鬼になった社畜【完結】   作:Una

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第5話 少年に出会った

 しばしのお別れである。

 ようやく俺の体がすっぽり埋まる程度の穴が掘れた頃、まれちーとパンクが戻ってきた。生存者は彼ら合わせて六人、うち一人はもう下山してしまってその場には五人しかいなかった、とのことだった。穴の中から見上げる俺をしゃがみこんで見ながら二人が教えてくれた。

 

「早くね!? 出来るだけ早く迎えに来てね!? でないと俺ひとりで任務果たさなくちゃいけなくなるんだからね! そしたら死ぬじゃん、遺書にお前らの名前書いといたからね! 公開されたくなかったらちゃんと迎えに来てね!! 絶対だからね!?」

「それ脅迫じゃないですか……」

 

 なんでこんなに力強く弱音を吐けるんだ。

 早くね!? と言われても、俺これからまだまだ穴掘らなきゃならないんだよ? 正直どのくらいかかるか見当もつかん。間に合わなかったら、ごめんな。

 

「はああーーーー!? ごめんで済むかよお! どのくらいかかるかわからないってあんまりだろ! 全力! 全力を尽せよ俺を守るためにさあ! お願いします! ほんとお願いします!」

 

 言うてもお前、俺が合流するのはまれちーが先だからね?

 

「わかってるよそんなこと! あー死んだ! もう十中八九死んだ! 誰にも守られず頼られず一人寂しく鬼に食われて死ぬんだぃやあああ!」

 

 大丈夫だって。この山にいる間鬼を殺す練習いっぱいしたじゃん。七日間で百は斬ったでしょ。君の居合斬りってほとんど目で追えないからね。気絶してばっかだったのが、今じゃしっかり正面からぶった斬るようになったじゃない。大丈夫大丈夫いけるいけるがんばれがんばれ元気があればなんでもできるどうしてそこで諦めるんだよダメダメダメダメ諦めたら。男の子だろ? いいか、『男』という字は田んぼの田に力と書く。これは田畑で力仕事をするのは男の役割だからこういう形になったわけで、つまり俺は何が言いたいんだろうね。

 

「知らねえよおおおお!」

「ほら、もう行きますよ善逸。大丈夫ですよ、あなたは私がずっと守ってあげますから」

「え?」

 

 ん? ずっとって、まれちーからパンクのところに合流するってこと? 結構すぐ任務になるんでしょ? そんなことできるの?

 

「いえ、このまま彼の育手の下までご一緒して、その流れでご挨拶させていただこうかと」

 

 挨拶とな。でもまれちーもとりあえず滝野山まで行かないといけないんじゃないの? 育手の人がいるんでしょ?

 

「いませんよ? ただその山で修行しながら生活していたというだけで。一人暮らしでした」

「ええ? じゃあ水の呼吸とかどうやって覚えたんだ?」

「見よう見まねで。私を助けてくれた剣士様に三年ほどつきまとっていたことがありまして。彼が使っていた剣技や呼吸の仕方をその時に『見て』覚えました」

 

 それは、目がいい、ということでいいの?

 つか、つきまとい? 三年も?

 

「少しでも彼の姿を記憶に留めようと必死でしたから」

 

 まあ、とまれちーはちらりと地べたに座り込んでいたパンクを『見』た。

 あの、目が血走っていた銃刀法違反の男とは違う、穏やかな目だ。それなのに俺は必死こいて逃げたあの時よりも大きい、というより深い恐怖を感じた。

 全てを見透かすような目だ。もしかしたらパンクの裸体、どころか骨や内臓まで透視しているかもしれない。

 多分、俺とパンクはこの時同じ感情を抱いたと思う。

 パンクがこっちを見てきた。

 知らん。そんなすがるような目で見られたって、俺今穴掘るのに忙しいから。すげえ忙しいから。会話する暇すらないから、ごめんな。

 

「あ、おっさん首引っ込めんなよ! 話に加われって!」

「その方は大変無口な方で、教わるどころか直接口を利いたことすら数えるほどしかありません。鬼についてと鬼殺隊の存在、あとは全て拒絶の言葉でした。自分には教える資格はない、というのが最後の言葉でした。だから自分についてきても無駄だと。この山で選別を行っているというのは彼と別れてから、たまたま出会った別の鬼殺隊の方に教わったんです。この刀もその方が貸してくれたんですよ。憧れの方がいるから鬼殺隊に入りたいと『説得』したら快く」

 

 説得(物理)ですねわかります。

 

「恐怖が、恐怖が足に来た。ここんとこなかった感じが久々に来た」

「さ、まずはあなたの育手にご挨拶して、刀と隊服が届くまでに結納まで済ませてしまいましょう」

「待って、ほんと待って。この感じあれだ、修行から逃げた時に感じた死の気配だ」

「あ、私の貞操を気にされていますか。大丈夫です、私がお世話になった水の剣士様とは先も言った通り会話すらまともにありませんでしたから。確かに一時彼の方に執着していましたが、結局それはあなたと巡り合い求婚されるための導きだったのです。鬼殺隊になってあの剣士様に再会できたらお礼を言いましょう」

 

 ああああああ、と悲鳴をあげながらまれちーに後ろ襟掴まれてドナドナされるパンク君。

 遠ざかる黄色い頭とポニテを穴から顔だけ出して見送りながら小さく手を振る。

 俺はわかってるよ。パンクの本音。本当は可愛い女の子に引きずり回されて嬉しいんでしょ。

 心のパンク「うへへーまれちーだいしゅきーもっと引きずってー」

 さっすがパンクさんやで。あまりにも危ない地雷、俺だったら見逃しちゃうね。

 頑張ってくれ。自分で墓穴を掘ったんだから、自分でなんとかしてくれ。

 俺も頑張って穴を掘るから。

 

 

 

 

 

 一つ誤算があった。

 ずっと穴の中で土掘ってると、どのくらい時間が経ったか全くわからん。

 刀が届くまでは鬼殺の任務はないって言ってたけど、もしかしたらもう任務に向かっているかもしれない。

 はじめのうちは要領が悪く、いまいち進みが悪かったけども。地中で広げた触手の枝を振動させれば土の結合をさらにいい感じにほぐせることがわかった。

 ずっとずっと穴を掘り進めて、ようやく山から脱出できた。

 もう全身泥だらけですよ。

 穴からボコッと這い出たら、夜空一面に星が瞬いていた。

 すげえな。大正時代だもんな、空が綺麗で当然か。街灯なんかがこんな山道にまであるわけなし。プラネタリウムとはわけが違うわ。

 つうかこれ、タイミング悪かったらここ直射日光浴びてたよね。井戸に落ちた柱の男みたいになってた。あっぶね。

 どっかりと地面に仰向けになった。泥にまみれて、今まで地面の中に入っていたんだ。地べたに横になることに抵抗なんてない。それよりずっと穴にいたから久しぶりの酸素が超うまい。

 鬼になってから随分と体力とか腕力が上がってるみたいだけど、流石に疲れた。

 全力を尽くせ、なんて言われちゃったからね。

 さて、まだパンクは生きてるかな。

 というかパンクの貞操は大丈夫だろうか。ダメそうだ。

 

「どうかされましたか」

 

 寝っ転がって天体観測なんぞやってたら、声をかけられた。

 今の俺って、泥まみれで道の真ん中で転がってる、病人か怪我人か不審者のどれかだからね。不審者である可能性を分かった上で声をかけてくれたのなら、この声の主は底抜けの善人だ。

 目を向ければ、黒服を着た少年がいた。

 パンクと同じ年頃で、髪は赤みを帯びた黒。耳にザ・日本、て感じの柄の耳飾りをつけている。

 何より腰には日本刀を提げていた。

 何奴。

 

「そんなに汚れて、まるで大根のような、ずっと土の中にいたような臭いですよ」

 

 臭いて。

 どっこいしょ、と立ち上がった。空を見上げたまま、優しく語りかける。大丈夫大丈夫、ちょっと星が綺麗だったから眺めてただけさ。

 

「星、ですか?」

 

 首を傾げられた。そらね、この時代に生きる人からすれば当たり前の夜空なんだろうね。

 俺は少年に顔を向けず、空を指差して語る。

 見てみろよ、あんなに輝く星がいっぱいなんだ、眺めていたくもなるよ。君はしっかりと星を見たことある? 10秒やそこらじゃない、一晩ずっと眺めて、星が動いていく様を目で追ったことが。そして次の日の同じ時間、同じ場所で同じ角度を見上げると、星は全く同じ位置にあるようで実は少しずれている。毎日同じ空を同じ角度で見ていくと、そのズレが少しずつ積み重なって、やはり星が動いているように見える。そして一年が経ち、同じ時間に空を眺めれば、全ての星は天を一周して一年前と全く同じ位置に並ぶんだ。

 

「積み重ね……」

 

 素直なんだろう、少年も俺の差す指の方角へと目を向け、

 

「ずっと見てらしたんですか? 何日も? 何年も? その、少しずつのズレを?」

 

 ここではないけどね。同じ山でずっと見続けてきた。

 ところで少年、桧原山ってどっちかな。

 

「桧原山、でしたらこの道を向こうにまっすぐですよ」

 

 おお、そうだったか。

 とかなんとか、そんな適当なことを言いながら少しずつ距離を取る。

 だってこの少年鬼殺隊じゃん。刀持ってるし、歩き方とかまれちーと一緒だし、あと体の中を巡る血の量と速さね。パンク並みじゃん。

 絶対強いわこんなん。

 で、鬼殺隊なら俺とか思いっきり殺害対象でしょ。目合わせらんねぇ。赤い目見られたら絶対殺される。

 気づくなよ、絶対気づくなよ。

 

「……え、この匂い、え!? 鬼」

 

 さらば!

 

 

 

 

 

 匂いで鬼と気づくとか犬かよ。

 あんな人種がいるんだな。

 そういえばパンク君はすっごい耳が良かったな。一度聞けばどんな曲でも弾ける、とか言ってたけど、じゃあ俺のボイパはどうかなズンドゥッチーと披露してやった。

 そったら、なんの音マネなの? 昆虫? とか言われた。

 君たちにはまだ早すぎたかな(マクフライ並感)。

 会社の忘年会で強いられる宴会芸のために覚えた技だ。前に出て披露したのに誰も見てくれなかったというね。騒ぐ声がでかすぎて俺のボイパが聞こえねえってさ。じゃあ黙って聞けよ、お前が前日にいきなり芸やれとか言い出したんだろが。仕方ねえから帰りの電車の中で練習したんだぞ。女性に唾吹きかけた斬新な痴漢として駅員に突き出されるところだったわ。

 

 嫌なことを思い出しちゃったけど、ともかく少年の言うとおりに桧原山へ向かった。

 パンクの修行場だ。

 めっちゃ標高高い。呼吸が苦しくなるレベル。

 とは言っても俺はもう鬼だから呼吸とか大して必要ないけど。

 高山トレーニングとか聞いたことはあるな。酸素薄いところで生活してると赤血球が増えて酸素運搬量が増えるとかなんとか。アイシールドで言ってた。

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