卑劣様IN宮藤芳佳   作:古古兄(旧:フルフルニー)

2 / 15
続けて投稿。絶対名前とか階級とか間違うゾ。


第二話

この世界では人類同士で戦争状態に突入しているという国は存在しない。

より正確に言えば『そんなことをしている余裕が無い』というのが正しい。

何故ならば現在人類は敵対する種族との戦争状態にあるからだ。

 

ネウロイ。

それが敵の総称である。

 

巨大な兵器の姿を模した化け物は突如として現れ、

我が物顔で世界を跋扈し人類の殲滅を開始した。

 

言葉も無く遠慮も無く容赦も無い。

感情も見せずただ蹂躙するネウロイに人類は苦戦を強いられており、

その生存圏を奪われつつあった。

 

彼らネウロイは主な兵装は赤みを帯びた光線であり、

その威力は駆逐艦程度ならば一撃で沈める程である。

 

しかし、それ以上にやっかいなのが再生能力である。

通常の兵装では穴を開けても直ぐに修復が行われ、

完全に破壊するにはコアと呼ばれる核を破壊する必要があるのだ。

 

そんなネウロイにも弱点があり、魔力を帯びた兵装によるダメージが

再生能力を大きく阻害する事が確認されている。

その為に魔力を持つウィッチは各国にて動員され、

人類は何とかネウロイに対抗できているのが現状である。

 

扶桑は極東に存在する小さな島国ながら、優秀なウィッチが多い。

故に、彼女が宮藤芳佳に目を付けたのは必然だったのだろう。

 

「あれが件のウィッチですか」

 

双眼鏡で砂利道を走る運搬車を見下ろしながら、扶桑海軍兵曹である土方圭助は

確認するように呟いた。双眼鏡から目を離し、車の助手席に座る上司へ振り返る。

 

「どこにでもいる、普通の学生にしか見えませんが」

 

「ああ。身体能力、思想理念、授業成績。どれも特筆するようなものはない。

 ごく一般的な家庭で育った普通の少女だ」

 

答えるのは軍の車両、その助手席に座る一人の少女だった。

まだどこかあどけなさが残りつつも、土方に接するそのあり方は自信と威厳に満ちていた。

 

坂本美緒。

扶桑皇国海軍に属する軍人である。

 

坂本は土方に返事を返しつつバインダーに綴じられた資料に目を通していた。

資料の内容は宮藤のプロフィールである。その中に、ウィッチとしての固有能力も含まれていた。

 

固有魔法。ウィッチの中でも少数が持つ特殊な力である。

雷を操る、敵を探知する等、その種類は多岐に渡る。

 

『固有魔法は治癒能力、若しくは身体能力の強化である』

プロフィールの最後。固有魔法欄に書かれていた調査内容に、坂本は訝しげに目を細めた。

 

―――治癒能力を明記するのはまだわかる。しかし何故身体能力強化をわざわざ挙げる?

 

ウィッチが持つ魔力は基本的に身体能力を強化するものだ。

わざわざ明記するような物ではない。

 

それを態々明記する理由が、宮藤にはある。坂本はそう感じた。

 

―――バルクホルンのような能力か?

 

同僚であるゲルトルード・バルクホルン大尉が坂本の脳裏に浮かんだ。

彼女の固有能力は怪力で、重さ100キロを超える兵器であっても

運用が可能な『怪力』の固有能力を有している。

 

彼女のような能力であれば記載されるのも頷ける。

身体能力向上の副産物が治癒魔法ならば。

坂本は車から降り、改めて眼下を走る運搬車に目を向ける。

荷台で笑う二人の少女。どうみても普通の女学生だ。

 

その二人が、唐突に体を揺らせた。

 

運搬車と荷台が くの字に曲がったのである。

道を横切る小動物をよける為、運転手が咄嗟にハンドルを切ったことが原因だった。

荷台は土手へとすべり、乗せていたスイカと共に2人は土手を滑り落ちていった。

 

「っ!」

 

まずい、と坂本は直感した。土手は急であり、落ちるスイカにあたれば骨折の危険がある。

それだけではない。運悪く土手の下には折れた木の根が生えており、

万が一あたれば大怪我を負ってしまうだろう。

 

 

―――しかし、次の光景に坂本と土方は驚愕することになる。

 

 

「な―――っ」

 

声を上げたのは果たしてどちらか。

その光景に坂本美緒と土方圭助は目を見開いた。

 

バランスを崩し道から落ちる二人。

突き出した幹に山川美千子の体が衝突する直前の出来事だった。

 

 

宮藤は投げ出された体を片手を地面に着けて体勢を整え、

次いで側転しながら大地を蹴り、転げ落ちるスイカを避けながら

美千子の体を両腕で抱きしめ地面に着地したのだ。

 

 

当然だが、身体能力を強化することは体を用いた行動が良くなることに直結するわけではない。

今の宮藤が見せた行動は体のバランス、地形の把握、山川美千子の位置を瞬時に把握し

予測から結果を導いた計算されつくしたとも言うべき動きだった。

だが驚いたのはそれだけではない。

 

―――耳が生えていない、だと?

 

基本的には魔力を用いる際には一般的に使い魔という

魔女の魔力行使をサポートする存在がいる。

そして魔力を用いた場合、ウィッチには契約した使い魔……動物の耳と尾が生えるのだ。

 

だが今の宮藤にその様子は見受けられない。

つまり、宮藤は先の一連の行動を、魔力を用いらずに行ったことを意味していた。

 

「えへへ、また助けられちゃいました」

 

腕の中ではにかむ美千子を宮藤はゆっくりと地面へ降ろす。

道路では散らばったスイカに目も暮れず、

彼女の祖父が血相を変えて土手を下っている最中だった。

 

「美千子!」

 

「大丈夫、無事だよおじいちゃん!」

 

無事を喜ぶ祖父と孫娘にホッとする坂本と土方。

何事も無くよかったと肩を降ろしたその時、宮藤が振り返った。

 

そう、二人へ振り返ったのだ。

 

「――― っ!」

 

それは冷たく、射抜くような視線だった。

先ほどまでのあどけない女学生はそこには存在しておらず、

観察する狩人のような、感情を伴わない静かな瞳が此方を見上げていた。

 

……だが、その凍てつくような視線を向けられた坂本は、笑みを浮かべる。

 

「行くぞ土方」

 

「了解です。宮藤さんの所へですか?」

 

「いや、自宅の方だ。どの道、宮藤の親族にも許可を頂く必要がある」

 

車に乗り込み、土方はエンジンを動かす。

揺れる車内とは別の力が、坂本を揺らしていた。

これはきっと、武者震いに近いものなのだろうと土方は思った。

 

「見たか土方。あの動き。凄いぞあれは。あの一瞬で宮藤の実力の一端を知ることが出来た」

 

坂本から発せられる声は、誕生日プレゼントを喜ぶ子供のようだった。

 

「戦闘中ならまだしも、あの突発的な状況であの判断と行動力だ。

 共にいたあの少女が大怪我を負うところだった手前、申し訳なくも思う。

 ……だが彼女のおかげで見ることが出来た。

 魔法を使わず『アレ』だ。ウィッチとして戦ったら一体どうなのだろうな」

 

興奮しながら息巻く上司に嫌な癖が出た、と運転する土方は苦笑いを浮かべながら同意する。

なぜならそれは土方も感じたからだ。宮藤芳佳という存在の大きさを。

戦争とは一人で行う物ではない。故に、たった一人が戦局を覆すのは不可能に近い。

 

「断言するぞ土方。『欧州が変わる』。どの程度時間が掛かるかは分からないが

 2、3年で戦局が変わる。あいつと一緒なら変えることが出来る」

 

しかし、ウィッチは。

特に空戦ウィッチの場合はこの限りではないのだ。

 

空は広いが、空の戦場は酷く狭い。

たった一人のウィッチが戦局を変えることを土方は知っていた。

それは上官である坂本美緒が嘗ての戦場で幾度となく証明させているからでもある。

 

強力な味方が現れた事を、同じ軍人の土方が喜ばないはずが無かった。

例え、本人に軍人になる意図が無かろうとも。

 

 

口口―――――――――――――――口口

 

 

扉間は時折宮藤に手を貸す事がある。

それは先の猫を救出する際や、今のような美千子の窮地のような場合に限るが

そういったときに限り宮藤芳佳が尋常ならざる動きをするのは学校でも知るものはいる。

 

調査を行った扶桑軍が、宮藤の固有魔法を

身体能力の強化と誤認したのも無理からぬ事だった。

 

小山の上を走り去る車を見上げながら扉間は小さく舌を打った。

 

―――見られたか。今の車、恐らく扶桑の軍人だな。

 

下校から先ほどの車が尾行していた事には気が付いていた。

何事も無く家まで着けば良いと考えていたが予想外の出来事だった為、

咄嗟に美千子を救出してしまった。

 

いや、救出自体は間違いではないと扉間は断言できる。

しかし考えればもっと穏便に行動できたはずだった。

 

『芳佳よ。少し厄介なことになったかもしれん』

 

「厄介って、どうしたの扉間さん」

 

『帰り道、お前を付けている奴らがいた。最初は物取りかと思ったがどうも違ったようだ。

 恐らく軍人だろう。そやつらに今の行動を見られた』

 

その言葉に宮藤は息を飲んだ。

扉間の存在を隠すという提案は他でもない扉間自身の案だった。

子供とは言えない発想、忍としての行動力。どちらを見ても常人には理解し難い物である。

 

そして人は未知を恐れる生き物だ。

扉間という人間が彼女の周囲に知れ渡ればどのような厄介ごとが

彼女に降りかかるか分からない。

十中八九、碌な目にあわないだろう。

 

扉間の世界には人柱力と呼ばれる存在がいた。

尾獣と呼ばれる巨大な獣を体内に封じた人間のことを指す言葉だ。

文字通り腹に一物を抱えた人間に降りかかった差別を、扉間は痛いほど理解していた。

 

それを知るからこそ、扉間は己の存在を秘匿するよう宮藤に子供の頃から提案していた。

 

『すまん。これに関してはワシの責任だ』

 

その提案を、扉間は今自ら否定する行動をしてしまった。

己の役割について必要な行動を取らなかった。

 

必要と有れば己すら犠牲にする覚悟。

それを生涯終えるまで決して曲げなかった扉間という男が、

今どれほど恥じているかはきっと本人しか理解できないだろう。

 

 

「その言葉は私怒るよ、扉間さん」

 

 

しかし。しかしである。

宮藤芳佳がその謝罪を許す理由にはならない。

宮藤は久しぶりに、本当に久しぶりに扉間に対して憤りを感じていた。

それは千手扉間という存在を他人に知られたからではない。

 

「扉間さんはみっちゃんを助けるのに全力だった。

 だって私が考える間もなく体が動いたんだもん。

 『そうしないとみっちゃんが危なかった』。 

 私に一言も言わないで扉間さんが行動するのは、

 決まって断りを入れる余裕が無いときだけだもん」

 

そう。宮藤は理解している。

あの扉間の咄嗟の行動がなければ友達が危なかったことを理解している。

だからこそ、宮藤は自分自身を責める扉間が許せなかった。

 

「だから扉間さんは何も悪くない。

 悪かったのは、うん。タイミングが悪かったの。きっとそれだけ」

 

たまたま誰かが私を観察しているときに、たまたま事故がおきた。

友達が悪いわけでもなく、友達の祖父が悪いわけでもなく、

此方を観察していた人たちが悪いわけでもなく、扉間が悪いわけでもない。

 

扉間のお陰で、友達が大怪我を負うところを防ぐことが出来た。ただそれだけなのだと。

なら、何も、誰も悪くはないのだと宮藤は笑う。

 

『……そうか』

 

宮藤の言葉に扉間はただ相槌を打つ。

他ならぬ宮藤自身がそういうのであれば、これ以上の言葉も不要だろう。

 

『芳佳よ』

 

「え、何?」

 

『道へ戻るぞ。探せば無事なスイカもあるだろう。さっさと片付けなければ日が暮れそうだ』

 

「……はい!」

 

嬉しそうに頷く宮藤に扉間は薄く笑みを浮かべる。そこに溜息はなかった。

友達が無事なら話は此処まで。

今後どうなるかは全く持って不明だが、一先ずスイカを片付ける為に運搬車に戻る二人だった。

 




爺ちゃんと孫。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。