ファイアーエムブレム 聖痕の覚醒   作:ヒアデス

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第26話 皇帝との会談

 ヴァルム帝国からアルバレア王国とイストリア王国に臣従を求める最後通牒が届いて1週間後、2国から返事が届いた。

 イストリアからの返事は皇帝ファルスの予想通り「イストリアの独立は初代王アルム一世が承認したもの。千年経って撤回される道理はない」とのことだったが、アルバレアからの内容は想定外のものだった。

「我が国の建国の経緯から貴殿に対して主従の誓いを交わすことはできない。だが貴国との関係は戦争など起こさずとも解決できるものだと思う。ついては和平のために皇帝と会談の場を設けたい。ただし代理ではなく対外政策の決定権を持つ皇帝自らおいでいただきたい。なおこの会談には双方の仲裁役としてアカネイア王国のカイル王子殿下をお招きしている」

 最後通牒とは外交において最後に取れる交渉であり、これを断れば戦争を起こすという決意表明だ。その通牒を出した後に会談を行うなど前代未聞だ。通牒の了承でもない限り。

 しかしファルスはこの会談に応じることにした。

 事前にドルマ王国を取り込んでかの国にイストリアを攻めさせ、ヴァルムはアルバレアを攻める。ソンシンが参加する前に。その作戦の最中に異大陸から異国が参戦してこられては困る。

 斥候の情報からアカネイア大陸から少数の軍が渡ってイストリアやアルバレアに駐在しているのは耳にしている。ただし費用がかかり過ぎるためアカネイア大陸には斥候を放っていない。実は自分が知らない伏兵がひそかにヴァルム大陸に渡っているかもしれないと言われると否定できない。

 アカネイアの王子に探りを入れ場合によっては次の戦にソンシンが加わることを覚悟で開戦を延ばすことも視野に入れよう。そんな意図でファルスは会談に応じる手紙を送り、相手からの返答を待った。

 その間ヴァルムが動かない以上ドルマも戦争を始めるわけにはいかず最後通牒送付から数週間、アルバレアとイストリアは戦争に備えて準備を進めていた。

 

 

 

 

 

 ファルスは親衛隊を主とした一団を率いてアルバレア王子ユーリとの会談場所である国境近くのヴァルム平野へ歩を進めていた。親衛隊だけでなくファルスも馬に騎乗している。

 馬車に乗らないのは武勇が衰えていないことを示すことと、彼が退屈な馬車の中を好まず馬に乗っている方がましだという理由だった。

 ファルスはふと会談場所の方を見た。

「む?」

 そこでファルスは場所近くの空を舞う騎影に気付いた。

「陛下、いかがなされ…あれは?」

 側近の兵士もファルスの見る方向を見て騎影に気付く。

「もしやアルバレアの天馬……いかがいたします?」

「撃ち落とすわけにもいかんだろう。我はユーリとの会談に応じたのだぞ。布告もなしに攻撃を仕掛ける卑怯者の汚名を被せる気か」

「ははっ! 申し訳ありません」

 ヒヒン!

 兵士は馬上にもかかわらず頭を深く下げそのせいで馬がいななく。

「誰か双眼鏡を貸せ」

「はっ! 陛下が双眼鏡をご所望だ。早く持ってこい」

 ファルスの命令に応じた側近は辺り一面に響く声で輸送隊にまで聞こえるように命じる。間も開けず皇帝を待たせまいと輸送隊員より早く双眼鏡を持っていた兵士が目的のものをファルスに渡す。

「どうぞ!」「うむ」

 双眼鏡をのぞき込んだファルスが目にしたのは天馬騎士だった。

 赤い髪を短く切りそろえた自分より1つか2つ年上だろう少女。容姿は整っているが戦場に出てくるだけあって飾り気はなく、社交界で着飾った令嬢や宴の際に宮殿にやってくる踊り子の方が華やかなくらいだがなぜかあの女騎士の顔から目が離せない。

「陛下……いかがでしょう?」

「…………」

「陛下!」

「ど、どうした?」

 側近が少し声をあげてファルスに呼びかけるとファルスは慌ててうなずいた。

「い、いえその……あの天馬騎士、陛下に害意のあるものでしょうか?」

「い、いや……武器は持っているかもしれんが構えてはおらんな。我が来ぬか偵察させているのであろう」

 兵士に尋ねられファルスは女の腰あたりに視点を変えて答える。

「はっ。ではこのまま行軍を」

「うむ。…絶対にあの天馬騎士を撃ち落としてはならぬぞ」

「はぁ…」

 ファルスはこのときなぜかあの騎士を落とすなと再度釘を刺した。いつもなら兵士を謝らせてまで言付けたことは覚えて当然とばかりに二度は言わないのに。疑問を感じながらも側近はファルスに手を差し出す。

「な、なんだ。褒美でも欲しいのか?」

 多少の金を渡せばもう側近に邪魔されないだろうか。そう思いながらファルスは誰かに金品を出すように命じようとするがファルスの内心を知らない側近は否定する。

「い、いえ、これ以上陛下のお手を煩わせるわけにはいきません。双眼鏡をお持ちしましょう」

「あ……ああ。すまぬな」

 ファルスは側近に双眼鏡を渡す。名残惜しそうに。

(ほお、珍しいものだ。あの天馬騎士、よほど陛下の目にかなったと見える)

 そんなファルスと側近の様子をすぐ後ろで見ていた金髪の騎士がそんな風に思う。

 ヴァルム皇帝直属の親衛隊員ジーン。代々騎士を輩出した家系に生まれ初代王アルムを皇帝とする歴史に疑問を覚えながらも実力を磨き軍に入り、ファルスに稽古をつけた経験もあるほどの実力を見込まれ先帝のころから親衛隊に所属していたヴァルム軍の若き将軍である。

 

 

 

 

 

「……また進み始めたわね」

 ヴァルム皇帝の一団らしき軍影の再行進を確認したカーシャは眼下の天幕の前に着陸する。アルバレアの王族がいることを示すために天幕内と周囲にきらびやかな飾り物がつけられている天幕だ。

「あっ! やっと戻ってきた。カーシャ!」

 下りてきたカーシャの元にカイルが駆け寄る。カーシャはカイルの方に向かい手を後ろに組んで報告する。

「カイル様! ヴァルム皇帝らしき一団を確認しました。一度停止しましたがまた行軍を始めた模様です」

「模様です……じゃない! 何度呼んだと思っているんだ! 撃ち落とされるんじゃないかと心配したんだぞ!」

「……ご心配おかけして申し訳ありません」

 怒るカイルにやや不服そうに謝るカーシャ。前回の活躍で自信をつけ天馬の扱いに関しては右に出る者はいないとユーリからも太鼓判を押されますます張り切っているようだ。弓ぐらいかわせばいいと思っている様子が見て取れる。調子に乗って危ないことにならなければいいが。そんなカイルの心配をよそにユーリが歩み寄ってくる。

「カイル殿、ファルスが来る前にそろそろ打ち合わせを始めませんか」

「あっ! そうですね。では天幕へまいりましょう」

「……むぅ、大丈夫なのに」

 カイルとユーリが天幕に入るとカーシャも一言ぼやいてからルッツたちの元へ戻った。彼らはお付きとしてカイルに同行しているがイストリア王と会見したときと同様皇帝との面会に伴うにはふさわしくないとされほとんど待機を命じられている。

 さっきの見回りも一団の中で唯一天馬を扱える自分なら皇帝たちの様子を確かめられるとカイルの反対を押し切ってユーリにごり押ししたことだ。

 

 

 

 

 

「ファルス皇帝陛下がいらっしゃいました」

 半刻ほどたってファルスの到着を知らせに兵がカイルとユーリのいる天幕に声をかける。

「ああ、お迎えに行こう。カイル殿はここに」

「その必要はない」

 そこへ少年の声がした。周りから止める声がかかる。

 周りに構わず黒い鎧を着た赤い髪の少年が天幕の入り口をまくり入ってきた。

「これはこれは。御自ら来られなくともわたくしがお迎えに行こうと思っていましたのに」

「よい。うぬがこんな派手な天幕以外のどこにいようというのだ。案内などいらん」

 立ち上がり声をかけるユーリに憎まれ口をたたいた後少年は少し天幕の周りを見回した。

「ご心配せずとも暗殺など企んでおりませんよ。そんなことをすれば戦争を止められる者がいなくなってしまう」

「ふ、ふん。うぬの派手な趣味に呆れていただけだ」

 また憎まれ口をたたいた後少年はなぜか残念なような安堵したような様子で息をついた。

「……あのユーリ様。失礼ですがもしやこのお方が?」

 卓で二人を見守っていたカイルがユーリに尋ねる。

「ええ。この方がヴァルム帝国皇帝ファルス様です」

 カイルに対してユーリはファルスを紹介した。

「この方が…」

 初めてみるヴァルム皇帝ファルスの若さにカイルは驚いた。

 自分がこれまで会った王というのはユベンのような高齢の王もいればアイネやジェルドのように3・40代の王もいる。最年少だったリョウヤも20代半ばでおまけに彼は王というより村のまとめ役と言った方が近い。

 だがこの少年はユーリやリョウヤより一回り若くおそらくカイルに近い、いやいくらか年が下ぐらいだろう。

 ユーリが小童と呼んでいるのを聞いていてもユーリやリョウヤに近い年だと思っていた。

「ファルス様紹介しましょう。この方が…」

「いえユーリ様。ここは私が」

 戸惑いから帰ってきたカイルは自分も立ち上がってユーリを制しファルスに向かって胸に手を当てながら

「アカネイア王国の王子カイルです。本日は国王代理としても参りました。本日はお二人の仲を取り持つお手伝いが出来れば幸いです」

 カイルの自己紹介をファルスは腕を組み勝手に椅子に座って流した。

「代理か……我には代理を立てることも許さず自ら来いと言っておきながら」

 そう言ってファルスはユーリをにらみつける。ユーリはただ笑みを浮かべるだけだった。彼に代わりカイルは自ら説明することにする。

「ファルス殿。実は我が国の国王は…」

「死んだのであろう。」

「え? ……」

「竜に押しつぶされて……無念な最期であったろうな」

 ファルスはクロスの死を知っていて本当に無念そうな表情で彼を偲んだ。

「知っていたのですか?」

「ヴァルムがアカネイア大陸に対して物の売買のみにうつつを抜かしてると思うでない。情報も入れておる。さっきの文句はそこの派手趣味に対してだ。まあ代理など派遣しても開戦の中止など我が認めるはずがないと思っての事だろうがな」

 派手趣味もといユーリは肩をすくめる。

「あの……僕の両親のことを残念に思っていただいてるんですか?」

 カイルは一人称を直すことも忘れファルスに問う。

「うむ。7つの国に分かれていたアカネイア大陸を統一するというアルム以上の困難をなし遂げた英雄王マルスと彼の版図を維持したうぬの父君までの祖先に我は敬意を抱いておる」

「……ありがとうございます」

 尊大でしかないと思っていたファルスの思わぬ一面にカイルは感動し、彼に感謝の述べ頭を垂れた。

 だがここでファルスは尊大な性格を取り戻す。

「だがうぬに対しては別だ。みすみす国を分けられおって。あの竜に都を滅ぼされたのは仕方がない。だがうぬがクロス殿たちに並ぶ傑物なら生き残った民をまとめて国を立て直して見せねばならんのではないか?」

「な……?」

 顔を蒼白にするカイルへファルスの罵倒は続く。

「それが国を立て直すどころか蛮族や家臣に広大な地域を切り取られる始末。うぬは英雄王どころか父の足元にも及ばん。国王代理などおこがましい。そんな体たらくで仲裁役など務まるのか?」

「ぐぅ……」

 ファルスの暴言をカイルは拳を握って耐える。そこへ――

「しかしクロス様の足下に及ばないその王子の呼びかけでアカネイア大陸の国々に動かれて困るのはあなたでは? ファルス殿。でなければ最後通牒の後の会談など降伏を表明するものでもない限りあなたが受け入れるわけがない」

「む……」

「ユーリ様?」

 ユーリの言葉に痛いところを突かれファルスは押し黙り、カイルは思わぬ助けに驚いた。

「それにファルス殿の言い方ではあなたの祖先も英雄王やクロス様に及ばない凡百ということになってしまいますね。千年どころか百年足らずで国を割ったのはどこの皇帝でしたか?」

「ヴァルムだ。聖帝アルムが築いた帝国を割ったうつけどもはヴァルムの皇帝で忌々しいことに我の祖先だ」

 ユーリの問いかけにファルスは激情で顔をゆがめながら自身の祖先を罵倒した。

「ファルス殿……」

 本当にファルスは父がユーリに殺されたことなど恨んでいないのかもしれない。むしろ憎んでいるのは国を割った祖先やユーリに敗れた父。

 先ほどの憤りも忘れカイルはそんなファルスを見ていた。

「……ああそうだな。うつけな祖先どもはそこのアカネイア王子と同じ。いや臣従どころか敵対している有様では王子以下の愚物だろう」

「で、ではこれを機会にユーリ様やイストリア王と友誼を結び、いずれは同盟を……」

 ファルスのこぼした愚痴を聞いて彼を和平に誘える気がしてカイルはファルスに同盟を勧める。しかしファルスは首を振った。

「ならん。大陸再統一は我がアルムに並ぶ唯一の手段だ。我はうぬと並びたいのではない。アルムやうぬの祖先マルスを超えたいのだ」

「……くっ」

 和平への期待を裏切られたカイルの表情が曇る。

「我を祖先どもやうぬと同じ愚物と笑うか? フハハ! 好きにするがいい。だが我はいずれヴァルム大陸を統一しこの大陸やうぬの大陸……いやそれ以外の大陸にも聖帝アルムに並ぶ覇王として名を残してやろうぞ」

「始祖に並ぶことと歴史に名を残すことがそんなに大切なことなのですか?」

 ファルスの目的はカイルからしたらあまりに無価値なことだ。カイルは思わず声を荒げる。

「うぬにはわかるまい。領土を蛮族や臣下だった者に譲り、残された領地で満足しているうぬには」

「……ファルス皇帝、あなたは!」

 怒声をあげる寸前のカイルにファルスは気分を害するどころか愉快そうに笑みを浮かべる。

「なぁカイル殿? うぬの目的は我が国とドルマにあの黒ローブどもがいないか調べることだろう。確かに戦争中はもちろん調べることなどできぬし、戦争が終わった後ではあやつらに逃げられるだろう。ではこれならどうだろう? 此度の戦の開戦をしばらく延ばしてやる。その間うぬらに我ら2国を調べる許可を与えよう。連中を見つけた時の処遇は任せる。それが済めばこの大陸に干渉する利点はなくなるはずだ。後は速やかに帰国するがいい」

「……」

 ファルスの言う通り、これなら北部2国を調べられヴァルム大陸で戦争が起きてもアカネイア諸国は巻き込まれずに済む。

 それでも虚栄心から他国を侵略しようとする皇帝にカイルは何か言おうと言葉を探すがそんなカイルの肩にユーリは手を置いた。

「カイル殿もう結構です。ファルスがこれ以上引き下がらない男だということは私がよく知っています。それでもこの会談にあなたが加わってくださったおかげで開戦は遅れ我々はいざというときの備えをする時間をとることができた。期待以上の成果です。お疲れ様でしたカイル王子」

「ユーリ様……申し訳ありません」

 開戦は止められたが近いうちに戦争は起こるだろう。いたたまれない気持ちでカイルは天幕を出ようと踵を返したときだった。

「おいカイル、ユーリ! 人参が切れたぞ。残りの人参はどこにある?」

「駄目だってば。戻りなさいベルモット!」

「あっ、カイル! 戻るならベルモット引っ張るの手伝ってくれよ」

 人参を求めてユーリたちのいる天幕に飛び込もうとしていたベルモットとそれを止めようとしているカーシャとルッツだ。

「ベルモット? カーシャとルッツも」

「おやおや」

「む……?」

 ベルモットたちの登場にカイルたち3人は3者3様の反応を見せた。

「も、申し訳ありません。私の臣下です。教育を施す暇がなくてすぐに下がらせますのでどうかお許しを」

 招かれざる訪問者に驚くユーリとファルスにカイルは謝罪するが

「臣下だと? そこの兎耳をつけた者のことだよな?」

「は、はい。臣下のご無礼平にご容赦ください」

 カイルの謝罪に構わずファルスは問いを続ける。

「で、では……そこの赤髪の女は? そやつはユーリの家臣か?」

「いいえ、カイル殿が連れてきたお付きの従騎士です。……ファルス、あなたまさか」

 ユーリは説明しながらファルスの反応から何かを察したようだ。カイルは気付かず三人を紹介した方がいいと判断する。

「え、えっと3人とも私の側付きの家臣です……」

 チラ。

 カイルの目線を受けて3人は自己紹介を始める。

「アカネイアから来た…来ました。ルッツです」

「タグエルのベルモットだ」

「カイル王子のお付きをしております天馬騎士見習いのカーシャと申します」

 ファルスは前の二人の言葉を聞き流しカーシャの自己紹介を胸に刻んだ。

「カーシャ……カーシャ殿か」

「……」

 小声でカーシャの言葉を反芻するファルスをユーリは半目で見つめる。

「な、何だユーリ!」

「いえいえ、ファルス殿もそういうお年頃かと」

 ユーリはニヤニヤしながら手を振って見せる。

「ぐっ……ふん! そうか。カーシャ殿はアカネイア王子の付き人か」

「は、はい。……あの?」

 なぜか苛立ちを見せながら自分を睨むファルスにカイルはたじろいだ。

「……何でもない。兎娘の無礼は許す。我はユーリと今後の話を済ませる故家臣とともに退出するがよい」

「は……はい」

 戦を止めることができない無念を思い出しうつむくカイルにファルスは――

「開戦を延ばすという約束は守る。安心せよ。うぬらとは良い関係を築きたくなったからな」

「あ……ありがとうございます。ファルス殿」

 戦争を止めることはできなかったがひとまずの平穏を守ることはできたらしい。複雑な思いでユーリとファルスを残しカイルは天幕を出ていく。

 だがその盟約も翌日に破棄されたことになる。

 

 

 

 

 

 パカラパカラ。

 ユーリとカイルとの会談を終えたファルスの一団が皇宮へ戻る道中。

 シュ!

「陛下!」

 キィン!

 一団の背後から突然流れてきた弓矢を親衛隊の一人ジーンが剣ではじく。

「陛下。ご無事ですか?」

「う、うむ。見てのとおり怪我ひとつない。うぬのおかげだ。大儀であるぞ」

 そう言いながらもファルスはすでに剣を抜いていた。ジーンが防がなくても自力で対処できたらしい。

「あの丘から放たれたぞ! 誰か追え! 追え!」

 パカッ!パカッ!パカッ!

 ファルスの側近は下手人を捕らえるべく兵に命令を下し弓を拾う。

「……これは! アルバレアめ。和平を望んでいると言っておきながら陛下のお命を」

 側近は弓矢がアルバレア王国製の物だと気付き怒りの声をあげる。

「アルバレア……ユーリが?」

 側近の報告にファルスは眉をひそめしばらく沈黙した後。

「……ほう。戦争が避けられぬならば帝国の力を削ぐべく我の命を狙うか。…フハハハハ! 皆、これがアルバレアの返事らしい。皇宮へ急ぐぞ。到着次第戦の準備をする。敵はアルバレアとアカネイアだ!」

 オオオオオオオオオ!

 ファルスの号令に一団が歓声をあげる中ジーンは一人思案していた。

(劣勢のアルバレアがこんな無謀な真似を? おかしい。それになぜ陛下も疑わない。ユーリ王子のことは陛下がよく知っているはずなのに)

 

 

 

 

 

 ファルスへの襲撃にやや遅れてソフィアの森で。

 シュ!

「ユーリ様!」

 キィン!

 ユーリに放たれた矢をカイルがはじく。

 ユーリは剣を抜いており助けがなくとも対処できたようだ。

「あの木の裏だ」「追え!」

 兵士が件の木へ殺到するも。

「くそっ! 逃がしたか」

 そこにはもう誰もいなかった。

 足音も聞こえないためどうやって姿を消したのか誰にもわからなかった。

「ベルモット!」

 フルフル。

 カイルはベルモットに聞こうとするも彼女も相手の気配を掴めずにいるらしい。

「この矢は……これはヴァルム製の!」

 兵士が矢を拾いそれがヴァルム帝国で製造され使われる矢だと気づく。

「ユーリ様、これは?」

 カイルは真犯人に気付きユーリも気付いてるか確かめようとする。

「おそらく教団の仕業でしょうね。ですが……」

 ユーリは兵たちの方を見る。

「ヴァルムの偽帝め! 開戦を遅らせると言いながらこんな卑怯な手を」「戦争上等! 逆にヴァルムを侵略してやるよ!」

 ユーリはカイルの方に顔を戻し首を振る。

「教団を知らない兵たちは信じないでしょうね。父上にまで話が行けば私でも止められない」

「そんな……」

 どうにかつかの間の平穏だけは守れたと思ったカイルは突然の出来事とアルバレアの兵士たちの気迫に打ちひしがれた。

 

 ヴァルム大陸北部某所。

 ブォン!

「どうだった? クライネ」

「すべて教皇様の仰せのままに」

 転移して戻ってきたクライネをクラウディウスが立ち上がって迎える。

 ユーリとファルスに放たれた弓矢はクライネが放ったものだった。場所は兵士の目撃通りの場所。だがクライネには転移で逃げるくらいわけがない。

 魔女であるクライネは弓を扱えない。数日練習して標的の近くに矢を放つくらいのことができるようになっただけだ。だが狙いを定められたとしてもユーリとファルスを仕留められたとは思えない。仕留めることが出来ればなお好都合。

「まさかギムレーを害することができる剣がこの大陸にもあったとはな。すぐにでもギムレーにヴァルムを襲わせたいところだが念を入れて、各国と戦わせ疲弊してもらおう」

 

 

 

 

 

 その半週後ヴァルム帝国からアルバレア王国へ宣戦布告の書状が届く。書状は2通あり1通はアルバレアへの宣戦布告。もう1通はアカネイア王国への宣戦布告だった。

 

 

 

 

 

 ジーン クラス:ゴールドナイト

 「外伝」のジークとティータの子孫。ヴァルム帝国親衛隊に所属する将軍。凄まじい強さの武将でファルスより強いのではという噂もある。

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