ファイアーエムブレム 聖痕の覚醒   作:ヒアデス

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決戦前夜6 ソンシン

「うーん。私にはワインは口に合わないな。焼酎の方がいい」

 ヴァルム産のワインを隅に置いてソンシンから持ってこさせた焼酎で口直ししながらナノハはそんなことを言う。

「そうか? 結構いけるよ。正直僕はこっちのほうが好きだな」

 ナノハと違い、タクマはワインを美味そうに飲み干す。

 タクマもナノハ同様他国の酒が口に合わなかったときのために焼酎を持参していたが、今ではすっかりワイン党になったようだ。

「何だと非国民め。ソンシン人は米で作られた焼酎か清酒を飲むべきだ」

 タクマがワインにはまった様子が気に入らないらしくナノハは管を巻いてくる。だが、

「ソンシン人がヴァルム料理を食べるのはいいのかい? 輸送隊をこき使って持ってこさせたソンシン食に全く手を付けていないように思えるけど。僕から見ればナノハの方が非国民だよ」

 ナノハは酒とは逆にヴァルム料理を気に入ったようでソンシン食はほとんど摂らず、宴に出されたヴァルム料理を手にしたまま顔を赤くして言い訳を飛ばした。

「い、いやいやヴァルム料理は肉とか熱量や活力を与えてくれるものが多い。明日の戦で敵をなぎ倒すためにもしっかり力をつけないとな」

「もう! 二人とも酔ってらっしゃるんですか。外国の料理やお酒で喧嘩しないでくださいよ」

 二人の間で茶を飲んでいたスモモが二人をたしなめる。

 彼女はヴァルムの紅茶よりソンシンの緑茶を好むようで同じく国から持参した茶を飲んでいる。未成年なので酒は飲めないし、真面目な彼女は飲もうとしない。食事はヴァルム料理の料理にも興味を持ったがソンシン食も捨てがたいといった感じだ。

 

 白夜の末裔たちが今住んでいるラムの村も元々はヴァルム大陸の他の地と同じ料理と飲み物が供されていたが、アルバレアがヴァルムから独立した際にラムの村は取り残されヴァルムやイストリアの統治が及ばない地となり、食物も行き届かなくなった時があった。そんな時白夜の里から自衛力と同時に持ち込まれたのが彼らの飲食物と風習だった。

 風習に関しては元々のラムの村民には受け入れられない者もいるが、これまで食したことのない白夜の飲食物は貧しく食事に関しては食べられればいいという考えだった彼らに思いがけない刺激を与えた。

 それ以来白夜の飲食物はソンシン食として大陸でも異色の献立となる。

 

 ドン!

「あ…ごめんなさい。大丈夫ですか」

 タクマたちに意識をむけていたスモモに赤髪の女性がぶつかってきた。幸いスモモは茶碗をしっかり持っていて落とすこともこぼすこともなかった。

「大丈夫です。……私こそよく見てなくてごめんなさい」

 ぶつかられて被害を受けたはずのスモモは怒るどころか相手に頭を下げる。波風を立てることのないように自分に非がなくても謝るというソンシンの慣習だった。

「そ、そんな……悪いのは完全に私です。大勢の中を私がキョロキョロして歩き回っていたから」

 相手は恐縮してスモモに頭を上げるよう願い自分も頭を下げる。このままではらちがあかないとスモモは頭を上げた。

「……わかりました。私は気にしてませんからあなたも頭を上げてください。……でも気を付けないといけませんよ。ここには各国の有力諸侯や王族がいらっしゃるんですから」

 スモモから注意を受けて相手はまた頭を下げて謝る。

「はい仰る通りです。本当にすみませんでした」

 相手が謝罪を終えるのを待ってスモモは名乗る。

「申し遅れました。私はソンシン王国で国王様についてきました。スモモと申します」

 スモモは名家の当主ということを明かすと相手がまた謝りだしかねないと思いそこは伏せて名乗る。

「これは私ごときに……私はアカネイア王国の天馬騎士見習いティアです」

「それで一体どなたを探していたのです? こんなに大勢がいらっしゃる会場を歩き回るより奉公人の方に探してもらった方がいいですよ」

 ティアはスモモの言った奉公人という言葉に疑問を覚えるが言葉の流れからして使用人の事だろうと思い聞き返さずにわけを話す。

「そうしたいのですが探している方の名前がわからないんです」

「名前もわからない人を探している……どこかの家の重鎮や当主という肩書もわからないんですか?」

 ティアはうなずいて肯定する。

「ええ。名前も身分も存じてません。わかっているのはものすごく強くて人望のある天馬騎士ということだけです」

「強くて人望のある天馬…ええと」

 天馬騎士という名称に慣れないスモモはつっかえるがティアは気付かずに続ける。

「ええ! 天馬の天敵である弓を難なくかわし、鈍重な重騎士を翻弄し指揮官を混乱させて撃破させるための隙を作った。そんな彼女の槍には翼が生えているそうです。……ああ一度見てみたい」

「槍に翼……あの、それは誇張では」

 スモモがそれは間違いだと言おうとするもティアは陶酔して気付かずにまだ続ける。

「それだけではありません。その方は強さだけでなく人望も備えてると言いましたよね。そのお方の人となりは聖女のようで慈愛に満ちて敵対した国から1国につき1人はアカネイア側に加勢させたとか。その中には国王もいるんです」

「国王! ……それはすごいですね」

 国王を味方につけたと聞いてスモモも誇張された噂を訂正することを忘れ素直に感心する。

 もっともカーシャがフェリアとペレジアの現首脳についているザンザやジェルドを説き伏せたのは事実だが当時彼らは王ではなく幹部の一人にすぎず、ザンザはフェリア統一王アイネから西フェリアの統治を任されている実質は総督で、ジェルドは将来は国王に即位する予定だが今はまだ執政として王の代行をしている。

「はい! そんなすごい天馬騎士が我が国から現れるなんて、この機会にぜひお会いしたいです」

「我が国……アカネイアの…あの、その天馬武者とはもしや、」

「スモモさん。ぶつかって本当にすみませんでした! 宴が終わらないうちにそのお方にお会いしないと。それでは失礼します」

 天馬騎士を天馬武者と間違えたままのスモモの制止も聞かずティアは立ち去って群衆に紛れこんでいく。

 彼女と引き換えにソンシン王リョウヤが帰ってきていたのに気付いた。リョウヤはタクマとナノハを叱責している。

「食事や飲み物を選り好みするなどソンシン人にあるまじき行いだ。恥ずかしくないのか!」

「うん。そうだね。ごめんリョウヤ」

「ナノハ無礼だぞ! 今のリョウヤ様は国王なんだから」

 ソンシンが隠れ里だったころと変わらない口調でリョウヤに謝るナノハをタクマは注意する。

「それは構わん。今は無礼講だ。……それに正直、王と呼ばれるのも扱われるのも苦手だ。以前通り接してくれ」

 リョウヤはそう言ってタクマたちに対等の物言いを要求する。

「わかったよリョウヤ。……で、例の部族たちはどうだった?」

 リョウヤの要望通りタメ口に直したタクマは謝罪をやめ例の件をリョウヤに聞いた。

「ああ。なかなか信じてくれなかったが彼らにも思い当たることがあるらしく、半信半疑といったところにはこぎつけた。ひとまずこれからはソンシンとフェリアとして国交を結べそうなのは大きいな」

「そうか……で、東大陸の他の国の方はどうだ?」

 そう聞いてくるナノハにリョウヤは首を横に振る。

「カイル王子とジェルド執政にも聞いたが自国でソンシンのような風習を持っていたり遺品を受け継いでいる者は心当たりがないそうだ。……サイゾウあたりはアドラの手を逃れて生き延びたと思うのだがな」

「でもサイゾウ家が代々サイゾウを名乗る家訓があるからって白夜滅亡後もそのまま家訓を守っているとは限らないんじゃない? 「三国記」戦争の直後に生まれたサイゾウの息子は家督を継ぐまでは別の名前を名乗っていたっていうし」

 サイゾウについて考えうなるリョウヤにタクマは助け舟を出す。

 三国記とは白夜、暗夜、透魔の三国間で行われた戦争の事である。

「我が家の始祖から仕えてくださったっていう天馬武者も白夜滅亡の際に行方をくらましたそうですが死んでしまったとは考えにくいですね。白夜建国以来髄一の実力を持ち続け文武両道の完璧さを代々受け継いできたっていう家系ですし……」

(平原や滝で活躍した天馬武者……ティアさんが探している方って間違いなくカーシャさんの事ですよね。会えるといいですけど)

 緑茶をすすりながらスモモは天馬武者だと彼女が思っているカーシャとティアのことを思い浮かべる。

「風の部族にも今の砂の部族とは違う場所で生き残った奴がいるかもしれない。三国記の時代でハイドラと戦った後に生まれた風の族長の娘は部族を継いだとか部族を離れて透魔に移り住んだとかそのどれでもないとか、晩年の記録がはっきりしない」

 ナノハも二人に続いてそう言った。リョウヤは透魔という言葉を聞いて思い返す。

「透魔か……その国も滅亡したかどうかは定かではないな。元々異空間に存在していた国だ。襲撃から逃れて異空間に逃げていたかもしれない」

「三国記時代の私たちのご先祖様は兄弟で透魔王族の二人もその中に入っていたそうです。私たちの他に透魔王さんがいればみんな揃うんですけどね……白夜の里の歴史上珍しいことにこうして各家の当主が同じ年代に生まれたのに」

 緑茶を飲み干したスモモはふと漏らす。

「生き残りがいるかもしれないって言えば暗夜もだ。暗夜の騎士って黒い甲冑を着こんでいたらしいんだろう。グルニアの黒騎士がそれっぽいけど」

 ナノハの考えにリョウヤも同調する。

「グルニアの始祖はアカネイアの高官でなく、むしろ当時のアカネイア王にやっかまれ辺境に左遷されて左遷先の島でグルニアを建国したという。考えられなくもないな。アドラの目的は略奪で虐殺は奴にとって略奪のついでの愉悦だそうだ。逃げることができた者もいるだろう」

 暗夜、透魔、風の部族の末裔そして東大陸に残ったままの白夜の末裔、それぞれまだ存続している可能性を考えタクマは語る。

「その考察を確かめるためにもフェリアだけでなく残る二国との交流は重要だね。リョウヤとスモモの言う通りソンシンとは違う料理や酒だからって嫌っていてはそれも叶わないかもしれない」

 古の戦友のそくせきを探すためと言われたらナノハも異を唱えることができない。ナノハは意地を張るのをやめてもう一口ワインに手を伸ばし、タクマも彼女に負けじとヴァルム料理に手を伸ばし異国の味に慣れる努力をしてみることにした。

 

 

 

 

 

 ヴァルム料理を本格的に堪能し始めるソンシンの仲間たちと別れたリョウヤは一人の少女と鉢合わせる。

「あっ! リョウヤ!」

「巫女殿か。修道女とは一緒じゃないのか?」

 またまたキットと別行動をしているチキである。

「うん。私が一緒だとキットもお酒飲みにくいでしょう。ノーヴァではあまり飲めないからこんな時ぐらい飲ませてあげないと」

「確かに君と一緒だと飲みにくいだろうな。……しかし異教では神職に就いている者でも少しなら酒を飲んでもいいと聞いたのだが……あの修道女はそれ以上に酒に目がないのか?」

 チキは少しだけ首を傾けこっそりうなずく素振りをする。

「これはお母さん譲りだそうでね。結構お酒に目がないの」

「そうか。気真面目そうな彼女が……いや真面目だから酒を摂りたい時もあるのか」

 チキとリョウヤはそろって苦笑する。

 実際今回のチキの外遊は危険が多くキットにとって心休まる日が少ないものだったに違いない。チキも負い目を感じてキットにせめてもの楽しみに興じる時間をやりたいのだろう。

 チキはさっきのリョウヤの言葉を思い出して尋ねる。

「でも異教では…ってソンシンの聖職者は宗教上お酒は飲めないの」

 リョウヤは重々しくうなずく。

「うむ。僧侶という仏に仕える神職の者は酒や肉を飲んではいけない戒律があってな」

「えー、お肉も駄目なの? 厳しすぎない?」

 チキの指摘にリョウヤも渋い顔をする。

「確かにそうだな。……俺も緩和してもいいと思うのだが僧侶には殺生を禁じる戒律もあってな。それが肉を食べてはいけないことに繋がっている」

「うーん? 漁師さんが獲った動物のお肉を食べるのも駄目なの?」

「駄目なんだ」

 リョウヤはばつが悪そうに即答する。筋が通らないとは思っているようだ。

「僧侶さんの戒律って矛盾が多いし厳しすぎるよ。仏様だってそんなに我慢を重ねながら自分を崇めてほしいなんて考えてないんじゃない?」

 他ならぬ今のバレンシア教徒に崇められているチキがそう言う。

「そうだな。だが宗教家というものは頑固なものでなここはおかしいからやめようといってもすぐには変えてくれん……まあ俺たちがあれこれ言わなくてもそのうち緩和されるかもしれんが」

 宗教に関しては王が聖職者に言っても聞き入れないことが多い。それは他国も同じだ。いやむしろ他国では神は王や皇帝より尊い存在だ。他国の方が世俗の指導者である王の介入はご法度とされることが多い。

 リョウヤも僧侶の戒律の緩和には賛成のようだがまだ彼だけではどうにもならない部分が多いのだろう。僧侶のことは置いておいてリョウヤはチキに今聞いてみたいことを聞くことにした。

「ところで小耳にはさんだんだがバレンシア教の神、ミラとドーマが君と同じ竜だというのは本当か?」

「う、うん……さすがに王様の間ではこの話結構広まってるかな」

 チキは戸惑いながらも否定しない。

「いや……イストリアとドルマの王は知らないと思う。ユーリとファルスの休戦協定に潜り込ませた忍がいなければ俺も知らなかっただろうな」

「忍? ……ソンシンの間者のこと?」

 リョウヤは首を縦に振りそれ以上は言わない。チキには無用の存在だ。

「俺たちは仏のほかに神祖竜という竜も奉じている。……だから俺たちはノーヴァとも君とも交流を持ちたいと思っているんだ」

「えっ?」

 まさかの友好の申し出にチキは虚を突かれる。

「駄目か?」

「ううん。でも大丈夫かな。仏様の事といい、ソンシンの宗教観ってバレンシア教とだいぶ違うけど」

 チキの不安をリョウヤは笑って受け流す。

「心配いらない。俺も仲間たちもこの大陸の他の国や東……いやアカネイア大陸と友好を深めていこうと話していたところだ。ノーヴァとも風習の違いくらい乗り越えられなくてどうする」

 そう宣言するリョウヤにチキは、

「それならノーヴァのほうはともかく私個人としては喜んで……と言いたいけど」

 人差し指を一本立てて断りを入れる。

「私の名前は君じゃなくてチキ。チキって呼んで」

 リョウヤはそんなチキに笑みを浮かべて右手を差し出す。

「もちろんだチキ。あとで俺の仲間たちとも会ってくれ。それと…」

 チキの握力に合わせて少し力を緩めた握手を交わしながらリョウヤは続ける。

「あと何世代かすれば俺たちの子孫も神祖竜を忘れてチキを崇拝する日も来ると思う。その時はよろしくしてやってくれ」

「ええー……」

 途端にチキはげんなりした顔になった。

 

 

 

 

 

 宴はもうしばらく続く。

 

 

 

 

 

 ティア クラス:ペガサスナイト

 「if」のツバキ・マトイの子孫で「覚醒」のティアモの先祖。アカネイア王国元天馬騎士団見習い。訓練で好成績を収め天才肌と言われ先輩、同僚から妬まれるが彼女自身は自分を凡人だと思って努力を続けている。アカネイアからの援軍としてヴァルム大陸に来たがそこでカーシャの活躍を聞きカーシャこそ真の天才だと悟り彼女に憧れる。先祖が白夜王国の生き残りだとは知らない。




「ファイアーエムブレムif」の子世代ですが時間の流れが異なるという秘境の設定を個人的に削除したいと思うので、この小説ではifの各キャラクターの子供はハイドラとの戦いの後に生まれたものとします。
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