もしもハクの初期レベルが50、レベルキャップが100だったら   作:縦ロール兵装

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前回更新から何日経ったんだゴラァ!すいませんっした!!!
という訳で令和初投稿です。
なんで令和になってから休みが1日もないんだよぉ……

祝、お気に入り100件突破!
作者がタイラントに追いかけ回されている間に、こんなにもお気に入りが増えていて
正直、申し訳ない気持ちで一杯です

今回は長めの4000字超え
多分、これからちょっとずつ長くなってくる
かも

アンケートあります


暴かれる真実

 分厚い雲が太陽を隠し、昼間にも関わらず薄暗い山道。雪木をかき分けるように、クオンは男とウマを連れて、活動拠点にしていた村への帰路を急いでいた。

 

『自分の名前は……なんだ?』

 

 男は記憶喪失だった。自分の名も、生まれた場所も、家族も友も想い人も、投げ掛けた問いの全てにおいて、男はわからないと答えたのだ。

 

『自分はなんで、こんなところにいるんだ……?』

 

 男の言葉が、胸に刺さる。不安に揺れる瞳が、心に刺さる。

 自分が何者かわからないというのはどういう気持ちなのだろうか。

 きっと、本当の意味で理解することはできないとクオンはウマを繋いだ縄を握りしめる。

 そして、クオンは理解している。

 恐らく、男は大いなる父(オンヴィタイカヤン)だ。

 ならば、他の大いなる父(オンヴィタイカヤン)は?

 そう、男以外の大いなる父(オンヴィタイカヤン)は居ない。居ないのだ。

 家族も友も想い人も、例え記憶を取り戻したとしても、男は誰一人取り戻せないのだ。

 

(守らないと)

 

 辛い道を歩むであろう男を、救いのない未来を迎えるであろう男を、クオンは支えると決めた。

 後ろを振り返る。男と目が合い、そして逸らされる。

 

(それが、この人を起こした私の責任)

 

 

 

 

 

 クオンと目が合い慌てて目を逸らした男は、クオンの様子からどうやらバレた訳ではないと胸を撫で下ろす。

 クオンが前を向いたのを確認してから、視線をもとに戻す。

 

(尻尾だ)

 

 男は、前を行くクオンの尻と尻尾を凝視する。

 尻尾。人にあるはずのないそれは真っ白で、毛並みも凄くいい。

 勿論男も最初は真面目に自分の置かれた状況を考えていた。だが如何せん情報が少なすぎたのだ。

 真面目に考えてもどうしようもないので、男はすぐに考えるのをやめて目の前の謎に挑むことを決めたのだ。

 

(本物な訳がない、ということは……コスプレ?)

 

 鎌首をもたげた性欲を抑え、思考に耽る。

 性癖という可能性は除外しておく。そうだった場合、色々な意味で困るからだ。

 

(風習とか、か? ……それにしても、いい毛並みだ )

 

 まるで生きているみたいだ、と内心で感心し、特に意識することなく揺れるクオンの尻尾(コスプレ)を握る。

 

 

 

(あれ、温かーー)

 

 

 

「ーー!?」

 

 

 

 弾かれたように前方へ跳躍し、そのまま尻尾を隠すように此方に反転するクオン。

 ハッキリとした敵意を向け戦闘の構えを取るクオンの姿に動揺しながらも、男は先ほどの尻尾の感触。明らかに作り物ではあり得ない温かさに混乱していた。

 

「いきなり女の尻尾に触るなんて、どういうつもりかな?!」

 

「……ほ、本物?」

 

「偽物の尻尾なんてあるわけないかな! ……ぁ」

 

 男の言葉に怒鳴り返し、その直後に視線をさ迷わせる。

 動きを止めたクオンのフードが風に捲れ、白い毛に覆われた耳が覗く。

 

「その耳も、本物なのか?」

 

「あー……うん。本物かな」

 

 耳 が忙しなく動き、尻尾がゆらゆらと揺れる。

 確かめてみる? と差し出された尻尾を軽く握ると、さらりとした毛が掌を滑った。しっかりと手入れされている事が窺える柔らかさと芯のある程よい硬さ、そして確かに感じられる体温。男は夢中で尻尾をなで回した。

 

「い、一体いつまで触ってるつもりかな?! 確認したら終わり!」

 

 うねる尻尾に手を弾かれ、男はクオンと向き合う。

 少しだけ顔を赤らめたクオンは、咳払い一つ。

 男の頬を両手で掴んだ。

 

「ふーん……」

 

「にゃ、にをーー」

 

「確認するだけかな。ちょっと屈んで」

 

 頬を引っ張り、眼を観察したり、鼻を摘まんでみたり。好奇心のままに動くクオンに、男は体を硬直させている。

 

「耳は……毛がない、変な形」

 

「……むしろ毛がある方が変だろ」

 

「次は尻尾かな」

 

「尻尾って、おいクオンちょっと待っ」

 

 男の静止の声より早く、男の後ろに回り込んだクオンが尾てい骨を擦る。

 

 

 

『 天 命 の 楔 』

 

 

 

 運命に抗い宿命に立ち向かう為の力が、理性よりも強く男の性欲を抑え込む。

 男は……性欲を抑えることを強いられているんだっ!

 

「うーん、やっぱり尻尾はない……あっ」

 

 集中線により強調された男の表情にクオンが気付き、身を離した。

 気まずそうな顔をするクオンと向かい合い、男は口を開く。

 

 

 

「いきなり男の尻尾に触るなんて、どういうつもりかな?」

 

 

 

「尻尾ない癖に! しかも裏声で……腹立つ!」

 

 

 

 地団駄を踏み悔しがるクオンだったが、暫くして溜め息を吐く。

 

「全くもう……こっちは貴方の事で色々と真剣に悩んでたのに、いきなり尻尾に触るから変な感じになったかな」

 

「まあ、どうにかなるだろ」

 

 風が吹き、クオンのフードが揺れる。

 なんでもないように。本当になんでもないように男は笑った。

 

「自分の事で悩んでくれたのはありがたいが、今難しく考えたって何もわかりっこないだろ。温かい風呂に浸かりながら一杯でもやれば、自然といい考えが浮かんでくるってもんだ」

 

「楽観的過ぎるとは思うけど」

 

 目の前に立つ男の事を、クオンは守るべき対象としか認識していなかった。

 記憶を失い、途方に暮れていた男を助けてあげたいと思った。

 辛い道を歩むであろう男を、救いのない未来を迎えるであろう男を、クオンは支えると決めた。

 

(全部、早合点だったかな)

 

 少なくとも、なんでもないように酒が飲みたいと笑う目の前の男は、ただ守られるだけの存在ではなかった。

 辛いことがあっても、明日は良いことあるさと笑っていられる、皆を引っ張っていける器を持っていると。

 クオンは、男を見てそう思った。

 

 

 

「……うん。お風呂に入りたいのは、私も同じかな」

 

 

 

 この時初めて、クオンは男を一人の人間として認識したのだった。

 

 

 

 

 

「ならさっさと村へ向かおう。いい加減雪景色は見飽きた」

 

 クオンを追い越し、男は前に進む。

 クオンが追い付き、横に並んだ。

 

「風情があっていいじゃない。それより貴方の名前を決めたいんだけど、いいかな?」

 

「ああ、確かに名前がないと不便……待てよ、考えようによってはこれはチャンス! 自分の名前を好きに決められるって最高じゃないか」

 

 はしゃぐ男の横顔を見上げ、クオンは母親達から聞かされた話を思い出していた。

 それはとある異邦人の話。

 とある村に現れた、記憶を失った男の話。

 此処より遥か遠く、神々の眠る島国にうたわれしものの話。

 

「決めた、貴方の名前はハク」

 

「お洒落要素としてミドルネームは外せないだろ……っておい! なんでクオンが自分の名前を決めるんだ!?」

 

 慌てる男に、クオンは笑いかける。

 

「だって、ハクは私が拾ったから」

 

「自分はペットか! しかもハクって、景色が白いからって安直過ぎやしないか?」

 

 瞬き一つ。男の言葉に、クオンは首を振る。

 

「その名前はうたわれしお方から継がれた、由緒正しい名前かな」

 

「由緒正しいって言ったって……」

 

 困ったように頭を掻く男に、クオンは意地悪そうに笑う。

 

「いいのかな、そんなこと言って」

 

「なんのことだ?」

 

 男の問いには答えず、クオンは落ちた木の枝を拾い先端で雪をなぞる。

 

「これでハクって読むんだけれども……ハクは読めるかな?」

 

「うげ……マジか」

 

 クオンの書いた文字は、男にはただの記号にしか見えなかった。

 つまり、男は文字が読めないのだ。

 いかに自分が不味い状況にいるか、ようやく理解し呻く男。

 

「記憶喪失で文字も読めない、地理もわからない。こんな状況で私の庇護なしで生きていけるのだったら、好きに名前を決めたらいいかな」

 

「き、脅迫までするか……?」

 

 見つめ合い数秒、クオンの目に本気の色を感じた男が両手を上げる。

 

「わかったわかった、自分はハクだ。これでいいだろ?」

 

「うん。よろしくね、ハク」

 

 ジト目のハクと笑うクオンが雪道を進む。

 遥か昔より定められた出会いが終わり、運命が動き出す。

 ここから始まるのは全ての因縁に終止符を打つ物語。

 かつて語られ、今を受け継ぎ、未来にうたわれるものの叙事詩。

 

 序章は偽りの仮面。真実を覆う仮面の物語を、今はまだ誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

「予定通り、日暮れ前には着けたかな」

 

 見下ろす先、クオンが拠点にしている村があった。

 振り返ると、伸びをして体を解しているハクと目が合う。

 

「ようやく村にたどり着けたか」

 

「ようやく、って言う程歩いてないんだけれど」

 

「一日歩きっぱなしだったじゃないか」

 

 その言葉に、クオンは再び自分とハクの常識の違いを実感する。

 ハクは白という単語の別の読みをハクと言ったが、クオンが普段使っている文字では白をレタルと読む。

 白と書いてハクと読むのは、大いなる父が使っていた神代文字の方だ。

 今のハクの言葉もそう。この時代、村から村へ移動するのに、整備された道を使っても最低4日。獣道を行けば、1週間掛かったとしてもおかしくはない。

 男は、そんな事も知らないのだ。

 

(これは、骨が折れそうかな)

 

 独り立ちできるようになるまでどれだけかかることかと、未来の苦労を考え溜め息を吐く。

 

「まずは、旅籠に向かうかな」

 

「了解」

 

 再び歩き出すクオンとハク。これからの事を考えていたクオンは、ふと気付く。

 

(そういえば、襲われなかったかな)

 

 ハクの性欲が強い事は、クオンも理解している。なにせ今もハクの熱い視線が尻とうなじに突き刺さっているのをしっかりと感じ取れるのだから。

 時々微妙に前屈みになる姿に、男も大変かな、という感想を抱くくらいには、クオンはそっち方面に理解があった。

 

(私が恩人だから、耐えているのかな?)

 

 聞くのも変だ、と言葉にするのをやめて村道を進む。

 交わされる他愛ない話。ハクの何気ない質問にクオンが苦笑しながら答える。そんな緩やかな時間が旅籠に辿り着くまで続いた。

 

「ここが、私が利用している旅籠かな」

 

「中々に、いい雰囲気じゃないか」

 

 ハクの言葉にクオンは頷き、旅籠の中へ入る。

 

「女将さん、ただいまかな」

 

「あら、おかえりなさい」

 

 

 

「ーーぐっ、腹がっ!」

 

 

 

 唐突に腹を押さえて前屈みになるハクに、クオンと女将は何事かと駆け寄る。

 

「だ、大丈夫かい……?」

 

「あ、あぁ……痛っ、腹が……クオン、厠はどっちだ?」

 

「厠ならあっちだけど……あっ」

 

「すまない女将さん、ちょっと厠をお借りする……あいたたた」

 

 クオンの指差す方へ、微妙な演技をしながら前屈みのまま走るハク。

 

「……あのお兄さん、何か変な物でも食べたのかい?」

 

 その後ろ姿を眺め、疑問を口に出す女将。それには答えず、クオンは半目になり溜め息一つ。

 

「成る程、そういうこと」

 

 かくして偽りの仮面の下の真実(性癖)が暴かれ。

 クオンの中でハクは、年上に盛るペットにまで格下げされるのだった。




1話と2話をちょこっと訂正しました
ハクの描写がなかったりとか、急に出てきた解放者というパワーワードの補足とか
まあ、ようするに原作知らない人も見れるように、という考えです
ここわかんねーよ! とか、ここの説明いるだろ! みたいなのがあれば、ご指摘頂ければ直します
一応、終わりへの道筋はザックリですが立てられたので、完結目指して頑張りたいと思います

お気に入り100件達成記念にR18書きたいと思います。

  • 原作でのハク×クオン。あまーい!
  • 拙作でのハク×クオン。ちなみにifです
  • R18なんて要らねーよ! はよ本編書け

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