家族がとられると思っちゃったUMP9ちゃんが指揮官と本当の家族になろうと覚悟キメて夜這い決め込む話

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UMP9ちゃんすこ


覚悟完了UMP9

 きっかけは些細なものだった。些細な出来事が重なった結果に起きたことだった。

 

 昨日は、せっかく明日が休みなんだから飲み明かしてやると息巻くM16A1の酒に付き合って。

 

 目が覚めた時には何故かソファでAR-15と添い寝をしていて――後に聞いたことだが、眠ってしまった私をM16と通りかかったAR-15の二人がかりで近場のソファまで運んだ後に、M16がAR-15を無理やり飲みに付き合わせ、つぶれたAR-15がふらふらと私の横に倒れこんで……という流れだったようだ――。

 

 それを見つけた、意外に朝の早いSOPMODⅡがソファに飛び込んできて。わちゃわちゃやっているところに遅れてやってきたM4A1がおずおずとコーヒーを持ってきてくれて。

 

 AR小隊の面々で集まったのは偶然だった。この支部にはAR小隊以外の面々以外にも、多くの人形が配属されている。ウェルロッドMk2、一〇〇式、Micro Uzi、FNC、MP-446……そしてUMP9。

 UMP9。彼女は新任指揮官である私を指導・監視するためによこされた、ある程度実戦経験を積んだ戦術人形であった。彼女以外の人形は戦術人形としての調整と正常動作確認を兼ねた短期訓練を終えたのみの、鉄火場を知らないフォーマットな人形である。そのような中で、右も左もわからない私が彼女を頼りにするのは必然であった。

 

 9とは就任以来の付き合いで、公私共々何度も助けられており、親愛も感じていた。

 しかしなんというか、雲の上というべきか、彼女の私に対する認識は、精々が仲のいい指揮官どまりであろうな、とぼんやり考えており、彼女をどこか遠くに感じていた。というのも、彼女が好意以外の感情らしきものを他の者に向けることがほとんどなかったからである。

 無論、戦場では敵に殺意を向け、負傷時には弱気な面も見せてはいたが、それ以外ではもっぱら笑ってばかりだった。彼女の笑顔を社交辞令の類だと疑ったことはないが、味方の人形や私に向けるそれは須らくが大差なく。基地内で唯一私を「家族」と呼んではいるものの、私はそれを仮初のものであると知っていたし、彼女にとってもそうであろうと疑わなかった。「家族」という特別な呼称を以てさえ、彼女の分け隔てない朗らかさは、私が彼女にとっての特別だと自惚れることを許さなかったのだ。

 

 きっかけは些細なものだった。今朝AR小隊で集まったのは偶然だった。しかしこの結末は必然であったと今なら言える。

 例えばコップ一杯に張り切った水が、指先一つで零れてしまうように。

 遅かれ早かれ、こうなることは決まりきっていたのだ。

 

 

―――――

 

 

 ――衣擦れが聞こえた。意識もおぼろに瞼を持ち上げると、見慣れた自室の風景が目に入る。天井には裸の豆電球が仄明るい光を纏い、家具の輪郭を辛うじて保たせていた。

 その視界の隅に、何やら蠢くものがあった。次いで、自身にかかる重みが些か過重であると気づく。今使っている掛布団は薄く軽いもので、寝相で「だま」になってもたかが知れていよう。耳を傾けると、粘り気のある吐息が衣擦れに隠れ交じっている。眠気も吹き飛び、思わず私は身を起こした。

 

「あは、指揮官。起こしちゃった?」

 

 違和感の元、布団に潜り込んでいたそれは私の見知った人形、UMP9であった。私は上半身を半端に起こし、肘で自重を支えた状態のままで、目と鼻の先にあった彼女のかんばせに目を奪われた。息遣い荒く、両頬の赤らかが弱弱しい光源のように浮かぶ。私を見つめるその瞳は濡れており、私の視線を吸い寄せて離さないぬめりを帯びていた。

 しばし、私と9は視線を交わせたまま静止していた。彼女の熱い吐息が私に当たり、彼女の吐息を呼吸したと意識すると、自然と私の息遣いも荒くなっていった。それを感じた彼女はますます息遣いを荒くした。私は彼女から目を離せず、彼女も私から目を離さなかった。

 

 体感で数十秒。不意に9の瞳が遠ざかる。心身が見えない束縛から解き放たれていく。彼女の身体は毛布を引っ張り、はらりとベッドの端へ追いやった。そしてようやく彼女との視線の交わりが断ち切れ、彼女の全容を拝むに至った時。私は思わず目を見開き、息を呑んだ。

 先ほどまでは私に覆いかぶさるような姿勢だったのだろう。仰向けに寝転がる私の太ももに跨り、今は背をそらすようにして私を見下ろす9の肢体は黒いレースの下着のみを身に着け、惜しげもなくその肌を曝していた。

 きれいだった。天井の薄灯りがまるで後光のように彼女から伸びて、神々しさすら放っていた。なのに輪郭に沿った柔肌は殊に光を反射して、黒の下着との陰影を明確にし、彼女の肉感を私に訴えた。それは手に届く美の女神。壊してしまうほどに、彼女をこの腕で抱き締めたい。私は衝動に駆られた。

 

 痺れた頭で、私は初めの衣擦れを思い出した。寝室まで誰にも見つからずにこの格好で来ることは難しい。あれは脱衣の音だったのだろうか。しかし9の周りに衣類はない。ベッドの下も同様である。

 見れば彼女の衣服は、壁に面したベッドの向かいにある、これまた壁に面したタンスの上に、丁寧に折りたたまれてあった。ベッドから降りておよそ五歩のところ。ベッドから降りず、かつああまできれいに置くことは不可能である。私が衣擦れに気づき眠りから目覚めてから、彼女がベッドを離れた様子は全くなかった。ならばあの衣擦れは一体――。

 意識の間隙を縫うように、彼女は微笑んで、

 

「ふふふ。準備、してたの。はしたないと思われちゃうかな」

「準備?」

 

 聞き捨てならない言葉だった。いくらこのご時世とは言え男女の関係は未だ存続しており、何十年前の古ぼけたフィルムの中にもいわゆる濡れ場は散見される。そして私の知るそれらと今の状況とは、余りに似通いすぎていた。つまり9は、私を。

 

「どうして、急に、こんな」

「どうして?」

 

 9が小首を傾げた。もみあげが頬を滑り落ち、ツインテールが小さく揺れた。依然として頬は紅潮し、口角は吊り上がったままだったが、ガラス玉のような瞳だけが彼の言葉を反響させていた。況やそれは無理解の表れだった。

 彼女は俯くと、ゆらりと這いよるように身体を傾け、両手で私の肩を掴み支えとする。次いで私の眼前で頭を持ち上げた時、彼女の瞳には深い哀しみと、怒りがあった。

 

「指揮官が悪いんだよ。家族だって言ってくれたのに、支えてくれるって言ったのに」

 

 9の言葉には心当たりがあった。それは私と彼女が出会って暫くのことである。

 

 

―――――

 

 

 9は私の指導・監視のための人形として着任した当初から、今と変わらぬ朗らかさであった。人当たりもよく、どんな人形と組んでも衝突することなく任務を遂行する。なぜかAR小隊の面々は彼女に警戒心を抱いているようでぎくしゃくしていたが、9からAR小隊に対して含むところはないようで、他の人形にするそれと変わらない態度で接していた。

 

 そしていくつか修羅場をくぐり、お互いに戦友と呼び合える間柄になった頃。ふとした拍子に滲み出る、9の物憂げな雰囲気に気が付いた。それがいつから生じていたものかは未だにわからないのだが、ともあれ私は口下手であるため単刀直入に、彼女にその真意を尋ねたのである。隠し通せているつもりであったらしい9はうろたえていたが、席に座らせ、合成コーヒーを淹れてやるとやがて落ち着き、私にその心の裡を明かしてくれた。

 曰く、自分には姉がいること。今はその姉とは離れ離れで、連絡が取れず、その当てもないこと。自分のメンタルモデルがその姉の妹という面を強く押し出すため、「家族」という関係に強い執着を抱くように設計されていること。そのため、家族と呼べる者が身近にいない現状で、自身のメンタルが不安定であること。

 

 そのどれもが送られてきたデータにはない情報で、驚きの連続であったが、凍えたようにカップを両手で包む9を見ると内から湧き出るものがあり、事実確認諸々など後回しにして思わず言ってやった。

 

「なら、これからは俺が家族だ。お前の姉に代わって、俺がお前を支えてやる」

 

 その時の9の顔は今でも思い出せる。というか彼女の相手の正気を疑うような疑念の表情は、その時が最初で最後であった。それから彼女は涙が出るほど大笑いしてから、目尻を拭うと満面の笑みを浮かべて、私に言い返したのだ。

 

「うん、わかった! 指揮官と私は、これからは家族だ!」

 

「頼りにしてるからね、指揮官!」

 

 

―――――

 

 

 その結果が今である。心当たりはあるものの、どうにも前後が繋がらない。

 瞳孔の開ききった9は私を射竦めて、

 

「今朝ね、見ちゃったんだ。指揮官がAR小隊のやつらとお話してるの」

 

 興奮冷めやらぬ様子の9の息は荒く、目は爛々としている。彼女の吐息に再び曝された私は、今度は背中に冷たいものが走るのを感じた。

 今朝のあの出来事は、やましいことだったろうか、いいや違う。人形にも心はあるのだ。ちょうど目の前の彼女と同じように。

 9やAR小隊に留まらず、指揮下にある人形とのコミュニケーションは円滑な関係を築き、職場の雰囲気を和らげるのみではなく、実務面でも部隊の士気向上、指揮命令の精度向上に係わる。冷たい利益換算を抜きにしたって、話さないよりは話す方が、お互いに気楽なはずだ。AR小隊とのあれこれも昨日今日に始まったことではなく、9もこれまで何も言わなかった。なぜ今になって。私は未だ答えを出せずいた。

 私の心中を洞察したのか。彼女は右手を肩から離し、仕方ないなとでも言うように、私の胸を人差し指でトン、と突いた。

 

「そうだね、指揮官はみんなに目を向けなきゃいけないもんね。人間と人形には指揮系統上の上下関係だけじゃなくて、信頼関係も重要ってことも理解してる」

 

 それなら何故、そう口にするまでもなく9は答えた。

 

「でも、違うの。AR小隊のやつらとあんなのは、だめ」

 

 あんなのって、私はただ彼女らと

「だめなの!」

 

 絹を裂くような、悲鳴にも似た怒声だった。固まる私を置いて、9は癇癪を起こした子供のように嫌々と頭を振ると、しゃくり上げるような声音で心中を吐露した。

 

「あんなっ、あんな家族みたいなっ、指揮官の家族は私なのに!」

 

 あ、と声が漏れた。私は今朝の自分を思い出す。M16、AR-15、M4 SOPMODⅡ、M4A1。彼女らAR小隊は製造時点で姉妹という関係を備えている。昨日の、いやこれまでのAR小隊の面々のやり取りは、顔も見たことがない姉を切望する9にはどう映っていたのだろうか。そしてそこに混ざった私の姿は。

 家族を、居場所を奪われた、そう捉えてしまいかねないものだったのではないか。

 

 ふっと、突然力を失ったように9の身体が私に倒れ掛かる。とっさに手を伸ばしたが、裸体同然の彼女の何処に触れて支えればいいのかと身体が硬直して失敗。結果、正面から抱き合うような体勢で、私は彼女に押し倒された。私の両の腕は宙ぶらりんに、力なく天井を指していた。

 背中に回された9の腕が、私を締め付ける。ともすれば爪を立てているような鋭さで私の背を掻き抱く。

 

「ねぇ、指揮官。私と指揮官って家族だよね?」

 

 縋りつくような声。きっと最初から、出会った時から不安定だった。だがより彼女の心を揺らがせたのは、私だ。勝手に支えになって、勝手に目を離して。あの時に見た彼女の儚さを忘れ、無意識ながら彼女をおろそかにしていた。普段の快活さから、彼女は強い娘なんだ、私程度彼女にとっては小さな存在なんだだと思い違いをしていたのだ。そんなことはなかった、彼女は私が思っていた以上に脆く、私を必要としていた。

 ……実に度し難いことだが、私はその事実に至った時、後ろ暗い快感を覚えていた。今まで手の届かなかった9と繋がり、彼女の深いところを支配しているかのように錯覚したのだ。背中に溜まる法悦は私の頭を再度痺れさせ、この後に訪れるであろう出来事を理性の鎮圧で以て滑らかに推し進めようとしていた。

 興奮、恐怖、自責の念。一体何で震えているのだろう。私は不自由な舌で、彼女の問いに首肯した。

 

 彼女は体を起こすと顔を対面させ、泣いているような、笑っているような、情けない表情を私に見せた。

 

「うん、ありがとう。でもごめんね指揮官。私、不安なんだ。不安でしょうがなくて、嫌な想像したとたん、まるで思考回路がエラーを起こしたみたいに真っ白になるの」

 

 彼女が顔を寄せる。彼女の瞳はとうに愛欲で煮詰まっていた。その中に私がいた。彼女に当てられ、きっと私の瞳も煮詰まっていた。

 

「だから、ねぇ、指揮官」

 

 私の視界一杯が彼女で埋め尽くされて、私は茫然として、しかし彼女を受け入れる態勢は整っていて――

 

 

「――家族に、なろう?」

 

 

 そして交わった。




???「やりますねぇ!」

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