孤独な歌、孤高の姫   作:斬鉄剣

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3話

 結局機嫌をどうとろうかと考えていたら一日が終わっていた。途中の記憶があまりないのはそれが原因だろう。

 何回かリサに聞かれたりもした気がするが内容を思い出せない。

 

「うぁぁぁ……」

 

 家に着くなりソファーに身を投げては歳に合わない声を出す。これが父さんの気持ちなのだろうか。

 くだらないことを考えているとポケットの中のスマホに着信が。画面には『今井リサ』の名前が映る。特に話すこともないがとりあえず出ることに。

 

「もしもし」

『もしもし奏汰? 今日はありがと☆友希那の友達なんて最近聞いていなかったからついはしゃいじゃったよー』

「こちらこそ今日は充実した時間になったよ。ちょっと疲れたけど」

『ちょっとちょっとどういう意味? そりゃ確かにアタシが連れまわしたけどさー』

 

 率直な気持ちを伝えてみたが、度が過ぎたろうか。

 とはいえ嘘を言うのは気が引ける。思ったことを口にした方がいいだろう。

 

『でも友希那に彼氏かぁ、幼馴染として嬉しい反面ちょっと寂しさもあるな~』

「俺は彼氏じゃないし、友希那と会って間もないんだ。誤解しないで欲しい」

『お似合いだと思うけどね? それに友希那をあそこまで感情を引き出せるの君くらいしかみたことないんだけどな』

「今回がたまたまなだけだよ。それに……」

 

 言葉に詰まる。

 

『それに?』

「……いや、なんでもない」

『ふーん。あ、そうだ! 友希那が明日ライブやるんだって』

「そうか、場所は聞いてる?」

 

 そういうとピコッと音が鳴りチャット欄に地図のリンクが貼られる。ちらっと見た感じこの前とは違う場所だ。

 

『そんなわけだから時間があるなら行ってあげて。きっと友希那も喜ぶから』

「お客さんとしてしっかり見届けるよ。リサは行かないの?」

 

 俺がそういうと一瞬空気が重たくなる。リサは小さく『あはは~』というと、少し暗めの声で答える。

 

『アタシはほら、そういう柄じゃないからさ……まあほらせっかくなんだし行ってね! それじゃ!』

 

 普段通りになったと思ったら即行で通話を切ってきた。全くリサのペースについていけないが、一つわかったことはリサ自身友希那と過去に何かあったということ。でなければライブがあるのを知ってるにもライブを避けるようなことはしないはずだ。まして仲の良い幼馴染であるはずなのに。それなのにあの答え方をするのであれば、音楽性の違いで分かれたとか喧嘩したとか。

 しかしどれもあくまで推測にしか過ぎない。とにかく明日はライブに行き、また友希那に感想を伝えることにしたほうが良さそうだ。

 

 

 

 

 

 予鈴と共に教室を出る。時間に余裕はあるものの初めて行く場所の為、念には念を入れよというやつだ。昨日送られてきた地図を見ながら普段は使わない道を歩く。誰もいない道は都会にしては珍しく静かで、聞こえるのは川のせせらぎ。その音に耳を澄ませていると目印の公園に着いた。ここまで来ればライブハウスまであと少しのため、公園のベンチで少し休むことにする。

 

「ふぅ……」

 

 大きな溜息がこぼれる。それと同時にリサと友希那に連れられた時の疲れがまだ残っているからか、それとも差している日が暖かいからか、少々眠気が出てくる。今ならすぐにでも夢の中に落ちれるだろう。

 ウトウトしていると「にゃー」と鳴き声が聞こえた。振り向くと一匹の子猫がちょこんと座っている。もしやと思ってちょっとズレればピョンっと駆け寄り、俺の座っていた場所にお座りをした。猫は人を警戒する生き物って聞いたことがあるが、こいつは警戒どころか人馴れしているように見える。

 

「お前は一人か」

「みぃ」

 

 子猫は小さく返事をした。もしかして言葉が通じてるとか。

 しばらく見つめあっていると、子猫はゆっくり立ち上がりこちらに近寄ってくる。何をするかと見守っていると膝の上で丸まったのだ。

 

「俺の膝は寝床じゃないんだが」

「ふみゃっ」

 

 そんなこと知らんと言わんばかりの声を上げ、丸まったと思ったらスヤスヤと眠り始めた。

 ……なんなんだコイツは。どかそうにもスース―と寝息まで立てている。寝かしてやりたい気もするがこれからライブにいかなくてはならない。たとえ動物の出入りができてもあの爆音では流石に逃げてしまうに違いない。野生のコイツが逃げ出したら観客やスタッフ、それに友希那にだって迷惑がかかる。それだけは絶対にしていけない。眠っているところ申し訳ないが、ここは逃がす他ない。

 俺は膝にいる子猫を抱き上げると元居たところへ降ろしてやる。途中で不機嫌そうな声を上げるが、すぐに自分の状況がわかったらしい。頭のいいやつで助かる。

 

「悪いがお前とかここでお別れだ。ちゃんと家に帰るんだぞ」

「にゃー」

 

 そう言い聞かせて公園を去る。振り返ればついてくるかもしれない、そう思い路地に出ると同時に全力で駆ける。途中で聞こえた小さな鳴き声が耳に残った。

 

 

 

 元々近いこともあり、時間に余裕をもってハウスに着く。チケットは既に販売しており受付で会計を済ませ中に入る。開演まで15分、しかも友希那の出番は後半。彼女の出番までは他のバンドの特徴でも探ってみようか。

 ハウスの最後列に陣取りながら待っていると始めの組が出てくる。MCではすごく焦ったり演奏でのミスもあったがみんな楽しそうで、聞いてるこちらもそんなことは気にしないくらいに見入ることが出来た。

 しかしそれはここだけのようで、次の3ピースではMCからも演奏からも堅さが目立ち、真剣さだけが会場に響く。友希那もこういったバンドでは活動できないのだろうか。そこから何組かの演奏が終わり、最後から2番目というタイミングで友希那の出番が来た。

 

「やっぱり湊友希那は雰囲気が違うな」

「結構可愛いしソロ活動してるなら誘えるかな?」

「でもあの人、プロレベルじゃないと組まないとか」

「あーだからソロなのか」

 

 やはり名が知られているのか彼女の登場と共にあちらこちらで話声が聞こえてくる。だがそれもすぐに止む。

 彼女がすぅっと息を吸い込み、声を上げると同時に誰もが彼女に釘付けになっていた。それは俺も同じで、気づいたらその歌声に意識を持ってかれていた。普段ネットやテレビで見る歌手とは違う、年齢相応でありながらその息遣いからはまた別のものを感じる。うまく言葉に表せないのがもどかしいくらいに、彼女の歌は心まで染み渡ってくる。

 だが、それでも。

 友希那の歌には、どこか寂寥感が感じた。

 観客は皆、その力強い歌声に魅了されている。だからか誰も不思議に思わないのだろう。その力強さの中に隠れている彼女の『声』に。

 

「友希那……君は……」

 

 彼女の声が聞こえている間、俺の頭の中からはその『声』が消えることなくループしていた。

 

 

 

 

 

 観客も演者も出ていく中、入口の外で友希那の帰りを待つ。別に約束をしたわけでもないが、一人で帰るよりはと思ったし、何よりも彼女のことを知りたい、そう思ったからだ。

 さて、友希那はどのくらいで出てくるだろうかとスマホを取り出そうとすると「みぃー」と聞き覚えのある鳴き声が。ハウスの側にある小さな木陰に、さっきまで一緒だった公園の猫が座っていた。

 俺を見つけるとそそくさとこちらに寄っては足元でウロウロし始める。

 

「お前まさかここで待ってたのか? しかも俺のことを待ってたなんて」

 

 そう言いながら逃げられる覚悟で手を伸ばすが、子猫は逃げることなく黙って俺に抱っこされる。なんでまたこんなに懐いているのか。

 落ち着いたのか欠伸をしてすぐに寝始めた。気持ちよさそうなのはいいが、友希那にこれを見られたらどう思われるか、それが心配ではある。

 

「友希那に見られないうちにコイツをどうにかしなきゃな」

「私がどうかしたかしら?」

 

 独り言に返事を返され、慌てて振り返るとそこには友希那が立っていた。噂をしたらなんたらとはまさにこのこと。

 子猫は俺の反応にびくりとしてジャンプして降りたが、俺が平静さを取り戻すとすぐに足元に戻ってきた。

 

「いや、別になんでもないさ。ただ友希那がいつ来るかなーって思ってただけ」

「そう。それでその子は?」

 

 友希那は俺の足元に視線を移す。その瞳はいつもよりキラキラしていて、俺なんて視界にいないようにすら感じる。

 

「公園にいた猫なんだ。野生のはずなんだけど、何故か着いてきたんだ」

「そうなの。珍しいこともあるのね」

 

 そういった友希那はこちらに近寄り、俺には一切目を向けず子猫に手を伸ばす。

 見知らぬ人に近づかれたからなのか、子猫は俺の後ろにスッと隠れる。というか俺も初めて会ったばかりなのにどうしてなのか。

 逃げられた友希那は涼しい顔のままではあるが、少し悲しそうな目をしていた。悩みはしたが、俺は子猫を抱きかかえると、そっと友希那のほうへ近づく。俺の腕の中では暴れもしないし、友希那と会話をしているのを見ているからか、敵視している様子もない。それを見た友希那は再び猫に近づき触れ始める。

 

「ほんと、貴方に懐いてるのね」

「自分でも驚くくらいだよ」

 

 猫を撫でる友希那は心底嬉しそうで、口元が緩んでいるからか「孤高の歌姫」と呼ばれているのが嘘のように感じられる。

 

「そういえば猫好きなんだね」

「猫は好きよ。昔飼ってたから」

「そうなんだ」

 

 コイツも撫でられるのが気持ちいいのかゴロゴロ喉を鳴らしている。

 

「そろそろ帰してやるか」

「この子、貴方にべったりだけど飼わないの?」

 

 目の前の友希那が急に顔を上げるものだから、視界に映る彼女の姿に胸が高鳴る。ライブ終わりだからか僅かに頬が紅く、瞳も唇も潤んでいる。上目遣いも相まった姿から目が離せなかった。

 

「……どうかしたかしら?」

「あー、ごめんごめん。そうだな……」

 

 声をかけられてようやく我に返った。慌てて答えたもんだから友希那はこちらを怪しんだ目で見るが、今は気にしてはいけない。そんなことより今は腕の中のコイツについてだ。如何せんペットを飼ったことがないものだから何とも言えない。

 

「飼えないこともないけど、世話の仕方とか分からないからな。コイツを野生のまま逃がすのがいい気はするな」

「そう」

 

 友希那は一言いうと、ちらりと子猫を見るや顔を伏せる。そんなに悲しい事だっただろうか、そう思って腕の中の猫の顔を見ると、捨てないでと言わんばかりに目に涙を溜めてこちらを見つめてくる。どうしてコイツは人の心が読めるんだ。

 どうしたものかと悩んでいると、顔を伏せていた友希那が一つ意見を提示してきた。

 

「飼い方がわかれば、その子を飼うってこといいのかしら?」

「まあそうだな」

「それなら……」

 

 恥ずかしそうに頬を染めながらも、彼女は勇気を振り絞って俺に訴える。

 

「それなら、私がその子の飼い方を教えるから。だからその子を飼ってもらえないかしら?」

 

 思いがけない一言だった。

 

「え、あ、うん。それなら飼ってもいいかな?」

「そう。なら決まりね」

 

 心底安心したようで、友希那は胸をなで下ろした。

 俺はというと返事こそしたが頭の整理が追いついていない。反射的に答えてしまったのだ、なんて情けない。だがそんなことよりだ。

 友希那が飼い方を教えてくれる? つまり友希那が遊びにくる? なんでもない俺の家に? 

 フリーズしている中、腕で未だにくつろいでいる子猫だけが呑気にしていた。

 

 

 

 ライブの感想を言うだけだったはずなのに、どうしてこうなった……?


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