その日、アズラエル財閥の御曹司、国防産業連合理事、大手軍需産業の経営者であり、そして反コーディネーターを掲げる政治団体ブルー・コスモスの盟主であるムルタ・アズラエルは、取引先の大会社社長の紹介で、ある人物と会談の予定を持っていた。取引先の会社社長によるとその人物も、画期的な新技術を幾つも開発した会社を複数持っている、やり手の経営者だとの事だ。
アズラエルの秘書の1人である女性が、会長室へと入って来る。
「アズラエル様、お客様がお見えです。」
「ほう、きちんと30分前行動、ですか……。好感が持てますねぇ……。それと今日はウチの会社のトップとして会うのですから、「様」ではなく「会長」と呼んでくださいな。」
「し、失礼しました、会長!」
「それで良いですよ。では少々早いですが、お客様を呼んでください。」
「は、はい!」
慌てて去って行く秘書の後姿を眺めつつ、アズラエルはあの秘書を替えるべきかどうか、内心で検討する。この程度で慌てふためく様では……と、彼は少々悩んだ。しかしまあ、害になるほどでもあるまい、と思い直す。
首になる瀬戸際だったとは知らず、秘書は表面的には落ち着いて、問題の客を案内して来る。それは嫉妬するほどの美丈夫であり、体格も良い壮年の男性であった。アズラエルは思う。
(まさか……コーディネーターじゃないでしょうね?いや、大西洋連邦内で、コーディネーターが幾つもの会社の経営者になれるわけがない。制度的には不可能じゃ無いさ。だが下っ端や中堅ならともかく、そんな上にまでいけるわけが無いんだ。)
その男は、軽く会釈をすると右手を差し出して来た。
「お初にお目にかかります、アズラエル会長。わたしはクリストファー・プロウライトと申します。」
「これはこれは。僕がムルタ・アズラエルです。よろしく、プロウライト会長。くくく、お互い会長なのです。「会長」はやめて、フレンドリーに行こうじゃありませんか、プロウライトさん。
……早速ですが、今日の用件は何か技術の売り込み、とラムゼイ氏から聞いておりますが?いえ、貴方には失礼かもしれませんが、なにぶん僕のスケジュールは分刻みで詰まっておりまして。可能な限りお時間を取りたいのですが……。」
「ああ、理解しておりますともアズラエルさん。今日はわたしの組織が持つ、ある技術の「成果」を買って欲しいのですよ。」
アズラエルは不審に思う。そして彼は、その疑念を口に出して見た。相手がどう答えるかで、相手を計ろうとしたのである。
「技術の「成果」ですか?技術そのものをお売りいただけるのではなく?」
「ええ。「人類」に施すことを目的とした、「遺伝子操作」技術の成果、ですよ。」
「!!」
一瞬頭が呆けた。この男は、何を言っているのだ?それがアズラエルの最初の思いだった。次に頭が沸騰した。この男は、よりにもよって、ブルーコスモス盟主であるこの!ムルタ・アズラエルに向かって!遺伝子コーディネート技術の成果、つまりはコーディネーターそのものか、それを作る新たな手法を売りつけようと言うのだ!少なくとも、彼はそう理解した。
必死で気持ちを落ち着け、彼は秘書に命じる。だが声が引き攣り、裏返るのは抑えきれなかった。
「お客様のお帰りだ。お送りしてくれ。」
「……。」
「何をしている?はやくお送りしてくれと、言っているんですよ!」
「幼少期……。」
「お帰りくだ……。」
プロウライトは、そして致命的な言葉を放つ。
「コーディネーターである子供に敵わず、多人数で袋叩きにしようとしたが、返り討ちにあう。そして母親に「何故自分をコーディネーターにしてくれなかったのかと」言ってしまい、打擲される……。」
「!!」
「なるほど、それが心の傷になり、コーディネーターを嫌い憎むようになった。自然保護団体であったブルーコスモスが、異様なほど反コーディネーター思想に染まったのは、いやお前が染めたのは、それが原因なのだな。くくく。アルベルトの調査報告書は、いつも正確で助かるよ。」
その言葉を聞き、アズラエルの目が血走る。彼は絶叫した。
「き、貴様あっ!!帰れ、帰れよ!帰らないと、人を呼んで放り出すぞ!」
「くくく……。」
「おい!何をしているんです!ガードマンを呼んで、この男を放り出すんです!」
「……。」
「ええい、君はクビだ!自分で呼……。」
「……「後天的」遺伝子操作技術。」
そして、アズラエルは硬直する。今この男は、何を言ったのだ?「後天的」……だと?アズラエルの思考は、ぐるぐると回ってまとまらない。
「我々は、「調整」と呼んでいるがね。かつて太古の昔、「あるモノ」の素体として、人類は創り出された。人為的にね。……いや、創り手は人類ではないから、人為的と言うにはあたらないかな。」
「な、なに……を……。」
「だが創り手……「降臨者」たちは、人類を完成間際で、何らかの理由で捨て去り、故郷である星々の彼方に去った。
そして幾星霜。人類は自らの力で、自らを完成させる方法を手に入れた。」
「あ、ああ……。」
プロウライトは歌う様に続けた。
「どうだね?コーディネーターを圧倒する能力、圧倒的な身体能力、圧倒的な頭脳、それが欲しくは無いかね?お前がかつて望み、そして手に入れられなかった物が、今お前の前に転がっている。
だが、うかうかしていると他の所へ転がって行ってしまうかもな?「また」お前の手の届かないところに……。」
「あ、ああ……あああ……。」
アズラエルは苦悩する。そうだ、本当に欲しかったのはソレなんだ。だが、今の自分はブルーコスモスの盟主……。コーディネーターを打倒し、撃ち滅ぼす……。その自分が遺伝子操作技術で「完成」の道を歩む?だがそれは……。彼の思考は、いつもは明晰な彼の頭は、ぐるぐると回るばかりで一向に答えを出さない。
彼は隠し持っていた小型拳銃に手をやる。そしてそれを構えた。
「ソレが答えかね?」
「……。」
そしてアズラエルは、小型拳銃を床に落とす。フカフカの絨毯で、それが落ちた音はどこへも響かなかった。
「……何故だ。」
「ん?」
「何故、もっと早く現れてくれなかったんだ!なぜだよぉ!僕は、僕はずっと待っていたんだ!それ、それなのに!それなのにさ!何故さ!何故ぇ……。うぐっ……。くううぅぅ~……。」
蹲って泣き出したアズラエルに、律儀にプロウライトは答える。
「お前が……君の地位が、高かったからね。我々の手は長い。けれど、即座に届くほどでもない。まず、周囲から外堀を埋める必要があったのさ。
まあ、なんだ。コーディネーターなど……。新人類を標榜するあの薄っぺらな処置しかしていない改造人間どもなど、たいした物でもない。そんなに苦しむことは無いさ。新人類を名乗るなら……。このぐらいはやって欲しいものだな。」
そしてプロウライトの姿が変わった。
そしてプロウライトは、元の姿に戻った。秘書の女性が、彼のために用意した着替えを着用すると彼は、唖然とする……いや、呆然とするアズラエルに、右手を差し出す。
「さあ、この手を取るかね?これが最初で最後のチャンスだよ?」
「……この手を取ったら、僕はどうなる?具体的な事を言えば、どのぐらいの位置、どのぐらいの地位に?」
「まあ、最下級の獣化兵と言う事は無いだろう。それは保証する。君は聡明で身体能力も優れているからな。超獣化兵でなければ、もったいないと言うものだ。
だが、獣神将は……難しいだろう。獣神将は、素質的に優れているかどうかも問われるが、我が主サマエルのお気持ち次第だからね。」
「サマエル……。毒天使、か……。」
「くくく、あの方は確かに毒だな。甘美な、甘美な毒だ。で?」
アズラエルは、おずおずと右手を伸ばすと、差し出されたプロウライトの右手を最初はそっと、そして固く握りしめた。秘書の女性が、花が咲く様に微笑みをこぼした。
「で、僕を篭絡したあとは、何をさせるんです?僕はいったい何をすれば?」
「ほう?流石、わかっているな。まあ、ブルーコスモスの連中をどうにかして欲しいのがあるな。大量殺人されては、「人材」が……「素体」が減ってしまう。優秀な遺伝子資源もな。
それと、適切な「素体」の供出……。今我々の組織、秘密結社「クロノス」は、大きな作戦を控えている。1人でも……1体でも、優秀な獣化兵、超獣化兵が必要なのだ。可能ならば獣神将も、ね。
君自身については、可能な限り早急に1週間から10日程度の休暇を取って欲しい。何かしら、理由付けしてね。君を調整する。」
「「毒」をくらわば、皿まで、ですよ。全部、飲みましょう。ええ、甘美な「毒」ですねぇ。」
「くくく。」
大きくため息を吐きながら、ここでアズラエルは秘書の女性に目を遣る。
「でもって、「毒」を飲んでなかった場合は「彼女」の出番ですか?」
「さすがに分かるかね。見せてあげたまえ。」
「……。」
次の瞬間、秘書の女性の姿が変わる。だが先ほどの事で免疫ができていたアズラエルは驚かない。と言うか、一生分驚いて感情がマヒしている。
「これは……。美しいですねぇ。」
「ありがとうございます、会長?」
「いや、まさしく美獣ですよ。」
秘書は、2mを超えるしなやかな体躯をした、美しい毛並みを持つ直立した獣に変じていた。両肩は大きく張り出し、甲羅で覆われている。胴体は女性的なラインを保っており、芸術品的な美しさを持っていた。
「彼女は君のところに入社する、ずっと前から我々の手の者だったのだよ。超獣化兵へと調整されたのは、ごく最近だがね。女性の調整体は、数少ないんだが、是非にと強く志願されてね。
筋力増幅度は常人の25倍、敏捷性も極めて高く、防御力は戦車砲の通常弾をはじき返す。両肩には生体レーザー砲が仕込まれており、その威力は厚さ1mのコンクリート壁を1秒で貫通する。他にも様々な能力があるが……。唯一の泣き所は……。
まー、なんだ。正式名称が決まっていない事でね。」
「は?は、はは、ははははは。あははははは!
それでは、僭越ながら。音感と語路とインスピレーションだけで決めた名前ですけれどね。「エリノラ」は、いかがでしょうかねぇ?」
「ほう?ふむ……。……。今、ドクター……ああ、我々の仲間だが、それとも精神感応で連絡し、了解を取った。彼も気に入ったらしい。
お前は今日から、エリノラ……「超獣化兵エリノラA-001」だ。その名に恥じぬように、今後ともアズラエル君との連絡役をこなす様に。アズラエル君、君も彼女のクビは無かったことでいいね?」
プロウライトの言葉に、超獣化兵エリノラA-001は、深々と頭を下げる。アズラエルも、頷いた。
「こんな有意義な人材、辞めようったって逃すものですか。クビは撤回ですよ。」
「それは良いのですが。」
「「む?」」
アズラエルとプロウライトは、首を傾げる。エリノラA-001は致命的とも言える言葉を言った。
「アズラエル会長に見せるため獣化したのはよろしいのですが、最初の予定ではプロウライト閣下の獣神変で済ませるはずでしたので……。その、わたしの分の着替えが無いのです。」
「「あ。」」
「獣化を解けば、裸になってしまいます。いえ、お二方にお見せするのは自分としてはかまわないのですが……。そして着替えを誰かに持って来てもらうにも……。」
獣化を解いて、そこへ着替えが届いたなら……。偉い立場の男2人が、権力を乱用して秘書の女性にセクハラを働いていたと見られかねない。もし獣化を解かないで着替えを待ったら、獣化した姿を視られたら大騒ぎになること必定。
他にも調整されたりされていなかったりのクロノス構成員が、アズラエルの会社の社屋内に多数いる事をプロウライトが思い出すまで、ぐだぐだな雰囲気は続くのであった。プロウライトは、他のクロノス構成員が近場にいるのを失念した事で、がっくり来ていたが。
2連装レールガンの弾をぎりぎりで回避して、キラは自機であるモルフォを後退させる。必死を装って、ビームライフルを1発無駄撃ちする。その火線は、ザフトの四つ足MS、バクゥの肩口を掠めて消えた。
「くうっ……。はぁっ、はぁっ。」
無線は封鎖している。キラは1人きりだ。だが彼は、仲間を信じていた。また1歩、そして2歩、モルフォは砂漠地帯を砂に足を取られない様にして、後ろに下がった。
「あと少し。はぁっ……。ふうっ……。」
バクゥの隊長機……「砂漠の虎」アンドリュー・バルトフェルドの専用機が、高速で疾走してくる。その火砲が、キラのモルフォを掠めた。続けて随伴機が2機、ミサイルを乱射してくる。キラは必死……に見えて、余裕はそこまで無いが、さりとて難事でもなく、普通に躱す。
そして、バクゥ3機は突進してきた。
「よし、かかった……何!?」
その瞬間、ビームライフルの火線が走った。バクゥの1機、バルトフェルドの隊長機ではなく、その随伴機の1機が直撃を受けて爆散した。能天気な声が無線から聞こえる。
『ははは、やった!やれるじゃないか、わたしも!』
『ばばば、馬鹿野郎!!』
『なんてことしてくれてるの!!』
『無線封鎖解除!全機、吶喊せよ!』
次の瞬間、IR偽装網を吹き飛ばして、トールとミリアリアのモルフォが砂地から立ち上がり、跳躍しつつビームライフルを乱射した。キラの機体も三味線を弾くのはやめて、今までとは見違えるような機動でバクゥ部隊に迫って行く。
トールのビームライフルから放たれたビームが、随伴機のバクゥを爆散させた。しかしそこまでだ。バルトフェルド機は、一瞬だけ逡巡する動きを見せたものの、高速で逃げ去って行った。
「……。」
キラは、機体を振りむかせもせずに、センサー情報だけで射撃した。それは1機のモルフォの足元に着弾し、その動きを止めさせる。いや、その必要も無かったかもしれない。そのモルフォは砂に足を取られ、もがいていたから。
『う、うわっ!何をする!味方撃ちなんて……。』
「味方じゃない。味方だったら、味方から泥棒なんてしないよ。カガリ・ユラ……。」
いっそのこと、名前の最後に「アスハ」を付けて呼んでやろうか。キラはその気持ちを必死で抑えた。彼の機体と、トールとミリアリアの2機のモルフォ、そしてサイとカズイのMS指揮車が、MS泥棒を機体から引きずり下ろすために4機目のモルフォに向かい、近寄って行く。はるか彼方から、1台のジープがこちらに向かい、走って来るのが見えた。
MSから引きずり降ろされたカガリが喚いていた。それを全員が、白けた目で見ている。いや、1人は悔恨の思いを湛えた目で見ていた。ジープでやってきた、キサカ一等陸佐……レドニル・キサカだ。
「なんだよ!余っていたMSを借りただけじゃないか!それにわたしは、1機墜としたぞ!?お前らなんか威張ってたくせに、3人がかりで1機墜とすのが精一杯だったじゃないかよ!」
キラは思う。初心者の訓練用に、素人にも扱えるOSのバージョンなんか、初期導入プログラムなんか作らなきゃよかった、と。まあ出来る事は、のこのこと、のろのろと歩かせて、手持ち武器の制止射撃をするぐらいなのだが。いや、実は簡便性を考えて、ディップスイッチで各モードを切り替えられる様に作っていたのだが、こんな事ならROMの差し替え式にするんだったと、キラは強く悔いていた。
サイが疲れた顔で言う。
「キサカさん。キサカさんなら、この爆弾娘が何をやったか分かっているでしょう。説明してやってくれませんか。」
「なんだよ爆弾娘ってのはよ!!」
「……いい加減になさい!今回貴女がやった事は、限度を超えます!」
「!!」
キサカ一等陸佐の怒声に、カガリはぎょっと目を見開く。キサカは続けた。
「彼らの作戦は、1番機が敵の攻撃を誘い、2番機、3番機が身を隠して十字砲火のキルゾーンを作っているそこへ、敵をおびき寄せると言う物です。ですがそこへ充分引き付ける前に、貴女のMSが現れて、攻撃を開始した……。結果、1機は貴女が、もう1機は2番機が撃墜した……。」
「……だ、だけどよ!勝ったじゃないかよ!敵を追い返して……。」
「いいえ負けです。敵の隊長機を撃墜できませんでした。アンドリュー・バルトフェルド機を、ね。」
「!!」
ここで再びサイが口を開く。
「この作戦は、僕らの足りない技量、足りない戦力、足りない頭で、なんとかしてバルトフェルドを倒すための、最初で最後の賭けだったんだ。バルトフェルドは名将だけれど、MS同士の戦いは慣れていない。だからこそ、こんな初歩的な作戦に引っ掛かった。そして2機も部下を失った。でも……。
もう2度と、バルトフェルドは罠になんか、かからない。今後バルトフェルドが殺す人たちに、君はどう言って謝るつもりだ?カガリ・ユラ。自分はバルトフェルドを倒すチャンスを潰したかわりに、取るに足りない敵機を墜としました、って言うのかい?」
「く……。」
「君が邪魔しなければ!バルトフェルドを!倒せていた可能性は高いんだよ!なんのために、僕らで一番腕がいいキラが、必死になって!囮になって!それなのに、それなのに!!
○○○○っ!」
サイが口汚く、四文字言葉を吐き捨てる。彼らしくない下品な言葉遣いに、だがキラは少しだけ慰められた。サイがキラを始め、仲間達を強く思っている事が感じられたからだ。そしてキラはサイの肩を叩く。
「その事は、とりあえずここまでにしよう。後からもう1度、きちんと「明けの砂漠」の人たちも含めて問題にさせてもらうけどね。
次はもう1つの問題を話さなきゃ。」
「も、もう1つの問題?」
「君が盗んだ4番機の事さ。」
カガリは血相を変えて叫んだ。
「盗んだんじゃない!余ってる機体を借りただけだ!単純な算数だろう!浮いてる戦力を出さないで、どうするんだ!」
「僕らは、貸さないって言ったよ?それを黙って持ち出すのは、盗んだってことさ。」
そう言ってキラは、腰から拳銃を抜いた。そしてそれをカガリへ向ける。カガリは目を瞠った。
「これが普通の軍隊ならば、君がやった事は銃殺物だ。」
「な、ま、本気か?」
「さあね?だけどね、借りた借りないって、それは言葉遊びに過ぎない。君がやったのは、友軍からの窃盗さ。まったく……。機体に火を入れて置いたのは、緊急時に備えてなんだけどな。」
ここで再びサイが説明をバトンタッチした。キラは、拳銃の照準をカガリから外さない。
「それに、僕らは何度も言ったはずだ。「空いている」機体はあっても、「余ってる」機体は無い、ってね。……MSは消耗が激しい。だから予備機を用意しているんだ。特に一番操縦の上手いキラは、それに比例する様に機体を酷使する。……どうだい?カズイ。」
「うん……。ちょぉっと、膝関節がヤバいかな?今ざっとチェックしただけだけどさ。」
「そう言う事だよ。予備機が無かったら、キラはその持ち味を殺して戦わなきゃならない。本来の実力の、何割程度かな?同じ事は、トールとミリアリアにも言える。予備機があるから、いざと言う時は機体を壊す覚悟で動かせる。でも予備機が無ければ……。
予備機がある事での戦力上昇は、新兵1人が予備機を持ち出して戦線に加わるのの、何倍もあるんだ。ましてや……ましてや初期導入プログラムのままで機体を歩かせて、戦線に投入するド素人の、何倍の戦力価値があるのか、わかってるのか!!」
サイは、再び激昂する。キラの拳銃の銃口はピクリともカガリの眉間からズレない。サイの怒声が響いた。
「戦術をちょっとかじった程度の僕にも及ばない知識と理解度しか無いくせに!こんな単純な「算数」も分からないくせに!君には戦う戦わない以前に、戦う資格が無い!!
君はあぶなっかしい!いつか君は、味方を殺す!繰り返すぞ、君には戦う資格が無い!!」
「な、い、言ったな!!」
「動かないで。僕に引き金を引かせないでくれるかな。」
「く!!」
カガリは危うい所で、サイに殴りかかるのを思い止まる。キサカは、キラが撃たないだろうと思ってはいるが、気が気では無い様だ。
その時、地平線の方から爆炎が上がった。それはゲリラ組織「明けの砂漠」のアジトの方だ。トールとミリアリアが叫ぶ。
「あ……。おいぃ!!お前さん、アジト出発するときに、MSを静音モードにしたよな!?」
「IR偽装網、被ってたわよね!?」
「え、あ、あ?」
その反応で分かった。キラは拳銃をホルスターに戻すと、自機の方へ歩き出す。
「初期導入プログラムが走ってる状態じゃ、静音モードにはならないし、IR偽装網なんて持って被れるほど器用に手は動かないよ。」
「くそ!」
「ああ、もう!」
「……。」
トールは苛立ちを吐き捨て、ミリアリアは天を仰ぎつつ、サイは無言で、各々の機体や車輛に走る。慌ててカズイがサイを追う。そしてトールの2番機とミリアリアの3番機が、今はパイロットのいない4番機を担ぎ上げた。キラの1番機が、ビームライフルを油断なく構え、周辺警戒しつつ、急ぎ帰還の途に就いた。
残されたカガリは、唖然としている。いつの間にかジープに乗ったキサカが、車体をカガリの傍らに停車させた。それを後方センサーで確認しつつ、キラは自機モルフォ1番機を、「かつてゲリラのアジトがあったはずの場所」へ向けて歩ませた。
うん。今回はカガリの悪いところを思いっきり増幅させて、表面に出してみました。ちょっとどころじゃなく、やりすぎたと思います。ですが、これが後々の成長の糧に……ならなかったら酷すぎるので、ちゃんと成長させたいと思います。
頑張れカガリ。
あと頑張れアズラエル。我らが盟主王。