鬼になった社畜【完結】   作:Una

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第38話 反撃

 爆発した。

 琵琶さんがむーざんを産屋敷屋敷に送り届けて15分。その屋敷がいきなり、むーざんを中心にして、なんの前触れもなく爆発四散したのだ。

 空気を灼く炎、荒ぶる熱風。

 この時俺は、無限城の片隅にある半不死身薬製造室で、琵琶さんの作る頭サイズの襖から屋敷の様子を覗き見していたのだ。

 そしたらこれである。突然の爆炎、爆風。さすがにこれは予想外だった。襖の位置が爆発源に近すぎたせいで、狭い襖から溢れる炎の勢いは火炎放射器さながらで。しかもなんか爆弾の中に金属片まで混ざっていたらしく、俺の頭部が爆音とともに音速でぶっ飛んだ。

 首の断面を燃やす俺を指差して夏至がゲラゲラ笑っている。腹が立ったので猫が飼い主に頭を押し付けるように夏至の顔面に首の炎を押し付けてやった。

 いきなりなんなん? という怒りがある一方で、再生を開始した脳味噌で思う。多分産屋敷が仕掛けた鬼舞辻無惨を殺すための罠だろう。金属片を混ぜ込むあたり相当殺意が高い。

 

「やったか?」

 

 夏至ちゃんお前、そんなフラグ立てるようなことをお前。

 あーあー、ほら夏至ちゃんが余計なこと言うからむーざん再生しちゃった。ほんとならあのまま死んでたはずなのになー。

 

「鬼舞辻様がこの程度で死ぬわけないだろうが人のせいにするな」

 

 まあそうだけどさ。

 だから作戦を何重にも練ったわけだよ。初めて見た男の鬼が拘束用血鬼術を発動させ、その隙に女医さんが特攻かます。女医さんと、鬼殺隊の女の子が共同開発したそれらを、さらに俺の技術でもって魔改造加えて作り上げた人間化薬その他もろもろを掌に包んで彼女はむーざんの中に突っ込んだ。作戦通りに。

 

「鬼を人間に戻す薬ですよ! どうですか、効いてきましたか⁉」

 

 初めは半信半疑だったむーざんも効いてきた実感が出てきたのだろう、こちらに視線を向けてきた。

 

 ──は・や・く・た・す・け・ろ

 

 まさかの口パクである。

 そらね。俺の血鬼術なら体に入った毒なんてすぐ取り除けちゃうからね。

 でもプライドとかないのかこいつは。ピンチになったら脇目も振らずに逃げるタイプだわ。

 でもまだその時ではないので、俺はとりあえずさっきの爆炎で延焼した研究室の消火にとりかかろうと思う。ほら、今俺って呪い外してるからテレパシー使えねんだわ。襖からむーざんに向けて両手でバッテン作りながら、

 

 ──ご・め・ん・む・り

 

 そう口パクで伝えてのち、燃えてる椅子に再生しかけの首から血をぶっかけた。忙しいわー、これマジ忙しいわーほっとくと半不死薬が蒸発しちゃうわーこれは最優先事項だわー。

 

「貴様あああああぁぁぁ!」

「多くを殺してしまった贖罪に、私はお前とここで死ぬ!」

「早くこっちに来い! 毒を除去しろ!」

 

 いや聞いてやれよ女医さんの話。なんか今大事なこと言ってたじゃん。

 というか人に頼み事する時はそれなりの態度があるんじゃないの? ほらお願いしますは? 

 というメッセージを蚊に込めてむーざんに送る。届けこの想い。

 

「こ、の……!」

 

 血管ムキムキでマジギレむーざん超ウケる。

 襖から夏至ちゃんと二人でむーざんを指差して笑っているうちに、柱を中心にした鬼殺隊の方々が拘束されているむーざんに向かっていった。飴に群がるアリのようである。もちろんそのまま斬られることを良しとする我らがむーざんではない。琵琶さんに指示を出したのだろう、むーざんとむーざんに向かっていた面々が吸い込まれるように無限城へと落ちていった。

 さて。

 

「やるか?」

 

 うん、ちょうどいい時間だ。

 懐中時計を見れば、約束の時間より数分早いくらいだ。もうむーざんも毒の分解に忙しくなる頃だし、やっちゃっていいよ夏至ちゃん。

 

「了解」

 

 夏至ちゃんは手の平から伸ばしていた血の触手をさらに増やす。髪の毛よりも細いそれらは研究室の隅っこに座って琵琶を掻き鳴らしている琵琶さんの耳孔や眼窩、鼻の穴から侵入し各感覚神経を犯していく。

 マトリックスという映画をご存知だろうか。

 五感を制御された人間は、プラグから脳幹へと与えられる情報によって構築される仮想世界を現実と思い込む、とかそんな設定だ。

 俺や夏至ちゃんの血鬼術は原子レベルでの物質動態の観察や操作を可能にする。女医さんの薬の開発にも存分に役に立った。今もこうして琵琶さんの五感を好きに弄ることで、彼女の血鬼術をまるで自分のもののように使用することができるのだ。

 ただ、これは被使用者の脳への負担があまりにも大きいため乱用は控えないといけない。やり過ぎれば琵琶さんのようにエクソシスト染みたヘドバンしながら鼻血を垂れ流すことがあるし、あるいは監視ちゃんのように精神に障害を負うことにもなりかねない。

 むーざんの監視を誤魔化すためにここ数ヶ月ずっと脳味噌弄りっぱなしだったんだよね。ごめんね監視ちゃん。

 最初は夏至ちゃんでね、監視ちゃんにばれないように会話する、とかそんな感じで血の触手を聴神経と繋げたりとかで試してたんだよ。それが視神経に行って、もう脳ミソ直接いじった方が早くね、となったところで夏至ちゃんに拒否されてな。

 べべん、と一際大きな音が奏でられる。

 現れたのは長い、五十メートルはあろうかという長押だ。頭上1メートルの高さに現れたそれには当然鴨居が彫られ、数十枚の襖が張られている。

 ベン、と再び琵琶の音。

 襖が、俺の立つ地点を中心に、一人でに左右に開いていく。

 現れたのは見晴らしのいい屋外の空間。地面は土と砂で、白い粉で直線が何本も引かれている。遠くには木造の、3階建ての大きな建物があり、その名称が刻まれた看板にはこう書かれている。

 設施練訓備警害災殊特国帝本日大

 そこには、千人に迫ろうかという人間が規則正しい隊列を組んで並び立っていた。

 その全員が、平成の世でいう機動隊のような服装だ。左には盾、右には銃身の長い銃。腰には日本刀が提げられている。これらに加えて四肢を守る鎧や兜まで、全てが猩々緋砂鉄と猩々緋鉱石からなる、つまり日輪刀と同じ素材でできている。

 鬼殺隊お抱えの刀鍛冶達を捕らえ、家族の協力(という名の人質)の下に眠る暇もなく、罪人への拷問もかくやという環境で作らせた、対鬼用装備である。

 

「やあ鬼殿、時間どおりですな」

 

 声をかけてきたのは、以前上弦の弐とともに治療した少女の父親だ。相変わらずのちょび髭がナイスミドルだ。こちらも恰幅の良い体を同じ装甲服で覆っている。

 この度はご協力いただき感謝いたします。

 

「なに、こちらとしても、我らが日本帝国としても、そなたからもたらされたものの価値はあまりに高い。それに、祖国は揺れ動く国際情勢の荒波の只中にある。斯様な情勢で内憂を放置することなどできますまい、その意味では鬼殿には情報を提供していただいたことに感謝しなければなりませんな」

 

 どうですか、元鬼殺隊の者たちは。使い物になりますか。

 

「使い物も何も、素材としては一級品と言わざるを得ません」

 

 ちょび髭は後ろを振り返る。

 隊列を組む彼らは微動だにしない。

 彼らのうちの一割は、任務中に警察の手によって捕まった鬼殺隊員だ。捕らえられた彼らは警察から司法取引を持ちかけられ、鬼の駆除を警察と協力し合うことと引き換えに、無罪放免及び鬼舞辻無惨討伐後の警察または帝国陸軍への就職を約束することとなったのだ。

 

「呼吸、と称する技法は実に素晴らしいです。身体能力の急激な向上が修練次第で誰でも見込める。それにつれて調練の長さと密度も上げていけるのですからな、数ヶ月前とはもはや比べものになりませんよ。こんな技術が数百年前から存在していたなど……もしもっと早く公になっていたら清国や露西亜からもっと良い条件を引き出すことができたでしょうに」

 

 話がズレたことに気づいたのか、コホンと咳払いを一つ挟み、

 

「元鬼殺隊の者から呼吸をはじめとした技術技法を学び、戦力を均一化させた上で規律を学ばせ、警察の持つ戦力と融合させた部隊です。それに加えて鬼殿からいただいた治癒薬も備えておりますからな。本能のままに暴れる鬼風情など鎧袖一触に蹴散らしてご覧に入れましょう」

 

 はははは、と高く笑うちょび髭に合わせて愛想笑いを返しておく。

 

「おい上司殿、これは上司殿がよく言う死亡ふらぐというやつではないか?」

 

 しっ、聞こえたらどうすんの。

 

「さて、時間ですな」

 

 ちょび髭が時計を見ながら呟く。各部隊の長を呼び出し、周囲に現れている琵琶さんの襖のうちどこにどの部隊が突入するかを指示していく。警官の精鋭と元鬼殺隊の混合部隊が持ち場に着く。それを確認し、ちょび髭は右手を上げ、振り下ろし、

 

「突撃ぃ!」

 

 進攻が始まる。劣勢に立たされた人類の反撃が、自分たちを餌としか顧みない特大の害虫を駆除するための進軍が開始された。

 覚悟しろよ鬼舞辻無惨。お前の命も今日限りだ。

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