ファイアーエムブレム 聖痕の覚醒   作:ヒアデス

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第33話 コマンド

 深夜、ヴァルム皇宮・皇帝の執務室。

 皇帝ファルスは夜も眠らず思案していた。

 ソンシンへ派遣したはずの使者を連れてソンシン軍がアルバレア軍と交戦している戦場に乱入してきたのだ。使者は乱入前に解放され戦闘中の間に皇宮に戻り皇帝にソンシンの布告受領を報告した。

 アルバレアとソンシンそしてアカネイアの共闘で帝都南の砦は陥落し、彼らは帝都を窺う地点まで来ている。

 だがソンシンに非はない。彼らはヴァルムからの宣戦布告を受理したうえで戦に臨みに来たのだ。ヴァルムとソンシンの国力に圧倒的な開きがある以上同じくヴァルムと交戦している国と協力するのは当然のこと。

 だが数の上では依然ヴァルムの方が優勢だ。籠城してしまえば彼らは手を出せない。ヴァルムの勝利は覆らない。

 とはいかない。攻城戦が行われている間。民は帝都から出られないうえ、いつ敵国が攻め込んで来やしないかとおびえながら暮らす羽目になる。

 間が悪いことにカーシャとの会食を打ち切ってまで聞いた報告によればイストリア軍はドルマ王宮を包囲しているそうだ。

 チャルロスは自信過剰だが有能な軍師だ。同程度の兵力のイストリアを落とすことはできると思って派遣したのだが、アカネイアの傭兵団は戦力、智謀いずれかにおいて傭兵団はドルマ軍やチャルロスを凌ぐものを持っていたのか。完全にファルスの想定外の事態だった。ドルマの援軍は期待できない。

 アルバレア王子ユーリを噂でしか知らない民にとって、噂でどう言われていようが所詮王や貴族、民草など金品や食料を搾取するものとしか捉えていないに違いない。ましてや自分が治めるわけではない他国の民など明日飢え死にしようとも。

 そんな恐怖が不満となり、妾腹のファルスを打倒しようとしている有力貴族が民をまとめて反乱を起こす可能性は十分高い。ユーリもそれを腹案に入れているのではないか。

 籠城戦に持ち込めば敵軍だけなら必ず勝てる。しかし内から敵が出てくることを考えれば早急に敵の包囲を切り崩す必要があった。

「我が嫡子であれば構えていられたものを……だが悪くない。この一戦でヴァルムとアルバレアのどちらが滅ぶか決まる。……明日は総力戦となるな」

 

 

 

 

 

 ファルスがそんな決意を固めていた頃。

「カーシャ様、足元にお気をつけを」

 同行者に続いてカーシャが窓から身を投げ出す。

 ドスン!

 1階なのでカーシャは問題なく着地できた。

 着地の衝撃でスカートがめくれ上がっていないだろうか。それを気にしてカーシャはスカートを直す。

 今カーシャは同行者に渡された天馬騎士の騎士服を着ている。夜とは言えさっきまで来ていたネグリジェでは目撃されたときに怪しいと思われるだろう。

 カーシャを連れだしたのはティーナという女性のバレンシア司教だと思われた。

 同行しているのは女性、なのになぜカーシャは素早くスカートを直したのだろうか。それは――

「司祭が真夜中に外を歩き回っているのは不自然です。そろそろ変身とやらを解いたらどうですか」

 カーシャの忠告にティーナは肩をすくめる。

「ノリが悪いねぇ。もう少し捕らわれの間に知り合った友達として仲良くしたいと思っていたのに」

「今度捕まったら皇帝は私を見張り以外の誰とも会わせようとしないでしょう。早く変身を解いてカイル様たちのところへ帰りますよ。チェイニーさん!」

 カーシャにそう言われたティーナは腕を頭の後ろに組み、男のような声色で返事した。

「…へいへい」

 そして金髪の聖女?は瞬く間に赤毛の若者の姿になった。どういう現象が働いたのか服まで変わっている。

「まぁ捕虜にあそこまで贅沢させるんだ。その皇帝って奴ならそこまでやるだろうな。……いやぁあんた化粧っ気もないのにモテるねぇ。今度着飾ってカイルをデートに誘ってみろよ。カイルなら即答で応じるぜ」

 ティーナに成りすましていた時と違いあまりに軽いチェイニーの振る舞いにカーシャは頭を抱えた。

「高潔な聖職者だと思っていた人がこんな軽い男だったなんて……念のため距離を取っておいて正解ね」

 改まって振り返ってみればティーナだと思っていた人は教誨の度に一度は恋愛話を持ち掛けてきた。

 誰々を好きかなどの他愛ないものばかりだが話の方向性によっては正体を明かしたときに握り拳で殴っていただろう。

 ちなみにティーナ司教は実在している人物で、チェイニー扮する偽ティーナが教誨に赴いている間は聖堂ぐるみで内部にかくまわれ、カーシャ救出が行われている現在はノーヴァ教国に帰国している。

「さあ出口に案内してください! まさか城門から出るとは言いませんよね。私はそれ以外の通り道を知りません」

「おう、こっちの城壁に隙間が空いてる部分がある。戦争中で修復する余裕がないんだろう。急ぐぜ」

 カーシャの言う通りにチェイニーは出入りできる隙間があるらしい方向の城壁を示し先を歩く。

 

 

 

 

 

 そうしてカーシャとチェイニーは件の城壁に辿り着くとそこには――

「やはりここから出入りしていたんですか司教様いえ……神竜チェイニー様」

 フェイスが待っていた。確認している暇はなかったが先ほどまでカーシャの部屋を守りチェイニーに昏倒された兵士はフェイスではなかったらしい。

 だが彼女は休息中の時間にも関わらず皇宮敷地内の人気のない庭園の隅にいた。それも甲冑を身にまとって、

 カーシャは一歩下がる。服は渡されたものの武器はまだ持っていない。

 二人を鋭く睨むフェイスにチェイニーは片手を上げて声をかける。

「よぉ、あんたがキットの言ってた「間者のような信徒」かい? あんたがキットに報告してくれた内容のおかげでそこの天馬騎士さんが不自由な思いをしていないって聞いてカイルたちも安心していたぜ。ありがとよ」

「ええ? フェイスさんが間者?」

 あまりの突然もたらされた事実にカーシャは仰天する。

「ええ、我が家はバレンシア教の大地母神ミラを信仰しています。私も幼いころからシスターになるように言われ続けてきましたが、千年前の解放戦争で伝説の女騎士とその名をはせたマチルダ様に憧れ帝国軍への門をたたきました。それを認める代わりにノーヴァ教国が遣わしたシスターを通して帝国や皇帝の動向を教国に報告することを実家から言いつけられています。そして今回はティーナ司教に成りすますチェイニー様の手助けも…」

「いや本当に感謝してます。あんたにゃ足向けて寝られないな。あはは」

 チェイニーの軽口にもフェイスは表情を緩めずチェイニーも気を許しているような言葉とは裏腹にそこから一歩も動いていない。

「そうだったの。それなら心強いわ。フェイス! 私たちと一緒に…」

 ブォン!

 カーシャの声を遮りフェイスは槍をむける。

「ですがおそらくそれも最後です。私は実家とは違いミラ…そして邪神いえ戦神ドーマに疑念を持っています。聖王アルムに…人に敗れ戦を戒めるための予言も実行できない神に人はいつまですがっているのかと」

「予言?」

 聞きなれない言葉にカーシャは首をかしげる。

「「人が再び驕り高ぶるとき、新たなる戦乱の炎が地上を焼き尽くし全てが失われてしまうであろう」バレンシア大陸に伝わる人を戒めるための言い伝えさ。神が予言したのかどうかはともかく解放戦争後にそんな言葉がバレンシアの民の間でまことしやかに伝わっていたとされる。……今でも覚えてる奴がいたとは驚きだが」

 予言を知らないカーシャにチェイニーは助け舟を出しフェイスも黙って肯定する。

「ええ。神が言ったのか、それとも神にすべてを委ねていた人々が自戒をこめて自らそのような口伝を残したのかはわかりませんが……ですが平和は長続きしなかった。アルムの世継ぎが勝手に国の名を変えそれに反発した諸侯が彼から離れ大陸をバラバラにすることで!」

「……」

 悲痛な訴えにカーシャとチェイニーは絶句する。フェイスはそれでもなお続ける。

「前の過ちも忘れ人はすぐに驕り始めました。予言に沿えばその時点で人は焼き尽くされるべきでしょう。……ですが神は人を裁かない。千年間ずっと! そして今このヴァルムに大陸の統一に手をかけたファルスという男が現れた……この大陸はいずれ神に焼き尽くされるのか、それともファルスによって統一されるのか……私は見てみたい」

「だからファルスを試しているってわけか。ノーヴァに情報を与えながらファルスに仕えることで」

 口をはさんできたチェイニーにフェイスはうなずき、続けて言う。

「神を試そうとすることに対する神罰を恐れる気持ちはあります。まだ私は神を疑いながらも信仰を捨てきれない……ですのでチェイニー様、カーシャ様を返していただけないのならわたくしと勝負して頂きたい。今のバレンシア教が崇める神竜であるあなたと!」

 槍をむけ決闘を挑むフェイスにチェイニーは肩をすくめる。

「俺は神竜でもナーガやチキみたいな王族じゃない。その上竜石を捨てて竜になれない雑魚の中の雑魚だぜ。崇められてるなんて恐れ多い。神どころか踏み絵の価値すらない」

「結構です。人が神だと思ってきたものを討つ。棄教にはうってつけの試練です」

 そう言ってフェイスはチェイニーが戦いの準備を整えるのを待つ。不意打ちで討ち取ってもそれでは棄教する後押しにはならないと言うことだろう。

 フォン!

 チェイニーは瞬く間に金髪の聖女ティーナの姿になった。

『ひかりよ、てらせ… オーラ』

 あふれる光がフェイスを襲う。

 ズガン! ズガン! ズガン!

 だがフェイスはその光を難なく避けていく。

 グサ!

「…ぐ…いきなりかよ」

 ティーナの姿をしたチェイニーは刺されうめく。

「チェイニーさん!」

 だが急所は外したようでチェイニーは立ち続ける。

 フォン!

 チェイニーは今度は青髪のいかつい男の姿になり懐から斧を取り出す。

「今の二つの大陸じゃ槍を持ってる奴は斧に当たりやすくなってるんだってな。行くぜ!」

 ザン!

「ぐ……はぁ」

 斧がフェイスに当たるが彼女は動じずチェイニーに槍を振るう。

 ヒョイ!

「そして槍は斧使いに当たりにくい……おわ」

 ブン! ヒョイ!

 槍を躱されたことにも顔色一つ変えずフェイスは槍を振るい続ける。

「ならこっちも……おらぁ!」

 斧を持った拍子かそれともこの姿の原型となった男の掛け声なのか。

 ギン! ギン! ザク!

「ぐ……ふっ!」

 シュ! ギン! シュシュシュ!

 ギン! ザク! ザク!

 刃を交えるごとにフェイスの槍はチェイニーに当たっていく。

「ぐぉ……三すくみありで当ててくるかよ」

「……」

 ブォン! ギン! ザク! 

 フォン! ザン!

「ぐっ……」

 フェイスの槍はチェイニーの横腹を裂く。

 チェイニーは魔法を使ったり三すくみで有利な武器で当てやすい状況を作ろうとしていたが実力は完全にフェイスの方が勝っていたらしい。チェイニーは追い詰められていく。

(参ったな……ジーンや皇帝以外にこんな奴がいたなんて…わかっていればその二人と接触して変身できるようにしたんだが)

「チェイニーさん!」

「ここまでのようですね。そろそろとどめと行きましょう。……ご安心を、カーシャ様はお部屋までお届けするだけですので……今度は私がカーシャ様を四六時中見張っているような状況にされると思いますが」

 ブォン!

「やめて!」

 フェイスがチェイニーめがけて槍で刺し貫こうとした時カーシャが割って入る。

 ズシャァ!

「うぐ……」

「しまっ…カーシャ様!」

「カーシャ!」

 フェイスは慌てて槍を止めるも間に合わず先端がカーシャの腹に刺さる。

 ドサ!

 カーシャは立ち続けようとしたが叶わず足を崩しあおむけに倒れる。

「おい!しっかりしろ……」

 フォン!

 途端チェイニーはティーナの姿になり杖をかざす。

『かのものにおおいなるじひを リカバー』

 光がカーシャを包みカーシャの傷が癒えていく。その間フェイスはチェイニーの邪魔をすることは無かった。そしてカーシャは口を開く。

「……ねぇフェイス…伝説の女騎士…マチルダとはどんな人なの?」

「え?」

「……」

 ぎりぎり胸を外しリカバーをかけたものの一度急所をつかれたためカーシャの話し方はおぼつかない。それでもカーシャは澄んだ瞳でフェイスに問う。

「……美しく奥ゆかしいお方で…ですが見た目とは裏腹にすさまじい強さでリゲルの軍勢を打ち破ったそうです。……こんなことを皇帝の聞こえるところで言えば投獄は免れませんが強さだけならアルムを凌ぐと……私もそれを信じています」

「……マチルダは…誰かを助けに来た人を……痛めつけて殺してしまうような人かしら? …」

「そんなはずはありません!」

 カーシャの問いかけをフェイスは強く否定する。

「マチルダ様はソフィア宰相の圧政から人々を救うためクレーベ様と立ち上がり解放軍を設立した清廉なお方です。……そのような…神を捨てるためなどに……このような…」

 フェイスはそこでうなだれ自問する。

「…………私はマチルダ様に憧れ騎士になった。……なのにいつの間にか皇帝と神を試すことにとらわれ彼の侵略に加担した。……私はマチルダ様とは真逆の……ソフィア宰相のような輩に身を落としたようだ」

「フェイス……」

 フェイスはカーシャから離れ告げる。

「……カーシャ殿、最後に私の過ちを指摘してくれた礼に今だけは見逃してやろう。……行け! 惚れた女とは言え皇帝は一度逃げたお前を許さないだろう。カイル王子の元に戻っても戦場には出ないことだ。」

 そう言ってカーシャは庭園の方へ向かう。

「お前さんはそれでいいのかい?」

「え?」

 突然引き留めてきたチェイニーにフェイスは思わず振り返る。すでに変身は解け彼の姿は赤毛の少年だ。

「フェイスさんよ。あんたが憧れたマチルダって人はこんな戦争に巻き込まれる人々を助けるために立つような人だ。……一度道を踏み外したからと言って最後まで過ちを犯したままでいる気かい?」

「……何が言いたい?」

 フェイスは訝し気にチェイニーを睨む。そこでチェイニーはカーシャに目配せする。

「……そうよ。フェイス、あなたも一緒に来て! 私たちの目的はヴァルムを滅ぼすことではない。戦争を終わらせこの大陸から竜と教団を捜し出して倒したいだけなの。……伝説の騎士マチルダならどちらに与すると思う?」

「……ファルス皇帝の方…ではないだろうな少なくとも……わかった。これ以上祖国が過ちを犯すのは見過ごせん。……ただしアルバレアがヴァルムを蹂躙するならば私は再びヴァルム側につく。いいな!」

 強く言い放つフェイスにカーシャとチェルシーは強くうなずく。かくして三人は城壁の隙間を通って皇宮から脱出する。

 第一次ヴァルム大戦 決戦前夜の事だった。

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