! こいつらはあの商人から俺を助けてくれたんだ」

「え?」

「お前たちそこで何をしている! 半獣!」

 そこへ騒ぎを聞きつけた衛兵たちが駆けつけてきた。

「半獣だ! 半獣が暴れているぞ!」

 野次馬は逃げながら衛兵に半獣をどうにかしろと訴える。

「なんだと! くっ一斉にかかるぞ」

 衛兵はベルモットに槍をむけた。

 ベルモットは兵に目を向け今にもとびかかりそうだった。

「やめろ! 彼女は仲間を助けようとしただけだ。僕たちとも和解している」

「カイル王子?」

 衛兵の隊長らしき男がカイルを見て驚く。

「ベルモットさん、化身を解いてください。後は僕たちから説明します」

「あっ? ああ」

 そこでベルモットは化身を説き人型に戻った。

「王子、よくぞご無事で。それで……これは一体?」

「はい。実は兎耳の彼らが今気絶しているあの商人から虐待をされていたのです」

「な、なんですと?」

 隊長は驚くがカイルは厳しく聞く。

「この街では公然と彼らを奴隷として酷使しているようですがあなたはご存じなかったのですか?」

 カイルの詰問に隊長は慌てる。

「い、いえ少なくとも私は存じませんでした。」

「んなわけねえだろう。ここまで大っぴらに奴隷扱いされて衛兵の一人が気付かないなんてことあるもんか」

「本当に私は知らなかったのです。ただ……」

 ルッツの厳しい追及に隊長はバツが悪そうに話す。

「半……獣耳の移住者が人ならざる者だと気づいてからこの国で彼らを差別する風習は生まれました。それも……アカネイアで悲劇が起こり民が不安に駆られている最中に」

「……」

 カイルたちやベルモットの厳しい視線にさらされながらも隊長は続ける。

「彼らがラグズだという種族だということも……彼らへの迫害をやめるように解放令がジェルド執政から公布されたのもつい最近のことです。彼らを差別する兵もまだまだ多い」

「ラグズ?」

 そう隊長が話すと兵たちは後ろ暗そうに目をそらした。それを横目にベルモットは隊長の言葉に疑問を持つ。

「何はともあれこの街で酷使されているラグズや愛玩動物と称して監禁されているラグズもいるようです。執政からの解放令が出たのならすぐに捜索を、僕たちはジェルド殿に言って他の町でもこんなことが起きていないか確認を要求するつもりです」

「は、はい。すぐに手配を、お前たち! その商人を詰め所に連行して捜査の準備だ」

「はっ!」

 

 

 

 

 

 兵を率いて隊長が去って行ったあとレイを医療施設に連れていきカイルたちはようやくベルモットと落ち着くことができた。

「これでレイさんもこの街から逃げる必要はなくなったと思う」

「いや悪かったな。あんたたちもレイを殴った奴の仲間だと思ったんだよ」

 女はカイルに先の仕打ちを謝る。

「あんたもあの商人みたいなやつにこき使われてきたのか?」

「いや、貴族に愛玩用とか言われて部屋に閉じ込められてた。で解放令が出て新しい王様に見つからないように部屋を移す途中で貴族も使用人もぶん殴って逃げてきた。」

 ベルモットはルッツの問いにも気分を悪くせずあっけらかんと言った。

「でもこれでベルモットさんも追われずに済みますね。他のラグズの皆さんも早く解放されるといいんですけど」

「あっ! それだそれ」

「?」

 カーシャが何気なく言った言葉に女は反応した。

「ラグズって異大陸から来た連中のことだろう? 私たちは生まれながらずっとこの大陸に住んでたんだ。一緒にされては困る」

「ええっ?」

「私たちの名は「タグエル」。私はタグエルのベルモットだ」

「タグエル……失礼しました。どの文献にもタグエルのことが書いてあるものがなくて」

 カイルの謝罪にもベルモットは手を振って許す。

「それは無理もない。タグエルは1600年も前から人から姿を隠していたからね」

「1600……アカネイア聖王国が建国された時代ですね」

 ベルモットの語る数字を聞いてカーシャは学んだ歴史の記憶を手繰り寄せる。

「そうなのか? 私たちの先祖はそれ以前も隠れ里に住んでたまに人と出くわすぐらいだったんだがある盗賊が現れてから完全に人に見つからないところに移り住んだ」

「盗賊?」

 人前に出てこないタグエルを捕まえて売ろうとする盗賊は出てくるだろう。だが住処を変え1600年も人に見つかるまいと息をひそめるくらいにタグエルを追い詰める盗賊と言われてもカイルは想像ができなかった。

「ああ、そいつは一生かかっても使いきれない大金と強い武器で軍隊を作り多くの国を滅ぼした。その際妖狐やガルーって種族は虐殺され絶滅した。……まあひょっとしたら妖狐は白夜って国の人たちと一緒に逃げたのかもしれないけど」

「……?」

 ベルモットから多くの言葉を聞かされるがどれも初めて聞く言葉ばかりだった。それに国をいくつも滅ぼすほどの盗賊がアカネイア大陸にいたなんてにわかには信じられない。アカネイア聖王国に征伐されたのだろうか?

「今までタグエルを誰一人見つけられなかったんだが、異大陸からタグエルみたいな耳と変身能力を持った奴らが移住してきて喜びのあまり彼らと接触を図ったらそいつらはすでに人間たちに正体がばれててそれから奴隷扱いさ」

「そうだったんですか。つらかったでしょう」

「ああ、だけど私たちを人間と同じだって言ってくれる奴が現れるなんてね。ありがとよ」

「いえ、友達と……母の受け売りです」

「……さてこれで里に帰れると言いたいが……あんたどこかの国の王子様だってね?」

「はい。アカネイア王国の王子カイルです」

「あの竜をどうするつもりだ?」

「竜……ギムレーのいる大陸にある国の許可が取れ次第その大陸に向かうつもりです」

 そこでベルモットはいくつか数えるほどの間をおいてこう言ってきた。

「よし! 私もお前たちについていこう」

「ええ? でもすごく危険ですよ」

 ベルモットの提案をカーシャは反対する。

「だからこそだ。自由になれた以上タグエルを脅かす輩を倒してやらないとね。あんたたちタグエルの強さを知らないだろう」

 カイルたちは顔を見合わせるが答えは同じようだ。

 放っておけばペレジアの軍に参加しかねない。その軍ではまだラグズやタグエルに差別意識を持っているものも多いだろう。

 軍隊の中で差別されている兵は捨て駒として見捨てられたり悪い時は味方から殺されることもありうる。ならば自分たちの近くに置いておいた方が安心だ。

 それに獣の特性を持つタグエルの強さはアイク傭兵団でラグズと共闘したときの経験と先ほどの戦いで察しがついている。

「わかりました。よろしくお願いしますベルモットさん」

「さんも敬語もいらない。よろしくな」

「じゃあベルモット、王宮に向かう前に服を買いに行きましょう」

 カーシャの勧めにベルモットは首をかしげる。

「服だって? いやだ」

「ええ? だってそんな恰好のままじゃ…お金ならカイル様が出すから。ね、カイル様」

「ああ。もちろんだ」

 断られるとは思いもよらずカイルにたかってまでカーシャは粘る。

「人間が何を着ようと勝手だが、私にまで押し付けるな。本来タグエルは服なんて動きづらいの着ないんだぞ。この鎧だって乳房を隠して人間が劣情しないように身に着けているものだ」

「ええーー!」

 とうとう驚きをこらえられなくなったカーシャの驚愕の声が街中にこだました。

 

 

 

 

 

 ベルモット クラス:タグエル

 「覚醒」のベルベットの先祖。

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