けものフレンズR ・君と歩く道・   作:yatagesi

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対面した守護けもさん、元セルリアンのフレンズ「セーバル」。
昔、パークに起こったこと、そして今を聞いたともえ達。
ともえのいかないといけない場所は、だれかと行きたい場所かもしれない、どこに行けばいいかわからなくなった。
答えのないことを考えるより、楽しいこと、セーバルの見せてくれたコレクションは不思議な機械がいっぱい。
ヘビクイワシの本も面白くて、素敵なものばかり。
ともえとイエイヌ、二人だけの目標も。
そして、バイクの改造も終わって、クリーンセンターを出発、カラカルももう少しだけついてくるみたい。
行先はないけど、とにかく前進。


第7話 美術館

カラカル「イエイヌ、そっちに回り込んで!」

イエイヌ「はい! たぁあ!」

ロードランナー「やった!」

 

森の中、球体に虫みたいに足が生えたらセルリアンの石がイエイヌによって砕かれた。

危険が去ったことを知ると、隠れていたともえとラモリ、そして荷物を背負ったフレンズが木々の間から出てきた。

 

ともえ「みんな大丈夫?」

イエイヌ「大丈夫ですよ」

ロードランナー「ハンターもいるし、当然だな」

カラカル「あのくらいなら、数で押しきれるわ」

アカギツネ「助けてくれてありがとうございます」

ともえ「当然の事をしただけだよ」

ラモリ「仲間ニコノ辺リノパトロールヲ強化スルヨウ伝エルヨ」

 

何度も頭を下げるフレンズ、アカギツネはつい先程までセルリアンに襲われていた。

偶然にも近くにいたともえ達が助けた、ラモリのお陰でセルリアンがいるかわかるから。

 

カラカル「で、最近はセルリアンが増えてるのに、一人で飛脚便の仕事をしてたの?」

アカギツネ「長からの急な依頼で手配が間に合わなかったの、ここら辺は平和だったし」

ともえ「飛脚便?」

イエイヌ「荷物や手紙を運ぶお仕事ですよ」

ロードランナー「チーターが始めたんだぜ」

 

カラカルがやれやれと額に指を宛て考えていると、木々の間からラッキービーストが飛び出してきた。

 

ラモリ「森ヲ抜ケルマデ、案内スルヨ」

アカギツネ「ありがとう赤いボス、なら、頼める?」

ラッキービースト「マカセテ」

 

アカギツネはともえ達に一礼してから、ラッキービーストの案内で仕事を再開した。

 

ラモリ「ボク達モ出発シヨウ」

ともえ「うん、今日中には平原に抜けたいし」

イエイヌ「それでは、私はともえさんの後ろに」

ロードランナー「早いなおい、まぁいいけど」

カラカル「急ぐ旅でもないんでしょに」

 

イエイヌはともえの後ろに、ロードランナーとカラカルは新しくなった側車に。

大きくなって座席も増えて、乗り心地もよくなっている。

走り出すと、さっきの戦いが話題になった。

 

ともえ「さっきのカラカルちゃん、凄かったね」

イエイヌ「はい、一番に飛び出して」

ロードランナー「さすがはハンターだな、かっこよかったぜ」

カラカル「ハンター名乗ってるなら、あれくらいできて当然よ、すごくなんてないわ」

 

ともえ達の称賛を軽く流すカラカル。

軽い流れのせいか、ともえはつい余計なことまで訪ねてしまった。

 

ともえ「カラカルちゃんは、何時からハンターなの?」

カラカル「・・・何時からかしらね、知らないわ」

ともえ「あれ? きっかけとかは?」

カラカル「分からないわ、覚えてないもの」

イエイヌ「カラカルさん?」

ロードランナー「どうした?」

カラカル「・・・はぁ、黙ったままじゃダメよね」

 

ともえもさすがに不味いと思ったが、カラカルは自分の事を話始めた。

 

カラカル「セルリアンに襲われて、記憶がないのよ」

ともえ「セルリアンに」

イエイヌ「フレンズじゃ、無くなったんですか?」

カラカル「そうなる前に助け出された、けど、大切なことはごっそり」

ロードランナー「じゃあ、セーバルを知ってたのも」

カラカル「無くした記憶のためよ、ハンターの技術とかは覚えてたのに」

 

カラカルはどこか遠い目をしながらも、話を続ける。

 

カラカル「あのセーバル、何か知ってた見たいだけど、のらりくらりとはぐらかされたわ」

ともえ「そうだったんだ、何か手がかりとかは?」

カラカル「そうね、ただ、たぶん大切なこと、ハンターになったきっかけに繋がることだと思ってる、それだけよ」

イエイヌ「カラカルさん、あの」

カラカル「大丈夫よ、長く付き合ってるし、折り合いもつけてるわよ」

ロードランナー「折り合いって」

カラカル「セルリアンに奪われたら帰ってこない、フレンズで居られるだけ運が良かった、それだけで十分よ」

 

反論を封じるかのように、カラカルは丸くなって眠り始める。

こうなると、ともえ達は何もできない、無理に起こして悪化させたくもない。

 

ともえ「カラカルちゃん」

イエイヌ「カラカルさんが決めたことです、これ以上は」

ロードランナー「カラカルの生き方はカラカルのだ、俺たちの生き方だって俺たちのだ」

ともえ「うん、わかった」

 

 

バイクのエンジン音だけが森に響く、何か話せる空気でもないし、話題もない。

そうしてしんりんちほーとへいげんちほーの境目に近づいたときであった。

 

ともえ「あれ、視界が」

イエイヌ「霧が出てきましたね」

ロードランナー「偉く急にだな」

 

辺りに霧が出始め、瞬く間に視界が白く染まり、遠くが見えなくなる。

それだけなら、問題なかったのだが。

 

ラモリ「今、ルートノ再、コウチ、アッ、エ、エラー、ガ」

ともえ「ラモリさん? ラモリさん!?」

イエイヌ「ラモリさん! しっかりしてください!」

ロードランナー「おい! しっかりしろ、どうしちまったんだよ!?」

カラカル「うるさいわね~、少しは静にって、何この霧」

 

ラモリが突然機能を停止、動かなくなってしまった。

ともえ達はあわてふためき、カラカルも起きる。

カラカルはともえ達を落ち着かせてラモリを診ると、ため息をついた。

 

カラカル「一時的な機能停止、暫くすれば起きるわよ」

ともえ「本当?」

カラカル「本当、ただこの霧の中でナビがないのは」

 

濃い霧の中でもラモリのナビなら大丈夫だったかもしれないがこれでは頼れない。

幸運なのは道の真ん中だと言うこと、動けなくはない。

 

ともえ「進めない?」

カラカル「進めるわよ、お勧めはしないけど」

ともえ「じゃあ、行こうか」

イエイヌ「はい」

ロードランナー「じっとしててもな」

カラカル「あなた達、はぁ、まったく」

 

ともえはバイクをゆっくりと走らせる。

霧で前は見えないが、地面はならされている。

そうして道の上だと確認しながら進んでいく。

 

ともえ「結構走ったかな?」

イエイヌ「そんなにですよ」

ロードランナー「だな、まだちょっだぜ」

カラカル「霧のせいで時間の間隔も曖昧ね」

 

風景は白か木々の影、音はバイクのそれだけ。

時間の間隔が曖昧になるのも当然だった。

そうして暫く道に沿ってると信じながら進んでいくと、前方に木々とは違う影が浮かんできた。

 

ともえ「何だろう、こんなところに」

イエイヌ「建物ですよね」

ロードランナー「遺跡か?」

カラカル「何かしらあるのは確かね」

 

影に近づくにつれ霧も晴れてくる。

見えてきたそれはそれは、灰色の四角いブロックを少し角度を変えたり、変えなかったりして積み上げたような建物だった。

 

ともえ「形からして面白そうだから、入ってみようよ」

イエイヌ「言ってすぐに入らないでください! ゴマさん、追いかけますよ!」

ロードランナー「おう、ともえ、待ちやがれ!」

カラカル「あんた達、まったく」

 

ともえを追いかけ建物に入っていく。

入ってすぐの場所は、先日泊まったクリーンセンターで見かけたカウンターのそれとよくにた受け付け以外、何もなかった。

 

ともえ「あれ? いがいになにも」

イエイヌ「ともえさん、勝手に入ってそれはだめですよ」

ロードランナー「何にもないうちに出ようぜ」

カラカル「いたいた、ほら、でるわよ、こんなにきれいなら誰かの縄張りよ」

ともえ「そういえば」

 

床を見てもゴミ一つ落ちてなく、壁も柱磨かれている。

ラッキービーストが管理してないなら、誰かが掃除しているということで。

そこまで皆が認識したところで、カラカルとイエイヌが何かに気が付いた。

 

カラカル「だれか来るわ」

イエイヌ「はい、一人です」

ともえ「セルリアン?」

ロードランナー「ならまずいぞ」

カラカル「いえ、足音がするわ」

イエイヌ「フレンズだとは思いますが、鼻がうまく効かなくて」

 

カラカルとイエイヌが身構える中、奥からやってきたのは、ともえにとっては顔なじみの相手であった。

 

ともえ「あ、アドちゃん?」

黒アードウルフ「誰が来たのかと思ったら、あなただったのね」

イエイヌ「えっと、お知り合いですか?」

ともえ「顔みしり、なのかな」

ロードランナー「あやふやだな、おい」

カラカル「敵意は、ないみたいね」

 

奥から現れた黒いコートに身を包んだアードウルフ、ともえは音楽祭でもであったが、ほかのメンバーは初対面であった。

アードウルフは一通り確認すると、ともえに近づいた。

 

ともえ「え、えっと」

黒アードウルフ「ここに来たのも何かの縁ね、ついてきなさい」

ともえ「え?いいの?」

黒アードウルフ「今日は機嫌がいいの」

イエイヌ「いいんですか?」

ロードランナー「でも、ともえだけ行かせるのはまずいだろ」

カラカル「行くしかないわね」

 

イエイヌたちは黒いアードウルフを怪しく思いつつも、ともえがついて行くのだから一緒について行くしかなかった。

彼女について進む通路は装飾があるわけではなく、無機質な印象を受けた。

 

イエイヌ「ゴマさん、なんかこう、冷たいですね」

ロードランナー「だな、クリーンセンターにも似たような場所あったけど、こっちのほうがな」

ともえ「二人とも、どうしたの?」

イエイヌ「いえ、なにも」

ロードランナー「だな」

カラカル「あなた達」

黒アードウルフ「入るわよ」

 

通路の先は明るい部屋だった、白い石の床に、白い壁、部屋は照明で明るく照らされていた。

壁には、何か四角いものがたくさんかけてあった。

 

ロードランナー「なんだここは?」

黒アードウルフ「あなたはわからないのね」

ロードランナー「なんだと!」

イエイヌ「ゴマちゃん、落ち着いて、ここにあるのは」

カラカル「これって、そういうことよね」

ともえ「きれい」

 

壁にかかっているのは、森の中の滝、荒野を貫く道、タイガに架かる橋、それらパークの自然が描かれた絵が多数飾っていた。

 

ともえ「ここって、美術館?」

黒アードウルフ「そうよ」

ロードランナー「びじゅつかん・・・って、なんだ?」

イエイヌ「こういった絵とか、見てすごいって思うものを置いてある場所ですよ」

カラカル「図書館や博物館とはまた違う場所っては聞いてたけど、だいぶ違うわね」

黒アードウルフ「あなたたちはわかるのね」

 

黒アードウルフはどこか満足そうであったが、ともえ達は気が付かなかった。

 

黒アードウルフ「ここは美術館、美しいものを永久に残すことを試みた施設よ」

ともえ「永久に残す」

イエイヌ「なんかこう、ここだけでもわかりますね」

ロードランナー「そうか? 俺にはちっともわかんないぜ」

カラカル「あんたは、もう少し場の空気をよみなさいよ」

黒アードウルフ「わかる相手にだけにわかればいい場所でもあるの、ここにあるのは風景画よ」

 

各地の風景が描かれた絵は、写真とは違う、そこで感じたものが記されている、そんな感じであった。

 

ともえ「ここって、どこらへんかな?」

イエイヌ「えっと、ジャングルちほーだと思いますけど」

ロードランナー「この支柱、どっかで見たような」

カラカル「これ、アンイン橋よ、ほら、今のアンイン橋の支柱と同じでしょ」

ともえ「今の? ならこれは昔の?」

黒アードウルフ「そうなるわね」

 

ここにある絵の多くは、昔のパークの風景を描いたもの、いまではなくなってしまった風景もあった。

一つずつ見ていると、いつしか次のフロアの入り口まで来ていた。

 

黒アードウルフ「次は、想像画、というべきかしら」

ともえ「想像画?」

イエイヌ「絵本とか、そういうのですか?」

ロードランナー「漫画ってやつか?」

カラカル「何かしらね」

 

次のフロアに飾られていたのは、先ほどの風景画からがらりと変わり、カラフルだけどインパクトの強い色と柔らかいタッチで描かれた作品でった。

みれば、何か文字も一緒に書いてあった。

 

ともえ「えっと、ガイド募集?」

イエイヌ「フレンズ目線でパークを案内?」

ロードランナー「なかなかきれいじゃねぇか、それに書かれてるフレンズ、どことなくプロングホーン様にそっくりだし」

カラカル「これ、ガイド募集のポスターね」

 

プロングホーンに似たフレンズが書かれたポスターの横には、イルカのフレンズがアイスを食べている絵が描かれたポスター、そこには『ジャパリアイス塩味、新発売』と書かれていた。

フレンズの描かれたポスター、というだけならただのポスターだったが、書かれていたフレンズは微妙に違っていた。

 

ともえ「似てるけど、どこか違うよね」

イエイヌ「はい、こことか」

黒アードウルフ「ここにあるポスターはすべてパークの外で作られた物、作った人間は一度もパークを訪れてないわ」

ロードランナー「なんだそりゃ」

カラカル「実際に見たことは一度もない、だから想像画、うまいわね」

 

一度も本物のフレンズを見ないで描かれたポスター、そこに描かれたフレンズは似ていても、微妙に違っていた。

と言っても、ポスターの目的からすればフレンズは注目を集めるためのもので、大事なのは格好と文字であった。

 

ともえ「えっと、これは」

黒アードウルフ「それは作業員募集のポスター、ビーバーが描かれているわ」

イエイヌ「なんか、似合ってませんね、石造りの建物って」

ロードランナー「水辺からあんまに動かないもんな」

カラカル「それに木を使ってるし」

 

だからこうした、ビーバーが石造りの建物を建てている建設作業員募集のポスターという、ずれた物もあったりした。

 

ともえ「やっぱり、ちゃんと自分の眼で見ないと、こうなっちゃうんだね」

イエイヌ「私って、あんなに濃いですか?」

ロードランナー「いや、あれ別人だろ」

カラカル「あんた以外のイエイヌは見たことないわね」

ともえ「ほかにもイエイヌちゃんが?」

イエイヌ「・・・そんな気もします」

黒アードウルフ「見終えたなら、上に行くわよ」

 

ちょっとずれたパークのポスターをみてあーだこーだ話していたら、黒いアードウルフにせかされ、ともえ達は階段を上る。

外から見たときは大きく見えたのだが、中はそこまで大きくないのだろうか。

 

ともえ「いろんなものを見てたから、狭く感じるのかな?」

黒アードウルフ「保存設備の関係で、見た目より狭いのよ」

イエイヌ「保存設備?」

黒アードウルフ「美術品を永久に残すことは試みられたけど、ヒトの力と技だけでは自然には勝てない」

ロードランナー「そりゃ、ヒトがいたころの道具なんてほとんど残ってないし、遺跡でたまに見るくらいだな」

カラカル「そうね、ジャングルちほーの川も雨季が来るたびに形を変えてるわね」

黒アードウルフ「結局は、ヒト単独では永久に残せない、こういうのは、残るけど」

 

そういって2階に上がって最初に目に入ったのは、フレンズの姿を模した石あった。

どのフレンズも楽しそうにしていて、まるで遊びの最中にその姿をそのまま固めたようであった。

 

ともえ「かわいい! けどもふもふしてない」

イエイヌ「そこですか?」

ロードランナー「お前らしいな」

黒アードウルフ「これは石像、石を砕いたり、削ったり、磨いたりして作られる、石は自然の作り出したものだから、たとえここが土に埋もれても掘り出せばその姿を伝えてくれるの」

カラカル「そう、ちょっと、悪趣味ね」

黒アードウルフ「あら?」

 

ともえ達はフレンズの石像に興味津々だが、カラカルはそうではなかった。

 

黒アードウルフ「こんなにも美しい姿を、永久に残しているのに」

カラカル「だからよ、いまにも動きそうなのに、石だから動かないし、冷たい、その先がない、何がいいのかしら」

黒アードウルフ「そう、フレンズにこの良さはわからないか」

カラカル「あなたもフレンズなら、変わらないから感じる不気味さを理解しなさい」

 

カラカルは興味なさそうにただ歩いていく。

一方でともえ達はというと。

 

ともえ「ところで、このスカートの下は」

イエイヌ「それはだめです!」

ロードランナー「絶対見ちゃだめだ!」

ともえ「いいじゃん、少しくらい」

イエイヌ&ロードランナー「「少しでもダメ!」」

 

スカートの中とか、しっぽの付け根とかを好奇心から覗こうとするともえと、それを止めるイエイヌとロードランナー、にぎやかにしていたのでカラカルと黒いアードウルフの会話には気が付かなかった。

 

ともえ「ぶー、あーあ、これでもふもふだったらよかったのに」

イエイヌ「動かないもふもふは、パークだとあまり良くないですよ」

ともえ「そうなの?」

ロードランナー「なんか聞いたような」

黒アードウルフ「剥製のことかしら? サンドスターがあふれるパークだとすぐにフレンズになるから見ないわね」

ともえ「そうなんだ」

カラカル「あまり見たいものじゃないわよ、ここにある石像と同じだから」

ともえ「カラカルちゃん」

 

カラカルはどこかつまらなそうに石像達を見ていた。

ともえ達は石像を見るのも初めてだったので、カラカルの気持ちはいまいちわからなかった。

黒いアードウルフは不服そうだったが、すぐに隠すと案内をつづけた。

 

黒アードウルフ「次の部屋で最後、私のお気に入りの場所よ」

ともえ「お気に入り、それって、すごいの?」

黒アードウルフ「輝いてはいるわよ」

ともえ「めっちゃきになる!」

イエイヌ「これだけ色々あってのお気に入り、確かに気になります」

ロードランナー「まぁ、たしかにな」

カラカル「悪趣味なのはごめんよ」

 

それぞれに意見をの別つ、ともえ達は黒いアードウルフの先導で、最後のフロアに足を踏み入れた。

そこは今までのフロアと違い、白い壁が部屋のあちこちに生えていて、その壁に展示物が飾られていた。

 

黒アードウルフ「ここにあるのは写真、思い出の切り抜きね」

ともえ「ここにあるのが、ぜんぶ」

イエイヌ「たくさんありますね」

ロードランナー「いったいいくつあるんだ?」

黒アードウルフ「数えられないくらいには」

カラカル「沢山あることはわかったわ」

 

飾られていたのは、パークで撮影された写真の数々、白い壁のおかげで写真はともえ達の目線の高さにある。

写っているのは、何気ないパークの日常だった。

 

ともえ「かわいい、この子は・・・ピューマちゃん!」

イエイヌ「果物を食べてるところですね」

ロードランナー「なんか、腹減ってきたな」

 

リンゴを食べるピューマの写真、ジャパリまんがあっても、甘い果物は別腹。

ロードランナーは口からよだれが少し垂れたが、すぐに拭ってとりつくろった。

 

ともえ「こっちは、水遊びで、コツメカワウソちゃんと」

イエイヌ「トムソンガゼルさんでは?」

ともえ「えっと、あ、ほんとだ、ありがとう、イエイヌちゃん」

イエイヌ「どういたしまして」

 

コツメカワウソとトムソンガゼル、住む場所違う二人が仲良く遊んでいる。

でも、フレンズが住んでる場所から違う場所へ遊びに行くことは、珍しくはない。

 

ロードランナー「これって、かけっこの様子だよな」

イエイヌ「キリンさんと、誰でしょうか?」

ともえ「えっと、オグロスナギツネちゃんじゃないかな?」

 

図鑑を片手にともえが答える、キリンとオグロスナギツネのかけっこの写真、なぜかけっこをしているかはわからないが、ハイウェイでフレンズが集まってかけっこをしているのだから、不思議な光景ではない。

どの写真も、パークでは珍しくない、日常が写っていた。

 

ともえ「なんだか、穏やかっていうか、こういうのがやっぱり大事っていうか」

イエイヌ「当たり前が大事ってことですか?」

ロードランナー「まぁ、プロングホーン様も、いつもの一日が一番大事って、言ってたしな」

黒アードウルフ「ここにある写真は、見る側がその価値を決める物ばかりよ」

 

黒いアードウルフの言う通り、この写真達はパークの日常を映した、平凡な写真ばかり。

でも見る側が何か知っていれば、その写真は違うものになる。

当たり前だから、それが変わってはじめて気づく、そんな写真たち。

ともえ達がいつもの大切さについて考えていると、ある事に気が付いた。

 

ともえ「あれ? カラカルちゃんは?」

イエイヌ「そういば、さっきまで一緒だったのに」

ロードランナー「どこに行ったんだ?」

 

このフロアに入るまで、一緒にいたカラカルの姿が見えなかった。

どこかにいるのだろうけど、白い壁で視界があちこちでさえぎられていて、見まわしただけでは見つからんかった。

 

ともえ「見つけないと」

ロードランナー「イエイヌ、鼻は効くか?」

イエイヌ「カラカルさんのなら、こっちです」

黒アードウルフ「走るのは・・・行ってしまったわね」

 

イエイヌの案内で白い壁の間を縫って進んでいく、道がなくて迂回しながらも、近づいていく。

たどり着いたのは他のと変わらない白い壁、その前にカラカルはいた。

 

ともえ「カラカルちゃん!」

カラカル「ともえ」

イエイヌ「よかった、見つかってって、どうしたんですか!?」

ロードランナー「おい、何で泣いてるんだよ!」

 

やっと見つかったカラカルだったが、その目から大粒の涙をこぼしていた。

何かあったのかともえ達は駆け寄るが、カラカルは大丈夫と首を振った。

 

カラカル「もう、無くなったと思ってたから、もう一度なんてないと思ってたから」

ともえ「カラカルちゃん?」

イエイヌ「どうしました?」

ロードランナー「おい、この写真、ヒトが写ってるぞ」

ともえ「へ?」

 

カラカルが見ていた写真、それは木陰の中、背中を木に預けて座る、黄緑色の髪をした女性。

彼女の膝には、黄色い耳を持つフレンズが、気持ちよさそうに眠っていた。

撮影者に対してだろうか、女性は口に指をあてて、静かにしているよう伝えている。

今までの写真とは、違う写真だった。

 

ともえ「このヒト、どこかで」

カラカル「ミライさん、パークガイド、眠ってるのはサーバルよ」

イエイヌ「ミライ・・・って、カラカルさん、知ってるんですか?」

カラカル「当たり前よ、思い出したのよ、まったく、なんで忘れてたのよ私は」

ロードランナー「カラカル」

 

カラカルが記憶をしていたことは知っていた、もう思い出すこともないと折り合いをつけていたことも。

 

ともえ「大切な、人たちだったの?」

カラカル「当然よ、特にサーバルは親友よ」

イエイヌ「親友」

カラカル「セーバルがいなくなって、ミライさん達がパークを出ることになって、あいつは追いかける方法を探すって出て行くって、でもセルリアンもいたから、あたしは残って、あとで追いかけるって、あいつの分まで頑張って」

ロードランナー「それで、ハンターになったってわけか」

カラカル「そうよ、もう、思い出すこともないと思ってたのに、知らないままだと思ってたのに」

 

カラカルの涙は、悲しい涙ではない、友を、思い出が戻ってきたことの、うれし涙だった。

ともえ達は、そばに寄り添う、それだけで十分だった。

 

黒アードウルフ「そろそろ、泣き飽きたかしら」

ともえ「アドちゃん」

カラカル「そうね、うれしいからって泣きっぱなしはみっともないわね」

イエイヌ「カラカルさん」

カラカル「ありがとう、あたしが、あたしに戻れたわ」

黒アードウルフ「そう、それはよかったわね」

ロードランナー「?」

黒アードウルフ「出口はこっちよ、ここから一回まで戻るわ」

 

黒アードウルフはどういって歩き出す、どこか淡々と、感情が薄い言葉だったが、誰も特別、気にはしなかった。

階段を降りると、再びエントランス、そこからは外へとでる。

 

黒アードウルフ「この道をもどって右にいけば、大きな道へ戻れる、目印は模様入りの岩よ」

ともえ「ありがとうございます」

イエイヌ「いっぱい見せてもらって、ありがとうございます」

黒アードウルフ「気分がよかったからよ」

ロードランナー「またどこかで会おうな」

カラカル「色々あったけど、ありがとう、残していてくれて」

黒アードウルフ「・・・珍しいものが見れた、それでだけで十分よ」

ともえ「また来ますね!」

 

ともえはバイクを始動させると、見送りのアードウルフに振り返って少し手を振ってから、進み始めた。

来た時とは違い霧はなく、少し進むと、アードウルフの言う通り、道案内用に矢印の描かれた岩があった。

 

ともえ「えっと、こっちが森林ちほーだから、こっちだね」

カラカル「なら、ここでお別れね」

イエイヌ「カラカルさん?」

ロードランナー「おい、どうしたんだよ?」

 

カラカルはサイドカーから飛び降りると、森林ちほーへと向かおうとしていた。

急なことに驚く3人だったが、カラカルはそうでもなかった。

 

カラカル「セーバルが言ってたじゃな、あたしは手掛かりが見つかるまでって」

ともえ「そういえばそうだった」

イエイヌ「でも、これからどうするんですか?」

カラカル「そうね、まずはセーバルに一発きつーいのを入れないと、心配かけた分と、何にも教えてくれんかった分」

ロードランナー「災難だな、セーバルも」

カラカル「そのあとは、あいつを追いかける方法を探さないと、たぶん、セントラルに行ってるだろうし」

ともえ「セントラル?」

イエイヌ「それって、遠い場所ですよね?」

ロードランナー「それに、昔のことなんだろ?」

 

遠くに、昔に向かった親友を追いかける、それはどこか無謀にも感じられた。

だがカラカルは、笑っていた。

 

カラカル「あたしが今こうしてるみたいに、あいつがくたばってるとは思えないの、追いかけるって約束したし、追いかけてやるのが筋ってやつよ」

ともえ「カラカルちゃん、わかった、気を付けてね」

イエイヌ「会えるといいですね、親友と」

ロードランナー「あぶねぇことするんじゃねぇぞ」

カラカル「わかってるわよ、ともえとイエイヌも、大事なこと、思い出せるよう祈ってるわ!」

 

カラカルはそう言ってから、森林ちほーへ向かって歩き出す、ともえ達もバイクを走らせ、平原へと抜けるべく森を進む。

 

 

ラモリ「システム、再起動、トモエ、ナニカアッタカイ?」

イエイヌ「あ、ラモリさんが起きた」

ともえ「ラモリさん、大丈夫?」

ロードランナー「今更だな」

ラモリ「大丈夫アイダケド、カラカルハドウシタノカナ?」

ともえ「さっきっ別れましたよ、それよりどうしたの、急にしゃべらなくなって」

ラモリ「原因不明」

イエイヌ「不明って」

ロードランナー「肝心な時に眠るんじゃねぇぞ」

 

やっと起きたラモリだったが、何で寝ていたかはさっぱりであった。

それでも、それを気にすることはない、まだまだ旅は続く、カラカルが思い出せたように、ともえとイエイヌも、思い出せると信じて。

 





ーー
ーーー

黒アードウルフ「きれいだったのに、こんなこともあるのね」

ジャラ ジャラ

黒アードウルフ「あら、ようやく来たのね、派手に暴れたみたいね」

・・・

黒アードウルフ「責めはしないわ、仕方ないことだもの」

・・・

黒アードウルフ「苦しいから、痛いから、責められるべきことではないのだから」

・・・

黒アードウルフ「もう少し待って頂戴ね、もうすぐ、終わらせてあげるから」

ーーー
ーー

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