ファイアーエムブレム 聖痕の覚醒   作:ヒアデス

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第5話 思わぬ助け

 ファルシオンを振るう試験を達成し、王位継承が確実となったクロスは今日も訓練に励み、素振りだけで足らず訓練相手を打ちのめしていった。

「はぁ!」

「ま、待って、降参です」

 木剣がぶつかる寸前に相手は投降しクロスは剣を止める。

 その直後訓練相手の兵は逃げるように訓練場を出て行った。

「次、お願いします」

 クロスは訓練監督に次の相手を呼ぶように命じる。

「待って。今のは相手も大怪我するところでした。クロス様も息が上がっています」

 パレス王宮を訪れ、国賓として認められているグランベル大使ユリナがクロスを探して訓練場を訪ねて来たところクロスの危ない訓練を見て思わずクロスを制止する。

「ユリナ、どうしたんだい? 僕は今訓練中だ」

「訓練? あなたはいじめを訓練というのですか。ジェイクス様を失って辛いのはわかりますが臣下に八つ当たりしている今のクロス様を見たらジェイクス様は悲しまれますわ」

「君がジェイクスの何を知っているというんだ!」

 ユリナの反論にクロスはますます激高する。

「クロス様も疲れている様子です。訓練は終わりにして一休みしてください。町に行きたいのなら私もお供いたしますから」

「街を遊びたいならユリナ一人で行って来てくれ。護衛だって大使館やパレスに一声かければすぐに出してくれるだろう」

 2年前とは逆にクロスはユリナの誘いを拒絶した。この場を遠巻きに見ている兵士たちは二人はすぐに破局するだろうと確信していた。

「ユ、ユリナ様、はぁはぁ、ここにおられましたか」

 言い争っている二人の前にアルバが息をついてやってきた。

「アルバ先生どうされましたの? 待って、今お水を、水筒は」

 クロスの説得をあきらめかけていたのか。ユリナはアルバに向き直り、彼に水筒を差し出そうとする。

「わ、私のことはいいんです。そ、それよりヨーゼフ様が」

「ヨーゼフがどうしましたの? ……やっぱり水を飲んでからの方がいいですね」

 喘ぎながら話そうとするアルバにユリナは水筒を押し付け飲み終わるまで待った。

「ヨーゼフ様が竜の里を見つけたと言って、一軍を率いてマケドニアへ」

 アルバの言った竜という言葉にユリナだけでなくクロスも驚いた。

「竜って、本当にいたのか。でもなんで軍隊を?」

「ヨーゼフ様は竜を皆殺しにするつもりなんです。あの方は竜をユグドラル大陸を滅ぼしかけた偽神だと信じていましたから」

 戸惑うクロスにアルバは説明する。

「そんな、ロプトウス以外の神は人々を救うために降臨して下さったのに」

 動揺しているのはユリナも同じだ。だがクロスはそんな神話のことより気がかりなことがあった。

「もしヨーゼフが返り討ちにあったら竜は人間すべてに裏切られたと思って人と竜の戦争のやり直しになってしまう。すぐに出撃を」

「ならん!」

 一同はえっという間もなく後ろを振り返る。そこにいたのは

「アカネイア軍が動けば竜は人への疑念を確信しそれこそ千年前の戦いを繰り返す。今ならグランベルの軍が勝手にやったことだ。我々は座視し竜が残った時に弁解すればよい。余が責任を取ろう」

 アカネイア王グスタフだった。

「ひ、ひぇぇ、アカネイアの王様」

 アルバは驚き尻もちをつく。

「父上、傍観しているうちに竜が人々に攻撃を仕掛けてきたらどうするつもりです。我々が行ってヨーゼフを止めるか竜を助けることの方が戦を防ぐ手立てになります」

 クロスの訴えにグスタフは首を振る。耳を貸す気もないようだ。

「わかりました。陛下はアカネイアを守らなければならない。おっしゃることはごもっともです。それではわたくしは用事がありますので失礼させていただきます」

 ユリナはヨーゼフを追うべくすぐに踵を返そうとする。

「待ってユリナ、僕も…僕だけでもいく」

 クロスはユリナの手を取り同行を迫る。

「これはグランベルの問題です。あなたは無関係です。時間がないの離して!」

「ヨーゼフは君に忠誠心なんて持ってない。行けば殺される。僕にはもう君しかいないんだ」

 手を振りほどこうとするユリナをクロスは強く抱き寄せる。

 ユリナをないがしろに使節団を思うがままに動かしていたヨーゼフに忠義がないことくらいユリナにだってわかっていた。

「どうしても行くのか? 息子よ」

「はい!」

 父の問いかけにクロスは大きくうなずいた。グスタフは腰に差した剣を差し出し、

「ならばこれを持っていけ。万が一竜に襲われたときに役に立つはずだ。今のお前なら使える」

「神剣ファルシオン! 確かにこれは竜を斬れるという話ですが、こんなものがあればアカネイアは竜に言い訳することが――」

「責任はワシがとると言っているだろう。それともやはり行きたくないと申すか?」

 クロスは何も言えなくなりグスタフからファルシオンを受け取る。

「ユリナ殿、そなたとは色々あったが、今はそなたもそなたの国も我が国・大陸の重要な相手だ。戻ったら宴を開きグルニア王、ヴァルム諸国にそなたを紹介したい。至らぬ息子だがよろしく頼む」

「はいグスタフ様。ご子息と一緒に必ず戻ってきます。宴の件どうか忘れないで」

 クロスとユリナはグスタフに深く頭を下げ急いで馬を駆りレフカンディ西の港まで急いだ。

 その後ほどなく王も兵士も解散し、アルバが王宮からとっくにいなくなっていることなど誰も気付いていなかった。

 

 

 

 

 

「グォォォォ」

「ぐわぁぁ」

 竜の攻撃に多くの兵士が消し炭となる。

「魔道士だ! 竜の弱点をつける魔道士を出せ」

 後方でヨーゼフが竜への対処を指示する。

 グランベル軍は里を見つけるなり問答無用で攻撃を始め、竜の姿をとれずにいた竜人を虐殺した。女娘はヨーゼフの命令で生かして捕らえるように言われている。辱める目的ではない。神竜の王女の血からは一番強い力が得られると思い確保するためだ。

 だが、攻撃に気付いた竜人は竜石を取り反撃を始めた。やむなくヨーゼフは男女の区別をつけず竜それぞれの弱点をついて魔法攻撃をするよう指示した。

 

「人間どもめ。また我らを裏切ったか」

「やはり千年前にメディウス様について皆殺しにしておくべきだったか」

「ガトー様が生きていて下さればあんな奴ら」

 竜人のそんな恨み言が飛び交う中、ある少女は兄代わりだった少年を思い浮かべていた。

「お兄ちゃん。あの人たちはお兄ちゃんの仲間じゃないよね」

 神竜族の王女チキ。千年前にアカネイア旧王家を復権させようとする一派に害を及ぼされることを恐れてマルスとシーダによってこの里に移住してきた少女である。

 

 激戦が行われている最中、クロスとユリナが到着した。

 二人はほどなく指揮を執っているヨーゼフと対峙する。

「ヨーゼフ兵を下げなさい! 竜の方々には私から謝罪いたします。たとえ、この身が裂かれようと」

 ユリナの叱責にヨーゼフは動じず笑顔を作り。

「これはユリナ様。ご安心を、偽神どもは一匹残らず私が抹殺いたしますので」

 ユリナはヨーゼフの愛想笑いに恐怖を覚えながら、

「偽神? 確かに彼らは創造主みたいな神様とは違うかもしれない。でも私たちのご先祖様を暗黒神と呼ばれていた存在から救ってくださった恩人なのよ。彼らがいなければ私もあなたも生まれていなかったかもしれないし、死んだほうがましな圧政に苦しんでいたかもしれない。もうロプトウスはいないの。これ以上彼らの恨みを買って何の得が」

「だまれ小娘! ロプトウスも他の十二柱も同じだ。我々は昔も今も奴らにもてあそばれているのだ。わしはあの男にそれを教えられ、この隠れ家を突き止めた。今こそ奴ら偽神を皆殺しにし我らが故郷を開放するのだ」

 グランベル兵がユリナに剣をむける。

 突然クロスはユリナの手を取り後退した。

「逃がすな、追え」

 ヨーゼフの命令を受け兵士たちがクロスたちを追う。その兵士たちの横の木が突然倒れてきた。数人の兵士が巻き込まれるが後続の兵士はかまわず木を踏み越えていく。しかしその兵たちは木を降りた途端、足払い用の穴に引っ掛かり転倒してしまう。その隙を射てクロスが剣で切りかかってくる

『うばえ! そしてわれにちからを! リザイア』

 ユリナも魔法で攻撃してきた。

「ぐぁ!」「うぐ!」

 何人かの兵が絶命するが、それでも数が多すぎる。

「なめるな」

「ぐ……」

 敵兵に斬りかかられ、クロスはひざまずいた。

「クロス様、待ってて。『かのものをいやせ リライブ』」

 ユリナがクロスを杖で回復するもののその間に敵兵に取り囲まれる。

「罠とは一国の王子らしくないせこい真似だな、だがその娘には今までお飾りとして我々に華やかさのおこぼれをくれた礼もある。想い人とともに死なせてやろう」

 ヨーゼフが勝ち誇る中、せめて奴だけでも仕留めようとクロスがヨーゼフの首に狙いを定めた時。

「グルルッ」

 金色の竜が戦場に現れた。

「あれは……まさか! 竜の王族」

 ヨーゼフのつぶやきに気付かず全兵士があらゆる魔法・武器での攻撃を試みる。だがどんな武器・属性魔法も竜に聞かなかった。

 弓は効いていたかもしれないが、かすり傷未満だったので兵士には金竜は無敵の存在にしか見えなかった。

「あの竜の生き血を飲めばわしは王に。最強の王になれるのだ!」

 ヨーゼフは切り傷の一つでもつけようと突撃した。

「グアアア」

 竜の息吹にヨーゼフも彼の周りにいた兵士も霧散する。断末魔も上がらなかった。

 竜はクロスとユリナにも近づいてくる。

(ファルシオンを抜くべきか?)

 クロスは迷っていた。この剣を使えば、竜はアカネイアの関与を疑わなくなる。だけどこのままでは自分もユリナも死んでしまう。ジェイクスを失った時の両親の悲しみやとうとうパレスに来なかったジェイクスの恋人リンネの嘆きを思えば心中に何の価値も感じなかった。

「斬ってみればいいんじゃないか」

 そんな思考を断ち切ったのはある男の声だった。

「アルバ……先生?」

 振り返りクロスは思わずその男の名をつぶやく。

「斬って血を流させてみるといい。その血を飲めば神竜の力が得られる。さすがに神器は持ち合わせていないけど、ユリナ様を連れて逃げるくらいできるよ」

 クロスは突然現れたアルバに戸惑い、何を言っているのか理解できなかった。

「アルバ先生、あなたが黒幕だったんですね」

 クロスとは逆にユリナは冷静にアルバに問いただす。

「黒幕とはひどい言いがかりですね。ユリナ様。せめて共犯者と言ってほしい。なぜならヨーゼフも王位を狙って竜を見つけるために私を利用した。宰相にとっても私やヨーゼフは替えの利く駒としか思っていない」

 アルバは忠誠を装っても無駄だと思っていたのかユリナに対してもタメ口になる。

「宰相がヨーゼフとあなたを派遣していたのね」

「おおっといけない。時間をかけると私はともかく君たちが竜に焼き殺されてしまう」

 金竜を前に余裕を見せるアルバにクロスたちは疑問を感じる。

「私は? あの竜の攻撃に耐えられるのか?」

 クロスが問うとアルバはうなずき懐から瓶を取り出す。

「エリクサー。一度致命傷を負っても全快できるリーベリアの魔法薬さ」

 竜がしびれを切らし一歩近づいてきた。

「さあ危なくなってきた。竜を斬り生き血を飲むか。二人で心中するか。さあ早く決めろ!」

「ユリナ、逃げろ!」

 アルバのたわごとを聞かずクロスは叫び、半ば無意識でファルシオンを抜いた。

『お兄ちゃんの剣?』

 竜は動きを止めこちらをいや、剣を見ている。

「「「……?」」」

 そしてあっけにとられるクロスたちやアルバにそっぽを向いて真逆の方向へ去っていった。

「神竜に何か習性があるのか? まだまだ研究不足だな」

 クロスはつぶやくアルバに剣をむける。

「動くな。あなたを捕まえ、竜たちの前に引きずり込む。生かしてもらってもグランベルへ強制送還だ」

「君は話を聞いていなかったのかね。このエリクサーがあれば刺されても射貫かれても1回だけ全快さ。無駄な脅しをしてないで生き残れた喜びを二人で分かち合うといい。私は竜の研究を続けに新しい拠点を探そう」

『ひかりよ、われにちからを… オーラ』

 ユリナの魔法がアルバを撃つ。うめいているすきにクロスがファルシオンで刺す。アルバは気絶もせず話通りエリクサーの力で全快した。アルバは捨て台詞も発さずにワープの魔方陣を地に浮かべた。その時弓矢がアルバの胸を貫いた。

「ぐ……なに……?」

 アルバは驚愕の表情のまま命を絶った。

「弓? いったいどこから」

 クロスは矢が放たれた方角を見るがそこには鎧兜を着た兵士が一人。

「あなたは? いったいどこから」

 クロスが訪ねるものの弓兵は踵を返し去っていった。

 

 

 

 

 

 生き残った竜人は里を離れ、別の里に移らんと移動している。グランベル兵を消滅させたチキも遅れてやって来ていた。

「私たちはこれから別の里に移るが、チキはどうする? 彼らは君を狙っていたようだが」

「うん。もうお別れした方がいいよね」

 仲間の問いに涙を浮かべチキは決別を決める。

「でも、どこへ? 一人だけ別の里に隠れてもかえって危険だぞ」

 そんなチキを見かねてか純粋にかえって危険だと思ったのか仲間の一人が反対する。

「では我々の国へ来ていただけませんか?」

 そこへどこからか声をかけられる。竜人たちは石をもって振り返ると

「私はヴァルム大陸ノーヴァ教国の僧兵チェルシー。神竜様をお迎えに上がりました。決して危害は加えません。どうか失われたミラ様に代わって我々の心の拠り所となってください」

 弓をしまい、手をあげ、攻撃の意思がないことを訴える弓兵の女だった。

 

「ところでユリナ、いつからアルバが怪しいと思ってたんだい?」

 パレスへの帰り際の船の中、クロスがようやく思い出した疑問をユリナに尋ねる。

「レフカンディについた時くらいです。ヨーゼフの動きに気付いて慌てて駆け付けた割にヨーゼフは私たちが追い付けないところにいた。個人に比べて軍の動きは鈍重ですからノルダを出てすぐに追いつけないとおかしいんです」

「そ、そうか」

 ユリナの推察にクロスは感嘆する。

「そうかってアルバは気付かれていること前提で話を進めてましたよ。王位継承権も得たんですから剣ばかり振ってないで勉強にも力を入れてください。私がいない間も臣下をいじめてはだめですよ」

「はい。……っていないってもしかしてグランベルに帰るのか? もう君なしではいられない。どうかアカネイアに残ってくれ」

 クロスは出立前の父にしたより深く頭を下げる。あと一押しで土下座までしてしまいかねない。

「やめてください、皆様見ています。一時だけです」

「一時?」

 頭をあげクロスは復唱する。

「今回のヨーゼフの竜虐殺を陛下に報告するために、そして宰相の断罪のために。私はグランベルへ戻ります。私が戻るまでの間に勉強もできる殿方になっていてくださいね。クロス」

 ユリナはウインクしていたずらな笑顔で初めてクロスを敬称なしで呼んだ。

 

 

 

 

 

チェルシー クラス︰スナイパー

ノーヴァ教国騎士修道会の僧兵。神竜を探すため商船の護衛に扮してアカネイア大陸に潜りアルバを尾行して竜族の隠れ里を見つけ出した。

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