ファイアーエムブレム 聖痕の覚醒   作:ヒアデス

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決戦前夜3 ペレジア2・商人たち2・ワーレン 

 ヴァルム皇宮で宴が行われている中ヴァルム兵と各国の下級兵はヴァルム帝都市街を見回っていた。

 100万以上の戦力差では考えにくいが、ヴァルム帝国が形勢逆転を狙って油断している各国軍に攻撃を仕掛ける可能性は皆無ではないし、ギムレーと屍が襲ってくるかもしれないため少なくない兵が帝都中を見張っていた。

 ペレジア王国の士官ジャンもその一人である。

「くそ、ジェルドの奴め! 娘の非行が俺のせいだと言って宴に出さずに外の見張りなんかやらせやがって。……まあその通りなんだが」

 ジャンの甘言に乗せられてユミルは習い事にほとんど出てこず彼女の怠惰ぶりは各国の貴族に知れ渡り、先日は婚約を結ぶための見合いを拒絶された。実質王の娘であるにもかかわらず。

 これでユミルは予定より下級の家に嫁がなくてはならなくなるだろう。だがペレジア王家であるジェルドとユミスは妥協しようとしてもなかなか踏み切れない。婚約はまだまだ先。

 その間にペレジア軍の重鎮となった自分がユミルとの関係を明らかにすれば娘の非行に憔悴しきった今のジェルドはかなりの確率で折れる。

(もうすぐだ。もうすぐで俺は貴族になれる。一代限りの騎士ではない。王の娘婿そして十数年後は王の義従兄)

 だから我慢しなくてはならない。宴に出される馳走も、退屈を紛らわすための娼館も。

 戦争が終わっても帝都民のほとんどは他国の軍隊が駐留する帝都に戻らず北の街にとどまったままだが、兵士を相手にする店の主人は都に戻り商売に励んでいた。兵士の狼藉を防ぐため国が開かせている娼館もある。

 ジャンも以前ならそういう店に好んで入り浸っていたのだが、最近はユミルの相手をしなくてはならない。そのユミルもヴァルムには連れてこられていないのだが……。

 性欲を持て余すからと言ってここで任務を放棄して娼館に駆け込んだことがジェルドに知られれば、確実にユミルとの仲を認められない。

 それにこの国の武力は気になる。

(戦争に負けて賠償金を払い内乱も警戒しなくてはならないヴァルムはすぐには戦争を起こせないだろう。……だがこれで大人しくするタマかねえ。……)

 皇帝ファルスの敗因はカイルとの決闘で自身の剣の腕に見切りをつけヴァルム大陸では弱点になる生命力をすり減らす魔法を使ったことと、妾腹で未だ健在な縁戚からの反乱を厭い北からの援軍の到着を待たず連合軍との戦いを急いだこと。

(魔法を使えないからこそ肉体を極限以上に鍛え、嫡子に生まれ縁戚からの反乱を気にしなくていい奴がヴァルムの皇帝だったら……)

 今回のような戦争で勝ったのは帝国かもしれない。

 そして今以上に大陸と大陸が交流する時代が続けば渡航の経費を気にせず別の大陸を支配できるようになるかもしれない。 

 遅かれ早かれヴァルム帝国が大陸を支配してなお欲を出せば隣の大陸を征服しようとするかもしれない。例えばアカネイア大陸とか。

(大陸を統一せんとする国に対抗するにはこちらも大陸を統一できるだけの力を持つしかない。しかしジェルドには大陸の統一はできない……しようとしない。アカネイアの小僧にもそんな度胸はない……だが俺にはある。一国では飽き足らず他国を支配したいという野心も……それがアカネイア大陸を守るって口実にもなる)

 そこでジェルドはかぶりを振る。

(バカか! 貴族になるだけでも途方もない苦労を重ねたのに王になるなんてどう転んでも無理だ。ヴァルムの大陸統一も実現するとしても今のファルスじゃ無理だ)

 ここはジェルドの信用を取り戻すため真面目に任務に励もう。その際にヴァルムの軍施設を見回るのは不自然ではないだろう。

 ジャンは顔を引き締めて街の見回りを続ける。そんなジャンははた目には規律正しい騎士だった。

 

 

 

 

 

 再び皇宮宴会場

 会場の一角に商人たちが集まっていた。

「問題だわ」

「問題って何が?」

 突然問題だとのたまうアンナにヴァルム帝国お抱えの商人が尋ねる。

「この場に武器を売買する商人がアンナしかいないのが問題だと彼女は言ってるのよ」

 答えたのは道具の売買を専門とするララベル。

「そうよ。私は武器・道具・杖、節操ないけどなんでも取り扱っているわ。けれどララベルみたいに道具ばかりを専門にする商人を否定しているわけじゃないわ」

「じゃあ何が問題なんだ?」

 再度聞いてくるヴァルム商人をアンナは指さす。

「あんたたちは何屋? 何を取り扱っているの?」

 商人たちは顔を見合わせる。そのうちの一人ドルマ商人が口を開いた。

「俺もいろいろ取り扱っているよ。カダインからバレンシア大陸にない魔法が使えるようになる魔道書を仕入れている。杖で回復魔法を使えば生命力を失わないためそれも利益になるな」

 イストリア商人も続く。

「俺はグルニアから仕入れているぜ。グルニア軍が新しく作った強い武器を仕入れている。……バレンシアには傷を癒してくれていつまで使っても壊れない指輪があるから傷薬とかは売れず、仕入れもやめたんだが」

「それよ!」

 アンナはイストリア商人に指を突きつける。

「あんたたちはみんな貿易商。武器屋でも道具屋でもない。それはなぜか? ……ヴァル……いやバレンシアって呼んでる人もいるのか、ええいどっちでもいいわ! ヴァルム大陸では武器も道具も壊れないから、新たにそれらを買い揃える客もおらず、武器屋も道具屋もみんな店をたたんじゃったせいなのよ」

 アンナの話を聞いてアルバレア商人が説明を始めた。彼は信心深いバレンシア教徒ミラ派でもある。

「この大陸では千年前まで大地母神ミラ様が大地に活力を与え、その力で人々は過度に農耕に励まなくても多くの食料を得ることができた。特にミラ様が治めるソフィア王国では人々は貴族でなくても働かずに過ごすこともできたぐらいだ。ドーマが受け持っていたリゲル帝国も例に漏れない。ソフィアほど肥沃ではないが暮らしに困るほどじゃない。もっともドーマの意向で遊んでばかりはいられなかったらしいがね。けどどちらの国も過度に金を儲ける必要はない。だから戦に必要な武器も道具も半永久的に使えるものを理想としてとにかく壊れないように作ったのさ」

「……で物資を作った後は店をたたんでソフィアの商人は無職になって、リゲルの商人は別の仕事に就いたと?」

 アンナの念押しに商人たちはうなずく。

「その結果新しい武器は作られず、ミラ様とやらがいなくなって物資を売りたくてもすでに壊れない物が氾濫して売れないだろうから平和になったアカネイア大陸との貿易を行う商人ばかりになったと?」

 ララベルの出した結論にも彼らはうなずく。そんな商人たちにアンナは溜息を吐く。

「そんなんだからたった5000人のアカネイア軍に圧倒されるのよ。彼らの武器は使えば傷つき、何度も戦闘を重ねれば当然壊れる。だから新しい物を買う。そして相手を少ない手数で倒せる強い武器が作られ、売れるようになる。……そうして武器も道具も進歩していくんだわ」

 そこでララベルが説明を継いだ。

「今のヴァルムよりアカネイアの方が武器も道具も優れているのは大戦の結果を見れば一目瞭然ね。……帝国が善戦できたのはジーンという騎士さまさまよ。……あなたたち、もしアカネイアの国々がヴァルム大陸を侵略しようとしたらどうするつもり?」

「……」

 商人たちは顔を見合わせ何も答えることが出来なかった。

「まあ、今回の戦いでアカネイア製の強い武器も注目されるでしょうし、耐久性を重視したって限界がある。この大戦で一気に摩耗したはずよ」

 耐久性重視の物資の時代は終わったとアンナは告げる。

「今度は性能を伸ばすためと言っていつかは壊れる武器を作ることね。もちろんすぐ壊れる物じゃなく兵士たちが「あの時買った物がこんなに強いなら今ぐらいで壊れても仕方ないな」って思えるくらいの強度でね」

 ララベルが最後にそう忠告する。

「そうだな。強い武器を作るためなら皇帝も許してくれそうだよな」

「すでに魔法は生命力を減らさない魔道書と杖が主流になってきているしな」

 物資を売ろうとする努力が国を守ることにつながる。二人の商魂に感化されたヴァルム商人たちはこれからの戦の物資を売るための商売の在り方について話を交わしだした。

 ララベルはふとアンナに尋ねる。

「いいの? 彼らに商売のやり方を教授なんかしちゃって。あなたと私でヴァルムの流通を牛耳る好機だったでしょうに」

 アンナは手を振って笑う。

「流通を牛耳るって、そんなことしたって妬まれて敵を作るだけでしょうに、それにさっきまでのあいつらみたいな腑抜けばかりで好敵手があんただけってのもつまらないわ。戦にも商売にも張り合いってものがないと」

「あなたそこらの兵士なら片手でひねられるほど強くなかったかしら? 下手すればユルゲン王子やジーンにも勝てるくらい」

 アンナの強さを噂で聞いてるララベルは頬に手を当てる仕草で呆れる。

「そうね。妬んだ輩を用心しなくちゃいけないのはあなたの方だったわね」

「うふふ大丈夫よ。私にはとても強い用心棒がいるもの。……用心棒と言えばあの子もこの旅に同行すればこの宴のご馳走にありつけたでしょうに……それはそれで皇帝に恨まれそうね」

「??」

 ララベルの言う用心棒とはアイクの事だと名前を出されなくても腐れ縁になってきたアンナにはわかる。しかし宴に連れてきたら皇帝の逆恨みを買いそうな元用心棒については皆目見当がつかなかった。

 

 

 

 

 

 会場を回るカイルはある二人の姿を見つけた。

「マリアンヌ殿! エルス殿!君たちも来てくれたのか。」

「あら! カイル王子」

「これは。よくぞご無事で」

 ワーレンから来たマリアンヌとエルスのもとへカイルは歩み寄る。

「ワーレンの住民をまとめてくれていることといい君たちには頭が上がらない。本当にありがとう!」

 カイルは二人に礼を述べる。

「フフ、礼には及びませんわ。ギムレーを倒したらカイル様にはすぐに即位して頂いて過労死寸前まで政務に励んでもらいますから。もちろん本当に過労死しないように抑えますから楽には死なせませんわよ」

「……あはは、相変わらずきついね」

 前以上のマリアンヌの毒舌にカイルは引きつった笑みを浮かべる。

「マリィ、そのくらいにしておきなよ。カイル様へのその言葉は法律によると不敬罪に当たるんじゃないかい」

 見かねてエルスがマリアンヌをたしなめる。

「あらいけない。申し訳ありませんわね。カイル様っていじめがいがあって。この美酒に免じてどうかお許しを」

 マリアンヌはカイルにグラスを差し出す。

「いやいや! 今のアカネイアでは20歳まで酒は飲んではいけないから!」

「あら。カイル様に未成年飲酒の罪を負わせることで弱みを握って先ほどの不敬を黙認してもらおうと思いましたのに」

「そんなことしなくてもあれぐらいで君を投獄してワーレンの法務から離れてもらっては困る。君の毒舌にも慣れたしね」

 そこでカイルはふと二人にある相談をする。

「ねぇマリアンヌ、エルスにも。ちょっと相談があるんだが」

「あら?」「何でしょう?」

 雑談にしては真剣すぎるカイルの表情に二人は少し戸惑う。

「…………したいって考えてるんだ」

「あら、いいことではありませんの。めざましい働きを見せた臣下にはそれに見合った褒美を与えねば人は離れていきますわよ」

「カイル様らしいですね」

 カイルの提案に二人は色よい返事をする。だがすぐにマリアンヌは表情を険しくする。

「けれどあの子には褒美が大きすぎますわ、あの子の今回の活躍は素晴らしいですがかなり引き立てても子爵ぐらいでしょうね」

「うーんそれだと厳しいかな?」

「ええ。それ以上押し上げて何を望んでいるのかは聞きませんがアカネイアでは異例中の異例でしょうね。そうでなければドルーア戦争当時の王女アルテミスがアンリと引き離される「アルテミスの定め」なんてなかったでしょうね」

 カイルの思惑がわかってマリアンヌは首を振る。

「そうか。ではそれはいったん置いておいて次の相談なんだけど……」

 カイルは次の相談を声を潜めて打ち明ける。

「……………………って考えてるんだ」

「はあ? あなた正気ですの!」

「まさか! ……」

 あまりの内容にマリアンヌは立ち上がって叫び、エルスはグラスを落とし、ワインをこぼす。会場内の注目がカイルたちに集まる。

「おっと……」

「あっ! ごめん。僕のせいだ。僕たちは待ってるからエルスは着替えてくるといい」

 カイルは自分が突拍子もないことを言ったせいだと謝り、エルスに客室へ行くよう勧める。しかしエルスは首を激しく横に振った。

「いえいえ、カイル様のせいではありません。それに今は着替えよりカイル様の話が気になります」

 着替えを後延ばしにするエルスにマリアンヌは何か言いたげな顔をしたが置いておく。

 誰かが気を利かせたのかステージに楽隊が現れて演奏を奏で、衆目の興味がカイルたちから楽隊に移ったところでマリアンヌは切り出す。

「……これは、カイル様は相当お疲れのようですわね。さっきの話は取り消します。明日からのギムレー戦を延ばすわけにはいきませんが、それが終わったらしばらくカイル様はお休みなさいな。明日にでも王が必要という状態でもありませんし」

 珍しくカイルを気遣うそぶりを見せるマリアンヌにカイルは慌てて言う。

「いやいや至って真剣に考えたうえでのことだよ」

「それは1600年続いたアカネイア王国の歴史に幕を引くと言う意味ですよ」

 エルスも真剣にカイルに念を押す

「ああ。いけないことかもしれないが今だからこそそうしなければいけない気がする」

「まさかそれもカイル様の望みのためとは言わないでしょうね?」

 マリアンヌはきつく尋ねる。

「それは違う! ある歴史の真実を知った時から考えていたことだ」

 マリアンヌの推察をカイルは強く否定する。

「その真実は今僕たちに話していただくことは?」

「ごめん。それはできない。それをむやみに言いふらせば本当に僕は正気を疑われてしまう」

 エルスの要求にカイルは首を横に振って拒絶する。

「……まあどのみちギムレーを倒さなければどちらもかないませんわ。だから明日からは頑張りなさいな」

「それはもちろん! 全身全霊を持って戦うよ」

 カイルは胸を叩く。そんなカイルにマリアンヌはぼそりと付け加えた。

「まあでも……それが実現すればカイル様の望みもかなうかもしれませんわ」

「え? ……それはどういう」

 意味深なマリアンヌの言葉にカイルは詰め寄ろうとするがエルスが止めた。

「まあまあ王子、マリィ飲みすぎだよ。そろそろ酒はやめて水でも飲むといい」

「ええ……あんな話を聞かされて酔いも冷めましたしエルス様のお言葉に甘えますわ」

 そこでカイルは自分を押しとどめるエルスに最初から感じていた違和感の正体に気付いた。

「そう言えばエルス。君の服、前に会った時の物とは違うね。普通の服飾店で見かけるものに似ている」

 エルスはギクリとし少し下がってカイルから距離を取る。

 カイルは王族ながら服や食事にこだわりのある方ではないが王宮で暮らしていた以上それなりに贅の尽くした物に囲まれていた。だがパレスが崩壊し旅に出てからは服や食事を選り好みしている場合でなくむしろ豪商や他の国の貴族よりみすぼらしかった。だからエルスが今着ている服が以前着ていた貴族御用達のデザイナーによる特注品ではなく、平民が来ている物を加工した服だと気付いた。

「えっと…それは……まあ今は過度に贅沢している場合ではないと思いまして」

 エルスはしどももどろに言い訳する。

「そうだったのか! そうだな。王侯貴族だからって贅沢しなければいけないと言うわけじゃない。平和になってもその心がけを忘れないようにしないとな」

「ははは……」

 カイルはエルスの言い分を疑わず彼の肩を叩き立派な心構えだと称える。

「……」

 そんな二人を見ながらマリアンヌは水の入ったグラスを傾ける。

 それからカイルが戻った後マリアンヌはエルスに聞いてくる。

「……それで新しいお屋敷の目途は立ちましたの?」

「……うん。前よりはかなり小さいけどね」

 ギムレーがアカネイア大陸をブレスで攻撃してイシュタルス家も大きな損害を受けた。

 だが名門として見栄を張らねばならず友人や臣下には気前の良さを見せた。魔道軍の功績により与えられる報酬もすぐに消えるほどの出費を重ねて

 そうして資金に困り豪商から借金をし、先日とうとうイシュタルス家が所有していた屋敷も借金のかたに手放した。それでもいくらか借金は残っている。

 服を加工するにも金はかかり代わりの服を用意する余裕もなかった。先程カイルの着替えの勧めを断ったのもそのせいだ。

「まあ同じ名門貴族としてあなたの事情は分かりますわ。ですから債務の整理の相談には乗ります。いつでも声をかけなさい」

「うん。その時はよろしくお願いするよ」

 イシュタルス家の問題に関してはギムレーを倒しても解決しそうにない。宴の中この席だけは暗い雰囲気に包まれほどなく二人は宿に引き上げることにした。

 

 

 

 

 

 宴はまだまだ続く。

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