マルチバース スパイダーマン from 国立魔法大学付属第一高校   作:葱山嵐

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スパイダーならぬ、プレイボーイ

入学式の日にできた新しい友達にスパイダーマンとして、サインをするはめになった僕はなんとか危なげなく次の日を迎える事が出来た。

いつも通りのシリアルの朝食を食べながら、前世からの習慣である、やる事リストを制作して、この世界で初めて出来た習慣もこなす。

 

「おはよう、父さん、母さん。

僕ちゃんと、友達出来たよ」

 

そう、この世界での父さん達に昨日のあった事を伝える。

ちゃんと、お線香を立てるのも忘れず、父さんと母さんに昨日こんな事があったよー、とか、今日はこういう事をするんだーとか。

なんて事の無い、親子の会話をする。

一方的にだけど。

 

スパイダーマンの事はまだ、父さん達には言っていない。

正直、父さん達が生きていたら、止められると思うし、心配をかけたくない。

 

もういない人に心配をかけたくない、というのも変な話なんだけどね。

 

両親への報告も済ませて、僕は学校へ行く準備をする。

はぁ、雫達とちょっと顔合わせづらいなぁ・・・

 

 

 

side司波達也

 

朝の鍛錬と入学の報告を師匠に終えて、俺と深雪はキャビネットに乗り学校へ向かっていた。

昨日は生徒会長に名前を覚えられるだけでなく、今話題の有名人を実際に目にするだけでなく、早速できた友人のエキサイトした所を目にする事になった。

雫は一見すれば、おとなしいというか、感情の起伏が少ない子だと思っていたが、スパイダーマンを目にした時の彼女はまるで、自己加速術式を使ったかの様な速さでスパイダーマンに詰め寄っていた。

 

スパイダーマン。

ここ三年で東京を中心に犯罪者を倒して回り、その犯罪者を大きな蜘蛛の巣に張り付けて、手書きのメモを残していく。

スパイダーマンというのは、蜘蛛の巣を張り、蜘蛛の糸で高層マンションの森をスイングして飛び回る一種の超人。

何より、驚くべき事は手首から射出される蜘蛛の糸や、彼自身の身体能力を俺は昨日までは映像越しでしか見た事ないのだが、よく観察してみると、彼は魔法を使っていない。

 

現代の警察や軍は敵に接近する際は、自己加速術式、つまり自身に対して加速度ベクトルを一方の方向に加速させる魔法を使うのだが、彼はそれを使った様な魔法の痕跡等はなかった事から、スパイダーマンは。

「魔法無一切使わずに戦っている」という事になる。

 

現代において、魔法を併用せず戦闘を行うというのは、珍しいといえる。

身体能力だけで戦闘をするとなると、発動の速さを重視した現代の魔法師からしてみると一世紀前の戦い方をする奴がヒーローと呼ばれている事になる。

それ自体は、俺はどうとも思わないが、彼の蜘蛛糸の事や、壁を這う能力は研究してみたいと思う。

 

「如何なさいましたか、お兄様?」

「あぁ、昨日の事を思い出してね」

 

深雪の問いに俺は簡単に答える。

 

「昨日、確かにすごい一日でしたね。

スパイダーマンを目にするだけでなく、雫があんなにもスパイダーマンのファンだったとは・・・」

「あぁ、全くだね・・・」

 

昨日俺と深雪、ほのかに雫、エリカに美月の計6人は、喫茶店から出た後、駅に向かっていたのだが、その道中でひったくりの現場を目撃した。

正直、自分から問題に首を突っ込むのは気乗りしないが、深雪に言われて動く事にした。

だが、その時、犯人の上空から黒をメインとした赤色の蜘蛛の巣のデザインに、青色のラインが入ったスーツを着た男。

そう、スパイダーマンがひったくり犯を捕まえたのだ。

その後、スパイダーマンは雫にサインを求められていたが。

その後が、問題だった。

 

「まさか、小1時間もスパイダーマン談義を聞かされるとは思わなかったな・・・」

「そうですね・・・まだ、頭の中でスパイダーマンの単語が反響しています・・・」

 

雫はスパイダーマンの大ファンだった。

それ自体は別に俺達には関係ないのだが、雫からスパイダーマンの今までの活躍や、その正体の考察を約1時間。

しかも、とても分かりやすく教えられた。

ほのか曰。

「雫はスパイダーマンの大ファンで、スパイダーマンの事になると、一切歯止めが利かなくなるんです・・・

これでも、抑えてる方なんです・・・」

 

1時間のスパイダーマン講義が、これでも抑えてる方と言われて正直、とても驚いた。

どれだけの情報を圧縮したらあんなに分かりやすく、人の頭の中でスパイダーマンの名前を反響させれるレベルの授業が出来るのだろうか・・・

 

「雫は案外、教師に向いているのかもね」

 

俺の呟きに深雪も苦笑しか浮かべる事しか出来なかった。

 

 

俺達の乗ったキャビネットが第一高校前の駅に着き、キャビネットを降りて駅から出ると、既に駅についていた第一高校の生徒達が全員一校の方へ向かい歩いている。

その人だかりの中から昨日できた友人が俺達を見つけ、声をかけてきた。

 

「達也、深雪さん、おはよう!」

「葉茅、おはよう」

「おはようございます、葉茅君」

 

人だかりの中から手を振ってやってきたのは、昨日先に帰ってしまった葉茅だった。

 

「昨日は先に帰っちゃってごめんね、どうしてもやらなきゃいけない事が山の様にあってさ」

「気にしてない、それどころか、惜しい事をしたかもしれないな」

 

俺は葉茅に少し昨日あった事を話す。

 

「実は私達昨日、スパイダーマンを目にしたんです」

「へ、へぇ~、そうなんだ。

すごいね、スパイダーマンってあれでしょ?

街のヒーローって呼ばれてる」

 

・・・葉茅の反応がおかしいな。

鎌をかけてみるか・・・

 

 

 

side日比田葉茅

 

「葉茅はスパイダーマンの事をどう考える?」

 

達也が僕の事について僕に聞いてきた。

たまにこういう事があるから、困るんだよね・・・

それよりも気になるのは、スパイダーセンスが反応している事だ・・・

スパイダーセンスは自身にかかる危険に対して反応する、いわば直感みたいなものなんだけど。

何故、今?

この全身に一気に鳥肌が立つ様なこの感覚。

でも、今は怪我する様な状況じゃないのにどうして・・・

 

スパイダーセンスは、敵意とかにも反応する。

もしかして、達也から?

まさか、昨日の一瞬で僕の正体に気が付いたの!?

まずい・・・僕がスパイダーマンだという確証を持たれたら・・・

達也って頭良さそうだし、サディストなのは確かだし、何されるかわからない・・・

ここはどうにか凌ごう。

 

「スパイダーマンの事?

そうだね、警察よりも早く犯罪者を捕まえたりするって聞くし、いい人・・・蜘蛛、なんじゃないかな。

スパイダーマンとピザ屋がコラボしたってニュースでもやってたし、有名人ってくらいにしか考えてないよ。

それがどうしたの?」

 

僕は日比田葉茅としての考えを答える。

多分、悪い方向に考えるなら、達也は今僕のこの答えから何かスパイダーマンが僕である、という情報を得ようとしているんだと思う。

良い方向で考えるなら、ただの好奇心だと願いたい。

でも、スパイダーセンスが反応するって事はそういう事なんだ。

慎重に応対しないと。

 

「・・・そうか、いや、実際に街のヒーローを目にした事だからな、少し気になってな」

「そっか、それにしてもスパイダーマンを見たのか、僕も見てみたかったな」

 

うーん、我ながら白々しいし、苦しい言い訳だ。

バレてなければいいんだけど・・・

 

「しかし、スパイダーマンの事もそうだが、何よりすごかったのは雫の事なんだがな」

「ん?

雫がどうしたの?」

「実は・・・」

 

達也が昨日、僕が雫達から逃げた後の事を話してくれた。

どうやら、雫は僕のファンらしい。

いや、正確にはスパイダーマンのだけど。

だけど、何よりすごいのは、ファンって言葉の前に熱狂的な、がつくらしい。

おかげで、達也達は長い授業を受けるはめになったらしい。

 

「なんていうか、いた方がよかったとも、いなくてよかったとも言えるね・・・」

「葉茅君も気を付けてくださいね、私もお兄様も未だに頭の中で雫の言葉が反響してますから・・・」

 

深雪さんの言葉に僕は苦笑しか返せなかった。

 

 

校門について、学校に入ると、達也と深雪さんはクラスが違うので、達也とは別れて僕と深雪さんとで教室に向かう。

教室にはすでに何人かの生徒がいて、僕と深雪さんが教室に入ると、何故かクラスの皆が一斉にこちらを見た。

え、僕の顔に何かついてた?

僕は自分の顔に触れるが、特に何もついておらず、そのまま自分の席を確認して席に着いた。

深雪さんも席に着くと、クラスの皆が深雪さんの所に集まってきた。

あぁ、そういう事だったのか。

皆がこっちを見たのは新入生総代と仲良くなりたかったのだろう。

確かに、深雪さんはとても美人だし、お近づきになりたいという気持ちも分からなくはない。

 

「葉茅君、おはよう」

「おはようございます、葉茅君」

 

僕が深雪さんの方を見ていると、いつの間にか雫とほのかがやってきた。

 

「おはよう、二人とも」

「あの、人だかりは?」

 

雫が深雪さんに集まる皆を見て、僕に聞いてくる。

そうか、雫達の身長だと背の高い男子が集まるから、深雪さんが陰になって見えないのか。

僕はそう結論を出して、二人に答える。

 

「深雪さんと話してみたい人達だよ、新入生総代だし、皆お近づきになりたいみたいだね」

「あ、なるほど、だから皆あんなに群がってるんですね」

 

群がってるって・・・

ほのかは意外と毒舌なのかな・・・

そう思っていると、ほのかの言葉を雫が窘める。

 

「ほのか、言葉がよくない」

「あはは、ごめんね」

 

雫の言葉にほのかは抱き着きながら、謝った。

何でほのかはこんなに人が多い居場所で抱き着くのだろう。

雫が恥ずかしそうだが、それと同時に、昨日と同じ様に、悲しい表情をしている。

これはあまり首を突っ込まない方がいいのかな。

よし、話題を変えよう、自虐みたいになるけど、スパイダーマンの事にしよう。

 

「そういえば、達也から聞いたけど、昨日スパイダーマンを会ったんだって?」

 

僕の言葉に雫は、それはもう、クワッていうオノマトペが似合う程目を見開いた。

 

「そうなの!

昨日喫茶店からの帰り道でひったくりがあったんだけど、スパイダーマンがひったくり犯をものの数秒で捕まえたんだよ!

それに、スパイダーマンからサインも貰えたんだよ!!

ね、これ見て、サインの写真!」

 

うわ!

熱狂的なファンとは聞いたけど、ここまでとは。

雫は自分の携帯から僕が書いたサインの写真を出して、顔にくっつきそうなくらい近づけてくる。

チラッと見えたけど、画面下の写真をスクロールする場所に同じ写真がある事から沢山バックアップを取ったんだろう。

てか、近すぎて見えないよ!

 

「雫、それじゃ近すぎて見えないよ」

 

ほのかナイス!

 

「あ、ごめん」

雫は謝り顔からスマホを離して、サインを僕に見せながらスパイダーマン談義を始めた。

しまった、スパイダーマン談義の事をすっかり忘れてた・・・

その後、僕は先生が来るまで雫からスパイダーマンの授業を受ける事になった・・・

 

まぁ、身近に応援してくれる人がいるのは嬉しいし、肯定的に捉えよう。

 

 

長い授業以外は・・・

 

 

 

side光井ほのか

 

学校の授業を受けるよりも先に、雫のスパイダーマン授業が始まり、先生が来たところで終わらせた。

その後、私達は先生から端末の使い方や、カリキュラムの登録の仕方等を一通り教えられて、次は学内見学に移った。

学内でどこで何をするのか。

例えば、戦闘を習うのなら闘技場、CADについて学ぶなら工房と、これ以外にも沢山の活動がされている。

生徒はこの見学に個人や仲のいい人達との集まり、それか先生について行って見学をする。

私と雫は一緒に行くとして、葉茅君も誘う事にした。

それならと深雪も誘う事にしたが、既に、クラスの他の人達が深雪に群がっていた。

 

「あれは、流石に集まりすぎじゃないかな」

「深雪が不機嫌そうに見えるのは私だけ?」

「実際、不機嫌そう」

 

クラスの皆は深雪の事情はお構いなしに、暴走した様に詰め寄る。

 

「葉茅君、助けてあげよ」

 

雫の言葉に葉茅君は、そうした方がいいかなぁとぼやきながら頭を掻きながら、深雪の方に向かう。

途中で、ごめん、名前出すねと私達に謝ってきたけど、どうするつもりなんでしょう。

 

「深雪さん、昨日雫達と見学行くって約束したんだっけ?

ほら、早くいかないと、席取られちゃうよ」

 

葉茅君は深雪の手を掴み、私達にウインクして教室から出て行った。

案外彼はプレイボーイなのかもしれない。




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