けものフレンズR ・君と歩く道・   作:yatagesi

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森を抜け、平原へと入り、旅を続けるともえ達。
フレンズに会えずにむくれていたら、線路を発見。
調子に乗って線路を走っていたら、バイクが動かなくなっちゃった。
そこに通りがかったのはロバちゃん、フレンズ車軌道の引き手をしていて、乗せてもらうことに。
客車にはセイウチちゃんとカワラバトちゃん、島の外から来たらしい。
話をしたり、ロバちゃんの夢を聞いたり、楽しい時間を過ごしていたら、そこにセルリアンが!
果敢に立ち向かうロバちゃん、イエイヌちゃんとロードランナーちゃんも加勢するけどセルリアンは強い。
傷ついたロバちゃんを守るため立ちふさがるともえちゃん、セルリアンの一撃が迫るとき、彼女の体からサンドスターの光が。
その光にセルリアンがひるんだところでロードランナーが石を砕いてやっつけた。
勝利を祝福するかのような雨が降るけど、空は晴れている。
運転を再開した列車がこはんちほーにつくと、セイウチちゃんとカワラバトちゃんとお別れ。
次は砂漠…と思いきや、ロバちゃんがどこかへ連れて行ってくれるという、会いたい人がいるというのだが、果たして・・・。


第9話 隠れ里 前編

木々が生い茂る森の中、ロバの引っ張る客車はガタゴトと揺れながら、線路を進んでいく。

客車の中のともえ達は、ひそひそと話し合っていた。

 

ともえ「なんだかワクワクするね」

イエイヌ「ですけど、ラモリさんも知らない場所なんですよね?」

ラモリ「該当データハナイナ」

ロードランナー「大丈夫なんだろうな?」

ともえ「大丈夫でしょ、ロバちゃんいい子だし」

イエイヌ「そうですけど」

 

いくらロバがいい子とはいえ、薄暗い森の中を進んでいく、不安になるのも仕方のないことであった。

一方でともえは、この雰囲気すら楽しんでいた。

 

ともえ「ロバちゃん、あとどのくらい?」

ロバ「あの木の間を抜けたら、もうすぐですよ」

 

ロバが指差す先に、両脇から木が生えていて、幹と枝がまるで門のようにも見える。

客車がロバに引かれてそこを潜ると、景色は一変した。

 

ともえ「き、綺麗」

ロードランナー「赤いのがいっぱい並んでる」

イエイヌ「・・・懐かしい」

ロバ「凄いでしょ、赤い鳥居に石畳」

ともえ「うん! 別世界みたい!」

ロバ「別世界、そうかもしれません」

 

左右の木々は剪定され、道は石畳で舗装され、それを跨ぐ幾つもの赤い鳥居。

パークとは思えないほど、美しく整備されていた。

 

ともえ「絵になる、凄く絵になるよこの道」

イエイヌ「ともえさん、落ち着いてください」

ラモリ「フレンズガイナイノニ興奮シテルナ」

ロードランナー「色々越えちまったか?」

 

あまりの美しさに、ともえの色鉛筆は止まらない、イエイヌ達はもうなれてしまったので反応は薄め。

そうして鳥居をくぐっていくと、大きな木の門が見えてきた。

 

ともえ「あれは?」

ロバ「目的地ですよ」

イエイヌ「大きいですね」

ロバ「これが通るくらいですから」

ロードランナー「あれにも赤いのが書いてあるぜ」

ロバ「統一感らしいですよ」

 

赤い鳥居が書かれた木の門、左右には展望台のようなものもついている。

その門の前には、二人のフレンズが立っていて、ロバの足も止まる。

一人は黒い甲冑を身に着け槍を持ち、もう一人は白いフリル付きの服に薄い茶色のファーとピンクのリボン、赤い三角の切れ込みが入った茶色のスカートをはいていて、背中には布に包まれた細長い何かを背負っていた。

その二人が、ロバを止めた。

 

???「ロバか、今日は一体何の用だ」

ロバ「クロサイさん、ヤブノウサギさん、里長様のお客様もお連れしました」

ともえ「ひっ!」

イエイヌ「ともえさん、大丈夫ですよ、わたしがついてますから」

ロードランナー「どうしたんだ、ともえ」

ラモリ「アノ二人、銃ヲ持ッテルヨ」

ロードランナー「なに!?」

 

ともえはおびえていたが、イエイヌが優しく包み込む、ロードランナーもクリーンセンターのことでともえが銃を極端に恐れていることは知っていた。

気絶はしてないが、初めて見るフレンズをスケッチする余裕がないほどであった。

 

クロサイ「客人・・・後ろにいる3人か?」

ロバ「そうですよ」

ヤブノウサギ「ちょっと…怪しい?」

ロバ「天気雨も降りましたよ?」

クロサイ「それはそうだが、今は班長がいないのでな」

ともえ「は、入れそうなの?」

イエイヌ「わかりませんけど」

ラモリ「難航シテルヨウダナ」

ロードランナー「なんか頭堅いのか?」

 

ロバと門番二人が言い争いをしている、どうもともえ達を入れたくないらしい。

長くなるかと思われたかま、そうでもなかった。

 

???「二人とも、何をもめているの?」

ともえ「あれ、サーベルちゃん?」

サーベルタイガー「あら、ともえちゃん、久しぶりね」

 

いつの間にか列車の横にいたのはハイウェイで知り合った流れのハンターサーベルタイガー、彼女の姿を見た門番二人もどこか緊張していた。

 

クロサイ「班長、あの客人と知り合いで?」

サーベルタイガー「そうよ、里長様の天気雨も降ったのだから、早く入れてあげなさい」

ヤブノウサギ「・・・いいの?」

サーベルタイガー「里長様が良いと考えられたのですから」

クロサイ「わかりました、門を開ける」

 

クロサイとヤブノウサギが何かを操作したのち、門を押すとゆっくりと開いていく。

それが開いたことを確認すると、ロバが列車を引いてくぐり、サーベルタイガーも一緒にくぐる。

 

ともえ「サーベルちゃん、さっきの二人は知り合い?」

サーベルタイガー「私の仲間よ、久々に帰ってきたの」

イエイヌ「帰ってきた?」

ロードランナー「つまり、ここが縄張りなのか?」

サーベルタイガー「そんなところよ、ロバ、3人の案内は私がするわ」

ロバ「わかりました」

 

ある程度進むと、ロバが止まり、何人かフレンズがいた、今度はともえもいつも通りに。

 

ともえ「すごい、誰かわかんないけどフレンズちゃんがたくさん、めっちゃ絵になる、絵になるよ!」

サーベルタイガー「ついてこないと、迷子になるわよ」

イエイヌ「ともえさん、行きますよ」

ともえ「あーん、まだ書けてないのにー!」

ラモリ「モトドオリダナ」

 

イエイヌに引っ張られてともえは引き離される。

門を潜って直ぐは石畳と林だったが、道が広くなると両脇には木箱を土台に棒と布で作られた商店や木の壁に板材の屋根でできた家が姿を見せる。

 

ともえ「可愛らしい家がいっぱい」

イエイヌ「そうですね、クリーンセンターでみたセーバルさんのコレクション置き場に似てますね」

ロードランナー「ロッジにも似てるぞ」

ラモリ「材料ハ同ジダカラネ」

サーベルタイガー「ここで驚いてたら駄目よ」

 

進むにつれ、両脇は木々から家に変わり、フレンズ達も見かけるようになる。

少し開けた場所に出れば、中央に台があり、そこを中心として、家や商店が囲むように建っている。

そしてフレンズが何かを買ったり、楽しそうに話していたり。

広場というのが適切な、活気のある場所であった

この光景に、フレンズ好きなともえは興奮し、スケッチしようとして止められる。

 

ともえ「お願い! 後生だから、後生だから!」

イエイヌ「置いてかれてしまいますから駄目です」

ともえ「ケチ―!」

ロードランナー「あんまり騒ぐなよ、視線が」

ラモリ「同感ダナ」

サーベルタイガー「にぎやかね、こっちよ」

 

広場をまっすぐに抜けて、両脇は再び木々に覆われる、道は右に折れ曲がり奥は見えない。

そしてそこを曲がると、そこには入り口と同じように、いくつもの鳥居が並び、その奥にはこれまでの物とは違う、白い壁と黒い瓦、そして厳かさを感じさせるもんがあった。

 

ロードランナー「お、おい、なんか、空気が違うぞ」

ともえ「うん、ゴマちゃんの言うう通り」

イエイヌ「あれは・・・神社、ですか?」

サーベルタイガー「よく知ってるわね、そしてあそこに、里長様がいるわ」

 

そういってサーベルタイガーは歩いていく、ともえ達もついて行くが、どうしても聞きたいことがあった。

 

ともえ「ねぇ、里長様って?」

サーベルタイガー「この里を収めている、私達にとってはとても大切なお方です」

イエイヌ「大切?」

サーベルタイガー「私達が、私達でいることを証明してくる、ここにいていいと言ってくれた方です」

ロードランナー「?」

サーベルタイガー「外の方には、いまいちわかりませんよね、ほら、もうすぐですよ」

 

門の前までつくと、ひとりでに開いていく、ともえ達は驚くがサーベルタイガーにとっては普通の事なのだろう、そのまま入っていき、ともえ達も続く。

門の中は水の流れる場所や、石畳の外は木々が生えているが地面は砂利でおおわれている。

そして木で作られた、どこか倉庫のようにも見える外観の建物の前に、二人のフレンズが座っていた。

一人は大きな耳を持ち、グレーの服に身を包み、もう一人は白い毛並みで、服装も白を中心としていた。

そして大きな耳を持つ方は、ともえ達は知っていた。

 

ともえ「あれ? オオミミちゃん?」

オオミミギツネ「お久しぶりですね」

イエイヌ「どうしてここに?」

オオミミギツネ「私も里長様に仕えてますので、サーベルタイガー、あとは私達が引き継ぎます」

サーベルタイガー「わかったわ」

 

サーベルタイガーは一礼すると、去っていく。

残されたのはともえ達とオオミミギツネ、そして白いフレンズ。

 

オオミミギツネ「ホッキョクギツネ、お客様を里長様のところまで連れて行くから、よろしく頼むわね」

ホッキョクギツネ「わかりました」

ともえ「あの、スケッチ」

オオミミギツネ「時間はとりますので、今はこちらへ」

イエイヌ「らしいので、行きますよ」

ともえ「あーん」

ロードランナー「イエイヌのやつ、今日はなんだか逞しいな」

ラモリ「ダナ」

 

オオミミギツネに案内され、廊下を進んでいく。

最初に見えた建物の裏から、もう一つの建物へ、こちらは屋根に乾燥した植物を使っていた。

 

ともえ「茅葺屋根?」

オオミミギツネ「こちらは住居ですので」

イエイヌ「里長様って、もしかして」

ロードランナー「親とかじゃないのか?」

オオミミギツネ「里長さま、ともえ様一行が参りました」

???「中へどうぞ、靴は脱いでくださいね」

ロードランナー「靴?」

ともえ「足に履いてる」

ロードランナー「これも脱げたのか!?」

イエイヌ「そういえば、脱ぐのはお風呂の時くらいですからね」

ラモリ「フレンズノ靴ハ汚レモ勝手ニ落チルカラナ」

 

ちょっとした新発見もありつつ、屋敷の中へ、中は畳敷きで、奥は高くなっていて、そこにいたのは。

 

ともえ「やっぱり」

イエイヌ「ミケツさん」

ミケツ「お久しぶりですね、ここでは里長のイナリと呼ばれていますので、そちらで」

ロードランナー「変なメガネがなけりゃ美人だったのか」

オオミミギツネ「失礼なことを」

 

白い毛並みにぴんと立った耳、以前音楽祭に向かう際にお世話になったミケツとの再会であった。

その時は変なメガネをしていたが、今はそれを外して美しい素顔を見せていた。

オオミミギツネは右側にさも当然と言わんばかりに座っている。

 

イナリ「さて、皆さんの事、友人たちから聞いていました、ここまでよくたどり着きました」

ともえ「友人?」

イエイヌ「誰でしょうか?」

ロードランナー「セーバルじゃねぇか?」

ラモリ「達ダカラ、複数ダナ」

ともえ「それに、サーベルちゃんは違う気がする」

 

友人たちと聞いて、セーバルの姿を思い浮かべるが、ほかにだれかは思い浮かばなかった。

 

イナリ「ともえちゃんとイエイヌちゃん、ラモリさんは会ったことがあるはずですよ」

ロードランナー「俺だけ会ってないのかよ」

ともえ「ゴマちゃんが知らないとなると」

イエイヌ「カピバラさん?」

ラモリ「ダナ」

イナリ「古い友人なんですよ」

ともえ「顔が広いんだ」

イエイヌ「というより、カピバラさんって、何者なんですか?」

ロードランナー「・・・ってことは、イナリ様も」

イナリ「様をつけるときは里長で、あ、ほかの方も里で私を見かけたらそっちで」

ロードランナー「変なの・・・で、里長様も、セーバルみたいに昔からいるのか?」

 

確かに、あのセーバルと共通の友人がいる、ということは、彼女も昔からいるということかもしれない。

それはつまり、ともえとイエイヌの知りたいことのヒントを知ってるかもしれないということでもあった。

思い出したのである、セーバルが古い友人が調べ物をしてると言っていたことを。

 

イナリ「そうですね、里長としては違いますが、セーバルとは生まれた時から」

ともえ「じゃあ、古い施設を調べてるって」

イエイヌ「ともえさんが眠っていた施設について、なにか」

 

ともえとイエイヌが聞こうとするのを、イナリは手を出して止める。

 

イナリ「そのことについてですが、まだ話す時ではありません」

ともえ「?」

イエイヌ「つまり、話してくれないって、ことですか?」

イナリ「今は、ですが」

ロードランナー「じゃあなんで呼んだんだよ」

オオミミギツネ「それは、里長様の深い考えが」

イナリ「近くまで来ていたので、まっすぐ進んでいましたし」

オオミミギツネ「里長様!?」

 

イナリは一呼吸おいて、話を続ける。

 

イナリ「こうやって直接話してみたかったんです」

ともえ「なんかこう、偉い人って感じ」

イエイヌ「ともえさん・・・」

イナリ「偉いというのはこう流れに乗るもので・・・それはそれとして、時が来たかどうかの判断ですが、しばらくこの里で暮らしてください」

ともえ「暮す?」

ロードランナー「いいのか、それ?」

イエイヌ「それに、お家は」

イナリ「すべてこちらで手配します、里で暮らす民とともに暮らす姿で判断させてもらいます」

オオミミギツネ「何かあれば私に、用事があればホッキョクギツネが伝えますので」

ともえ「なんで別々なの?」

イナリ「オオミミギツネは民の声を私に伝え、ホッキョクギツネは私が決めたことを民に伝える、私がそう決めたんですよ」

イエイヌ「おっきい耳でよく聞いて、きれいな声で伝える」

ロードランナー「・・・見た目で決めたか?」

ラモリ「カモナ」

 

ロードランナーとラモリさんは置いといて、話は進んでいく。

 

イナリ「そういうことなので、この里でしばらく暮してください、転がる石には苔が生えぬという言葉もあります、弾にはとどまることも大事ですよ」

ともえ「そうなの?」

イエイヌ「そういう意味もありますね」

ロードランナー「苔生えるほど動かないなんて」

ラモリ「トラエカタハソレゾレダカラナ」

 

こうして、ともえ達は里にとどまることが決まった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

屋敷を出て、今度はホッキョクギツネの案内で里へと戻るともえ達、フレンズ達も増えて、視線が向けられている。

 

ともえ「むー」

ホッキョクギツネ「スケッチはまだ駄目ですよ」

イエイヌ「我慢ですよ」

ロードランナー「暮すって言っても、どんな場所だ?」

ラモリ「イママデハテントダッタカラナ」

 

旅に出てから、日々はテントで寝て、昼間はバイクで移動していて、フレンズの多くは木の下や洞窟などの雨をしのげる場所で過ごしはすれど、家を持ってるフレンズはそこまで多くない。

メインから離れて、中心に入る少し前、この里でともえ達が暮らすことになる家があった。

 

ホッキョクギツネ「こちらの家をお使いください、倉庫でしたが、中は掃除してあります」

ともえ「ほかの家とそっくり、でも屋根は青なんだね」

イエイヌ「わかりやすくていいですね、木の香りがします」

ロードランナー「倉庫ってのがよくわかんねぇけど、なかなかいいじゃねぇか」

ラモリ「シッカリシタツクリニナッテルネ」

 

家の中は玄関の土間と板張りの床、台所というシンプルなもので、広さもそこそこであった。

皆初めての家にあっちを見たりこっちを見たりするが、ホッキョクギツネは微笑みながら説明を続ける。

 

ホッキョクギツネ「玄関の正面にあるあちらの扉は勝手口になっておりまして、この家の裏手には水タンクとトイレが設置してありますので、雨水をためておりますが、必要なら川から組んできてください」

ロードランナー「タンク?」

イエイヌ「台所で使う水をためておく場所ですね、さっそく組んできますね」

ともえ「ずるい、私も行く、裏庭みたい!」

 

勝手口を出て右手に石を積んだ土台に白い筒状のものがあって、それは屋根の淵についた竹と繋がっている。

その奥にある小屋のようなものがトイレなのだろう、するとタンクの後ろからロードランナーが顔を出した。

 

ともえ「ゴマちゃん、どうしたの?」

ロードランナー「いや、隅に扉あるからなんだろうなって開けたら」

ともえ「そこからも行けたんだ」

イエイヌ「ホッキョクギツネさん、増築とかは」

ホッキョクギツネ「材料も施工も自己責任で」

イエイヌ「わかりました」

 

トイレの前の扉で遊ぶともえとロードランナー、それとは別に増築を考えるイエイヌ。

少しタンクを見て、イエイヌは考える。

 

イエイヌ「あの、あのタンクと同じものって、ありますか?」

ホッキョクギツネ「えぇ、この道からなら、広場に入って右手に行けば、道のわきに」

イエイヌ「ありがとうございます」

ともえ「あれ?イエイヌちゃん、どこか行くの?」

イエイヌ「少しやりたいことが」

ともえ「すごい気になる、ついてく!」

ラモリ「コッチハ家ノ掃除ダナ」

ロードランナー「うへぇ、まぁ、いいか」

ホッキョクギツネ「では、私は戻りますので、何かあればサーベルタイガーを頼ってください、広場にある灰色の家に今はいますので」

 

そういってホッキョクギツネは帰っていく、ともえとイエイヌはホッキョクギツネが言っていた場所に向かう。

広場に入ってそのまま右へ、少し進むと丸太で道は塞がれていたが、その脇にはいろんなものが山積みにされていて、申し訳程度に布がかけられていた。

 

ともえ「な、なんだか、怖いね」

イエイヌ「大丈夫です、ここにあるのは匂いからして、危険なものはなさそうですね」

 

怖くてくっつくともえに対して、イエイヌは鼻をくんくんと鳴らして、ガラクタの山から目当てのものを探す。

それは数分もしないで見つかった、家で使われているタンクと同じものであった。

 

イエイヌ「ありました、匂いもついてませんし、新品ですよ」

ともえ「それ、何に使うの?」

イエイヌ「お風呂ですよ」

ともえ「お風呂?」

イエイヌ「はい、ドラム缶風呂っていうんですよ、あと、これがドラム缶です」

 

ドラム缶を抱えて尻尾を振るイエイヌ、ともえはよくわからなかったが、とりあえず持って帰ることに。

 

ラモリ「ドラム缶ダネ、軽ク洗ッタホウガイイナ」

イエイヌ「はい、土台は・・・こんな感じでしょうか」

ロードランナー「風呂って、温泉とは違うのか?」

ともえ「バイク持ってきたよ、置き場も考えないと」

 

裏庭で真ん中を開けた土台にドラム缶を乗せて、その中に水を入れる。

開けた部分にはっぱや木の枝を置いて、イエイヌに頼まれたともえが火をつける。

その間に、ラモリが作っていた隙間の空いた板を中に入れて、これで完成らしい。

 

イエイヌ「できました、ともえさん、入ってみてください」

ともえ「う、うん」

 

服を脱いで、ドラム缶の中に入る、温泉と同じように、ぬくぬくのぽかぽかであった。

 

ともえ「なんだろう、気持ちいい」

イエイヌ「良かった、カコ博士に教わってたんですが、やったことはなくて」

ロードランナー「次は俺が入ってもいいよな?」

ラモリ「火ハ俺ガ見トクゾ」

 

ドラム缶風呂を囲んで、ワイワイとにぎやかな時間、明日からはこの里でこれまでの旅とは違う日々が始まる。

それが楽しみであり、期待もあり、懐かしくもあった。

ともえは気づいていなかった、初めての場所のはずなのに、懐かしく感じてる自分がいることに。

 





ーー
ーーー

イナリ「あの子たちは、家を楽しんでいるようですね」
ホッキョクギツネ「はい、明日からはサーベルタイガーが面倒を見ることになります」
イナリ「そうですか、ところで、資材置き場に向かったようですが、丸太を超えてはいませんね?」
ホッキョクギツネ「はい、それが何か?」
イナリ「時が来たら自然に向かうはずです、それまでは、止めてください」
ホッキョクギツネ「わかりました」
イナリ「・・・サーベルタイガーの報告のことも気になります、もう少し時間があるといいのですが」

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