刀は持ち主を選ぶ。ただし、斬る相手は選ばない。そう父さんは口にしていた。同時にこうも言っていた、俺たちは刀だ、と。刀を持たず、刀を使わない剣士、虚刀流。天才刀鍛冶四季崎記紀の作った1000本の〈変体刀〉と極めて特殊な機能を持っている12本の〈完成形変体刀〉という習作を得て「完了形変体刀」が作られた。
「刀を持たず、人の肉体を一本の刀にする
それが俺、自身だ。虚刀流十代目当主―――鑢
―――私立愛地共生学園。
海外の一件からやっとこさ祖国の日本に帰ってきたはいいが悲しいかな。親族の知り合いが経営する学園にゴリ押しで特別に入学させてもらえたのはいいが、男子が全員―――化粧を女装男子ばっかりだ。
「……俺の居ない2年間に日本の文化に何があったというのだ」
後頭部の低い位置で葉っぱのレリーフがついたヘアゴムで縛った長い髪を風に靡かせて正門の進んで十歩程度で、俺の心は限界を迎えていた。
……帰りたい、けど帰れない。
既に入学の手続きは済ませ、持っていた荷物は学生寮に運んでもらっている。
盛大に溜息をこぼし、進めたくもない足を前に進める―――それが、人であると同時に刀としてこの世に生を受けた俺の苦難の始まりとも知らずに。
ありのまま、起こっている事を話すぜ。
警棒を持った女子生徒に囲まれ、刀を持った女子に俺は剣を突き付けられている。
「だ~か~ら~さ~、君の矯正担当はこの
彼女が言うには、この学園には「天下五剣」と帯刀を許されて上位五人がおり。五人を筆頭に学園にやってくる問題児男子を矯正して今朝の女装男子化して真面目生徒にするらしい。それは入学した俺も例外じゃないそうだ。
「その矯正ってのは俺も女装男子になれば終わりってこと?」
「そ~だね、そうして大人しくなれば問題は無い~よ、でもね~、さとりとしては~学園長が注意するようにって言うくらいだから、少しくらいは遊んでも問題ないと思うんだ~」
あ、これ逃げないと斬られるやつだ。
意識して体を動かす前に、俺の体は次に起こるである自体を予測して既に体を扉の方へ向けて駆けだしていた。
「あ~れ~?なんで避けられるの?」
走りながら後ろの見ると俺の立っていた場所に突きが繰り出され床に剣先を刺さっている。
帯刀ってガチな切れ味があるのかよ!
「逃げるが勝ち!」
そう叫びながら廊下を全力で走り抜ける。
後ろからま~て~、と呑気な声を上げながら刀を振り回して追ってくるさとり。
廊下を駆け抜けて中に出ると片手に辞書、片手にレイピアを構えていた。
「ここは「天下五剣」の一人 亀鶴城 メアリが通しませんことよ!さぁ、大人しく矯正されるといいですわ!」
後ろにさとり、前方にレイピア使い。
「ッハァ!」
刀とは違うレイピアの刺突。刀が突きも出来るが元来は”斬る”をメインとして武器だ。対してレイピアは突き、”刺突”のみと特化。刀身も斬るという行為をしない分だけ余分な重量が無く、女性であっても軽くて扱いやすいという利点がある。つまりだ、日本刀とは違いレイピアの突きは凄まじく早いのだ。
「一の構え『鈴蘭』からの虚刀流《菊》!」
走りながら素早く両手を手刀に形に変えて、右手を前に突き出し、左手を腰に添え。向かってくるレイピアを見つめ、両腕を慣れて手付きで動かす。
「あらよっと!」
腰に両手を付け、背中と腕の間に丁度、レイピアの刀身がすっぽりと納まるように角度と走る速度を調節して……全力で腕を引いた。すると、ボキッ!と鉄の砕ける音が響き、レイピアの刀身は梃子の原理で真っ二つ。
「なっ!そんなのありですの!?」
流石にこんな方法で自分の技を破られてのは初めてなのだろう。砕けたレイピアを見つけて絶句している間に横を素早く通り抜けれる。なにせ、変わらずに後ろからはさとりが追ってくるのだから。
「お前さんもしつこいな!」
流石にこれ以上逃げても無理か。
「や~まさか、メアリちゃんの攻撃をあんな技で破るなんてね~」
意思の感じられない目が俺のしっかりと捉えている。
目だけを動かして別の方角を見れば、さとりや亀鶴城と同じように帯刀している女子が一人こっちに近づいてくる。
顔をすっぽりと隠す仰々しい鬼の仮面を被った女子高生。日本中を探してもそうは居ないだろう。
「……仮面って、この学園はどうなってんだよ。やば~い、俺の人生経験が今、急激にレベルアップを起こしてる」
はぁ~、と溜息をもらす。
「手を貸すか、さとりよ」
「だめだよ~、十葉ちゃんはさとりが相手するんだから~」
どこか意思の感じられない瞳が俺の見つける。
「ちなみにさ、俺がさとりに勝ったら女装男子の件は見逃してくれるってパターンはあるのか?」
走っていた分の体力を少しでも回復させる為に時間稼ぎの為に質問すると、ん~の首を傾げて悩んでいるさとり。
「天下五剣が負けるとは思えないが、仮に貴様が勝つ事が出来たのなら女装の件は無しにしておいてやろう。自分とさとりの二人の声明があれはそれ位は学園側も許可を下ろすだろう、さとりもそれで良いか?」
「いいよ~」
「聞いてみるもんだな、その条件なら断然やる気が出るってもんだ。虚刀流十代目当主―――鑢十葉。いざ、推して参る!」
「あっはは~、古風だね~っ!」
「っかは!」
喋りながら唐突に繰り出された突き。
体に当たる寸前、直感で紙一重で避けるが、新品の制服の横っ腹部分は綺麗にスッパリと切れていた。
教室と同じだ。事前の行動が読み取れない攻撃。
「あれを避けるなんて~すごいね~」
剣士含め、格闘家、軍人。対人戦をする場合は必ずと言っていいほどに相手の目を意識する。無意識に視線を逸らすのと同じように攻撃を当てようと思う箇所に視線を動かしてしまったり、逆に避ける時に避ける先を確認しようとしたりする。それが目の前の彼女―――眼目さとりには存在していない。
「いや~、まぐれだよ。一に構え『鈴蘭』」
手刀の形にして右手を前に、左手を腰に添える。
「一つ質問、あぁ、戦いは止めなくていいよ」
「なにかな?」
「その刀は壊しても問題ないか?」
レイピアを破壊した後で聞くのもなんだけどさ。
「問題ないよ~、メアリちゃんのレイピアを壊した技でもやるつもり?~」
「ありゃー突きをしてくる相手にしか使えない技でね、なにより、剣士を殺すのに剣を壊さなきゃいけないなんてルールは存在しないだろ」
俺は刀だ。主無き刀だ。
一話を書き終わって気づいた、虚刀流の構えって全部は出てなくて、一、二、七、零しか出てなくて!ってもしかしたら自分が見逃しているだけかもしれないので誰か知っている人居たら教えて!
主人公プロフィール
名前:鑢 十葉(とうは)
流派:虚刀流(十代目)
好きなもの:白米、肉、キュウリの浅漬け
嫌いなもの:毛虫、ニンニク、梅干し、
趣味:昼寝
外見、長い髪を低い位置で縛ったポニーテール、祖母がくれた葉っぱのレリーフがついたヘアゴムを愛用。