ファイアーエムブレム 聖痕の覚醒   作:ヒアデス

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正史√
第44話 封印


 →すぐに突き刺す。

 

 

 

 

 

 駄目だ。やはりできない。

 ギムレーとともに僕も過去に行ってもギムレーを倒せなければ、過去に世界にはこちらの世界から来たギムレーと過去の世界のギムレー、二体のギムレーが存在することになってしまう。この二体が巡り合えばとんでもないことが起きる気しかしない。

 それに僕が過去に行けばアカネイアの人々はどうなる。なによりカーシャやエルスとマリアンヌに僕は新しい国を作りカーシャを貴族に引き立てると言った。そんな大層なことを言っておいてギムレーを滅ぼせる確証もないのに祖国を捨て僕一人異なる世界へ行くのか?無責任この上ない最悪の王族だ。

 もっともその二つの理由は大義名分という言い訳で本当は彼女と離れたくないだけなのかもしれないが。

 ようやく相思相愛だと認め合えたカーシャ。これから何があっても彼女を手放したくない。

(僕はとんだ親不孝者だな)

 

 

 

 

 

 

 ズブリ、

 それだけの考えを刹那に浮かべカイルは今立っている場所、ギムレーの首の後ろとなる箇所に剣を突き立てる。

 グワオオオオオオオ!(おのれえええええええ!)

 ギムレーは大きな断末魔を上げ首をカクンと落とした。

 その巨体は角度を大きく下げいずこかへ堕ちていく。

「うわああああ!」

 カイルたちが悲鳴を上げた瞬間。

 

 

 

 

 

 

「ああぁぁぁ!」

 そこはアカネイア軍の陣地だった。もう夜も明け朝日が昇り始めている。

「カイル殿下!」

 アカネイア兵がカイルの名を呼ぶ。

「カーシャさん!」

 ティアがカーシャの名を呼ぶ。

「チキ!」

 キットが転移と同時に人の姿に戻ったチキの名を呼び涙ながらに彼女を抱きしめた。その拍子にばらばらになった神竜石だった破片があたりに転がり落ちる。だがそれを気にするものはチキ以外いない。

「戻ったのか?」

 辺りを見回すとアイクたちやファルスたちはいない。ナーガの大魔法メガスレスキューで各員元々いた場所へ戻されたらしい。

「……! そうだギムレーは!」

 しばらくしてギムレーの事を思い出したカイルは誰にともなく尋ねる。兵たちは顔を見合わせ、カイルの側近の一人が進み出て報告した。

「カイル様たちが姿を消した後どこかへ飛んでいきましたな。それ以上は……」

 わかりませんとまでは言葉にせず首を横に振る。

「大丈夫! もうギムレーは眠りについた。しばらくは復活しないよ」

「え……?」

 ふと声の方へ目線を下げるとチキがそう言ってきたのがわかった。徹夜をしのいで今頃眠気が来たのか目を上げているのも辛そうだ。

 キットはチキの肩に手を乗せ促す。

「そうです。戦いは終わりました。ですからチキ様、もうお休みください。船まで…いえノーヴァまで私がお送りしますから。チキ様はお好きなだけお眠りください」

 キットらしくない魅力的な提案にチキは首を横に振る。

「ううん。まだ伝えなくちゃいけないことがあるの。……今寝たらみんなが待ちきれなくなるまで寝たままになっちゃうだろうから頑張って起きてる」

「チキ、少しぐらいみんな待つよ。君のおかげでギムレーを倒せたんだ。ヴァルム皇帝にだって文句は言わせない」

 カイルの申し出にもチキはうなずかない。力ない声でカイルに懇願する。

「……いいえ待たせすぎて怒ることもできないくらい長く寝ちゃいそうだから……だからカイル…早く各国…アカネイアの残り2つの国とヴァルムのどこか1国の王様を呼んで来て…お願い」

「わかった! ……ええと」

 ただ事でないチキの様子に大慌てでカイルは伝令を頼もうと適当な兵を探す。

「私が――」

「私が行きます!」

 名乗り出ようとしたカーシャを制してティアが進み出る。

「私が天馬や竜騎士を擁している国に知らせてその国に別の国への伝令をお願いしてここに呼びます。さあ早くご命令を!」

 すでにある国の陣に行こうとしているティアは命令を催促する。

「わかった。ティア、アカネイアのどちらでもいい。その国の王にここへ来るよう頼んでくれ! 大至急だ!」

「はっ!」

 パカラ! バサバサ!

 ティアは大急ぎで天馬を飛ばし、ペレジアの陣へ向かう。あの国はギムレーのブレス攻撃以来天馬騎士は少なくなったが竜騎士は多い。ペレジアからフェリアかヴァルムのどこかの国へ伝令を頼むつもりだろう。

 そんな中キットはまだチキを気遣う。

「チキ様、本当に起きていて大丈夫ですか? どうしても伝えたいなら私が代わりに伝えますよ」

 チキは首を横に振る。

「ううん。それより手を握っていて、気が緩むと寝ちゃいそうだから痛いくらい」

 キットはまだ何か言いたげだったがチキに言われた通り彼女の手を強く握る。

 

 

 

 

 

 バサバサ!

 ティアがもう一体の天馬に乗ったものを連れて戻ってくる。それは――

「よう! ギムレーが動きを止めた途端、幽霊に連れられてイストリアから傭兵が二人消えちまったと聞いてどうなっちまうもんかと思ったけど、ギムレーは逃げたそうじゃないか。ひとまずこれでめでたしかな」

「カイル。戦勝を喜んでいる時に一体どうしたと言うんだ?」

 天馬武者のナノハと彼女につかまって一緒に天馬に乗ってきたソンシン王リョウヤだった。

 その後しばらくして……。

「カイル! ギムレーを倒したんだってな。アイネも後で礼を言いに来るってさ」

 フェリアの砂の王ザンザが息を切らせて駆けつけてきた。

 ほどなくペレジアの司令官ジェルドも来るがその表情は晴れない。

「カイル殿すまん! 我が兵の不始末で皆に迷惑をかけた。どうやって挽回すればいいものか」

 ペレジア軍はギムレーに恐れをなした兵が起こした反乱の対応に追われた結果、シューターの防衛や組み立てどころではなく、ギムレー討伐に役に立たないどころか造反部隊が他の軍にシューターの矢を撃ちこむわむしろ妨害行為まで働いた。ギムレーの手先だと言われても仕方がない。他国から攻撃されないだけ御の字だろう。

 だがカイルはペレジアを責めるつもりはなかった。それより謝罪を聞いている暇も惜しい。

「いいえ、ギムレーは屍を蘇らせる現象を起こし、その巨体から放つ息吹で世界全てを破滅に陥れかけた。怖れを抱いても仕方がないでしょう。……それよりみなさん早く巫女殿のところへ! 彼女が皆さんに伝えたいことがあるそうです」

 

 

 

 

 

 チキの待つところにカイルは各国の首脳を連れて来た。その後ろにはカイルの臣下としてカーシャ、ルッツ、ベルモットが控えている。

「みんな…」

 キットに手を握られ辛そうにチキは皆の方を見る。

 チキの様子に呼ばれた各国の王は驚く。

 たまらずカイルはチキのところまで駆けつけ話しかける。

「チキ! みんな来てくれたよ。さあ早く君は何を話したいんだい?」

 チキは緩やかに口を開きカイルの持ってる盾を指さす。

「うん……カイルが持ってる封印の盾…そこにはまっているオーブをみんなに分けてあげて」

「え……?」

 チキの言葉にカイルは驚く。

「でもこのオーブは封印の力の源泉で地竜や今やっとの思いでねじ伏せたギムレーを封印し続けるにはこのオーブがないと」

 チキは首を横に振る。

「いいえ……今のオーブはギムレーを封印した影響で大きすぎる力を常に放っている状態なの……オーブをすべてはめた盾が悪用しようとする人の手に渡ったらギムレーを復活させることもできる」

「なんだって!」

 やっとの思いで封印したギムレーも盾を悪用すれば復活させることができるという事実にカイルだけでなく一同が仰天する。

 チキは一度うなずいて続きを話す。

「うん。……だから1か所に集めておくべきじゃない。それにアカネイアのお宝を分けることは各国との友好の証にもなる。……大丈夫! 言ったでしょ。今のオーブは盾にはめなくても封印の力を保っておけるって……じゃあカイル。あなたはどのオーブを持っておきたい?」

 チキに尋ねられカイルは5つのオーブを見て決める。

「これだ! この光のオーブ……光を表すこの宝玉は僕が作る国の宝にしたい……いいかな?」

 チキはこくんとうなずき手を差し出す。

「じゃあ残りのうち一つは私が……星のオーブをくれないかな。今度は星空が見られる夢を見られるように」

「……ああ!」

 カイルは盾から青い星のオーブを抜き取りチキに渡す。チキは大事そうに懐にしまった

「恥ずかしいからあまり人に言いふらさないでね」

 冗談ぶった風にチキは言う。チキがオーブを持ってることを誰にも言うなという意味だろう。カイルはうなずく。

「わかった。これから王になろうというのに大事な秘密を言いふらす口は持っていないよ」

「さあ! 残りのオーブも他の王様に」

「ああ。さてと……」

 カイルは盾を掲げながら皆の方を振り返り誰に何を渡したものかと考える。

「じゃあ俺には……その赤い…ええと命のオーブをくれ」

 カイルとチキが話している間にキットが書き留め手渡された紙を見ながらザンザは申し出る。

「えっ? ……いいけど一応理由も聞いていいかな。代々後継者に譲っていってほしいから思い入れを持てる理由があればいいんだけど」 

 命のオーブを抜き取りながらカイルは尋ねる。

「……俺たちのいた砂漠は過酷だった。毎日死人が出るくらい。だから今アイネから任されている街に誰もが明日を保証できる国を建てたい。その象徴として命と名付けられた宝玉が欲しい。必ず大切にする。……それにこんなことを言う資格があるのかわからないが俺たちが殺しちまった人たちを忘れない自戒の証が欲しいと言う意味もある」

 最後は苦々しく言うザンザの言葉に納得したカイルは彼に赤い命のオーブを渡す。

「……そうか。カダインの人たちに報いるためにもあの町を必ず復興させてくれ」

「おう! お前もカーシャを泣かせるなよ。カーシャが流していいのは嬉し涙だけだ」

「もうザンザ! 何を言ってるのよ!」

 命のオーブを手にとってそんなことを言うザンザにカーシャは口を挟む。

「ではカイル。俺たちソンシンには大地のオーブをくれ」

 それからリョウヤが進み出てくる。

「リョウヤ殿らしいですね。やはり自然豊かな国にしたいと言うことでしょうか」

「うむ、赤いオーブも捨てがたかったがザンザからああ言われたら仕方ない。赤は俺が好きな色だったと言うだけだからな。……それなら緑色の、この大地のオーブが欲しい。ラム村の東はまだ森や谷が険しくてな。アルバレアやイストリアとの行き来は厳しい。村人の生活を楽にするためにもそこを整備して、安全に他国と行き来でき子供たちが駆けまわれる平地にしたい。そんな願掛けのためだ。駄目か?」

「いいえ。ソンシンのこれからの発展を祈っています」

 カイルは快くリョウヤに緑色の大地のオーブを渡す。

「無論だ。お前が作る国とどちらが豊かになるか競争だな」

 そこへおずおずとジェルドがやってきた。

「ならば私には闇のオーブをくれ」

「え? ……確かにこれだけ余っていますが……いいのですか? もう少し話し合ってもいいのですよ」

 アカネイアの歴史を悪しき方へ動かしたいわくつきのオーブを進んで受け取ろうとするジェルドにカイルは驚き本当にいいのかと念押しする。

「ああ。我が国ペレジアは宗主国のアカネイアを……カイル殿のお父上、クロス陛下を裏切って作られた国だ。それに……どうやらこの島に上陸した時からギムレーを崇拝している輩が現れたようでな。あの忌まわしい竜を…かといってこれから国を盛り立てようという時にそんなことで一部の集団を弾圧するわけにはいかん。守護神ナーガも異教を否定しているわけではないし……そんなわけで我が国は先行きが明るいと言える状況ではない。ならばあえて今のペレジアに合った闇の名を持つオーブを手元に置いてそれをバネに今の状態から脱しようと言う気持ちを起こしたいんだ。どうだろうか?」

「ふむ……」

 カイルは恐る恐る盾にはまったままの闇のオーブを触ってみて、それからそのオーブを抜き取りしばらく眺めてみる。

 ……。

 以前チキから返された時同様自らの心に邪心が沸き上がる様子はない。

「わかりました。でももし何か異変があればすぐ知らせてください」

 おずおずとカイルは黒い闇のオーブをジェルドに渡す。

「うむ。日々これを見ながら過去と現在への戒めとしてよりよい未来を目指すことを誓おう」

「ええ。我が国にもお手伝いできることがあれば言ってください」

 できればチキの言いつけに背いてでも闇のオーブだけはどの国にも預けずにアカネイアにある神殿に奉納して権力とは切り離しておきたかった。

 今から遠い後々の未来を考えればそうした方がよかったのかもしれないがカイルたちが知る由はない。

 オーブが各国に分けられるのを見計らってチキは膝から崩れ落ちる。

「チキ様!」

 キットは慌ててチキを抱きかかえる。チキは薄く目を開けた。

「大丈夫。神竜の力を失った反動で眠くなっただけだから。……ちょっと長く眠ればまた元気になるよ」

 カイルはハッとする。チキの足元は竜石だったものの破片が落ちていた。

「やっぱり……あれだけ傷ついた竜石での変身は無理があったのか……僕がふがいないばかりに」

 自らの無力を呪いカイルは拳を握りしめる。

 しかしチキは首を横に振る。

「そんなことない。カイルもアイクもみんなよく頑張った。……ファルスもね。だからあの人を許してあげて……あの手の傷じゃあもう戦えないし、侵略なんて起こせないだろうから」

「それはちょっと難しいな……あいつには恋人をさらわれたこともあったし」

「カ…カイル様ったらこんな時に何を言ってるんですか!」

 のろけるカイルにカーシャは赤くなって文句をつける。だが今はカーシャに構わずカイルは続ける。

「でも国を作るにあたってヴァルムとの交易は重要になるだろうし、これから次第だ。いまはそれでよしとしてくれ」

「ご馳走様……」

 チキは苦笑する。もう目は半分以上閉じている。

「……キット……私、キットに会えて本当にうれしかったよ。妹ってこういうものなんだって、……王子様をお兄ちゃんなんて呼ぶ無礼者の私を怒るどころかかわいがるマルスのお兄ちゃんの気持ちがわかったかも」

「チキ!」

 キットは人目をはばからずに涙をこぼし、チキにすがりつく。

「チェルシーにもお礼を言っておいて……あの人が生きてる頃にはまだ私は……」

「ええ伝えるわ! でもチキの方からも母様に伝えなさい! だから1日でも早く起きてきて…」

 必死に懇願するキットにチキは力なく笑う。

「あははっ、……相変わらずキットは厳しいな。…………私が起きるころにはせめてキットだけでも……」

「チキ! ……チキ!」

 それきりチキは目を閉じそれ以上何かを言うことは無かった。

 キットはチキの肩をゆするがカーシャに止められしばらく放心した後チキを抱きかかえ陣に戻る。

 

 

 

 

 

 そんな彼らを遠い木の上から赤毛の若者が見ていた。

「また永い眠りにつくことになっちまったか。……ざっと数百年ってところか。氷竜神殿にいたころとは違っていつかは目を覚ますのが確かな分まだいい方かねえ。……ただいったん目を覚ました後も日々の眠りが深くなっちまうかもしれねえな……」

 赤毛の若者、チェイニーはギムレーの方に思考を切り替えしばらく考える。

「……これで一件落着かな。ただし千年後には必ず復活しちまうが……その時俺もいればいいんだが、あいにく俺も暇じゃない。他の大陸でも竜が原因の災いがいつ起こっても不思議じゃないからな……じゃあなチキ。千年後に会えればいいんだが」

 チェイニーはチキの方へ軽く手を振り一方的な別れの挨拶にした。

 その後チェイニーの姿を見た者は誰もいない。もうアカネイア、ヴァルムのどちらの大陸にもいないのだろう。

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