もしもハクの初期レベルが50、レベルキャップが100だったら 作:縦ロール兵装
全ての元凶
青白の光が、部屋を鈍色に照らす。
光を放つ円柱状のコールドスリープマシーン、その中で眠りにつく男を、白衣を着込んだ男が見下ろしていた。
白衣の男は、研究者であった。
荒れ果てた地上から地下に逃れたが故に、環境適応能力を失った人類。男の同胞達を、地上へ戻れるようにする為の研究を行っていた。
白衣の男は、死んだように眠る男の兄であった。
同意を得ていたとはいえ、他に適任が居なかったとはいえ、未だ人類での実験例がない投薬を、実の弟に行った。
白衣の男は、研究者で、死んだように眠る男の兄で。
そして、過保護だった。
いつ目覚めるかわからない弟は、地下に引きこもった他の人間達と比べても引きこもりであった。
体力面が心配だったのでとりあえず身体機能を人類の限界まで引き上げた。副作用はない。
いつ目覚めるかわからない弟は、どこか女性に対して一歩引いた態度を取っていた。
弟の子供が見たかったので、とりあえず性欲を10倍にしておいた。副作用はなく、計算上は1日10発までなら毎日発射できる。
いつ目覚めるかわからない弟は、言われてようやく動き出す怠け者であった。
娘が楽しそうに弟の世話を焼いているので、怠け癖は治さないでおいた。代わりに学習能力を10倍にしておいた。当然副作用はなく、怠け者に変わりはないので娘も安心して世話を焼ける。
過保護な研究者は、眠っている弟に微笑みかける。
兄弟なのだからこれくらいは当然だ、と。
これより遥か未来。眠りから目覚めた研究者の弟は、行く先々で騒動を起こすことになる。
彼は、言い訳の最後に必ずこう言うのだ。
「大体全部兄貴のせいだ」と。
ほう、と。
吐く息が白く宙に溶ける。
まるでこの地に来るものを拒むかのような肌を刺す冷たさに、 少女ーークオンはフードの下で僅かに身動ぎした。
その顔を照らすのは青白の光。真っ直ぐに見詰めるクオンの瞳に、光の中で死んだように眠る男が映っていた。
やや明るめの黒髪は肩まで伸び、柄のない奇妙な単色の服に身を包んでいる。
まるで違う世界から迷い込んできたかのような浮世離れした出で立ちが、クオンの好奇心を刺激する。
「もしかして、この人は」
微かな呟きは震えていた。それは寒さによるものであり、同時にこれからの未来への期待と興奮によるものであった。
現在の人類が栄える遥か以前に、栄華を極めた人類。
まさかと思った。
人は、そんな年月の間形を保っていられない。だから、この男が
そんなことを考えていたクオンだから、その行為は意識して行われたものではなかった。
何気なく伸ばした手が、男の眠る装置の透明な蓋に触れた瞬間、ぱし、と空気の抜ける音と共に蓋が消えた。
「え? えっ? うそ、私のせい……?」
慌てるクオンの目の前。男が立ち上がった。否、正確に言うなら勃ち上がった。
薄い、柄のない服を下から押し上げているのは、紛れもない男性の象徴であった。男の名誉の為に言うなら、これは仕方のないことだった。
何せ最低でも数百年もの間男は欲望を吐き出していないのだ。おはようございますしたところで、一体誰が男を責められるというのか。
しかし事情を知らないクオンは帰ろうか暫し迷った。性欲をもて余す男を連れて帰って、もし間違いがあったりしたら。
クオンも戦闘に関してはかなりの自信があり、そこらの破落戸が襲ってきても纏めて伸すことなど訳ない。
だが、もし男がクオンよりも強かったら。
本物の
大いなる母になってしまったら。
クオンの脳裏に浮かぶのは過保護な母親達と、皇で暗部最強の父親。
どう考えても男の死は不可避である。
「でも……放っては、おけないかな」
頬も凍りつくような寒さだ。このまま放っておいては、万に一つも生き残れないだろう。
クオンの中にある、男を見捨てたくはないという思い。
そして、未知の人物に対する好奇心が、この場を離れることを許さなかった。
どんな人なのだろうか。
どんな声をしているのだろうか。
どんな風に笑うのか。
本当に
まるで恋する乙女のように、目の前の男の事で頭が埋め尽くされる。
「知りたい。貴方の事が、知りたい」
言葉が、胸にストンと落ちる。
恐らくは、最初で最後の機会。これを逃せば、きっと二度と神話の真実に触れることはできなくなる。
だから、クオンはもう迷うことなく、男を抱えあげた。
この場所では暖を取れない、だからテントを張った場所までテントを張った男を連れていくことにした。
話がしたい。知りたいことが一杯ある、聞きたい事が山程ある。
だから、まずは覚悟を決めよう。
襲われたら、最悪己に宿る
反響があれば続きを考えます(見切り発車)