直径が2mほどもある強化ガラスのシリンダーに満たされた液体の中で、全裸の男が浮いていた。その男の名は、ラウ・ル・クルーゼと言う。
「ホレイシオ、どうだ?この男の様子は。」
「ははっ、我が主サマエル。一言で言えば、ボロボロですな。この者は、誰かのクローンとして創り出されたと思われます。ですが、テロメア遺伝子の減少短縮問題を解決できない、失敗作の短命クローンとして生れ出たものであると。」
「ふむ、哀れなものだな。」
「確かに。」
クルーゼの入ったシリンダーを前に、サマエルとアルーミック、そして老年に見えるが、異様に生命力に溢れた男が話し合っていた。この男、ドクター・ホレイシオ・ベサントは、サマエルに率いられる組織、「秘密結社クロノス」の科学技術面での頭脳と言える人物である。
クルーゼを拾って来たアルーミックが、ドクター・ベサントに訊ねる。
「ドクター・ベサント。どうにかならないか?」
「なるとも。と言うか、もうどうにかしたぞ?獣化兵への調整処置の応用、後天的遺伝子操作技術で、どうにでもなる。しかし誰だろうな、こんな雑なクローニングをした愚か者は。」
「それはユーレン・ヒビキ博士ですね。ただいま戻りました、我が主サマエル。」
そう言いつつこの部屋、ドクター・ベサントの研究室に入って来たのは、優秀なサラリーマンと言った風貌をした、東洋系の黒髪黒目の男である。そこそこの長身であるが、サマエル、アルーミック、ドクター・ベサントがそれを超える高身長であるため、背が低く見えてしまうのはご愛敬だろう。
「タカダ、帰ったか。」
「おう、アルーミック。」
「ユーレン・ヒビキだと?あの三流か。たしか今は、生死不明の行方不明であったな。」
「ご苦労だったな、アルベルト。頼んでいた、GATシリーズの追跡調査はどうなった?」
この男、アルベルト・タカダは「秘密結社クロノス」の諜報を一手に握っている人物だ。なんでも今は東アジア共和国の一部になっている日本国の戦国時代に、ある忍者集団の頭領をしていたが、そこでサマエルにスカウトを受けてクロノス入りしたと言われている。だがそれが事実であれば、彼は既に数百歳にはなっているはずである。
「はっ。まずザフト側に渡ったGAT-X102デュエル、GAT-X103バスター、GAT-X303イージスの3機ですが、完全に解体されてパーツの1つ1つまで徹底的に解析中である事が確認されております。
一方……GAT-X105ストライクですが、妙な事がわかりました。ヘリオポリスで戦闘行動を行った後に、地球連合軍第8機動艦隊所属、強襲機動特装艦アークエンジェルに載せられ、地球連合軍総本部アラスカ基地へと向かっている途上なのですが……。」
「妙な事?」
「まず第1に、ヘリオポリスでザフトのジンを撃破した際のパイロットは、正規の兵士どころかヘリオポリスの一介の学生だったのです。コーディネーターでこそ、ありましたがね。
で、その彼……ああ、男で名はキラ・ヤマトと言いますが。彼とその友人たち、サイ・アーガイル、カズイ・バスカーク、トール・ケーニヒ、ミリアリア・ハウは連合軍の機密兵器であるストライクを見てしまったと言う事で、逮捕拘束されてアークエンジェルに収監されてしまいましてね。そのまま艦を降ろされずに、連れていかれてしまった模様です。
恩知らずなだけでなく、国際法や国家間の取り決めにも疎いと思われますな、連合軍……いや、大西洋連邦軍人は。」
サマエルは、にっこり微笑んだ。その笑みは、周囲を魅了する優し気な笑みだったが、その場に満ちた空気は底冷えのするものだった。が、サマエルは頭を振って、自らが生み出したその空気を払拭する。
「確かにな。その場合、まず責められるのは中立国のコロニーにそんな物を持ち込んだ連合?いや、今の言い方だとその内でも特に大西洋連邦か?だろうに。次に国家の理念として中立を謳い、他国同士の戦争に加担することを法で禁じてもおきながら、おそらく何か浅い考えがあるのだろうがそんな物を自国コロニー内で作らせたオーブ連合首長国そのものだ。
そして何より、その機密兵器は既に3機ばかり敵国に……プラントのザフトに奪われてしまっている。機密も何も、あった物では無いだろうに。
とどめに……。わたし自身も現場にいたからわかるが、あの場で機密兵器を見てしまうのは不可抗力であり、常識的な国家間の取り決めでは、緊急避難的な条項が充分に適用できるはずだ。……彼奴等が常識を知っていれば、だがな。」
「ではどうしますかな?我が主サマエル。実力行使で救出でもしますかな?」
「冗談はやめておけ、アルーミック。今のわたしは少々苛立っている。冗談に付き合う気力など湧いて来んよ。
我々クロノスは、別に正義の味方ではない。最大限優先されねばならんのは、自分たちクロノス構成員の生命と利益だ。あのときヘリオポリスでコロニー防衛の一端を受け持ってやったのは、クロノスの理念と、新人類の長たる者の矜持、そして何より……あの程度では、クロノス構成員の脅威では無いからだ。」
そしてサマエルは、だが苛立たし気に人差し指を立てて、それで宙にくるくると円を描く。
「しかし何もしないのも、腹立たしいものだ。」
「では、なんなりとお命じ下さい。クロノスの長として完璧を求めるその姿は素晴らしいものですが、覇者たるもの多少の我儘も許されぬのは、何か違うでしょう。」
「くくく、そうか?ではその言葉に甘えよう。そう、だな。
アルベルト!汝に命じる。オーブ連合首長国の石頭に、この一件をリークしろ!オーブ国民が、不当に大西洋連邦の軍艦に拘束されている、とな!しかも大人ではない、学生が、だ!こちらが掴んでいる証拠も、汝の裁量で開示、場合によっては石頭に渡しても良い!」
「御意に!」
そしてサマエルは、今度こそにこやかに微笑むと、続けて言った。
「そして保険をかけよう。あの「お人よしども」なら、勝手に動いてくれよう?いや、働かせておいて、こちらから何も出さないのも申し訳ないと言う物だな、くくく。
ホレイシオ!」
「はっ。」
「例の物の量産は、見通しがついたと言ったな?欠陥も改良できたと。」
「ははっ。……もしや?」
ドクター・ベサントは驚きの表情を浮かべる。だがその中には、自分の試作品を実地で試せると言う抑えきれない喜びが、あきらかに見て取れた。
「うむ。人造コントロール・メタル改を用いた、試作『ユニット』の、「お人よしども」への譲渡を認める。数はホレイシオ、お前とアルベルトで相談して決めると良い。アルベルト!先に命を下して置いてわるいが、片手間で良いからホレイシオを手伝ってやってくれ。」
「はっ。自分の配下を動かし、あの者たちに試作『ユニット』を譲渡いたします。それと、その後の監視も、ですな?」
「うむ。」
その時、シリンダーの中のクルーゼが身じろぎをした。ドクター・ベサントがシリンダー脇に設置されている机上の端末に歩み寄り、表示を見極める。
「ふむ、処置は完了いたしましたな。とりあえずは調整槽から出すといたしますか。」
「ドクター・ベサント。精神制御は施しましたか?」
「いいや?しておらぬ、アルーミック。やってしまっては、希少かつ貴重な才である、精神感応の応用による空間認識力に瑕がついてしまう可能性があるでな。こう言った貴重品は、交渉などで従わせるのが最善。洗脳の類は、従わない事がわかってからで良いとも。」
「なるほど。了解しました。」
サマエルは部下たちの様子を見て、ふっと笑うと踵を返し、自室へもどるために扉に歩み寄る。すかさずアルーミックが付き従い、ドクター・ベサントとアルベルトが深々と頭を下げて見送った。
ごぼり、と音を立てて、シリンダー……調整槽の中のクルーゼが、口から大きな泡を吐く。彼は再度、身じろぎをした。
地球連合、大西洋連邦宇宙軍強襲機動特装艦アークエンジェル級1番艦アークエンジェルの艦底部に、なにやら人型の物が貼り付いていた。だがそれは、人間だろうか。いや、明らかに違う。それはどことなく、あのアルーミック・ミラービリスの獣化形態である、獣神将を思わせる姿をしていた。
そしてそれはノロノロと艦の装甲板の上を這っていき、非常用エアロックへたどり着く。そしてそれが何やらゴソゴソとしていたかと思うと、エアロックは開き、人型物体はその中へと滑り込んで行った。
アークエンジェルの営倉では、ヘリオポリスの戦いでMSストライクを動かしたキラ・ヤマトをはじめ、その友人たち4人を含めた計5人が、各々個室に捕らわれていた。そのうちの1人、カズイ・バスカークの大きな溜息が聞こえる。
「俺たち、これからどうなるんだろ……。シェルターに行き損ねて、連合軍の機密兵器を見ちまって……。」
「お国同士の話し合いに賭けるしか、無いんじゃねーの?って言うか、何度目だよ、その台詞。」
トール・ケーニヒが、一生懸命お道化た台詞で沈んだ空気を引っ掻きまわすが、皆の気持ちは晴れない。特にストライクを使って戦ったキラの気持ちは、どん底である。自分がいなければ、とまで思いつめているらしく、一言もない。
さしものトールも、限界が近づいていた。トールは考える。
(国同士の話し合い、だって?何言ってるんだよ、俺ぁ。あんなところに連合軍の機密兵器工場作るなんて、ウチの国の上の方が関わってないと出来るわきゃねーだろ。両方の話し合いの結果、「お互い無かったことにしましょう。」「では証拠や証人も消しますか。」なーんて事にならないなんて、誰が言える?
……なんとか独力で脱走して、どこか連合でもオーブでもないところに逃げ込まなきゃ。だがどこに逃げる?プラント?冗談じゃない、やつらが警告も無しにヘリオポリスに攻撃しかけてこなきゃ、こんな事にゃ……。くそ、いや逃げ込む先も大事だけど、どうやってここから逃げるよ?)
トールは自分の個室の扉にある窓から、向かいの個室に目を向ける。そこには彼の恋人である、ミリアリア・ハウが閉じ込められているはずだ。ここ数日間着替えもなく、味の濃い不味いレーションを毎食与えられ、男の彼でもキツい暮らしを強いられている。女の子には、余計耐えがたいだろう。
(なんとかミリィを出してやらなきゃ、なんとか……!!)
そこへ営倉の第1扉が開く音がした。営倉は、第1扉を開いた後で、各々の個室の扉を開かねば出られない。それはともかく、トールは思った。
(食事か……。不味いけど、食って体力つけとかなきゃ……。)
そう、食事の時間であった。
「……あれ?いつもの人と違いますね?」
トールは従順を装って話しかける。
「ああ、ちょっといつもの人は体調を崩してね。俺が代わり……。」
そこまで食事当番の兵が喋ったときだった。キラの個室扉が音を立てて解放され、中からキラが飛び出して来たのだ。
そう、キラは諦めて落ち込んでばかりでは無かったのだ。衣類についた金属製のボタンがタネである。こっそり後ろ手で監視カメラから隠して壁をこすってボタンを削り、即席の工具を作る。それを使って、壁のパネルをこっそり外し、配線をいつでもショートさせられる様に細工して、食事当番の兵が来るのを待っていたのだ。
キラの拳が唸る。食事当番の兵は、ぼーっとしている様に見えた。勝った、とトールは思った。
「やめてよね。君に本気でやられたら、こっちが手加減できなくなっちゃうだろ。」
負けた。コーディネーターであるキラが、単なる食事当番の兵にあっさり小手返しで投げ落とされた。相手はキラに受け身を取らせる余裕すらあった。愕然とするキラは、しかし立ち上がる気力も尽き果てていた。それはトール、ミリアリア、サイにも言える。カズイ?彼は唖然としていただけだ。
だが兵士の次の台詞に、皆は驚くことになる。
「俺の名はショーン。東アジア共和国から来た。と言っても、政府や軍とはまったく関係ない。ちょっとした大規模民間団体?と、協力関係を結んでる中小民間団体の者さ。……今ならカメラの類を、俺の仲間が黙らせてる。時間が無い、逃げるぞ。」
「な、え、え!ええ!?ちょ、政府同士の話し合いでどうにかならないと、逃げだしたりしたら、俺たち犯罪者に、え、え、え!?」
「……えっと、写真からすると君がカズイ君か。残念ながら政府同士の話し合いでどうにかなる段階は過ぎてる。オーブ連合首長国のウズミ・ナラ・アスハ代表首長は、オーブ国民……君たちが不当にアークエンジェルに捕らわれている事について、強硬に抗議を大西洋連邦に行った。『何処からか』手に入れた証拠写真や証拠動画まで付けてね。
だが大西洋連邦は、黙殺したよ。事実無根だ、ねつ造だってね。ウズミ代表は切り札を切った。大西洋連邦と取り交わしていた、新兵器開発における協力体制を破棄する、とね。ま、元々そんな協力体制があったからこそ、君らがこんな目に遭っているわけだけどさ。」
そしてショーンは、苛立たし気に言った。
「大西洋連邦の返答は、『どうぞご勝手に。と言いますか、新兵器開発における協力体制って、何?』だ。要約して言えばね。……新兵器の開発データは、最新の物を除き全て大西洋連邦が持っている。最新の物も、この艦が運んでいる。オーブを怒らせるのもまずいはまずいが、君らと言う不法行為の証人を逃がしてしまって騒がれるより面倒が少ない、そう考えたんだろうね。」
「そ、そんなぁ……。」
「と言うわけで、逃げるぞ。急いで準備してくれ。」
説明をしながら扉の鍵を解除していたショーンは、最後にカズイの個室の扉を開放した。
「じゃ、行こうか。」
「「「「「はい……。」」」」」
「元気が無いな。ああ、だけどやり直さなくていいからな。」
そして彼らは艦の通路を飛ぶ様に移動した。と言うか、無重力だから実際飛んでいるのだが。彼らが格納庫まで来ると、そこは既に制圧されていた。大型機械を係留するためのワイヤー類で、気絶した作業員らが縛り上げられている。そして赤いメビウスゼロを、ガンガンと素手で破壊している人間?がいた。ショーンがその男?に呼び掛ける。
「アルヴィン!」
「クラサワか、遅いぞ。……急げ、そこのシャトルのエンジンに火を入れておいた。」
「わかった!君らはそこのシャトルでこの艦を脱出するんだ!航路は既にセット……してあるよな?アルヴィン。」
「あたりまえだ。オーブの首長に話は通っている。オーブの領海に降下する様になっている。」
「だそうだ!俺たちは別便で行くから気にするな!行け!」
トールは急ぎミリアリアの手を引きつつ、シャトルへ乗り込む。だがエアロックをくぐる直前、彼は後ろを振り向く。ミリアリア、キラ、サイもそれに倣った。一拍遅れてカズイも。
「あ、あの、ショーンさん!ほんとにありがとうございました!」
「ほ、ほんとうに……。どうお礼を……。」
「ありがとうございます。きっと逃げ切ってみせます。」
「ありがとうございました。」
「あ、ど、どうも、ほんとに……。」
そんな彼らを見て、ショーンは付け加える事があるのを思い出す。
「君たち……。万一、そう万一追手に追いつかれたら……。シャトルの中に、3つばかり危険な……本当に危険な「武器」が置いてある。なんて言ったらいいのか……。その「武器」は、敵を撃退してくれるだろう。だけど間違いなく君たちを、日常から切り離してしまう、そんな武器なんだ。
使わないで済んだなら、返してもらいに行くから、下手に触ったりしないで置いといてくれな?一応使い方は、説明書きを書いといたから。」
「「「「「はい!ありがとうございました!」」」」」
「お、おおう……。」
「ガキども、はやく行くんだ。お前らが行かなきゃ、俺たちも逃げる事ができん。」
「「「「「はいっ!」」」」」
そして発艦用ハッチが解放される。シャトルはそこから、宇宙空間へと飛び出して行った。
「行ったな……。」
「ああ、行った。」
「じゃあ……。この艦が彼らを追えない様にしないとな。」
「ああ、やるか。」
「ああ。……ガイバーーーッ!!」
地球連合軍第8機動艦隊所属、強襲機動特装艦アークエンジェル級1番艦アークエンジェルは、「内部よりの」ビーム兵器による攻撃を受けて中破。全エンジンを破壊され、長期の漂流を余儀なくされる事となる。ビーム兵器に高い効果を誇るラミネート装甲であっても、艦内からの攻撃には何の意味も無かった。
付け加えて言えば、搭載機で唯一ザフトに奪われずに済んだGAT-X105ストライクだが、至近距離からの高出力レーザーと思しき攻撃を受け、半壊状態となる。これらの事件により、最終的にはアークエンジェルは廃艦処分、ストライクも破棄された。
ショーンとアルヴィンという2人の手引きでキラたちは、強襲機動特装艦アークエンジェルからの脱走に成功した。しかし好事魔多し。シャトルが大気圏に突入する直前に、彼らのシャトルは地球連合軍の宇宙軍主力MAである、メビウスの部隊に発見されてしまったのだ。
その部隊がどんな部隊かはまったくわからない。しかしアークエンジェルか、はたまた別のもっと上からか、何かしら通報を受けているのではないだろうか。なんとか誤解を解こうと、何度も交信を求めているのにも関わらず、相手は一切応答してこなかった。
キラは、頑なな相手に苛立ちを募らせ、歯を食いしばっていた。今にも奥歯が砕けそうだ。シャトルのブリッジの窓をぎりぎりで掠める様に、1機のメビウスが飛んで過ぎて行く。そしてまたもう1機。カズイが気弱な声で言った。
「き、キラぁ……。もうだめだ、降伏しよ?な?」
「だめだカズイ!やつらは俺たちの降伏なんて、認めやしないっての!」
「そうよ!あいつらはこっちを殺すことしか考えてないわ!」
「だ、だけどよ?まだ撃ってこないじゃ……。」
「……降伏を許すなら、既に降伏勧告してきてるよ。あいつらは……。」
サイの疲れ果てた声が、狭いシャトルのブリッジに響いた。
「あいつら、僕たちを、なぶっているんだ。」
キラの中で、憤りが頂点に達する。何か、脳裏に種の様な物が浮かんだ。そしてそれが割れて砕ける。急に頭がすっきりとし、この事態を解決する方策が見えた……気がした。キラはブリッジを駆けだし、船室へと飛び込む。慌ててトールとミリアリアが付いて来た。
キラはロッカーを引っ掻き回し、そして厳重に封のされた箱を引っ張り出す。これがショーンが言っていた「武器」だ。キラは箱の封を手近にあったコンバットナイフで破壊し、中から3つの物体を取り出す。それは金属製のケースに封じ込められた、何か生体組織の様に見える。ケースの中心には、球状の金属が付いていた。キラは一緒に付けられていた説明書きを斜め読みした。
「……これは、生物兵器だ。」
「せ、生物兵器だってぇ!?そ……。」
「違う、細菌兵器とかじゃない。これは……「生きたパワードスーツ」なんだ。生き物であって、調整とかは全部この「パワードスーツ」側でやってくれるから、装着して訓練なしでもある程度扱える。」
「ね、ねえキラ。それって……。」
「ああ、物凄く凄いよ。説明書きに書いてあるのが本当なら、MAなんて……メビウスなんて目じゃない。ただ……。」
キラの口調は重くなる。
「ただ、これをいったん着用したら、これは着用した当人専用になってしまって、解除の方法は完全に失われているそうなんだ。一時的に脱ぐことはできるけれど、だからと言ってこれは手放す事はできない。不可能なんだ。
着用者は、これに取り憑かれる事になる。」
「んで?使い方は?」
「トール!僕の言った事を聞いてたのか!?」
「おう。けどよ、このままじゃ皆、死んじまう。死ぬよりゃ、マシでしょ。」
トールはキラに笑ってみせた。……世の中には、死ぬよりつらい事が、いくらでもある。だが、それでも生きてる方がいい。キラにはトールがそう言っているように聞こえた。
「わかった。じゃ、そのユニットを持って、その球状のコントロール・メタルに手を触れて軽く押し込んで……。」
「えいっ!」
「ミリィ!?」
「ミリアリア!?」
ミリアリアの持つユニットから、スライム状の生体組織が飛び出し、ミリアリアを絡め取る。慌てる男2人に、ミリアリアは笑いながら言った。
「何よあんたたち。自分たち2人だけでこの生体パワードスーツ?着るつもりだったんでしょ?3つあるんだから、1人でも多い方がいいでしょ。メビウスは、1機や2機じゃないのよ?」
「だ、だけどよ!カズイやサイだって!」
「あの様子みたら、駄目だってわかるでしょ。やれる人間が、やるしかモゴ……。」
生体組織が、ミリアリアの口を塞ぐ。ミリアリアは苦しくなり、もがく。そしてトールは意を決して、自分の持つユニットのコントロール・メタルを押し込んだ。キラもまた、それに倣う。そして3人は、しばらくもがき苦しむことになった。
メビウスのパイロットは、操縦桿に手を添えた。そろそろザフトのスパイとやらを嬲るのも飽きて来た。どうせ相手はスパイ、との事だ。充分すぎるほど、卑劣な活動の報いをくれてやった。スパイどもは、いつ殺されるかと、それこそ本当に生きた心地もしなかっただろう。そろそろとどめをくれてやろう。メビウスのパイロットは、そう考えていた。自分が正義だと、欠片も疑ってはいなかったのだ。
そして彼は僚機に通信を入れると、隊列を組んで機をシャトルに向かわせた。一撃で終わる。……そのはずだった。
シャトルのエアロックから身を乗り出した、3人の見慣れないタイプのノーマルスーツ姿をした人間が、その胸元から閃光を放つまでは。
ガイバー3体の胸部粒子砲を受け、メビウスの2個小隊は消滅。キラたち5人が乗ったシャトルは、無事にオーブ領海に降下、オーブ軍に回収された。
あー、原作主人公とその仲間たち、規格外品にしちまいました。
はっはっは。
でも原作主人公、これからがつらいです。危ないのはサイとカズイですが。
キラとトールとミリアリアはコントロール・メタルやられなければ不死身ですが、サイとカズイは普通にタヒにますからねー。