霧島悠斗は勇者?である   作:sーk

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告白

 あの戦いは『丸亀城の戦い』と呼ばれ、記憶に残った。

 今までにない程の敵の数。予期せぬ三体の進化体と悠斗の暴走。

 そして何より勇者たちの頭に残ったのはやっぱり……

 

「なああんずぅ〜、そろそろ聞かせてくれよ〜」

「い、嫌だよ〜。だって恥ずかしいし……」

 

 球子は杏の部屋に入ってきて一緒に寝ていた。

 二人は仲が良いからよくこうして一緒に寝ている時があった。

 そして本日の話題。いや、最近の話題は『杏が悠斗の何処が好きなのか』しかなかった。

 

「じゃあさ! いつ告白するんだ?」

「う、それは……やっぱり目を覚ましてからかな」

 

 そう。杏が悠斗の事が好きなのは分かるが、悠斗の返事はない。理由は簡単。何事においても強大な力にはそれ相応の対価が必要。悠斗は今、己の中で邪なる存在のバーテックスの要素と戦っている。

 前回の戦いの事は当然大社にも知られており、悠斗をどうするかで話し合っており、なんとかひなたのお陰で悠斗はまだ勇者でいられた。

 

「ひなたはしばらく学校は休むからなー、それに悠斗は入院中。少し物足りない感じたな」

「うん……」

 

 杏は自分の気持ちを理解してからは悠斗の事しか考えれなかった。少し前は暇な時に一瞬気にしたりはしていたが、ここ数日は授業中を含めてずっと考えていた。

 

「そだ! 杏! いつから好きになったんだ?」

「うっ、それは……」

「せめてそのくらいは教えてくれよー」

「うぅ……はぁ。うん。分かったよ」

 

 流石に断りすぎるのも球子に悪いと思い、出会いくらいは話すことにする。

 

「実はね、私は前に悠斗さんに助けられたことがあったの」

「ん? それって勇者になる前か?」

「あれは勇者になってすぐだったよ。街に出たらみんなが殺気立ってて、私が少しぶつかったらその人が殴りかかってきたの」

 

 勇者が全員集められて二、三日の時のことだ。杏が散歩の為にこっそりと街に歩いてみたら街の雰囲気は最悪。誰もが黙っていて、少し騒げば喧嘩。そんな日々が数日続いてた。そこで杏が高校生くらいの人にぶつかると、高校生は杏を連れてこうとしたら杏がその体を突き飛ばした為、高校生がキレて襲ってきた。

 

「そこで悠斗さんがその高校生の人を殴ってくれたんだ。『汚い手でその子に触るな』って」

 

 悠斗は偶々偶然その時間に大社に呼ばれており、街を歩いていた。しかし、突然聞いたことのある声が聞こえたから見に行ってみたら杏が襲われていたのだ。

 

「あの時は怖くて全然好きなんて思わなかったけど……うん。やっぱりあの時だろうね」

「そういやあの時の杏の様子がおかしかったのはそんなことがあったのか〜」

「もうタマっち先輩には一応話したんだけど……」

「え? マジで?」

 

 覚えてないのも無理はない。あの時は球子達も今みたいにずっと一緒というわけではなかった。確かに仲は良い方だったが、今ほどではなかった。

 

「それからは少しづつ悠斗さんの事を気にかけて、最近では朝の自主練の時もこっそりとタオルとか置いといたの」

「だから最近の杏は早起きだったのか〜。ていうか悠斗って朝っぱらから何してんの?」

「基本的には走ってるよ? 三週くらい」

「三!?」

 

 球子はそりゃあの体力も納得だと理解できた。

 

「だから…………早く起きて欲しいな……」

「杏にここまで惚れさせたんなら起きて責任を取らさなきゃな」

 

 球子はニシシと笑いながら杏に言う。杏もその言葉に笑い、夜を眠った。

 

 

 

 

 その次の日の夕方、悠斗は目を覚ました。

 その事には誰もが喜んでいた。

 そしてある程度の事を悠斗に話す。それで落ち込んではいたが、すぐに謝り、誓った。

 そこで、杏が悠斗の前に立つ。

 

「杏?」

「悠斗さん。貴方が好きです。私と付き合ってください」

 

 優しい目で悠斗を見る。その目の奥にはしっかりと決意が見える。

 そんな目を見た悠斗の答えは既に決まっていた。

 

「ああ、いいよ杏。付き合おう」

「〜〜!!」

 

 その言葉に杏は我慢出来ずに悠斗に泣きついた。悠斗もそんな杏をしっかりと抱きしめていた。

 そしてそんな光景を目の前にしていた他の者はというと……

 

「良かったですね〜杏さん」

「ああ、めでたいな今日は」

「悠斗ー! 杏を泣かせたらタマが許さんぞー!」

「アンちゃんおめでとう!!」

「よかったわね。伊予島さん」

 

 誰もがここを病室とは忘れて祝っていた。

 数分してようやく落ち着くと、ひなたが大事な話をしてくる。なんでも、悠斗の処遇と今後のことだそうだ。

 

「まずは悠斗さんの処遇ですが、大社の上層部の大半は処分を望んでるそうです。ですが……」

「それは私たちでどうにかした。私たちだけでは今後の戦いでは不安だ。それに……」

 

 若葉はチラリと杏の方を見る。

 

「この二人を離すなんて私は許さないしな」

「まあ、こちらから圧力をかけて処分は無しにさせました。それで次ですが……」

「何か言いづらいこと?」

 

 口ごもるひなたに千景が尋ねると、ひなたはしばらくして頷いた。

 

「これはかなり厳しいことです。前々からあった壁の外の調査を頼まれました。ですが内容によると、目的地は『諏訪』でしたが、その道中のバーテックスを出来るだけ排除出来ないか、ということです」

 

 これについては勇者の同意が必要だ。諏訪に行く距離はかなりあるため、敵の数も侮れない。

 

「正直私は反対だな。諏訪まで最短で行き、すぐにでも帰るべきだ」

「でもそれって可能な限り移動に時間を回して生き残りは探さない訳でしょ? それは……」

「俺も若葉に賛成だ。かなりハッキリ言うと一般人が生きてる可能性はほぼ無い。なら諏訪へ行き、帰るでいいだろ?」

 

 友奈の考えは悠斗にも否定された。

 ちなみに何故諏訪が目的地かというと、ついこの間までは持っており、連絡が取れないだけなら生存者も多いと踏んだからだ。

 

「タマ的にも若葉の意見だな〜。でも少しくらいなら探してもいいんじゃないか?」

「そうですね……負担になるかもしれませんが速さがある悠斗さんはその町を軽く一周してみるくらいなら……」

「なら私の『義経』や数の多い『七人御先』で探した方が……」

「いえ、精霊を使うのは控えるべきです。前の戦いで使いましたけど何かあるかもしれないので」

「なら悠斗くんは? 彼の暴走は……」

 

 当然の疑い。

 前の戦いの様に暴走されたら困るのはみんな同じだった。

 

「それはまだ予想ですが平気です。おそらくまた星屑を喰らえば分かりませんが……」

 

 チラリと悠斗を見ると、悠斗はスッと目を逸らした。

 

「悠斗さん? もうあんな真似はさせませんからね!?」

「分かってるよ。流石にあれは嫌だ。あと近い……」

 

 今にも唇がくっつくくらい顔が近かったが、気を取り直して話を戻す。

 

「なら戦闘は最低限。探索少々、移動は迅速にどうだ?」

「……まあ、それなら平気だろう」

 

 結局、悠斗の出した案で遠征に行く事になった。

 

「じゃあ、私たちは帰ろう。杏はもう少し悠斗を見てやれ」

「へ?」

「そうですね……杏さん、よろしくお願いますしますね?」

「ええ??」

「まったねー!」

「じゃあなー!」

「また……」

 

 まるで嵐の様に全員が消えた。

 その病室には悠斗と杏の二人となった。

 そこで、杏が提案してくる。

 

「悠斗さん、治ったら少し技を考えませんか?」

「技?」

「暴走した悠斗さんは先程言った通り、武装の切り替えを瞬時にやってました。なら悠斗さんにも出来るのでは?」

 

 あの時の悠斗の切り替えは速すぎた。今までは少なくとも五秒以上はかかっていたが、あの時は三秒あるかないかだ。それに見たことない盾にもなっていた。

 

「でもそれは暴走の可能性も……」

「出来ないなら練習すればいいじゃないですか。私がずっと一緒に手伝いますよ。それに……」

「それに?」

 

 ほんの少しだけ悲しい表情の杏は悠斗の方を見て話す。

 

「わ、私は守られるだけは嫌なんです! 悠斗さんの力になりたいんです!!」

 

 悠斗の手をギュッと握りしめ、泣きながら杏は悠斗に言う。悠斗は呆気を取られたが、すぐに杏の頭を撫でながら言う。

 

「俺は杏に助けられてるよ。今回の暴走だって、戦いの時によく助けられたよ」

 

 最初の戦いでも隙を作ってしまった悠斗を助ける形で杏はサポートしたりして、ずっと誰よりも悠斗を支えてきた。

 

「だから泣かないで。俺も弱気になってた。やるよ。あの状態を物にしてみんなを……杏を守るよ」

「ぐすっ、悠斗さん……」

「だから退院したら頑張ろうな?」

「はいっ」

 

 二人は窓から見える沈む夕日をバックにキスをした。

 これから激しくなる戦いで、仲間を、互いに守る事をを誓って。

 

 

 




次回から諏訪へ目指して行きます!
所々で戦闘も入ってくるのでよろしくお願います!!

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