鬼になった社畜【完結】   作:Una

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第1話 ある日森の中

 気づけば森で寝ていた。

 

 普通に会社行って、終電乗ってアパートに帰ってそのまま万年床の布団に倒れこんで、気づいたら大正時代にタイムスリップしてた。

 この時点でだいぶ意味がわからない。わからなさすぎて、どうやって会社に行こうかと小一時間悩んじゃった。混乱しすぎだ。タイムスリップして最初に考えることが課長に怒られる、だからね。社畜根性身につきすぎでしょ。

 いや、スリップ直後はそんな、時代を遡っちゃったなんてわかってなかった。朝起きたら森の中で、夏のはずなのにクソ寒くて、息まで白くて、ちらちら雪が降ってきた。

 まじか、てなった。電車止まって会社行けねーじゃんって。

 

 でだ。

 

 よれよれの夏用スーツと革靴で、なぜか真冬感丸出しの山道を歩き回った。この時点でだいぶ辛い。まじか、てレベルで辛い。革靴とか開発したやつ死んで欲しい。

 しばらく歩き回って、第一村人発見、てなノリで畑耕してる人に出くわした。しかも五人もいる。ここはどこ、駅はどっち、タクシー呼んでください、なんて聞いて回った。そしたら全員から不審者扱い。辛くて心折れる。しかし詐欺紛いの商品を売りお宅訪問営業歴7年の俺に死角はなかった。邪険に扱われるのなんて慣れきっているどころか、不審者扱いされなければ落ち着かないまである。その警戒心を解きほぐすのが一流営業マンの腕の見せ所である。

 さあさあ、もっと俺を怖がれ。申し訳ありませんがタクシー呼んでくれませんか? 私の携帯が圏外なのです。誠にお手数おかけしますがタクシーか、それか最寄りの駅までの道などをお教えいただけたら。

 

 官憲のお世話になった。

 

 後ろ手に縄をかけられて、駐在所に連行されちゃった。

 つうか縄。手錠じゃねーの。すげえぶっとい荒縄ですよ。それにまたロープ掛けて引っ張られるもんだから手首擦れて真っ赤。

 そして官憲さん。警官とは違うの。黒い服に黒い帽子。なんか戦争映画とかで見たことあるような感じの古めかしいデザイン。最初見た時、え、コスプレですかそれとも撮影ですかカメラどこですか、なんて聞いちゃってね。不審者扱いどころか、イカレか、とため息つかれた。確かに俺の服装はこの時代にはない感じだからね。スーツとかね。そう、服がね。

 で、事情聴取をされる段階となって、やっと自分の今の境遇に理解が及んで、その上で自分の言動を省みるとね。おかしな服着ておかしな言動を繰り返しててね。どう見ても頭おかしい人です本当に(ry

 

 で、まあね。超常的な何かで時間移動してしまったことにとりあえずの納得をして。環境が変われば言動も変わる。郷に入っては郷に従え、我らエアリーディング民族日本人。営業時代に培ったコミュ力も駆使して、官憲のおっさんとお友達になるべくお話を開始する。唸れ我が営業トーク。

 オーケー、アイキャントスピークイングリッシュ。ワタシ、テクビ、イタイ。ユー、ナワホドク。ディスイズベリーノー。

 

 3日ほど牢屋に泊まることになった。

 まあほら。今俺って一文無しだし。知り合いも一人もいないし。そんな状態で解放されたらこの寒さだと間違いなく凍死するし。ナイスファインプレー。

 

 で、夜。やることないからすぐ寝て、夜に目を覚ましたらおっさん死んでた。

 

 見れば官憲のおっさん、全身血まみれ。どころか体がちょっと爆発してる。その肉片を包んでる黒い服のおかげであれがおっさんのものだってわかるレベル。

 まじか、てなった。

 戸惑いながらも牢屋の中で少しでも元おっさんのそばに寄ろうとしたらね、こけた。慌てすぎて自分の足に躓いて、その勢いで牢屋の扉に突っ込んだ。そしたら鍵が開いた。開いたというか弾け飛んだ。老朽化とかそんなチャチなもんじゃ断じてねー。衝撃が大きすぎて耐えきれなかったよパパ、みたいな断末魔的な音をたてて吹っ飛んだ。

 まじか、てなった。

 ともかくおっさんのところに近づいて、腕っぽいところに指当てて脈をとってみたけど反応なし、つうか冷たい。

 うわーやっぱ死んでんなーと思ってると、なんとなく腹が減った。無性に肉が食いたくなる。自分にまじか、てなった。尋問とはいえ結構な時間会話した人の遺体を前にして思うことが腹減ったとかまじか。俺ってそんなサイコだっけ。

 そんなことをぼんやりと考えてると、なんか人が来た。

 黒い制服を着てるのは官憲さんと一緒なんだけど、今度の人は腰に刀持ってた。あれ、確か江戸の終わりに廃刀令だかなんだかあったんでしょ? 高校で日本史とってなかったからもう覚えてないけど、剣心がそれで捕まりそうになってたのは覚えてる。

 つまりこいつは犯罪者。顔に傷があるあたり間違いなくその筋の人である。黒い制服を着ているあたり、さては官憲に紛れるスパイ的ななにかに違いない。そんなやつを目撃してしまった。目撃された銃刀法違反の危険人物が次になにをしだすか、それは想像に容易い。

 ほら刀抜きましたよ。

 で、こっちに斬りかかってきた。口封じですねわかります。

 いきなり人に斬りつけてはいけない。

 俺は即座に踵を返し、窓ガラスにダイブして外に逃げた。

 そしたらスパイの人、窓から追ってきた。すげえ形相。顔とか古傷だらけで、それだけでも怖いのに血走った目をギンギンに釣り上げて、待てやおらあと叫びながら追ってくる。超怖い。誰が待つかおらあと叫びかえしながら全力で逃げる。

 

 鬼ごっこは夜が明けるまで続いた。

 

 あれだ、人間命がかかればなんでもできる。いくら俺がエリート営業マンで毎日歩きっぱなしだったとはいえ、こんな整備されてない山道を一晩中全力疾走し続けられるなんて普通はありえない。たぶんアドレナリンすごい出てる。そのくらい命がやばい。

 元の山まで戻って、道無き道をジグザグに走り回って、途中で見つけた小さな洞窟に滑り込んでね。ここなら見つからねーだろと安心して、それでも一応息を殺してたらね、見つかった。鬼ごっこは俺の負けで勝負がついたのだ。穴から引きずり出されて、さっきの傷だらけの危険人物に首根っこ掴まれて、てめえ気配の消し方も知らねーのかと馬鹿にされた。

 気配ってなんだよ、そんな漫画みたいな特殊能力あるわけねーだろ。そう言い返したらね、傷の人におもくそぶん殴られて意識を失った。

 

 

 

 

 

 で、目覚めたら別の山にいた。

 なんで意識を失うと勝手に移動してるのか。そういうの俺良くないと思う。

 今回はあの傷男が犯人に違いない。あの傷男絶対許さん。あの憎いあんちくしょうを探しだして訴えて官憲に捕まえてもらおう。留置所で臭い飯食ってるところを思い切り笑ってやる。そう決意して下山しようとしたら、できなかった。

 いや道はわかる。頂上あたりの木に登って目を凝らせば、あーあそこをこういってこういってこうね。みたいな。でも無理。麓あたりがすげえ臭いの。もう体が拒絶するレベル。多分近づくだけで昏倒する。こんな臭いものがこの世に存在したのかって感じ。あまりの臭さにまじか、てなる。そんくらい臭い。やばい。

 なんか有毒ガスが出てるに違いない。

 どこかガスの出てない道はないものかと歩き回っていると、なんかキモいのがいた。

 うろこだきーうろこだきーと鳴き声をあげながら蠢いている。でかい。俺の身長の倍はある。あと手がいっぱいある。そんでキモい。

 まじか、てなった。

 あんなもんが存在するのか。もしかしてなんか新種の生き物だろうか。

 あれを捕まえたらどっかの研究者から金もらえたりしないかな。俺今一文無しだし。

 よし。

 

 

 

 

 

 

 

 無理。

 

 なにあれ、めっちゃ硬いんですけど。

 つうか俺はあんなのをどうやって捕まえるつもりだったのか。無駄に飛びかかってぶっ飛ばされただけじゃねーか。もう少し道具を揃えるなりしないとどうにもならん。

 つうか腹減ったな。

 

 

 

 

 

 この山やばい。

 あのデカキモいやつ以外にもなんかいっぱいいる。

 基本は人型なんだけど、まず頭にとんがってる角みたいなのが生えてる。目が赤くて縦割れしてるのと、牙がごっつり伸びてるの。あと爪長い。

 猫かな。

 たぶんあれだ、猫から進化した新種がこの山で繁殖してるんだろう。よくわからんけど。角みたいなやつもきっと猫耳に違いない。つうかどいつもこいつも殺意高杉内。新種猫どうしで殺し合ったり、死んだ新種猫を別の新種猫が喰ってたり。けっこうグロテスクにくちゃくちゃ食ってる。共食いである。まじか、てなった。猫って共食いすんのか。俺結構猫好きだったのに見る目が変わりそうだ。

 バイオのウィルスに感染した猫ゾンビの可能性……?

 この山がアンブレラ社の実験施設である可能性が微レ存?

 

 

 

 

 

 

 肉食新種猫から逃げ回り、時に殴り倒しているうちに、なんか超能力に目覚めた。

 正確には、能力に目覚めていることに気づいたって感じ。

 新種猫から逃げ損ねて、腕の血管を噛みちぎられたときのことだ。まじか、てなって、このまま血が噴出し続けたらおいおいおい死ぬわ俺、みたいな。

 こらあかんと。止まれー血よ止まれー、と念じてると、なんと本当に血が止まったのだ。

 しかも噴き出た血までしゅいーんと戻って、傷口にカサブタを作ってくれた。まじか、てなった。

 つうかこれ、まじか。まじで超能力なのか。動脈破けるくらい深い傷が3日で元に戻ったし、もしかして俺の体は時間移動した時に次元を越えた影響で超パワーを身につけてしまったのか。通りで山の中を走り回っても疲れないはずだわ。

 やべえ、来たんじゃね俺の時代。三十路間近にしてようやく来たんじゃね。ちょっと遅きに失した感が拭えないけどまあいいよ。とくに許す。

 なろう系が流行るわけだわ。こんなのテンションアガるに決まってんじゃん。まず能力の名前を決めて、あとはあのデカキモい新種生物を捕まえて売れれば完璧だわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の、血液を操る能力。その名を『紅蓮の王(クリムゾン・ロード)』と名付けよう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 血を動かすこれについて調べてみた。

 これ、微妙に使いづらい。

 どっかの格ゲーキャラみたいに血の刃を作って切ったりとか、ブーメランにして飛ばしたりとか、そういうことができない。つうか固まらない。じゃあウォーターカッターみたいに水圧を上げられるのかといったらそれも無理。どうも血が噴き出る水圧は心臓の拍出量に依存してるみたい。そんなんじゃあカッターにはできんわ。

 この能力でできることといったら、なんか細い触手を出すくらい。

 試しにこれを使ってデカキモさんを捕獲しようと試みた。が、無理。普通に千切られた。つうかこれ脆い。触手を叩きつければそれだけでパアンて崩れる。もっと慎重に扱わなければならない。いやどうしろと……?

 何がくりむぞんろぉどだよ。

 

 

 

 

 

 どんだけ練習しても、血の触手が頑丈にならない。

 テンションだだ下がりである。

 くりむぞんろぉど(笑)

 

 

 

 

 

 

 なんかこれ、無理。

 無理というか、そもそもこれそういう能力じゃないっぽい。

 ほら、人が腕をパタパタさせても空飛べないでしょ。そういうんじゃないからそれ、みたいな。

 いや、でももうちょい頑張りたい。

 血で剣を作るとかかっこいいじゃん。ロマンというか。できないとわかっていても壁や机で二重の極みを練習しちゃうような、あんな感じ。二重の極みの何が良いって、いつでもどこでもこっそり練習できるとこだよな。あんな感じで、普段から血を固める練習を続けていこうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 血を動かすようになってから、鼻がすごくきくようになってることに気づいた。といってもそれは「血」の匂い限定っぽい。血に対して神経が過敏になっているのかもしれない。嗅覚というか、第六感的な。それが嗅覚と共感覚的に作用しあってるみたいな。おかげで共食い現場や殺し合ってるところを匂いをかいでから回避余裕。今の俺ならウメハラにも勝てる。

 で、毎日毎日注意深く血の匂いを嗅いでいたらあることに気づいた。

 血には種類がある。ABO型とかRhとか、まあ色々分類があるわけだけど、全ての新種猫の血に共通している匂いが混じっていることに気づいたのだ。

 しかもそれがすごい良い匂いなのだ。

 山の麓から流れてくる有毒ガスの匂いやら、もう何日経過したかもわからんサバイバルな環境やらで気が滅入っていた俺を超癒してくれる。

 もっと、もっとこの匂いを嗅ぎたい。どこだ、次はどこで殺し合いをしている。

 

 血の匂いが癒しとか俺ヤバくね、と気づいた。まじか俺。

 

 

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