ファイアーエムブレム 聖痕の覚醒   作:ヒアデス

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 アカネイア王国 パレス王宮。

 アカネイアの建国記念日にあたる今日。王宮前の庭園には大勢の民が国王の言葉を聞くために集まっていた。

 王宮2階のバルコニーから国王クロスが現れ聴衆の歓声がおさまるのを待ち演説を述べる。

「王国の臣民諸君。我が国が建国された記念日にあたる今日この日を諸君と迎えられるのは余にとってこの上ない喜びである。この近年オレルアンの北方から現れる蛮族に我々は恐怖し彼らと戦ってきたが氷の部族という一部族との間で、戦いを起こした前の部族長の処刑をもって氷の部族からの謝意としその代りに誰も住んでいない未開の地の一部を彼らの居住地として認めるという交渉を交わすことに成功した。これは極寒の地に住み温暖な住処を欲する彼らが起こす襲撃行為を防ぐための措置であり、勝者である我々が彼らに与える慈悲である。……被害が出た中で家臣には当然反対する者もいたが幾度の協議を重ね最後には彼らが譲歩してくれたおかげでこうして氷の部族と和解することができた。理解を示してくれた家臣と臣民諸君には今この場を持って礼を言いたい」

 クロスはここまで言って言葉を切り聴衆から歓声が上がるが先ほどの勢いはない。

 蛮族を根絶やしにするまで征伐を続けるべきだと考える者も多いのだろう。

 クロムもそう思っていないといえば嘘になる。クロムの重臣にして友ジェイクスは蛮族との戦いで命を落としたのだ。

 だが蛮族だからとは言え皆殺しにするまで戦いを続けていけばそれは紛れもない虐殺だ。

 だからクロスは憎しみを飲み込んである部族と和解することを決意した。

 クロスは対外政策の続きを話す。

「そして我が国の同盟国にして無二の盟友グルニア王国との結束を深めるため我が国はグルニアからかの国自慢の武具を購入し多くの部隊に支給する。そしてグルニアから講師や武官を招き氷の部族以外の蛮族に対抗するための演習を共同で行うことになった。その引き換えに我が国からは蛮族との戦いの勝利に貢献してくれたアイク傭兵団の雇用をグルニア軍に斡旋する。我らが誇るアカネイア軍、そして兵や武器の質において我が軍以上と言えるグルニア軍はアカネイア大陸の治安の向上に貢献してくれるだろう。それからグルニアから輸入される物品への関税を引き下げることを決定した。これを機にグルニアからの物品をどんどん買い求めてくれれば幸いだ」

 クロスが最後に話したグルニアとの貿易に関する演説の最後の一言に一部から笑いが起こる。

 場を弛緩させようとする狙いもあったのでクロスも兵も咎めない。

「それと……余はユグドラル大陸諸国と国交を回復し交易を再開したいと思っている。諸君らの中にはあの大陸からどれだけの物や技術がもたらされたのか覚えている者も多いだろう。我が国、いやアカネイア大陸の更なる発展のためどうか考えてほしい……我が妃ユリナもグランベル王国との国交回復に尽力は惜しまないと言ってくれている」

 名を呼ばれた王妃ユリナがバルコニーの奥から現れ聴衆に向かってドレスの裾をつまみカーテシーの動作をとり一礼する。その頭部には何も装着されておらずナーガの聖痕が刻む額があらわとなっていた。

 王妃の登場に再び聴衆から歓声が沸き上がった。

「では王妃も現れたところで最後に我が息子を紹介しよう。先日我が前で神剣ファルシオンを振るい王位継承権を得た……」

 クロスが話す間に奥から青髪の少年が進み出る。バルコニーの下にいる聴衆には見えないが少年の右目には王妃と同じ聖痕がある。

「アカネイア第一王子カイルである!」

 カイルは胸に手を当て聴衆に一礼する。

 国王夫妻同様カイルの登場にも歓声が沸くが夫妻ほど高い歓声ではないうえ、18歳という若すぎる王太子にどよめきも上がる。

 そんな反応にカイルは一瞬身をすくめるが勇気を奮い起こして演説を始める。

「ご紹介にあずかりました。アカネイア国王クロスが一子カイルです。親愛なる王国臣民の皆様。皆様のお力添えで王は我が国をここまで盛り立てることが出来ました。感謝の言葉もありません。どうかこれからも国の繁栄のため王に力をお貸しください。私も王位を継ぐ人間として恥ずべきことがないよう一層の精進を重ね父を助け王位継承に備える所存です」

 カイルはそこまで言ってから再び一礼する。

 途端聴衆はこれまでの歓声以上の拍手が起こった。

 若き王子は不遜な様子を見せることがなく王への助力と自身が力をつけるまで待ってほしいと懸命に民に願い出た。

 民はそんな王子に激励の拍手を送ったのである。

 立場上クロスは息子に拍手を送る真似は出来なかったが夫の分までユリナは拍手で息子をねぎらっている。

 カイルはそんな両親の方を振り向き笑みを浮かべる。

 そうして建国を記念する式典での演説を終えて3人の王族は民に手を振る。

「……あれ?」

 そこでカイルは大衆の中に紛れ込んでいるある姿を見つける。

「どうしたカイル? 民の前だ。弛緩するのは後にしろ」

 手を振りながら口元が見えぬように下がりクロスはカイルに注意する。

 「申し訳ありません父上、僕にそっくりな人を見つけたものですから」

 クロスに注意されカイルは表情を引き締めるもののその話題にユリナの方が食いつく。

「カイル、その方の髪の色は?」

「青でした。だから余計に驚いてしまって」

 ユリナの問いにカイルは素直に答える。母の疑念には気づかないまま。

「カイルとそっくり……ということはあなたとそっくりということにもなりますね」

 ユリナのつぶやきにクロスは彼女の言いたいことがわかって顔面に冷や汗をかく。

「誤解だユリナ。……カイルその人は今どこにいる?」

 カイルは自分にそっくりな人物を見つけたところを見渡す。

「…………もういないみたいですね。どこかへ行ってしまったのでしょうか」

 あらぬ誤解を晴らしてくれる人物を失ったことにクロスは内心嘆息する。今日一日妻の機嫌はよくなりそうにない。

「あなた式典が終わったらお茶にしましょうか……話したいこともありますし」

「……先に言っておくが私が愛しているのはユリナ、君だけだ」

 衛兵として王族の後ろに控えていたカーシャはそんなに3人の様子を見ながらため息をつく。

(こんな時だけ余計なものを見つけるんだからカイル様ってば……カイル様にそっくりな人ってやっぱりそういうことかしら。陛下は妃様一筋だと信じていたのに、これだから王族って……私は王族や貴族相手の恋愛なんて御免だわ)

 カーシャの中でクロスの品格が下がった瞬間だった。

 後ほどカーシャのほうも自分に瓜二つの少女が街中を歩いていたと知らされ上官からはサボりを疑われ、

 それだけでなく建国祭を楽しむためにパレスに来ていた家族もその人物に遭遇してあろうことかその人物は自分がカーシャだと認めしどももどろの言い訳をして去っていったため数カ月後に休暇で帰郷した際ちょっとした騒動になった。

 

 

 

 

 

「危ない危ない。見つからなかったかな」

「やっと撒けたわ。これだけの人ごみの中から見つけてくるなんて相変わらずライトってば目ざといんだから」

 この世界の自分に見つかりかけたカイルとこの世界の家族と遭遇し逃げてきたカーシャが街外れで新たな仲間と合流してからぼやく。

「もう一人の自分たちがいる街を変装もしないで回るからよ。特にカイルのお父さんが演説しているところなんて一番危ないところでしょうが!」

 赤髪の少女が呆れながらカイルたちを叱る。

「ごめんセレナ。人が多いからこそ変装したら余計目立ちそうで」

 カイルとカーシャは服装以外この世界の自分と同じ姿をしている。カーシャはともかくカイルは王子と瓜二つなので見つかると大騒ぎになるが右目を見せると別人だと納得してくれる。

 その右目には聖痕らしき痣はなく、青い瞳があるだけだったからだ。

 ラーズ教団を倒してカダインで一泊した次の朝に聖痕は消失した。この世界のユリナとカイル以外の人間が聖痕を宿していれば悪影響が生じると考えたナーガの仕業だろう。

「まあまあセレナ、前の世界ではこの頃にはもうパレスはギムレーに滅ぼされてたそうだし、見ることができなかったお父さんやもう一人の自分の晴れ舞台を見てみたいというのはよくわかるよ。僕だってもう一人の自分が踊っているところを見てみたいと思っていたし」

 カイルたちを叱るセレナを銀髪の青年がなだめる。カーシャはそんな青年に、

「あらアズールさん? もう戻って来てたの。こんなお祭りなら声をかける女性はいくらでもいるでしょうに」

「いやカーシャ、むしろ成功したらまずいんじゃない。今のパレスには大陸中から人が集まってきているし自分のご先祖様がどれだけいることか」

 驚き4割嫌味6割でアズールに声をかけるカーシャにカイルは推測を語る。しかし――

「その心配はないわ。私を誘った時も本当に食事を奢ってもらっただけだし。この間から練習してた出し物が終わったから戻ってきたんじゃない?」

 金髪の女性が氷菓子を食べながらアズールを擁護する。

「踊りか。そういえば一生懸命練習していたな。男の踊り手なんて聞いたこともなかったからさぞ珍しがられただろう」

 アズールがダンサーだと思い出したカイルは納得しアズールを案じる。

「確かに珍しかったようだけどね。僕たちの時代でも踊り手はみんな女の子ばかりだし、でも受けはよかったよ。歩みを止めて見てくれた観客は女の子ばかりだったけどね」

 アズールは予想よりも評判がいいことに安堵していたが男にも自分の踊りを注目してほしかったようで若干残念そうな表情をする。

「そういうことなら応援するわ。そうだ! 私たちにもアズールさんの踊りを見せてよ。カイルには女の子の踊り手を見せる気ないけど男の人の踊りくらいは許してあげるわ」

「ははは……まあ本当にアズールの踊りは見ていて元気が出るからよければ見せてほしいな」

 カーシャとカイルの応援を受けアズールは照れくさそうに髪をかく。

 そこでセレナは辺りを見回して尋ねる。

「……それで、あいつはまだ帰って来てないの?」

「うん。まだ盛り上がってるようだね」

 アズールも呆れながらため息をつく。

「「……」」

 そんな中カイルとカーシャは複雑な様子でうつむいた。

 金髪の女性は仲間の様子を気にせず氷菓子を貪り続けている。

 彼女はクライネ。リーベリア大陸で暮らしていたところをラーズ教団に拉致・洗脳され魔女として教団に入れられたらしいが、砂漠での教団との戦いの際にアズールの峰打ちで気絶し教団で唯一生き残った。

 その後カダインで治療を受けある仲間が頭の片隅で覚えていた呪術とカーシャの懸命な説得でなんとか正気を取り戻し事情を聞き出したカイルたちはクライネを街に引き渡さず一緒に連れていくことにした。

 その時クライネが着ていた魔女の服は露出が多すぎるというカーシャとセレナの意見でカダインで新しい服を彼女に買い与えた。

 当初はこの後ワーレンでリーベリア大陸に行けるような船に乗せて別れるつもりだったが……。

 

 

 

 

 

「俺こそ……異なる時間軸より来たる選ばれし希望の戦士……ウード! かつてない巨大な邪竜だろうと智恵の神祖竜の邪心だろうとこの世界を好きにはさせん!」

 金髪の青年……ウードは子供たち相手に口上を述べていた。

 そんな光景をアズールとセレナは呆れてジト目で見守り、カイルとカーシャは頭を抱えてうなだれる。クライネは我感せずだと知らん顔だ。クライネにかけられた術を解いたのは呪術師の力がわずかだけ残ってた彼なのだが。

 彼の名はウード。初代聖王となったカイルとカーシャの子孫の一人だ。その証に腕にはカイルと同じ聖痕がある。

(あれがもう一つの世界の僕たちの子孫なんだよなあ)(ギムレーを封印した世界のカイルと私は子供にどんな教育をしたのよ)

 二人はもう一つの世界の自分たちを呪うが彼らのせいではない。絶望の未来において仲間や住民を元気づけ奮い立たせるためのふるまいが高じて普段の行動や言動にも現れるようになったのだ。彼の母リズが若干その性質を隠し持っていたのも原因かもしれないが。

 不幸中の幸いにもウードの家系は傍系で聖王ではない。せめて聖王のほうはまともであってほしいとカイルとカーシャは心から願う。

 

 

 

 

 

 マーモトード砂漠でギムレーを倒した後喧嘩し和解した二人が出会った三人はアズール・ウード・セレナ。

 カイルがギムレーを封印しイーリス聖王国という国を作り聖王となった世界の千年後の未来から来た戦士らしい。透魔の神祖竜ハイドラからの頼みでアカネイアが建国される以前の「三国記」の時代で戦い、その帰りにナーガからカイルたちへの救援を依頼されてこの時代に来たという話だ。

 砂漠で会った際聖痕を見てカイルを初代聖王だと実感した三人はカイルたちに敬語を使ったりしてたがここにいるカイルはもう初代聖王とは別人だと言ってやめさせた。――ウードは血が騒ぐと相手が誰であれああいう口調になり、セレナは敬称の有無だけで言葉遣いは全く変わらないので振る舞いが大きく変わったのはアズールだけだが――

 その後ギムレーを開放するためにテーベの塔へ向かってくるラーズ教団を倒してからクライネを保護したカイルとカーシャは三人と行動を共にしこのパレスまでやって来た。この世界のクロスとユリナ、もう一人のカイルの無事を確かめるために。しかしそれももう終わった。

 

 

 

 

 

 子供たちはウードの寸劇に飽きたようで別の出店に行き、ウードはカイルたちの方へやってくる。

「待たせたな。同じ英雄王の血を継ぐ者……聖王カイ、んぐっ!」

 カイルはまだ人がいるにもかかわらずカイルの名を呼ぼうとするウードの口をふさぐ。この世界では聖王とやらは現れないらしいがこのパレスでカイルの名を出されるのはまずい。

「カイ……そう。僕の名はカイだ。そうだったね?」

 コクコク。

 見物人が去ってひとけがなくなったのを確認するとカイルはウードの口から手を放す。

「いやーすいません。まさか伝説の初代聖王と会える日が来ると夢にも思わなくて思わずテンション上がっちゃって」

 反省して素に戻ったウードはカイルに謝る。しかしすぐに元に戻るので油断できない。

「だから何度も言ってるけど僕は初代聖王じゃないよ。それはギムレーを封印することを選んだほうの僕……別の世界のカイルだ」

 カイルはそう言って訂正する。とはいえカイルもカーシャもまだ信じられない。あの時、ギムレーに剣を突き刺すか刺さないかで2つの世界が生まれることになるなんて。

「この世界線のカイルは初代聖王にあらずか……だが忘れるなよ。俺たちがいた世界線の初代聖王もまたお前自身だということを」

 ウードはもう立ち直ったらしい。さらに意外な人物がウードに同調した。

「そうね。聖王様にならなかっただけでカイルはカイルに変わりはないじゃない。カーシャが初代聖王お付きの伝説の天馬騎士であることに変わりがないように」

 セレナはそう言ってカーシャと対峙する。セレナはカーシャを慕っていたあのティアの子孫だという。

 負けず嫌いな彼女は先祖のティアや母親が憧れるカーシャに対抗心を燃やし、度々模擬戦を仕掛けている。

「そんなに目の敵にしないでよ。セレナさんかなり強くて負けることも多いし、もうセレナさんの方が強いってことでいいわ」

 本心からカーシャはそう言う。

 それにカーシャは自分がティアより優れているとは思っていない。

 ティアは入隊した時から常に優秀な記録を残し続けた。だがカーシャは訓練の成績は並みでカイルの付き人になったのも彼と年が同じというところがユリナの目に留まっただけだ。

 伝説の天馬騎士というのはヴァルムでの戦いが過剰に評価されたに過ぎない。

 だがセレナはそんなカーシャを謙遜しているだけだと思っているようだ。

「ふん、そうはいくもんですか。あの未来に帰ると決めた以上母さんには会え……ごほん、勝負できないし、こうなったら母さんが憧れた伝説の天馬騎士を完膚なきまで倒すことで母さんを超えてやるんだから!」

 セレナは鼻息荒くカーシャにまだまだ勝負は終わってないと告げる。

(一方的な)火花を散らす二人をよそにアズールはカイルに尋ねる。

「カイル、本当に僕たちと一緒に行くのかい? ハイドラさんという人のおかげで大地だけは再生したとはいえ千年後の世界はギムレーに滅ぼされかけて国はなくなり公共施設もない不便な時代だ。カイルにはもう聖痕もないしこの時代に残っても影響はないと思うけど」

 アズールの甘言にカイルは首を横に振る。

「行くよ千年後の世界へ。一度はこの世界で骨をうずめる気でいたけど未来へ行けると聞いて気が変わった。この世界には本来ここに存在する僕とカーシャがいる。どこの辺境へ行っても向こうが視察とかで来て偶然出会う可能性は皆無じゃないしそうでなくても少なからず影響は起こるはずだ。その可能性を摘み取るためにも」

 それだけではない。カイルとカーシャはギムレーを完全に滅ぼすためとはいえ王や騎士としての責務を放棄してこの世界に来た。安穏とここで暮らすより滅びかけた世界へ行き困窮した人々を助けるのが自分たちの役目ではないかと思った。

 だからカイルとカーシャはアズールたちの持つ「転移の水晶玉」で未来に行く。パレスへはその寄り道で来ただけだ。ただ……。

 そこでカイルはクライネの方を見て尋ねる。

 氷菓子は全部食べて彼女の手元には何もない。

「でもクライネは帰ったほうがいいんじゃないか。僕たちに付き合わなくても…」

 カイルの言葉にクライネは首を横に振る。

「いいえ私も行くわ。言ったでしょう。私の家族は教団に殺された。今更故郷に帰っても途方に暮れるだけよ」

「しかし今から僕たちが行く時代は荒廃している。辛くても帰る場所がある君の行くところじゃ…」

 カイルはクライネをなんとか説得しようとする。だがクライネは譲らない。

「だからよ! 操られていたとはいえ私もこの転移術で教団の蛮行に手を貸してきた。この罪は許されるものじゃない。……まさかあなたカーシャの時のように私も捨てるつもり?」

「うっ……」

 クライネもカーシャからあの時のことを聞かされたようだ。それを言われると何も言えない。

「わかったよ。でも戻ることはできないらしいから後悔しないように行くかどうかはもう少しよく考えてみてくれよ」

 そう忠告するカイルにクライネは笑みを浮かべ、

「しないわよ後悔なんて、もう私の人生は教団の奴らに奪われたんだから。それを全く知らない場所で1からやり直せるなんて願ったり叶ったりだわ」

 クライネはなんと言われようとこの時代に留まるつもりはないらしい。

「そうか。今後ともよろしくクライネ」

 カイルはクライネを正式に仲間に加えることにする。

 ギムレーに殺されずにすんだ両親と彼らの後を継ぐだろう自分の姿を見て、そしてカイルの連れは誰一人この時代に残るつもりはないと確認した。これでここに未練はなくなった。だからカイルたちはアズールたちの持つ「転移の水晶玉」の力で彼らとともに千年後の未来へ行く。

 決意を新たにするカイルとクライネに腕をむけて(手のひらを上に向けるようなポーズを取っているため握手がしたいわけではないようだ)ウードは言う。

「いいだろう。キング・オブ・ホーリー・ザ・カイル、ダークサイドマスター・クライネよ。お前たちを我らガーディアン・オブ・イーリスの一員に加えよう。同志として我々とともに悪を討とうではないか!」

「次にそう呼んだら二度と口を利かないからね」

「カイル、アズールこの人だけこの時代に残してはどうかしら」

「すみません。暗夜で仲間と別れて寂寥感を感じていたところ新しい仲間が入ることになって有頂天になってました」

 カイルとクライネに一喝されてウードは委縮した。

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