パレス近くの森林地帯。
人がいないのを確認してアズールは他の皆に確認を取る。
「ではみんな、特にカイルとカーシャ、クライネ。準備はいいかい?」
アズールの問いに他の皆はうなずいて続きを促す。カイルもカーシャもクライネももうパレスに残したものは何もない。カーシャの愛馬ケリーもパレスに来るまでの旅の間に野に放った。
アズールはそれを確認すると袋から小さな水晶玉を取り出した。これが転移の水晶玉だ。
「ではみんな水晶玉に触れて……そして念じるんだ僕たちの故郷……僕たちにとっての現代の世界を……カイルたちは想像できる限りの遠い未来を思い浮かべてくれればいい。行ける時代は一つだけだからカイルたちだけ別の時代に飛ばされることはない」
「ああ」「ええ」「うん」
アズールの助言を受けカイルたちは自分たちが想像できる限りの未来を思い浮かべる。
セレナはカーシャの方を見た。
「やっぱりこの時代に残るとかなしだからね。絶対に勝負の続きをするんだから」
「カイルも未来に行くつもりだし私だけ残る気はないわよ……まあ勝負の方はお手柔らかに」
セレナがカーシャに釘を指していると5人は淡い光に包まれる。
「さあパワークリスタルよ。我らをはるか時の果てへ!」
ウードがそんなことをのたまっている間に5人を包む光は強くなる。
「うわ!」
カイルは思わず声をあげた。
「声を出すのは構わないが玉から手を離すな! 君だけこの時代に取り残されるぞ」
アズールにそう言われカイルは強く水晶玉に手を押し付ける。
「……」
クライネは正気を取り戻したとはいえ記憶を失ったわけでもないので転移には慣れており光に包まれても全く動じていない。
途端、
彼ら5人は最初からいなかったかのように跡形もなくこの世界から消失した。
「ここは……?」
「あれっ? アズールたちは?」
光がおさまるとカイルとカーシャだけが野原にいた。
周りには花や緑があふれていてギムレーに滅ぼされる寸前だったと思えない。
アズールたちから神祖竜の一人ハイドラの力によって大地を再生してもらったと聞いたが正直あまり信じていなかった。
「ここ本当に未来なの? 確かにさっきの森林とは違う場所みたいだけど……実は同じ時代の別の場所へ転移しただけだったりして」
目の前に大きな街があるわけでもなく千年後に転移したとは信じられないカーシャは思わず言った。
「どうだろうな。僕たちでは時空転移に失敗したかどうかもわからない。それよりアズールたちを探さないと……ただその前に」
「え……わわ……ちょっとカイル!」
二人きりだとわかったところでカイルはカーシャを抱きとめる。
「カイル……まさか二人きりになれたからってこんなところで! せめてアズールたちを探してこの近くに町があるか確認してからにしてよ」
アズールたちとはぐれたらしいとはいえさすがに節操がなさすぎる。当然カーシャは抵抗するがカイルはそれ以上は何もしてこず――
「カーシャ……ここが今までいた時代と同じ世界だろうと未来だろうときっと楽に過ごすことはできないだろう。色々苦難があると思う。ただいつの日か今を振り返って大変だけど楽しい思い出だったと思えるようになるくらい君を幸せにするよ」
「カイル……なら私はいつかと言わず何年か以内にはあんたを幸せだと思えるようにしてあげるわよ。ここなら王子様や王様やってるよりずっと刺激に満ちた楽しい日々を過ごせるだろうし」
「やれやれここ何日かで負けず嫌いになっちゃったな。セレナの影響かな」
「かもね!」
しばし張り合った後二人は自然と口を近づける。
ガサ!
「「え?」」
近くで草を踏みしめる音がして二人は音の方を向く。
そこには青い服を着て長い青髪を流した女性がいた。髪を束ねたり目元を隠せば男にも見えなくもない中性的な容姿だった。
カイルは女性を見て一瞬肖像画で見たマルスが現れたのかと思った。遠目でよく見えないが左目に文様のような痣が見えるような…。
女性はまだ抱き合っているカイルたちから慌てて顔を背ける。
「す、すみません。……あの私何も見てませんからどうぞ続きを」
そう言いながらも興味があるのかこちらを横目で見ている。さすがに口づけから先をしようとすれば止めるか逃げるかするだろうが。
そんなカイルたちのもとに何人かが近づいてくる。
「カイル……人前で何をやっているの? あの教皇もそこまでの性癖は持ち合わせていなかったわよ」
抱き合うカイルたちとそれを盗み見てる女性を目にして引いているクライネが、
「あっ! カイルこんなところに…あれ、ルキナ! こっちへ帰って来てたの?」
やっと見つけたカイルたちと知り合いらしい女性に声をかけるアズールが、
「おおホーリープリンセスにして我がソウルシスタールキナ! あの世界で見ないと思ったら……まさか初代と未来の聖王が顔を合わせるとは、これも運命の選択か」
あいかわらず妙な言い回しをするウードが、
「あっ、カーシャ! 私たちが転移したところにいないから逃げたのかと思ったじゃない。ルキナそこのミニスカ捕まえといて。気絶させてもかまわないわ」
カーシャを好敵手として逃がそうとしないセレナがやってくる。
「えっ! みなさん戻って来たんですか? アズールさんたちその髪の色は? それにそちらの方々はみなさんの知り合い?」
ルキナと呼ばれた女性は思わぬ再会を果たしたらしい三人とカイルたちを見比べてどうすればいいのかわからず動けずにいる。
「……」
「……」
カイルとカーシャは目を見合わせる。
ウードとセレナはともかくアズールとルキナさんとやらは男女間のことに興味津々な様子。この場で捕まったら根掘り葉掘りあれこれ聞かれるに違いない。
(カイルここはあれしかないわ)
(そうだな)
二人は言葉を出さず目線だけで意思を伝え一回だけうなずいた後、
全速力でその場から逃げた。
「あっ! 待ちなさいよ」
「あ、セレナこういう時はあまり邪魔しない方が」
「待て待てカイル。せめてルキナにお前を紹介させてくれ。初代聖王のことを英雄王とクロム伯父さんの次に尊敬していたんだから」
微妙に低いな!
「この状況で転移を使ってカイルたちを捕まえるのも邪道ね」
千年後に来てカイルたちが最初に行ったのは仲間たちとの追いかけっこだった。これから待ち受けている未来世界の復興作業の前の気晴らしと考えれば悪くはないかもしれない。
ルキナがカイルの末裔でこの世界での事実上の聖王だと知るのはこの日の夕暮れのことだった。
異郷の旅人 カイル カーシャ
ギムレーとの戦いの中ギムレーとともに第二世界から消失し最終的には第一世界の千年後に根を下ろした。その後の彼らのことは不明だがカイルとカーシャの二人はお互いを心から愛していた。それは間違いない。
元ラーズ教団の魔女 クライネ
第三世界のクライネはカイルたちに洗脳を解かれともに第一世界の千年後へ渡る。ほどなくその地で平凡な男性と知り合い結婚したという。
FIN
これで本当に完結です。クライネを救いたくて加筆修正しました。最後まで呼んでくださった方本当にありがとうございます。
この作品は終わりますがこれからもファイアーエムブレムという作品をごひいきにしてください。