(゚ω゚)<お姉ちゃんの時間だぁぁぁぁぁ!!
夢を見た。
冷たい風に乗る煤の匂い。
眼下の都市は炎が広がり、空の雲はまるで煙のよう。
粘りつくような熱さを堪えながら敵を撃ち落とす。
一機、また一機。
絶え間なく押し寄せる奴らは恐れを知らない。
作業のように閃光を放ちながら祖国を破壊していく。
そうはさせないと私は戦う。
祖国の為、仲間のため、そしてーーーー。
ーーーーそうして私は失敗する。
最愛の妹を守れない悪夢を見るーーー。
口口―――――――――――――――口口
空母赤城での戦闘から1ヵ月以上が経過した。
宮藤は短い訓練期間を終え、501統合戦闘航空団の一員として前線で戦うようになっていた。
ブリタニアへのネウロイの襲撃は凡そ週に1度のペースで発生している。
そうして今日も敵影を確認したストライクウィッチーズのメンバーは迎撃のため出撃となった。
相手は大型のネウロイ。鈍重ながらもその巨体を活かした多数のレーザーはウィッチにとっても脅威である。
先の高速飛行型ネウロイが首都進攻に失敗したため、真逆の兵装をとったのだろう。
しかし、相手が悪かった。
501統合戦闘航空団は各国有数のエースが揃う対ネウロイ戦のエキスパート達だ。
ミーナが放つ牽制の銃弾が、ネウロイの体に幾つもの穴を開け、ヒビが入る。
「足が止まったわ……っ、今よ宮藤さん!」
『はいっ!』
インカムに手を当てながらミーナが叫ぶ。
宮藤がいるのは戦闘空域のはるか上空だ。
その合図に最大速度を出した宮藤が、雲を吹き飛ばしながら落下する。
衝撃から雨粒となって放射状に広がる雲海を背にした宮藤が巨大なネウロイに衝突し、外殻を穿つ。
だが、コアの破壊には至らない。
宮藤のシールドバッシュはその破壊力こそ絶大であるものの、ある程度ネウロイの巨体があってこそ命中する。扉間の助言があっても体を操るのは宮藤だ。まだまだ訓練が必要である。
命中率は百発百中ながら、コアを巻き込むことが難しいのだ。
しかし、それで十分だった。何故ならば宮藤は一人で戦っている訳ではないからだ。
コアが見えており、動きが止まったのならば……リネットの銃弾は避けられない。
「…………っ!」
リネット特有の固有魔法である弾道安定。
針穴さえも射通すその一撃は、正確にコアの中央を撃ち抜いたのだった。
口口―――――――――――――――口口
「いやぁ、楽勝楽勝。坂本少佐も良い新人を拾ってきたもんだ」
「そんな、私なんかまだまだで……」
「謙遜しなくてもいいわよ宮藤さん。貴方とリネットさんのコンビネーションは見事なものでした。これからもよろしくお願いね」
照れて縮こまってしまった宮藤の肩を笑いながらシャーロット・イェーガーが叩く。
豪快な笑い声と口元に浮かべた柔和な笑みが、シャーリーが宮藤の配属に心から喜んでいることが分かる。
「しっかしずるいよなぁ、二人のコンビ技。足が遅いネウロイなら殆ど無敵じゃないか」
「そうね。戦法として非常に強力だわ。宮藤さんの魔法力があってこそだから、他のウィッチには真似できないのが難点ね」
茶化すように笑うシャーリーにミーナが同意する。
他のウィッチでは落下中にネウロイのレーザーに撃墜されてしまう可能性があるが、宮藤の強力なシールドを撃ち抜けないことは立証済である。まさに宮藤だからこその攻撃方法だ。
それもコアが破壊できなければ外殻を修復されてしまうため無意味となるが、ここにリネットという決め手役がいることで一気に有用な戦法となっていた。
発案はもちろん、宮藤のシールドバッシュの威力を目の当たりにしている坂本である。
接近戦に持ち込む自分より長距離から正確に撃ち抜くことが出来るリネットであれば有効性も上がるだろうと判断しての指示だ。
その考えは的中し、自信の無さも解消したリネットは順調に撃墜数を増やしている。
宮藤は戦績を家族に報告できるようになったリネットを我が事のようにうれしく思っていた。
宮藤もリネットも戦争嫌いではあるが、戦績に興味を持たない宮藤と異なり元々家族のウィッチに対するコンプレックスを持っていたリネットだ。
姉宛ての手紙に自分の事を書かれたときは面映ゆくなったことは記憶に新しい。
「じゃ、今日も美味しいの頼むよ~宮藤」
「はい、シャーリーさん。任せてください!」
胸を張る宮藤にひらひらと手を振りながらシャーリーとミーナは食堂を去っていった。
宮藤の料理は扶桑の家庭料理である。
料亭のような華やかさこそ無いものの、その味はウィッチ達に大変好評である。
なにせ物心つく頃には家庭の手伝いをしていたのだ。料理についても他のウィッチに比べ一日の長がある。
501のメンバーが時折自分たちの郷土料理を振る舞うこともあり、それが宮藤のやる気を引き出していた。
「ど、どうかな。リーネちゃんの口に合うかな?」
『好みはあるだろうがな。お前の手料理ならば問題なかろう』
料理について扉間が口を出すことはあまり無い。
五感を共有している事からアドバイス位は出せるだろうが、男の自分にあまり口出しされても嬉しくは無いだろうと考えていた。
料理について相談が出来る友達もできた。
リネット・ビショップ。ブリタニアの若きウィッチ。
味を確かめるように目を瞑り、リネットは口に含んだスープを飲み込む。
「……うん。美味しい! やっぱり芳佳ちゃんの作る料理はどれも美味しいね」
「ええ〜? そ、そんな事ないよぉ」
頭を抑えながら緩む頬を指摘する程、扉間も野暮では無い。宮藤が談笑する際は基本的に黙っている。
リーネと愛称で呼ぶようになった宮藤を、扉間は孫娘を見るように眺めていた。
「……扉間さん、随分静かだよね?」
『何だ。照れを隠すのなら、そのだらしなく緩む頰を何とかしろとでも言えば良かったか?』
但し話しかけられない場合に限る。
周囲に聞こえないように問う宮藤に、いつも通りのやや辛辣な言葉を返す扉間だった。
ぶぅ、と頰を膨らませて抗議を示す宮藤だが、このやり取りも平常運転である。
「じゃあ次は私の料理だよ。はい、芳佳ちゃん」
パンに挟む具材を小皿に乗せ、リーネは宮藤に手渡した。
受け取った小皿を箸でつまむが、何かを思案するように宮藤は顔を上に向ける。
「芳佳ちゃん?」
「そうだ、せっかくだから扉間さんが味見してよ!」
『は?』
言うや否や、宮藤は身体の操作を扉間に委ね引っ込んでしまった。
浮遊感に包まれる宮藤の身体を扉間は慌てることなく操作する。
「おい芳佳……」
『だって扉間さん、普段私の料理しか味見しないでしょ?』
「それはワシが料理人ではないからだ。リネットもワシなどが味見するよりお前の方が喜……」
ちらりとリネットを横目で見た扉間の声が、止まった。
そこには握りしめた両手を胸に当て、じっと扉間を見つめるリーネがいた。
言葉を聞かなくてもわかる。扉間に味の感想を求めている目だった。
「……。」
特に断る理由も無し。扉間は吐息を一つ着いて箸で摘まんだ料理を口に運ぶ。
ゆっくりと咀嚼し、喉へ押し込んでいく姿を宮藤とリネットは固唾をのんで見守る。
「……美味いぞ。しかしリネットよ、ワシはそれくらいしか言葉の表現が―――」
『やったねリーネちゃん!』
なぜかリネットではなく諸手を上げて喜びを表す宮藤に、扉間は目を丸くする。
思わず体の操作を委ねると、二人は両手を合わせながらピョンピョンと跳ね始めた。
扉間が見えている第三者がいれば、その光景は父の日に出した料理を褒められる娘のようだと表現するだろう。
―――まあ、こ奴らが良しとするならば別に構わんか。
特に指摘する事もなく、こうして今日が始まったのであった。
口口―――――――――――――――口口
「そういえば本当に良かったの、芳佳ちゃん?」
「良かったって、何が?」
持ったパンを口に運ぶ手を止めて、宮藤はリネットの問いの意図について確認をする。
並べられた料理を食べるウィッチの態度は様々だ。黙々と食べる者もいれば味の感想を言い合う者、先の戦いの感想について述べ合う者もいる。宮藤とリネットも談笑に興じるグループだ。
「この前のネウロイだよ。基地から狙撃して撃破したネウロイの戦果、私が単独で落としたことになっているでしょう?」
リネットが自信を取り戻す切っ掛けとなった戦い。
扉間は飛雷神の術を行使した事を隠すため、その戦績をリネットが単独で行ったことにするよう口裏を合わせるよう指示していた。
幸い突破されたミーナやエイラはネウロイの外装を破壊する宮藤の姿を目撃してはいないからである。
「うん、気にしないで! その……自分の説明しなきゃいけなくなるから、逆にリーネちゃんに感謝してるの」
自分、というのは扉間のことだとリネットはすぐに察した。
扉間は今後、己のことを隠し続けることが難しくなるという予感はある。
だが、隠すことが出来るのならばそれに越したことはないとも考えていた為の処置だ。
「……あれ?」
ふと視界に入ったのはテーブル。半分ほどしか減っていない料理に首を傾げた。それはいつもの彼女らしくない。
ゲルトルート・バルクホルン。階級は大尉。
軍人たる者斯くあるべしとは彼女のことを言うのだろう。
戦争という行為が元々好きではない宮藤にとって、少し苦手意識を持ってしまう相手であった。
「あ、あの。お口に合いませんでしたか?」
「……ご馳走様」
控え目に伺うが、膠も無く席を立ったバルクホルンは足早に食器を片して食堂を去っていく。
食堂を出る直前に宮藤とバルクホルンの目が合った。宮藤の瞳が悲しそうに揺れている。
その姿に、バルクホルンの胸が痛む。
―――やめてくれ。お前は何も悪くないんだ。
そう。避けているのは私の方。
悪いのは私の方だ。
その自覚があっても変えられない。
彼女を見るのが、辛い。
戦う姿を見るのが、辛い。
宮藤芳佳という人間はゲルトルート・バルクホルンにとって直視することができない人物である。
「扉間さん。もしかして扶桑の料理ってカールスラントの人には合わないのかな?」
『それは横で頬を緩めている奴を見ればわかるだろうよ』
小さく周りに聞こえないように呟いた宮藤は、扉間の言葉で視線をバルクホルンの横の席に向ける。
そこにはフォークを片手に、栗鼠の如く頬が膨れたエーリカ・ハルトマンがご満悦で宮藤の料理に舌鼓を打っていた。
最近の彼女のお気に入りなのだろう。
時間にルーズであるエーリカだが、宮藤が料理当番の日は必ず時間厳守で席についている。
「私、もしかしてバルクホルンさんに嫌われてるのかな?」
『それは無かろう。まあ気にするな。そのうち解決するだろうよ』
扉間にしては曖昧な答えに訝しく思う宮藤だったが、リネットとの会話を続ける事にした。
トレーを片づけるバルクホルンを眺めながら、扉間は彼女の心境を何となく察していた。
―――青いな。亡くした身内に芳佳を重ねたか。
トゥルーデが抱える心の傷。扉間の推察はその核心を捉えていた。
それは長く戦場に居た扉間だからこそ気が付けたトゥルーデの心情だった。
喪った者に重ねてしまうことは良くある事だ。
そういった相手に対して大概の人間は距離を置こうとする。
誰でも親しい者が死んだ事実を再確認することは辛いのだ。
『青い、か』
「え、何? 扉間さん」
『いや、何でもない』
呟いた己を嘲笑する。何を偉そうにと。
誰かを喪ったことに苦しむ彼女と、己の敬愛する兄が死んだときも涙一つ流せなかった自分……どちらが精神的に健全であるか。
それは考えるまでもないと思う扉間であった。
くりすちゃん(昏睡)「死んでない! 私死んでないよ!」