ファイアーエムブレム 聖痕の覚醒   作:ヒアデス

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決戦前夜7 アルバレア・ヴァルム・自警団

「将軍閣下、お加減はいかがですか?」

 市街戦での傷を杖で治したばかりだというのに宴に出て来て酒をたしなむジーンにフェイスは声をかけた。

「これぐらいの傷で医務室にこもっていたら武人など務まらん。まして明日は大陸、いや世界の存亡をかけた戦いが行われるのだ。休養よりむしろ英気が必要だ。……それより私の事より君の方だ。アカネイア軍に味方したことで陛下から何か処罰を申し渡されたのではないだろうな?」

 ジーンの心配にフェイスは首を横に振る。

「いいえ。戦の後罰を受けるつもりで陛下の前に出頭しましたがあの方からは「牢で休むなど許さん。明日はジーンを倒した力量をギムレーにぶつけるがよい」と言われ不問にされました。……とは言え私が殺めた兵の遺族は皇帝が起こした戦争のせいだからと割り切れないでしょうし、ギムレーを倒した後は除隊も考えた方がいいかもしれませんね」

 フェイスの懸念を聞きジーンは彼女に同情しながらも一度だけ挑発して見せる。

「伝説の女騎士マチルダを超えるのではなかったか?」

 フェイスは力なく笑ってみせる。

「だからこそです。今回のことぐらいで陛下がヴァルム大陸再統一を諦める方ではないでしょう。ヴァルム軍にいればまた侵略に加担することになりかねない。マチルダ様の後を追いたいからこそ私は軍を退くのです」

 自らも今回の戦に反感を持っていたジーンはマチルダの返事に納得するが追従はできない。

「そうか。大陸再統一に共感できないのなら除隊するのもいいだろう。だが私は陛下に背くつもりはない。……私の祖先ジークはリゲルの外から流れ着き、彼を拾い召し抱えた時の皇帝ルドルフ1世の意思とはいえ大陸の平和のためだと大恩ある皇帝に背いた。……ジークはそれを悔やんだのかアルム1世のもとを離れ数年アカネイア大陸に渡ったがその後バレンシアに戻りアルム1世に生涯尽くしたという。それから歴代続けてずっとな…だから私の代で皇帝に背くわけにはいかんのだ」

「そうですか。……ジーン様はそれでいいと思います。陛下にはお側からあの方を諌める者が必要だと思いますから。……どうかこの不忠者の分までファルス皇帝陛下をよろしくお願いします」

 詫びと後事を託す意味でフェイスはジーンに頭を下げる。ジーンは彼女の肩に手を置き了承する。

 それからフェイスは頭を上げ挑発的に彼を見つめる。

「ただし勘違いしないでくださいジーン将軍。あなたやマチルダ様を超えることを諦めたつもりはありません。私は明日の戦いであなた以上の手柄を立ててみせる」

「それは頼もしいな…だが私も負けんぞ! アルム1世がもたらした大陸の平和を守るためギムレーは必ず倒す」

 二人はそう意気込む。

 一方でフェイスはこうも考えていた。

(私よりむしろ心配なのはカーシャの方だな。屍が相手とはいえ彼女は戦えるだろうか? ……この戦いが終わったら完全に退役するのもありなのだが)

 

 

 

 

 

「ファルス皇帝、このたびは休戦協定の成立おめでとうございます」

 宴会が開かれてから休戦の印としてヴァルムとの友好を示すためなるべくファルスの近くにいたユーリはアルバレア・ヴァルムの有力貴族への挨拶を済ませてファルスに声をかける。

 一方ファルスは酒は飲まず好物の果物を食していた。未成年だから酒は飲まないという真面目な理由ではなく単に酒の苦みにまだ慣れていないのだ。

 ユーリの言葉を受けファルスは鼻を鳴らす。

「ふん、うぬにしては軽い嫌味だな。実質的にはうぬの勝ちのようなものだ。素直に勝ち誇るなり我を見下すなりしておればよいものを」

 ユーリは苦笑して首を横に振る。

「いえいえ此度の戦の結果はアカネイア大陸から駆け付けた各国の援軍によるものです。ギムレーを倒し彼らが退却した後に休戦状態を維持できるかは我々次第でしょう」

「ひとまずは安心せよ。賠償金を払って大きな損失を出したばかりでは戦などできぬわ」

 ふてくされたように言うファルスにユーリは目を細めて追及する。

「それが信じられるとでも?」

「…………」

 ファルスは虚空を見てしばらく押し黙った。

「対話によって各国の意思を統一する。そういう形ならヴァルムが主導権をとってもいいと私は思っているのですがね。それも一つの意味での大陸の統一ですよ」

「うぬは我を倒してアルムの正当な後継者を名乗りたくはないのか? うぬにとって我の祖先アルムの世継ぎは国と大陸の名を勝手に変えた不埒者であろう」

 ファルスの問いにユーリは肩をすくめる。

「まさか! 歴史の認識についてはそれこそあなたとよく話し合いたいところですが、そのためにヴァルムを滅ぼして侵略者の汚名をかぶる気はありませんよ。私にとって国を分かたれようとバレンシアの民はアルムとアンテーゼが慈しんだ民。彼らの生活を脅かしたくはない」

「ノブレスオブリージュか。ヴィオールといいうぬといいアルバレアは貴族の面目にこだわる」

 ファルスも呆れて肩をすくめる。

「民だけではありません。ファルス、あなたたちヴァルム家も私たちアルバレア家にとって同じアルムを始祖と仰ぐ兄弟のようなもの。私はあなたを弟だと思っているのです」

「は? …………ユーリ…酔っているのか?」

 ファルスはたちまち怪訝な表情になる。

「至って真面目です。失恋した弟の愚痴を聞いてやりたいと思ってるくらいには」

「やはり酔っているようだな……いい気味だろう。当分ヴァルムには世継ぎはできそうにない」

 失恋という単語を聞いて不機嫌になったファルスは無造作に苺のヘタをむしり取り口に放り込む。

「いやいや残念に思っていますよ。奥方を迎えればあなたも少しは落ち着きを見せると思いましたからね……ああ言っておきますが、カーシャ殿が捕まったのは私にとって想定外の出来事です。あの件でカイル殿から信用を失うところでしたし、あの時は私も生死の境をさまようような重傷を負いました。あなたの縁談のために命を張ろうとは思いません」

 誰に対して言ってるのかユーリはそんな言い訳を始める。

「……まあこんな話を続けていきたいくらいにあなたとは交流を続けていきたいんですよ。歴史に関しても剣でねじ伏せた者が正しいというのではなく、相手がぐうの音も出なくなるまで言い負かして決着をつけたい。そちらの方が面白いでしょう?」

「……まぁうぬが言い返せなくなるところを見たい気持ちはなくもないな」

 弁論での決着にファルスはまんざらでもなさそうな顔を見せる。

「国が滅びれば王家も滅びる。どちらかを滅ぼしてしまえば相手を言い負かすこともできなくなりますよ。ヴァルムがアルバレアを滅ぼせばあなたは私に言い返せないから武で黙らせたと民草の間に伝わってしまう。そんなのは不本意でしょう?」

 そんなユーリの挑発をファルスは鼻で笑った。

「その時はうぬを殺さず生け捕りにすればよい。我自ら捕虜となったうぬをあざ笑った後で民の前に引きずり出してヴァルム帝国の正当性について存分に言い負かしてやろうではないか!」

 国同士が休戦してもこの二人の戦いはまだまだ続きそうだった。

 

 

 

 

 

 カーシャを探して会場を回っていたカイルは会場外を探してみようと考えている時に料理をむさぼっているルッツを見つけた。

「ルッツ! こんなところにいたのか」

 ルッツは手を止めてカイルの方を見る。

「おうカイル! せっかくのメシも食わずに歩き回りやがって挨拶回りって奴か。王子様も大変だな」

「まあさっきまではね、今はカーシャを探している。どこにいるか知らないか?」

 ルッツには外面を取り繕う必要もないだろうと白状し、カーシャの居場所を聞いてみる。

「カーシャか……敵から解放されたのはいいけど戦えなくてふさぎ込んでいるみたいだ。宴にも出ず庭園でぼうっとしているのを見たぜ」

 カーシャの様子はカイルも聞いている。やはりと思ったが案の定宴には最初から出ていなかったらしい。

「そうか……ところでルッツ。この機会だ。アカネイア自警団について聞いてもいいか?」

 カーシャに会う前に心の準備も兼ねてルッツに自警団のことを聞いてみる。次期国王の教育にも関係あることになるかもしれない。

「いいけどほとんどお前も知ってることだぞ。……自警団の前身はアカネイア自由騎士団。千年前にメニディ侯爵で大陸一の弓騎士として知られていたジョルジュが立ち上げた。設立当時は暗黒・英雄戦争で活躍した騎士たちが中心だったんだが平民の加入者も多く一世代もたたないうちに平民の方が多くなって騎士団とは名ばかりってことでアカネイア自警団に改称した。それから規律などは千年の間色々変わっていったんだがアカネイアの人々を盗賊から守るって点だけは変わらず続けていった。俺の両親が前の団長とその補佐ってのは覚えてるよな」

 カイルはうなずく。最初に言われた通りカイルも知っていることばかりだ。

 アカネイア自警団は自由騎士団の名を冠していた時代からアカネイア王国全土(連合王国ではなくあくまでアカネイア王国内)を活動範囲とする巨大な自警団だ。

 アカネイアの貴族はもちろん国王もその活動を知っており先王グスタフは自警団に勲章を与え彼らをねぎらったことがある。また王位に就く前のクロスとユリナも彼らに助けられたことがあるためカイルにもそのことを話したことがあった。

「パレスがギムレーと屍に襲われて自警団も離散しちまってワーレンでの今の自警団の役割は魔道軍に奪われちまったが、この戦いが終わって国に帰ったら再び自警団を結集するつもりだ。その時の援助は頼むぜ」

 カイルは強くうなずく。元よりそのつもりだ。

「……それでその自警団は貴族は参加してはいけないという規則はあるかな?」

「いや…最初は貴族ばかりだったぐらいだし、貴族は平民を助けるべきってヴィオールさんみたいな人が自警団に手を貸したり資金援助することも多い。自警団に加わる人はいないけど禁止されてはいないな」

 ルッツの説明にカイルは顎に手を乗せ考える。

「……では王はさすがに無理でも王子や王女が民を助ける一環で自警団に加わるというのはありかな?」

「はあ?」

 ルッツが仰天する。周囲の視線がカイルとルッツに集まったがマリアンヌたちと話したこととは違い隠す気はないのでカイルは気にしない。

「無理だろ……いや国が一度滅びちまって今は猫でも王様の手でも借りたいって時だしな。もう王族も雲の上の存在じゃないって考えたらありなのか?」

 首をひねりながらルッツはうなる。

「……すまないルッツ、今すぐに答えを出したいわけでもないんだ。ただ将来そういうこともできないかなって考えてるんだ。それにもし今回みたいに軍が壊滅したり何らかの事情で大きく軍縮した場合自警団の役割は極めて大きくなる。援助だけして後は任せるだけのようなことはしたくないんだ」

「そうか……十数年後にはカイルの息子か娘が部下になるかもしれないのか。まあそこんところはお前に任せる。だけど絶対前より忙しくなるだろうから特別待遇はできねえからな。そこだけは覚悟させろよ」

「もちろんだ。その時は厳しく鍛えてくれ。……じゃあ僕は庭園の方に行くか。ルッツは宴を楽しんでてくれ」

 そういってカイルはルッツと別れ会場を後にした。

 

 

 

 

 

 宴もあとわずかで終わる。

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