ファイアーエムブレム 聖痕の覚醒   作:ヒアデス

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カイル編
第7話 屍と巨竜


 マーモトード砂漠の奥地 テーベの塔に黒いローブを着た神官と黒い甲冑を身にまとう騎士の一団が迫って来ていた。

「……はぁ、はぁ、教皇様、この塔が?」

 砂漠の行進で乾いたのどを震わせながら老司祭が教皇と呼ばれている男に尋ねる。

「うむ、この地下だ。この塔の地下に我らが崇拝する神、ラーズ神がおられる」

 司祭よりはるかに若い教皇が司祭の問いを肯定する。

 ラーズ教団いやラーズ教団を称する残党たちが教皇と呼ぶ長クラウディウス。彼は魔女クライネから水を受け取りながら塔を眺めていた。

 百年近く前、ラズベリア大陸と言う地ではヴェリア王国率いるベルウィック同盟とラーズ帝国が覇権を争っていた。だが、戦争の糸を引いていたラーズ教皇ウルバヌスは追放され、同盟と帝国が和平を結んだ。

 ウルバヌスが失脚しても彼を慕い従った一派はラズベリア諸国に復讐するべく至高神ラーズを降臨させようと目論ろみ、多くの教団員の先祖ゾーア人が住んでいたリーベリア大陸に移り住み、ゾーア人の崇めていた暗黒神ガーゼルがラーズの正体だと思い込み、シエロ山地下神殿を探索し調べ上げた結果、ガーゼルの正体がアカネイアから来た竜だと知った。女を洗脳し魔女にするすべもリーベリアで会得した。そしてリーベリアの北、このアカネイア大陸に辿り着いたのである。それまでの間に教皇の位は2回継承された。現在一派にとっての教皇がクラウディウスである。

 だが神官たちは気付かなかった。地下神殿を探索して以来クラウディウスの精神はある邪念に侵されつつあることを。

(ユグド人も、裏切り者を出したゾーア人も、人間すべてを滅ぼす)

 未だ人間への恨みを募らせる古代ゾーアの部族長ガルバザンの思念に。

 

 

 

 

 

 

 クロスのアカネイア王即位から18年後。アカネイア王都パレス。

「へえ、この前よりにぎやかだな」

 青い髪の少年は華やかな街に感嘆する。

「異大陸から来た傭兵団のおかげで治安が安定しましたからね。ならず者ばかりか1月前はオレルアンに侵入しようとした蛮族を追い払ったそうです」

 ショートカットを切りそろえた赤い髪の少女が返事を返す。

「北の蛮族って父上が友達を失ってまでようやく追い返した屈強な戦士だろ。あれを傭兵団だけで?」

「団長が凄腕なんですって、アカネイアにない奥義で蛮族を一太刀で10人以上蹴散らすって噂です。あと多くの団員が獣に変身する幻術を会得しているとか。それはデマでしょうけど……それとカイル様」

 そこまで言って少女は声を低くして、

「ジェイクス様のことは陛下の前では話題にしないでください。未だに気に病んでいらっしゃるんですから」

「わかってる。ここだけの話だよ」

 少年はカイル。アカネイア連合王国の王子。その右目にはナーガの聖痕が宿っている。

 そして少年と話しているのが天馬騎士見習いカーシャ。マケドニアからパレスに上り仕官して以来、同い年のカイルの副官を任されている。

「でも傭兵団に会ってみたいな。その団長ならファルシオンも振り回せたりして」

「まさか……まあ噂です噂。優秀な参謀が采配を振るったそうですから本当はその参謀さんのおかげじゃあ――」

「私が会わせてあげましょうか。その団長さんに」

 割り込んできた声の主を探して、二人は振り返る。

「いい男はデート中に高価なプレゼントを渡すものよ坊や」

 すごい美人な行商人だった。

「デ、デートじゃありません。私たちは公務で街の見回りをしていたんです。それにこのお方は――」

「あら、坊やその右目」

 カーシャの説明に耳を貸さず行商人の女はカイルの右目をのぞき込む

「生まれつき? 見えているの? まああまり悲観しないことね。人間は平等に生まれられないんだから」

 カイルは一方的に女に慰められた。

「そ、そんなことより傭兵団とお知り合いなんですか?」

 カイルは気にも留めず傭兵団について女に詰め寄る。

「ええ。その傭兵団とは特に団長さんとはひいきにしているのよ。式を挙げる日もそう遠くないわ」

「傭兵団と知り合いって、それにカイル様の聖痕を知らないってことはもしかして異大陸の方ですか?」

 カーシャの問いに女はうなずく。

「テリウス大陸から来た行商人ララベルよ。ところで様付けされているということは、じゃあ坊やお金持ちか貴族様ね。ならなおさら太っ腹なところを見せてあげなくちゃ。お買い得の商品があるのだけど買ってくれたら傭兵団に紹介してあげなくもないわ」

「結構です公務がありますので! 治安が良くなったと言っても夜は女性は危ないですからそれまでには店を閉めてください」

 薦められたカイルではなくカーシャが断り、カイルを引っ張るようにこの場を去っていった。

「もう尻に敷かれているなんて最近の男は軟弱ね。本当にアイクさんに会わせてみようかしら」

 残されたララベルはそうひとりごちた。

 

 数年前、アカネイア大陸に新たな異大陸テリウス大陸から移住を希望する人々を乗せた船がやってきた。ヴァルム大陸やユグドラル大陸とは異なり彼らの背後に国はない。祖国から離れアカネイアで暮らしたいと言ってきた。

 だが西のグルニアは彼らを拒否し、東の諸地域は火山灰の影響による飢えを経験した上ユグドラル大陸と国交を断絶した。生産力を回復したとはいえもしまた火山が噴火したらと考えると招かれざる者を受け入れることはできなかった。

 しかし、船を護衛していた傭兵団もテリウス大陸に戻らず移住希望者ともにアカネイアに足を踏み入れた。傭兵団は治安の悪い地域にはびこるならず者を圧倒し、警備を頼む代わりに受け入れる村まで現れ傭兵団のついでにと一時的な居住を許した移住者の多くは常人離れした力で村の仕事を引き受け村の発展に貢献した。

 こうして傭兵団とテリウスからの居住者はアカネイア大陸でその存在を確かなものにしていった。

 

 

 

 

 

 

「そろそろ離してくれよ。どうしてそんなに怒っているんだ?」

 ララベルが見えなくなったあたりでカイルは不平を唱えた。

「傭兵団につられて変なものを買わされそうになっているから助けたまでです。カイル様のことは陛下とお妃様からお願いされていますから」

 ララベルが美人だったからとは言えないカーシャだったがカイルはそんな彼女に気付かず、

「そんなに高いものを買うお金なんてもらっていないよ。母上がそういうところに厳しいのは知っているだろう。もし買ったとしてもそれで凄腕の傭兵団と会えるなら安いものじゃないか。北の蛮族を片手で倒せるくらいの傭兵が仕官してくれたら父上も頼もしい味方ができたって喜ぶよ」

 カーシャは能天気な主に頭を抱え、

「あの商人がそんな口約束を本当に守ってくれると思っているんですか。傭兵団とは関わりのない赤の他人かもしれませんよ。ひょっとしたらカイル様の聖痕も知らないフリをすれば異大陸人だと思わせられるかもって考えたうえでの言動かもしれません。カイル様は騙されやすいんですから」

 カーシャの小言にカイルはただ一言「カーシャが考えすぎなんだよ」とだけ言ってそれきり二人は黙って王宮へ戻ろうとした。その時

「きゃぁぁぁ!」

「ぐぁぁぁ!」

 すぐ側で悲鳴とうめき声がした。二人が声のした方向を見てみると。

 虚ろな目をして剣を持った男が人を襲っていた。襲われた方の男はもう死んでいる。

「何をしているんだ。やめろ!」

 カイルの怒声にも男は反応せず。女の方へ向かっていく。

「くっ……はっ!」

「やあ!」

 あまりの光景にカイルとカーシャは反射的に男に斬りかかりあっさりと息の根を止めた。初めての実戦で峰打ちの余裕もなかった。勝ったのは訓練の成果だろう。

「殺してしまったか。治安が良くなったと思った矢先に」

「カイル様、あれ!」

 うつむいて憤っているカイルだったが男の死体を指さすカーシャの声に気付くと目を疑う現象が起きていた。

 男の死体は黒い霧となって立ち昇り霧散していたのだ。

「これは? ……!」

「きゃあ!」

 カーシャは思わず悲鳴を上げる。

 気が付けば町中の人間が襲われていた。

 襲っていたのは老若男女問わず無数にいたが、それぞれ武器を持ち目は先ほどの男のように虚ろだった。

「くっ……いくぞ、カーシャ」

「待って、敵の数が多すぎます。私が救助に回りますから、カイル様は王宮へ戻って応援を呼んでください」

「カーシャ一人置いていけるわけないだろ」

 言い合いしている間にも謎の敵は人々を襲っていく。

 そんな時、市民の中から敵を倒していくものたちが現れた。

「お前ら何やってんだ。戦えないなら逃げろ!」

 戦いに慣れているあたり、アカネイア自警団の人間だろう。

 その中の一人がカイルたちを罵倒し、敵を倒しに踵を返す。

「……ぐぅ」

 数の差はあれど自警団は善戦しているようだ。悔しいが、今は彼らに任せて王宮に兵士を呼びに行くのが最善だろう。カイルとカーシャは王宮へ急いで戻った。

 

 敵は市民を殺しながら、自警団と交戦している。凄惨な光景を目撃しながらカイルたちは駆けていくが、敵を見ると皮膚が腐敗していたり、半ば骨しか残っていないようなものいることに気が付いた。謎の敵というより何らかの怪現象で動く屍だ。

 すでに王宮も事態に気付いていたらしく、王宮の方角から兵士たちも市街に駆け込み屍と戦っていた。いや王宮の敷地内でも屍が現れ、城で働く官吏や兵士に襲い掛かる事態が起こっていたのだ。

 カイルたちが王や妃の無事を確かめようと城に入ろうとしたその時、

 キィン!

「ん? な、何だありゃ」

 屍と戦っていた兵士が自分たちを覆う巨大な影に気付き、上空を見上げた。

 青空の中、そこには巨大な竜がいた。身体は細長く3対の翼と眼球を持ち、頭部には巨大な角を生やしている。

 カイルたちも思わず立ち止まっていると、屍が彼らを襲った。

「きゃっ!」

「しまった! 逃げろカーシャ!」

 カーシャはすくみ、カイルは剣を抜こうとするが屍の持つ剣はすでにカイルの頭部に迫っていた。

 カイルはカーシャを突き飛ばし、自身が身代わりになる覚悟を決め、目を閉じた。だが屍の刃はカイルに届かなかった。

「はっ!」

 屍は城内から現れた男に蹴散らされた。

「カイル、カーシャ、大丈夫か?」

 アカネイア王クロスだ。

「父上こそご無事で。屍と竜が街に」

「わかっている。お前たちは秘密の脱出口から逃げろ。カイル、覚えているな。あの通路にある非常用の通路に」

 混乱するカイルたちにクロスは脱出口を指さす。そこへ女性が駆け込んできた。

「カイル待って! これも持っていきなさい」

「ユリナ無事だったか! それは!?」

 王妃ユリナは5つのオーブがはめ込まれた紋章を持って来ていた。

「昔、ナーガと話した夢のこと。あなたに話したことがあるでしょう。その時に「然るべき時にアカネイアの紋章を使え」ってナーガ神がおっしゃられたの。巨竜がこのまま空中を漂っているだけとは思えません。カイルたちだけでも逃げて!」

 屍の複数人がカイルたちやクロス夫婦に迫ろうとしていた。

「父上!」

「はぁ!」

 クロスは屍の一体を切り捨てカイルに向き直り。

「行けカイル!ファルシオンのある場所は覚えているな?」キィン!

「ぐぅ」

「カーシャ、カイルを頼みます。『ひかりよ、われにちからを オーラ』」

 子らを逃がすためにクロスとユリナは屍に挑んでいく。

「妃様、くっ! カイル様はやくこっちへ」

 カーシャはカイルの手を掴み、クロスがさした方へ引っ張る。

「父上たちを見殺しにする気か? 僕たちも屍を――」

 パン!

 カーシャは逃げる足を止めカイルの頬を叩く。

「カイルこそ陛下たちの意思を踏みにじる気? 陛下もお妃様も屍なんかに負けないわ、でも私たちが立ち向かっても邪魔なだけなの。脱出口なんて私は知らないわ。いいから城から出る方法を教えなさい!」

 カーシャにここまで言われてカイルも駄々をこねてはいられない。何も言えずクロスがさした部屋に駆け込み隠し通路を開いてここから出ると促し城の地下をつたった通路をひたすら走る。

 隠し通路には屍はおらずカイルたちは疲労も耐え無我夢中で出口を目指した。

 出口を出た瞬間、空中から何かが落ちてきて、カイルたちは衝撃で跳ね飛ばされた。

「がぁぁぁぁぁ!」

「きゃぁぁぁ! うぐ……」

 巨竜が空から城に突進してきたのだ。城はもはや瓦礫の山。カイルは痛みを忘れ、愕然と瓦礫を見る。

「そんな……父上ー! 母上ー!」

 アカネイア王国はこの日滅亡した。

 

 

 

 

 

 カイル:ロード

 アカネイア連合王国の王子だった。異大陸の傭兵団の活躍で治安が向上したため平和ボケしているところがある。

 

 カーシャ:ペガサスナイト

 アカネイア王国軍の天馬騎士見習いだった。王妃ユリナの助言を受けた国王クロスの指名でカイルの副官に任命された。

 

 クラウディウス:ラーズ司教→デアボリスト(シエロ地下遺跡探索後以降)

 ラーズ教団残党を率いる自称「教皇」。教団では戒律で異性との交わりが禁じられているが自身は魔女の教育と称してクライネを侍らせている破戒僧でもある。ガルバザンの破壊衝動に取りつかれ教団にテーベの塔地下に眠る巨竜をラーズだと説き解放させる。

 

 クライネ:魔女

 クラウディウス直属の魔女兼愛人。リーベリア大陸に住む村娘だったが教団に拉致・洗脳され魔女にされた。

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