卑劣様IN宮藤芳佳   作:古古兄(旧:フルフルニー)

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原作2話に入るか入らないか。


第四話

軍艦というのは狭い居住区である。

それが数十機にも上る艦上機を積んだ空母ならば尚更だ。

宮藤は母や祖母、友人に別れを告げて父の事を調べる為に欧州へと向っていた。

 

―――よく来てくれた!

 

港で出迎えてくれたのは眼帯をつけたウィッチ、坂本だった。

肩が外れんばかりに叩かれ、狼狽しながらも父の手紙の事を話したところ

非軍人としての乗船許可をもらう事ができた。

 

戦うことは嫌だが船内の雑務はこなす事が出来る。

扶桑を離れてはや一ヶ月。

欧州に同行する代わりに空母赤城での雑務を担当している。

 

艦内清掃から数千人分の食事と洗濯。

今まで家事をこなしてきた宮藤にとっても大仕事である。

しかし元々家庭的である宮藤はそれを大変だとは思えても、苦痛と思えるものではなかった。

むしろ欧州までの旅費をこの程度で済ませてしまい申し訳ないという

気持ちすら芽生えていた。

 

宮藤が乗艦してからというものの、出される料理の質が良くなったと下士官から好評だ。

また掃除をする元気な少女として赤城艦内ではちょっとした名物になっている。

男だらけの空間では砂漠の中のオアシスなのだろう。

 

『掃除、洗濯、料理と……雑事に対しては天才的だな、お前は』

 

「……それ、褒めてます?」

 

『無論褒め言葉だ』

 

「『雑事に対して』って、それ以外はダメダメだって口に出さずに言ってません?」

 

『……』

 

黙る扉間に、宮藤は呆れ顔を連想する。それは勘違いではないと確信して。

ぶう、とわざわざ口に出す抗議をして宮藤は手に持つモップの動きを再開させる。

扉間とのやり取りも平常運転だ。

 

昼食も終わり、後片付けも済んだ宮藤は次なる仕事として甲板の清掃を始めていた。

想定では本日中に欧州の一国、ブリタニア連邦に到着する予定である。

 

『宮藤』

 

一通りモップ掛けを行い さて次はどうしたものかと思案する宮藤に

スピーカーから声が聞こえてきた。それは坂本の声だった。

 

『精が出るな』

 

「はい! 天気もいいですし、風も気持ちよくて」

 

はにかむ笑顔は蒲公英のよう。

その表情から船での生活に不自由ない事が窺える。

 

『……そこで待っていてくれ。ブリタニアの基地到着まで時間がある。

お前に見せたいものがあるんだ』

 

「? …あ、はい。分かりました!」

 

スピーカーから声が途絶えて暫くたつと、甲板の昇降台から坂本が現れた。

ただし、いつもと違い耳と尾が身体から生えている。

ウィッチが魔力を行使する際に現れる使い魔の姿だ。

足は長靴を履くかのように太ももまですっぽりと覆う金属の兵装。

ストライカーユニットだ。

 

魔法陣が輝き、先端のプロペラが回り始める。

ゆっくりと、少しずつ加速する動きは飛行機の離陸動作そのものだ。

 

甲板から離れ、重力に従って見えなくなっていく。

そして風を切る音が次第に大きくなると、空へと向かっていく坂本が目に入る。

上下左右に緩急をつけて飛ぶ姿は自由自在。

時には重力すら味方につけた優雅な動作に、宮藤から感嘆の声が漏れた。

 

『見事なものだな。鷹ですら あれほど自由な動きはとれまい』

 

世辞でもなく、大空を自由に飛ぶ坂本を見た扉間は賞賛の言葉を口にする。

ウィッチは成人を迎える頃には魔力を無くし戦えなくなるものが殆どだと聞く。

宮藤博士と写る写真をみれば、坂本が幼少から訓練を続けてきた賜物であることを窺えた。

 

「すごいや、坂本さんっ」

 

『それだけではないぞ、芳佳よ』

 

「へ?」

 

『忘れたか。船に乗る前に受け取ったあの写真を。

 あれはお前の父が開発していた道具だろう』

 

その言葉にはっとなり、再び空を見上げた。

 

母から受け取った父の手紙。

その中には一枚の写真が添えられていた。

父と少女が写った写真。

少女が在りし日の坂本であることにはすぐに気付いた。

 

彼女が脚部に装着したストライカーユニット。

それはあの写真で父と坂本を挟んで写っていた装備だった。

 

「あれを、お父さんが……」

 

『『自分にだけ出来ること』。お前の父は己が信念を正しく貫いたということだ』

 

星が流れんばかりに目を光らせる宮藤に扉間は微笑む。

誰でも家族の成功を見るのは嬉しいものなのだ。

 

飛行機雲を作りながら空を舞う坂本を見ていただが、

雰囲気が変わったのは一瞬だった。

 

―――何だ、この気配は。

 

海の向こうには地平線。

青空に浮かぶ綺麗な雲の間に、扉間は不吉な気配を感じ取った。

それはチャクラにも似ていて魔力にも似ている。

しかし異なる力の塊。

 

―――チャクラでも自然エネルギーでもない、か。

 

『芳佳よ、気をつけろ』

 

「へ?」

 

『何か来る』

 

注意を促す扉間の言葉に首をかしげる。

その言葉の持つ意味を、次の言葉で理解することになる。

 

「敵襲!!」

 

それは上空を飛ぶ坂本の叫び声だった。

同時に流れるサイレンの警報音。

 

甲板で共に空を眺めていた軍人たちが、慌しく動き始めた。

扉間は目を凝らし、地平線を睨みつける。

黒い外装に赤いライン。

そんな特徴を持つ飛行隊はこの世界でたった一つ。

 

「ネウロイ……っ!」

 

悲鳴にも似た声が宮藤から漏れる。

それは父を奪った怨敵に他ならない。

 

『芳佳よ。部屋に戻れ』

 

「え、え?」

 

『部屋に戻るのだ。ここにいては軍人どもの邪魔になる。

今、お前がするべき事は彼らの邪魔にならない事だ』

 

扉間の言葉にあたりを見渡す。いつのまにか戦闘機に搭乗する

パイロットたちが目に入った。

ここは甲板の上。扉間の言う通り、このままでは邪魔になってしまう。

 

宮藤は辺りの怒号から逃げるように部屋へと走り出した。

―――戦いが始まったのだ。

 

 

口口――――――――――口口

 

 

何処をどう走ったかは覚えていない。

宮藤が気がついた時には部屋の中におり、

壊れんばかりに扉を閉じていた。

 

へたり、と尻餅をつく。

息は荒く足に力が入らない。

初めて経験する命の危険だった。

 

四つん這いになりながらベッドへ向かう。

ふと、見上げた窓に機影があった。

赤城からネウロイ迎撃の為に飛び立った戦闘機だ。

 

―――それが、炎に包まれて落ちていく。

 

「ああ、あああ……」

 

自分は戦争を知ったつもりだったのだ。

目の前で起きている現実に圧し潰されそうになる。

 

『呼吸を整えろ』

 

それを押し止めるように、巌のような声が響く。

嵐の暴風を物ともしない重い声だ。

 

『芳佳よ、深呼吸だ。大きく息を吸い、吐き出せ』

 

「はぁ……はぁ……スゥ…ハァー…」

 

『そうだ。それで良い。

 ……何、案ずるな。海上とは言え陸地はそう遠くなかろう。

 いざとなればワシが何とかしてやる』

 

「扉間さん……」

 

その言葉にどれ程助けられてきたか、扉間はきっと分からないだろう。

少し古い口調の威厳に満ちた声。

 

そうだ、扉間さんがいれば大丈夫だ。

私が今できる事はない。ここでおとなしくしていよう。

そうすれば、大丈夫。

 

―――本当に?

 

一度落ち着いたことで思考する力が戻ってきた。

そうして思うのは、本当に自分には何もできないのだろうかという思いだ。

ここでただ閉じ籠って戦いが終わるのを待てばいいのだろうか。

 

きっとそれが正しいのだろう。

戦うのは軍人である彼らの仕事で、私の出来る事じゃない。

しかし、宮藤は心の何処かでそれを否定する。

 

『芳佳、何をする気だ』

 

「戻ります。私にもできることがあるから」

 

『自分の言っていることが分かっているのか。

魔法で軍人を治療するか? ……止めておけ。

まだ未熟なお前の魔法では治療行為を行った方が早い。

今お前にできる事は、何も無いのだ』

 

扉間が言う事は正しい。

母に及ばない自分の魔法は人を癒すには力不足だというのは理解している。

自分が手当てをするくらいなら軍人である彼らの方が早い事も理解している。

 

「うん。私にできることはないかもしれない。

 ……でも、扉間さんにはあるんでしょ?」

 

それは確信だった。

扉間にはこの戦場で出来ることがあると。

自分ならばこの状況を変えることが出来るという自信が、

先の扉間の言葉から感じ取っていた。

 

―――それを使わないのは、きっと私を気遣っているから。

 

今、この場で扉間が力を使うということが

どういう結果を齎すか、宮藤でも朧気ながら理解できる。

扉間さんが戦えば、きっと坂本さんは私の力を期待する。

私は戦場に身を投じることになる。

 

それは怖い。悲鳴を上げたくなる。心が折れそうになる。

 

……だけど、皆を守りたい。

作った食事を食べてありがとうと言ってくれた軍人がいた。

訓練でできた擦り傷を魔法で癒してありがとうと言ってくれた軍人がいた。

甲板を掃除していると手伝ってくれた軍人がいた。

 

この船に乗る、色々な人達に助けられた。

その人たちが死ぬかもしれない。それは嫌なのだ。

 

『良いのだな?』

 

その決意を、扉間が気付かぬ筈がない。

コクリ、と宮藤が首を縦に振る。

 

『ワシを顎で使うとは、お前も偉くなったものだ』

 

「えへへ。だって私の体だし」

 

冗談を交えて呼吸を一つ。宮藤は体の支配を扉間に委ねる。

少女の目から忍の目に。戦う者の瞳が宮藤の両目に宿る。

 

扉を開けて廊下に出る。目指すは甲板である。

 

『戻るの? でも軍人さんたちの邪魔になるってさっき……』

 

「ここでは見通しが悪いからな。先ほど甲板から離れるように言ったのは

戦闘機部隊の発艦の邪魔をしない為だ」

 

空母の廊下は狭い。人がすれ違える程度の幅しかないのだが、

扉間はさも平然と廊下を駆ける。

重力に囚われず壁を、天井を、階段を音も無く走る姿は

すれ違う軍人たちは扉間が通り過ぎた後に気がついていた。

 

すごい、と宮藤は声を漏らした。

ここまで自分の体を操る扉間を、宮藤は初めて目にしたのだ。

 

「丁度良い機会だ。お前にワシの術を見せてやろう」

 

 

口口――――――――――口口

 

 

ストライカーユニットに回す魔力を増やし、坂本は速度を上げる。

追随するのは空母赤城から飛び立った攻撃隊。

扶桑が誇る戦闘機の部隊である。

 

軍人としてもパイロットとしても優秀な彼ら。

しかし、相手が悪かった。

 

「自己修復……コアにまで届かんか……っ!」

 

発射される弾丸はネウロイの鎧を容赦なく剥ぎ取る。……しかし足りない。

外装を破壊して露出したコアは、すぐに修復する外装に隠れてしまう。

 

ーーー語弊を恐れずに言えば、飛行型ネウロイの対空・対地戦闘能力は

人類のあらゆる兵器の追随を許さない究極の生物兵器である。

 

あらゆる物体を薙ぎ払う光学兵装、

不眠不休で活動できる継戦性、

そして極め付けがコアを破壊しない限り治る自己修復。

 

およそ兵器として必要機能が揃っているのだ。

戦闘機では……否、戦闘機ですら歯が立たない。

 

対抗できるのは唯一無二。ウィッチによるコア破壊。

光学兵装を魔力シールドで防ぎ、ストライカーユニットで接近し、

銃弾ないし固有魔法でコアを破壊する。

 

この戦法が現在においてネウロイを撃破する基本戦術となっている。

だからこそ、坂本は是が非にでも宮藤にウィッチとして共に戦って欲しかったのだ。

多少強引にでも付いて来てくれると聞いた時は本当に嬉しかったのだ。

 

「だからこそ、宮藤は絶対に死なせん!」

 

尽きた銃を投げ捨てて背中に背負った刀を抜く。

放たれる光線に突撃するべく前進した。

 

迸る赤い閃光。しかし狙いは坂本ではない。

坂本のはるか下。坂本が放つシールドに擦りもせずに後方へ飛んで行く。

ハッとして後ろを振り返る。

 

そこには扶桑の軍艦。空母赤城。

 

「―――狙いは空母か!

まずい……宮藤ィ!!」

 

あそこには軍人だけではない。宮藤がいる。

坂本は叫ぶが行動は間に合わない。

光線の軌道は既に赤城を捉えている。

 

坂本は閃光に両断され、爆発炎上する赤城を幻視する。

赤い奔流に飲まれ爆発炎上する赤城の未来―――。

しかしそれは、突如上昇した海面によって防がれた。

 

「何!?」

 

噴火する土砂の如く。

赤城を覆うように登る海水は、ネウロイの光線を完全に防ぎ切った。

 

坂本は目を凝らす。その先は赤城甲板の昇降口。

仁王立ちする宮藤芳佳が、睨みつけるようにネウロイを見上げていた。

 

風に揺れる宮藤の髪。

その間から覗く両目には、侮蔑が含まれていた。

腕を組み、宮藤は別人のような冷たい声で一言だけつぶやいた。

 

「微温い。その程度か化け物」

 




次に貴方は『海の上でこれ程の水遁を』と言う。


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